説明

測定装置において信号間の位相関係を調整する方法、および、測定装置

【課題】掃引ヘテロダイン方式の測定装置において、被測定信号以外の信号の入力および手動の位相調整なしに、バースト状の変調信号を測定するための技術を提供する。
【解決手段】
周波数掃引信号源と乗算器とを具備する掃引ヘテロダイン方式の周波数変換器を有する測定装置であって、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を停止した状態で、前記周波数変換器により周波数変換された被測定バースト信号のタイミングを検出する手段と、周期的パルス信号を発生する手段と、前記検出されたタイミングを用いて、前記パルス信号と前記被測定バースト信号との位相関係を調整する手段と、前記位相関係が調整されたパルス信号を用いて、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を掃引する手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掃引ヘテロダイン方式の測定装置において、バースト信号を測定するための技術に関する。なお、掃引ヘテロダイン方式の測定装置は、入力される被測定信号を異なる周波数に変換し測定する装置であって、周波数変換のために用いられる局部信号の周波数が掃引されるものである。
【背景技術】
【0002】
スペクトラム・アナライザのような掃引ヘテロダイン方式の測定装置で、バースト状の信号を測定する場合、そのバースト状の信号が存在する時間的な位置を知る必要がある。それは、バースト状の信号が存在する期間のみ、局部信号の周波数掃引および被測定信号の測定を行うためである。以下、バースト状の信号を単にバースト信号と称する。バースト信号が存在する時間的な位置を知るための従来の典型的な方法は、以下の3つである。
【0003】
第一の方法は、測定装置の外部から、バースト信号が存在する時間的な位置を知らせる信号を測定装置に与える方法である(例えば、特許文献1、特許文献2および非特許文献1を参照。)。この場合、測定装置は、与えられた信号に同期して、局部信号の周波数掃引および周波数変換された被測定信号の測定を行う。例えば、外部信号が論理レベルH(ハイ)の時に周波数掃引と測定を行う、外部入力信号が論理レベルL(ロー)の時に周波数掃引と測定を停止する。
【0004】
第二の方法は、バースト信号が繰り返している場合に、測定装置に繰り返し信号を生成させる方法である(例えば、特許文献3を参照)。この場合、測定装置は、自身が生成した繰り返し信号に同期して、局部信号の周波数掃引および周波数変換された被測定信号の測定を行う。
【0005】
第三の方法は、被測定信号に基づいて測定装置に、単一周波数を有するバースト信号が存在する時間的な位置を検出させる方法である(特許文献4を参照。)。より詳細に説明すると、測定装置は、入力された被測定信号を周波数変換し、分解能帯域幅を決定するIFフィルタで周波数変換結果を濾波し、濾波結果を包絡線検波し、最後に検波結果に波形整形を施す。これにより、バースト信号が存在する時間的な位置を示す矩形波信号が得られる。測定装置は、その矩形波信号に同期して、局部信号の周波数掃引および周波数変換された被測定信号の測定を行う。
【0006】
【特許文献1】特開平5−60809号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】実開平6−342022号公報(第2〜3頁、図2)
【特許文献3】実開平4−106771号公報(図1、図2)
【特許文献4】実開平7−14389号公報(図1、図2、図3)
【非特許文献1】”オペレーティング・サービス・ガイド アジレント・テクノロジーズ85902A バースト・キャリア・トリガ/RFプリアンプ(Operating and Service Guide Agilent technologies 85902A Burst Carrier Trigger and RF Preamplifier)”,米国,アジレント・テクノロジーズ・インク(Agilent technologies, Inc.),2000年1月,p.36−37
【非特許文献2】R.A.ウィッテ(Robert A. Witte)著,小畑喜一 監訳竹田輝夫、荒井信隆 訳,”スペクトラム/ネットワーク・アナライザ:理論と計測(Spectrum and Network Measurements)”,初版,株式会社トッパン,1993年11月25日,p.96−99
