説明

湿度制御方法及び環境試験装置

【課題】環境試験装置において、試験槽内に添加ガスを導入した場合でも正確に湿度調整ができる構成を提供する。
【解決手段】加湿水4を貯溜するとともに内部に試料8を設置可能な圧力容器(試験槽)2を備え、この圧力容器2の内部には添加ガスを導入可能に構成されている。当該圧力容器2の内部には加湿水温度センサ19とウィック温度センサ20とが備えられている。前記添加ガスが前記圧力容器2の内部に導入され、かつ100℃以上の温度で前記圧力容器2の内部の温度及び湿度が安定しているときの、前記加湿水温度センサ19の検出温度と前記ウィック温度センサ20の検出温度の関係から、補正量を算出する。その後、前記ウィック温度センサ20の検出値を前記補正量に基づいて補正し、この補正後の値に基づいて前記圧力容器2の湿度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気部品、電子部品等の信頼性評価試験で用いられる環境試験装置等における湿度制御方法、及びそのような方法を行う環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製品の信頼性試験を行うために、温度や湿度の過酷な環境に製品を晒して、製品が各種の環境で正常に動作するかどうかを確認したり、寿命を推定したりする目的で、各種の環境試験装置が使用されている。この種の環境試験装置としては、例えば、短時間で評価結果が得られるように過酷な環境試験(High Accelerated Stress Test、略称HAST)を行う高度加速寿命試験装置がある。
【0003】
この高度加速寿命試験装置では、100℃以上の恒温恒湿試験環境を試験槽内に形成することが多いが、この場合、槽内は水蒸気のみとなり、このときの湿度は、加湿水温度、試験槽内の温度それぞれの飽和蒸気圧の比で定義される。即ち、所定の温度T2に設定した雰囲気内の水の水蒸気圧と飽和状態になっている雰囲気を、T2より高い温度T1に設定した雰囲気へ導いてその温度を十分ならしたときの相対湿度は、以下の式(1)で表される。
(相対湿度)=((T2での飽和水蒸気圧)/(T1での飽和水蒸気圧))×100 ・・・(1)
【0004】
一方、試験槽内を85℃以下、及び98%以下の恒温恒湿環境とした場合、槽内には空気と水蒸気が混合した環境が実現される。このときの湿度測定方法としては、乾球温度計と、ウィックと呼ばれる布をかぶせて水で濡らせた湿球温度計を組にした乾湿球計を用いて測定することが知られている(湿球温度計の構成について、例えば特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平10−54814号公報
【0005】
ここで、通常の大気圧環境下での相対湿度の定義としては、以下の式(2)が知られている。
(相対湿度)=((気体中の水蒸気圧)/(同温度・同圧力のもとでの飽和水蒸気))×100 ・・・(2)
【0006】
上記の式(2)において、分数の分子(気体中の水蒸気圧)は、前記の湿球温度計の測定値から直接的に求めることはできない。湿球温度は、周囲の雰囲気の気圧や、風速や、放射や、電動及び滞留による熱の移動や、球部の大きさや、ウィックの巻き方や、水の温度等によって変化するからである。従って、多くの研究者によって上記の影響を補正するための関係式が研究されてきており、代表的なものとしては、ぺルンターの式やスプルングの式が広く利用されている。
【0007】
この乾湿球による温度制御は、設定された温度及び湿度に槽内環境が到達するまでの過程における湿度も制御することが可能であり、槽内の結露等を回避できるメリットがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、昨今の試験ニーズの多様化により、試験槽内に空気以外の任意の添加ガスを導入して試験を行われることも多くなってきている。この点、従来の湿球温度計を用いた制御では、添加ガスを導入しないときは制御を的確に行えるものの、添加ガス導入時には湿度制御が難しく、試験の再現性や互換性の点で改善の余地が残されていた。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の第1の観点によれば、加湿水を貯溜するとともに内部に試料を設置可能な試験槽における以下のような湿度制御方法が提供される。即ち、この試験槽の内部には添加ガスを導入可能に構成するとともに、当該試験槽の内部には加湿水温度センサとウィック温度センサとが備えられている。前記添加ガスが前記試験槽の内部に導入され、かつ100℃以上の温度で前記試験槽の内部の温度及び湿度が安定しているときの、前記加湿水温度センサの検出温度と前記ウィック温度センサの検出温度の関係から、補正量を算出する(補正量取得工程)。そして、前記ウィック温度センサの検出値を前記補正量に基づいて補正し、この補正後の値に基づいて前記試験槽の湿度を制御する(制御工程)。
