説明

湿紙の平滑化処理方法及び抄紙機のプレスパート

【課題】抄紙機のプレスパートの最終ステップにおいて、紙ぶくれ現象(ブローイング)に起因するシワの発生を防止して不良品の発生を防止し、かつトランスファロールを出た後の湿紙の通紙ベルトからの垂れ下がりを防止する。
【解決手段】フェルト6a、6bで挟んで加圧脱水する脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙1をフェルト6bと表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルト13とで挟んでトランスファロール11aとトランスファサクションロール21bのニップ部を通すことにより、湿紙1を通紙ベルト13に転移させ、その後湿紙1を該通紙ベルトとともにプレスパート2の最終段プレスとして設けられた平滑化プレスロール12a、12bを通すことにより平滑化処理を行うに際し、該ロール11a、21bのニップ部直上流側で湿紙1とフェルト6bとの間に溜まった空気をフェルト6bを介して吸引除去する手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿紙を加圧脱水する抄紙機のプレスパートにおいて、脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙を一対のトランスファロールを経てプレス工程の最終段プレスとして設けられた平滑化プレスロールに搬送する際に、該一対のトランスファロールのニップ部直上流側にシワ発生の原因となる空気溜まりが発生するのを防止するとともに、該トランスファロールと平滑化プレスロール間を通紙ベルトに担持させて移送する場合に湿紙の垂れ下りをなくすようにした方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
抄紙機のワイヤパートに続くプレスパートは、湿紙を上下両側から2枚のフェルトで挟んだ状態で複数段の脱水用プレスユニットで加圧脱水し、その後プレス工程の最終段プレスとして設けられ湿紙の表面を平滑にするスムージングプレスを通した後、乾燥工程に湿紙を移送している。
近年プレスユニット1台当りの脱水性能が向上してきたため、プレスパートでの加圧脱水工程の短縮化及び設備の簡素化を目的として、脱水用プレスユニットを1段にし、1段のプレスユニットで大幅な脱水を行なう傾向にある。
また、脱水用プレスユニットを多段に配置し、湿紙に複数回ニップ圧を付加する加圧脱水方式は、嵩高紙の製造には不具合があった。
【0003】
例えば、特許文献1(WO2004/101885A1公報)には、1段プレスユニットで構成されたプレスパートからドライヤパートまでの構成が開示されており、この構成を図4に示す。
図4において、図示しないワイヤパートを経由してきた湿紙01は、サクションロール05aにより吸引されてフェルト06aに保持された後、フェルト06aとフェルト06bとにより挟み込まれた状態で脱水用1段プレス04に搬送される。
【0004】
脱水用1段プレス04では、プレスロール(又はシュープレス)04aとプレスロール04bとを備えており、これらプレスロール04a、04bのニップ圧により湿紙01に含まれる水分をフェルト06a、06bに移動させて搾水を行なっている。なおプレスロール04a及び04bのニップ部においては、その加圧力により湿紙01内の含水がフェルト06a、06b内に移動するのみならず、フェルトから水が飛び散るスプラッシュsが生じる。
こうしてプレスロール04a、04bの入口で水の含有量が約80wt%であった湿紙01がプレスロール04a、04bの出口では約50〜55wt%に脱水される。
【0005】
脱水用1段プレス04にて搾水された湿紙01は、サクションロール05bにより吸引されてフェルト06bに担持されて走行した後、一対のトランスファロール011a及びトランスファニップロール011bに通され、ここで低いニップ圧(5〜20KN/m)を加えられる。一対のトランスファロール011a及びトランスファニップロール011bでは、弾性部材からなり表面が滑らかで通気性を有さない通紙ベルト013が案内ロール019を経て湿紙01及びフェルト06bとともにニップされ、通常湿紙は、ニップ圧が加えられた場合、表面のより滑らかな方に貼り付いて移動するので、湿紙01は、フェルト06bよりも表面が滑らかな通紙ベルト013に貼り付いて、フェルト06b上から通紙ベルト013上へ走行路を変更する。
