説明

満腹ホルモン放出の刺激

本発明は、他の中で、胃内容物排出後に小腸に入る栄養素に対する自然のホルモン反応を強化し、これにより肥満又は糖尿病患者に治療的価値をもたらす、部位特異的な方法を提供する。1つの態様において、本発明は被験者において満腹ホルモンの放出を刺激する方法を提供する。これには、栄養素刺激で組織のL細胞を収縮させるのと同時に、被験者の胃腸系の管腔組織に第一電気刺激を印加することが含まれる。別の態様において、本発明は、体重減少手術に対する患者反応を予測するための方法を提供する。これには、栄養素刺激で組織のL細胞を収縮させるのと同時に、該患者の胃腸系の組織に第一電気刺激を印加することと、該患者における電気刺激の影響を評価することと、該影響を、体重減少手術に対する該患者の反応と相互に関連づけることと、が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全般的に、代謝性疾患の、電気刺激を用いた診断及び/又は治療に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは、食物不足の時に備えてエネルギーを節約するよう進化している。西側世界では多くの場合、食物が容易に入手できるため、過剰なエネルギーを貯蔵する能力は、病的肥満患者の出現率及び2型糖尿病(T2D)の出現率の増加に寄与している。肥満とT2Dの疾患は合わせて、米国で約8000万人、世界では約5億人が罹患している。そのような病状を有する患者は、心臓血管疾患及び関節炎を含めた関連併存疾患によって生じる、罹患率及び死亡率が増加している。
【0003】
身体自体のグルコース制御ホルモンであるグルカゴン様ペプチド(GLP−1)を調節する主要ホルモンに似た新しい種類の薬剤が、T2D及び肥満を軽減する試みにおいていくつかの利点をもたらし、「インクレチン模倣物質」と呼ばれている。エクセナチドは、グルコース制御と体重減少の両方を改善するインクレチン模倣物質である(Schnabel CA,Wintle M,and Kolterman O.Metabolic effects of the incretin mimetic exenatide in the treatment of type 2 diabetes.Vasc Health Risk Manag 2:69〜77,2006)。通常、消化管内にある「消化物」と呼ばれる、炭水化物、脂肪及びタンパク質を含む食物から生じる栄養素の存在が、身体自体のインクレチンの血流への放出を刺激する。粘膜(腸の最も内側の(管腔側の)壁)に所在する特化したL細胞によって放出される主要ホルモンは、食物に対する身体の反応を調整する。このホルモンは、充足感と摂食休止を促し(満腹)、インスリンの放出を誘発して適正なグルコースレベルを維持し(インクレチン効果)、並びに、消化管を通る内容物の通過を遅くする(胃内容物排出を遅らせ、小腸の通過を遅くする)ことによって、この効果を生み出す。総じて、これらの効果は「回腸ブレーキ」と呼ばれている。
【0004】
用語「回腸ブレーキ」は、最初は1984年にSpillerによってペプチドYYの作用を指すものとして造語された(Spiller RC,Trotman IF,Higgins BE,Ghatei MA,Grimble GK,Lee YC,Bloom SR,Misiewicz JJ,and Silk DB.The ileal brake−−inhibition of jejunal motility after ileal fat perfusion in man.Gut 25:365〜374,1984);しかしながら近年の研究で、役割を果たすホルモン(例えば、多数の中でもPYY、GLP−1、及びGLP−2など)、並びにこれらホルモンの放出の複合効果(胃内容物排出、充足感と摂食休止、インスリン分泌の誘発)の両方の観点で、この重要なメカニズムの複雑さの理解が広がっている。
【0005】
不十分な回腸ブレーキ、すなわち、食事に対してこれらのホルモンの十分量を放出することを、身体ができない場合は、肥満及びT2Dの寄与要因となる。非肥満・非糖尿病の個人においては、空腹時GLP−1レベルは5〜10pmol/Lであり、食事後に15〜50pmol/Lへと急速に上昇する(Drucker DJ,and Nauck MA.The incretin system:glucagon−like peptide−1 receptor agonists and dipeptidyl peptidase−4 inhibitors in type 2 diabetes.Lancet 368:1696〜1705,2006)。T2D患者では、食事に関するGLP−1の増加は明白に鈍い(Toft−Nielsen MB,Damholt MB,Madsbad S,Hilsted LM,Hughes TE,Michelsen BK,and Holst JJ.Determinants of the impaired secretion of glucagon−like peptide−1 in type 2 diabetic patients.J Clin Endocrinol Metab 86:3717〜3723,2001)。そのような患者の減少したインスリンレベルは、不十分なGLP−1レベルによるものであり、GLP−2に対してインスリンを放出する膵臓反応の不十分さによるものではない(Toft−Nielsen MB,Madsbad S,and Holst JJ.Continuous subcutaneous infusion of glucagon−like peptide 1 lowers plasma glucose and reduces appetite in type 2 diabetic patients.Diabetes Care 22:1137〜1143,1999)。同様に、肥満被験者は、より低い空腹時基準ホルモンレベル、及び、より小さい食事関連上昇を有する(Small CJ,and Bloom SR.Gut hormones and the control of appetite.Trends Endocrinol Metab 15:259〜263,2004)。よって、身体のGLP−1の内因性レベルを強化すると、肥満と糖尿病の両方に対して影響を与えることが見込まれ得る。
