説明

測定装置、測定システム、測定方法、制御プログラム、および、記録媒体

【課題】励起光の照射位置のずれによる測定値のばらつきをなくし、精度のよい蛍光物質の測定を実現する。
【解決手段】測定装置9は、測定対象部に対して励起光を照射する励起光源と、励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する検出器とを備える走査機構から、上記蛍光の光特性を示す測定データを取得する検出器制御部31と、上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構から、上記測定データが得られた際に上記測定対象部において上記励起光が照射された照射位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部32と、検出器制御部31によって取得された測定データと、位置情報取得部32によって取得された位置情報とを含む蛍光特性データを生成する蛍光特性管理部33と備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に対して励起光を照射することにより発生した蛍光の強度を測定する測定装置、測定システム、測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化に伴い、生活習慣病患者が増加し、医学的、社会的問題が深刻となっている。現在、日本における糖尿病患者は800万人、その予備軍を含めると2000万人にのぼるとも言われている。糖尿病の三大合併症は、「網膜症、腎症、神経障害」であり、さらに糖尿病は動脈硬化症の要因ともなり、心臓疾患や脳疾患までもが懸念される。
【0003】
糖尿病は、食習慣や生活習慣の乱れ、肥満による脂肪細胞からの分泌物の影響、酸化ストレスから、すい臓の機能が低下し、血糖値をコントロールするインシュリンが不足したり、効能が低下したりすることで発症する。糖尿病にかかると排尿の回数や量が多い、のどがかわくなどの症状が現れるが、これだけであれば病気だという自覚症状が無く、病院などでの検査により発覚することが殆どである。このことが、「サイレント」な糖尿病患者が多い由縁である。
【0004】
病院などで合併症による異常な症状が表れてからでは、すでに病状が進行していることが多く、完治することは難しい。特に合併症は治療が困難なものが多く、他の生活習慣病と同様に予防が重要視されている。予防を行うためには早期発見と治療効果判定が不可欠であり、それを目的とした糖尿病の検査が多数存在している。
【0005】
血中に異常な量の糖質や脂質が存在する環境下で、酸化ストレスが加わると、タンパク質と糖質または脂質とが反応を起こし、AGEs(Advanced Glycation Endproducts;後期糖化反応生成物)が生成される。AGEsはタンパク質の非酵素的糖付加反応(メイラード反応)により形成される最終生成物であり、黄褐色を呈し、蛍光を発する物質であって、近くに存在する蛋白と結合して架橋を形成する性質を有している。
【0006】
このAGEsは、血管壁に沈着、侵入したり、免疫システムの一部を担うマクロファージに作用してたんぱく質の一種であるサイトカインを放出させ、炎症を引き起こしたりして、動脈硬化を発症させると言われている。
【0007】
糖尿病の場合、血糖の上昇に伴い、AGEsも増加するので、AGEsをモニタリングすることで、糖尿病の早期発見、あるいは進行状況を把握することができる。このようにAGEsをモニタリングすることで、真性糖尿病をスクリーニングする手法として、例えば特許文献1に記載の方法が報告されている。
【0008】
この方法では、前腕の皮膚に励起光を照射し、皮膚コラーゲンに結合したAGEsからの蛍光スペクトルを測定し、測定した蛍光スペクトルと予め決定されたモデルとを比較することでAGEsをモニタリングしている。これにより、侵襲することなくAGEsのデータを取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007−510159号公報(2007年4月19日公表)
【特許文献2】特願2010−088070(2010年4月6日出願)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、特許文献1に記載の構成では、複数回にわたって測定を繰り返した場合、同一の被験者が同様の部位で測定しても、測定値がばらつき、信頼性の高い測定結果が得られないという問題が生じる。この問題は、励起光が照射される位置が測定機会ごとに異なっているためであることを本発明の発明者が見出した。
【0011】
なお、上記問題は、AGEsの測定においてのみ生じるものではなく、コラーゲン、エラスチンなど、被検体に内在するあらゆる蛍光物質を、非侵襲、非破壊で測定する場合に、同様に生じるものである。
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、励起光の照射位置のずれによる測定値のばらつきをなくし、精度のよい蛍光物質の測定を実現する測定装置、測定システム、測定方法、制御プログラム、および、記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る測定装置は、上記課題を解決するために、測定対象部に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備える走査機構から、上記蛍光の光特性を示す測定データを取得する測定データ取得手段と、上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構から、上記測定データが得られた際に上記測定対象部において上記励起光が照射された照射位置を示す位置情報を取得する位置情報取得手段と、上記測定データ取得手段によって取得された測定データと、上記位置情報取得手段によって取得された位置情報とを含む蛍光特性データを生成する蛍光特性管理手段と備えていることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、測定対象部と、走査機構(励起光照射部と受光部)との位置関係は、駆動機構によって、制御、把握される。したがって、走査機構が測定を実施して測定データを得ると、そのときの走査機構と測定対象部との相対位置に基づいて、駆動機構は、上記測定対象部において検出対象となった領域(照射位置)を特定することが可能である。
【0015】
測定装置の測定データ取得手段が、上記測定データを上記走査機構から取得する一方、位置情報取得手段は、当該測定データが得られたときの照射位置についての情報を、位置情報として上記駆動機構から取得する。
【0016】
最後に、蛍光特性管理手段は、測定データと位置情報とを含んだ蛍光特性データを生成する。すなわち、上記測定データと上記位置情報とが紐付けられて蛍光特性データとして管理される。
【0017】
上記蛍光特性データによれば、位置情報と測定データとが紐付けられているため、このような蛍光特性データを見れば、ユーザは、測定対象部のどの位置における蛍光であるのかを把握することができる。駆動機構が走査機構と測定対象部との相対位置を変更して、測定データが得られた場合でも、その測定データが測定対象部のどの位置における蛍光のデータであるのかが常に明確になっている。
【0018】
従来、励起光を出射するファイバーやプローブの先端を測定対象部に当てることによって蛍光を取得していた。そのため、照射位置は、常に、測定対象部上のいずれかの「点」として特定され、「点」に対して1回の測定が行われるのみであった。
【0019】
しかし、本願発明の上記構成によれば、走査機構と測定対象部との相対位置を駆動機構によって把握させながら、移動させて測定(走査)させるため、1回の走査で、多点測定、すなわち、「面」に対する測定を実施することが可能となる。
【0020】
さらに、測定データは、上記相対位置に基づいて、位置情報と紐付けて、蛍光特性データとして管理されるため、測定対象部の「面」全体における測定結果を一度に即時に出力することができる。「面」全体における測定結果は、「点」における測定結果と比較して、豊富な情報を提供することが可能である。例えば、測定対象部の面において、どの領域のどの波長の蛍光強度が強いかを示すマッピング像を即時に可視化することは、「面」に対する測定でなければ実現できない。
【0021】
また、従来のように、ファイバーやプローブを用いた「点」に対する測定では、照射位置を、測定対象部のどの「点」にするのかを特定する必要があった。このため、測定機会ごとに照射位置がずれ、測定値がばらつくという問題があった。また、ファイバーやプローブを測定対象部に当てる角度も測定値に影響を与えることがあり、全く同一の条件で、「点」による測定を繰り返し行うことは非常に困難であった。
【0022】
しかしながら、本願発明の上記の構成によれば、測定対象部の「面」を走査の対象として一度に測定を行うため、照射位置を点で特定する必要がなくなり、したがって、測定の機会ごとに測定値がばらつくという問題が解消される。また、多点測定を即時に容易に実現することが可能となる。
【0023】
上記蛍光特性管理手段は、上記相対位置が変更される度に、当該相対位置に対応する位置情報ごとに上記蛍光特性データを生成することが好ましい。
【0024】
上記蛍光特性データに含まれる上記位置情報に基づいて上記測定データをマップにプロットすることによりマップ情報を生成する蛍光特性解析手段と、上記マップ情報を表示部に表示するための可視化画像を生成する画像生成手段とを備えていることが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、蛍光特性解析手段は、上記相対位置が変更されるごとに蓄積された蛍光特性データを集約して位置情報に基づいて測定データをマッピングする。そして、それを、ユーザが視認可能なように画像生成手段が可視化する。
【0026】
これにより、ユーザは、可視化画像を視認して、測定対象部の面において、どの領域のどの波長の蛍光強度が強いかを即時に、かつ、容易に認識することが可能となる。
【0027】
上記蛍光特性データに含まれる位置情報は、上記測定対象部における照射位置のY座標を特定するための1次元情報(例えば、後述の走査位置Y)であってもよい。
【0028】
これにより、ユーザは、どの走査位置において、蛍光物質が多く検出されるかを、Y座標に基づいて、ある程度、知ることができ、その走査位置に的を絞ってさらに詳細な測定を行ったり、経過観察を実施したりすることができる。
【0029】
あるいは、上記蛍光特性データに含まれる位置情報は、上記測定対象部における照射位置のX座標およびY座標を特定するための2次元情報(例えば、後述の走査位置Yかつ番地X)であってもよい。
【0030】
これにより、ユーザは、測定対象部の面全体の蛍光特性を即時に認識することが可能となる。
【0031】
上記励起光照射部は、励起波長が異なる複数種類の光源を含み、上記測定データ取得手段は、励起波長ごとに異なる測定データを取得し、上記蛍光特性管理手段は、上記位置情報および上記励起波長ごとに、上記蛍光特性データを生成することが好ましい。
【0032】
さらに、上記測定装置は、上記蛍光特性データに含まれる上記位置情報に基づいて上記測定データをマップにプロットすることにより、上記励起波長ごとにマップ情報を生成する蛍光特性解析手段と、上記マップ情報を表示部に表示するための可視化画像を生成する画像生成手段とを備え、上記蛍光特性解析手段は、各蛍光特性データについて、位置情報ごとに、第1の励起波長に対応付けられた測定データと、第2の励起波長に対応付けられた測定データとを比較し、比較結果が所定の条件を満たす測定データである旨を示す情報を、プロットされた測定データに付与し、上記画像生成手段は、上記情報が付与された測定データが強調表示されるように可視化画像を生成することが好ましい。
