説明

湿式化粧料の製造方法および充填装置

【課題】化粧皿に直接サイド充填を行うことで、化粧皿への移し替え作業を不要にする。
【解決手段】充填孔1dは、化粧皿2の上縁よりも高い位置において充填空間1aと連通している。一軸偏心ねじポンプ5から押し出されたスラリーは、化粧皿2の側部によって隔てられることなく、充填孔1dから吐出され、これによって、充填空間1a内にスラリーが充填される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式化粧料の製造方法および充填装置に係り、特に、スラリーのサイド充填に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、充填空間の開口部が塞がれた状態で、この充填空間と連通した側方の充填孔からスラリー、すなわち、化粧料基材と、エタノール、水、流動パラフィン、イソパラフィン、イソプロピルアルコール等の揮発性溶媒とを混合した流動物を充填するサイド充填について開示されている。具体的には、まず、成形枠に設けられた上下の開口部を、透過膜材を介して一対の中空挟持体で塞ぐ。これによって、成形枠の内部に充填空間が形成される。つぎに、この成形枠の側方に設けられた充填孔からスラリーを吐出することによって、充填空間内にスラリーを充填する。その際、スラリーに含まれる揮発性溶媒は、透過膜材を介して中空挟持体によって吸引され、これによって、スラリー中の揮発性溶媒が除去される。そして、充填空間内において固化したスラリー、すなわち打型物を成形枠から取り出す。その後、打型物を所望の形状および大きさに切断した上で化粧皿に移し替え、仕上げプレスすることによって、最終製品が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6−69934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の手法では、サイド充填によって生成された打型物を化粧皿に移し替える作業が必要になる。また、仕上げプレス前の打型物は、その処方にもよるが、多くの場合、緩めに加圧されているがゆえに脆く崩れ易いという特性を有する。そのため、化粧皿へ移し替える際に、打型物が崩れてしまうおそれがあり、歩留まりの低下を招く。
【0005】
そこで、本発明の目的は、化粧皿に直接サイド充填を行うことで、化粧皿への移し替え作業を不要にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決すべく、第1の発明は、湿式化粧料の製造方法を提供する。この方法は、化粧皿の上縁よりも高く形成された充填空間の下方に化粧皿を収容する第1のステップと、充填空間の上方の開口部を被覆面で覆う第2のステップと、充填空間の側方における化粧皿の上縁よりも高い位置に設けられた充填孔からスラリーを吐出することによって、充填空間内にスラリーを充填する第3のステップとを有する。
【0007】
ここで、第1の発明において、上記第3のステップは、被覆面に設けられた吸引孔を介して、スラリーに含まれる揮発性溶媒を吸引することによって、スラリー中の揮発性溶媒を除去するステップを有することが好ましい。また、被覆面および充填空間の相対的な移動によって、充填空間内に充填されたスラリーを平坦な被覆面によって摺り切る第4のステップをさらに有していてもよい。
【0008】
第2の発明は、湿式化粧料用の充填装置を提供する。この装置は、化粧皿の上縁よりも高く形成された充填空間を有する枠体と、充填空間の上方の開口部を覆う被覆面と、充填空間の側方における前記化粧皿の上縁よりも高い位置に設けられ、充填空間内にスラリーを充填する充填孔とを有する。
【0009】
第2の発明において、スラリーに含まれる揮発性溶媒を吸引することによって、揮発性溶媒を除去するために、被覆面に設けられた吸引孔をさらに有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
第1または第2の発明によれば、化粧皿を含む充填空間内にスラリーをサイド充填することにより、打型物を化粧皿に移し替える作業が不要になる。また、この作業が不要になったことに起因して、打型物の崩れの問題も解消できるので、歩留まりの改善にも寄与する。さらに、充填空間の側方における充填孔の位置を化粧皿の上縁よりも高くすることで、作業効率の向上を図ることができる。充填孔の位置が化粧皿の上縁よりも低い場合には、充填孔と充填空間とを連通する貫通孔を化粧皿に設けざるを得ず、スラリーの充填後に貫通孔をシールで塞ぐ作業が別途必要になるが、本発明によればその必要がないからである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】化粧皿の収容工程の説明図
【図2】スラリーの充填工程の説明図