【0011】
この方法により、添加ガスを導入した場合でもウィック温度センサの測定値を適宜補正して湿度制御できるので、精度が良く、再現性及び互換性に優れた試験を行うことができる。
【0012】
前記の湿度制御方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記試験槽においては、100℃以上の設定温度にまで上昇させる温度上昇工程と、温度を前記設定温度に保つとともに湿度を設定湿度に保つ恒温恒湿工程と、温度を設定温度から下降させる温度下降工程と、を少なくとも行うように構成している。前記恒温恒湿工程においては前記加湿水温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われる一方、前記温度上昇工程及び前記温度下降工程においては前記ウィック温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われる。前記温度上昇工程及び前記温度下降工程での湿度制御において、前記制御工程が行われる。
【0013】
この方法により、温度上昇工程及び温度下降工程においてウィック温度センサを用いて湿度制御を確実に行うことができるので、試料表面の不必要な結露を防ぐことができる。また、試験槽に添加ガスを導入した場合でもウィック温度センサの測定値を適切に補正するので、正確な湿度制御を行うことができる。
【0014】
前記の湿度制御方法においては、以下のようにすることが好ましい。即ち、前記温度上昇工程、前記恒温恒湿工程、及び前記温度下降工程の少なくとも何れかにおいて、前記加湿水温度センサ及び前記ウィック温度センサの検出温度を監視する。この監視によって制御乱れが検出された場合にはそれを報知する。
【0015】
この方法により、湿度の制御乱れを的確に自動モニタリングできるので、試験の精度を一層良好にできるとともに、装置のメンテナンス性を向上させることができる。
【0016】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の環境試験装置が提供される。即ち、加湿水を貯溜するとともに内部に試料を設置可能とし、且つ添加ガスを導入可能な試験槽と、前記加湿水の温度を検出する加湿水温度センサと、前記加湿水に浸漬されるウィックを備えたウィック温度センサと、前記添加ガスが前記試験槽の内部に導入され、かつ100℃以上の温度で前記試験槽の内部の温度及び湿度が安定しているときの、前記加湿水温度センサの検出温度と前記ウィック温度センサの検出温度の関係から、補正量を算出する、補正量算出手段と、前記ウィック温度センサの検出値を前記補正量に基づいて補正する温度補正手段と、この補正後の値に基づいて前記試験槽の湿度を制御する制御手段と、を含む。
【0017】
この構成により、添加ガスを導入した場合でもウィック温度センサの測定値を温度補正手段で適宜補正して湿度制御できるので、精度が良く、再現性及び互換性に優れた試験を行うことができる。
【0018】
前記の環境試験装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記試験槽においては、100℃以上の設定温度にまで上昇させる温度上昇工程と、温度を前記設定温度に保つとともに湿度を設定湿度に保つ恒温恒湿工程と、温度を設定温度から下降させる温度下降工程と、を少なくとも行うように構成している。前記恒温恒湿工程においては前記加湿水温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われる一方、前記温度上昇工程及び前記温度下降工程においては前記ウィック温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われる。前記温度上昇工程及び前記温度下降工程での湿度制御において、前記制御手段による制御が行われる。
【0019】
