説明

測定容器

【課題】 試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む固相試薬と、前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質または標識された測定対象物を含む標識試薬とを、それぞれ異なる収容部に凍結乾燥状態で収容した測定容器において、固相試薬の溶解性および撹拌性がよく、標識試薬等の液体試薬分注時に液跳ねが生じず、かつ標識試薬を分注した時に標識試薬を収容した収容部のデッドボリュームを少なくすることができる測定容器を提供すること。
【解決手段】 試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む凍結乾燥状態の固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質または標識された測定対象物を含む凍結乾燥状態の標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、を備え、かつ前記固相試薬収容部の内底面の形状が略平坦状である測定容器により、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液や血清といった試料(検体)中に含まれる成分を特異的に分析するための反応試薬を収容した測定容器に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光法や発光法を利用した不均一系の免疫測定装置に用いられる免疫反応試薬は主に、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質、または標識された測定対象物を含む、標識試薬と、
から構成される。
【0003】
固相試薬および標識試薬はそれぞれ液状バルク品の状態で供給されているものが多いが、
(A)一回の測定に必要な分量の固相試薬および標識試薬を、収容部を一つ備えた容器に封入した、いわゆるオールインワンタイプの測定容器で供給されているものや、
(B)一回の測定に必要な分量の固相試薬および標識試薬を、複数の収容部を備えた容器の各収容部に封入した測定容器で供給されているものもある。
前記(B)の例として、特許文献1では、複数の収容部を備えた容器(各収容部の外部形状は異なる)の異なる収容部に、一回の測定に必要な分量の固相試薬の乾固物と、一回の測定に必要な分量の標識試薬の液状試薬とを封入した測定容器を開示している。前記(B)のうち、複数の収容部を備えた容器の異なる収容部に、一回の測定に必要な分量の固相試薬と、一回の測定に必要な分量の標識試薬とを封入し、当該試薬を凍結乾燥して得られる、不均一系測定用の免疫反応試薬(測定容器)を用い、自動分析装置にて測定する場合は、試薬の溶解および試料(検体)との混合撹拌操作、特に最初に試料と接触する固相試薬の溶解および当該試料との撹拌操作を、いかに迅速かつ効率よく行なえるかが、前記免疫測定試薬の性能が十分に引き出せるか否かの鍵となる。
【0004】
自動分析装置で行なわれる非接触撹拌方式(撹拌子を用いない方式)としては、振とう撹拌やボルテックス撹拌などが一般的である。前述した撹拌方式で撹拌する際に用いる容器として、天面に開口部を設け、底面が半球面状またはU字状である収容部を備えた容器が多用されている。しかしながら、
(1)固相試薬に試料(検体)を分注し撹拌後、第一の抗原抗体反応を行ない、
(2)第一のB/F(Bound/Free)分離(固相の洗浄)を行ない、
(3)(2)で分離した固相に標識試薬を分注し撹拌後、第二の抗原抗体反応を行ない、
(4)第二のB/F(Bound/Free)分離(固相の洗浄)を行ない、
(5)(4)で分離した固相に基質試薬を分注し、標識物質を定量する、
免疫測定方法を利用した自動分析装置において、標識試薬や基質試薬を容器に分注する際に、容器の底面に沿って液跳ねし、前記試薬が容器外に飛び出るなどの問題が生じやすい。そのため、従来から、比較的深い容器を用いたり、試薬の吐出速度を下げる等の工夫により前述した問題を防いでいる。
【0005】
固相試薬および/または標識試薬を凍結乾燥させた場合、各試薬の溶解性や、溶解した試薬と試薬(検体)との混合撹拌性は、凍結乾燥試薬の組成およびケーキ形状に大きく左右される一方、測定容器収容部の内部底面形状とも密接に関係している。特許文献2にて、内径10mmの円筒状容器に100μLの酵素標識抗体を添加して凍結乾燥した、と記載しているように、凍結乾燥試薬(凍結乾燥ケーキ)は、できる限り扁平状に形成するほうが溶解液との接触面積が大きくなり、溶解性が上がるため好ましい。よって、測定容器のうち、凍結乾燥状態の試薬を収容する収容部の内底面形状は平坦状のほうが有利といえる。一方、標識試薬を凍結乾燥させた場合、標識試薬を一旦溶解してから第一の抗原抗体反応終了後の固相に分注するが、試薬の無駄を最小限に抑えるためには、標識試薬を収容する収容部の内底面形状が、半球面状、円錐状、角錐状といったデッドボリュームの小さい形状が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3010509号公報
【特許文献2】特開昭62−151758号公報
【特許文献3】特開2005−077142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したように、容器に収容する試薬を凍結乾燥させる場合、得られる凍結乾燥ケーキをできる限り薄い扁平状とすると、溶解液との接触面積が向上し、溶解液が速やかに浸透できるため、当該ケーキの迅速な溶解につながり、好ましい。容器に収容する試薬を薄い扁平状を有した凍結乾燥ケーキとするためには、収容する試薬が同量の場合、測定容器の底面を半球面状とするより平坦状としたほうが好ましい。
【0008】
特に試薬のうち、固相試薬は試料(検体)と直接接触するため、迅速に溶解および均一化する必要があるが、固相試薬を収容した容器(収容部)の内底面を半球面状とすると、得られる凍結乾燥ケーキは薄い扁平形状とはならない。よって、試料や溶解液を分注しても、均一濃度の固相試薬は直ちには得られず、検体中の測定対象物と、前記対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体との反応を迅速に実施することができない、という問題がある。また、免疫反応後の固相を洗浄後、標識試薬や基質試薬等の液体試薬を分注する際、容器(収容部)の内底面を半球面状とすると、吐出速度を下げ、かつ底面に対する吐出位置を内底面中心から大幅にずれないように調整しないと、分注した試薬が底面に沿って跳ね上がり容器外に飛び出るという問題が生じる。
