説明

測定装置

【課題】電力計の電力測定誤差を装置価格を上昇させずに測定する。
【解決手段】処理部5が、検査電圧Vt1を出力して電力計50から所定倍率αおよび電圧値Vmvを取得し、所定倍率αと検査電圧Vt1との乗算値Vmuを算出する処理と、検査電圧Vt2を出力して電力計50から所定変換率βおよび電流値Imvを取得し、所定変換率βと検査電圧Vt2との乗算値Imuを算出する処理と、電力計50の第1入力端子51および第2入力端子52に検査電圧Vt1および分圧電圧Vdを出力して電力計50から位相差φを取得する処理と、電圧値Vmv、電流値Imvおよび位相差φに基づいて電力計50での測定対象電力Wmの実測値W1を算出し、かつ乗算値Vmuと乗算値Imuとを乗算して測定対象電力Wmの理論値W2を算出して、電力計50の電力測定誤差Weを算出する電力誤差算出処理とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力計の電力測定誤差を測定する測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力測定誤差を測定する測定装置(校正システム)として、下記特許文献1に開示されている校正システムが知られている。この校正システムは、2相発振器、電圧発生器および電流発生器を有する電力発生部と、標準電力測定器とを備えて構成されている。この校正システムでは、電圧発生器から出力される交流電圧および電流発生器から出力される交流電流を被校正電力計と標準電力測定器とに入力してそれぞれで電力を測定させる。この場合、被校正電力計で測定される電力についての電力測定誤差は、標準電力測定器で測定される電力との差として測定される。この校正システムによれば、被校正電力計で測定される電力が標準電力測定器で測定される電力と等しくなるように被校正電力計に対する校正を行うことで、安定度を満たした校正が可能となっている。
【特許文献1】特開平5−72311号公報(第2−3頁、第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記の測定装置(校正システム)には、以下の解決すべき課題がある。すなわち、この測定装置では、2相発振器と電圧発生器と電流発生器の3つの機器が必要となるため、装置が高価になるという課題が存在している。また、電力計としては、上記の測定装置のように電流を直接入力して測定するものと、電流検出プローブを用いて電流を電圧に変換して入力するものとがあり、この後者の電力計については電流検出プローブを外した状態で電力測定誤差を測定する場合もあるが、この場合には上記の測定装置を使用しての校正を行うことができないという課題も存在している。
【0004】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、電流を電圧に変換して入力する電力計についての電力測定誤差を装置価格を上昇させることなく測定し得る測定装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成すべく請求項1記載の測定装置は、第1電圧入力端子に入力されている第1電圧に所定倍率を乗算して測定対象電圧の電圧値を算出する電圧算出処理と、第2電圧入力端子に入力されている第2電圧に所定変換率を乗算して測定対象電流の電流値を算出する電流算出処理と、前記第1電圧と前記第2電圧との位相差を検出する位相差検出処理と、前記測定対象電圧の電圧値、前記測定対象電流の電流値および前記位相差に基づいて測定対象電力を算出する電力算出処理と、前記所定倍率、前記所定変換率、前記測定対象電圧の電圧値、前記測定対象電流の電流値および前記位相差を示す情報を外部に出力するデータ出力処理とを実行可能に構成された電力計についての測定誤差を測定する測定装置であって、処理部を備え、当該処理部は、前記第1電圧入力端子に所定の第1検査電圧を出力して前記電力計から出力される前記情報に含まれている前記所定倍率および前記測定対象電圧の前記電圧値を取得すると共に、当該所定倍率と前記第1検査電圧とを乗算して第1乗算値を算出する電圧値取得処理と、前記第2電圧入力端子に所定の第2検査電圧を出力して前記電力計から出力される前記情報に含まれている前記所定変換率および前記測定対象電流の