測角装置
【課題】広帯域信号を仮想的に狭帯域信号へ変換する測角装置を提供する。
【解決手段】観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、前記観測データを前記補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、前記補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部を備える。これにより、広帯域信号であっても複数の測角処理部を備える必要がないので、仮想的に狭帯域信号として処理することが可能となり、その信号の観測データに対して波長が一意に定められるようになるため、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、従来より知られているMUSIC法等の狭帯域信号用の測角アルゴリズムを使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。
【解決手段】観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、前記観測データを前記補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、前記補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部を備える。これにより、広帯域信号であっても複数の測角処理部を備える必要がないので、仮想的に狭帯域信号として処理することが可能となり、その信号の観測データに対して波長が一意に定められるようになるため、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、従来より知られているMUSIC法等の狭帯域信号用の測角アルゴリズムを使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号源から到来する広帯域信号を受信し、到来信号の入射角度(信号源の方位)を推定する測角装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間的に並べて配置された複数のセンサを用いる測角装置では、各センサで受信された観測データ間に存在する振幅差や位相差に基づいて到来信号の入射角度が推定される。並べて配置された複数のセンサを用いて到来信号の入射角度を推定するものとして、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等を用いる測角装置が知られている(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1等、参照)。
【0003】
帯域幅が広い到来信号の入射角度を上記測角装置で推定すると、帯域幅が狭い到来信号の入射角度を推定する場合と比べて、入射角度が一意に定まらないなど推定精度の低下が見られる。これは、帯域毎に波長と素子間隔の比率が変化するためである。このため、例えば、特許文献1,2や非特許文献1には、測角装置でMUSIC法などを実施する場合、到来信号の観測データを複数の帯域に分割してから、帯域毎に測角処理を実施することが記載されている。このように、狭帯域な信号の観測データに対しては、信号の周波数で一意に決まる波長に基づいて入射角度を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−47864号公報
【特許文献2】特許第4309110号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Krim and M.Viberg,“Two Decades of Array Signal Processing Research:The Parametric Approach”,IEEE Signal Processing Magazine,Vol.13,No.4,pp.67−94,Jul 1996
【非特許文献2】Y.OGAWA,N.HAMAGUCHI,K.OHSHIMA,K.ITOH,“High−Resolution Analysis of Indoor Multipath Propagation Structure”,IEICE Trans.,vol.E78−B,no.11,pp.1450−1457,Nov 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の測角装置では、信号波長に基づいて入射角度を推定するため、到来信号の周波数帯域幅が広い場合には、その信号の観測データに対して波長が一意に定められないので、帯域毎にセンサ間隔の波長比が変化する影響を受けないように、信号成分を複数の小さな周波数帯域に分割し、小さな周波数帯域毎に測角処理を実施する必要があった。すなわち、複数の測角処理を実施しなければならず、演算装置規模が大きくなるとともに、処理時間がかかる、という課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、広帯域信号を仮想的に狭帯域信号へ変換する測角装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明は、信号を観測する複数のセンサと、当該センサで観測した観測データを用いて前記信号の入射角度を推定する測角装置において、前記観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、前記観測データを前記補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、前記補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の信号処理装置によれば、広帯域信号であっても複数の測角処理部を備える必要がないので、仮想的に狭帯域信号として処理することが可能となり、その信号の観測データに対して波長が一意に定められるようになるため、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、従来より知られているMUSIC法等の狭帯域信号用の測角アルゴリズムを使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来の測角装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における測角装置の構成図の一例である。
【図3】この発明の実施の形態1における測角装置の構成図の別の例である。
【図4】この発明の実施の形態1における補正係数算出部の構成例である。
【図5】この発明の実施の形態2における補正係数算出部の構成例である。
【図6】この発明の実施の形態3における補正係数算出部の構成例である。
【図7】この発明の実施の形態3における補正係数算出部の別の構成例である。
【図8】この発明の実施の形態4における測角装置の構成図の一例である。
【図9】この発明の実施の形態5における測角装置の構成図の一例である。
【図10】この発明の実施の形態6における測角装置の構成図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、広帯域信号を測角する場合における従来の測角装置の構成図である。センサ1−1〜1−Lで観測した時系列データをそれぞれ周波数変換部2−1〜2−Lで周波数データに変換し、全センサ(L個)分の周波数データを帯域分割処理部3で複数(M個)の帯域ブロックに分割する。各帯域ブロックでは、相関行列算出部4−1〜4−Mで相関行列を算出し、測角処理部5−1〜5−Mで測角処理していた。このように、1つの到来信号に対して得られたM個の測角値について角度平均処理部6で平均値を計算し、その平均値を推定角度出力部7から出力していた。このように、図1に示すような従来の測角装置では、測角処理部5を複数(M個)備える必要があった。
【0012】
図2は、この発明の実施の形態1における測角装置の構成図である。この実施の形態1では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出し、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求める。この際、補正処理部9−1〜9−Lを備えているので、補正係数算出部8で算出する補正係数によって、帯域の狭い特定の周波数帯に信号電力を集中できる補正データを得ることができる。すなわち、広帯域信号が仮想的に狭帯域信号に変換されるため、信号の観測データに対して波長が一意に定められるようになるので、測角処理部5は1つでよい。