【0033】
励起波長を異ならせることによって、蛍光特性に特異な変化が見られる蛍光物質がある。上記構成によれば、励起波長別の蛍光特性を比較することにより、そのような特異な性質を持つ蛍光物質を容易に同定することができるとともに、特異な変化が現れた位置、すなわち、同定された蛍光物質の存在箇所を容易に特定することができる。
【0034】
上記第1の励起波長、および、上記第2の励起波長は、それぞれ、後期糖化反応生成物を測定するために適した波長範囲を有することが好ましい。より具体的には、上記第1の励起波長は365nm、上記第2の励起波長は405nmであることが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、蛍光が強く表れた領域に、目的の蛍光物質(後期糖化反応生成物)と、ノイズとしての蛍光物質(NADH)とが含まれている場合に、ノイズのみを分離して、AGEsが存在する箇所のみを可視化することが可能となる。
【0036】
上記蛍光特性管理手段は、上記測定データから、特定蛍光波長における蛍光強度を特徴量として抽出し、上記位置情報と上記特徴量とを含む蛍光特性データを生成してもよい。
【0037】
上記蛍光特性データに含まれる上記位置情報に基づいて上記特徴量をマップにプロットすることにより、上記蛍光波長ごとにマップ情報を生成する蛍光特性解析手段と、上記マップ情報を表示部に表示するための可視化画像を生成する画像生成手段とを備え、上記画像生成手段は、第1の蛍光波長における蛍光強度を示す第1の特徴量に基づくマップ情報と、第2の蛍光波長における蛍光強度を示す第2の特徴量に基づくマップ情報とを重ね合わせて上記可視化画像を生成してもよい。
【0038】
上記構成によれば、ある第1の特徴量によって可視化できる、上記測定対象部に内在する1つ目の器官(あるいは物体)と、ある第2の特徴量によって可視化できる2つ目の器官(物体)との形状を合成して可視化することが可能となる。
【0039】
上記励起光照射部の励起波長、ならびに、上記第1の蛍光波長および上記第2の蛍光波長は、それぞれ、血管内に存在する後期糖化反応生成物の測定および位置の特定のために適した波長範囲を有することが好ましい。より具体的には、上記励起波長は365nm、上記第1の蛍光波長は420nm、上記第2の蛍光波長は460nmであることが好ましい。
【0040】
上記構成によれば、上記励起波長が365nm、上記第1の蛍光波長が420nmの場合、血管形状を可視化することができ、上記励起波長が365nm、上記第2の蛍光波長が460nmの場合、後期糖化反応生成物を可視化することが可能となる。
【0041】
これにより、単に蛍光が強く表れた領域を可視化するだけではなく、血管の形状を可視化するとともに、血管内のどの位置に、どのくらいの量の後期糖化反応生成物が存在しているのかを可視化することが可能となる。
【0042】
上述の測定装置、走査機構、駆動機構によって構築される測定システムも本発明の範疇に入る。
【0043】
本発明の測定方法は、上記課題を解決するために、測定対象部に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備える走査機構から、上記蛍光の光特性を示す測定データを取得する測定データ取得ステップと、上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構から、上記測定データが得られた際に上記測定対象部において上記励起光が照射された照射位置を示す位置情報を取得する位置情報取得ステップと、上記測定データ取得ステップにて取得された測定データと、上記位置情報取得ステップにて取得された位置情報とを含む蛍光特性データを生成する蛍光特性管理ステップとを含むことを特徴としている。
【0044】
なお、上記測定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを上記各手段として動作させることにより上記測定装置をコンピュータにて実現させる測定装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る測定装置は、測定対象部に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備える走査機構から、上記蛍光の光特性を示す測定データを取得する測定データ取得手段と、上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構から、上記測定データが得られた際に上記測定対象部において上記励起光が照射された照射位置を示す位置情報を取得する位置情報取得手段と、上記測定データ取得手段によって取得された測定データと、上記位置情報取得手段によって取得された位置情報とを含む蛍光特性データを生成する蛍光特性管理手段と備えていることを特徴としている。
【0046】
本発明の測定方法は、測定対象部に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備える走査機構から、上記蛍光の光特性を示す測定データを取得する測定データ取得ステップと、上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構から、上記測定データが得られた際に上記測定対象部において上記励起光が照射された照射位置を示す位置情報を取得する位置情報取得ステップと、上記測定データ取得ステップにて取得された測定データと、上記位置情報取得ステップにて取得された位置情報とを含む蛍光特性データを生成する蛍光特性管理ステップとを含むことを特徴としている。
【0047】
それゆえ、位置情報に基づいた測定データ(蛍光特性など)を可視化することが可能となり、照射位置、照射角度などのばらつきをなくし、蛍光物質の測定結果を2次元の情報としてより精度良く得ることができるという効果を奏する。
【0048】
一例として、具体的な効果を挙げれば、撮像装置を利用することなく、血管でのAGEs分布状態を確認できるようになるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態における測定装置の要部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態における測定システムの概要を示す図である。
【図3】本発明の実施形態における走査機構の内部構成の概略を示す透視斜視図である。
【図4】走査機構の内部構成の概略を示す透視側面図である。
【図5】走査機構を窓部側から見たときの走査機構を示す平面図である。
【図6】窓部の一部における番地(X座標)および走査位置(Y座標)を拡大して示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における、測定装置の蛍光特性データ記憶部に記憶される蛍光特性データのデータ構造を示す図である。
【図8】AGEsを励起光波長365nmで照射したときの、AGEsの蛍光スペクトルを示す図である。
【図9】本発明の一実施形態における測定装置の蛍光特性解析部および画像生成部によって生成された可視化画像の一例を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態における測定装置の蛍光特性解析部および画像生成部によって生成された可視化画像の一例を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態における測定システムの各装置が実施する蛍光物質の測定処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】AGEs物質のフラグが付与された走査位置について、蛍光スペクトルが強調表示された可視化画像の具体例を示す図である。
【図13】本発明の他の実施形態における測定装置の蛍光特性データ記憶部に記憶される蛍光特性データのデータ構造を示す図である。
【図14】上記蛍光特性データ記憶部に記憶される蛍光特性データの具体例を示す図である。
【図15】本発明の他の実施形態における測定装置の蛍光特性解析部および画像生成部が生成した可視化画像の具体例を示す図である。
【図16】本発明の他の実施形態における測定システムの各装置が実施する蛍光物質の測定処理の流れを示すフローチャートである。
【図17】さまざまな蛍光物質を励起光波長365nmで照射したときの、各蛍光物質の蛍光スペクトルを示す図である。
【図18】本発明の他の実施形態における測定システムの各装置が実施する血管壁およびAGEsを可視化するための測定処理の流れを示すフローチャートである。
【図19】血管可視化画像にAGEs可視化画像を重畳させて生成された重畳画像の一例を示す図である。
【図20】紫外光LEDを測定対象部(掌および手首)に照射することによって得られた測定対象部の外形の可視化画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
≪実施形態1≫
本発明の実施形態について、図1〜図12に基づいて説明すると以下の通りである。
【0051】
以下で説明する実施形態では、一例として、本発明の測定システムは、ヒトを被検体として、測定対象部(ここでは、一例としてヒトの前腕)から目的の蛍光物質(例えばAGEsなど)を測定する。しかし、本発明の測定システムは、このような用途に限定されず、あらゆる物体、生体を被検体として、これのあらゆる測定部位に内在する蛍光物質を測定するために用いられる。
【0052】
〔測定システムの概要〕
図2は、本発明の実施形態における測定システム100の概要を示す図である。図2に示すとおり、測定システム100は、検出装置10と、測定装置9とを備える構成になっている。検出装置10は、蛍光物質を被検体から検出するための装置であり、測定装置9は、検出装置10の各部を制御し、得られた検出結果に基づいて蛍光物質の判定、測定等を行うための装置である。
【0053】
図2に示すとおり、検出装置10は、走査機構1、駆動機構2、および、これらを収容する筐体3を備える構成となっている。
【0054】
筐体3は、内部に走査機構1および駆動機構2を収容するとともに、上面にて、被検体の測定対象部を静置するための場所を提供する。図2に示すとおり、筐体3は、窓部3aおよび遮光部3bで構成される。窓部3aは、石英で出来ており、紫外線での吸収がないことが確認されていることが好ましい。すなわち、筐体3の内部から照射された紫外光の波長を持つ励起光は、窓部3aを透過して、窓部3aに静置される測定対象部に到達する。また、測定対象部から放射される蛍光も筐体3の内部、さらには、走査機構1の内部に到達する。遮光部3bは、筐体3外部から蛍光導入部5に到達する環境光を遮断し、励起光が照射されることにより発生する蛍光を、走査機構1の内部において効率良く得るための遮光部として機能する。遮光部3bの材質としては、PP(ポリプロピレン)、遮光性ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等といったプラスチック製のものでもよいし、これらの樹脂類の代わりに、容器内側にアルミ箔をつけた紙類、金属類、木類等どんなものでも構わない。だたし、可搬性、経済性、耐久性を鑑みると遮光性プラスチックが有利である。
【0055】
走査機構1は、被検体の腕、手首、耳朶、指尖、掌、頬等の各測定対象部に対して励起光を照射し、それによって発生した蛍光を検出するものである。走査機構1は、励起光を測定部位に対して照射する励起光源4と、測定部位から放射された蛍光を走査機構1の内部に導くための蛍光導入部5とを備えている。図2に示すとおり、励起光源4から照射された励起光(実線矢印)は、筐体3上面の窓部3aにて、測定部位(腕は実際には筐体3上面に密着している)に到達する。そして、これにより測定部位から放射された蛍光(破線矢印)を窓部3aから蛍光導入部5が受光する。