【0009】
ならば、容器に備えた収容部の底面を全て平坦状とすればよいのかというとそうでもなく、例えば標識試薬や基質試薬といった高価な試薬を収容する容器(収容部)の底面を平坦状とすると、固相試薬(洗浄後の固相)を収容した容器(収容部)に前記試薬を移送分注する際、デッドボリュームが大きくなり、無駄になる試薬が多くなるという問題がある。
【0010】
なお、複数の収容部を備えた従来の測定容器において、各収容部の底面を各試薬に最適な形状とした、免疫反応やその他のアフィニティ反応に用いる凍結乾燥試薬を収容した測定容器は見当たらない。
【0011】
そこで本発明の目的は、試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む固相試薬と、前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質または標識された測定対象物を含む標識試薬とを、それぞれ異なる収容部に凍結乾燥状態で収容した測定容器において、固相試薬の溶解性および撹拌性がよく、標識試薬等の液体試薬分注時に液跳ねが生じず、かつ標識試薬を分注した時に標識試薬を収容した収容部のデッドボリュームを少なくすることができる測定容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するためになされた本発明は、以下の態様を包含する:
第一の態様は、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質、または標識された測定対象物を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器であって、
前記固相試薬および前記標識試薬が凍結乾燥状態であり、前記固相試薬収容部の内底面の形状が略平坦状である、前記容器である。
【0013】
第二の態様は、測定容器に備えた固相試薬収容部および標識試薬収容部がそれぞれ一つである、前記第一の態様に記載の測定容器である。
【0014】
第三の態様は、標識試薬収容部の内底面の形状が、凹部を有し、かつ略半球状または略錐状である、前記第一または第二の態様に記載の測定容器である。
【0015】
第四の態様は、測定対象物と特異的に反応する物質が抗体または抗原である、前記第一から第三の態様のいずれかに記載の測定容器である。
【0016】
第五の態様は、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を固相試薬収容部に分注し、
(2)試料中の測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(3)測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(4)標識試薬収容部に収容した標識試薬を固相試薬収容部に分注し、
(5)標識試薬中の、測定対象物と特異的に反応する標識された物質を、(2)で捕捉された測定対象物に捕捉させ、
(6)(2)で捕捉された測定対象物には捕捉されない未反応物を除去し、
(7)(5)で捕捉された、測定対象物と特異的に反応する標識された物質を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法である。
【0017】
第六の態様は、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
標識された測定対象物を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を固相試薬収容部に分注し、
(2)試料中の測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(3)標識試薬収容部に収容した標識試薬を固相試薬収容部に分注し、
(4)標識試薬中の標識された測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(5)測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(6)捕捉された、標識された測定対象物を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法である。
【0018】
第七の態様は、固相試薬および標識試薬が凍結乾燥状態であり、標識試薬を固相試薬収容部に分注する際、あらかじめ前記標識試薬の溶解操作を行なってから分注する、前記第五または第六の態様に記載の方法である。
【0019】
第八の態様は、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を標識試薬収容部に分注することで、試料中の測定対象物を、測定対象物と特異的に反応する標識された物質に捕捉させ、
(2)試料と標識試薬との混合物を固相試薬収容部に分注し、
(3)測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(4)固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(5)捕捉された、測定対象物と特異的に反応する標識された物質を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法である。
【0020】
第九の態様は、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
標識された測定対象物を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を標識試薬収容部に分注し、
(2)試料と標識試薬との混合物を固相試薬収容部に分注し、
(3)測定対象物を、固相試薬中の測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(4)測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(5)捕捉された、標識された測定対象物を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法である。
