説明

湿式温灸器

【課題】温灸個所に加温された薬液を付けて乾燥させることなく長時間の湿式の温灸ができるとともに、湿式の温灸が有効な低温域で長時間継続する加温を行なうことができる湿式温灸器を提供する。
【解決手段】ケース1の一面の外側に突起2が突出し、突起2は熱伝導性の高い素材で形成され、突起2の表面には、突起2の根元の小孔5から流出した薬液が伝わる多数の溝3が形成されるとともに、薬液が浸み込む薬液マット6が被着され、ケース内側には、突起2の根元に接して熱伝導の高いジェル状の熱伝導性マット7が配置され、熱伝導性マット7には薬液を充填した薬液パック8が包み込まれ、薬液パック8の突起側には薬液が浸み出す小孔9が形成され、熱伝導性マット7に熱伝導性の高い熱伝導板10を介して温熱パック、加熱して使用する保温パックなど熱源11が配置されている湿式温灸器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビワ葉のエキスなどの薬液を加温しながら使用する湿式温灸器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の温灸器は、もぐさ、線香などの燃焼熱を利用するもの(特許文献1,2)、通電することによって発熱する電気抵抗材の発する熱や熱せられたセラミックなどから発する遠赤外線の熱を利用するもの(特許文献3,4)など様々な種類の熱により皮膚を刺激するものが用いてきた。これらの温灸器の多くが高温域の熱刺激を使用する類のもので、多くは乾いた皮膚に直に用いるタイプのものであり、これらは乾式温熱灸と言われてきた。特に燃焼の熱を利用するタイブの温熱灸は、いきなり高温域に達し任意の温度調節が難しいことが問題であるため、火傷を防ぐために発熱体が直接皮膚に触れないようにシート状のものに載せて使用するものなども多く提案されてきた。
【0003】
また、場所を選ばずに使用できるとして使い捨てカイロなどを用いる方法も提案されている(特許文献5)。これらは空気酸化による反応熱を利用しており、JIS規格による一定の加温の条件を満たしているものの、気温や湿度などの諸条件に左右され、速やかな昇温の立ち上がりが難しいことや寒い時期には肌に着けた衣類などの中に装着するなどして、熱が逃げ難い条件などが伴わないと定格の発熱量が利用できないのみならず、温灸器の熱源として使用しようとして乾燥した皮膚に押し付けたとしても熱量が足らず、効果が低いなどの問題があった。また、長時間にわたって乾式の温熱灸の熱源として用いる際には、低温火傷などを引き起こす可能性があり、注意しなくてはならないなどの問題もあった。
【0004】
また、従来、加熱された部位に薬液を塗ったり付けたりして使用するものもあった(引用文献6)。
【特許文献1】特開2002−102309号公報
【特許文献2】特開2000−93486号公報
【特許文献3】特開2003−265580号公報
【特許文献4】特開平11−70175号公報
【特許文献5】特開平8−126657号公報
【特許文献6】特開2000−308668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
湿式の温圧灸に関しては、肌面に当てる効果的だとされる温度域は45℃〜55℃の低温域にあり、その低温域へ速やかに昇温して2時間以上継続する、穏かな一定の加温が必要であるにもかかわらず、薬液を一定温度に維持可能な適切な温灸器が存在しなかった。しかも温灸個所が複数個所で広範囲にわたる場合には、適切な対応が可能な器具はなかった。
【0006】
また、従来の温灸器は、そのほとんどが温灸個所に薬液を付けて使わない、所謂、乾式の温灸であり、高温度に熱せられた部位をそのまま直接的に温灸個所に押し当てて使用する温灸器であるために熱しすぎる場合が多く、温灸個所に薬液を付けて長時間の低温温圧灸をおこなう湿式の温灸器として用いるには不適であって効果的な心地よい温圧刺激が与えられなかった。
【0007】
また、温灸器の加熱された温圧部に薬液を塗ったり着けたりして使用するものは、当然、カイロ熱蒸発によって早急に乾燥が進み温度条件が変わり塗った薬液の濃度が高くなること、そしてその高い濃度の薬液が変性して皮伝のしみなどを引き起こして肌を荒らす可能性もなくはなく、また、それらによる熱化学的変化が皮膚を通じて生体に及ぼす影響なども心配されていた。
【0008】