前記電流値を取得すると共に、当該所定変換率と前記第2検査電圧とを乗算して第2乗算値を算出する電流値取得処理と、前記第1電圧入力端子に所定の第3検査電圧を出力すると共に当該第3検査電圧を抵抗分圧して生成される第4検査電圧を前記第2電圧入力端子に出力して、前記電力計から出力される前記情報に含まれている前記位相差を取得する位相差取得処理と、前記取得した前記測定対象電圧の前記電圧値、前記取得した前記測定対象電流の前記電流値、および前記取得した前記位相差に基づいて前記電力計で測定される前記測定対象電力の実測値を算出すると共に、前記第1乗算値と前記第2乗算値とを乗算して前記測定対象電力の理論値を算出し、前記実測値および前記理論値に基づいて前記電力計の前記測定対象電力についての電力測定誤差を算出する電力誤差算出処理とを実行する。
【0006】
また、請求項2記載の測定装置は、請求項1記載の測定装置において、前記処理部によって設定された電圧値の検査電圧を生成して出力する電圧出力部と、前記検査電圧を所定の分圧比で分圧して分圧電圧として出力する抵抗分圧部と、前記検査電圧および前記分圧電圧を入力すると共に当該各電圧のうちの前記処理部によって指定された一方の電圧を出力する電圧選択部とを備え、前記処理部は、前記電圧値取得処理においては前記電圧出力部に対して前記検査電圧の前記電圧値を所定の電圧値に設定して前記第1検査電圧として出力させ、前記電流値取得処理においては前記電圧出力部に対して前記検査電圧の前記電圧値を所定の電圧値に設定すると共に前記電圧選択部に対して当該検査電圧を指定して前記第2検査電圧として出力させ、前記位相差取得処理においては前記電圧出力部に対して前記検査電圧の前記電圧値を所定の電圧値に設定して前記第3検査電圧として出力させると共に、前記電圧選択部に対して前記分圧電圧を指定して前記第4検査電圧として出力させる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の測定装置では、処理部が、第1電圧入力端子に所定の第1検査電圧を出力して電力計から所定倍率および測定対象電圧の電圧値を取得すると共に、所定倍率と第1検査電圧とを乗算して第1乗算値を算出する電圧値取得処理と、第2電圧入力端子に所定の第2検査電圧を出力して電力計から所定変換率および測定対象電流の電流値を取得すると共に、所定変換率と第2検査電圧とを乗算して第2乗算値を算出する電流値取得処理と、第1電圧入力端子に所定の第3検査電圧を出力すると共に第3検査電圧を抵抗分圧して生成される第4検査電圧を第2電圧入力端子に出力して、電力計から出力される位相差を取得する位相差取得処理と、取得した測定対象電圧の電圧値、測定対象電流の電流値、および位相差に基づいて電力計で測定される測定対象電力の実測値を算出すると共に、第1乗算値と第2乗算値とを乗算して測定対象電力の理論値を算出し、実測値および理論値に基づいて電力計の測定対象電力についての電力測定誤差を算出する電力誤差算出処理とを実行する。
【0008】
したがって、この測定装置によれば、2相発振器と電圧発生器と電流発生器の3つの機器が必要となる従来の測定装置とは異なり、2相発振器および電流発生器を不要にすることができるため、装置を安価に構成することができる。また、この測定装置によれば、第3検査電圧と共に、この第3検査電圧を抵抗分圧して生成される第4検査電圧を電力計に出力することができるため、電流検出プローブを使用する構成の電力計についての電力測定誤差を電流検出プローブを使用することなく測定することができる。
【0009】
また、請求項2記載の測定装置によれば、測定装置と電力計との間の配線を手動で変更することなく、電圧値取得処理においては所定の電圧値の検査電圧を電力計の第1電圧入力端子に第1検査電圧として出力し、また電流値取得処理においては所定の電圧値の検査電圧を電力計の第2電圧入力端子に第2検査電圧として出力し、また位相差取得処理においては所定の電圧値の検査電圧を電力計の第1電圧入力端子に第3検査電圧として出力すると共に、検査電圧の分圧電圧を第2電圧入力端子に第4検査電圧として出力することが自動的に実行できるため、電力計の電力測定誤差を簡単で、しかも短時間に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る測定装置の最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0011】