この構成により、温度上昇工程及び温度下降工程においてウィック温度センサを用いて湿度制御を確実に行うことができるので、試料表面の不必要な結露を防ぐことができる。また、試験槽に添加ガスを導入した場合でもウィック温度センサの測定値を適切に補正するので、正確な湿度制御を行うことができる。
【0020】
前記の環境試験装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記温度上昇工程、前記恒温恒湿工程、及び前記温度下降工程の少なくとも何れかにおいて、前記加湿水温度センサ及び前記ウィック温度センサの検出温度を監視する。この監視によって制御乱れが検出された場合にはそれを報知するための報知信号を発生する。
【0021】
この構成により、湿度の制御乱れを的確に自動モニタリングできるので、試験の精度を一層良好にできるとともに、装置のメンテナンス性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係るプレッシャークッカー試験装置の全体構成を示す側面断面模式図及びブロック図、図2は装置の制御を示すグラフ図、図3は補正量の取得原理を説明するグラフ図である。
【0023】
図1に模式断面図及びブロック図を示すプレッシャークッカー試験装置(高度加速寿命試験装置、環境試験装置)1は、一端を開放させる試験槽としての圧力容器2と、この圧力容器2の開放側を閉鎖可能なカバー3と、を備えている。圧力容器2の下部には所定量の加湿水4が貯溜されている。
【0024】
圧力容器2の内部には内シリンダ5が設置され、この内シリンダ5の内部にテストエリア6が構成されている。このテストエリア6には試料棚7が設置されており、この試料棚7の上に試料8を載置できるように構成されている。
【0025】
前記内シリンダ5は、前記圧力容器2の開放側と同一側が開放された構成になっている。また、内シリンダ5の閉鎖側端部の中央には送風口9が形成されており、この送風口9は保護網10によって覆われている。
【0026】
前記圧力容器2にはファン軸11が回転自在に軸支され、このファン軸11の先端に送風ファン12が固定されている。また、圧力容器2の外部には駆動モータ13が設置され、この駆動モータ13の出力軸14がカップリング15を介して前記ファン軸11に連結されている。これにより、駆動モータ13を回転駆動することで、前記送風ファン12を回転させ、圧力容器2内の気体を図の白抜き矢印のように循環させることができるようになっている。
【0027】
前記ファン軸11の周囲には加熱ヒータ16が設けられ、圧力容器2内の気体を加熱できるように構成されている。また、前記内シリンダ5の内部空間には器内温度センサ17が設けられ、圧力容器2内の温度(前記テストエリア6の温度)を検出できるようになっている。
【0028】
圧力容器2の内部空間の下部には加湿水ヒータ18が設けられ、この加湿水ヒータ18は加湿水4に浸漬されて、当該加湿水4を加熱できるように構成されている。また同様に、加湿水4に浸漬されるように加湿水温度センサ19が設けられており、この加湿水温度センサ19は前記加湿水4の温度を検出できるようになっている。
【0029】
また、前記圧力容器2にはウィック温度センサ20が備えられており、このウィック温度センサ20の先端の球部には、例えばガーゼで形成されたウィック21が被せられる。ウィック21の下端は前記加湿水4に浸漬されており、加湿水4を毛細管現象によって吸い上げるように構成されている。
【0030】
更に、前記圧力容器2には図示しないガス導入口が備えられており、このガス導入口から任意の種類及び量の添加ガスを圧力容器2内に導入できるように構成されている。この添加ガスとしては例えば酸素ガスが考えられるが、これに限定されない。
【0031】
プレッシャークッカー試験装置1はマイクロコンピュータ式の制御装置31を備えており、この制御装置31は演算手段としての図略のCPUや、記憶手段としてのROM、RAM等を備えている。そして、前記ROMには、上記のハードウェアを、補正量算出手段32、温度補正手段33、制御手段34等として動作させるためのプログラムが記憶されている。
【0032】
以上の構成において、まずウィック温度センサ20の検出温度の補正の基準となる補正量を取得する一例を説明する。即ち、室温環境下において圧力容器2の内部に適宜の加湿水4と前記添加ガスを導入する。今回は、例えば酸素ガスを圧力容器2内に2リットル導入したとする。この状態で、器内温度センサ17の検出温度とウィック温度センサ20の検出温度を取得しておく。今回の例では、器内温度センサ17の検出値が20℃、ウィック温度センサ20の検出値が15℃であったとする。