【0013】
この際、補正係数算出部8としては、図2に示すように、一つのセンサ1−1の観測データから補正係数を算出する例や、図3に示すように、複数のセンサ1−1〜1−Lの観測データを合成して補正係数を算出する例が考えられる。そして、補正処理部9−1〜9−Lは、補正係数算出部8により算出された補正係数を用いて各観測データの補正データを求め、測角処理部5が、それらの補正データを用いて測角処理を実施する。
【0014】
ここで、図3における補正係数算出部8が複数の観測データを合成する方法について説明する。図4は、補正係数算出部8の構成の一例である。この図では、補正係数算出部8は、各センサ1−1〜1−Lの観測データに重み係数である合成ウェイト10−1〜10−Lをかけて複数の観測データを合成する。この重み係数である合成ウェイト10−1〜10−Lは、測角装置の作動前に設定した初期値を使用し続ける場合や、測角結果に基づいて変更する場合がある。
また、合成ウェイト10−1〜10−Lは、観測データの合成処理を実施する時点より以前に観測された観測データに基づいて実施した測角処理結果を参照し、その測角処理結果に基づいて更新される、すなわち、その測角処理結果を用いて観測データを合成するようにしてもよい。例えば、以前の測角処理結果として得られた信号の入射角度に対して、指向性合成による合成ビームを向けるようなウェイトへ変更する場合がある。
【0015】
また、図2において、補正係数を得るために使用する観測データを観測する一つのセンサとしては、複数のセンサ1−1〜1−Lが物理的に分布する範囲の中心付近に存在する一つのセンサを選択し、そのセンサの観測データを用いるようにしてもよい。さらに、図3のように、補正係数を得るために複数のセンサ1−1〜1−Lの観測データを使用する場合にも、同様に中心付近の複数のセンサを選択し、それらのセンサの観測データを用いるようにしてもよい。この選択方法は、物理的に距離が近い複数のセンサを選択する、という点においても意味のあることである。すなわち、広帯域信号は、センサ間の物理的距離が大きいと観測データ間の相関が低下して合成が困難となる場合があるため、距離が近いセンサを選択することに意味があるのである。
【0016】
以上のように、この実施の形態1によれば、観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、観測データを補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部とを備えるようにしたので、従来のように複数の周波数帯域に分割(例えばフーリエ変換)することなく、従来より知られているMUSIC法等の測角処理を使用できるようなデータ状態へ変換することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
【0017】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2における補正係数算出部8の構成の一例を示す図である。補正係数算出部8以外の構成については、実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を省略する。この図5に示す補正係数算出部8では、一つの観測データまたは複数の観測データの合成値の位相値を位相値算出部11で算出し、並べ替え順算出部12において時系列順に並んだ複数の位相値による位相値群の並べ替えを行い、この並べ替え順を補正係数とする。すなわち、時系列順に並んだ観測データを位相値順に並べ替え、そのような並べ替えが行われる補正係数を算出する。位相値群に含まれる位相値の個数は、測角処理で使用する統計処理における平均母数に依存する。並べ替え順が昇順か降順かは、本発明による効果に有意な影響が無いため、どちらか一方に定めない。
【0018】
このように、補正係数算出部8が算出する補正係数を、観測データが位相値順に並べ替えられる補正係数とする場合、補正処理部9−1〜9−Lではその補正係数に従って時系列順に並んでいた観測データが位相値順に並べ替えられた補正データを得る。一般的に、デジタル通信などの広帯域信号は、時系列で隣り合うデータ間において位相値の変化を大きくすることで広帯域性を得ており、これを位相値順に並べ替えることによって、広帯域性を失わせることができるのである。そして、このように並べ替えられた補正データは、データ列に位相変化が乏しいため、信号電力は直流成分付近に集まり、例えば中間周波数帯における直流成分付近に信号電力が集中する。
【0019】
上記補正データを用いた測角処理は、従来から用いられているアルゴリズムであるモノパルス推定法やDBF、最尤法、Capon法、MUSIC法、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MODE(Method Of Direction Estimation)、SAGE(Space−Alternating Generalized Expectation−maximization algorithm)、VESPA(Virtual ESPRIT Algorithm)などに基づくものが使用できる。
【0020】
以上のように、この実施の形態2によれば、観測データを位相値順に並べ替えた補正データを得るようにして直流成分付近に信号電力を集中させるようにしたので、広帯域性が失われ、従来のように複数の周波数帯域に分割(例えばフーリエ変換)することなく、従来より知られているMUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
【0021】
実施の形態3.
図6は、この発明の実施の形態3における補正係数算出部8の構成の一例である。補正係数算出部8以外の構成については、実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を省略する。この図6に示す補正係数算出部8では、位相値算出部11で観測データから位相値群を算出し、位相変換係数算出部13で位相値群を特定の位相状態へ変換するための位相変換係数を算出する。特定の位相状態として、位相値群を一定位相値へ揃えることがある。位相値群を一定位相値へ揃える場合は、データ列に位相変化がないため、信号電力は直流になる。すなわち、位相変換係数を補正係数とした補正処理部9−1〜9−Lで観測データを補正した補正データは、例えば中間周波数帯における直流成分付近に信号電力を集中させる。また、位相値群を時系列の関数となる位相値へ位相変換する位相変換係数を算出することも可能である。位相値群を時系列の関数となるように変換する場合は、等間隔の時系列に対して位相値が単調増加するような関数を選択すれば、直流成分以外の特定の周波数成分付近に信号電力を集中させることもできる。
【0022】
図7は、この発明の実施の形態3における補正係数算出部8の構成の別の一例である。この図7に示す補正係数算出部8では、振幅値算出部14で観測データから振幅値群を算出し、振幅変換係数算出部15で振幅値群を一定振幅値へ変換する振幅変換係数を算出する。そして、変換係数合成部21は、振幅変換係数を、位相変換係数算出部13で得られた位相変換係数と合成して、補正係数とする。
【0023】
図7に示す補正係数算出部8では、複素数データによる補正係数の算出、または、IQデータによる補正係数の算出と同義である。
図6に示す補正係数算出部8または図6に示す補正係数算出部8で得られた補正係数で補正された補正データを用いた測角処理は、従来から用いられるアルゴリズムに基づくものを使用できる。ただし、観測データに複数の信号成分が含まれる場合、最尤法に基づくアルゴリズムや、空間平均法を併用するアルゴリズムが使用される。これらアルゴリズムの使用に関しては、従来の測角装置と同様であるため、説明を省略する。
【0024】
以上のように、この実施の形態3によれば、直流成分以外の特定の周波数成分付近に信号電力を集中させるようにしたので、実施の形態2同様、広帯域性が失われ、従来のように複数の周波数帯域に分割(例えばフーリエ変換)することなく、従来より知られているMUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
【0025】
実施の形態4.