【0021】
第十の態様は、固相試薬および標識試薬が凍結乾燥状態である、前記第八または第九の態様に記載の方法である。
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明の測定容器に備える収容部(固相試薬収容部および標識試薬収容部)は、
天面に、凍結乾燥状態の試薬を溶解させるための溶解液および試料(検体)の分注や、他の収容部への試薬の分注等の操作が可能な開口部を設け、かつ、
下方に、試料(検体)および試薬を保持可能な有底筒状部を設けた、
収容部であればよい。有底筒状部の具体例としては、円筒状もしくは略円筒状、角柱状もしくは略角柱状、またはそれらのテーパー状が例示できるが、当該形状に限定されるものではない。
【0024】
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、凍結乾燥状態の固相試薬と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質、または標識された測定対象物を含む、凍結乾燥状態の標識試薬と、
用いた試料中の測定対象物の測定において、
試料(検体)を凍結乾燥状態の固相試薬に直接添加する場合、固相試薬の溶解と同時に、試料中の測定対象物と、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質との反応を開始する必要があるため、固相試薬の溶解は標識試薬の溶解と比較し、より迅速に進行されなければならない。凍結乾燥状態の試薬(凍結乾燥試薬)の溶解性は、試薬組成に大きく左右される一方、凍結乾燥ケーキの形状とも関係があり、接液面積が大きい形状であるほど、分注した液体が凍結乾燥ケーキに速やかに浸透するため、溶解しやすい。本発明の測定容器に備える固相試薬収容部は、内底面の形状を略平坦状としており、凍結乾燥ケーキの形状は、内底面の形状を略半球状とした収容部と比較して、高さ方向に薄くなる。そのため、試料を分注後、固相試薬が溶解するまでの時間が短縮し、試料中の測定対象物と、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質との反応も、均一に溶解した固相試薬と試料との混合物を撹拌することで速やかに開始することができる。そのため、試料中の測定対象物の測定時間短縮につながる。本発明の測定容器に備える固相試薬収容部の内底面の具体例として、内側面から続く曲率半径1から2mm程度の曲面部と、前記曲面部から連続した面積が3mm以上(好ましくは7mm以上)の平坦部とを有した、略平坦状の形状を有した収容部があげられる。なお、内底面の中心は開口部中心から鉛直方向上にあってもよいし、そうでなくてもよい。
【0025】
一方、本発明の測定容器に備える標識試薬収容部は、固相試薬溶解時のように溶解と同時に反応させることがなく、溶解液の分注後に行なう撹拌・静置工程の間に溶解できればよい。そのため標識試薬収容部の内底面は、収容した標識試薬を無駄なく測定に使用できる(例えば、固相試薬収容部へ移送分注する時のデッドボリュームが少なくできる)形状が、コスト低減が図れるため好ましい。好ましい内底面の一例としては、
(a)凹部を有し、かつ略半球状や略半偏心球面状の内底面や、
(b)凹部を有し、かつ略円錐状や略角錐状といった略錐状の内底面、
があげられ、その中から適宜、当該収容部に収容した標識試薬の組成等を考慮し、選択すればよい。内底面の形状が前記(a)または(b)である収容部に試薬を収容し、それを凍結乾燥して得られる凍結乾燥ケーキの形状は、内底面の形状を略平坦状とした収容部と比較し、厚くなるため溶解時間の面では不利になる。しかしながら、
(1−1)試料を固相試薬収容部に分注し、
(1−2)試料中の測定対象物(抗原)を、固相試薬中の、測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体に捕捉させる第一の抗原抗体反応を行ない、
(1−3)測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体には捕捉されない未反応物を除去し、
(1−4)あらかじめ溶解操作を行なった標識試薬収容部に収容した標識試薬を、固相試薬収容部に分注し、
(1−5)標識試薬中の、測定対象物(抗原)と特異的に反応する標識抗体を、(1−2)で捕捉させた測定対象物(抗原)に捕捉させる第二の抗原抗体反応を行ない、
(1−6)(1−2)で補足させた測定対象物(抗原)には捕捉されない未反応物を除去し、
(1−7)(1−5)で捕捉させた、測定対象物(抗原)と特異的に反応する標識抗体を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法(いわゆるサンドイッチアッセイ)では、標識試薬は第二の抗原抗体反応を行なう前((1−4)の工程)に添加する。また、
(2−1)試料を固相試薬収容部に分注し、
(2−2)試料中の測定対象物(抗原)を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する抗体に捕捉させる第一の抗原抗体反応を行ない、
(2−3)あらかじめ溶解操作を行なった標識試薬収容部に収容した標識試薬を、固相試薬収容部に分注し、
(2−4)標識試薬中の標識された測定対象物(抗原)を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する抗体に捕捉させる第二の抗原抗体反応を行ない、
(2−5)測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体には捕捉されない未反応物を除去し、
(2−6)捕捉された、標識された測定対象物(抗原)を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法(いわゆる競合アッセイ)でも、標識試薬は試料と固相試薬との抗原抗体反応後((2−3)の工程)に添加する。さらに、サンドイッチアッセイで測定する場合、標識試薬は第一の抗原抗体反応には関与しないため、試薬組成を溶解性のよい組成とすることが容易である。以上より、前述した二つの測定方法で測定対象物を測定する場合は、標識試薬の凍結乾燥体は溶解液を添加した後(溶解操作後)から分注後の撹拌・静置工程の間に溶解できればよい。なお、