【0033】
次に、圧力容器2内が100℃以上の設定温度(例えば120℃)となるように、加熱ヒータ16で加熱する。これと同時に、加湿水4が所定の設定温度(例えば115℃)となるように加湿水ヒータ18で加熱する。そして制御装置31は、器内温度センサ17の検出温度が120℃で安定し、更に加湿水温度センサ19の検出温度が115℃で安定するまで待機する。
【0034】
上記の温度センサの検出値が安定した後、制御装置31はウィック温度センサ20の検出温度を取得し、加湿水温度センサ19の検出温度と比較する。今回の説明では、ウィック温度センサ20の検出温度は117℃であったとする(図3の点線グラフの右上端)。ここで、添加ガスが無い場合は、ウィック温度センサ20の検出温度は、加湿水温度センサ19の検出温度と同じ115℃(図3の実線グラフの右上端)であると経験的にみなすことができる。即ち、湿度が同じであるのでウィック温度センサ20は本来は115℃と検出すべきところを、酸素ガスが2リットル存在することの影響で117℃と検出してしまったことになる。
【0035】
なお、本願の発明者の知見によれば、酸素を1リットル添加するごとに、ウィック温度センサ20の検出温度は1℃ずつズレが大きくなっていくと推測される。酸素を添加しないときはウィック温度センサ20の測定値は115℃であるところ、1リットル添加だと116℃、2リットルだと117℃、3リットルだと118℃、といったようにである。
【0036】
上記の測定に基づき、制御装置31の補正量算出手段32は、ウィック温度センサ20の検出値(117℃)から加湿水温度センサ19の検出値(115℃)を減算することで、補正値dを算出する。そして、得られた補正値(d=2℃)と、測定時の加湿水温度センサの検出値(115℃)及び加熱前のウィック温度センサ20の測定値(15℃)に基づいて、補正係数eを算出する。この補正係数eの算出は、e=2/(115−15)=0.02となる。この補正係数eは、加熱前のウィック温度センサ20の測定値(15℃、基準温度)とともに、制御装置31の前記RAMに記憶させておく。
【0037】
次に、プレッシャークッカー試験装置1を用いた環境試験としての高度加速寿命試験を、図2のグラフに従って説明する。この試験は図2に示すように、時間の経過順に従って、温度上昇工程、恒温恒湿工程、温度下降工程、保存工程の順に行われる。
【0038】
まず、圧力容器2の内部の試料棚7上に電子部品等の試料8を載置し、適宜の種類及び量の添加ガスを前記ガス導入口を介して導入するとともに、所定の量の加湿水4を圧力容器2内に貯溜しておく。なお、圧力容器2へ導入する添加ガスの種類及び量は、前述の補正量の取得時の添加ガスの種類及び量と同一とする。前記の例に照らせば、圧力容器2へ2リットルの酸素ガスを導入することになる。
【0039】
以上のセッティング後、試験を開始する。まず温度上昇工程において、温度を100℃以上の設定温度(例えば120℃)へ直線的に上昇させるとともに、湿度も所定の高い湿度へ上昇させる。このときは制御手段34は湿球温度制御モードとされており、ウィック温度センサ20の検出温度を監視しながら加湿水ヒータ18の制御を行う。この結果、試料8の表面に結露が生じたりすることが防止される。
【0040】
なお本実施形態では、100℃以上になっても加湿水温度センサ19の検出温度による制御を行わず、ウィック温度センサ20の検出温度による制御を行っている。これでも、加湿水温度センサ19に基づく温度制御と実質的に同等の制御を実現できる。具体的には、温湿度安定時には加湿水温度がウィック温度とほぼ同じ温度になることを利用し、器内温度センサ17による検出温度をT1とし、ウィック温度センサ20による検出温度をT2としたときに、以下の式(3)で相対湿度を求めている。
(相対湿度)=((T3での飽和水蒸気圧)/(T1での飽和水蒸気圧))×100 ・・・(3)
【0041】
そして、このウィック温度センサ20の検出温度T2は、前記補正値に基づいて補正された形で用いられるため、外部からの添加ガスの存在の影響を加味した正確な湿度制御が可能になっている。
【0042】