最初に、図1に示す本発明に係る測定装置1を用いて校正される校正対象電力計(以下、単に「電力計」ともいう)50について同図を参照して説明する。
【0012】
電力計50は、第1電圧入力端子(以下、単に「第1入力端子」ともいう)51,51に入力されている第1電圧V1の電圧値V1vに所定倍率αを乗算して測定対象電圧Vmの電圧値Vmvを算出する電圧算出処理と、第2電圧入力端子(以下、単に「第2入力端子」ともいう)52,52に入力されている第2電圧V2の電圧値V2vに所定変換率βを乗算して測定対象電流Imの電流値Imvを算出する電流算出処理と、第1電圧V1と第2電圧V2との位相差φを検出する位相差検出処理と、測定対象電圧Vmの電圧値Vmv、測定対象電流Imの電流値Imvおよび位相差φに基づいて所定の演算式(Vmv×Imv×cosφ)から測定対象電力Wmを算出する電力算出処理と、所定倍率α、所定変換率β、測定対象電圧Vmの電圧値Vmv、測定対象電流Imの電流値Imvおよび位相差φを含む電力計データ(本発明における情報)D1をデータ出力端子53から外部に出力するデータ出力処理とを実行可能に構成されている。本例では、一例として、電力計50は、第1入力端子51,51には倍率が1倍の電圧検出プローブが接続され、第2入力端子52,52には変換倍率が25倍の電流検出プローブが接続される構成が採用されている。このため、この構成に対応して、所定倍率αは数値「1」に、所定変換率βは数値「25」にそれぞれ規定されている。
【0013】
次いで、測定装置1の構成について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1に示す測定装置1は、電圧出力部2、抵抗分圧部3、電圧選択部4、処理部5、記憶部6、表示部7、第1電圧出力端子(以下、単に「第1出力端子」ともいう)8,8、第2電圧出力端子(以下、単に「第2出力端子」ともいう)9,9、およびデータ入力端子10を備え、電力計50についての電力測定誤差Weを測定して表示可能に構成されている。
【0015】
電圧出力部2は、出力電圧値を任意に設定可能な交流電圧発生装置で構成されて、図1に示すように、処理部5によって設定された電圧値(一例として2つの電圧値Vta,Vtb(<Vta)のうちの処理部5から出力される制御データDs1で示される一方)の検査電圧Vt1(一定周波数の交流電圧であって、本発明における第1検査電圧)を生成して第1出力端子8,8から出力する。本例では、一例として、電圧値Vtaは600ボルトに、電圧値Vtbは2ボルトに予め規定されている。抵抗分圧部3は、抵抗のみで構成されて、検査電圧Vt1を所定の分圧比(本例では一例として、600:2)で分圧電圧Vdに分圧する。本例では抵抗分圧部3は、一例として直列に接続された2本の抵抗3a,3bで構成されて、第1出力端子8,8間に配設されている。この構成により、抵抗分圧部3は、抵抗3bの両端間に発生する電圧を分圧電圧Vd(=Vta(またはVtb)×2/600)として、検査電圧Vt1との間の位相差がゼロの状態で出力する。
【0016】
電圧選択部4は、図1に示すように、検査電圧Vt1および分圧電圧Vdを入力すると共に、処理部5から出力される制御信号S1によって指定された検査電圧Vt1および分圧電圧Vdのうちの一方の電圧を、検査電圧Vt2(本発明における第2検査電圧)として出力する。一例として電圧選択部4は、2つのオン・オフスイッチ(以下、単に「スイッチ」ともいう)4a,4bと、2つの選択スイッチ(以下、単に「スイッチ」ともいう)4c,4dとを備え、各スイッチ4a〜4dが以下のように接続されて構成されている。具体的には、スイッチ4aは、2つの第1出力端子8,8のうちの一方の第1出力端子8とスイッチ4cの1つの接点aとの間に配設され、スイッチ4bは、他方の第1出力端子8とスイッチ4dの1つの接点aとの間に配設されている。また、スイッチ4cは、その接点bが抵抗分圧部3における各抵抗3a,3bの接続点に接続され、かつそのコモン接点cが第2出力端子9,9のうちの一方の第2出力端子9に接続されている。また、スイッチ4dは、その接点bが抵抗分圧部3における抵抗3bの端部(他方の第1出力端子8)に接続され、かつそのコモン接点cが他方の第2出力端子9に接続されている。