【0006】
GLP−1はいくつかの形態で存在する。細胞内において、GLP−1の前駆体はプログルカゴンであり、これが開裂してGLP−1−(1−37)を形成し、次の工程ではN末端から最初の6つのアミノ酸を除去して、2つの既知の生物学的に活性な形態のGLP−1を形成する。GLP−1(約80%)の大半はアミド化されてGLP−1(7−36)NH2を形成し、少数(約20%)はGLP−1−(7−37)となる。このタンパク質分解プロセスは細胞内で、かつ分泌前に起こり、これら2つの形態が、生物学的に活性な形態のGLP−1を構成する。GLP−1−(7−36)NH2及びGLP−1−(7−37)の両方がグルコースに対するインスリン反応を増加させ、次に、放出後、GLP−1がプロテアーゼジペプチジルペプチダーゼIV(DPP−IV)によって代謝されてGLP−1−(9−36)アミドとなり、これはヒトに対して不活性である(Vahl TP,Paty BW,Fuller BD,Prigeon RL,and D’Alessio DA.Effects of GLP−1−(7−36)NH2,GLP−1−(7−37),and GLP−1−(9−36)NH2 on intravenous glucose tolerance and glucose−induced insulin secretion in healthy humans.J Clin Endocrinol Metab 88:1772〜1779,2003)。内因性のGLP−1活性形態を増加させる薬学的方法には、ジペプチジルペプチダーゼー4(DPP−4)阻害剤(例えばビルダグリプチンなどの)によって、その分解を阻害することが挙げられる。糖尿病患者においては、グルコース制御の向上は、ビルダグリプチンによるGLP−1の循環レベルの増加によって得られる(Ahren B,Pacini G,Foley JE,and Schweizer A.Improved meal−related beta−cell function and insulin sensitivity by the dipeptidyl peptidase−IV inhibitor vildagliptin in metformin−treated patients with type 2 diabetes over 1 year.Diabetes Care 28:1936〜1940,2005)。
【0007】
薬剤治療だけでは十分に管理されていないT2D及び肥満患者の治療については、満たされていないニーズが存在する。現在、病的肥満の最も効果的な治療は肥満外科手術であり、これは余病を有する患者の77%において体重減少及びT2Dが改善されている(Buchwald H,Avidor Y,Braunwald E,Jensen MD,Pories W,Fahrbach K,and Schoelles K.Bariatric surgery:a systematic review and meta−analysis.Jama 292:1724〜1737,2004)。病的肥満患者におけるRoux−en−Y胃バイパス手術後には、顕著な体重減少が起こる前であっても、ホルモンレベルが変化する(Rubino F,Gagner M,Gentileschi P,Kini S,Fukuyama S,Feng J,and Diamond E.The early effect of the Roux−en−Y gastric bypass on hormones involved in body weight regulation and glucose metabolism.Ann Surg 240:236〜242,2004)。肥満手術後の患者における数多くの調査により、インクレチン経路が、顕著なT2D及び体重減少の改善に寄与することが示唆されている。具体的には、手術後に、食事関連の循環GLP−1レベルが上昇している(Laferrere B,Heshka S,Wang K,Khan Y,McGinty J,Teixeira J,Hart AB,and Olivan B.Incretin levels and effect are markedly enhanced 1 month after Roux−en−Y gastric bypass surgery in obese patients with type 2 diabetes.Diabetes Care 30:1709〜1716,2007;Whitson BA,Leslie DB,Kellogg TA,Maddaus MA,Buchwald H,Billington CJ,and Ikramuddin S.Entero−endocrine changes after gastric bypass in diabetic and nondiabetic patients:a preliminary study.J Surg Res 141:31〜39,2007)。しかしながら、肥満手術は極端な方法であると受け止められており、現在、病的な肥満患者のみに推奨されている。2008年米国糖尿病学会において、Dr.C.H.Sorli,M.D.(モンタナ州Billings Clinic)は、内視鏡経由で設置された不浸透性のフルオロポリマースリーブを含み、十二指腸入口でさかとげ付き金属製アンカーを用いて綴じる、調査中のバイパスを用いた侵襲性のより少ないアプローチを報告した。このスリーブは、短期間の調査では体重減少が観察されなかったが、16人の患者において1週間でグルコース制御を改善した。