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、第一の方法は、被測定信号を出力する装置から、バースト信号が存在する時間的な位置を知らせる信号が提供されない場合、採用できない。また、第二の方法は、測定装置が生成する繰り返し信号の位相とバースト信号の位相とを一致させるために、それらの位相を手動で調整することを要するか、位相を調整させるための外部信号を測定装置に入力することを要する。また、測定装置が生成する繰り返し信号の周波数とバースト信号の周波数とに差がある場合、同期状態が短時間しか維持されない。さらに、第三の方法は、バースト状の変調信号に適さない。なお、変調信号とは変調された信号をいう。変調信号は、単一周波数信号よりも広い帯域幅を占有する。その変調信号が占有する帯域が、分解能帯域幅を決定するIFフィルタの帯域内にない場合、IFフィルタを通過した変調信号は歪む。その結果、上記の矩形波信号は、バースト信号が存在する時間的な位置を正確に表さなくなる。
【0008】
そこで、本発明は、掃引ヘテロダイン方式の測定装置において、被測定信号以外の信号の入力も手動の位相調整もなしに、バースト状の変調信号を測定するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本第一の発明は、周波数掃引信号源と乗算器とを具備する掃引ヘテロダイン方式の周波数変換器を有する測定装置において、被測定バースト信号と前記測定装置内で生成される周期的パルス信号との位相関係を調整する方法であって、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を停止する第一のステップと、前記周波数変換器により周波数変換された前記被測定バースト信号のタイミングを検出する第二のステップと、前記検出されたタイミングを用いて、前記パルス信号と前記被測定バースト信号との位相関係を調整する第三のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0010】
本第二の発明は、本第一の発明の方法において、前記第三のステップが、前記検出されたタイミングに応答して前記パルス信号の生成を開始するステップを含むことを特徴とするものである。
【0011】
本第三の発明は、本第一の発明の方法において、前記第三のステップが、前記検出されたタイミングと前記パルス信号との時間差に応じて、前記パルス信号または前記被測定バースト信号または前記変換された前記被測定バースト信号に遅延を与えるステップを含むことを特徴とするものである。
【0012】
本第四の発明は、本第一の発明、本第二の発明、または本第三の発明のいずれかの方法において、前記第一のステップが、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を、前記被測定バースト信号の中心周波数に対応する周波数で停止するステップを含むことを特徴とするものである。
【0013】
本第五の発明は、本第一の発明、本第二の発明、本第三の発明、または本第四の発明のいずれかの方法において、前記第三のステップが、測定周波数範囲の一掃引ごとに実施されることを特徴とするものである。
【0014】
本第六の発明は、周波数掃引信号源と乗算器とを具備する掃引ヘテロダイン方式の周波数変換器を有する測定装置であって、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を停止した状態で、前記周波数変換器により周波数変換された被測定バースト信号のタイミングを検出する手段と、周期的パルス信号を発生する手段と、前記検出されたタイミングを用いて、前記パルス信号と前記被測定バースト信号との位相関係を調整する手段と、前記位相関係が調整されたパルス信号を用いて、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を掃引する手段を備えることを特徴とするものである。
【0015】
本第七の発明は、本第六の発明の方法において、前記位相関係調整手段が、前記検出されたタイミングに応答して、前記パルス信号発生手段に前記パルス信号の生成を開始させることにより、前記位相関係を調整することを特徴とするものである。
【0016】
本第八の発明は、本第六の発明において、前記位相関係調整手段が、前記パルス信号と前記検出されたタイミングとの時間差に応じて、前記パルス信号または前記被測定バースト信号または前記変換された前記被測定バースト信号に遅延を与えることにより、前記位相関係を調整することを特徴とするものである。
【0017】
本第九の発明は、本第六の発明、本第七の発明、または本第八の発明のいずれかの方法において、前記タイミング検出手段が、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を、前記被測定バースト信号の中心周波数に対応する周波数で停止した状態で、周波数変換された被測定バースト信号のタイミングを検出することを特徴とするものである。
【0018】