【0017】
このように構成された電圧選択部4は、制御信号S1によって指定された検査電圧Vt1を検査電圧Vt2として出力する第1出力状態(各スイッチ4a,4bがオン状態で、かつ各スイッチ4c,4dのコモン接点cが接点aに接続された状態)、および制御信号S1によって指定された分圧電圧Vdを検査電圧Vt2として出力する第2出力状態(各スイッチ4a,4bがオフ状態で、かつ各スイッチ4c,4dのコモン接点cが接点bに接続された状態)のうちのいずれか一つの出力状態に移行する。
【0018】
処理部5は、一例としてCPU(図示せず)で構成されて、記憶部6に記憶されている動作プログラムに基づき、電圧値取得処理、電流値取得処理、位相差取得処理および電力誤差算出処理を実行する。また、処理部5は、電圧出力部2に対して制御データDs1を出力して検査電圧Vt1の電圧値を設定する処理、電圧選択部4に対して制御信号S1を出力して検査電圧Vt2として出力される電圧を指定する処理、および算出した電力測定誤差Weを表示部7に表示させる表示処理も実行する。記憶部6は、ROMやRAMなどの半導体メモリで構成されて、処理部5についての動作プログラムが予め記憶されている。また、記憶部6は、処理部5によってワークメモリとしても使用される。表示部7は、例えばディスプレイ装置で構成されて、処理部5から入力した電力測定誤差Weを画面上に表示する。
【0019】
次いで、測定装置1による電力計50の電力測定誤差Weについての測定動作について説明する。なお、図1に示すように、測定装置1の第1出力端子8,8、第2出力端子9,9およびデータ入力端子10が、電力計50の対応する第1入力端子51,51、第2入力端子52,52およびデータ出力端子53にそれぞれ一対一で電気的に予め接続されているものとする。また、電力計50は、作動状態にあって、電圧算出処理、電流算出処理、位相差検出処理、電力算出処理を常時実行すると共に、所定倍率α、所定変換率β、上記の各処理で算出した測定対象電圧Vmの電圧値Vmv、測定対象電流Imの電流値Imvおよび位相差φを含む電力計データD1をデータ出力端子53から外部に出力するデータ出力処理についても常時実行しているものとする。
【0020】
測定装置1では、作動状態において、最初に、処理部5が電圧値取得処理を実行する。この処理では、処理部5は、電圧出力部2に対して制御データDs1を出力することにより、電圧値Vta(600ボルト)の検査電圧Vt1を出力させる。これにより、電力計50の第1入力端子51,51には、検査電圧Vt1が第1電圧V1として入力される。この際に、電力計50は、電圧算出処理において、第1電圧V1の電圧値を測定すると共に、測定されたこの電圧値に所定倍率αを乗算することにより、測定対象電圧Vmの電圧値Vmvを算出する。本例では、前述したように所定倍率αが数値「1」であるため、検査電圧Vt1そのものが測定対象電圧Vmとなるが、所定倍率αが数値「2」のときには、検査電圧Vt1を2倍して得られる電圧が測定対象電圧Vmとなる。この場合、電力計50では、電圧値Vta(600ボルト)をα(=1)倍して得られる600ボルトを本来であれば算出すべきところ、演算誤差に起因して、測定対象電圧Vmの電圧値Vmvを600.6ボルトと算出したものとする。これにより、電力計50からは、測定対象電圧Vmの電圧値Vmv(600.6ボルト)を含む電力計データD1が測定装置1に対して出力される。
【0021】
処理部5は、この電力計データD1を電力計50から取得して、電力計データD1に含まれている測定対象電圧Vmについての算出した電圧値Vmv(600.6ボルト)を記憶部6に記憶させる。また、処理部5は、電力計データD1に含まれている所定倍率α(=1)と電圧出力部2から出力させている検査電圧Vt1の電圧値Vta(600ボルト)との乗算値Vmu(本発明における第1乗算値。本例では600ボルト)を算出して、記憶部6に記憶させる。最後に、処理部5は、記憶部6に記憶させた電圧値Vmv(600.6ボルト)と乗算値Vmu(600ボルト)とから、電力計50についての電圧測定誤差Veを算出する。具体的には、電力計50において測定されるべき第1電圧V1の電圧値は、上記乗算値Vmu(600ボルト)であり、一方、電力計50において実際に測定された測定対象電圧Vmの電圧値Vmvは600.6ボルトである。このため、処理部5は、電圧値Vmv(600.6ボルト)の乗算値Vmu(600ボルト)に対する差分(0.6ボルト)を乗算値Vmu(600ボルト)で除算することにより、電力計50についての電圧測定誤差Ve(本例では0.1%)を算出して記憶部6に記憶させる。これにより、電圧値取得処理が完了する。