なお、通紙ベルト013として、微通気性のフェルトを使用してもよい。フェルトの通気性は、JIS L1096 一般織物試験方法 8.27項に示す方法で計測し、0〜15cc/cm/sec以下を微通気性のフェルトとする。
【0006】
その後、湿紙01は、スムージングプレス012に移動し、通紙ベルト013に片面を担持された状態でスムーザトップロール012a、スムーザボトムロール012bのニップ部で面圧が加えられ、湿紙01両面の平滑化処理が行われる。このとき通紙ベルト013は弾性を有するので、必要なニップ幅を確保することができる。
その後、湿紙01は、カンバス07cを介してドライヤパート03に移送され、1番ドライヤロール03aから図示しない2番ドライヤロール、3番ドライヤロールと順に経由し、湿紙01の乾燥が行なわれる。なお図4中の符号020a、020bは真空ロールである。
【0007】
なお、フェルト06a及び06bは、エンドレス状になっており、プレスロール04a及び04bを経た後、上流側に戻り、循環使用されるが、図示しない戻り経路において低圧シャワ水で洗浄され、その後戻り経路に配置された吸引ボックスで含有水を吸引脱水されて湿紙の脱水及び搬送に再使用される。
【0008】
【特許文献1】WO2004/101885A1公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような抄紙工程では、抄造条件(例えば坪量、速度等)によっては、図5に示すように、トランスファロール011a及びトランスファニップロール011bのニップ部直上流側で湿紙01とフェルト06bとの間に空気溜まりkが発生し、この空気溜まりkをそのままにしてトランスファロール011a、トランスファニップロール011bで加圧すると、フェルト06から湿紙が浮き上がる紙ぶくれ現象(ブローイング)が生じ、紙にシワが入ることを本発明者等が見出した。
空気溜まりkが発生する原因は、脱水用1段プレス04で加圧されて搾水された後、加圧状態が解除された時に通気性のフェルト06bに空気が吸入され、空気が吸入されたフェルト06がトランスファロール011a、トランスファニップロール011bで加圧されたときに、吸入された空気が排出されるが、その一部がニップ部の直上流でフェルト06bと湿紙01との間に溜まって空気溜まりkが生じる。
【0010】
このように湿紙01にシワが入ると、紙が不良品になるとともに、後段での湿紙の走行性が悪化する。即ちシワが発生した状態で湿紙01がドライヤパート03に移送されると、ドライヤパート03での湿紙の走行が安定しないとともに、紙の乾燥が紙の巾方向で不均一になるという問題が生じる。
【0011】
また、従来トランスファロール011a、トランスファニップロール011bを出た後の湿紙01は、通紙ベルト013の下面に貼り付いてスムージングプレスまで搬送されるが、本発明者等は、通紙ベルト013への湿紙01の付着にムラがあった場合などに、湿紙がトランスファロール011a、トランスファニップロール011bからスムーザトップロール012a、スムーザボトムロール012bに搬送される間に、水を含んだ湿紙の自重により湿紙が通紙ベルト013から剥離して、図4に示すように下方に垂れ下がりmを生じることを見出した。この垂れ下がり部をスムージングプレスロールでニップすると、ニップ部で湿紙にシワが寄る現象が発生するという問題がある。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、抄紙機のプレスパートの最終ステップにおいて、湿紙を脱水用最終プレスから湿紙に面圧を加えて平滑化処理する平滑化プレスロールへ移送する際に、紙ぶくれ現象(ブローイング)に起因するシワの発生を防止して不良品の発生を防止するとともに、抄紙機の運転を安定させることを目的とする。
また、本発明の他の目的は、該脱水用最終プレスと平滑化プレスロール間に設けられたトランスファロールを出た後の湿紙の通紙ベルトからの垂れ下がりを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するため、本発明の平滑化処理方法は、
湿紙をフェルトで挟んで加圧脱水する抄紙機の脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙を通気性のフェルトと湿紙に接触する面の表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルトとで挟持しながら一対のトランスファロールを通すことにより湿紙を前記通紙ベルトに担持させ、