図8は、この発明の実施の形態4における測角装置の構成図の一例である。図8に示す測角装置では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出したのち、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求めるところまでは、実施の形態1〜3と同じであり、補正係数算出部8については、実施の形態1〜3のいずれかを用いればよい。
【0026】
そして、補正処理部9−1〜9−Lにより各観測データを補正した補正データを、フーリエ変換部16−1〜16−Lで周波数データへ変換し、帯域抽出処理部17−1〜17−Lで電力が集中する周波数付近のデータのみを抽出する。そして、測角処理部5が、上記抽出データを用いて測角処理を実施する。または、上記抽出データを逆フーリエ変換してから測角処理を実施してもよい。
また、フーリエ変換部16−1〜16−Lと帯域抽出処理部17−1〜17−Lの機能を帯域制限フィルタ(図示せず)で代替することも可能である。
【0027】
この実施の形態4による測角装置では、実施の形態1〜3同様、補正処理部9−1〜9−Lを適用したことにより、帯域の狭い特定の周波数帯に信号電力を集中できているので、その特定の周波数帯以外の帯域のデータ(主に雑音成分)を削除することにより、その電力が集中する帯域のデータのみを抽出するものである。例えば、補正処理部9−1〜9−Lを通過したデータをフーリエ変換すると、特定の周波数帯に信号電力が集中しているため、帯域抽出処理部17−1〜17−Lでは、その特定の周波数帯に対応するデータのみを取り出す処理を行う。
【0028】
以上のように、この実施の形態4によれば、実施の形態1〜3同様、広帯域信号の信号電力を変換/補正することで、帯域の狭い特定の周波数帯へ仮想的に電力を集中したので、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、MUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
また、上記実施の形態1〜3同様の効果に加え、この実施の形態4によれば、その電力が集中する帯域のデータのみを抽出するようにしたので、信号対雑音電力比を向上させて、測角処理の推定精度を向上することができる。
【0029】
実施の形態5.
図9は、この発明の実施の形態5における測角装置の構成図の一例である。図9に示す測角装置では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出したのち、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求めるところまでは、実施の形態1〜3と同じであり、補正係数算出部8については、実施の形態1〜3のいずれかを用いればよい。そして、補正処理部9−1〜9−Lにより各観測データを補正した補正データを、フーリエ変換部16−1〜16−Lで周波数データへ変換し、帯域抽出処理部17−1〜17−Lで特定帯域のデータを抽出する。
【0030】
ここで、この図9に示す測角装置では、広帯域信号の電力を単一周波数に集中するものではなく、特に観測データに複数の信号が存在する場合に、広帯域信号の帯域幅より狭い帯域幅内の複数の周波数に電力を集めることを特徴とする。よって、周波数の異なる電力を更に集中させるため、図9の測角装置における補間処理部18では、非特許文献2に見られるような補間処理、すなわち、特定帯域のデータに対して、その特定帯域内の周波数に依存する補間処理を実施する。
【0031】
また、上記のように図9に示す測角装置において狭い帯域幅内の複数の周波数に電力を集める理由は、観測データに含まれる複数の信号が干渉するためである。よって、測角処理部5は、電力が集まった周波数の数(複数の信号が干渉している観測データの周波数の数)に基づいて、すなわち、周波数データにおける電力分布に基づいて、観測データに含まれる信号の数を推定することができる。
ここで、測角処理部5において使用可能なアルゴリズムは、信号の数を入力または推定することを必要とすることがあり、本発明においては、この信号の数を求めることも、測角処理の一部として扱っている。そして、このように信号の数を推定するアルゴリズムは、高分解能な測角処理を実施できる。
【0032】
以上のように、この実施の形態5によれば、実施の形態4同様、広帯域信号の信号電力を変換/補正することで、帯域の狭い特定の周波数帯へ仮想的に電力を集中したので、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、MUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
また、その電力が集中する帯域のデータのみを抽出するようにしたので、信号対雑音電力比を向上させて、測角処理の推定精度を向上することができる。
さらに、上記実施の形態4同様の効果に加え、この実施の形態5によれば、補間処理部18により、周波数の異なる電力を更に集中させ、測角処理部5で使用可能なアルゴリズムが信号の数を推定するようにしたので、より高分解能な測角処理を実施することができる。
【0033】
実施の形態6.