具体的な補正方法については、以下のように行えば良い。即ち、器内温度センサ17の測定値から前記基準温度を減算し、その後、前述の補正係数eを乗じる。例えば器内温度センサ17の測定温度が40℃であった場合、これから基準温度(15℃)を減算し、更に前記で計算した補正係数eを乗じることで、(40−15)×0.02=0.5℃となる。従って、ウィック温度センサ20の測定値が20℃であった場合、この測定値20℃に補正値0.5℃を加算した20.5℃を、補正後のウィック温度センサ20として取得することができる。この補正後の検出温度から前記の式(3)に従って相対湿度を求め、制御に用いるのである。
【0043】
次に、恒温恒湿工程で、圧力容器2内の温度及び湿度を、設定温度及び設定湿度となるように所定時間保持する。このとき、制御手段は加湿水温度制御モードに切り換えられ、加湿水温度センサ19の検出温度を監視しながら加湿水ヒータ18の制御を行う。具体的には、前記の式(1)で、T2に加湿水温度センサ19の測定値を、T1に器内温度センサ17の測定値をそれぞれ代入し、相対湿度を算出して制御する。
【0044】
上記の恒温恒湿工程の後、温度下降工程で、温度を上記設定温度から直線的に下降させるとともに、湿度も設定湿度から下降させてゆく。このときは制御手段34は湿球温度制御モードに再び切り換えられ、上記の温度上昇工程と全く同様に、ウィック温度センサ20の検出温度を監視しながら加湿水ヒータ18の制御を行う。この結果、温度上昇工程と同様に、試料8の表面に結露が生じたりすることが防止される。上述したように、このウィック温度センサ20の検出温度は前記補正値に基づいて補正された形で用いられるため、外部からの添加ガスの存在の影響を加味した正確な湿度制御が可能になっている。
【0045】
以上のように、温度上昇工程ではウィック温度センサ20、恒温恒湿工程では加湿水温度センサ19、温度下降工程ではウィック温度センサ20というように、試験工程において湿度制御に用いられる温度センサが、制御手段34によって時系列で次々と切り換えられていく。
【0046】
ここで加湿水温度による湿度制御は、100℃以上の恒温恒湿環境において従来からの湿度の定義に沿った制御であるし、この従来からの定義は国際電気標準会議(IEC)の規格でも採用されて世界的にも認められたものである。しかも、加湿水温度による湿度制御は添加ガスの影響を殆ど受けない。従って、実質的な試験時間である恒温恒湿工程においてはウィック温度よりも加湿水温度で制御を行うことが好適である。一方、温度の上昇/下降時(大気圧と高気圧との間で切り換えるとき)においては加湿水温度に基づく湿度制御は不可能であって成り行きに任せるしかなく、試料8の表面に結露が生じることも多々あった。
【0047】
この点、本実施形態では、恒温恒湿工程では加湿水温度センサ19による湿度制御を行う一方、温度上昇工程及び温度下降工程においてはウィック温度センサ20による湿度制御を行っているので、温度上昇/下降時において適切に湿度を制御でき、試料8の結露を防止できる。しかも、添加ガスの種類や量を考慮してウィック温度センサ20の検出温度を補正して湿度制御するので、添加ガスの導入環境下でも正確に湿度を制御し、試験の再現性及び互換性を向上させることができるのである。
【0048】
なお、添加ガスによってウィック温度センサ20の検出温度の補正が必要になる旨の知見は、本願発明者によって初めて得られたものである。即ち、従来は、補正が必要であることの認識がそもそもなく、補正自体も勿論されていなかったのである。
【0049】
上記の3つの工程で一連の試験は終了し、後は保存工程とされる。この保存工程では、試料8が圧力容器2から取り出されるまで、前記の設定温度より低い温度、及び設定湿度より低い湿度に圧力容器2内の環境を維持する。この保存工程では制御手段34は湿球温度制御モードとされ、ウィック温度センサ20の検出温度を上記と同様に補正し、監視しながら内部湿度を制御している。
【0050】
なお、圧力容器2内が100℃以上の温度である場合、加湿水温度センサ19とウィック温度センサ20の測定温度がほぼ一致することが経験的に確かめられている。これを利用して、プレッシャークッカー試験装置1の制御装置31は、加湿水温度センサ19とウィック温度センサ20の測定温度を常時監視しており、両者の測定温度に所定以上の乖離があった場合は制御乱れがあったと判定し、外部端子35へ直ちに異常信号を送るようになっている。従って、制御乱れがあった場合は、前記外部端子35に接続した例えばランプやブザー等の報知手段36によって異常を知らせることができ、メンテナンス性を向上させることができる。