【0008】
よって、全身麻酔の必要なく、容易に元に戻すことができ、短い手順の見通しで、体重減少とグルコース制御の両方を改善する装置として、侵襲的肥満手術よりも有利であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様において、本発明は被験者において満腹ホルモンの放出を刺激する方法を提供する。これには、栄養素刺激で組織のL細胞を収縮させるのと同時に、被験者の胃腸系の組織に第一電気刺激を印加することが含まれる。別の態様において、本発明は、体重減少手術に対する患者反応を予測するための方法を提供する。これには、栄養素刺激で組織のL細胞を収縮させるのと同時に、該患者の胃腸系の組織に第一電気刺激を印加することと、該患者における電気刺激の影響を評価することと、該影響を、体重減少手術に対する該患者の反応と相互に関連づけることと、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】切除したラット回腸に電気刺激を印加するのに使用されるアセンブリを示す。
【図2】リノール酸中に45分間インキュベーションした後に放出された、全消化管から得た断片中のGLP−1の濃度を示す。
【図3】GLP−1の存在に関する小腸及び大腸の粘膜上皮の分析結果を示す。
【図4】(2つの実施例)を含み、かつ3mg/mLリノール酸を含まない、クレブス−リンガー重炭酸塩緩衝液中でインキュベーション中の経時的GLP−1濃度増加を示す。
【図5】リノール酸のみに曝された対のサンプルと比較し、リノール酸の存在下での様々な電気刺激条件に対応して放出されたGLP−1の差のプロットを示す。
【図6】前の図と同じデータを、様々な電気刺激条件に対応して放出されたGLP−1のパーセンテージとして表わしたもの。
【図7】電気刺激がある場合とない場合の、リノール酸誘発によるGLP−1放出の影響に対する、神経毒の影響を示す。
【図8】刺激中の位相当たり送達される平均電荷(Qave)が、平均電流(Iave)及びパルス幅(PW)の関数であることを示す図。
【図9】様々なインキュベーション及び刺激条件において40分間後の、分離された回腸の筋緊張の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、本開示の一部を形成する、添付図面及び実施例に関連して解釈される以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。本発明は、本明細書に記載する及び/又は示す特定の製品、方法、条件又はパラメータに限定されるものではなく、本明細書で使用される専門用語は実施例を用いて具体的な実施形態を記載する目的のためだけのものであり、請求した発明を制限することを意図するものではないことが理解されるべきである。
【0012】
本開示では、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に明示しない限り、複数の参照及び少なくともその特定の値を含む特定の数値の参照を含む。例えば、「刺激(a stimulus)」に対する参照は、1種又はそれ以上のこのような刺激及び当業者に既知であるその等価物等に対する参照である。値が先行詞「約」を用いることにより近似値として表現されるとき、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。本明細書で使用するとき、「約X(Xは数値である)」は、好ましくは包括的に列挙した値の±10%を指す。例えば、語句「約8」は、好ましくは包括的に7.2〜8.8の値を指し、別の例としては、語句「約8%」は、好ましくは包括的に7.2%〜8.8%の値を指す。存在する場合、全ての範囲は包括的かつ組み合わせ可能である。例えば、「1〜5」の範囲を列挙するとき、列挙した範囲は「1〜4」、「1〜3」、「1〜2」、「1〜2及び4〜5」、「1〜3及び5」等の範囲を含むと解釈すべきである。
【0013】
本明細書に引用又は記載する各特許、特許出願及び刊行物の開示は、その全文を参照することにより本明細書に組み込む。
【0014】
本発明は、他の中で、小腸に入る栄養素に対する身体の内因性GLP−1反応を強化し、これにより肥満又は糖尿病患者に治療的価値をもたらす、部位特異的な方法を提供する。本明細書に記載されているように、腸の電気刺激の特定のレジメンは、主な満腹ホルモンの放出を強化することが見出されている。本明細書に示されるように、分離した腸の断片に電気刺激を印加して、栄養素であるリノール酸に対するGLP−1放出を強化することができる。更に、この電気刺激は、栄養素に対してこれらホルモンを産生する腸の細胞(L細胞)に直接作用することができる。L細胞は回腸ブレーキホルモンを放出し、このホルモンはインスリン分泌、グルコース恒常性、胃内容物排出、及び満腹感を調節する。これらは小腸及び大腸全体に存在し、遠位小腸(回腸)及び近位大腸に最も多く存在する細胞である。興味深いことに、T2Dでは腸内のL細胞の数は増加しており(Theodorakis MJ,Carlson O,Michopoulos S,Doyle ME,Juhaszova M,Petraki K,and Egan JM.Human duodenal enteroendocrine cells:source of both incretin peptides,GLP−1 and GIP.Am J Physiol Endocrinol Metab 290:E550〜559,2006)、これはちょうど、これらの患者で鈍くなったホルモン放出を、身体が補おうとしているようである。