【0056】
走査機構1は、駆動機構2の駆動によって、測定対象部との間の相対位置を変更することが可能である。走査機構1は、測定対象部との相対位置を変えながら、逐一測定対象部に励起光を照射して、その相対位置において測定対象部に励起光が照射された位置の蛍光を検出する。よって、測定対象部の照射位置は、走査機構1と測定対象部との相対位置が変更されることに伴って逐一移動する。結果として、走査機構1は、測定対象部における照射位置を特定の1点ではなく面として捉え、面(図2に示す例では、窓部3aの面)を走査して蛍光の光特性を得ることができる。つまり、測定対象部における特定の照射位置を考慮することが不要となり、測定のたびに照射位置がばらつくことがなくなる。
【0057】
より具体的には、本実施形態では、図2に示すとおり、走査機構1の励起光源4は、窓部3aのX軸方向における幅と略同等の幅の一定領域(例えば、窓部3aに破線で示された帯の領域)を、照射位置としてカバーする(照射する)ように配置されている。また、蛍光導入部5は、X軸方向において、上記窓部3aのX軸方向における幅と略同等の幅を有し、上記帯の領域から放射される蛍光を、ほぼ余すことなく受光するように配置されている。
【0058】
よって、本実施形態では、走査機構1は、窓部3aのY軸方向に駆動するだけで、窓部3aの全面を走査する(励起光を照射して、放射された蛍光を受光する)ことが可能となっている。以下では、一度の走査でカバーされる、窓部3aにおけるX軸上に延びる照射位置、つまり、例えば窓部3aに図示される破線が示す帯状の領域を走査線と称する。この走査線は、窓部3aにおけるY座標で特定可能である。
【0059】
走査機構1は、内部に検出器8(詳細は後述する)を備えており、受光した蛍光を分析して測定データを作成することができる。走査機構1は、測定装置9と有線または無線にて通信可能に接続されている。したがって、走査機構1は、窓部3aを走査線ごとに走査して、受光した蛍光についての各測定データを測定装置9に供給する。
【0060】
駆動機構2は、走査機構1を駆動して、走査機構1と測定部位との相対位置を制御するものである。本実施形態では、駆動機構2は、窓部3aにおけるY軸方向の任意の位置に走査機構1を移動させて、窓部3a面上の任意の走査線を走査させる。
【0061】
駆動機構2は、より詳細には、電動ステージ2aとステージコントローラ2bとを含む。電動ステージ2aは、レーン(溝)上を移動可能な不図示の板部を備えており、この板部に走査機構1が搭載され、物理的に接続されている。また、この板部は、ステージコントローラ2bと電気的に接続されている。よって、ステージコントローラ2bの制御にしたがって、板部がレーンを移動することにより、走査機構1をY軸方向における任意の位置に移動させることができる。
【0062】
ステージコントローラ2bは、電動ステージ2aを制御して、走査機構1のY軸方向における位置を調節するものである。ステージコントローラ2bは、測定装置9と通信可能に有線または無線にて接続されている。ステージコントローラ2bは、測定装置9で制御することも可能であるが、簡易には、ステージコントローラ2bが直接、電動ステージ2aを制御してもよい。
【0063】
ステージコントローラ2bは、走査機構1の位置に関連付けて、当該位置にあるときの走査機構1がカバーする窓部3a上の走査線のY座標(走査位置Y)を保持しており、これを測定装置9に供給する。これにより、測定装置9は、走査機構1がとある位置にあるときに蛍光導入部5が受光した蛍光の測定データを、走査位置Yに対応付けて管理することが可能となる。
【0064】
例えば、ステージコントローラ2bは、1走査線あたり1〜25.5ミリ秒(1走査線あたりの走査機構1の蛍光情報処理時間に相当)で駆動する。
【0065】
〔走査機構の構成〕
図3は、本発明の実施形態における走査機構1の内部構成の概略を示す透視斜視図である。なお、図3では、内部の構造を見易くするために、走査機構1の筐体を破線で示し、走査機構1の内部に収容される構成部材も実線で示す。図4は、走査機構1の内部構成の概略を示す透視側面図である。図3および図4に示すとおり、走査機構1は、外部に、励起光源4および蛍光導入部5を備え、内部に、導光部6、レンズ7および検出器8を備えている。図3および図4に示す実線矢印は、励起光源4から出射される励起光の進入経路を示し、破線矢印は、蛍光が検出器8に受光されるまでの蛍光の進入経路を示している。
【0066】
励起光源4は、窓部3aに静置された被検体の測定部位を照射する励起光を出射する発光装置である。本実施形態では、この励起光は、AGEs由来の蛍光を検出するためのものであり、AGEsを測定するために適した波長範囲を有している。
【0067】
図5は、走査機構1を窓部3a側から見たときの、走査機構1を示す平面図である。本実施形態では、一例として、図3および図5に示すとおり、励起光源4は、230〜365nmの波長を有する紫外光LED4aと、405nmの波長を有する可視光LED4bとで実現される。図5に示すとおり、走査機構1の上面に、紫外光LED4a(365nm)と、可視光LED4b(405nm)とを、交互に千鳥構造で配置する。励起光源4は、測定装置9の制御にしたがって、紫外光LED4aと可視光LED4bの駆動を切り替える。なお、各LEDの径は、例えば、4.85mm程度のものを使用することができるが、LEDの径は上記に限定されない。
【0068】
これらの波長の励起光を測定対象部の特定部位(例えば、血管など)に照射することにより、照射位置の血管壁蓄積物から蛍光が得られる。さらに、2種類の光源を使い分けることによって、測定装置9は、血管壁に蓄積する蛍光物質の由来をさらに詳細に特定することが可能である。測定装置9は、2種類の励起光照射によって得られた測定データを分析する。そして、365nmで励起され、405nmで励起されない箇所は特にNADHによる蛍光が励起されたものとして認識し、AGEsの蓄積箇所ではないと判断する。こうした測定装置9の分析処理については後に詳述する。
【0069】
蛍光導入部5は、窓部3aを介して測定対象部から放射された蛍光を、走査機構1の内部を導くためのものである。蛍光導入部5は、単なる開口部であってもよいが、波長分解能を向上させるためにスリットが設けられていてもよい。例えば、蛍光導入部5に、35〜500μm幅のスリットを、X軸に対して垂直に、無数に設けることが考えられる。このスリットによって、走査機構1内部に入射する蛍光を、検出器8のフォトセルに対応させて効率的に導くことができ、結果として検出器8の波長分解能を向上させることが可能となる。
【0070】
より具体的には、検出器8のフォトセルが5400/line(RGB各色2列ずつ)あって、蛍光導入部5の長手方向の幅が200mmである場合、蛍光導入部5には、約35μm幅のスリットが設けられることが好ましい。スリットの幅は、これに限定されず、検出器8の仕様やノイズ(信号の濃淡)の発生状況に応じて適宜定めることができるものである。検出器8のすべてのフォトセルに対して、1:1の間隔でスリットが設けられてもよい。あるいは、スリットの代わりに、蛍光導入部5にピンホール(φ10〜500μm)が設けられてもよい。
【0071】
導光部6は、蛍光導入部5を介して走査機構1に入射した蛍光を、効率的に検出器8に導くためのものであり、鏡で実現される。導光部6の配置は、図3、図4に示す配置に限定されず、蛍光導入部5に入射する蛍光の方向、検出器8との位置関係によって適宜設計される。本実施形態では、図3および図4に示すように導光部6を3枚配置し、検出器8の受光面に対して蛍光が垂直に導かれるように工夫されている。
【0072】
レンズ7は、検出器8に受光される蛍光を、より精度良く検出器8に導くための集光レンズである。
【0073】
検出器8は、励起光が照射されることによって測定部位から発生した蛍光を、上述の構成を通して受光し、蛍光を分析して、その蛍光の波長および波長ごとの強度を測定するものである。すなわち、検出器8は、どの波長の蛍光がどの程度の強さで検出されたのかを測定する。検出器8は、分光器などで実現される。検出器8の仕様としては、目的とする波長帯の光を検出できるものなら特に制限はない。検出器8は、CCD(Charge Coupled Devices)やCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)などの撮像素子によって蛍光を検出して、得られた蛍光信号を分析する。
【0074】
蛍光導入部5を介して検出器8に導かれた蛍光は、窓部3aのX軸座標と対応付けられた番地ごとに区分される。例えば、検出器8において、CCDの画素の番地ごとに蛍光強度が数値化される。つまり、窓部3aのY座標で特定される1本の走査線に対応する蛍光を、さらに、X座標で特定することが可能となる。
【0075】
検出器8は、分析した結果を電気信号に変換したものである測定データを、通信ケーブルを介してあるいは無線通信手段を介して測定装置9に送信する。検出器8は、走査位置ごと(あるいは、なおかつ番地ごと)に順次電気信号(測定データ)を測定装置9に送信する。検出器8によって走査位置ごとに順次送信される信号は、時系列のタイミングチャートの信号で実現されてもよい。
【0076】
図2に示すとおり、本実施形態では、通信ケーブルを介して、測定装置9が、検出器8を制御することが可能である。測定装置9の制御にしたがって、検出器8は、特定の走査位置(Y座標)上のすべての蛍光特性を平均化した蛍光スペクトルを測定データとして生成したり、走査位置(Y座標)かつ番地(X座標)ごとの蛍光スペクトルを測定データとして生成したりする。あるいは、測定装置9の制御にしたがって、検出の積算時間設定やデータ取り込み等を実行する。
【0077】
図6は、窓部3aの一部における番地(X座標)および走査位置(Y座標)を拡大して示す図である。なお、図6に示す座標情報は、論理的なものであって、窓部3aを物理的に区分するものではない。
【0078】
検出器8は、本実施形態1では、図6に示す走査位置(Y座標)ごとに得られた測定データを測定装置9に供給する。検出器8が出力した測定データは、測定装置9において、駆動機構2が出力する走査位置と紐付けられる。
【0079】
検出器8において、蛍光の光特性を示す蛍光信号が、CCDなどで電気信号として可視化され、測定データとして測定装置9に供給される。そして、測定装置9において、この測定データは、窓部3aにおける位置情報(ここでは、走査位置)と紐付けられる。このため、測定装置9は、この測定データを分析して位置情報に基づいて画像処理することにより、被検体の測定対象部(腕)における血管の位置と、AGEsの蓄積状態を確認することが可能な測定結果をユーザに提示することが可能となる。
【0080】
なお、走査機構1のサイズや仕様は特に限定されるものではないが、例えば、100mm幅を600dpiの分解能での読み取り可能とするフラットスキャナヘッドを用いることが可能である。
【0081】
以下では、本実施形態1において、検出器8から送信された測定データを用いて、目的の蛍光物質の測定および可視化を行う測定装置9の構成および動作について詳細に説明する。
【0082】
なお、検出器8は、他の実施形態では、図6に示す走査位置(Y座標)かつ番地(X座標)ごとに得られた測定データを測定装置9に供給する。この場合、検出器8は、ある走査位置の番地ごとの測定データを番地(X座標)と関連付けて測定装置9に供給する。これにより、検出器8が出力した各測定データは、走査位置、かつ、番地に関連付けられて測定装置9において管理される。検出器8が、走査位置(Y座標)かつ番地(X座標)ごとに測定データを出力する場合の各装置の動作は、実施形態2にて後に詳述する。
【0083】
〔測定装置の構成〕
図1は、本発明の実施形態における測定装置9の要部構成を示すブロック図である。