図10は、この発明の実施の形態6における測角装置の構成図の一例である。図10に示す測角装置では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出したのち、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求め、測角処理部5が、それらの補正データを用いて測角処理を実施するところまでは、実施の形態1〜3と同じであり、補正係数算出部8については、実施の形態1〜3のいずれかを用いればよい。
【0034】
ここで、図10に示す測角装置の特徴の一つとして、逆補正処理部20で実施される補正処理が可逆変換であることが挙げられる。図10に示す測角装置は、測角処理部5の後段で信号分離部19が、補正データに含まれる信号成分の分離処理を実施する。この際、信号分離部19は、測角処理部5の測角処理結果に基づいて信号分離係数を算出し、当該信号分離係数を、補正データに適用して分離信号を得る。そして、このようにして得られた分離信号を、逆補正処理部20が、補正係数算出部8により算出された補正係数に基づいて逆補正する。
【0035】
この発明の実施の形態6では、補正データの信号分離結果に逆変換を実施することで、観測データに含まれる信号成分が精度よく分離できる。広帯域信号の観測データに対して従来通りの信号分離処理を適用すると、所望の分離性能が得られないことが知られている。そこで、図10に示す測角装置のように仮想的に狭帯域信号へ変換して信号分離を実施して逆変換をすることで、精度の良い信号分離処理が実現される。
【0036】
なお、センサ1−1〜1−Lで観測する信号は時系列順に意味(通信情報)を持つものであるが、この発明(実施の形態1〜6)では、補正処理部9−1〜9−Lで時系列順を破壊している。しかし、この図10に示す測角装置では、逆補正処理部20で実施される補正処理が可逆変換であるため、破壊したものを再生可能であるという特長があり、特に、信号分離部19の後段で再生することにより、発明の効果を得た上で元の信号の情報も保持できるという効果もある。
【0037】
以上のように、この実施の形態6における測角装置によれば、実施の形態1〜3同様、広帯域信号の信号電力を変換/補正することで、帯域の狭い特定の周波数帯へ仮想的に電力を集中したので、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、MUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
また、上記実施の形態1〜3同様の効果に加え、仮想的に狭帯域信号へ変換して信号分離を実施して逆変換するようにしたので、精度の良い信号分離処理を実現することができる。さらに、元の情報も保持できるという効果もある。
【0038】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1,1−1〜1−L センサ、2,2−1〜2−L 周波数変換部、3 帯域分割処理部、4,4−1〜4−M 相関行列算出部、5,5−1〜5−M 測角処理部、6 角度平均処理部、7 推定角度出力部、8 補正係数算出部、9,9−1〜9−L 補正処理部、10,10−1〜10−L 合成ウェイト、11 位相値算出部、12 並べ替え順算出部、13 位相変換係数算出部、14 振幅値算出部、15 振幅変換係数算出部、16,16−1〜16−L フーリエ変換部、17,17−1〜17−L 帯域抽出処理部、18 補間処理部、19 信号分離部、20 逆補正処理部、21 変換係数合成部。
【技術分野】
【0001】
この発明は、信号源から到来する広帯域信号を受信し、到来信号の入射角度(信号源の方位)を推定する測角装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間的に並べて配置された複数のセンサを用いる測角装置では、各センサで受信された観測データ間に存在する振幅差や位相差に基づいて到来信号の入射角度が推定される。並べて配置された複数のセンサを用いて到来信号の入射角度を推定するものとして、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法等を用いる測角装置が知られている(例えば、特許文献1,2及び非特許文献1等、参照)。
【0003】
帯域幅が広い到来信号の入射角度を上記測角装置で推定すると、帯域幅が狭い到来信号の入射角度を推定する場合と比べて、入射角度が一意に定まらないなど推定精度の低下が見られる。これは、帯域毎に波長と素子間隔の比率が変化するためである。このため、例えば、特許文献1,2や非特許文献1には、測角装置でMUSIC法などを実施する場合、到来信号の観測データを複数の帯域に分割してから、帯域毎に測角処理を実施することが記載されている。このように、狭帯域な信号の観測データに対しては、信号の周波数で一意に決まる波長に基づいて入射角度を推定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−47864号公報
【特許文献2】特許第4309110号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Krim and M.Viberg,“Two Decades of Array Signal Processing Research:The Parametric Approach”,IEEE Signal Processing Magazine,Vol.13,No.4,pp.67−94,Jul 1996
【非特許文献2】Y.OGAWA,N.HAMAGUCHI,K.OHSHIMA,K.ITOH,“High−Resolution Analysis of Indoor Multipath Propagation Structure”,IEICE Trans.,vol.E78−B,no.11,pp.1450−1457,Nov 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような従来の測角装置では、信号波長に基づいて入射角度を推定するため、到来信号の周波数帯域幅が広い場合には、その信号の観測データに対して波長が一意に定められないので、帯域毎にセンサ間隔の波長比が変化する影響を受けないように、信号成分を複数の小さな周波数帯域に分割し、小さな周波数帯域毎に測角処理を実施する必要があった。すなわち、複数の測角処理を実施しなければならず、演算装置規模が大きくなるとともに、処理時間がかかる、という課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、広帯域信号を仮想的に狭帯域信号へ変換する測角装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、この発明は、信号を観測する複数のセンサと、当該センサで観測した観測データを用いて前記信号の入射角度を推定する測角装置において、前記観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、前記観測データを前記補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、前記補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明の信号処理装置によれば、広帯域信号であっても複数の測角処理部を備える必要がないので、仮想的に狭帯域信号として処理することが可能となり、その信号の観測データに対して波長が一意に定められるようになるため、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、従来より知られているMUSIC法等の狭帯域信号用の測角アルゴリズムを使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来の測角装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1における測角装置の構成図の一例である。