【0015】
本明細書で開示されるように、GLP−1の腸の放出を強化するために部位選択的電気刺激を使用する利点は、増加したGLP−1が、GLP−1の放出から数分以内に局所的に作用することである。GLP−1の局所的作用部位は、迷走神経末端にあるそれ自体の受容体であり、そこには腸及び肝臓の門脈循環が存在する(Vahl TP,Tauchi M,Durler TS,Elfers EE,Fernandes TM,Bitner RD,Ellis KS,Woods SC,Seeley RJ,Herman JP,and D’Alessio DA.GLP−1 receptors expressed on nerve terminals in the portal vein mediate the effects of endogenous GLP−1 on glucose tolerance in rats.Endocrinology 2007)。よって、放出されるGLP−1の増加は、局所的に影響を生じ、同時に、循環するGLP−1の通常の分解は阻害されない。このアプローチは、外因性薬剤の投与よりも、有害反応が少ないことが見込まれ得る。よって、腸内の電気刺激は、身体が自然に行うことを、自然に行うときに、しかしながらより有効な方法で身体に行わせるために採用することができる。
【0016】
肥満患者の胃に埋め込まれた電気刺激装置は、体重減少に様々な肯定的効果を有することが報告されており(Zhang C,Ng KL,Li JD,He F,Anderson DJ,Sun YE,and Zhou QY.Prokineticin 2 is a target gene of proneural basic helix−loop−helix factors for olfactory bulb neurogenesis.J Biol Chem 282:6917〜6921,2007)、体重減少に加えて、T2D患者においてグルコース制御の改善を伴っている。L細胞は胃にはないため、この刺激は、L細胞に直接作用することは見込まれていないであろう。肥満又は糖尿病患者における腸の電気刺激研究は、これより数が少なく、生じる神経性及び運動性影響が報告される傾向にある。例えば、糖尿病性ニューロパシーにおいて、十二指腸(小腸の口側端に位置する)の電気刺激は、対照患者に比べて弱い神経反応を生じている(Frokjaer JB,Andersen SD,Ejskaer N,Funch−Jensen P,Arendt−Nielsen L,Gregersen H,and Drewes AM.Gut sensations in diabetic autonomic neuropathy.Pain 131:320〜329,2007)。健康な志願者においては、十二指腸の電気刺激は胃内容物排出を遅らせ、水の摂取量を減らしている(Liu S,Hou X,and Chen JD.Therapeutic potential of duodenal electrical stimulation for obesity:acute effects on gastric emptying and water intake.Am J Gastroenterol 100:792〜796,2005)。ラット及びイヌにおける臨床前モデルにおいて、小腸の近位(口)側端にある十二指腸の刺激(20Hz、6mA、300ms)は、食物の摂取を減らし、この影響はラットにおける4週間の刺激にわたって持続されている(Yin J,Ouyang H,and Chen JD.Potential of intestinal electrical stimulation for obesity:a preliminary canine study.Obesity(Silver Spring)15:1133〜1138,2007;Yin J,Zhang J,and Chen JD.Inhibitory effects of intestinal electrical stimulation on food intake,weight loss and gastric emptying in rats.Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 293:R78〜82,2007)。食物摂取に対する肯定的効果は、これらの研究において、運動性の変化に起因するものであり、変えられたホルモン濃度(報告されていなかった)に起因するものではない。
【0017】