【0084】
図1に示すとおり、本実施形態における測定装置9は、制御部20、記憶部21、通信部22、操作部23および表示部24を備える構成となっている。
【0085】
通信部22は、通信網を介して外部の装置と通信を行うものである。通信部22は、例えば、通信ケーブルを介して、検出装置10の各部、すなわち、走査機構1の励起光源4および検出器8、ならびに、ステージコントローラ2bとデータの送受信を行う。通信部22は、上述の各部へ制御信号を送信したり、各部から測定データおよび実施された測定の条件(励起光波長や走査位置など)を受信したりする。なお、通信部22は、無線通信機能を備えていてもよく、この場合、検出装置10の各部とは通信ケーブルを用いずにデータの送受信ができるので、測定システム100の設計の自由度が向上するというメリットがある。
【0086】
操作部23は、ユーザが測定装置9に指示信号を入力するためのものである。操作部23は、キーボード、マウス、ボタン(十字キー、決定キー、文字入力キーなど)、タッチパネル、タッチセンサ、タッチペン、もしくは、音声入力部と音声認識部などの適宜の入力装置で構成される。
【0087】
表示部24は、測定装置9が管理する蛍光物質の測定結果を表示したり、ユーザが測定装置9を操作するための操作画面をGUI(Graphical User Interface)画面として表示したりするものである。表示部24は、例えば、LCD(液晶ディスプレイ)などの表示装置で構成される。
【0088】
なお、測定装置9は、図示しない一時記憶部を備えている。一時記憶部は、測定装置9が実行する各種処理の過程で、演算に使用するデータおよび演算結果等を一時的に記憶するいわゆるワーキングメモリであり、RAMなどで構成される。
【0089】
記憶部21は、制御部20が実行する(1)制御プログラム、(2)OSプログラム、(3)制御部20が、測定装置9が有する各種機能を実行するためのアプリケーションプログラム、および、(4)該アプリケーションプログラムを実行するときに読み出す各種データを記憶するものである。特に、記憶部21は、測定装置9が実行する蛍光物質の測定処理を実行する際に読み出す各種プログラム、データを記憶する。さらに具体的には、記憶部21には、蛍光特性データ記憶部40が含まれる。
【0090】
制御部20は、測定装置9が備える各部を統括制御するものであり、機能ブロックとして、光源制御部30、検出器制御部31、位置情報取得部32、蛍光特性管理部33、蛍光特性解析部34、および、画像生成部35を備えている。
【0091】
上述した制御部20の各機能ブロックは、CPU(central processing unit)が、ROM(read only memory)、NVRAM(non-Volatile random access memory)等で実現された記憶装置(記憶部21)に記憶されているプログラムを不図示の一時記憶部(RAM;random access memory)等に読み出して実行することで実現できる。
【0092】
制御部20の光源制御部30は、走査機構1の励起光源4を制御するものである。本実施形態では、励起光源4としては、紫外光LED4aおよび可視光LED4bの2種類の光源が走査機構1に配置されている。そこで、光源制御部30は、適切なタイミングで、この2種類のLEDの点灯と消灯とを制御する。例えば、蛍光物質「AGEs」を測定することを目的とした測定がユーザから指示された場合には、AGEsの検出位置をより正確に可視化するために、両方のLEDでそれぞれ照射した測定データが必要になる。そこで、測定目的が「AGEs」と指定された場合には、光源制御部30は、紫外光LED4aおよび可視光LED4bをそれぞれ任意の順で点灯させる。あるいは、適切なタイミングで点灯させるLEDを切り替える。
【0093】
検出器制御部31は、検出器8を制御するものであり、必要な測定データを検出器8から取得するものである。例えば、検出器制御部31は、CPUが、記憶部21に検出器制御ソフトとして記憶されているVisualSpectra2.1Srを読み出して実行することで実現される。
【0094】
位置情報取得部32は、駆動機構2、特に、ステージコントローラ2bを制御するものであり、走査機構1によって走査が行われたときの位置情報をステージコントローラ2bから取得する。これにより、検出器8が出力する測定データと、位置情報とを紐付けることが可能となる。なお、本実施形態では、走査機構1はY座標で特定される走査線ごとに走査を実施するので、位置情報取得部32は、走査位置Yをステージコントローラ2bから取得する。
【0095】
蛍光特性管理部33は、検出装置10の各部で実施された測定結果から蛍光特性データを生成するものである。そして、蛍光特性管理部33は、生成した蛍光特性データを、蛍光特性データ記憶部40にて記憶して管理する。より具体的には、蛍光特性管理部33は、検出器8から検出器制御部31を介して取得した測定データ(蛍光スペクトル)と、この測定データが得られた際の測定対象部の照射位置、すなわち、窓部3aの位置情報(本実施形態では、走査位置Y)とを関連付ける。そして、測定データと位置情報とを関連付けた情報を蛍光特性データとして、蛍光特性データ記憶部40に格納する。
【0096】
図7は、本実施形態の蛍光特性データ記憶部40に記憶される蛍光特性データのデータ構造を示す図である。
【0097】
図7に示すとおり、本実施形態における蛍光特性データは、少なくとも、測定データ(蛍光スペクトル)と位置情報(走査位置Y)とを関連付けたデータ構造を有する。そして、さらに、測定条件(励起光波長)が関連付けられていてもよい。本実施形態では、同じ走査位置に対して、2種類の励起光源4によって、2回測定が行われることがある。そのため、蛍光特性管理部33は、上記測定データが得られたときの測定条件(励起光波長)を光源制御部30から取得する。そして、上記測定データと、上記位置情報と、さらに上記励起光波長とを関連付けて、蛍光特性データとして蛍光特性データ記憶部40に格納する。
【0098】
走査位置Yは、励起光が照射された走査位置を、図6に示すとおり、窓部3aの論理的なY座標値で特定するものである。
【0099】
蛍光スペクトルは、検出器8から取得される測定データに含まれる情報である。蛍光スペクトルは、どの波長の蛍光がどの程度の強さで検出されたのかを示すものである。蛍光スペクトルは、例えば、図8に示すとおり、横軸が蛍光波長、縦軸が蛍光強度を示す2次元のグラフにて可視化することが可能である。なお、蛍光特性管理部33は、この蛍光スペクトルからさらに特徴量を抽出して、抽出した特徴量を、蛍光スペクトルそのものの代わりに、あるいは、蛍光スペクトルに加えて、位置情報に関連付けて格納してもよい。特徴量としては、特定蛍光波長における蛍光強度、ピーク蛍光強度、ピーク強度における蛍光波長、半値幅、蛍光強度平均値などが挙げられる。
【0100】
蛍光特性解析部34は、蛍光特性データ記憶部40に記憶された位置情報ごとの蛍光特性データを集約し、解析して、測定結果を可視化するためのマップ情報を生成するものである。具体的には、蛍光特性データの測定データあるいは測定データから抽出される特徴量を、位置情報に合わせて、2次元や3次元のマップにプロットする。位置ごとに測定データがプロットされたマップ情報は、蛍光特性解析部34から画像生成部35に供給される。
【0101】
画像生成部35は、蛍光特性解析部34によって生成されたマップ情報(測定データが位置情報ごとにプロットされたもの)に基づいて、表示部に表示するための可視化画像を生成するものである。例えば、画像生成部35は、マップ情報に基づいて、3次元のグラフの生成し、そこに、プロットされた値、点、線などを付加する。画像生成部35は、グラフの色分けや必要な情報の付加も行う。
【0102】
図9および図10は、蛍光特性解析部34および画像生成部35によって生成された測定結果の可視化画像の一例を示す図である。
【0103】
本実施形態では、一例として、可視化画像は、蛍光波長をX軸に、蛍光強度をZ軸に、走査位置をY軸にとった3次元のグラフに、走査位置ごとの蛍光スペクトルをプロットしたものを示している。図9に示す3次元グラフは、紫外光LED4aを用いて、365nmの励起光を照射したときの、蛍光スペクトルの集合を示している。図10に示す3次元グラフは、可視光LED4bを用いて、405nmの励起光を照射したときの、蛍光スペクトルの集合を示している。
【0104】
図9、図10に示す例では、ある蛍光波長における蛍光強度が、ある走査位置において目立って高いことが分かる。検出位置に蛍光物質が存在することにより、蛍光物質がない位置よりも蛍光強度が高まることが確認されている。そのため、この3次元グラフを見れば、上記走査位置において、蛍光物質がより多く存在しているということを認識することができる。
【0105】
このように可視化画像が表示部24に表示されることにより、ユーザは、どの走査位置において、蛍光物質が多く検出されるかを知ることができ、その走査位置に的を絞ってさらに詳細な測定を行ったり、経過観察を実施したりすることができる。
【0106】
〔測定フロー〕
図11は、本実施形態における測定システム100の各装置が実施する蛍光物質の測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0107】
図11に示すとおり、測定装置9は、まず、操作部23を介して、測定条件、測定目的、被検体情報、測定部位情報など、事前にユーザから入力を受け付けておくべき事前入力情報を受け付けてもよい(S101)。例えば、本実施形態では、「ヒトの前腕における蛍光物質の存在量を見る」ための各種測定条件が入力されたとする。
そして、操作部23を介して、測定開始の指示信号が入力されると(S102においてYES)、測定装置9は、検出装置10の各部を制御して、窓部3aに静置された測定対象部の蛍光物質を測定する処理を開始する。
【0108】
まず、位置情報取得部32は、走査位置Y(i=1、2、3、・・・、m)を初期化する(S103)。そして、位置情報取得部32は、駆動機構2を制御して、走査機構1を走査位置Yに固定する(S104)。これが、初回の走査であれば、走査機構1は、最初の走査位置に移動させられる。
【0109】
続いて、光源制御部30は、励起光源4を制御して、窓部3aを照射する(S105)。これにより、励起光が窓部3aを介して測定対象部(前腕)に到達し、前腕から照射された蛍光が蛍光導入部5および走査機構1内部の各部を介して検出器8に入射される。これにより、走査機構1の検出器8は、入射された蛍光を分析し、測定データ(ここでは、蛍光スペクトル)を作成する(S106)。
【0110】
測定装置9の位置情報取得部32は、ステージコントローラ2bから、走査機構1の現在位置に対応する走査位置Yを取得する。検出器制御部31は、作成された蛍光スペクトルを検出器8から取得する(S107)。
【0111】
続いて、蛍光特性管理部33は、位置情報取得部32および検出器制御部31から、それぞれ、走査位置Yおよび蛍光スペクトルを取得する。さらに、蛍光特性管理部33は、光源制御部30から、この測定に際して照射された励起光の波長(例;365nm、405nmなど)を取得する(S108)。
【0112】
そして、蛍光特性管理部33は、各部から取得した、「走査位置Y」と、「励起光波長」と、「蛍光スペクトル」とを関連付けて、蛍光特性データとして蛍光特性データ記憶部40に記憶する(S109)。
【0113】
ここで、光源制御部30は、同じ走査位置Yにおいて、別の励起波長にて走査を行うべきである判断した場合には(S110においてYES)、励起光源4を切り替える(S111)。例えば、紫外光LED4aでの走査が完了し、次に、可視光LED4bにて走査を実行する場合、光源制御部30は、紫外光LED4aを消灯して、可視光LED4bを点灯する。走査機構1は、光源が切り替えられた後、S105、S106の処理を繰り返し、測定装置9の各部は、S107〜S109の処理を繰り返す。