【図3】この発明の実施の形態1における測角装置の構成図の別の例である。
【図4】この発明の実施の形態1における補正係数算出部の構成例である。
【図5】この発明の実施の形態2における補正係数算出部の構成例である。
【図6】この発明の実施の形態3における補正係数算出部の構成例である。
【図7】この発明の実施の形態3における補正係数算出部の別の構成例である。
【図8】この発明の実施の形態4における測角装置の構成図の一例である。
【図9】この発明の実施の形態5における測角装置の構成図の一例である。
【図10】この発明の実施の形態6における測角装置の構成図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、広帯域信号を測角する場合における従来の測角装置の構成図である。センサ1−1〜1−Lで観測した時系列データをそれぞれ周波数変換部2−1〜2−Lで周波数データに変換し、全センサ(L個)分の周波数データを帯域分割処理部3で複数(M個)の帯域ブロックに分割する。各帯域ブロックでは、相関行列算出部4−1〜4−Mで相関行列を算出し、測角処理部5−1〜5−Mで測角処理していた。このように、1つの到来信号に対して得られたM個の測角値について角度平均処理部6で平均値を計算し、その平均値を推定角度出力部7から出力していた。このように、図1に示すような従来の測角装置では、測角処理部5を複数(M個)備える必要があった。
【0012】
図2は、この発明の実施の形態1における測角装置の構成図である。この実施の形態1では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出し、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求める。この際、補正処理部9−1〜9−Lを備えているので、補正係数算出部8で算出する補正係数によって、帯域の狭い特定の周波数帯に信号電力を集中できる補正データを得ることができる。すなわち、広帯域信号が仮想的に狭帯域信号に変換されるため、信号の観測データに対して波長が一意に定められるようになるので、測角処理部5は1つでよい。
【0013】
この際、補正係数算出部8としては、図2に示すように、一つのセンサ1−1の観測データから補正係数を算出する例や、図3に示すように、複数のセンサ1−1〜1−Lの観測データを合成して補正係数を算出する例が考えられる。そして、補正処理部9−1〜9−Lは、補正係数算出部8により算出された補正係数を用いて各観測データの補正データを求め、測角処理部5が、それらの補正データを用いて測角処理を実施する。
【0014】
ここで、図3における補正係数算出部8が複数の観測データを合成する方法について説明する。図4は、補正係数算出部8の構成の一例である。この図では、補正係数算出部8は、各センサ1−1〜1−Lの観測データに重み係数である合成ウェイト10−1〜10−Lをかけて複数の観測データを合成する。この重み係数である合成ウェイト10−1〜10−Lは、測角装置の作動前に設定した初期値を使用し続ける場合や、測角結果に基づいて変更する場合がある。
また、合成ウェイト10−1〜10−Lは、観測データの合成処理を実施する時点より以前に観測された観測データに基づいて実施した測角処理結果を参照し、その測角処理結果に基づいて更新される、すなわち、その測角処理結果を用いて観測データを合成するようにしてもよい。例えば、以前の測角処理結果として得られた信号の入射角度に対して、指向性合成による合成ビームを向けるようなウェイトへ変更する場合がある。
【0015】
また、図2において、補正係数を得るために使用する観測データを観測する一つのセンサとしては、複数のセンサ1−1〜1−Lが物理的に分布する範囲の中心付近に存在する一つのセンサを選択し、そのセンサの観測データを用いるようにしてもよい。さらに、図3のように、補正係数を得るために複数のセンサ1−1〜1−Lの観測データを使用する場合にも、同様に中心付近の複数のセンサを選択し、それらのセンサの観測データを用いるようにしてもよい。この選択方法は、物理的に距離が近い複数のセンサを選択する、という点においても意味のあることである。すなわち、広帯域信号は、センサ間の物理的距離が大きいと観測データ間の相関が低下して合成が困難となる場合があるため、距離が近いセンサを選択することに意味があるのである。
【0016】
以上のように、この実施の形態1によれば、観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、観測データを補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部とを備えるようにしたので、従来のように複数の周波数帯域に分割(例えばフーリエ変換)することなく、従来より知られているMUSIC法等の測角処理を使用できるようなデータ状態へ変換することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
【0017】
実施の形態2.
図5は、この発明の実施の形態2における補正係数算出部8の構成の一例を示す図である。補正係数算出部8以外の構成については、実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を省略する。この図5に示す補正係数算出部8では、一つの観測データまたは複数の観測データの合成値の位相値を位相値算出部11で算出し、並べ替え順算出部12において時系列順に並んだ複数の位相値による位相値群の並べ替えを行い、この並べ替え順を補正係数とする。すなわち、時系列順に並んだ観測データを位相値順に並べ替え、そのような並べ替えが行われる補正係数を算出する。位相値群に含まれる位相値の個数は、測角処理で使用する統計処理における平均母数に依存する。並べ替え順が昇順か降順かは、本発明による効果に有意な影響が無いため、どちらか一方に定めない。
【0018】
このように、補正係数算出部8が算出する補正係数を、観測データが位相値順に並べ替えられる補正係数とする場合、補正処理部9−1〜9−Lではその補正係数に従って時系列順に並んでいた観測データが位相値順に並べ替えられた補正データを得る。一般的に、デジタル通信などの広帯域信号は、時系列で隣り合うデータ間において位相値の変化を大きくすることで広帯域性を得ており、これを位相値順に並べ替えることによって、広帯域性を失わせることができるのである。そして、このように並べ替えられた補正データは、データ列に位相変化が乏しいため、信号電力は直流成分付近に集まり、例えば中間周波数帯における直流成分付近に信号電力が集中する。
【0019】
上記補正データを用いた測角処理は、従来から用いられているアルゴリズムであるモノパルス推定法やDBF、最尤法、Capon法、MUSIC法、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)、MODE(Method Of Direction Estimation)、SAGE(Space−Alternating Generalized Expectation−maximization algorithm)、VESPA(Virtual ESPRIT Algorithm)などに基づくものが使用できる。
【0020】
以上のように、この実施の形態2によれば、観測データを位相値順に並べ替えた補正データを得るようにして直流成分付近に信号電力を集中させるようにしたので、広帯域性が失われ、従来のように複数の周波数帯域に分割(例えばフーリエ変換)することなく、従来より知られているMUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
【0021】
実施の形態3.