(3−1)試料を標識試薬収容部に分注することで、試料中の測定対象物(抗原)を、測定対象物と特異的に反応する標識抗体に捕捉させる第一の抗原抗体反応を行ない、
(3−2)試料と標識試薬との混合物を固相試薬収容部に分注し、
(3−3)測定対象物(抗原)を、固相試薬中の、測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体に捕捉させる第二の抗原抗体反応を行ない、
(3−4)固相試薬中の、測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体には捕捉されない未反応物を除去し、
(3−5)捕捉された、測定対象物(抗原)と特異的に反応する標識抗体を測定する、
測定方法、または
(4−1)試料を標識試薬収容部に分注し、
(4−2)標識された測定対象物(抗原)を含む標識試薬と試料との混合物を固相試薬収容部に分注し、
(4−3)測定対象物(抗原)を、固相試薬中の、測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体に捕捉させる抗原抗体反応を行ない、
(4−4)測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体には捕捉されない未反応物を除去し、
(4−5)捕捉された、標識された測定対象物(抗原)を測定する、
測定方法を採用する場合であっても、試料中の反応妨害成分の影響を回避するために添加する、溶解性の低い成分(例えば血清など)を標識試薬の成分に含めないようにすればケーキ形状の厚さによるデメリットは回避される。
【0026】
本発明の測定容器は、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質、または標識された測定対象物を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えているが、収容部(固相試薬収容部および標識試薬収容部)の並びは、1列に複数個の収容部が連続した並びであってもよいし、複数列に複数個の収容部が連続した並びであってもよい。ただし、装置上での操作性を考慮に入れると、1列に2個から20個の収容部が連続した並びからなる測定容器が好ましく、一つの固相試薬収容部と一つの標識試薬収容部とが一列に並び、かつ一体に成形された測定容器が特に好ましい。
【0027】
本発明の測定容器における各収容部の大きさは、測定規模や装置の大きさにより適宜最適な大きさを選択すればよく、一例として内径(円筒型の場合)または一辺(角筒型の場合)が1mmから20mm程度で、深さが1mmから50mm程度からなる収容部をあげることができる。
【0028】
本発明の測定容器における各収容部の外部形状および大きさは、同じであってもよいし、試料(検体)や試薬の量に応じて外部形状および/または大きさを変化させてもよい。ただし、測定容器を成形する際の容易性を考慮すると、同じ外部形状および大きさを有した複数の収容部が一体に成形された測定容器が好ましい。
【0029】
本発明の測定容器の材質は、熱可塑性樹脂(例えばオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、カーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂)やガラス等が例示できる。ただし、取り扱いの面を考慮すると熱可塑性樹脂が材質として好ましい。また、熱可塑性樹脂の中でも、容器や樹脂成形品の製造に通常用いられている、オレフィン系単独重合体(ホモポリマー)または共重合体(コポリマー)が材質として特に好ましい。前記特に好ましい材質の一例として、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1、プロピレン−エチレン共重合体、アイオノマー、エチレン−アクリル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体があげられる。
【0030】
本発明の測定容器に収容する固相試薬で用いる、試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化させるための担体の形状としては、粒子状、チューブ状(容器の内壁)、プレート状(容器の内壁)等が例示できるが、粒子状、特に球状粒子の担体が好ましい。担体の材質としては、ガラスやシリカなどの無機物質、各種合成高分子化合物からなるプラスチック、セルロース誘導体等、免疫測定に通常用いられる担体であれば特に制限はない。一例として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ナイロン、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル、もしくはこれらを主成分とする共重合体、または混合物といった、熱可塑性樹脂製の担体があげられる。担体の平均粒径についても特に制限はなく、例えば0.01から1000μm程度の粒径を有した担体を使用することができる。本発明の測定容器に収容する固相試薬で用いる担体は、磁気感応成分を含有しない担体でもよいが、磁気感応成分を含有させた担体(磁性粒子)のほうが反応後の未反応成分の除去が容易となる点で好ましい。前記磁気感応性成分としては、例えばマンガン−亜鉛フェライトなどのソフトフェライト、四三酸化鉄を主成分とするマグネタイトなどがあげられる。前記磁気感応性成分は、前述した熱可塑性樹脂からなる担体の作製時に混合することで内部に一様に含有させてもよいし、多層構造からなる担体の1つの層に含有させてもよいし、吸着や熱融着などにより表面に担持させて含有させてもよい。磁気感応性成分の担体への含有量(担持量)は、担体を流動させるために作用させる磁界の強度、担体の流動性の程度により適宜決定することができるが、通常は磁性粒子重量の1から80%であり、5から50%程度が好ましい。なお、前記磁気感応性成分そのものを、本発明の測定容器に収容する固相試薬で用いる担体そのもの、または担体の核として用いてもよい。
【0031】