本第十の発明は、本第六の発明、本第七の発明、本第八の発明、または本第九の発明のいずれかの方法において、前記位相関係調整手段が、測定周波数範囲の一掃引ごとに前記位相関係を調整することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、掃引ヘテロダイン方式の測定装置において、被測定信号以外の信号の入力も手動の位相調整もなしに、バースト状の変調信号中の任意の部分を、従来に比べて正確に捉えて測定できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施の形態を、添付の図面を参照しながら、以下に説明する。ここで、図1を参照する。図1は、本発明の第一の実施形態であるスペクトラム・アナライザ10の内部構成を示す図である。まず、スペクトラム・アナライザ10の内部構成について説明する。
【0021】
図1において、スペクトラム・アナライザ10は、入力端子100と、フィルタ110と、ミキサ120と、周波数掃引信号源130と、フィルタ140と、フィルタ150と、検波器160と、ビデオフィルタ170と、出力装置180と、タイミング検出器190と、ゲート信号発生器200と、掃引信号発生器210と、制御装置220とを備える。
【0022】
入力端子100は、被測定信号SRFを受信する端子である。本形態では、被測定信号SRFとして、バースト状の変調信号を受信するものとする。フィルタ110は、ローパスフィルタまたはバンドパスフィルタからなり、少なくともイメージ・フィルタとして作用する。フィルタ110は、被測定信号SRFを濾波し、濾波結果SRFFを出力する。ミキサ120は、乗算器として作用する。ミキサ120は、フィルタ110の出力信号SRFFと、周波数掃引信号源130の出力信号SLOとを乗じ、乗算結果SIF1を出力する。乗算結果SIF1には、信号SRFFと信号SLOとの和周波数成分および差周波数成分が含まれている。フィルタ140は、それらの一方の周波数成分を通過させ、もう一方の周波数成分を遮断するフィルタである。本明細書において、フィルタ140は、差周波数成分を通過させ且つ和周波数成分を遮断するローパスフィルタまたはバンドパスフィルタとする。従って、ミキサ120と周波数掃引信号源130とフィルタ140との組は、ダウンコンバータとして作用する。
【0023】
フィルタ150は、スペクトラム・アナライザ10の周波数分解能を決定するフィルタである。以下、周波数分解能を決定するフィルタを、分解能帯域幅フィルタと称する。なお、フィルタ140およびフィルタ150は、IFフィルタとも称される。フィルタ150の出力信号SIF3は、検波器160により検波され、さらにビデオフィルタ170により時間的に平均化され、出力装置180へ供給される。周知のとおり、ビデオフィルタ170の出力信号mは、被測定信号SRFをスペクトラム解析した結果を表している。被測定信号SRFの出力装置180は、測定結果mを出力する装置である。出力装置180は、例えば、ディスプレイ、プリンタ、または、ネットワークなどである。なお、出力装置180に代えて、または、出力装置180に加えて、測定結果mを保持するための記憶装置(不図示)が備えられても良い。また、必要に応じて、検波器160の前または後に、対数増幅回路(不図示)を挿入することもできる。
【0024】
タイミング検出器190は、フィルタ140の出力信号SIF2から、バースト信号が存在する時間的な位置を検出する装置である。タイミング検出器190は、フィルタ140の出力信号SIF2を包絡線検波し、検波結果を所定レベルと比較することにより、バースト信号が存在する時間的な位置を示す信号aを生成する。なお、この所定レベルは、スペクトラム・アナライザ10の使用者によって任意に設定される。さて、生成された信号aは、タイミング検出器190からゲート信号発生器200へ供給される。本明細書では、タイミング検出器190において、2値信号が生成され出力されるものとする。また、その2値信号の論理レベルは、バースト信号が存在するときハイ(H)であり、バースト信号が存在しないときロー(L)であるものとする。なお、タイミング検出器190における検波方式は、その検波結果によりフィルタ140の出力信号SIF2の電力レベル変化が認識できるものであれば、他の検波方式であっても良い。例えば、実効値検波などが採用しうる。また、バースト信号が存在する時間的な位置を示すために、論理レベルに代えてエッジを用いても良い。
【0025】