【0022】
次いで、処理部5は、電流値取得処理を実行する。この処理では、処理部5は、電圧出力部2に対して制御データDs1を出力することにより、電圧値Vtb(2ボルト)の検査電圧Vt1を出力させる。また、処理部5は、電圧選択部4に対して制御信号S1を出力することにより、検査電圧Vt2として検査電圧Vt1を出力する第1出力状態に移行させる。これにより、電力計50の第2入力端子52,52には、検査電圧Vt1が第2電圧V2として入力される。この際に、電力計50は、電流算出処理において、第2電圧V2の電圧値を測定すると共に、測定されたこの電圧値に所定変換率βを乗算することにより、測定対象電流Imの電流値Imvを算出する。本例では、前述したように所定変換率βが数値「25」であるため、第2電圧V2の電圧値(つまり検査電圧Vt1の電圧値Vtb)を25倍したものが電流値Imvとなる。この場合、電力計50では、電圧値Vtb(2ボルト)をβ(=25)倍して得られる50アンペアを本来であれば算出すべきところ、演算誤差に起因して、電流値Imvを50.5アンペアと算出したものとする。これにより、電力計50からは、測定対象電流Imの電流値Imv(50.5アンペア)を含む電力計データD1が測定装置1に対して出力される。
【0023】
処理部5は、この電力計データD1を電力計50から取得して、電力計データD1に含まれている電流値Imv(50.5)を記憶部6に記憶させる。また、処理部5は、電力計データD1に含まれている所定変換率β(=25)と電圧出力部2から出力させている検査電圧Vt1の電圧値Vtb(2ボルト)との乗算値Imu(本発明における第2乗算値。本例では50アンペア)を算出して、記憶部6に記憶させる。最後に、処理部5は、記憶部6に記憶させた電流値Imv(50.5アンペア)と乗算値Imu(50アンペア)とから、電力計50についての電流測定誤差Ieを算出する。具体的には、電力計50において測定されるべき電流値Imvは、上記乗算値Imu(50アンペア)であり、一方、電力計50において実際に測定された電流値Imvは50.5アンペアである。このため、処理部5は、電流値Imv(50.5アンペア)の乗算値Imu(50アンペア)に対する差分(0.5アンペア)を乗算値Imu(50アンペア)で除算することにより、電力計50についての電流測定誤差Ie(本例では1%)を算出して記憶部6に記憶させる。これにより、電流値取得処理が完了する。
【0024】
続いて、処理部5は、位相差取得処理を実行する。この処理では、処理部5は、電圧出力部2に対して制御データDs1を出力することにより、電圧値Vta(600ボルト)の検査電圧Vt1を出力させる。また、処理部5は、電圧選択部4に対して制御信号S1を出力することにより、検査電圧Vt2として分圧電圧Vdを出力する第2出力状態に移行させる。これにより、電力計50の第1入力端子51,51には電圧値Vta(600ボルト)の検査電圧Vt1が第1電圧V1として入力され、かつ第2入力端子52,52には分圧電圧Vd(2ボルト=600×2/600)が第2電圧V2として入力される。この状態において電力計50は、位相差検出処理を実行して、第1電圧V1と第2電圧V2との位相差φを検出する。本例では、位相差φとして2°が検出されたものとする。これにより、電力計50からは、位相差φ(2°)を含む電力計データD1が測定装置1に対して出力される。処理部5は、この電力計データD1を電力計50から取得して、電力計データD1に含まれている位相差φを記憶部6に記憶させる。これにより、位相差取得処理が完了する。
【0025】