【0114】
一方、S110において、同走査位置Yにおけるすべての必要な励起波長での走査を完了した場合には(S110においてNO)、位置情報取得部32は、すべての走査位置(走査線)について検出を完了したのか、あるいは、未検出の走査線があるのかを判定する(S112)。
【0115】
ここで、まだ、走査が完了していない走査線がある場合には(S112においてYES)、位置情報取得部32は、駆動機構2を制御して、走査位置Yを1つ進めて(S113)、走査機構1を次の走査位置に移動させる(S104)。そして、S105〜S109、S110、S111の処理が、上述と同様の手順で繰り返される。そして、走査位置、励起波長ごとに蛍光スペクトルが蛍光特性データ記憶部40に格納される。
【0116】
一方、すべての走査線について走査が完了した場合には(S112においてNO)、次に、蛍光特性解析部34が、蛍光特性データ記憶部40に記憶されている蛍光特性データに基づいて、蛍光スペクトルをマップにプロットし、マップ情報を作成する(S114)。
【0117】
続いて、画像生成部35は、蛍光特性解析部34が作成したマップ情報にしたがってこれを、グラフや表として表示部24に表示するための可視化画像を生成する(S115)。最後に、表示部24は、画像生成部35が生成した可視化画像を表示する(S116)。
【0118】
上記方法によれば、例えば、図9および図10に示される可視化画像が表示部24に表示される。これにより、ユーザは、どの走査位置において、蛍光物質が多く検出されるかを知ることができ、その走査位置に的を絞ってさらに詳細な測定を行ったり、経過観察を実施したりすることができる。
【0119】
〔変形例〕
上述したとおり、走査機構1は、波長の異なる2種類の励起光源4を備えているため、同じ走査位置に対して、2つの蛍光スペクトルを取得することが可能である。本実施形態における測定装置9の蛍光特性解析部34は、さらに、これらの2つの蛍光スペクトルを総合的に分析して、さらに、詳細な蛍光物質の測定を実施することができる。
【0120】
蛍光特性解析部34は、図11のS114において、さらに、蛍光特性データ記憶部40に記憶されている、同一走査位置に関連付けられている、励起光波長365nmのときに得られた蛍光スペクトルと、励起光波長405nmのときに得られた蛍光スペクトルとを比較する。蛍光特性解析部34は、この比較を走査位置ごとに行う。そして、励起光波長が、365nmから405nmに切り換わったことで、所定の低下率での蛍光強度の低下(ただし、蛍光強度は0には低下しない)が認められた走査位置を特定する。そして、蛍光特性解析部34は、所定%程度の低下が認められた走査位置の蛍光特性データに、AGEs由来の物質が含まれていることを示す情報(値、マーク、フラグなど)を付与し、マップ情報に反映する。
【0121】
なお、365nmの励起光源と405nmの励起光源の照射強度を調整することにより、上述の蛍光強度の低下率を制御することができる。例えば、励起光波長が、365nmから405nmに切り換わったことにより、AGEs由来の物質について蛍光強度の低下率が45%程度になるように、各励起光源の照射強度を設定することができる。このような場合には、蛍光特性解析部34は、上述の比較を行った結果、45%程度の蛍光強度の低下(0までは低下しない)が認められた走査位置を特定する。
【0122】
画像生成部35は、上記マップ情報に基づいて、図9、図10に示すような3次元のグラフを生成することに加えて、AGEs物質のフラグが付与された走査位置の蛍光スペクトルについては、他の比べて目立つように色分けしたり強調表示したりするなどして、可視化画像を生成する。
【0123】
図12は、AGEs物質のフラグが付与された走査位置について、蛍光スペクトルが強調表示された可視化画像の具体例を示す図である。
【0124】
図12に示すとおり、励起光波長が365nmから405nmに切り換わったことで、45%程度の蛍光強度の低下が見られた走査位置における蛍光スペクトルは異なる色で強調表示されている。
【0125】
これにより、ユーザは、蛍光物質の中でも特に、AGEs由来の蛍光物質が存在する走査位置を目視で確認することが可能となる。
【0126】
上述のように、励起光波長365nmのときに得られた蛍光スペクトルと、励起光波長405nmのときに得られた蛍光スペクトルとを比較することにより、測定目的の蛍光物質であるAGEsと、バックグラウンドとなる生体内蛍光分子である還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とを分離して測定できる。
【0127】
AGEsは、励起光365nmで励起した場合と、405nmで励起した場合とを比較すると、励起光が長波長化することにより、約45%程度の蛍光強度の低下が見られる(強度は低下するが蛍光の検出は可能)。これに対して、NADHは、通常340nmの紫外線を良く吸収するため、励起光405nmで励起した場合、同一条件ではほとんど蛍光が検出されなかった。この蛍光強度の低下率の大差によって、AGEsとNADHとの差別化が可能である。
【0128】
このように、励起光の波長を切り替えることにより蛍光強度がどのように変化するかを検出することでAGEs由来の蛍光強度を特定できる。その結果、AGEsとその他のバックグラウンドとを分離することができる。
【0129】
このような分離を行う場合にも、本発明の走査機構1および駆動機構2を利用し、それぞれの光源(例えば365nmおよび405nm)を切替えながら走査すれば、一度の測定で2種類の可視化画像(図12)が得られる。そして、その画像を比較することで、より正確にAGEsが存在する走査位置を特定することが可能となる。
【0130】
≪実施形態2≫
本発明の他の実施形態について、図13〜図20に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、説明の便宜上、上述の実施形態1にて説明した図面と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0131】
本実施形態では、走査位置Yかつ番地Xごとに得られた蛍光特性データに基づいて、可視化画像を生成する測定装置9の構成および動作について説明する。
【0132】
本実施形態では、走査機構1の各部は、蛍光導入部5を介して受光した1走査線分の蛍光を、さらに、窓部3a上のX座標で特定される番地ごとに区分して、検出器8に導く。そして、検出器8の受光部では、1走査線分の蛍光を、X軸上の番地ごとに受光し、番地Xごとに蛍光を分析して、測定データを出力する。番地は、検出器8の撮像素子1画素につき1番地が割り当てられていてもよいし、数画素ごとに1番地が割り当てられていてもよい。ここで、番地Xのiを、i=1、2、3、・・・、nとすると、検出器8は、走査線1ラインにつき、n個の測定データを測定装置9に供給する。
【0133】
測定装置9の検出器制御部31は、1つの走査線(走査位置Y)について、番地が対応付けられた測定データをn個取得する。n個の各測定データには、それぞれの番地が対応付けられている。そこで、蛍光特性管理部33は、「走査位置Y」と「番地X」と「測定データ(蛍光スペクトル)」とを対応付けて蛍光特性データ記憶部40を記憶する。なお、番地Xの情報は、駆動機構2のステージコントローラ2bから供給されてもよい。ステージコントローラ2bは、走査機構1の動作を監視し、走査機構1(検出器8)が番地ごとに順に測定データを供給するのに同期して、「走査位置Y」と「番地X」とを含む位置情報を測定装置9に供給することができる。
【0134】
ここで、走査された全ての座標について、蛍光スペクトルを記憶するとデータ量が膨大になり、記憶容量の枯渇を招く虞がある。そこで、本実施形態では、測定目的(血管形状の特定、AGEsの検出、皮膚コラーゲン量の測定など)に応じて、蛍光特性管理部33が、蛍光スペクトルから必要な特徴量を抽出し、この特徴量だけを位置情報(走査位置および番地)に対応付けて記憶することとする。本実施形態において特徴量は、例えば、蛍光スペクトルから抽出される「特定蛍光波長における蛍光強度」、「ピーク強度」、「平均蛍光強度」、「ピーク時の蛍光波長」などである。
【0135】
図13は、本実施形態の蛍光特性データ記憶部40に記憶される蛍光特性データのデータ構造を示す図である。
【0136】
図13に示すとおり、本実施形態における蛍光特性データは、「走査位置Y」と「番地X」と「励起光波長」とに対して、「蛍光波長」および「蛍光強度」が関連付けられているデータ構造である。
【0137】
「蛍光波長」および「蛍光強度」は、蛍光特性管理部33が蛍光スペクトルから抽出した特徴量の一具体例であり、分析された蛍光の、ある蛍光波長における蛍光強度を示す。例えば、「蛍光波長:420nm」および「蛍光強度:200(au)」が関連付けられている蛍光特性データは、その位置から放射された蛍光は、蛍光波長:420nmのときに、蛍光強度:200(au)を示す光特性を有しているということを示す。こうした蛍光の特性を分析し、使い分けることにより、被検体に内在する目的の蛍光物質の同定および測量を実現することができる。
【0138】
図14は、蛍光特性データ記憶部40に記憶される蛍光特性データの具体例を示す図である。なお、図14に示す蛍光特性データは一例であって、本発明を限定する意図はない。
【0139】
本実施形態では、実施形態1と同様に波長の異なる2種類の励起光源4(紫外光LED4aおよび可視光LED4b)を用いて走査を実施する。また、本実施形態では、ヒトの前腕における血管およびAGEsを区別して可視化することを目的として、蛍光特性管理部33は、蛍光スペクトルから、少なくとも、蛍光波長「420nm」および「460nm」における蛍光強度を抽出するものとする。さらに、測定精度を高めるために、予備的に、蛍光波長「440nm」「450nm」における蛍光強度を抽出してもよい。
【0140】
そこで、蛍光特性管理部33は、図14に示すとおり、「走査位置Y」、「番地X」、かつ、「励起光波長」に対応付けて、特定の「蛍光波長(420、440、450、460nm)」ごとに抽出した「蛍光強度」の値を格納する。
【0141】
上述ようにして、蛍光特性管理部33は、窓部3aのX、Y座標にて特定される点ごとに、上述の特徴量が格納された蛍光特性データを蛍光特性データ記憶部40にて管理することができる。
【0142】
次に、蛍光特性解析部34は、蛍光特性データ記憶部40に記憶されている蛍光特性データを集約し、解析して、測定結果を可視化するためのマップ情報を生成する。
【0143】
本実施形態では、蛍光特性解析部34は、X軸を番地、Y軸を走査位置とした2次元のマップに、X、Y座標ごとの特徴量をプロットする。ここでは、一例として、蛍光特性解析部34は、蛍光波長460nmにおける蛍光強度を、蛍光強度に応じてあらかじめ4クラスに分類する。4つのクラスとは、例えば、
クラス1:蛍光強度が**未満(=蛍光物質なし)
クラス2:蛍光強度が**以上※※未満(=蛍光物質少量)
クラス3:蛍光強度が※※以上○○未満(=蛍光物質多量)
クラス4:蛍光強度が○○以上(=蛍光物質超多量)
の4つである。
【0144】
そして、蛍光特性解析部34は、(X、Y)=(1、1)はクラス1、(X、Y)=(2、1)はクラス1、・・・、(X、Y)=(1、2)はクラス1、・・・、(X、Y)=(n、m)はクラス3、というように、すべての座標について求めたクラスを2次元の表にプロットする。蛍光特性解析部34は、このようにして生成した2次元のマップ情報を画像生成部35に供給する。
【0145】
画像生成部35は、蛍光特性解析部34から供給された2次元のマップ情報に基づいて、2次元の可視化画像を生成する。