本発明の測定容器に収容した標識試薬で用いる、測定対象物と特異的に反応する物質としては、抗体、抗原、核酸、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、レクチン、レセプター、リガンド、酵素、基質が例示される。また、測定対象物と特異的に反応する物質を担体に固定化する方法としては、測定対象物と特異的に反応する物質と担体とを混合することによって生じる物理的な吸着を用いる物理吸着法や、カルボジイミドなどのカップリング剤により担体表面のカルボキシル基やアミノ基と反応特異的成分とを化学的に結合させる化学結合法などが例示できる。また測定対象物と特異的に反応する物質を、スペーサー分子を介して担体に結合させてもよい。さらにアルブミンなどのタンパク質に化学結合法を用いてスペーサー分子を介して結合させた後、前記タンパク質を担体に結合させてもよい。担体に固定化させる、測定対象物と特異的に反応する物質は、1種類のみとは限らず、複数の物質を組み合わせてもよい。複数の物質を組み合わせた例として、
(A)抗体中のFcフラグメントと特異的に反応する抗Fc抗体をあらかじめ担体に固定化させた後、測定対象物と特異的に反応する抗体を、Fcフラグメントを利用して前記抗Fc抗体で固定化させた担体、
(B)抗イムノグロブリンG抗体をあらかじめ担体に固定化させた後、測定対象物と特異的に反応するイムノグロブリンG型抗体を前記抗イムノグロブリンG抗体で固定化させた担体、
(C)ストレプトアビジンをあらかじめ担体に固定化させた後、測定対象物と特異的に反応するビオチン標識抗体を前記ストレプトアビジンで固定化させた担体、
(D)測定対象物と特異的に反応する物質を担体に固定化させた後、担体表面の未結合領域をウシ血清アルブミン(以下、BSAと略す)やカゼイン等のタンパク質でブロッキングすることで担体への非特異的吸着を十分に抑えた担体、
があげられる。なお、前記(D)の担体の場合、(D)の担体を含む溶液に、固定化した測定対象物と特異的に反応する物質を安定化させる、または担体同士の吸着や凝集を防止する目的で、デキストラン硫酸やヘパリン硫酸等の糖類や、BSAやカゼイン等のブロッキング用タンパク質といった保護剤を添加してもよい。
【0032】
本発明の測定容器に収容した標識試薬で用いる、測定対象物と特異的に反応する物質または測定対象物に標識する物質としては、アルカリ性ホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ルシフェラーゼ等の酵素、アクリジニウム誘導体等の発光物質、フルオレセインやローダミン等の蛍光物質が例示でき、酵素免疫測定法、発光免疫測定法、蛍光免疫測定法で通常標識に用いられる物質の中から適宜選択すればよい。
【0033】
本発明の測定容器において、各収容部には、各試薬形態(2試薬系以上)における1回の測定に十分な量の試薬を、適切な形状や大きさを有した収容部に封入すればよい。また、各収容部への試薬の収容方法としては、試薬を液状で分注し凍結乾燥後、アルミシールで封入する方法が例示できる。一例として本発明の測定容器を、前記(1−1)から(1−7)の工程からなる、(2ステップ)サンドイッチアッセイに適用する場合、
固相試薬収容部に、1回分の測定を実施するのに十分な量の、抗体を固定化した担体を含む溶液を、
標識試薬収容部に、1回分の測定を実施するのに十分な量の、アルカリ性ホスファターゼやペルオキシダーゼ等の酵素を標識した抗体、またはアクリジニウムなどの発光物質を直接標識した抗体、を含む溶液を、
それぞれ分注し、凍結乾燥後、アルミシールで封入することで、本発明の測定容器が得られる。
【0034】
本発明の測定容器に収容する固相試薬および標識試薬を凍結乾燥させる方法としては、公知の手法を用いて行なえばよい。凍結乾燥法の一例として、以下の(I)から(III)に示す方法があげられる。
(I)試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む固相試薬と、測定対象物と特異的に反応する標識された物質を含む標識試薬をそれぞれ調製後、それぞれ異なる収容部に収容し、−40℃で2時間凍結する。
(II)10−1から10−2Torrの減圧下、1.5時間で−20℃まで上昇させた後、−20℃で2時間乾燥する。
(III)さらに1.5時間で25℃まで上昇させた後、25℃で5時間乾燥する。
【0035】
本発明の測定容器を用いた試料中の測定対象物の測定方法の一例を以下に示す。まず、固相試薬収容部と標識試薬収容部をそれぞれ一つずつ備えた容器のうち、固相試薬収容部には、試料中の測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体を固定化した固相を含む固相試薬を凍結乾燥したものを、標識試薬収容部には、固相に固定化した抗体とは別の抗原エピトープを認識する標識抗体を含む標識試薬を凍結乾燥したものを、それぞれ収容し、アルミシールにて密閉封入することで、本発明の測定容器を作製する。
【0036】
前記測定容器を用い、2ステップサンドイッチアッセイで試料中の抗原を測定する場合の一例として、
(1)標識試薬収容部に溶解液を分注して標識試薬を溶解し、
(2)固相試薬収容部に検体および分注液を分注し、固相試薬の溶解撹拌および第一の抗原抗体反応を行ない、
(3)第一のB/F(Bound/Free)分離を行ない、
(4)(1)で溶解した標識試薬を固相試薬収容部に分注し、撹拌後、第二の抗原抗体反応を行ない、
(5)第二のB/F分離を行ない、
(6)標識抗体を定量し、濃度換算する方法がある。
【0037】
また前記試薬を用い、1ステップサンドイッチアッセイで試料中の抗原を測定する場合の一例として、
(1)標識試薬収容部に溶解液を分注して標識試薬を溶解し、
(2)固相試薬収容部に試料および分注液を分注し、
(3)(1)で溶解した標識試薬の一部を(2)の収容部に分注し、撹拌し、
(4)抗原抗体反応を行ない、
(5)B/F分離を行ない、
(6)標識抗体を定量し、濃度換算する方法がある。
【0038】
さらに、前記試薬を用いて1ステップサンドイッチアッセイで検体中の抗原を測定する場合の別の例としては、
(1)標識試薬収容部に試料および分注液を分注し、溶解撹拌し、
(2)(1)の混合液の一部を固相試薬収容部に分注し、溶解撹拌し、
(3)抗原抗体反応を行ない、
(4)B/F分離を行ない、
(5)標識抗体を定量し、濃度換算する方法がある。
【0039】
本発明の測定容器を用いた試料中の測定対象物の測定方法の別の例を以下に示す。まず、固相試薬収容部と標識試薬収容部をそれぞれ一つずつ備えた容器のうち、固相試薬収容部には、試料中の測定対象物(抗原)と特異的に反応する抗体を固定化した固相を含む固相試薬を凍結乾燥させたものを、標識試薬収容部には、標識抗原を含む標識試薬を凍結乾燥したものを、それぞれ収容し、アルミシールにて密閉封入することで、本発明の測定容器を作製する。