図6は、この発明の実施の形態3における補正係数算出部8の構成の一例である。補正係数算出部8以外の構成については、実施の形態1と同じであるため、ここでは説明を省略する。この図6に示す補正係数算出部8では、位相値算出部11で観測データから位相値群を算出し、位相変換係数算出部13で位相値群を特定の位相状態へ変換するための位相変換係数を算出する。特定の位相状態として、位相値群を一定位相値へ揃えることがある。位相値群を一定位相値へ揃える場合は、データ列に位相変化がないため、信号電力は直流になる。すなわち、位相変換係数を補正係数とした補正処理部9−1〜9−Lで観測データを補正した補正データは、例えば中間周波数帯における直流成分付近に信号電力を集中させる。また、位相値群を時系列の関数となる位相値へ位相変換する位相変換係数を算出することも可能である。位相値群を時系列の関数となるように変換する場合は、等間隔の時系列に対して位相値が単調増加するような関数を選択すれば、直流成分以外の特定の周波数成分付近に信号電力を集中させることもできる。
【0022】
図7は、この発明の実施の形態3における補正係数算出部8の構成の別の一例である。この図7に示す補正係数算出部8では、振幅値算出部14で観測データから振幅値群を算出し、振幅変換係数算出部15で振幅値群を一定振幅値へ変換する振幅変換係数を算出する。そして、変換係数合成部21は、振幅変換係数を、位相変換係数算出部13で得られた位相変換係数と合成して、補正係数とする。
【0023】
図7に示す補正係数算出部8では、複素数データによる補正係数の算出、または、IQデータによる補正係数の算出と同義である。
図6に示す補正係数算出部8または図6に示す補正係数算出部8で得られた補正係数で補正された補正データを用いた測角処理は、従来から用いられるアルゴリズムに基づくものを使用できる。ただし、観測データに複数の信号成分が含まれる場合、最尤法に基づくアルゴリズムや、空間平均法を併用するアルゴリズムが使用される。これらアルゴリズムの使用に関しては、従来の測角装置と同様であるため、説明を省略する。
【0024】
以上のように、この実施の形態3によれば、直流成分以外の特定の周波数成分付近に信号電力を集中させるようにしたので、実施の形態2同様、広帯域性が失われ、従来のように複数の周波数帯域に分割(例えばフーリエ変換)することなく、従来より知られているMUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
【0025】
実施の形態4.
図8は、この発明の実施の形態4における測角装置の構成図の一例である。図8に示す測角装置では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出したのち、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求めるところまでは、実施の形態1〜3と同じであり、補正係数算出部8については、実施の形態1〜3のいずれかを用いればよい。
【0026】
そして、補正処理部9−1〜9−Lにより各観測データを補正した補正データを、フーリエ変換部16−1〜16−Lで周波数データへ変換し、帯域抽出処理部17−1〜17−Lで電力が集中する周波数付近のデータのみを抽出する。そして、測角処理部5が、上記抽出データを用いて測角処理を実施する。または、上記抽出データを逆フーリエ変換してから測角処理を実施してもよい。
また、フーリエ変換部16−1〜16−Lと帯域抽出処理部17−1〜17−Lの機能を帯域制限フィルタ(図示せず)で代替することも可能である。
【0027】
この実施の形態4による測角装置では、実施の形態1〜3同様、補正処理部9−1〜9−Lを適用したことにより、帯域の狭い特定の周波数帯に信号電力を集中できているので、その特定の周波数帯以外の帯域のデータ(主に雑音成分)を削除することにより、その電力が集中する帯域のデータのみを抽出するものである。例えば、補正処理部9−1〜9−Lを通過したデータをフーリエ変換すると、特定の周波数帯に信号電力が集中しているため、帯域抽出処理部17−1〜17−Lでは、その特定の周波数帯に対応するデータのみを取り出す処理を行う。
【0028】
以上のように、この実施の形態4によれば、実施の形態1〜3同様、広帯域信号の信号電力を変換/補正することで、帯域の狭い特定の周波数帯へ仮想的に電力を集中したので、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、MUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
また、上記実施の形態1〜3同様の効果に加え、この実施の形態4によれば、その電力が集中する帯域のデータのみを抽出するようにしたので、信号対雑音電力比を向上させて、測角処理の推定精度を向上することができる。
【0029】
実施の形態5.
図9は、この発明の実施の形態5における測角装置の構成図の一例である。図9に示す測角装置では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出したのち、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求めるところまでは、実施の形態1〜3と同じであり、補正係数算出部8については、実施の形態1〜3のいずれかを用いればよい。そして、補正処理部9−1〜9−Lにより各観測データを補正した補正データを、フーリエ変換部16−1〜16−Lで周波数データへ変換し、帯域抽出処理部17−1〜17−Lで特定帯域のデータを抽出する。
【0030】
ここで、この図9に示す測角装置では、広帯域信号の電力を単一周波数に集中するものではなく、特に観測データに複数の信号が存在する場合に、広帯域信号の帯域幅より狭い帯域幅内の複数の周波数に電力を集めることを特徴とする。よって、周波数の異なる電力を更に集中させるため、図9の測角装置における補間処理部18では、非特許文献2に見られるような補間処理、すなわち、特定帯域のデータに対して、その特定帯域内の周波数に依存する補間処理を実施する。
【0031】
また、上記のように図9に示す測角装置において狭い帯域幅内の複数の周波数に電力を集める理由は、観測データに含まれる複数の信号が干渉するためである。よって、測角処理部5は、電力が集まった周波数の数(複数の信号が干渉している観測データの周波数の数)に基づいて、すなわち、周波数データにおける電力分布に基づいて、観測データに含まれる信号の数を推定することができる。
ここで、測角処理部5において使用可能なアルゴリズムは、信号の数を入力または推定することを必要とすることがあり、本発明においては、この信号の数を求めることも、測角処理の一部として扱っている。そして、このように信号の数を推定するアルゴリズムは、高分解能な測角処理を実施できる。
【0032】
以上のように、この実施の形態5によれば、実施の形態4同様、広帯域信号の信号電力を変換/補正することで、帯域の狭い特定の周波数帯へ仮想的に電力を集中したので、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、MUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
また、その電力が集中する帯域のデータのみを抽出するようにしたので、信号対雑音電力比を向上させて、測角処理の推定精度を向上することができる。
さらに、上記実施の形態4同様の効果に加え、この実施の形態5によれば、補間処理部18により、周波数の異なる電力を更に集中させ、測角処理部5で使用可能なアルゴリズムが信号の数を推定するようにしたので、より高分解能な測角処理を実施することができる。
【0033】
実施の形態6.