ゲート信号発生器200は、信号aに応じて、周期的な2値パルス信号であるゲート信号bを生成する装置である。掃引信号発生器210は、周波数掃引信号源130の出力信号SLOの周波数fLOを制御するための信号cを生成する装置である。つまり、掃引信号発生器210は、周波数掃引信号源130に対して制御装置として作用する。周波数掃引信号源130は、入力信号のレベルに応じて、出力信号SLOの周波数を変える。本明細書では、周波数掃引信号源130への入力信号レベルが大きくなるにつれて周波数fLOが高くなり、同入力信号レベルが小さくなるにつれて周波数fLOが低くなるものとする。掃引信号発生器210の出力信号cのレベルは、周波数fLOが所定の周波数範囲を掃引するように、所定のレベル範囲を掃引する。本実施形態では、出力信号cのレベルは、ゲート信号bの論理レベルがハイ(H)のときに掃引し、ゲート信号bの論理レベルがロー(L)のときに一定となるものとする。つまり、ゲート信号bの論理レベルがハイ(H)のときに周波数fLOも掃引し、ゲート信号bの論理レベルがロー(L)のときに周波数fLOも一定となる。なお、信号cは、ディジタル信号でもアナログ信号でも良い。制御装置220は、スペクトラム・アナライザ10の各構成要素を制御する装置である。図1において、制御装置220とスペクトラム・アナライザ10の各構成要素との間の制御線の一部は、省略されている。
【0026】
次に、スペクトラム・アナライザ10において、バースト信号を測定する手順について、説明する。ここで、図1に加えて、図2を参照する。図2は、信号SIF2と、信号aと、信号bと、信号cとについてのタイミング・チャート例を示す図である。図2において、タイミング・チャートの縦軸はレベルを表し、横軸は時間を表す。
【0027】
始めに、信号SIF2に含まれるバースト信号とゲート信号bとの位相を合わせる。具体的には、まず、制御装置220の制御により、周波数掃引信号源130の出力信号SLOの周波数掃引を停止する。このとき、信号SLOの周波数fLOは、被測定信号SRFの中心周波数に対応する周波数に固定される。また、掃引信号発生器210の出力信号cは、被測定信号SRFの中心周波数に対応するレベルccenterに固定されている。なお、本実施形態では、被測定信号SRFの中心周波数は、被測定信号SRFをスペクトラム解析するために事前に指定された測定周波数範囲の中心周波数と同一とする。例えば、スペクトラム・アナライザ10の測定周波数範囲が1GHzから3GHzまでの間であり、フィルタ150の中心周波数が10MHzである場合には、信号SLOの周波数fLOは、(1GHz−10MHz)から(3GHz−10MHz)までの間で掃引される。従って、この場合、信号SLOの周波数fLOは、(2GHz−10MHz)に固定される。
【0028】
信号SLOの周波数fLOが固定された後、被測定信号SRFとゲート信号bとの位相関係を調整する。具体的には、制御装置220の制御により、ゲート信号発生器200は、信号SIF2のポジティブ・エッジに応答して、周期的な2値パルス信号の生成を開始することにより、ゲート信号bを信号SIF2に同期させる。図2に示すように、それまでのゲート信号bのタイミングを無視して、信号SIF2のポジティブ・エッジに応答して、周期的な2値パルス信号の生成が新たに開始されている。なお、周期的な2値パルス信号のパラメータは、WiMaxなどの規格に準拠した値または任意の値が事前に設定されている。本実施形態では、信号発生の開始直後に論理レベル・ハイ(H)が期間Tだけ出現し、それに続けて論理レベル・ロー(L)が期間Tだけ出現するように、パルス信号のパラメータが与えられているものとする。期間Tは、信号SIF2中のバーストの継続時間に等しく、(T+T)は、信号SIF2のバーストの繰り返し周期に等しい。ゲート信号発生器200は、一旦同期すると、次に制御装置220によって制御されるまで、所与のパラメータに従って、2値パルスを繰り返し生成する。
【0029】
最後に、被測定信号SRFを測定する。ゲート信号bが信号SIF2に同期された後、制御装置220の制御により、掃引信号発生器210は、信号cのレベルを掃引し始める。そのレベル掃引は、被測定信号SRFをスペクトラム解析するために事前に指定された測定周波数範囲に対応するレベル範囲において実施される。すなわち、レベル掃引は、測定周波数範囲の一方の端に対応する掃引開始レベルcstartから、測定周波数範囲のもう一方の端に対応する掃引終了レベルcstopまでの間で行われる。また、掃引信号発生器210の出力信号cのレベルは、前述の通り、ゲート信号bの論理レベルに応じて掃引される。従って、ゲート信号bの論理レベルがハイ(H)である間、信号SLOの周波数fLOが掃引され、且つ、スペクトラム解析結果mが出力装置180に反映される。このようにして、被測定信号SRFのバースト部分についてのスペクトラム解析結果が得られる。
【0030】
より高精度な測定を実施するという観点では、被測定信号SRFとゲート信号bとの位相関係の調整は、少なくとも測定周波数範囲全体を一掃引するごとに、繰り返し実施されることが望ましい。そこで、本実施形態では、信号cのレベルが掃引終了レベルcstopに到達するたびに、信号cのレベルの掃引開始レベルcstartからの新たな掃引が開始される前に、少なくとも1回、ゲート信号bの同期が行われる。第一の実施形態についての説明は、以上である。