【0146】
図15は、本実施形態における画像生成部35が生成した可視化画像の具体例を示す図である。
【0147】
本実施形態では、一例として、図15に示すとおり、画像生成部35は、上記2次元のマップ情報に対応する、X座標n個×Y座標m個のセルからなる2次元の表を可視化し、各セルを、指定されたクラスに応じて色分けする。
【0148】
このような可視化画像が表示部24に表示されれば、ユーザは、測定対象部における蛍光物質の量の分布を目視で確認することが可能となる。
【0149】
ここで、例えば、腕、手首、耳朶、指尖、掌、頬等においては、その検出位置に血管が存在することで、血管がない位置よりも蛍光強度が高まることが実験により確認されている。そのため、図15に示すように、蛍光強度を位置情報に対応付けて可視化すれば、測定対象部位における血管の形状が可視化される。例えば、図15に示す可視化画像において、「蛍光物質多量」のクラスに対応するセルは、血管形状を示している可能性が高い。さらに、血管壁に蓄積するAGEsは、血管内を流れる蛍光物質よりもさらに高い蛍光強度を示すと考えられる。したがって、「蛍光物質超多量」のクラスに対応するセルは、AGEsの蓄積箇所を示している可能性が高い。
【0150】
以上のように、本発明の測定システム100によれば、血管を可視化するための別途の機構を備えなくとも、蛍光物質の測定に必須な機構のみを用いて血管を可視化し、AGEs蓄積箇所を特定することが可能となる。
【0151】
本願発明の上述の利点は、以下の特許文献2と比較することにより、より明らかとなる。
【0152】
上述の特許文献1において生じる問題を解決する技術として、特許文献2には、測定部位(血管)を可視化する機構を備えた測定システムが開示されている。特許文献2に記載された可視化機構は、測定部位(血管など)を可視化するための血管可視化光源と上記血管可視化光源によって照射された測定対象部を撮像するカメラ部とを含む。これにより、ユーザは、測定部位、すなわち、励起光を照射すべき位置を目視できるので、励起光の照射位置を一定に調節することができ、測定機会ごとに照射位置がばらつくという問題を解消することができる。
【0153】
しかしながら、上記特許文献2の構成では、蛍光物質の測定のために必要な機構(励起光源、蛍光検出器)とは別に、測定部位を可視化するための目的で、別途、可視化光源、カメラ部など、複雑な構成部材が必要であった。このため、測定システムは、必然的に高価で、複雑な構成を要するものとなっていた。また、血管の可視化のためにカメラ部で撮像した画像データを処理するので、測定装置に高負荷処理が課せられる構成となっていた。
【0154】
これに対し、本願発明の測定システム100によれば、検出装置10は、測定部位に対して点ではなく面で検出を行って、面から得られた蛍光スペクトルを、その面上の座標位置ごとに対応付けて管理する。このため、位置情報と合わせて測定結果を2次元可視化画像にしてユーザに提示することが可能となる。ここで、2次元可視化画像において、様々な蛍光物質ごとに様々に異なる蛍光特性に応じて、表示の仕方を変更ことが可能である。例えば、血管に含まれる蛍光物質の有無によって、血管と、血管のない皮膚の領域との区別を行い、表示の仕方を変更することによって、目的の蛍光物質の測定に加えて、血管の形状を可視化することも可能となる。
【0155】
これにより、励起光を照射すべき位置(点)のばらつきを考慮する必要がなくなる上に、測定前の準備段階として、血管可視化のための処理を行う必要がなくなり、当然、血管可視化のための別途の構成部材も不要となる。
【0156】
〔測定フロー〕
図16は、本実施形態における測定システム100の各装置が実施する蛍光物質の測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0157】
図16に示すS201〜S205の各処理は、図11に基づいて既に説明したS101〜S105の各処理と同様に実行される。
【0158】
続いて、本実施形態では、検出器8は、1つの走査線につき番地ごとに蛍光を受光し、番地X(i=1、2、3、・・・、n)ごとに蛍光を分析し、測定データを作成する(S206)。
【0159】
位置情報取得部32は、ステージコントローラ2bから、走査機構1の現在位置に対応する走査位置Yを取得する。検出器制御部31は、作成された、番地ごとのn個の蛍光スペクトルを検出器8から取得する(S207)。
【0160】
S208の処理は、図11のS108の処理と同様に実行される。
【0161】
続いて、蛍光特性管理部33は、検出器8から取得した各蛍光スペクトルから、測定の目的に応じて、必要な特徴量を抽出する(S209)。例えば、蛍光特性管理部33は、「ある蛍光波長における蛍光強度」などを抽出する。
【0162】
そして、蛍光特性管理部33は、各部から取得した、「走査位置Y」と、「番地X」と、「励起光波長」と、自身が上記蛍光スペクトルから抽出した「蛍光波長」と、「蛍光強度」とを関連付けて、蛍光特性データとして蛍光特性データ記憶部40に記憶する(S210)。
【0163】
続いて、S211〜S214の各処理は、図11のS110〜S113の各処理と同様に実行される。
【0164】
さらに続いて、蛍光特性解析部34は、蛍光特性データ記憶部40に記憶されている蛍光特性データに基づいて、X、Y座標ごとの特徴量を4つのクラスに分類した後、X、Y座標で特定される2次元のマップの各セルに、分類したクラスの情報をプロットしてマップ情報を作成する(S215)。
【0165】
続いて、画像生成部35は、蛍光特性解析部34が作成したマップ情報にしたがってこれを、グラフや表として表示部24に表示するための可視化画像(例えば、図15)を生成する(S216)。最後に、表示部24は、画像生成部35が生成した可視化画像を表示する(S217)。
【0166】
上記方法によれば、例えば、図15に示される蛍光物質分布を示す可視化画像が表示部24に表示される。これにより、ユーザは、蛍光物質の分布を把握することができる。例えば、血管に特有の蛍光物質の分布を可視化すれば、血管の形状を可視化することができる。
【0167】
〔変形例〕
本実施形態においても、実施形態1と同様に、蛍光特性解析部34は、波長の異なる2種類の励起光源4を照射することにより得られた2つの蛍光スペクトルを比較し、総合的に分析して、AGEs由来の蛍光物質をより精度良く測定することができる。
【0168】
蛍光特性解析部34は、図16のS215において、さらに、走査位置かつ番地ごとの特徴量(例えば、蛍光波長460nmのときの蛍光強度)について、励起光波長365nmのときに得られたものと、励起光波長405nmのときに得られたものとを比較していく。蛍光特性解析部34は、この比較を走査位置かつ番地ごとに行う。そして、励起光波長が、365nmから405nmに切り換わったことで、45%程度の蛍光強度の低下(ただし、蛍光強度は0には低下しない)が認められた位置情報(X、Y座標)を特定する。そして、蛍光特性解析部34は、45%程度の低下が認められたX、Y座標の蛍光特性データに、AGEs由来の物質が含まれていることを示す情報(値、マーク、フラグなど)を付与し、マップ情報に反映する。
【0169】
画像生成部35は、上記マップ情報に基づいて、図15に示すような2次元の表を生成することに加えて、AGEs物質のフラグが付与されたセルについては、他のセルとは区別されるように色分けしたり強調表示したりするなどして、可視化画像を生成する。
【0170】
このようにして生成された可視化画像を見れば、ユーザは、AGEs由来の蛍光物質の分布を目視で容易に確認することが可能となる。
【0171】
〔変形例2〕
本実施形態では、さらに、蛍光特性解析部34は、複数種類抽出された特徴量を用いて、それぞれについてマップ情報を作成することができる。すなわち、画像生成部35は、可視化画像を、複数種類生成することができる。そして、画像生成部35は、生成した複数の可視化画像を重畳させて、測定対象部位の蛍光物質分布をより高精細に表示させることができる。
【0172】
具体例を用いて説明すると以下のとおりである。蛍光特性解析部34は、まず、蛍光波長420nmにおける蛍光強度に基づいてマップ情報を作成する。これにより画像生成部35が、血管形状を表した可視化画像を生成する。次に、蛍光特性解析部34は、蛍光波長460nmにおける蛍光強度に基づいてマップ情報を作成する。これにより、画像生成部35が、AGEsの蓄積箇所分布を表した可視化画像を生成する。最後に、画像生成部35は、上述の血管形状を表した可視化画像に、上記AGEsの蓄積箇所分布を表した可視化画像を重畳する。すなわち、血管形状とAGEs分布とを1枚の画像で可視化することが可能となる。このような可視化画像を見れば、血管壁のどの位置にどのような状態でAGEsが蓄積されているのかをより正確に把握することが可能となる。特徴量(蛍光波長)を異ならせることによって、血管を可視化したり、AGEsを可視化したりすることが可能になるのは、血管壁に含まれる蛍光物質(エラスチン)と、AGEsとのそれぞれの蛍光特性が異なっているためである。より詳細に説明すれば以下のとおりである。
【0173】
血管壁を構成している組成は、約70%が水分であり、残りの30%がエラスチン、コラーゲン、平滑筋繊維である。ここで、大動脈、それ以外の動脈、静脈ではエラスチンとコラーゲンの組成比が異なる。大動脈ではエラスチンがコラーゲンより最大で約1.5倍多く、それ以外の動脈ではその比が0.5倍程度となり、静脈にいたっては、0.3倍程度となる。
【0174】
つまり、エラスチンの量と存在箇所をエラスチンの蛍光特性に基づいて把握することにより、走査した測定対象部における血管壁の位置および血管の種類(大動脈、動脈、静脈)を可視化することができる。
【0175】
図17は、さまざまな蛍光物質を励起光波長365nmで照射したときの、各蛍光物質の蛍光スペクトルを示す図である。図17に示す蛍光スペクトルのうち、太線Bで示された蛍光スペクトルは、蛍光物質「エラスチン」の蛍光スペクトルを示す。
【0176】
図17に示すとおり、エラスチンの蛍光特性を確認すると、エラスチンは、励起波長が365nmの場合には、蛍光波長が415〜420nmの蛍光を、他の蛍光物質と比較して突出して高い強度で放出することが分かる。したがって、図17に示すエラスチンの蛍光特性を利用して、蛍光波長420nmにおける蛍光強度に基づいてマップ情報を作成することにより、エラスチンの量と存在箇所の分布を明確にすることができる。すなわち、血管壁の位置および血管の種類を可視化することが可能となる。
【0177】
一方、図8は、励起光波長365nmで照射したときの、AGEsの蛍光スペクトルを示す図である。AGEsは、図8に示すとおり、励起波長が365nmの場合には、蛍光波長が450〜460nmの蛍光を、最も高い(ピーク)強度で放出することが分かる。したがって、蛍光波長460nmにおける蛍光強度に基づいてマップ情報を作成することにより、AGEs量と存在箇所の分布を明確にすることができる。すなわち、AGEsの蓄積箇所を可視化することが可能となる。
【0178】
次に、上述のエラスチンおよびAGEsの光特性の違いを利用して、血管壁およびAGEsを可視化するための測定処理の流れについて図18を参照しながら説明する。
【0179】
〔測定フロー〕
図18は、測定システム100の各装置が実施する血管壁およびAGEsを可視化するための測定処理の流れを示すフローチャートである。
【0180】
図18に示すとおり、測定装置9は、まず、操作部23を介して、測定条件、測定目的、被検体情報、測定部位情報など、事前にユーザから入力を受け付けておくべき事前入力情報を受け付ける(S301)。ここでは、「ヒトの前腕における血管位置およびAGEs蓄積量を見る」ための各種測定条件が入力されたとする。
【0181】