迷走神経及び交感神経などの神経の電気刺激による活性の改変は、GLP−1を調節することができる。しかしながら、ブタの回腸につながっている迷走神経の直接的な電気刺激は、GLP−1放出に対し、弱い刺激効果しか与えないことが示されている(Hansen L,Lampert S,Mineo H,and Holst JJ.Neural regulation of glucagon−like peptide−1 secretion in pigs.Am J Physiol Endocrinol Metab 287:E939〜947,2004)。迷走神経が、胃に入ってくる食物を感受し、長い反射ループにより、脳を経由して腸に戻りこの情報を調整して、GLP−1の増加を誘発することにより、腸を回腸ブレーキ反応に備えさせることは、周知である(Rocca AS,and Brubaker PL.Role of the vagus nerve in mediating proximal nutrient−induced glucagon−like peptide−1 secretion.Endocrinology 140:1687〜1694,1999)。米国特許公開第2007/0179556号において記述された実験では、イヌの遠位側回腸に外科的に埋め込まれた装置によって印加された電気刺激が、GLP−1の放出タイミング及び血中レベルに変化をもたらしている。この反射メカニズムは、GLP−1放出(Id.)を起こさせるため腸に埋め込まれた電気刺激装置と組み合わせて、胃の断面積を測定するための、胃に埋め込まれた電気的インピーダンス検知装置の外科的挿入によって模倣される。胃の断面積の増大は、胃の運動性及び満腹感の変化に関連している。
【0018】
、腸内L細胞が、回腸ブレーキホルモンを正常に放出させることが知られているリノール酸などの栄養素に同時に曝されていない限り、単独で使用される電気刺激パラメータが腸内L細胞からGLP−1を放出させないことが現在明らかにされている。この知見は、局所的にインプラントされた腸内電気刺激装置が、一時的に有効であるように設計され得ることを示している。これは、刺激が栄養素刺激と部分的に同時に存在した場合にのみGLP−1放出を強化し得るからである。
【0019】
本明細書において示されている第二の予測外の結果は、電気刺激が、神経毒の存在下でリノール酸に反応したGLP−1放出を強化することである。ナトリウムチャンネルを遮断することによって神経伝達を阻害する濃度(0.5μM)のテトロドトキシンが存在しても、回腸組織の直接電気刺激によって生じるGLP−1の倍増は、阻害されなかった。L細胞は神経細胞と同じ胚系統に由来するものではないが、神経細胞と同じ特性を数多く有している。ニューロン型のイオンチャンネルが、GLP−1分泌腸細胞株において識別されている(Reimann F,Maziarz M,Flock G,Habib AM,Drucker DJ,and Gribble FM.Characterization and functional role of voltage gated cation conductances in the glucagon−like peptide−1 secreting GLUTag cell line.J Physiol 563:161〜175,2005;Gameiro A,Reimann F,Habib AM,O’Malley D,Williams L,Simpson AK,and Gribble FM.The neurotransmitters glycine and GABA stimulate glucagon−like peptide−1 release from the GLUTag cell line.J Physiol 569:761〜772,2005)。特定の理論に束縛されるものではないが、電気刺激は腸の細胞のその場での興奮性を直接変え、栄養素刺激に対するホルモン反応を増大させると考えられている。
【0020】
よって、小腸の電気刺激は、神経刺激とは独立に、栄養素の管腔刺激に反応して、少なくとも1つのホルモン、あるいはいくつかのホルモンの内分泌腺細胞(例えばL細胞を含む)からの放出を直接に好適に変える。本質的に、本明細書で開示されている電気刺激の精密な方法は、電力に支援された回腸ブレーキを生成する。
【0021】
1つの態様において、本発明は被験者において満腹ホルモンの放出を刺激する方法を提供する。これには、栄養素刺激で組織のL細胞を収縮させるのと同時に、被験者の胃腸系の組織に第一電気刺激を印加することが含まれる。この組織は、腸の最も内側の壁を形成する粘膜組織であり得る。他の実施形態において、この組織は腸の最も外側の壁を形成する漿膜組織であり得る。本明細書で使用される用語「満腹ホルモン」は、内分泌腺細胞から分泌される因子の1つで、受容体との反応を介して、満足感及び/又は充足感をもたらし、これにより食欲の抑制、食物摂取の減少、又はこれら両方が結果として得られるものを指す。代表的な満腹ホルモンはGLP−1である。「満腹ホルモンの放出の刺激」は、ホルモン放出の直接的刺激と間接的刺激の両方を包含する。例えば、電気刺激は直接的に、例えばL細胞などからのホルモン放出を起こさせることができ、及び/又は、電気刺激は、カスケードすなわち一連の事象を誘発し、これによって最終的に満腹ホルモンの放出を生じさせることができる。そのようなカスケードすなわち一連の事象には、あるタイプの満腹ホルモンの刺激が、次に1つ以上の別のタイプの満腹ホルモンを放出させ、又は、第一のタイプの満腹ホルモンの追加量を放出させることが含まれる。
【0022】
第一電気刺激は、胃腸系の任意の組織に印加され得る。例えば、この刺激は回腸の粘膜組織に印加され得る。特定の例では、この刺激は遠位回腸の粘膜組織に印加され得る。既存の方法とは対照的に、本発明には、胃腸系の管腔内を覆う粘膜組織に電気刺激を印加することが含まれてもよい。これは、例えば胃又は腸の漿膜など、胃腸臓器の外側表面のみに電気刺激を印加するのとは相対するものである。本発明の他の特定の態様と組み合わせて粘膜組織を直接刺激すると、非常に好ましい結果が提供されることが明らかにされている。
【0023】