さらに、活性を有する様々な糖蛋白類等の産生を促して、免疫に働きかけ炎症を静めたり、鎮痛効果や解熱効果があることが報告されていることから、低温度の湿式の温灸器具の開発が期待されている。
【0009】
そこで、本発明は、温灸個所に加温された薬液を付けて乾燥させることなく肌を荒らさないで長時間の湿式の温灸ができるとともに、湿式の温灸が有効な低温域で2時間以上継続する、穏かな一定の加温を行なうことができる湿式温灸器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の湿式温灸器は、ケースの一面の外側に突起が突出し、前記突起は熱伝導性の高い素材で半球状に形成され、突起の表面には、突起の根元の小孔から流出した薬液が伝わる多数の溝が形成されるとともに、薬液が浸み込む薬液マットが被着され、ケース内側には、突起の根元に接して熱伝導の高いジェル状の熱伝導性マットが配置され、熱伝導性マットには薬液を充填した薬液パックが包み込まれ、薬液パックの突起側には薬液が浸み出す小孔が形成され、熱伝導性マットに熱伝導性の高い熱伝導板を介して温熱パック、加熱して使用する保温パックなど熱源が配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の湿式温灸器は、ケースの外側から薬液パックを押圧により薬液を薬液パックの小孔からしみ出させる押圧部材を配置したり、ケースが手の握り形に倣って変形する弾力性のあるプラスチック材料で形成したり、手の掴んだり握ったりした状態の形状に合わせて握り型が形成された握りカバーがケースに装着されるようにしたり、熱伝導性の高い握り柄をケースに取り付けたりする構成としてもよい。また、複数の湿式温圧灸器を連結帯で連結してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の湿式温灸器により次の効果を奏することができる。
【0013】
(1)湿式の温圧灸が最も有効とされる、45℃から55℃の低温域への速やかな昇温と、2時間以上継続する、穏やかな一定の加温が可能となる。
【0014】
(2)加熱された突起に装着した薬液パッドに、内蔵された薬液パックから加温された薬液が浸み出るので、一定の温灸温度による湿式温灸効果が得られる。
【0015】
(3)一定温度に加温された薬液が自動的に浸み出るので、常に温灸個所が一定温度、一定濃度の薬液により濡れ湿った状態にあり、薬液が乾燥したり、低温火傷などで肌を荒らしたりするおそれを回避することができる。
【0016】
(4)皮膚への穏やかな優しい低温熱刺激が真皮下において、極微量にて生活またこの器具は、非力なお年寄りや体力の衰えた方でも、床に置いて対象患部を乗せて使用することもできる。
【0017】
(5)複数個の温灸器を連結させることにより、複数の温灸個所を同時に温圧することもできる。
【0018】
(6)手で握ってできるだけでなく床に置いて手足や体を載せて薬液による湿式の低温温灸を行うこともできる。
【0019】
(7)使いやすい握りカバーにより、力の衰えた人、手の機能に問題をもった人などが使いやすい握りカバーを選んで使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施例について図面により説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の湿式温灸器の一例を示す斜視図、(b)は同縦断面図で、(a)は突起から薬液マットを外した状態を示している。
【0022】
図1において、箱形のケース1には、その一面にケース内から外側に突出している突起2が設けられている。
【0023】
ケース1は、手で握ることができる形状にし、ケース1を握った際に握りやすい形状の輪郭にしたりすることができる。ケース1の材質を弾力性のある変形しやすいプラスチック材料で形成することにより、手の握り形に倣って変形しやすいようにして楽に握ることができるようにしてもよい。
【0024】
ケース1は二つ割りにして開閉可能にし、ケース内に収容した熱伝導性マット7、薬液パック8、熱伝導板10などの収容物の交換ができるようにする。
【0025】
突起2は指圧効果を出すために、図1では半球状に形成されている。突起2の形状が半球状の場合ツボを探し当てて押圧する必要があるので、突起の上部を、ツボを含めた広い範囲をカバーできる平らな形状にして、ツボを確実に押圧できるようにしてもよい。
【0026】