【0040】
前記測定容器を用い、1ステップ競合アッセイで試料中の抗原を測定する場合の一例として、
(1)標識試薬収容部に溶解液を分注して標識試薬を溶解し、
(2)固相試薬収容部に試料および分注液を分注し、
(3)固相試薬の溶解撹拌および抗原抗体反応を行ない、
(4)(1)で溶解した標識試薬の一部を(2)の収容部に分注し、撹拌し、抗原抗体反応を行ない、
(5)B/F分離を行ない、
(6)標識抗原を定量し、濃度換算する方法がある。
【0041】
前記測定容器を用い、1ステップ競合アッセイで試料中の抗原を測定する場合の別の例として、
(1)標識試薬収容部に試料および分注液を分注し、溶解撹拌し、
(2)(1)の混合液の一部を凍結乾燥状態の固相試薬が収容された収容部に分注し、溶解撹拌し、
(3)抗原抗体反応を行ない、
(4)B/F分離を行ない、
(5)標識抗原を定量し、濃度換算する方法がある。
【0042】
前記測定容器を用い、2ステップ競合アッセイで試料中の抗原を測定する場合の一例として、
(1)標識試薬収容部に溶解液を分注して標識試薬を溶解し、
(2)固相試薬収容部に試料および分注液を分注し、固相試薬の溶解撹拌および第一の抗原抗体反応を行ない、
(3)第一のB/F分離を行ない、
(4)(1)で溶解した標識試薬を(2)の収容部に分注し、撹拌後、第二の抗原抗体反応を行ない、
(5)第二のB/F分離を行ない、
(6)標識抗原を定量し、濃度換算する方法がある。
【発明の効果】
【0043】
本発明の測定容器は、
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質または標識された測定対象物を含む標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、を備えた測定容器であって、
前記固相試薬および前記標識試薬が凍結乾燥状態であり、前記固相試薬収容部の内底面の形状が略平坦状な容器である。本発明の測定容器は、
(1)固相試薬収容部に収容した固相試薬の凍結乾燥体は略平坦な底面に沿って扁平状に薄く形成できるため、固相試薬収容部に液体を分注した際、迅速に溶解でき、次工程の撹拌が容易に行なえる、
(2)溶解済みの標識試薬や基質試薬等の液状試薬を固相試薬収容部に分注する際、液跳ねを抑えて分注できるため測定精度が向上する、
という効果を有する。
【0044】
さらに、標識試薬収容部の内底面の形状を、凹部を有し、かつ略半球状または略錐状とすると、
(3)溶解済みの標識試薬、または溶解済みの標識試薬と試薬(検体)との混合液を固相試薬収容部へ移送分注時に生じるデッドボリュームを小さくすることができるため、標識試薬または検体を無駄なく使用でき、コスト低減に貢献できる、
効果も有するため好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】内底面が略平坦状の固相試薬収容部および内底面が略半球状の標識試薬収容部を備えた、本発明の測定容器の平面図および正面図(断面図)。
【図2】内底面が略平坦状の固相試薬収容部および内底面が略円錐状の標識試薬収容部を備えた、本発明の測定容器の平面図および正面図(断面図)。
【図3】内底面が略平坦状の固相試薬収容部および内底面が略角錐状の標識試薬収容部を備えた、本発明の測定容器の平面図および正面図(断面図)。
【図4】内底面が略半球状の固相試薬収容部および標識試薬収容部を備えた、測定容器の平面図および正面図(断面図)。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。
【0047】
実施例1
本発明の測定容器の一態様である、図1に示す、収容部(12)を二つ備えた測定容器(10)を、ポリプロピレン樹脂を用いた射出成形により作製した。図1に示す測定容器は、略平坦状の内底面を有した円筒状ウェルからなる第一の収容部(12a)と、略半球状の凹部内底面を有した円筒状ウェルからなる第二の収容部(12b)と、を備え、天面に第一および第二の収容部に対応した円形状の開口部(11a、11b)を設けた容器である。図1に示す測定容器(10)のうち、第一の収容部(12a)に抗甲状腺刺激ホルモン(TSH)抗体を固定化した磁性微粒子(粒径2.6μm)を含む固相試薬(13a)50μLを、第二の収容部(12b)にアルカリ性ホスファターゼ(ALP)で標識した抗TSH抗体を含む標識試薬(13b)70μLを、それぞれ分注し、凍結乾燥後、アルミシール(15)で蓋をすることで、TSH測定試薬を収容した測定容器を作製した。
【0048】
実施例2
本発明の測定容器の一態様である、図2に示す、収容部(22)を二つ備えた測定容器(20)を、ポリプロピレン樹脂を用いた射出成形により作製した。図2に示す測定容器は、略平坦状の内底面を有した円筒状ウェルからなる第一の収容部(22a)と、略円錐状の凹部内底面を有した円筒状ウェルからなる第二の収容部(22b)と、を備え、天面に第一および第二の収容部に対応した円形状の開口部(21a、21b)を設けた容器である。図2に示す測定容器(20)のうち、第一の収容部(22a)に抗TSH抗体を固定化した磁性微粒子(粒径2.6μm)を含む固相試薬(23a)50μLを、第二の収容部(22b)にALPで標識した抗TSH抗体を含む標識試薬(23b)70μLを、それぞれ分注し、凍結乾燥後、アルミシール(25)で蓋をすることで、TSH測定試薬を収容した測定容器を作製した。
【0049】
実施例3
本発明の測定容器の一態様である、図3に示す、収容部(32)を二つ備えた測定容器(30)を、ポリプロピレン樹脂を用いた射出成形により作製した。図3に示す測定容器は、略平坦状の内底面を有した円筒状ウェルからなる第一の収容部(32a)と、略角錐状の凹部内底面を有した円筒状ウェルからなる第二の収容部(32b)と、を備え、天面に第一および第二の収容部に対応した円形状の開口部(31a、31b)を設けた容器である。図3に示す測定容器(30)のうち、第一の収容部(32a)に抗TSH抗体を固定化した磁性微粒子(粒径2.6μm)を含む固相試薬(33a)50μLを、第二の収容部(32b)にALPで標識した抗TSH抗体を含む標識試薬(33b)70μLを、それぞれ分注し、凍結乾燥後、アルミシール(35)で蓋をすることで、TSH測定試薬を収容した測定容器を作製した。
【0050】
比較例1