その後、湿紙を前記通紙ベルトに担持させた状態でプレス工程の最終段プレスとして用いられる平滑化プレスロールを通すことにより平滑化処理を行う湿紙の平滑化処理方法において、
前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側の湿紙と前記フェルトとの間に溜まった空気を前記フェルトを介して吸引除去することを特徴とする。
【0014】
本発明の平滑化処理方法においては、前記トランスファロールのニップ部直上流側の湿紙とフェルトとの間に溜まり始めた空気を前記フェルトを介して吸引除去することにより、紙ぶくれ現象をなくし、これによってシワの発生を防止するものである。
なお、湿紙を平滑化プレスロールに送る前にフェルトからフェルトより表面平滑度が高くかつ表面が弾性で平滑化プレスロールのニップ部でニップ圧を形成できる通紙ベルトに転移させる必要がある。
ここで、AはBより表面平滑度が高いとは、AはBより表面が平滑であるという意味である。
【0015】
表面平滑度の評価について、具体的には表面粗さを計測して比較してもよく、例えば、JIS B 0651に記載のある「触針式表面粗さ測定機」を用いて、JIS B 0633の「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式―表面性状評価の方式及び手順」に従って、両者の表面粗さを比較し、表面が粗い方を平滑度が低いとして平滑度を比較しても良い。
ここで通紙ベルトは、平滑なほど通気性も悪化する。湿紙の平滑度を上げるためには非通気性のベルトを用いることが望ましい。ただし、通紙ベルトを非通気性とすると、平滑化プレスロールのニップ部の直上流側で空気溜まりが発生し、この空気溜まりkを起因とし該平滑化プレスロールから湿紙が浮き上がる紙ぶくれ現象(ブローイング)が発生するため、通紙ベルトにある程度の通気性を持たせる必要がある。従ってブローイング防止を重視すれば、微通気性の通紙ベルトを使用することが好ましい。
【0016】
本発明方法において、好ましくは、前記吸引により前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側に付加する真空度を0〜250mmHg、さらに好ましくは50〜250mmHgとする。250mmHg以上にすると湿紙の走行に対して大きな抵抗力となり、抄紙機の運転動力が大きくなる問題がある。
また、吸引力が大きくなると通紙ベルトと湿紙との付着力が減じる為、トランスファロールのニップ部出口側で湿紙がフェルトから通紙ベルトに担持されないという不具合が生じる。
真空値を50〜250mmHgとすることにより、上記のような不具合が発生せず、経済的で安定した運転を行なうことができる。
【0017】
前記本発明方法を実現する装置構成として、本発明の第1の構成のプレスパートでは、湿紙をフェルトで挟んで加圧脱水する抄紙機の脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙をフェルトと湿紙に接触する面の表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルトとで挟持しながら面圧を加えることにより湿紙を前記通紙ベルトに転移させる一対のトランスファロールと、
プレス工程の最終段プレスとして設けられ湿紙を前記通紙ベルトに担持させた状態で面圧を加え平滑化処理を行う平滑化プレスロールとを備えた抄紙機のプレスパートにおいて、
前記トランスファロールのニップ部直上流側を前記フェルト側から吸引する吸引手段を設けたことを特徴とする。
【0018】
本発明装置の前記第1の構成においては、前記吸引手段により、トランスファロールのニップ部直上流側に発生し始めた空気溜まりを遅滞なく除去することにより、シワの発生をなくすようにしたものである。
前記吸引手段として、一対のトランスファロールのうちフェルトに接する側のトランスファロールをサクションロールとしてもよく、また一対のトランスファロールのうちフェルトに接する側のトランスファロールの上流側に前記フェルトを介して前記トランスファロールのニップ部直上流側を吸引するサクションボックスを設けるようにしてもよい。