なお、本例では、この位相差取得処理において、電圧値取得処理において出力させた検査電圧Vt1を本発明における第3検査電圧として電力計50の第1入力端子51,51に出力し、この検査電圧Vt1に基づき抵抗分圧部3から出力される分圧電圧Vdを本発明における第4検査電圧として電力計50の第2入力端子52,52に出力させる構成を採用しているが、検査電圧Vt1とは電圧値の異なる検査電圧を本発明における第3検査電圧として電力計50の第1入力端子51,51に出力し、この検査電圧に基づき抵抗分圧部3から出力される分圧電圧Vdを本発明における第4検査電圧として電力計50の第2入力端子52,52に出力させる構成を採用することもできる。
【0026】
次いで、処理部5は、電力誤差算出処理を実行する。この処理では、処理部5は、まず、記憶部6に記憶させた電圧値Vmv(600.6ボルト)、電流値Imv(50.5)および位相差φ(2°)に基づいて、電力計50で使用する上記式と同じ所定の演算式(Vmv×Imv×cosφ)から電力計50で測定される測定対象電力Wmを算出して、電力計50での実測値W1として記憶部6に記憶させる。本例では、上記演算式に基づき、実測値W1として、30311.8(=600.6×50.5×cos(2°))が算出されて、記憶部6に記憶される。次いで、処理部5は、電圧値取得処理で算出した乗算値Vmu(所定倍率α(=1)と検査電圧Vt1の電圧値Vta(600ボルト)との乗算値(600ボルト))と、電流値取得処理で算出した乗算値Imu(所定変換率β(=25)と検査電圧Vt1の電圧値Vtb(2ボルト)との乗算値(50アンペア))とを乗算して、電力計50で測定されるべき測定対象電力Wmの理論値W2を算出して、記憶部6に記憶させる。本例では、理論値W2として、30000(=600ボルト×50アンペア)が算出されて、記憶部6に記憶される。続いて、処理部5は、記憶部6に記憶させた実測値W1と理論値W2とに基づいて、電力計50で測定される測定対象電力Wmについての電力測定誤差We(=(W1−W2)×100/W2)を算出して、記憶部6に記憶させる。これにより、電力誤差算出処理が完了する。
【0027】
最後に、処理部5は、算出した電力計50についての電圧測定誤差Ve、電流測定誤差Ieおよび電力測定誤差Weを表示部7に表示させる表示処理を実行する。これにより、電圧測定誤差Ve、電流測定誤差Ieおよび電力測定誤差Weが表示部7に表示されるため、電力計50についての測定誤差を確認することが可能となる。また、電圧測定誤差Veに基づく電力計50の電圧測定に対する校正や、電流測定誤差Ieに基づく電力計50の電流測定に対する校正や、電力測定誤差Weに基づく電力計50の電力測定に対する校正を実施することも可能となる。
【0028】
このように、この測定装置1では、処理部5が、所定の検査電圧Vt1を第1入力端子51,51に出力したときに電力計50から出力される電力計データD1に含まれている所定倍率αおよび測定対象電圧Vmの電圧値Vmvを取得すると共に、所定倍率αと検査電圧Vt1との乗算値Vmuを算出する処理と、所定の検査電圧Vt2を第2入力端子52,52に出力したときに電力計50から出力される電力計データD1に含まれている所定変換率βおよび測定対象電流Imの電流値Imvを取得すると共に、所定変換率βと検査電圧Vt2との乗算値Imuを算出する処理と、検査電圧Vt1を電力計50の第1入力端子51,51に第3検査電圧として出力すると共に検査電圧Vt1を抵抗分圧部3で分圧して生成される分圧電圧Vdを第4検査電圧として電力計50の第2入力端子52,52に出力したときに電力計50から出力される電力計データD1に含まれている位相差φを取得する処理と、これらの各処理において取得した測定対象電圧Vmの電圧値Vmv、測定対象電流Imの電流値Imvおよび位相差φに基づいて電力計50で測定される測定対象電力Wmの実測値W1を算出すると共に、乗算値Vmuと乗算値Imuとを乗算して測定対象電力Wmの理論値W2を算出し、実測値W1および理論値W2に基づいて電力計50の測定対象電力Wmについての電力測定誤差Weを算出する電力誤差算出処理とを実行する。
【0029】
したがって、この測定装置1によれば、2相発振器と電圧発生器と電流発生器の3つの機器が必要となる従来の測定装置とは異なり、2相発振器および電流発生器を不要にすることができるため、装置安価に構成することができる。また、この測定装置1によれば、検査電圧Vt1と共に、この検査電圧Vt1を分圧した分圧電圧Vdを検査電圧Vt2として電力計50に出力することができるため、電流検出プローブを使用する構成の電力計50についての電力測定誤差Weを電流検出プローブを使用することなく測定することができる。