そして、操作部23を介して、測定開始の指示信号が入力されると(S302においてYES)、測定装置9は、検出装置10の各部を制御して、窓部3aに静置された測定対象部の蛍光物質を測定する処理を開始する。
【0182】
まず、位置情報取得部32は、走査位置Y(i=1、2、3、・・・、m)を初期化する(S303)。そして、位置情報取得部32は、駆動機構2を制御して、走査機構1を走査位置Yに固定する(S304)。これが、初回の走査であれば、走査機構1は、最初の走査位置に移動させられる。
【0183】
続いて、光源制御部30は、励起光源4の紫外光LED4aを制御して、窓部3aを照射する(S305)。これにより、励起光が窓部3aを介して測定対象部(前腕)に到達し、前腕から照射された蛍光が蛍光導入部5および走査機構1内部の各部を介して検出器8に入射される。そして、本実施形態では、検出器8は、1つの走査線につき番地ごとに蛍光を受光し、番地X(i=1、2、3、・・・、n)ごとに蛍光を分析し、測定データを作成する(S306)。
【0184】
位置情報取得部32は、ステージコントローラ2bから、走査機構1の現在位置に対応する走査位置Yを取得する。検出器制御部31は、作成された、番地ごとのn個の蛍光スペクトルを検出器8から取得する(S307)。
【0185】
続いて、蛍光特性管理部33は、位置情報取得部32および検出器制御部31から、それぞれ、走査位置Y、番地Xおよび蛍光スペクトルを取得する。さらに、蛍光特性管理部33は、光源制御部30から、この測定に際して照射された励起光の波長(365nm)を取得する(S308)。なお、この特定に際して1種類の励起光しか利用しない場合には、この処理は省略されてもよい。
【0186】
続いて、蛍光特性管理部33は、検出器8から取得した各蛍光スペクトルから、測定の目的に応じて、必要な特徴量を抽出する(S309)。ここでは、蛍光特性管理部33は、「蛍光波長420nmにおける蛍光強度」および「蛍光波長460nmにおける蛍光強度」を、それぞれ特徴量として抽出する。
【0187】
そして、蛍光特性管理部33は、各部から取得した、「走査位置Y」と、「番地X」とに、自身が上記蛍光スペクトルから抽出した「蛍光波長420nmにおける蛍光強度」および「蛍光波長460nmにおける蛍光強度」を関連付けて、蛍光特性データとして蛍光特性データ記憶部40に記憶する(S310)。任意で「励起光波長」の情報を併せて記憶してもよい。
【0188】
次に、位置情報取得部32は、すべての走査位置(走査線)について検出を完了したのか、あるいは、未検出の走査線があるのかを判定する(S311)。
【0189】
ここで、まだ、走査が完了していない走査線がある場合には(S311においてYES)、位置情報取得部32は、駆動機構2を制御して、走査位置Yを1つ進めて(S312)、走査機構1を次の走査位置に移動させる(S304)。そして、S305〜S311の処理が、上述と同様の手順で繰り返される。そして、すべての走査位置かつ番地ごとに、特徴量が蛍光特性データ記憶部40に格納される。
【0190】
一方、すべての走査線について走査が完了した場合には(S311においてNO)、蛍光特性解析部34は、蛍光特性データ記憶部40に記憶されている蛍光特性データのうち、特徴量「蛍光波長420nmにおける蛍光強度」に基づいて、蛍光強度クラスをマップにプロットし、マップ情報を作成する(S313)。続いて、画像生成部35は、蛍光特性解析部34が作成したマップ情報にしたがって、血管形状を可視化するための血管可視化画像を生成する(S314)。
【0191】
次に、蛍光特性解析部34は、蛍光特性データ記憶部40に記憶されている蛍光特性データのうち、「蛍光波長460nmにおける蛍光強度」に基づいて、蛍光強度クラスをマップにプロットし、マップ情報を作成する(S315)。続いて、画像生成部35は、蛍光特性解析部34が作成したマップ情報にしたがって、AGEs蓄積位置、および、蓄積形状を可視化するためのAGEs可視化画像を生成する(S316)。
【0192】
画像生成部35は、生成した上記血管可視化画像に上記AGEs可視化画像を重畳させて重畳画像を表示部24に表示する(S317)。
【0193】
図19は、血管可視化画像にAGEs可視化画像を重畳させて生成された重畳画像の一例を示す図である。
【0194】
斜線で覆われた領域190は、血管可視化画像によって可視化された血管および血管壁を示している。網点で覆われた領域191は、AGEs可視化画像によって可視化されたAGEsを示している。図19に示すとおり、位置情報に基づいて両方の可視化画像が重畳されれば、AGEsが、どのような種類の血管のどの位置に、どのような状態で蓄積されているのかが一目見て分かる可視化画像となる。
【0195】
上記方法によれば、例えば、図19に示される重畳可視化画像が表示部24に表示される。これにより、ユーザは、血管形状および血管位置を把握するとともに、AGEsが、どのような種類の血管のどの位置に、どのような状態で蓄積されているのかについて目視で確認することが可能となる。
【0196】
なお、図19に示すとおり、画像生成部35は、走査線(破線)および走査位置の座標(Y)を重畳画像とともに表示してもよい。これにより、ユーザは、AGEsが検出された位置を、より正確に知ることが可能となる。
【0197】
〔応用例〕
上述のように、血管位置を特定する本願発明の測定装置9は、以下のような分野に適用することも可能である。
【0198】
本願発明の測定システム100においては、測定対象部の蛍光強度を面でとらえて、AGEs蓄積箇所を測定することができるようになったので、従来のようにプローブによる照射位置を点で特定する必要がなくなった。そのため、プローブを当てる位置を特定するという目的では、血管の位置を確認する必要はなくなった。
【0199】
しかしながら、他の分野においては、血管の位置を知ることは重要である。例えば、被検体の測定対象部における皮膚全体の蛍光物質(AGEs、コラーゲンなど)を測定したいというニーズがある。皮膚に含まれるAGEs蓄積量を測定すれば、肌の老化度を知ることが可能となる。また、コラーゲン量を測定すれば、肌のハリの度合いを知ることが可能となる。このようなユースケースでは、皮膚よりも強く蛍光が放射される血管内の蛍光物質は、ノイズとなる。
【0200】
これに対し、本発明の測定装置9は、血管位置を特定することができるので、血管に基づく蛍光特性をノイズとして取り除くことができる。よって、皮膚のみの蛍光物質の測定をより精度良く実施することが可能となる。
【0201】
〔変形例〕
上述の各実施形態では、励起光源4および蛍光導入部5を備えた走査機構1を移動させることにより、走査位置を変更する構成について説明したが、本発明の検出装置10の構成はこれに限定されない。例えば、走査機構1を固定した場合には、測定対象部を移動させたり、測定対象部を静置したまま筐体3の上面(窓部3a)を移動させたりする構成とすることにより、走査位置を変更してもよい。筐体3の上面(窓部3a)を移動させる構成の場合、これを移動させるステージコントローラ2bを介して走査位置を把握することができる。
【0202】
測定対象部を移動させる場合には、筐体3上面における窓部3aの外周(遮光部3b)に圧力センサなどを設けて走査位置を論理的に把握することが考えられる。例えば、筐体3上面の遮光部3bに、測定対象部(腕など)が乗ることによって位置が特定される。この圧力センサが、腕の移動方向に対して複数個設けられていることにより、腕を動かす速度、走査位置を把握することができる。あるいは、圧力センサの代わりに光センサを設けてもよい。光センサの光源から発光される赤外線に基づいて、筐体3に置かれた測定対象部の形状を検知し、測定対象部の移動に伴って走査位置を把握してもよい。
【0203】
また上述の各実施形態では、駆動機構2は、走査機構1をY軸の1方向のみ移動させるものとして記載したが、これに限定されず、駆動機構2は、走査機構1をX軸、Y軸の2方向にて任意の位置に移動させるものであってもよい。この場合、走査機構1がX、Y座標で特定される点ごとに検出を繰り返して座標ごとの測定データを検出器制御部31に供給する。一方、位置情報取得部32は、位置情報として、走査位置(Y座標)および番地(X座標)をステージコントローラ2bから取得する。このような構成によっても、測定対象部を面で測定することが可能となる。
【0204】
〔変形例〕
上述の各実施形態では、検出器8は、ライン上の各CCDが窓部3aの座標に対応する番地(X座標値)を保持しており、各波長(例えばR、G、B)のフォトセルが5400個並んでいる構成であることが想定される。したがって、検出器8は、窓部3aから反射された蛍光のX座標位置を正確に対応付けることが可能である。
【0205】
測定対象部(例えば、腕)の外形の可視化画像を得るために、可視光LED4bではなく、紫外光LED4aを用いてもよい。図20は、紫外光LED4aを測定対象部(掌および手首)に照射することによって得られた測定対象部外形の可視化画像を示す図である。検出器8が、R、G、Bすべての光を可視化すると、血管など特定波長の蛍光を可視化する代わりに、図20に示すとおり、測定対象部の外形を可視化することができる。
【0206】
さらに、血管はエラスチンとコラーゲンから出来ており、これらの蛍光は、AGEsやNADHの蛍光波長とは、もともとずれている。したがって、検出された蛍光について、波長を細かく設定して、波長ごとの光特徴量抽出を行えば、血管像やAGEs蓄積像を2次元の可視化画像として取得することができる。
【0207】
上述の各実施形態では、走査機構1と測定対象物との相対位置を動かすことにより、Y座標位置に関連付けた蛍光スペクトルを取得する構成であったが、走査機構1を駆動せずに(走査機構1と測定対象物との相対位置を固定して)測定対象物の多点蛍光検出を実施してもよい。
【0208】
この場合、相対位置が固定されているので、検出器8から出力されるX座標の位置情報のみに基づいて、測定装置9において蛍光スペクトルの分析が行われる。例えば、検出器8のあるフォトセルに入った信号のうち、最も蛍光強度の強いものから上位10点を平均化し、これをAGEsの蛍光強度として出力してもよい。
【0209】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0210】
最後に、測定装置9の各ブロック、特に、蛍光特性管理部33および蛍光特性解析部34は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0211】
すなわち、測定装置9は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである測定装置9の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記測定装置9に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0212】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0213】
また、測定装置9を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを、通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
【0214】
なお、本発明は、以下のようにも表現できる。
【0215】
すなわち、本発明は、生体に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が生体に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備えたセンシング機構を走査し、検出された蛍光は各走査位置での情報として可視化することを特徴とする測定装置である。