【0031】
次に、本発明の他の実施形態を、添付の図面を参照しながら、以下に説明する。ここで、図3を参照する。図3は、本発明の第二の実施形態であるスペクトラム・アナライザ20の内部構成を示す図である。スペクトラム・アナライザ20は、ゲート信号の同期の仕組みが、スペクトラム・アナライザ10と異なる。図3において、図1と同一の要素については、同じ参照番号を付して、詳細な説明を省略する。まず、スペクトラム・アナライザ20の内部構成について説明する。
【0032】
スペクトラム・アナライザ20は、ゲート信号発生器200、掃引信号発生器210および制御装置220の代わりに、ゲート信号発生器205、掃引信号発生器215、制御装置225および遅延器230を備える。
【0033】
ゲート信号発生器205は、周期的な2値パルス信号であるゲート信号vを生成する装置である。周期的な2値パルス信号のパラメータは、WiMaxなどの規格に準拠した値または任意の値が事前に設定されている。本実施形態では、信号発生の開始直後に論理レベル・ハイ(H)が期間Tだけ出現し、それに続けて論理レベル・ロー(L)が期間Tだけ出現するように、パルス信号のパラメータが与えられているものとする。遅延器230は、ゲート信号vに遅延を付加する装置である。ゲート信号vが遅延された結果であるゲート信号wは、掃引信号発生器215へ供給される。掃引信号発生器215は、周波数掃引信号源130の出力信号SLOの周波数fLOを制御するための信号xを生成する装置である。掃引信号発生器215の出力信号xのレベルは、周波数掃引信号源130の出力信号SLOの周波数fLOが所定の周波数範囲を掃引するように、所定のレベル範囲を掃引する。つまり、掃引信号発生器215は、周波数掃引信号源130に対して制御装置として作用する。本実施形態では、出力信号xのレベルは、ゲート信号wの論理レベルがハイ(H)のときに掃引し、ゲート信号wの論理レベルがロー(L)のときに一定となるものとする。なお、信号xは、ディジタル信号でもアナログ信号でも良い。制御装置225は、スペクトラム・アナライザ20の各構成要素を制御する装置である。図3において、制御装置225とスペクトラム・アナライザ20の各構成要素との間の制御線の一部は、省略されている。
【0034】
次に、スペクトラム・アナライザ20において、バースト信号を測定する手順について、説明する。ここで、図3に加えて、図4を参照する。図4は、信号SIF2と、信号aと、信号vと、信号wと、信号xとについてのタイミング・チャート例を示す図である。図4において、タイミング・チャートの縦軸はレベルを表し、横軸は時間を表す。
【0035】
始めに、信号SIF2に含まれるバースト信号とゲート信号vとの位相を合わせる。具体的には、まず、制御装置225の制御により、周波数掃引信号源130の出力信号SLOの周波数掃引を停止する。このとき、信号SLOの周波数fLOは、被測定信号SRFの中心周波数に対応する周波数に固定される。また、掃引信号発生器215の出力信号xは、被測定信号SRFの中心周波数に対応するレベルccenterに固定されている。なお、本実施形態では、被測定信号SRFの中心周波数は、被測定信号SRFをスペクトラム解析するために事前に指定された測定周波数範囲の中心周波数と同一とする。
【0036】
信号SLOの周波数fLOが固定された後、被測定信号SRFとゲート信号wとの位相関係を調整する。具体的には、制御装置225の制御により、遅延器230は、ゲート信号vに遅延を付加することによりゲート信号wを信号SIF2に同期させる。このとき、たとえば、出力信号aおよびゲート信号vに基づいて、出力信号aの位相とゲート信号wの位相とが一致するような遅延が決定され、決定された遅延がゲート信号vに付加される。遅延器230は、出力信号aの位相とゲート信号wの位相とが一旦同期した後は、次に制御装置225によって制御されるまで、同じ遅延をゲート信号vに与え続ける。
【0037】
最後に、被測定信号SRFを測定する。ゲート信号wが信号SIF2に同期された後、制御装置225の制御により、掃引信号発生器215は、レベル掃引を開始する。そのレベル掃引は、被測定信号SRFをスペクトラム解析するために事前に指定された測定周波数範囲に対応するレベル範囲において実施される。すなわち、レベル掃引は、測定周波数範囲の一方の端に対応する掃引開始レベルcstartから、測定周波数範囲のもう一方の端に対応する掃引終了レベルcstopまでの間で行われる。掃引信号発生器215の出力信号xのレベルは、ゲート信号wの論理レベルに応じて掃引される。従って、ゲート信号wの論理レベルがハイ(H)である間、信号SLOの周波数fLOが掃引され、且つ、スペクトラム解析結果mが出力装置180に反映される。このようにして、被測定信号SRFのバースト部分についてのスペクトラム解析結果が得られる。