図10は、この発明の実施の形態6における測角装置の構成図の一例である。図10に示す測角装置では、センサ1(1−1〜1−L)の観測データに基づいて補正係数算出部8が補正係数を算出したのち、補正処理部9−1〜9−Lがその補正係数を用いて各観測データを補正した補正データを求め、測角処理部5が、それらの補正データを用いて測角処理を実施するところまでは、実施の形態1〜3と同じであり、補正係数算出部8については、実施の形態1〜3のいずれかを用いればよい。
【0034】
ここで、図10に示す測角装置の特徴の一つとして、逆補正処理部20で実施される補正処理が可逆変換であることが挙げられる。図10に示す測角装置は、測角処理部5の後段で信号分離部19が、補正データに含まれる信号成分の分離処理を実施する。この際、信号分離部19は、測角処理部5の測角処理結果に基づいて信号分離係数を算出し、当該信号分離係数を、補正データに適用して分離信号を得る。そして、このようにして得られた分離信号を、逆補正処理部20が、補正係数算出部8により算出された補正係数に基づいて逆補正する。
【0035】
この発明の実施の形態6では、補正データの信号分離結果に逆変換を実施することで、観測データに含まれる信号成分が精度よく分離できる。広帯域信号の観測データに対して従来通りの信号分離処理を適用すると、所望の分離性能が得られないことが知られている。そこで、図10に示す測角装置のように仮想的に狭帯域信号へ変換して信号分離を実施して逆変換をすることで、精度の良い信号分離処理が実現される。
【0036】
なお、センサ1−1〜1−Lで観測する信号は時系列順に意味(通信情報)を持つものであるが、この発明(実施の形態1〜6)では、補正処理部9−1〜9−Lで時系列順を破壊している。しかし、この図10に示す測角装置では、逆補正処理部20で実施される補正処理が可逆変換であるため、破壊したものを再生可能であるという特長があり、特に、信号分離部19の後段で再生することにより、発明の効果を得た上で元の信号の情報も保持できるという効果もある。
【0037】
以上のように、この実施の形態6における測角装置によれば、実施の形態1〜3同様、広帯域信号の信号電力を変換/補正することで、帯域の狭い特定の周波数帯へ仮想的に電力を集中したので、帯域毎に測角処理を実施する必要がなく、MUSIC法等の測角処理を使用することができる。また、複数の測角処理部を備える必要がないため、測角装置を小型化できるとともに、処理時間を短縮することができる。さらに、電力消費量の削減や、稼働時間の長時間化がはかれるという効果もある。
また、上記実施の形態1〜3同様の効果に加え、仮想的に狭帯域信号へ変換して信号分離を実施して逆変換するようにしたので、精度の良い信号分離処理を実現することができる。さらに、元の情報も保持できるという効果もある。
【0038】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0039】
1,1−1〜1−L センサ、2,2−1〜2−L 周波数変換部、3 帯域分割処理部、4,4−1〜4−M 相関行列算出部、5,5−1〜5−M 測角処理部、6 角度平均処理部、7 推定角度出力部、8 補正係数算出部、9,9−1〜9−L 補正処理部、10,10−1〜10−L 合成ウェイト、11 位相値算出部、12 並べ替え順算出部、13 位相変換係数算出部、14 振幅値算出部、15 振幅変換係数算出部、16,16−1〜16−L フーリエ変換部、17,17−1〜17−L 帯域抽出処理部、18 補間処理部、19 信号分離部、20 逆補正処理部、21 変換係数合成部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を観測する複数のセンサと、当該センサで観測した観測データを用いて前記信号の入射角度を推定する測角装置において、
前記観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、
前記観測データを前記補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、
前記補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部と
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項2】
前記補正係数を算出するための前記観測データは、1つの前記センサで観測されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の測角装置。
【請求項3】
前記補正係数を算出するための前記観測データは、前記複数のセンサで観測された複数の観測データであり、
前記補正係数算出部は、前記複数の観測データを合成してから前記補正係数を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の測角装置。
【請求項4】
前記補正係数算出部が、前記複数の観測データを合成してから前記補正係数を算出する際に、所定値に基づいて前記複数の観測データを合成する
ことを特徴とする請求項3記載の測角装置。
【請求項5】
前記補正係数算出部が、前記複数の観測データを合成してから前記補正係数を算出する際に、前記観測データより以前に観測された観測データに基づいて実施した測角処理結果を参照し、前記測角処理結果を用いて前記複数の観測データを合成する
ことを特徴とする請求項3記載の測角装置。
【請求項6】
前記観測データの位相値を算出する位相値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記位相値の群を昇順または降順に並べ替える並べ替え順を算出する並べ替え順算出部と
をさらに備え、
前記補正処理部が、前記並べ替え順を補正係数として、前記観測データを時系列順から位相値順に並べ替えることにより前記補正データを得る
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項7】
前記観測データの位相値を算出する位相値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記位相値の群を一定位相値に位相変換する位相変換係数を算出する位相変換係数算出部と
をさらに備え、
前記補正処理部が、前記位相変換係数を補正係数として、前記観測データに当該補正係数を適用して前記補正データを得る
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項8】
前記観測データの位相値を算出する位相値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記位相値の群を時系列の関数となる位相値へ位相変換する位相変換係数を算出する位相変換係数算出部と
をさらに備え、
前記補正処理部が、前記位相変換係数を補正係数として、前記観測データに当該補正係数を適用して前記補正データを得る
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項9】
前記観測データの振幅値を算出する振幅値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記振幅値の群を一定振幅値に変換する振幅変換係数を算出する振幅変換係数算出部と、
前記位相変換係数に前記振幅変換係数を付加する変換係数合成部