【0051】
以上に示すように、本実施形態のプレッシャークッカー試験装置1は、加湿水4を貯溜するとともに内部に試料8を設置可能な圧力容器2を備える。この圧力容器2の内部には添加ガスを導入可能に構成するとともに、当該圧力容器2の内部には加湿水温度センサ19とウィック温度センサ20とが備えられる。そしてプレッシャークッカー試験装置1では、前記添加ガスが前記圧力容器2の内部に導入され、かつ100℃以上の温度で前記圧力容器2の内部の温度及び湿度が安定しているときの、前記加湿水温度センサ19の検出温度と前記ウィック温度センサ20の検出温度の関係から、補正量を算出する。そして、図2の少なくとも温度上昇工程及び温度下降工程において、前記ウィック温度センサ20の検出値を前記補正量に基づいて補正し、この補正後の値に基づいて前記圧力容器2の湿度を制御する。
【0052】
これにより、添加ガスを導入した場合でもウィック温度センサ20の測定値を適宜補正して湿度制御できるので、精度が良く、再現性及び互換性に優れた試験を行うことができる。
【0053】
また、プレッシャークッカー試験装置1の圧力容器2内では、100℃以上の設定温度にまで上昇させる温度上昇工程と、温度を前記設定温度に保つとともに湿度を設定湿度に保つ恒温恒湿工程と、温度を設定温度から下降させる温度下降工程と、を少なくとも行うように構成している。そして、前記恒温恒湿工程においては前記加湿水温度センサ19の検出温度に基づく湿度制御が行われる一方、前記温度上昇工程及び前記温度下降工程においては前記ウィック温度センサ20の検出温度に基づく湿度制御が行われるようになっている。そして、前記温度上昇工程及び前記温度下降工程での湿度制御において、ウィック温度センサ20の検出値を前記補正量に基づいて補正し、この補正後の値に基づいて前記圧力容器2の湿度を制御するようになっている。
【0054】
このように、温度上昇工程及び温度下降工程においてウィック温度センサ20を用いて湿度制御を確実に行うことができるので、試料8表面での不必要な結露を防ぐことができる。また、圧力容器2に添加ガスを導入した場合でもウィック温度センサ20の測定値を適切に補正するので、正確な湿度制御を行うことができる。
【0055】
また制御装置31は、前記温度上昇工程、前記恒温恒湿工程、及び前記温度下降工程の少なくとも何れかにおいて、前記加湿水温度センサ19及び前記ウィック温度センサ20の検出温度を監視し、この監視によって制御乱れが検出された場合にはそれを報知するように構成されている。
【0056】
これにより、湿度の制御乱れを的確に自動モニタリングすることができるので、試験の精度を一層向上できるとともに、メンテナンス性に優れた装置とすることができる。
【0057】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、以上は一例であって、例えば下記のように変更することができる。
【0058】
本実施形態のプレッシャークッカー試験装置1では器内温度センサ17は単一で設けられているが、圧力容器2内の複数の箇所に温度センサを備える構成に変更することができる。この場合、湿度の検証を圧力容器2内の複数箇所で行うことで、検証精度をより高めることができる。
【0059】
試験が終わって直ちに試料を取り出す場合は、試験において保存工程を省略することができる。
【0060】
上記の補正方法は、添加ガス導入時の、温度センサーによる湿度校正にも適用することができる。また、添加ガスの種類及び添加量を一定にした2台の装置で温度センサの検出値を比較し、これに基づいて校正することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態に係るプレッシャークッカー試験装置の全体構成を示す側面断面模式図及びブロック図。
【図2】装置の制御を示すグラフ図。
【図3】補正量の取得原理を説明するグラフ図。
【符号の説明】
【0062】
1 プレッシャークッカー試験装置
2 圧力容器(試験槽)
4 加湿水
6 テストエリア
8 試料
16 加熱ヒータ
17 器内温度センサ
18 加湿水ヒータ
19 加湿水温度センサ
20 ウィック温度センサ
21 ウィック
31 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加湿水を貯溜するとともに内部に試料を設置可能な試験槽における湿度制御方法において、