【0030】
また、この測定装置1では、処理部5が、電圧値取得処理においては電圧出力部2に対して所定の電圧値Vtaの検査電圧Vt1を出力させ、また電流値取得処理においては電圧出力部2に対して所定の電圧値Vtbの検査電圧Vt1を出力させると共に、電圧選択部4に対して検査電圧Vt1を検査電圧Vt2として出力させ、また位相差取得処理においては電圧出力部2に対して所定の電圧値Vtaの検査電圧Vt1を出力させると共に、電圧選択部4に対して抵抗分圧部3から出力される検査電圧Vt1の分圧電圧Vdを選択させて検査電圧Vt2として出力させる。
【0031】
したがって、この測定装置1によれば、測定装置1と電力計50との間の配線を手動で変更することなく、電圧値取得処理においては所定の電圧値Vtaの検査電圧Vt1を電力計50の第1入力端子51,51に出力し、また電流値取得処理においては所定の電圧値Vtbの検査電圧Vt1を検査電圧Vt2として電力計50の第2入力端子52,52に出力し、また位相差取得処理においては所定の電圧値Vtaの検査電圧Vt1を電力計50の第1入力端子51,51に出力すると共に、検査電圧Vt1の分圧電圧Vdを検査電圧Vt2として第2入力端子52,52に出力することが自動的に実行できるため、電力計50についての測定誤差(電圧測定誤差Ve、電流測定誤差Ieおよび電力測定誤差We)を簡単で、しかも短時間に測定することができる。
【0032】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、電力計50についての電圧測定誤差Ve、電流測定誤差Ieおよび電力測定誤差Weを測定する構成に代えて、電圧測定誤差Veと電力測定誤差We、電流測定誤差Ieと電力測定誤差We、または電力測定誤差Weのみを測定する構成とすることもできる。
【0033】
また、抵抗分圧部3が抵抗のみで構成されていることから、検査電圧Vt1と、抵抗分圧部3が検査電圧Vt1を分圧して出力する分圧電圧Vdとの間の位相差がゼロであるとして、この位相差を考慮しない例について上記したが、抵抗分圧部3の内部や、電圧出力部2と抵抗分圧部3との間の配線間や、抵抗分圧部3と電圧選択部4との間の配線間に存在する浮遊容量に起因して、抵抗分圧部3が抵抗のみで構成されていたとしても、検査電圧Vt1と分圧電圧Vdとの間に位相差φ1が生じる場合がある。この場合において位相差φ1を無視できないときには、測定装置1で発生するこの位相差φ1を予め測定しておき、電力誤差算出処理での電力計50についての測定対象電力Wmの実測値W1の算出の際に、この位相差φ1を加味する構成とすることもできる。これにより、電力計50についての電力測定誤差Weを一層正確に測定することができる。
【0034】
また、電圧選択部4にスイッチ4a,4bを設け、分圧電圧Vdを検査電圧Vt2として出力する際に、スイッチ4a,4bをオフ状態として、検査電圧Vt1の検査電圧Vt2に対する影響を最小限にする構成を採用しているが、この影響を無視し得る場合には、スイッチ4a,4bを省いて、スイッチ4cの接点aを一方の第1入力端子51に接続し、かつスイッチ4dの接点aを他方の第1入力端子51に接続する構成とすることもできる。この構成によれば、電圧選択部4の構成を簡略化できるため、電圧選択部4のコスト、ひいては測定装置1の製品コストを一層低減することが可能となる。
【0035】
また、上記の例では、電圧値取得処理における検査電圧Vt1(600ボルト)を抵抗分圧部3で分圧したときに抵抗分圧部3から出力される分圧電圧Vdが、電流値取得処理における検査電圧Vt1の電圧値(上記例では2ボルト)と同じになるように抵抗分圧部3の分圧比を規定しているが、これに限定されるものではない。つまり、検査電圧Vt1を分圧して得られる分圧電圧Vdは、電力計50の第2入力端子52,52についての入力定格電圧範囲内であれば任意の電圧で良いため、分圧電圧Vdが入力定格電圧範囲内となる範囲で抵抗分圧部3の分圧比についても任意に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】測定装置1の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