満腹ホルモンの最適な放出のためには、第一電気刺激の印加中に特定の電気パラメータを使用することが望ましいことが、現在明らかにされている。本発明に従って変えることができる代表的な電気的パラメータには、周波数、電圧、及びパルス持続時間が挙げられる。この第一電気刺激は、約0.1Hz〜約90Hzの周波数を有していてよく、例えば、この刺激は約0.1Hz、約0.15Hz、約0.2Hz、約0.4Hz、約1Hz、約4Hz、約10Hz、約20Hz、約25Hz、約30Hz、約35Hz、約40Hz、約50Hz、約70Hz、又は約90Hzであり得る。この第一電気刺激は、約0.5V〜約25の電圧を有していてよく、例えば、この刺激は約1V、約2V、約5V、約10V、約15V、約20V、又は約25Vであり得る。特に好ましい実施形態において、この電圧は約14Vである。この第一電気刺激は、約3ms〜約500msのパルス持続時間を有していてよく、例えば、この刺激は約5ms、約50ms、約100ms、約150ms、約200ms、約250ms、約300ms、約350ms、約400ms、約450ms、又は約500msであり得る。
【0024】
いくつかの実施形態において、この第一電気刺激は、電圧約14V、パルス持続時間約5ms、及び刺激周波数約20〜約80Hzで印加され得る;そのような実施形態に関して、刺激周波数は例えば約20Hz、約40Hz、又は約80Hzであり得る。別の態様において、この第一電気刺激は電圧約14V、パルス持続時間約300ms、及び周波数約0.4Hzで印加され得る。
【0025】
被験者の胃腸系の管腔内組織に印加される電気刺激は、電荷に関して表現することもでき、この単位はマイクロクーロン(μC)であり、また別の方法として「Q」と称される。第一電気刺激は3μCを超える電荷を有し得る。別の態様において、この第一電気刺激は約3μC〜約6000μCの間の電荷を有し得る。特定の実施形態において、この第一電気刺激は約1680μCの電荷を有する。別の実施形態には、約2800μCの電荷を有する第一電気刺激の印加が含まれる。他の実施形態には、約3.75μC、約7.5μC、約15μC、約31.5μC、約280μC、約1400μC、又は約5600μCの電荷を有する第一電気刺激の印加が含まれる。
【0026】
本発明に従い、この第一電気刺激は、管腔内の組織のL細胞に栄養素刺激を接触させるのと同時に、この組織に印加される。本明細書で使用される用語「同時に」とは、電気刺激がその組織に印加される時間の少なくとも一部の時間、そのL細胞がその栄養素刺激に接触していることを意味する。よって、この第一電気刺激が合計持続時間1秒間印加される場合、その第一電気刺激の印加後5秒間、及び、その第一電気刺激の印加中0.1秒間、L細胞を栄養素刺激と接触させることは、その第一電気刺激の印加と同時であると見なされる。組織のL細胞を栄養素刺激に接触させることは、その栄養素刺激にL細胞を直接触させることを指す。これは、摂食活動だけに反応して電気刺激が発生するようタイミングを合わせる方法(例えば、消化を示唆する胃の生理学的パラメーターを概ね検出することによる方法で、これには胃の電気的活性を解釈すること、摂食の開始又は差し迫った開始を示唆する洞収縮を検知すること、自然な胃のペーシングの異所性を検出すること、又は胃の電気的活動の遠心性神経調節を検知することが挙げられる)、あるいは、概ね上昇した血中グルコースレベルの検出などとは対照的となる(例えば米国特許公開第2007/0179556号、段落[0191]〜[0223])。
【0027】
栄養素刺激は、L細胞からの1つ以上のホルモン放出を誘発することができる任意の物質を含み得る。代表的な栄養素刺激物質には炭水化物、その他の糖、アミノ酸、タンパク質、脂肪酸、脂質、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。この栄養素刺激物は、天然の食品物品、サプリメント(例えば栄養ドリンク)、又は物質の形態であってよく、L細胞を刺激する明白な目的で製造され、よって従来の意味でそれ自体「栄養素」である必要はない。
【0028】
本発明の追加的な実施形態において、第一電気刺激は、被験者の胃腸組織の複数の位置に印加され得る。例えば、この第一電気刺激は、被験者の遠位回腸の2ヶ所、3ヶ所、4ヶ所、又はそれ以上の位置に印加することができる。「位置」とは、組織と、電気刺激の送達手段(例えば電極)との間が物理的に接触している領域として定義され得る。従って、第一電気刺激を被験者の胃腸組織の第二の位置に印加することには、その胃腸組織の当初の位置に電気刺激を送達する手段で物理的に接触していない組織部分に、電極を接触させることが含まれ得る。
【0029】
本発明は更に、該被験者の胃腸組織に第二電気信号を印加することを含み得る。この第二電気信号は、第一電気信号が印加されるのと同じ胃腸組織上の同じ位置に印加することができ、同じ胃腸組織の別の位置に印加することができ、その被験者の胃腸系の第二の組織に印加することができ、又は、これらの任意の組み合わせであり得る。この第二電気刺激は、被験者の十二指腸の組織(例えば十二指腸の粘膜組織)、空腸の組織(例えば空腸の粘膜組織)、又は大腸の組織(例えば大腸の粘膜組織)に印加することができ、ここで第一電気刺激は遠位回腸に印加されており、例えば、この第二電気刺激は、被験者の第二管腔組織に適用され得る。この第二電気刺激は、電圧、周波数、パルス持続時間、電荷、又はこれらの任意の組み合わせに関して、第一電気刺激と異なっていてよい。
【0030】
この第二電気刺激は、第一電気刺激の印加と同時に印加され得る。この文脈において「同時に」とは、第一電気刺激が組織に印加される時間の少なくとも一部の時間に、第二電気刺激がその組織の同じ場所若しくは異なる位置に印加されるか、又は場合により別の組織に印加されることを意味する。よって、この第一電気刺激が合計持続時間1秒間印加される場合、その第一電気刺激の印加後5秒間、及び、その第一電気刺激の印加中0.1秒間、第二電気刺激が印加されることは、その第一電気刺激の印加と同時であると見なされる。
【0031】