かかる構成により、湿紙とフェルト間に介在する空気をフェルト側から吸引し、トランスファロールの空気溜まりを容易に解消することができる。
【0019】
また前記目的を達成するための本発明装置の第2の構成は、
湿紙をフェルトで挟んで加圧脱水する抄紙機の脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙を通気性のフェルトと湿紙に接触する面の表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルトとで挟持しながら面圧を加えることにより湿紙を前記通紙ベルトに転移させる一対のトランスファロールと、
プレス工程の最終段プレスとして設けられ湿紙を前記通紙ベルトに担持させた状態で面圧を加え平滑化処理を行う平滑化プレスロールとを備えた抄紙機のプレスパートにおいて、
前記一対のトランスファロールのうち前記フェルトに接するトランスファロールの表面に通気用溝を設けたことを特徴とする。
【0020】
本発明装置の第2の構成においては、前記一対のトランスファロールのニップ時に、前記通気溝からトランスファロールのニップ部に溜まった空気を逃がすことができる。このようにトランスファロールの一方の表面に通気溝を設けるという簡単な構成でトランスファロールのニップ部に溜まった空気溜まりを除去することができる。
【0021】
前記トランスファロールを経た後、平滑化プレスロールに達するまでの間、湿紙は通紙ベルトの下面に貼り付いて移動する。この際本発明者等は、湿紙の自重により湿紙が通紙ベルトから剥離して、下方に垂れ下がる現象が生じることを見出した。
この垂れ下がりをそのままにしておくと、平滑化プレスロールのニップ部で湿紙と通紙ベルトとの位置がずれ、垂れ下がり部の終端で湿紙にシワが寄る現象が発生する。
【0022】
本発明者等は、トランスファロールと平滑化プレスロールとの間隔がある一定以上存在すると、前記垂れ下がり現象が発生するとの知見を得、この知見に基づき、本発明装置の前記第1又は第2の構成において、好ましくは、トランスファロールのニップ部と平滑化プレスロールのニップ部との距離を1.5m未満としたことにより、湿紙の垂れ下がり現象を防止できるようにしたものである。
【0023】
また、本発明装置の前記第1又は第2の構成において、好ましくは、一対のトランスファロールのうち通紙ベルトに接する側のトランスファロールをサクションロールとし、前記一対のトランスファロールのニップ部の後流側で前記サクションロールとニップ部を形成する平滑化プレスロールを設け、該ニップ部に前記通紙ベルトに担持させた湿紙を通して平滑化処理するように構成してもよい。
【0024】
このように構成することにより、トランスファロールを通した後の湿紙を平滑化プレスロールまで最短区間で搬送することができ、通紙ベルトからの湿紙の垂れ下がりをなくすことができるとともに、搬送区間が平滑化プレスロールの表面に沿った曲率となることにより、湿紙に張力を付与したまま、平滑化プレスロールまで搬送することが可能となり、ブローイングをなくした安定走行が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明方法によれば、前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側に湿紙と前記フェルトとの間に溜まった空気を前記フェルトを介して吸引除去することにより、前記空気溜まりを容易に除去することができ、これに起因した後流側の平滑化処理パートでのシワの発生をなくすことができる。好ましくは、その際吸引により前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側に付加する真空度を0〜250mmHg、好ましくは50〜250mmHgとすることにより、吸引力を発生する装置が大掛かりとならず、かつ吸引力により湿紙の走行を妨げることがなく、経済的で円滑な抄紙機の運転を可能とする。
【0026】
また、本発明装置の第1の構成によれば、前記トランスファロールのニップ部直上流側を前記フェルト側から吸引する吸引手段を設けたことにより、前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側に湿紙と前記フェルトとの間に溜まろうとする空気を前記フェルトを介して吸引除去することにより、ブローイングによるシワの発生を防止することができる。
【0027】