【0216】
本発明に係る測定装置は、上記の課題を解決するために、生体に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が生体に照射されることによって生じる蛍光を位置情報として受光する受光部とを備えたセンシング機構を走査できることを特徴としている。上記の構成によれば、位置情報に基づいた生体情報を可視化することが可能となり、測定部位や測定位置で異なる挙動を示す生体内蛍光物質の検出が二次元情報として得られる。この蛍光情報には蛍光強度、検出された波長の情報、その半値幅といった物質に由来する物性情報が含まれているのは周知の通りである。この機構を利用することで、測定対象部を撮像する撮像装置、例えば、CCD(Charge Coupled Devices)カメラまたはCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)カメラなどを利用することなく、血管でのAGEsの検出箇所の可視化が可能となる。例えば腕、手首、耳朶、指尖、掌、頬等においては、その検出位置に血管が存在することで、血管がない位置よりも蛍光強度が高まることが実験により確認されている。よってその強度情報を可視化することで、各組織における血管の形状が可視化され、その可視化された血管の特定の場所で、特定AGEsに由来した蛍光強度が確認された場合、AGEsの蓄積箇所もモニタリングすることが可能となる。
【0217】
また、体表面を走査されて得られた蛍光情報の中から、ある面積での蛍光強度を平均化することや、高値の数点をサンプリングする信号処理技術により、測定誤差に対するばらつきを低減できる効果も備え持つ。
【0218】
上記測定装置は、上記励起光を照射する励起光照射部が、少なくとも2種類以上の励起光源を備えており、それぞれの光源で得られた蛍光スペクトルを元に得られた画像を重ね合わせることを特徴とする。また、上記励起光は、種々のAGEsを測定するために二種以上の光源を備えていることが好ましい。
【0219】
上記の構成により、AGEsと生体内蛍光分子である還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)と分離して測定できる。AGEsは励起光365nmで検出した場合と、405nmで励起した場合を比較すると、励起光が長波長化することにより、約45%程度の蛍光強度の低下が見られるが、生体内蛍光分子として有名なNADHは励起光405nmで励起した場合、同一条件ではほとんど蛍光が検出されなかった。NADHは通常340nmの紫外線を良く吸収することが知られており、励起光を切り替えることでAGEsとその他のバックグラウンドを分離することが可能である。この分離も上記の機構を利用し、それぞれの光源、(例えば365nmと405nm)とを切替ながらセンシング機構を走査することで、一度の走査で2種類の画像が得られ、その画像を比較することでより正確にAGEsの存在箇所を可視化することが可能となる。
【0220】
上記励起光は、後期糖化反応生成物を測定するために適した波長範囲を有していることが好ましい。
【0221】
上記の構成により、後期糖化反応生成物を測定できる。後期糖化反応生成物の測定に適した波長の励起光を測定対象に照射した場合には、励起光を照射する位置によって得られる蛍光強度が大きく異なることを本発明の発明者が見出した。そのため、後期糖化反応生成物を測定する測定装置として本発明を実現することは有用である。
【産業上の利用可能性】
【0222】
本発明の測定装置によれば、別途の可視化機構を必要とすることなく、また、測定機会ごとの照射位置のばらつきを憂慮することなく、従来の技術では成し得なかった、誰もが手軽に、且つ精度良く使用できる測定装置を実現させることができる。本発明の測定装置は、来るべき予防医療社会において、在宅で健康状態を手軽にモニタリングするための健康状態モニタリング装置に好適に用いることができる。特に、循環器疾患に対する予防医療のニーズは高く、血管壁に蓄積し、動脈硬化などの要因となるAGEsを簡易にモニタリングできる本願発明の測定装置は、成人病予防機器、スキンケアモニタリング機器として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0223】
1 走査機構
2 駆動機構
2a 電動ステージ
2b ステージコントローラ
3 筐体
3a 窓部
3b 遮光部
4 励起光源(励起光照射部)
4a 紫外光LED(励起光照射部)
4b 可視光LED(励起光照射部)
5 蛍光導入部(受光部)
6 導光部(受光部)
7 レンズ(受光部)
8 検出器(受光部)
9 測定装置
10 検出装置
20 制御部
21 記憶部
22 通信部
23 操作部
24 表示部
30 光源制御部
31 検出器制御部(測定データ取得手段)
32 位置情報取得部(位置情報取得手段)
33 蛍光特性管理部(蛍光特性管理手段)
34 蛍光特性解析部(蛍光特性解析手段)
35 画像生成部(画像生成手段)
40 蛍光特性データ記憶部
100 測定システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象部に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備える走査機構から、上記蛍光の光特性を示す測定データを取得する測定データ取得手段と、
上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構から、上記測定データが得られた際に上記測定対象部において上記励起光が照射された照射位置を示す位置情報を取得する位置情報取得手段と、
上記測定データ取得手段によって取得された測定データと、上記位置情報取得手段によって取得された位置情報とを含む蛍光特性データを生成する蛍光特性管理手段と備えていることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
上記蛍光特性管理手段は、上記相対位置が変更される度に、
当該相対位置に対応する位置情報ごとに上記蛍光特性データを生成することを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
上記蛍光特性データに含まれる上記位置情報に基づいて上記測定データをマップにプロットすることによりマップ情報を生成する蛍光特性解析手段と、
上記マップ情報を表示部に表示するための可視化画像を生成する画像生成手段とを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の測定装置。
【請求項4】
上記蛍光特性データに含まれる位置情報は、
上記測定対象部における照射位置のY座標を特定するための1次元情報であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
上記蛍光特性データに含まれる位置情報は、
上記測定対象部における照射位置のX座標およびY座標を特定するための2次元情報であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
上記励起光照射部は、励起波長が異なる複数種類の光源を含み、
上記測定データ取得手段は、励起波長ごとに異なる測定データを取得し、
上記蛍光特性管理手段は、上記位置情報および上記励起波長ごとに、上記蛍光特性データを生成することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
上記蛍光特性データに含まれる上記位置情報に基づいて上記測定データをマップにプロットすることにより、上記励起波長ごとにマップ情報を生成する蛍光特性解析手段と、
上記マップ情報を表示部に表示するための可視化画像を生成する画像生成手段とを備え、
上記蛍光特性解析手段は、
各蛍光特性データについて、位置情報ごとに、第1の励起波長に対応付けられた測定データと、第2の励起波長に対応付けられた測定データとを比較し、比較結果が所定の条件を満たす測定データである旨を示す情報を、プロットされた測定データに付与し、
上記画像生成手段は、
上記情報が付与された測定データが強調表示されるように可視化画像を生成することを特徴とする請求項6に記載の測定装置。
【請求項8】
上記第1の励起波長、および、上記第2の励起波長は、それぞれ、後期糖化反応生成物を測定するために適した波長範囲を有することを特徴とする請求項7に記載の測定装置。
【請求項9】
上記第1の励起波長は365nm、上記第2の励起波長は405nmであることを特徴とする請求項8に記載の測定装置。
【請求項10】
上記蛍光特性管理手段は、上記測定データから、特定蛍光波長における蛍光強度を特徴量として抽出し、
上記位置情報と上記特徴量とを含む蛍光特性データを生成することを特徴とする請求項1から9までのいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項11】
上記蛍光特性データに含まれる上記位置情報に基づいて上記特徴量をマップにプロットすることにより、上記蛍光波長ごとにマップ情報を生成する蛍光特性解析手段と、
上記マップ情報を表示部に表示するための可視化画像を生成する画像生成手段とを備え、
上記画像生成手段は、
第1の蛍光波長における蛍光強度を示す第1の特徴量に基づくマップ情報と、第2の蛍光波長における蛍光強度を示す第2の特徴量に基づくマップ情報とを重ね合わせて上記可視化画像を生成することを特徴とする請求項10に記載の測定装置。
【請求項12】
上記励起光照射部の励起波長、ならびに、上記第1の蛍光波長および上記第2の蛍光波長は、それぞれ、血管内に存在する後期糖化反応生成物の測定および位置の特定のために適した波長範囲を有することを特徴とする請求項11に記載の測定装置。
【請求項13】
上記励起波長は365nm、上記第1の蛍光波長は420nm、上記第2の蛍光波長は460nmであることを特徴とする請求項12に記載の測定装置。
【請求項14】
測定対象部に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備える走査機構と、
上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構と、
上記走査機構および上記駆動機構と通信する請求項1から13までのいずれか1項に記載の測定装置とを含むことを特徴とする測定システム。
【請求項15】
測定対象部に対して励起光を照射する励起光照射部と、上記励起光が上記測定対象部に照射されることによって生じる蛍光を受光する受光部とを備える走査機構から、上記蛍光の光特性を示す測定データを取得する測定データ取得ステップと、
上記走査機構と上記測定対象部との相対位置を制御する駆動機構から、上記測定データが得られた際に上記測定対象部において上記励起光が照射された照射位置を示す位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
上記測定データ取得ステップにて取得された測定データと、上記位置情報取得ステップにて取得された位置情報とを含む蛍光特性データを生成する蛍光特性管理ステップとを含むことを特徴とする測定方法。
【請求項16】
コンピュータを、請求項1から13までのいずれか1項に記載の測定装置の各手段として機能させるための制御プログラム。
【請求項17】
請求項16に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−58104(P2012−58104A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202209(P2010−202209)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】