突起2の材質は、熱伝導性の高い素材を使用し、例えば、銅、銀、アルミニウムあるいは、これらの合金などの金属、窒化アルミニウムや炭化ケイ素などのセラミック、あるいは高熱伝導性プラスチックなどを使用する。突起2に熱伝導性の高い素材を使用することにより、身体に接触すると突起2から身体へ熱が伝わる。
【0027】
突起2の表面には、頂部から下方に傘骨様放射状や網目状の細かな浅い溝3を多く形成する。突起2の根元はフランジ4が形成され、ケース内で固定される。フランジ4には薬液を突起2の表面に流出させるための小孔5を貫通させておく。小孔5から流出した薬液は、溝3を伝わって突起2の全体に広がる。
【0028】
突起2の表面には、薬液が浸み込むスポンジ布などの薬液マット6が被着される。薬液マット6は、突起2の表面の溝3から薬液を吸液して保持する。また、薬液マット6は、溝3により使用中のずれが防止される。
【0029】
図1(b)において、ケース内側には、突起2のフランジ4に接して熱伝導の高いジェル状の熱伝導性マット7が配置されている。熱伝導性マット7の中には薬液を充填した薬液パック8が包み込まれている。薬液パック8には、ビワの葉、ビワの粉状の種、柿の葉から抽出したエキスなど薬効のある薬液を充填する。
【0030】
熱伝導性マット7からの熱により薬液パック8の全体が加熱され、充填されている薬液が加熱される。薬液パック8の突起側には薬液が浸み出す小孔9が形成されている。小孔9からは薬液パック8の押圧あるいは加温により薬液が少しずつ浸み出す。
【0031】
熱伝導性マット7には、銅、銀あるいはアルミニウムなどの熱伝導性の高い薄い板状の熱伝導板10が圧着され、この熱伝導板10に接して熱源11が設けられている。熱伝熱板10により熱伝導性マット7が押さえられるとともに、熱源11からの熱を熱伝導性マット7へ伝える。
【0032】
熱源11には、有効とされる温度域である45℃から55℃程度の低温域で2時間以上の継続した加温得られるものを使用し、例えば、使い捨ての温熱パック(カイロ)、レンジ等で加熱して使用する保温パックなどが利用できる。熱源11となる使い捨ての温熱パックは、場所を選ばずに利用でき、例えば、物の持ち込みが制限されている航空機内でも持ち込んで温灸が可能となる。
【0033】
薬液パック8には、ケース1の外側から内部に伸びる押圧部材12の一端が接し、他端がケース1の外側に突出して押圧ボタン13が取り付けられている。押圧ボタン13で押圧部材12を押し込むことにより薬液パック8が押圧されて薬液が薬液パック8の小孔9から浸み出す。小孔9から滲み出た加熱された薬液は、突起2のフランジ4の小孔5から溝3を伝って薬液マット6に吸われて押圧により滲み出してくる。
【0034】
本実施例の湿式温灸器の使用方法について説明する。
【0035】
薬液パック8内の薬液は、熱源11からの熱が、熱伝導板10を介して熱伝導性マット7に伝わり、熱伝導性マット7で包まれている薬液パック8により加温されている。また、熱伝導性マット7にフランジ4が接している突起2も加温され、さらに薬液マット6も加温されている。加温されている温灸器を握って、身体の温灸箇所に突起2を押し付けると、薬液マット6から温熱された薬液が温灸箇所へ滲み出て行く。滲み出させる薬液を増やしたい場合は、押圧ボタン13で押圧部材12を押し込んで薬液パック8を押圧して小孔9からの流出量を調整する。
【0036】
本実施例の湿式温灸器は、上記のように手で握って身体の一部に押し付けて使用するだけでなく、床に置き、突起2の上に温灸箇所を載せたりして手で握ることなく使用することもできる。
【実施例2】
【0037】
図2は本発明による複数箇所を温灸する温灸器の実施例を示す概略図である。実施例1と同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0038】
温灸箇所が複数で広範囲にわたる場合には、実施例1に示す温灸器のケース1を前後に紐などの連結帯14で繋げる。
【0039】
複数個の温灸器を連結させることにより、複数の温灸箇所を同時に温圧することができる。また、手足や胸胴等体に巻いて固定して用いることもできる。
【実施例3】
【0040】
図3は本発明の温灸器の別実施例を示す斜視図である。実施例1と同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0041】