また、本発明装置の第2の構成によれば、前記一対のトランスファロールの一方の表面に通気用溝を設けるという簡素かつ安価な構成により、装置の大掛かりな改造を必要とせず、トランスファロールのニップ部に溜まった空気溜まりを除去することができる。
【0028】
また、本発明装置の第1又は第2の構成によれば、好ましくは、トランスファロールのニップ部と平滑化プレスロールのニップ部との距離を1.5m未満としたことにより、トランスファロールと平滑化プレスロールとの間で通紙ベルトからの湿紙の垂れ下がり現象をなくすことができ、垂れ下がりによる湿紙の走行性の悪化及びシワの発生を防止することができる。
【0029】
また、本発明装置の第1又は第2の構成によれば、好ましくは、一対のトランスファロールのうち通紙ベルトに接する側のトランスファロールをサクションロールとし、前記一対のトランスファロールのニップ部の後流側で該サクションロールとのニップ部を形成する平滑化プレスロールを設け、該ニップ部に前記通紙ベルトに担持させた湿紙を通して平滑化処理するように構成することにより、トランスファロールを通した後の湿紙を平滑化プレスロールまで最短区間で搬送することができ、通紙ベルトからの湿紙の垂れ下がりを防止することができるとともに、搬送区間が平滑化プレスロールの表面に沿った曲率となることにより、湿紙に張力を付与したまま、平滑化プレスロールまで搬送することが可能となり、ブローイングをなくした安定走行が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
図1は本発明の第1実施形態を示す構成図、図2は本発明の第2実施形態を示す構成図、図3は本発明の第3実施形態を示す構成図である。
(実施形態1)
【0031】
本発明の第1実施形態を示す図1において、図示しないワイヤパートを経由してきた湿紙1は、サクションロール5aにより吸引されてフェルト6aに転移された後、フェルト6aとフェルト6bとにより挟み込まれた状態でプレスパート2の脱水用1段プレス4に搬送される。脱水用1段プレス4では、シューモジュール4aとプレスボトムロール4bとを備えており、これらシューモジュール4a、プレスボトムロール4bのニップ圧により湿紙1に含まれる水分をフェルト6a、6bに移動させて搾水を行なっている。なお、図中aは湿紙1の搬送方向を示す。
【0032】
脱水用1段プレス4にて搾水された湿紙1は、サクションロール5bにより吸引されてフェルト6bに転移されて走行した後、一対のトランスファロール11a及びトランスファサクションロール21bに通される。該ロール11bは、従来のトランスファロールに真空値の調整が可能なサクション機能を付加したものである。トランスファサクションロール21bは、緩衝用及びニップ幅を確保するため、表面にゴムベルトを巻いたものであってもよい。これらトランスファロール11a及びトランスファサクションロール21bでは、弾性部材(例えばゴム)からなり、表面が滑らかで通気性を有さない(水分を吸収しない)通紙ベルト13が案内ロール19を経て湿紙1及びフェルト6bとともにニップされる。通紙ベルト13は、ニップ部で弾性変形を起こし、ニップ幅を確保できるようにしている。
【0033】
通常湿紙は、ニップ圧が加えられた場合、表面平滑度のより高い方に貼り付いて移動するので、湿紙1は、フェルト6bよりも表面平滑度が高い通紙ベルト13に貼り付いて、フェルト6b上から通紙ベルト13の表面に転移される。
その後、湿紙1は、プレスパート2の最終段プレスとして設けられたスムージングプレスパート(平滑化プレスパート)12に移動し、通紙ベルト13に片面を担持された状態でスムーザトップロール12a及びスムーザボトムロール12bのニップ部でニップ圧が加えられ、湿紙1両面の平滑化処理が行われる。ロール12a及び12bは表面に硬質材としてのハードカバー(例えば硬質ゴム)が装着され、これらロール間を通る湿紙にニップ圧を加え、平滑化処理を行う。
【0034】
通紙ベルト13は、表面平滑度を高くするためには非通気性とすることが望ましいが、微通気性の通紙ベルトを用いれば、スムージングプレス12のニップ部でブローイングの発生を防止できる点で好ましい。
なお、トランスファロール11a、トランスファサクションロール21bのニップ部とスムーザトップロール12a、スムーザボトムロール12bのニップ部間の距離Lは1.5m未満に設定されている。