1 測定装置
2 電圧出力部
3 抵抗分圧部
4 電圧選択部
5 処理部
50 電力計
51 第1入力端子
52 第2入力端子
53 データ出力端子
α 所定倍率
β 所定変換率
φ 位相差
Ie 電流測定誤差
Im 測定対象電流
Imu 乗算値(第2乗算値)
V1 第1電圧
V2 第2電圧
Vd 分圧電圧
Ve 電圧測定誤差
Vm 測定対象電圧
Vmu 乗算値(第1乗算値)
Vt1,Vt2 検査電圧
We 電力測定誤差
Wm 測定対象電力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電圧入力端子に入力されている第1電圧に所定倍率を乗算して測定対象電圧の電圧値を算出する電圧算出処理と、第2電圧入力端子に入力されている第2電圧に所定変換率を乗算して測定対象電流の電流値を算出する電流算出処理と、前記第1電圧と前記第2電圧との位相差を検出する位相差検出処理と、前記測定対象電圧の電圧値、前記測定対象電流の電流値および前記位相差に基づいて測定対象電力を算出する電力算出処理と、前記所定倍率、前記所定変換率、前記測定対象電圧の電圧値、前記測定対象電流の電流値および前記位相差を示す情報を外部に出力するデータ出力処理とを実行可能に構成された電力計についての測定誤差を測定する測定装置であって、
処理部を備え、
当該処理部は、
前記第1電圧入力端子に所定の第1検査電圧を出力して前記電力計から出力される前記情報に含まれている前記所定倍率および前記測定対象電圧の前記電圧値を取得すると共に、当該所定倍率と前記第1検査電圧とを乗算して第1乗算値を算出する電圧値取得処理と、
前記第2電圧入力端子に所定の第2検査電圧を出力して前記電力計から出力される前記情報に含まれている前記所定変換率および前記測定対象電流の前記電流値を取得すると共に、当該所定変換率と前記第2検査電圧とを乗算して第2乗算値を算出する電流値取得処理と、
前記第1電圧入力端子に所定の第3検査電圧を出力すると共に当該第3検査電圧を抵抗分圧して生成される第4検査電圧を前記第2電圧入力端子に出力して、前記電力計から出力される前記情報に含まれている前記位相差を取得する位相差取得処理と、
前記取得した前記測定対象電圧の前記電圧値、前記取得した前記測定対象電流の前記電流値、および前記取得した前記位相差に基づいて前記電力計で測定される前記測定対象電力の実測値を算出すると共に、前記第1乗算値と前記第2乗算値とを乗算して前記測定対象電力の理論値を算出し、前記実測値および前記理論値に基づいて前記電力計の前記測定対象電力についての電力測定誤差を算出する電力誤差算出処理とを実行する測定装置。
【請求項2】
前記処理部によって設定された電圧値の検査電圧を生成して出力する電圧出力部と、
前記検査電圧を所定の分圧比で分圧して分圧電圧として出力する抵抗分圧部と、
前記検査電圧および前記分圧電圧を入力すると共に当該各電圧のうちの前記処理部によって指定された一方の電圧を出力する電圧選択部とを備え、
前記処理部は、
前記電圧値取得処理においては前記電圧出力部に対して前記検査電圧の前記電圧値を所定の電圧値に設定して前記第1検査電圧として出力させ、
前記電流値取得処理においては前記電圧出力部に対して前記検査電圧の前記電圧値を所定の電圧値に設定すると共に前記電圧選択部に対して当該検査電圧を指定して前記第2検査電圧として出力させ、
前記位相差取得処理においては前記電圧出力部に対して前記検査電圧の前記電圧値を所定の電圧値に設定して前記第3検査電圧として出力させると共に、前記電圧選択部に対して前記分圧電圧を指定して前記第4検査電圧として出力させる請求項1記載の測定装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−121985(P2010−121985A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294072(P2008−294072)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)