【0038】
より高精度な測定を実施するという観点では、被測定信号SRFとゲート信号wとの位相関係の調整は、少なくとも測定周波数範囲全体を一掃引するごとに、繰り返し実施されることが望ましい。そこで、本実施形態では、信号xのレベルが掃引終了レベルcstopに到達するたびに、信号xのレベルの掃引開始レベルcstartからの新たな掃引が開始される前に、少なくとも1回、ゲート信号vに付加する遅延の決定が行われる。
【0039】
第二の実施形態では、ゲート信号wと信号SIF2との位相関係を調整できれば良い。従って、ゲート信号vに遅延を付加することに代えて、信号SRF、信号SRFFや信号SIF2などの被測定信号に遅延を付加するようにしても良い。また、ゲート信号vおよび被測定信号の両方に遅延を付加するようにしても良い。第二の実施形態についての説明は、以上である。
【0040】
さて、第一の実施形態および第二の実施形態は、以下のような変形が可能である。まず、第一の実施形態および第二の実施形態では、信号SIF2のバースト部分の全体を測定するべく、パルス信号のパラメータとして、バーストの継続時間に等しい期間Tが与えられている。第一の実施形態または第二の実施形態において、信号SIF2のバースト部分の特定の一部を測定するために、論理レベル・ハイ(H)が継続する期間がTより短くなるように、信号パラメータを与えることもできる。この場合、信号bまたは信号wの論理レベル・ハイ(H)の部分が当該特定の一部に対応するように、ゲート信号発生器200における信号発生のタイミングや遅延器230において付加される遅延が調整される。もちろん、その場合にも、信号SLOの周波数掃引が停止した状態で検出された、バースト信号が存在する時間的な位置が基準となる。
【0041】
また、第一の実施形態および第二の実施形態では、信号SIF2中においてバースト信号が存在する時間的な位置を検出している。バースト信号の変調帯域をフィルタ150の帯域が包含する場合には、信号SIF3や検波器160の出力信号に基づいて、バースト信号が存在する時間的な位置を検出することもできる。その場合、例えば、図1に示すスペクトラム・アナライザ10は、図5に示すスペクトラム・アナライザ30のように変形される。図5において、ゲート信号発生器200に供給される信号dは、比較器240が検波器160の出力信号を所定レベルと比較することにより生成される。なお、この所定レベルは、スペクトラム・アナライザ30の使用者によって任意に設定される。また、図1に示すタイミング検出器における検波方式と、検波器160の検波方式とが同一である場合、信号dは実質的に同一となる。バースト信号を測定する手順は、信号aが信号dに置き換わること以外は、スペクトラム・アナライザ10における手順と同様である。
【0042】
さらに、第一の実施形態および第二の実施形態では、フィルタ140の通過帯域を被測定バースト信号SRFの帯域まで狭くすることができる。バーストのタイミング検出時に信号SLOの周波数fLOを被測定バースト信号SRFの中心周波数に対応する周波数で停止するので、フィルタ140の通過帯域を狭くしても、信号SIF2のバースト波形は歪まない。これにより、信号SIF2に含まれる雑音成分を抑制することができ、バーストタイミングの検出精度が高まる。
【0043】
またさらに、上記の実施形態において、スペクトラム・アナライザ内の各構成要素は、ハードウェアとして実現されるだけでなく、プロセッサがソフトウェア・プログラムを実行することにより仮想的に実現されても良い。たとえば、被測定信号SRFをディジタル化するためのアナログ・ディジタル変換器とディジタル化された被測定信号SRFを処理するプロセッサを、図1に示すスペクトラム・アナライザ10の全ての構成要素と置き換えることもできるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ネットワーク・アナライザなどの他の掃引ヘテロダイン方式の測定装置において、バースト信号を測定する場合にも適用できる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第一の実施態様であるスペクトラム・アナライザ10の構成を示す図である。
【図2】スペクトラム・アナライザ10内における信号のタイミング・チャートである。
【図3】本発明の第二の実施態様であるスペクトラム・アナライザ20の構成を示す図である。
【図4】スペクトラム・アナライザ20内における信号のタイミング・チャートである。
【図5】スペクトラム・アナライザ10の変形例であるスペクトラム・アナライザ30の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