この試験槽の内部には添加ガスを導入可能に構成するとともに、当該試験槽の内部には加湿水温度センサとウィック温度センサとが備えられており、
前記添加ガスが前記試験槽の内部に導入され、かつ100℃以上の温度で前記試験槽の内部の温度及び湿度が安定しているときの、前記加湿水温度センサの検出温度と前記ウィック温度センサの検出温度の関係から、補正量を算出する、補正量取得工程と、
前記ウィック温度センサの検出値を前記補正量に基づいて補正し、この補正後の値に基づいて前記試験槽の湿度を制御する制御工程と、
を含むことを特徴とする、湿度制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の湿度制御方法であって、
前記試験槽においては、100℃以上の設定温度にまで上昇させる温度上昇工程と、温度を前記設定温度に保つとともに湿度を設定湿度に保つ恒温恒湿工程と、温度を設定温度から下降させる温度下降工程と、を少なくとも行うように構成しており、
前記恒温恒湿工程においては前記加湿水温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われる一方、前記温度上昇工程及び前記温度下降工程においては前記ウィック温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われ、
前記温度上昇工程及び前記温度下降工程での湿度制御において、前記制御工程が行われることを特徴とする、湿度制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載の湿度制御方法であって、
前記温度上昇工程、前記恒温恒湿工程、及び前記温度下降工程の少なくとも何れかにおいて、前記加湿水温度センサ及び前記ウィック温度センサの検出温度を監視し、
この監視によって制御乱れが検出された場合にはそれを報知することを特徴とする湿度制御方法。
【請求項4】
加湿水を貯溜するとともに内部に試料を設置可能とし、且つ添加ガスを導入可能な試験槽と、
前記加湿水の温度を検出する加湿水温度センサと、
前記加湿水に浸漬されるウィックを備えたウィック温度センサと、
前記添加ガスが前記試験槽の内部に導入され、かつ100℃以上の温度で前記試験槽の内部の温度及び湿度が安定しているときの、前記加湿水温度センサの検出温度と前記ウィック温度センサの検出温度の関係から、補正量を算出する、補正量算出手段と、
前記ウィック温度センサの検出値を前記補正量に基づいて補正する温度補正手段と、
この補正後の値に基づいて前記試験槽の湿度を制御する制御手段と、
を含むことを特徴とする、環境試験装置。
【請求項5】
請求項4に記載の環境試験装置であって、
前記試験槽においては、100℃以上の設定温度にまで上昇させる温度上昇工程と、温度を前記設定温度に保つとともに湿度を設定湿度に保つ恒温恒湿工程と、温度を設定温度から下降させる温度下降工程と、を少なくとも行うように構成しており、
前記恒温恒湿工程においては前記加湿水温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われる一方、前記温度上昇工程及び前記温度下降工程においては前記ウィック温度センサの検出温度に基づく湿度制御が行われ、
前記温度上昇工程及び前記温度下降工程での湿度制御において、前記制御手段による制御が行われることを特徴とする、環境試験装置。
【請求項6】
請求項5に記載の環境試験装置であって、
前記温度上昇工程、前記恒温恒湿工程、及び前記温度下降工程の少なくとも何れかにおいて、前記加湿水温度センサ及び前記ウィック温度センサの検出温度を監視し、
この監視によって制御乱れが検出された場合にはそれを報知するための報知信号を発生することを特徴とする環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−322356(P2007−322356A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155851(P2006−155851)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【出願人】(391015926)千代田電機工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】