その後、湿紙1は、カンバス7cを介してドライヤパート3に移送され、1番ドライヤ3aから図示しない2番ドライヤ、3番ドライヤと順に経由し、湿紙1の乾燥が行なわれる。なお図1中の符号20a、20bは真空ロールである。
【0035】
かかる構成の第1実施形態において、湿紙1は、一対のトランスファロール11a及びトランスファサクションロール21bに通される際、ロール11bの真空値は50〜250mmHgに設定されており、ロール11bによってニップ部直上流がフェルト6bを介して吸引される。
これによってニップ部の直上流側に形成された空気溜まりが吸引除去されるため、ブローイングの発生をなくし、湿紙1にシワが発生することがなくなる。前記真空値は、ブロアによって対応可能であり、湿紙1及びフェルト6bに大きな吸引力を加えないため、湿紙1及びフェルト6bの走行性を良くし、経済的な運転を可能とする。またトランスファロール11a、トランスファサクションロール21bのニップ部の出口で湿紙1が通紙ベルト13の表面に転移されるのを容易にする。
【0036】
また、第1実施形態においては、トランスファロール11a、トランスファサクションロール21bのニップ部とロール12a、12bのニップ部間の距離Lは1.5m未満に設定されているため、これらロール間で通紙ベルト13の下面に貼り付いた湿紙1が通紙ベルト13から剥離して下方に垂れ下がることがない。
(実施形態2)
【0037】
次に本発明の第2実施形態を図2により説明する。図2において、脱水用1段プレス4にて搾水された湿紙1は、サクションロール5bにより吸引されてフェルト6bに転移されて走行した後、サクショントランスファプレスロール21a及びトランスファニップロール11b間に通される。フェルト6b側に設けられたトランスファニップロール11bは、従来のトランスファニップロールと同一の構成であり、サクション機能はなく、代わりにその直上流側にサクションボックス25が設けられている。第2実施形態のうち、トランスファニップロール11b及びサクションボックス25を第1実施形態のトランスファサクションロール21bに置き換えることも可能である。
サクションボックス25は、その真空値を50〜250mmHgに調整しており、これによってサクショントランスファプレスロール21aとトランスファニップロール11bとのニップ部直上流側で湿紙1とフェルト6bとの間に発生する空気溜まりをフェルト6bを介して吸引するようにしている。
【0038】
サクショントランスファプレスロール21aは、サクション機能を有して、該ロール11bとのニップ部を通過した通紙ベルト13をその表面に吸着させるとともに、トランスファニップロール11bとのニップ部の後流側にスムーザボトムロール24とのニップ部を形成している。
湿紙1は、該ロール21aと11bとのニップ部の出口でフェルト6bより表面平滑度の高い通紙ベルト13に転移され、通紙ベルト13とともにロール21aの表面に貼り付き、プレスパート2の最終段プレスとして設けられたスムーザボトムロール24とのニップ部に向かう。ロール21a及び24は表面に硬質材としてのハードカバー(例えば硬質ゴム)が装着され、これらロール間を通る湿紙1及び通紙ベルト13に通紙ベルト13の弾性変形を利用してニップ圧を加え、平滑化処理を行う。
【0039】
通紙ベルト13は、前記第1実施形態と同様に、弾性部材(例えばゴム)からなり表面が滑らかで通気性を有さず(水分を吸収しない)、案内ロール19を経て湿紙1とともにサクショントランスファプレスロール21a、トランスファニップロール11b間及びサクショントランスファプレスロール21a、スムーザボトムロール24間を通すことにより、ニップ部で弾性変形を起こさせ、ニップ幅を確保できるようにしている。なお、通紙ベルト13は、微通気性としてもよく、微通気性とすることにより、該ニップ部でブローイング現象を防止することができる。
湿紙1は、前述のように、ニップ圧が加えられた場合、表面平滑度の高い方に張り付く性質を有している他、硬度の硬い方に貼り付くという性質があるため、サクショントランスファプレスロール21aとスムーザボトムロール24とのニップ部を出た後は、案内ロール23に案内される通紙ベルト13から離れ、通紙ベルト13より表面平滑度の高くかつ硬いスムーザボトムロール24に貼り付いて移動する。
【0040】
このように湿紙1は、通紙ベルト13に片面を担持された状態でサクショントランスファプレスロール21aとスムーザボトムロール24のニップ部でニップ圧が加えられ、湿紙1両面の平滑化処理が行われる。