【図3】スラリーの摺り切り工程の説明図
【図4】スラリーのプレス工程の説明図
【図5】凹状の被覆面を有する吸引ヘッドを用いたスラリーの充填工程の説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態で製造対象となる湿式化粧料は、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウといった粉末固形メイクアップ化粧料のうち、スラリー中の揮発性溶媒を吸収・乾燥させて固化したものである。スラリーは、化粧料基材と、エタノール、水、流動パラフィン、イソパラフィン、イソプロピルアルコール等の揮発性溶媒とを混合した流動物である。湿式化粧料は、粉末化粧料をそのまま打型した乾式化粧料と比べて、滑らかなタッチで、フィット感等の官能特性に優れ、かつ、耐衝撃性にも優れているという特性を有する。
【0013】
まず最初に、図1に示すように、枠体1の内部に化粧皿2が収容される。枠体1の略中央には、この枠体1の上部の平坦面1cにおいて露出した開口を有する充填空間1aが設けられており、この充填空間1a内に化粧皿2が収容される。充填空間1aの下部は、化粧皿2を隙間なく収容すべく、化粧皿2の外径と略一致する内径を有する。一方、充填空間1aの上部には、内側に向かって段差状に突出した段差部1bが全周に亘って形成されている。この段差部1bを含む開口径は、化粧皿2の内径と略一致しており、これによって、化粧皿2の収容時に段差部1bおよび化粧皿2の双方の内面が略面一になる。化粧皿2の収容は、充填空間1aの直下になるように化粧皿2を配置した上で、化粧皿2の上方から枠体1を被せることによって行われる。
【0014】
充填空間1aにおける化粧皿2の上縁よりも高い内周部位、すなわち、本実施形態における段差部1bには、枠体1を水平方向に貫通する充填孔1dが設けられており、充填空間1a内へのスラリーの充填は、充填孔1dを介したサイド充填によって行われる。この充填孔1dは、化粧皿2の収容部位よりも高い位置に形成されている。したがって、充填孔1dは、充填空間1a内に化粧皿2が収容された状態であっても、化粧皿2の側面によって遮断されることなく、充填空間1aと連通する。充填孔1dの径は、充填すべきスラリーの処方に応じて適切に設定されており、目標とする充填圧力や充填速度等も考慮される。段差部1bの上下方向の幅(高さ)は、少なくとも、その側方に露出した充填孔1dの径よりも大きい必要があるが、それ以外にも、後工程のプレスによるスラリーの高さの減少を見越した嵩上げ分を加味した上で設定される。
【0015】
つぎに、図2に示すように、化粧皿2を含む充填空間1a内にスラリーがサイド充填される。具体的には、まず、充填空間1aの直上に配置された吸引ヘッド3を下降させ、平坦面1cより露出した充填空間1aの開口を、吸収シート4が介在した状態で吸引ヘッド3の被覆面(下面)で塞ぐ。この吸収シート4は、スラリーに含まれる揮発性溶媒を吸収するために使用され、吸収性の高い紙や不織布等を用いることができる。そして、吸引ヘッド3の被覆面によって充填空間1aが塞がれた状態で、一軸偏心ねじポンプ5を駆動させ、一定量のスラリーが供給管6に押し出される。所定の流動性を有するスラリーは、供給管6と連通した充填孔1dから充填空間1a内に吐出・充填される。
【0016】
スラリーの充填時には、吸引ヘッド3に設けられた微細な吸引孔3aによって、充填空間1a内が吸引される。この吸引によって、充填空間1a内における加圧されたスラリーから揮発性溶媒が分離して、吸収シート4に吸収されるとともに、吸引孔3aを介して外部に放出される。その結果、スラリー中の揮発性溶媒が除去され、流動性を有するスラリーが固化状態または半固化状態に変化する。なお、揮発性溶媒の吸引除去は、吸収シート4のみで行ってもよく、この場合には、吸引ヘッド3の代わりに、吸引孔3aが存在しない板状部材を用いればよい。
【0017】
つぎに、図3に示すように、吸引ヘッド3に対して枠体1(化粧皿2)を相対的に移動させることによって、充填空間1a内に充填されたスラリーの上面が吸引ヘッド3の下面によって摺り切られる。これによって、スラリーの露出面が均一化される。以上の各工程によって、スラリーの定量充填が完了する。
【0018】
その後、図4に示すように、充填空間1a内に充填された固化状態または半固化状態のスラリーを、吸収シート4’を介在させた状態で、直上に配置されたプレスヘッド7でプレスする。これによって、枠体1の平坦面1c相当まで嵩上げされていたスラリーが圧縮される。圧縮されたスラリーは、その表面が化粧皿2の上縁と面一になるとともに、充填孔1dの充填痕も消失する。最後に、スラリー中に残存する揮発性溶媒を乾燥させる乾燥工程を必要に応じて行うことで、最終製品としての湿式化粧料が完成する。
【0019】