本発明に従った、組織の電気刺激は、患者の診断にメリットをもたらし得る。肥満の外科的治療に最も効果的な候補を判定するのに、患者のセグメンテーション方法のニーズが存在する。本発明に従って、体重減少手術に対する患者反応を予測するための方法も提供される。これには、栄養素刺激で組織のL細胞を収縮させるのと同時に、該患者の胃腸系の組織に第一電気刺激を印加することと、その患者における電気刺激の効果を評価することと、該影響を、体重減少手術に対するその患者の反応と相互に関連づけることと、が含まれる。
【0032】
本明細書で使用される用語「体重減少手術」には、栄養素摂取及び/若しくは吸収を低下させ、食欲を減退させ、又は体重減少を誘発するか及び/若しくは望ましい体重を維持するために、胃腸管の1つ以上の部分を改変する目的の、肥満手術、インプラント手術、又はその他任意の外科手術が挙げられる。代表的な体重減少手術には、とりわけ、胆膵消化回避術、垂直遮断胃形成術、調節性胃バンディング術、袖状胃切除術、胃バイパス手術、十二指腸スイッチを伴う袖状胃切除術、及びインプラント可能な胃刺激術が挙げられる。
【0033】
電気刺激の印加は、満腹ホルモンの放出を刺激するための開示の方法に関する前述の検討事項に従って実施することができる。一般に、満腹ホルモンの放出を刺激するための開示の方法に関して記述されている定義及びパラメーターは、体重減少手術に対する患者反応を予測するための本方法に完全に適用される。
【0034】
患者における電気刺激の効果の評価には、回腸ブレーキプロセス、満腹、食欲調節、又はこれらの任意の組み合わせに関連する、1つ以上の生理学的及び/又は心理学的パラメーターの存在、及び所望によりそれらパラメーターの度合の測定が含まれ得る。例えば、電気刺激の効果の評価には、1つ以上の満腹及び/若しくは回腸ブレーキホルモン、グルコース、若しくは両方、患者の側の満足感、胃内容物排出の遅延、及び/若しくは栄養素刺激に対する満腹、又はこれらの任意の組み合わせの、存在、度合、又は血中レベルの両方が含まれ得る。特定の実施例において、電気刺激の効果の評価には、試験食事に対する血中GLP−1のレベル測定、グルコース制御の改善(例えば、ブドウ糖負荷試験及びHba1cなどの試験によって示される)、食事に対応した充足感及び/又は満足感(満腹)の早期認識、食事摂取の早期中止、及び同様のことが挙げられる。手動記録又は電子的記録により食欲及び満腹の知覚を測定するのに適用され得る、一般的に使用される視覚的アナログスケールには、三因子摂食(Three Factor Eating)アンケート;食欲、空腹及び感覚的知覚(Appetite, Hunger and Sensory Perception)アンケート(AHSP);栄養食欲アンケートに関する委員会(Council for Nutrition Appetite Questionnaire)(CNAQ)、並びに、単純化栄養食欲アンケート(Simplified Nutrition Appetite Questionnaire)(SNAQ)食欲・食事評価ツール(Appetite and Diet Assessment Tool)(ADAT)が挙げられる。
【0035】
これらの、患者における電気刺激の効果評価が、例えばGLP−1レベルを増加させる薬剤又は体重減少手術を用いた治療などの、治療的介入に対する好ましい患者反応の傾向増大と相互に関連している場合がある。例えば、回腸ブレーキプロセス、満腹、食欲調節、又はこれらの任意の組み合わせに関連する1つ以上の生理学的及び/又は心理学的パラメーターの強化が存在する場合などである。その後に肥満手術を受ける患者においての、体重減少及びT2Dにおける、局所的電気刺激及び実際の改善に対応した、前述段落に記述された方法による改善の度合の回帰分析は、肥満手術のための患者層別化のための方法として、試験の予測可能性を確立し得る。
【0036】
したがって、本方法に従って電気刺激を用いた侵襲性最小限のアプローチは、治療前の患者の反応を予測するのに使用することができ、肯定的効果の可能性を高め得る。刺激部位に、又は刺激部位近くに、適切な装置を内視鏡で配置(好ましくは一時的に、ただし所望により永久的又は長期間にわたって)した後、患者は、回腸ブレーキホルモン又はグルコースの血中濃度、充足感、第二栄養素刺激(すなわち、本方法に従って栄養素刺激から区別された栄養素刺激)(例えば、栄養ドリンク又は標準カロリーの食事などの栄養素食事)に対応した胃内容物排出遅延又は満腹の改善に関して監視され得る。これは、肥満及び糖尿病患者において、薬剤治療及び/又は全身麻酔と肥満手術若しくはインプラント手術を受けることを選択した後、肯定的な結果の可能性を高め得るような、眼に見える体重減少の治療効果及びグルコース制御の改善を、予測するのに使用され得る。
【0037】
本開示の任意の方法に従って、患者の監視は更に、進行中の患者治療の態様と、経時的な刺激パラメーターの調節及び微調整が可能な追跡検査も含み得る。よって、電気刺激(例えば第一電気刺激、第二電気刺激、又は両方)を印加する1つ以上のパラメーターを経時的に変えることができる。この改変は、2つの別の時点に関して生じ(例えば、t=1で第一刺激レジメンが使用され、t=2で別の刺激レジメンが適用される)、あるいは複数の時点に関して生じ得る。この改変は、頻度、電圧、パルス持続時間、電荷、及び位置などの刺激パラメーターの1つ以上を減少又は増加させることが含まれ得る。
【0038】