その後湿紙1は、カンバス7cを介してドライヤパート3に移送され、1番ドライヤ3aから図示しない2番ドライヤ、3番ドライヤと順に経由し、湿紙1の乾燥が行なわれる。なお、図1中の符号20a、20bは真空ロールである。
【0041】
かかる第2実施形態によれば、サクションボックス25の真空値を50〜250mmHgに調整し、かかる真空値でサクショントランスファプレスロール21a、トランスファニップロール11bのニップ部の直上流側をフェルト6bを介して吸引するので、ニップ部の直上流側に形成された空気溜まりを容易に除去して、これに起因したシワの発生を防止することができる。
また、サクショントランスファプレスロール21aをトランスファロールとスムージングプレスロールとに兼用させることにより、サクショントランスファプレスロール21a、トランスファニップロール11bのニップ部から出た後の湿紙1を平滑化処理を行うスムーザボトムロール24とのニップ部まで最小区間で搬送することができる。
【0042】
これによって、従来のようにトランスファロールからスムーザロールまでの間で通紙ベルト13からの湿紙1の垂れ下がりによる不具合を解消することができるとともに、湿紙1をサクショントランスファプレスロール21aの表面に転移させることにより、搬送区間が曲率となり、湿紙にテンションを付与したままスムージングプレス22に搬送することが可能となり、これによってもブローイングを完全に防止することができる。
(実施形態3)
【0043】
次に本発明の第3実施形態を図3に基づいて説明する。図3は、従来の構成を示す図4において、フェルト06bに接するトランスファニップロール011b(ボトム側)に通気用溝を設けた構成としたものである。即ち図3において、第3実施形態に使用されるトランスファボトムロール31bは、表面に円周方向に一定間隔をもって複数の通気用溝32を穿設したものである。
【0044】
かかる構成によって、第3実施形態では、トランスファボトムロール31bを含む一対のトランスファロール011a、トランスファボトムロール31b間に通紙ベルト013及びフェルト06bに挟まれた状態で湿紙01を通し、前記ロール間のニップ部で面圧を加えた時に、ニップ部の直上流側のフェルト06bと湿紙01との間に形成された空気溜まりkをフェルト06bを介して通気用溝32から除去することができる。
第3実施形態によれば、このように簡単かつ安価な構成で、空気溜まりkを容易に除去して、湿紙のシワをなくすことができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、抄紙機のプレスパートの最終ステップにおいて、脱水用プレス工程において加圧脱水処理された湿紙を通気性のフェルトと湿紙に接触する面の表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルトとで挟持しながら一対のトランスファロールに通す際に、トランスファロールのニップ部に空気溜まりが発生するのを容易に防止してシワの発生をなくすことができるとともに、トランスファロールとプレスパートの最終段プレスとして設けられた平滑化プレスロールとの間で湿紙が通紙ベルトから垂れ下がるのを防止して、抄紙機の安定運転を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態の構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態の構成図である。
【図3】(a)及び(b)は本発明の第2実施形態の一部構成を示す斜視図及び(a)中のIIIb−IIIb断面図である。
【図4】従来の抄紙機のプレスパートを示す構成図である。
【図5】(a)及び(b)は従来の抄紙機のプレスパートの一部断面図及び斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 湿紙
2 プレスパート
4 脱水用1段プレス
4a シューモジュール
4b プレスボトムロール
5a、5b サクションロール
6a、6b フェルト
8 ワイヤ
11a トランスファロール
11b トランスファニップロール
12、22 スムージングプレス
12a スムーザトップロール
12b、24 スムーザボトムロール
13 通紙ベルト
21a サクショントランスファプレスロール
21b トランスファサクションロール