このように、本実施形態によれば、化粧皿2を含む充填空間1a内にスラリーをサイド充填することにより、工程数の削減を図ることができる。なぜなら、予備打型によってスラリーの打型物を生成した後、これを化粧皿に移し替える場合には、化粧皿の移し替え作業が必要になるが、本実施形態によれば、この作業が不要になるからである。そして、この移し替え作業が不要になったことに起因して、移し替えに伴う打型物の崩れの問題も解消できるので、歩留まりの改善にも寄与する。
【0020】
また、本実施形態によれば、充填空間1aの側方における充填孔1dの位置を化粧皿2の上縁よりも高くすることで、作業効率の向上を図ることができる。この充填孔1dの位置が化粧皿2の上縁よりも低く設定した場合には、充填孔1dと充填空間1aの間が化粧皿2の側部によって遮断されてしまうので、両者を連通させるための貫通孔を化粧皿2に設けざるを得ず、その結果、スラリーの充填後に貫通孔をシールで塞ぐ作業が別途必要になる。これに対して、本実施形態によれば、充填孔1dの位置を工夫することで、化粧皿2に貫通孔を設ける必要が本来的にないので、かかる作業も必要ない。
【0021】
なお、上述した実施形態では、吸引ヘッド3の下面に相当する被覆面(平坦面)で、充填空間1a内に充填されたスラリーを摺り切るケースについて説明した。しかしながら、スラリーの摺り切りは成形上必須ではなく、吸引ヘッド3を上昇させた上で、枠体1(化粧皿2)を移動させてもよい。この場合、吸引ヘッド3の被覆面が平坦である必要はなく、例えば図5に示すような凹状のものも含めて、任意の面形状のものを用いることができる。また、この場合、被覆面の大きさは、平坦面1cより露出した充填空間1aの開口径と略同一であれば足りる。なお、同図において、図2と同じ部材については同一符号を付して、ここでの説明を省略する。このように、平面状ではない立体的な被覆面を用いれば、湿式化粧料の表面に形状的な面白み(例えばドーム状)を持たせることができるので、より差別化された湿式化粧料を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上のように、本発明に係るサイド充填は、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウといった様々な湿式化粧料に対して広く適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 枠体
1a 充填空間
1b 段差部
1c 平坦面
1d 充填孔
2 化粧皿
3 吸引ヘッド
3a 吸引孔
4,4’ 吸収シート
5 一軸偏心ねじポンプ
6 供給管
7 プレスヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式化粧料の製造方法において、
化粧皿の上縁よりも高く形成された充填空間の下方に化粧皿を収容する第1のステップと、
前記充填空間の上方の開口部を被覆面で覆う第2のステップと、
前記充填空間の側方における前記化粧皿の上縁よりも高い位置に設けられた充填孔からスラリーを吐出することによって、前記充填空間内にスラリーを充填する第3のステップと
を有することを特徴とする湿式化粧料の製造方法。
【請求項2】
前記第3のステップは、前記被覆面に設けられた吸引孔を介して、前記スラリーに含まれる揮発性溶媒を吸引することによって、当該揮発性溶媒を除去するステップを有することを特徴とする請求項1に記載された湿式化粧料の製造方法。
【請求項3】
前記被覆面および前記充填空間の相対的な移動によって、前記充填空間内に充填された前記スラリーを平坦な前記被覆面によって摺り切る第4のステップをさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載された湿式化粧料の製造方法。
【請求項4】
湿式化粧料用の充填装置において、
化粧皿の上縁よりも高く形成された充填空間を有する枠体と、
前記充填空間の上方の開口部を覆う被覆面と、
前記充填空間の側方における前記化粧皿の上縁よりも高い位置に設けられ、前記充填空間内にスラリーを充填する充填孔と
を有することを特徴とする湿式化粧料用の充填装置。
【請求項5】
前記スラリーに含まれる揮発性溶媒を吸引することによって、当該揮発性溶媒を除去するために、前記被覆面に設けられた吸引孔をさらに有することを特徴とする湿式化粧料用の充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−24282(P2012−24282A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164994(P2010−164994)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)