本実施例は、金属製のきのこ状の握り柄15を銅、銀あるいはアルミニウムなどの熱伝導性の高い素材で形成し、握り柄15の下部がケース1内において熱伝導板に接触するように取り付ける。握り柄15のケース内にある下部に使い捨て温熱パックあるいは加熱して使用する保温パックなどの熱源を捲着状態に装着して使用する。
【0042】
熱源からの熱は、握り柄15からケース1内部の熱伝導マットとその中にある薬液パックを加温し、次いで突起2を加温する。指で押圧ボタン13を押し操作すると薬液パックが押されて、突起2に被せてある薬液マットに加温された薬液が浸み出してくる。
【0043】
本実施例は握り柄15がケースに比べて握りやすいので、指の不自由な人にも使用可能となる。
【実施例4】
【0044】
図4は本発明の温灸器の別実施例を示す斜視図である。実施例1と同一部材には同一符号を付してその説明は省略する。
【0045】
掴んだり握ったりする部位を手の形や手の状態に合わせた握り型が形成された握りカバー16をケース1に被せたものである。いくつかの形状の握りカバー16を用意して、ケースに簡単に取り換えて使用できるようにしてもよい。
【0046】
握りカバー16に握り型が形成されているので、握りやすく、楽に温灸箇所を温圧することができる。
【0047】
従来、長時間にわたって温灸器を掴んだり握ったりすることに苦痛を感じる人、力の衰えた人、手の機能に問題をもった人などが数通りの握りカバーの中から最適と思われる形のものを選んで使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)は本発明の湿式温灸器の一例を示す斜視図、(b)は同縦断面図である。
【図2】本発明による複数箇所を温灸する温灸器の実施例を示す概略図である。
【図3】本発明の温灸器の別実施例を示す斜視図である。
【図4】本発明の温灸器の別実施例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0049】
1:ケース
2:突起
3:溝
4:フランジ
5:小孔
6:薬液マット
7:熱伝導性マット
8:薬液パック
9:小孔
10:熱伝導板
11:熱源
12:押圧部材
13:押圧ボタン
14:連結帯
15:握り柄
16:握りカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの一面の外側に突起が突出し、
前記突起は熱伝導性の高い素材で形成され、突起の表面には、突起の根元の小孔から流出した薬液が伝わる多数の溝が形成されるとともに、薬液が浸み込む薬液マット6が被着され、
ケース内側には、突起の根元に接して熱伝導の高いジェル状の熱伝導性マットが配置され、熱伝導性マットには薬液を充填した薬液パックが包み込まれ、
薬液パックの突起側には薬液が浸み出す小孔が形成され、
熱伝導性マットに熱伝導性の高い熱伝導板を介して温熱パック、加熱して使用する保温パックなど熱源が配置され、
ケースの外側から薬液パックを押圧により薬液を薬液パックの小孔からしみ出させる押圧部材が配置されていることを特徴とする湿式温圧灸器。
【請求項2】
ケースの外側から薬液パックを押圧により薬液を薬液パックの小孔からしみ出させる押圧部材が配置されていることを特徴とする請求項1記載の湿式温圧灸器。
【請求項3】
ケースが手の握り形に倣って変形する弾力性のあるプラスチック材料であることを特徴とする請求項1または2記載の湿式温圧灸器。
【請求項4】
手の掴んだり握ったりした状態の形状に合わせて握り型が形成された握りカバーがケースに装着されていることを特徴とする請求項1または2記載の湿式温圧灸器。
【請求項5】
熱伝導性の高い握り柄をケースに取り付けたことを特徴とする請求項1または2記載の湿式温圧灸器。
【請求項6】
請求項1または2に記載の湿式温圧灸器の複数が連結帯で連結されていることを特徴とする湿式温圧灸器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−51684(P2010−51684A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221513(P2008−221513)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(508262799)
【出願人】(508262803)
【出願人】(506319123)
【Fターム(参考)】