比較のため、図4に示す、収容部(42)を二つ備えた測定容器(40)を、ポリプロピレン樹脂を用いた射出成形により作製した。図4に示す測定容器は、略半球状の凹部内底面を有した円筒ウェルからなる第一の収容部(42a)および第二の収容部(42b)を備え、天面に第一および第二の収容部に対応した円形状の開口部(41a、41b)を設けた容器である。図4に示す測定容器(40)のうち、第一の収容部(42a)に抗TSH抗体を固定化した磁性微粒子(粒径2.6μm)を含む固相試薬(33a)50μLを、第二の収容部(42b)にALPで標識した抗TSH抗体を含む標識試薬(33b)70μLを、それぞれ分注し、凍結乾燥後、アルミシール(45)で蓋をすることで、TSH測定試薬を収容した測定容器を作製した。
【0051】
実施例4
実施例1および比較例1で作製した、TSH測定試薬を収容した測定容器を用い、内底面形状の違いによる固相試薬の撹拌効率の差を、撹拌機能付自動分析装置を用いて評価した。評価方法は以下の通りである。
(1)ディスポーザブルチップに先ず50μLの分注水(界面活性剤入り精製水)を吸引し、さらに試料(検体)として25μLの8%牛血清アルブミンを吸引後、分注水および試料を、固相試薬(13a、43a)を収容した第一の収容部(12a、42a)に吐出した。
(2)31秒間静置し、2.5秒間正確に振盪撹拌した。
(3)撹拌終了後、直ちに各測定容器の内底面に残留する磁性微粒子の有無を目視にて確認した。
【0052】
【表1】

前記操作を10回繰り返し実施した結果を表1に示す。実施例1で作製した測定容器では10回の操作全てで残留磁性微粒子が認められなかったのに対し、比較例1で作製した測定容器では10回の操作中3回で磁性微粒子の残留が認められた。
【0053】
前記操作を注意深く観察した結果、実施例1で作製した測定容器のうち、第一の収容部(12a)に収容した固相試薬(13a)の凍結乾燥体(ケーキ)は薄い膜状を形成していており、分注水および試料を分注しても気泡が発生しにくい、または発生しても凍結乾燥体(ケーキ)が速やかに内壁から剥がれるため、磁性微粒子の均一撹拌を妨害しないことが確認された。一方、比較例1で作製した測定容器のうち、第一の収容部(12a)に収容した固相試薬(13a)の凍結乾燥体(ケーキ)は実施例1で作製した測定容器よりも厚い膜状を形成しており、分注水および試料が分注されると第一の収容部(42a)の内底部に気泡が発生しやすくなり、この気泡が磁性微粒子の均一撹拌を妨害することが確認された。
【0054】
実施例5
実施例1および比較例1で作製した、TSH測定試薬を収容した測定容器を用い、以下の方法でTSH標準試料を測定した。なお、測定容器作製の際用いたポリプロピレン樹脂には、白色顔料(二酸化チタン)と黒色顔料(カーボンブラック)とを練りこんでいる。
(1)固相試薬(13a、43a)を収容した第一の収容部(12a、42a)に、25μLの分注水(実施例4と同じ組成)と25μLの試料溶液とを分注し溶解撹拌後、37℃にて5分間静置することで、第一の抗原抗体反応を行なった。
(2)150mMのNaCl、0.05%のTween 20、1mMのMgCl、0.1%のアジ化ナトリウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を用いて第1B/F(Bound/Free)洗浄を3回行なった。
(3)あらかじめ70μLの精製水を用いて溶解した標識試薬(13b、43b)のうち、50μLを第一の収容部(12a、42a)に分注し、37℃で3分間反応を行なった(第二の抗原抗体反応)。
(4)(2)の洗浄液を用いて第2B/F洗浄を6回行なった。
(5)0.4mMのALP用化学発光基質(特許文献3)を含む基質試薬100μLを添加して37℃で5分間反応させてエンドポイント測光し、測定値を求めた。
【0055】
【表2】

(1)の試料溶液として、10μIU/mLのTSHを含む標準試料またはTSHを含まない陰性標準を用い、各試料溶液について12回ずつ測定した結果を表2に示す。いずれの試料溶液であっても、実施例1で作製した測定容器(第一の収容部の内底面が略平坦状である測定容器)を用いたほうが、比較例1で作製した測定容器(第一の収容部の内底面が略半球状である測定容器)を用いた場合と比較して、良好な同時再現性が得られた。比較例1で作製した測定容器のほうが結果の再現性が悪くなった原因としては、
当該測定容器の収容部に収容した凍結乾燥試薬の溶解撹拌効率が低いこと、
溶解済みの標識試薬や基質試薬を、固相試薬を収容した第一の収容部に分注したときに液が跳ねること、
第二の抗体抗原反応時に行なう撹拌時に容器内壁の上部に付着した標識試薬が後の工程の撹拌時に混入すること、
等が考えられる。
【0056】
実施例6
以下に示す2種類のエストラジオール(E2)測定試薬を収容した測定容器を作製した。なお、測定容器作製の際用いたポリプロピレン樹脂には、白色顔料(二酸化チタン)と黒色顔料(カーボンブラック)とを練りこんでいる。
(1)図1に示す測定容器(10)のうち、第一の収容部(12a)に抗E2抗体を固定化した磁性微粒子(粒径2.6μm)を含む固相試薬(13a)50μLを、第二の収容部(12b)にALPで標識したE2を含む標識試薬(13b)70μLを、それぞれ分注し、凍結乾燥後、アルミシール(15)で蓋をすることで、E2測定試薬を収容した測定容器を作製した。
(2)図4に示す測定容器(40)のうち、第一の収容部(42a)に抗E2抗体を固定化した磁性微粒子(粒径2.6μm)を含む固相試薬(43a)50μLを、第二の収容部(42b)にALPで標識したE2を含む標識試薬(43b)70μLを、それぞれ分注し、凍結乾燥後、アルミシール(45)で蓋をすることで、E2測定試薬を収容した測定容器を作製した。
【0057】
実施例7
実施例6で作製した2種類のE2測定試薬を収容した測定容器を用い、以下の方法でTSH標準試料を測定した。
(1)固相試薬(13a、43a)を収容した第一の収容部(12a、42a)に、25μLの分注水(実施例4と同じ組成)と25μLの試料溶液とを分注し溶解撹拌後、37℃にて5分間静置した。
(2)あらかじめ70μLの精製水を用いて溶解した標識試薬(13b、43b)のうち、50μLを第一の収容部(12a、42a)に分注し、攪拌後、37℃で3分間静置した。
(3)150mMのNaCl、0.05%のTween 20、1mMのMgCl、0.1%のアジ化ナトリウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を用いてB/F洗浄を6回行なった。