10,20,30 スペクトラム・アナライザ
100 入力端子
110,140,150 フィルタ
120 ミキサ
130 周波数掃引信号源
160 検波器
170 ビデオフィルタ
180 出力装置
190 タイミング検出器
200,205 ゲート信号発生器
210,215 掃引信号発生器
220,225 制御装置
230 遅延器
240 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引信号源と乗算器とを具備する掃引ヘテロダイン方式の周波数変換器を有する測定装置において、被測定バースト信号と前記測定装置内で生成される周期的パルス信号との位相関係を調整する方法であって、
前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を停止する第一のステップと、
前記周波数変換器により周波数変換された前記被測定バースト信号のタイミングを検出する第二のステップと、
前記検出されたタイミングを用いて、前記パルス信号と前記被測定バースト信号との位相関係を調整する第三のステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第三のステップが、前記検出されたタイミングに応答して前記パルス信号の生成を開始するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第三のステップが、前記検出されたタイミングと前記パルス信号との時間差に応じて、前記パルス信号または前記被測定バースト信号または前記変換された前記被測定バースト信号に遅延を与えるステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一のステップが、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を、前記被測定バースト信号の中心周波数に対応する周波数で停止するステップを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記第三のステップが、測定周波数範囲の一掃引ごとに実施されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
周波数掃引信号源と乗算器とを具備する掃引ヘテロダイン方式の周波数変換器を有する測定装置であって、
前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を停止した状態で、前記周波数変換器により周波数変換された被測定バースト信号のタイミングを検出する手段と、
周期的パルス信号を発生する手段と、
前記検出されたタイミングを用いて、前記パルス信号と前記被測定バースト信号との位相関係を調整する手段と、
前記位相関係が調整されたパルス信号を用いて、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を掃引する手段と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【請求項7】
前記位相関係調整手段が、前記検出されたタイミングに応答して、前記パルス信号発生手段に前記パルス信号の生成を開始させることにより、前記位相関係を調整することを特徴とする請求項6に記載の測定装置。
【請求項8】
前記位相関係調整手段が、前記パルス信号と前記検出されたタイミングとの時間差に応じて、前記パルス信号または前記被測定バースト信号または前記変換された前記被測定バースト信号に遅延を与えることにより、前記位相関係を調整することを特徴とする請求項6に記載の測定装置。
【請求項9】
前記タイミング検出手段が、前記周波数掃引信号源の出力信号の周波数を、前記被測定バースト信号の中心周波数に対応する周波数で停止した状態で、周波数変換された被測定バースト信号のタイミングを検出することを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれかに記載の測定装置。
【請求項10】
前記位相関係調整手段が、測定周波数範囲の一掃引ごとに前記位相関係を調整することを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれかに記載の測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−309682(P2008−309682A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158549(P2007−158549)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.