をさらに備えることを特徴とする請求項7または請求項8記載の測角装置。
【請求項10】
前記補正係数を算出するための前記観測データは、前記複数のセンサが空間的に分布する中心付近のセンサの観測データである
ことを特徴とする請求項1から請求項9のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項11】
前記補正データへフーリエ変換を適用して周波数データを得るフーリエ変換部と、
前記周波数データから特定帯域のデータを抽出する帯域抽出処理部
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項12】
前記補正データに対して、帯域通過フィルタを施す制限帯域フィルタ
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項13】
前記特定帯域のデータに対して、
当該特定帯域内の周波数に依存する補間処理を施す補間処理部
をさらに備えることを特徴とする請求項11記載の測角装置。
【請求項14】
前記周波数データにおける電力分布に基づいて、
前記観測データに含まれる信号の数を推定する機能
を有することを特徴とする請求項11または請求項13記載の測角装置。
【請求項15】
前記測角処理部の測角処理結果に基づいて信号分離係数を算出し、当該信号分離係数を前記補正データに適用して分離信号を得る信号分離部と、
前記分離信号を前記補正係数に基づいて逆補正する逆補正処理部
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項14のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項1】
信号を観測する複数のセンサと、当該センサで観測した観測データを用いて前記信号の入射角度を推定する測角装置において、
前記観測データに基づいて補正係数を算出する補正係数算出部と、
前記観測データを前記補正係数で補正した補正データを得る補正処理部と、
前記補正データを用いて測角処理を実施する測角処理部と
を備えることを特徴とする測角装置。
【請求項2】
前記補正係数を算出するための前記観測データは、1つの前記センサで観測されたものである
ことを特徴とする請求項1記載の測角装置。
【請求項3】
前記補正係数を算出するための前記観測データは、前記複数のセンサで観測された複数の観測データであり、
前記補正係数算出部は、前記複数の観測データを合成してから前記補正係数を算出する
ことを特徴とする請求項1記載の測角装置。
【請求項4】
前記補正係数算出部が、前記複数の観測データを合成してから前記補正係数を算出する際に、所定値に基づいて前記複数の観測データを合成する
ことを特徴とする請求項3記載の測角装置。
【請求項5】
前記補正係数算出部が、前記複数の観測データを合成してから前記補正係数を算出する際に、前記観測データより以前に観測された観測データに基づいて実施した測角処理結果を参照し、前記測角処理結果を用いて前記複数の観測データを合成する
ことを特徴とする請求項3記載の測角装置。
【請求項6】
前記観測データの位相値を算出する位相値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記位相値の群を昇順または降順に並べ替える並べ替え順を算出する並べ替え順算出部と
をさらに備え、
前記補正処理部が、前記並べ替え順を補正係数として、前記観測データを時系列順から位相値順に並べ替えることにより前記補正データを得る
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項7】
前記観測データの位相値を算出する位相値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記位相値の群を一定位相値に位相変換する位相変換係数を算出する位相変換係数算出部と
をさらに備え、
前記補正処理部が、前記位相変換係数を補正係数として、前記観測データに当該補正係数を適用して前記補正データを得る
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項8】
前記観測データの位相値を算出する位相値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記位相値の群を時系列の関数となる位相値へ位相変換する位相変換係数を算出する位相変換係数算出部と
をさらに備え、
前記補正処理部が、前記位相変換係数を補正係数として、前記観測データに当該補正係数を適用して前記補正データを得る
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項9】
前記観測データの振幅値を算出する振幅値算出部と、
前記観測データの観測時系列順に並んだ前記振幅値の群を一定振幅値に変換する振幅変換係数を算出する振幅変換係数算出部と、
前記位相変換係数に前記振幅変換係数を付加する変換係数合成部
をさらに備えることを特徴とする請求項7または請求項8記載の測角装置。
【請求項10】
前記補正係数を算出するための前記観測データは、前記複数のセンサが空間的に分布する中心付近のセンサの観測データである
ことを特徴とする請求項1から請求項9のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項11】
前記補正データへフーリエ変換を適用して周波数データを得るフーリエ変換部と、
前記周波数データから特定帯域のデータを抽出する帯域抽出処理部
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項12】
前記補正データに対して、帯域通過フィルタを施す制限帯域フィルタ
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項10のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【請求項13】
前記特定帯域のデータに対して、
当該特定帯域内の周波数に依存する補間処理を施す補間処理部
をさらに備えることを特徴とする請求項11記載の測角装置。
【請求項14】
前記周波数データにおける電力分布に基づいて、
前記観測データに含まれる信号の数を推定する機能
を有することを特徴とする請求項11または請求項13記載の測角装置。
【請求項15】
前記測角処理部の測角処理結果に基づいて信号分離係数を算出し、当該信号分離係数を前記補正データに適用して分離信号を得る信号分離部と、
前記分離信号を前記補正係数に基づいて逆補正する逆補正処理部
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項14のうちのいずれか1項記載の測角装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−237716(P2012−237716A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108361(P2011−108361)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
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