(4)0.4mMのALP用化学発光基質溶液(特許文献3)100μLを添加して37℃で5分間反応させてエンドポイント測光し、測定値を求めた。
【0058】
【表3】

(1)の試料溶液として、100pg/mLもしくは3200pg/mLのE2を含む標準試料またはE2を含まない陰性標準を用い、各試料溶液について10回ずつ測定した結果を表3に示す。いずれの試料溶液であっても、実施例6(1)で作製した測定容器(第一の収容部の内底面が略平坦状である測定容器)を用いたほうが、実施例6(2)で作製した測定容器(第一の収容部の内底面が略半球状である測定容器)を用いた場合と比較して、良好な同時再現性が得られた。なお、各試料溶液を用いたときの平均カウント値は、実施例6(1)で作製した測定容器と実施例6(2)で作製した測定容器との間で有意差がないことから、収容部の内底面がE2の測定で行なわれる競合反応に影響を与えることはなく、かつ良好な形状の検量線が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0059】
10、20、30、40:測定容器
11、21、31、41:測定容器開口部
12、22、32、42:ウェル
13、23、33、43:試薬
15、25、35、45:アルミシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質、または標識された測定対象物を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器であって、
前記固相試薬および前記標識試薬が凍結乾燥状態であり、前記固相試薬収容部の内底面の形状が略平坦状である、前記容器。
【請求項2】
測定容器に備えた固相試薬収容部および標識試薬収容部がそれぞれ一つである、請求項1に記載の測定容器。
【請求項3】
標識試薬収容部の内底面の形状が、凹部を有し、かつ略半球状または略錐状である、請求項1または2に記載の測定容器。
【請求項4】
測定対象物と特異的に反応する物質が抗体または抗原である、請求項1から3のいずれかに記載の測定容器。
【請求項5】
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を固相試薬収容部に分注し、
(2)試料中の測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(3)測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(4)標識試薬収容部に収容した標識試薬を固相試薬収容部に分注し、
(5)標識試薬中の、測定対象物と特異的に反応する標識された物質を、(2)で捕捉された測定対象物に捕捉させ、
(6)(2)で捕捉された測定対象物には捕捉されない未反応物を除去し、
(7)(5)で捕捉された、測定対象物と特異的に反応する標識された物質を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法。
【請求項6】
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
標識された測定対象物を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を固相試薬収容部に分注し、
(2)試料中の測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(3)標識試薬収容部に収容した標識試薬を固相試薬収容部に分注し、
(4)標識試薬中の標識された測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(5)測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(6)捕捉された、標識された測定対象物を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法。
【請求項7】
固相試薬および標識試薬が凍結乾燥状態であり、標識試薬を固相試薬収容部に分注する際、あらかじめ前記標識試薬の溶解操作を行なってから分注する、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
前記測定対象物と特異的に反応する標識された物質を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を標識試薬収容部に分注することで、試料中の測定対象物を、測定対象物と特異的に反応する標識された物質に捕捉させ、
(2)試料と標識試薬との混合物を固相試薬収容部に分注し、
(3)測定対象物を、固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(4)固相試薬中の、測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(5)捕捉された、測定対象物と特異的に反応する標識された物質を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法。
【請求項9】
試料中の測定対象物と特異的に反応する物質を固定化した担体を含む、固相試薬を収容した固相試薬収容部一つ以上と、
標識された測定対象物を含む、標識試薬を収容した標識試薬収容部一つ以上と、
を備えた測定容器を用いて、
(1)試料を標識試薬収容部に分注し、
(2)試料と標識試薬との混合物を固相試薬収容部に分注し、
(3)測定対象物を、固相試薬中の測定対象物と特異的に反応する物質に捕捉させ、
(4)測定対象物と特異的に反応する物質には捕捉されない未反応物を除去し、
(5)捕捉された、標識された測定対象物を測定する、
試料中の測定対象物の測定方法であって、前記固相試薬収納部の内底面の形状が略平坦状である、前記方法。
【請求項10】
固相試薬および標識試薬が凍結乾燥状態である、請求項8または9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242170(P2012−242170A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110546(P2011−110546)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)