25 サクションボックス
a 湿紙1の走行方向
k 空気溜まり
m 垂れ下り

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿紙を通気性のフェルトで挟んで加圧脱水する抄紙機の脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙を該フェルトと湿紙に接触する面の表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルトとで挟持しながら一対のトランスファロールを通すことにより湿紙を前記通紙ベルトに転移させ、
その後、湿紙を前記通紙ベルトに担持させた状態でプレス工程の最終段プレスとして用いられる平滑化プレスロールを通すことにより平滑化処理を行う湿紙の平滑化処理方法において、
前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側の湿紙と前記フェルトとの間に溜まった空気を前記フェルトを介して吸引除去することを特徴とする湿紙の平滑化処理方法。
【請求項2】
前記吸引により前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側に付加する真空度を0〜250mmHgとすることを特徴とする請求項1記載の湿紙の平滑化処理方法。
【請求項3】
湿紙を通気性のフェルトで挟んで加圧脱水する抄紙機の脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙を該フェルトと湿紙に接触する面の表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルトとで挟持しながら面圧を加えることにより湿紙を前記通紙ベルトに転移させる一対のトランスファロールと、
プレス工程の最終段プレスとして設けられ湿紙を該通紙ベルトに担持させた状態で面圧を加え平滑化処理を行う平滑化プレスロールとを備えた抄紙機のプレスパートにおいて、
前記一対のトランスファロールのニップ部直上流側を前記フェルト側から吸引する吸引手段を設けたことを特徴とする抄紙機のプレスパート。
【請求項4】
前記一対のトランスファロールのうち前記フェルトに接する側の前記トランスファロールをサクションロールとしたことを特徴とする請求項3記載の抄紙機のプレスパート。
【請求項5】
前記一対のトランスファロールのうち前記フェルトに接する側の前記トランスファロールの上流側に前記フェルトを介して前記トランスファロールのニップ部直上流側を吸引するサクションボックスを設けたことを特徴とする請求項3記載の抄紙機のプレスパート。
【請求項6】
湿紙を通気性のフェルトで挟んで加圧脱水する抄紙機の脱水用プレスの最終プレスから出た湿紙を該フェルトと湿紙に接触する面の表面平滑度が該フェルトより高い通紙ベルトとで挟持しながら面圧を加えることにより湿紙を前記通紙ベルトに転移させる一対のトランスファロールと、
プレス工程の最終段プレスとして設けられ湿紙を前記通紙ベルトに担持させた状態で面圧を加え平滑化処理を行う平滑化プレスロールとを備えた抄紙機のプレスパートにおいて、
前記一対のトランスファロールのうち前記フェルトに接するトランスファロールの表面に通気用溝を設けたことを特徴とする抄紙機のプレスパート。
【請求項7】
前記トランスファロールのニップ部と前記平滑化プレスロールのニップ部との距離を1.5m未満としたことを特徴とする請求項3又は6記載の抄紙機のプレスパート。
【請求項8】
前記一対のトランスファロールのうち前記通紙ベルトに接する側の前記トランスファロールをサクションロールとし、
該サクションロールと他方のトランスファロールとのニップ部の後流側で該サクションロールとニップ部を形成する平滑化プレスロールを設け、該ニップ部に前記通紙ベルトに担持させた湿紙を通して平滑化処理するように構成したことを特徴とする請求項3又は6記載の抄紙機のプレスパート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−88603(P2008−88603A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271275(P2006−271275)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】