1つ以上の刺激パラメーターを変える目的の1つは、最適な刺激条件の決定であり得る。例えば、電気刺激の適用に好ましい1つ又は複数の位置が、本技術に従って決定され得る。最適な刺激条件の決定は、特定の患者分類に関して(例えば、男性患者、女性患者、年齢によりグループ分けされた患者、わずかに肥満の患者、中程度の肥満の患者、重篤な肥満患者、平均体重で糖尿病を有する患者、糖尿病のない肥満患者、糖尿病のある肥満患者、及び同等分類)、あるいは、個々の患者に関して、実行することができる。
【0039】
別の態様において、後でその後の肯定的な刺激反応を伴うような、例えば周波数、電圧、パルス持続時間、及び/又は電荷などの、最適電気刺激パラメーターの最小値が決定される。肯定的な刺激反応には、例えば、試験食事に反応した循環GLP−1の増加、慣例の試験(ブドウ糖負荷試験及びHba1c)によって示されるグルコース制御の改善、食事に反応した充足感及び/又は満足感(満腹)の早期知覚、食事摂取の早期中止、及び同様の事象が含まれ得る。従って、最小限の電気刺激を、患者の胃腸組織に印加することができ、1つ以上の刺激パラメーターが、少なくとも1つの十分な反応が得られ、かつそのレベルの刺激で維持されるまで、増加することができる。
【実施例】
【0040】
実施例1−分離した小腸からのGLP−1放出の測定
メスのSprague−Dawleyラット(8〜12週、体重250〜300g)をCO2で安楽死させ、回盲接合部から始めて17cm以上の遠位回腸を、すぐに切除した。管腔内内容物を温かい改質クレブス−リンガー重炭酸塩(KRB)緩衝液で洗い流し、酸素添加した冷KRB緩衝液の入った50mL試験管に腸を入れた。ラット遠位回腸の無傷の断片(1.5cm)を、臓器チャンバ内の双極性刺激電極の間に、口側端を固定して長手方向に向け、口とは反対側の端をソリッドステートの力変換器に固定し、これを37℃のKRBが入った10mLチャンバに浸し、95%O2/5%CO2で常時通気し続けた(図1)。図1の写真は、電極に最も近い口側端で取り付けられた回腸に対する電極先端の位置(山型印)、及び、ガラスフックとワイヤとの間で伸長して力変換器に保持されている(矢印)様子を示す。アセンブリ全体を、ジャケットを装着した10mLミオバス(myobath)チャンバ内の37℃ KRB緩衝液中に入れた。初期静置張力1gで、KRB緩衝液か、又はリノール酸(LA、3mg/mL)及びジペプチジルペプチダーゼ−4阻害剤(GLP−1のタンパク質分解を防ぐため)を含むKRB中で、37℃に保持した。収縮活性がデジタル化され、データが取得されて、PowerLabハードウェア及びChartソフトウェア(ADInstruments、コロラド州コロラドスプリング)を用いたオフライン分析を行った。別の実験において、45分間連続での電界刺激の存在下で又は存在しない条件下で、断片をKRB中又はKRB+LA中でインキュベーションした。45分時点で採取された水浴溶液のサンプルと、粘膜上皮の掻き落としサンプルが、冷凍保存された(マイナス80℃)。
【0041】
解凍したアリコートの活性GLP−1濃度は、ELISA(Linco Research、ミズーリ州セントチャールズ)を使用し、検出範囲2〜100pMで、プレートリーダー上で蛍光測定した。この方法は、GLP−1の両方の生物学的活性形態(すなわちGLP−1(7−36)及び(GLP−1(7−36))アミドであり、これらは腸粘膜によって放出されることが現在知られている)を測定する。GLP−1の測定は、体積10mL中の濃度に正規化され、pMとして報告された。平均値及びSEM GLP−1放出が、各処置について算出された。各電気刺激条件(+/−LA)それぞれについて、ラット当たり、条件当たり2〜4断片で、2〜6匹のラットが使用された。
【0042】
筋緊張及び収縮性振幅(それぞれ、平均のサイクル最小値及びサイクル最大値として計算される)が5分間、処理前(約5分前)及び処理後(開始から40分後)について測定された。各条件毎に−5分及び+40分時点での筋緊張及び振幅が、一元配置分散分析(one-way ANOVA)によってその条件の基準と比較された。
【0043】
1、3及び10mg/mLのLA中でインキュベーションされた組織は、3mg/mLで最大GLP−1反応を生じ(データ図示なし)、この濃度が以降の実験すべてに使用された。GLP−1濃度は、45分間LA(3mg/mL)中でインキュベーションされたとき、十二指腸、空腸回腸及び結腸の断片の場合には水浴媒質中で増加したが、食道又は胃では増加しなかった(図2)。図2は、3mg/mL LA中で45分間インキュベーションした後に放出された、GI管全体から採取した断片のGLP−1濃度を示す(LLOQ=定量の最小限度)。
【0044】
分離された断片における、この領域依存性の放出は、腸内のL細胞の既知の配置、並びに上部胃腸管(すなわち胃と食道)にL細胞が不在であることと、一貫している。小腸及び大腸の粘膜も、GLP−1成分について分析された(図3)。図3は、GLP−1が十二指腸、空腸回腸及び結腸の上皮において検出可能であることを示す。小腸及び結腸における粘膜掻き落としが、LA中45分間インキュベーションの45分経過時点で採取された(n=断片数、平均+SEM)。粘膜中GLP−1の最高値は遠位回腸であった(図3)。よって、以降の実験すべてのGLP−1放出調査に、遠位回腸が選択された。
【0045】
3mg/mL LA中でインキュベーションされた2つの回腸断片によるGLP−1濃度は時間と共に増加した。一方、KRB緩衝液中でインキュベーションされた回腸断片によるGLP−1濃度は定量限界レベル付近又はそれ未満であった(図4)。遠位回腸51断片の集積データでは、LA中45分間インキュベーション後に放出されたGLP−1(21.9±2.6pM GLP−1)は、KRB緩衝液単独でインキュベーションした後(3.6±0.1pM GLP−1;t検定によりP<0.05;n=12)よりも有意に大きかった。
【0046】
実施例2−電気刺激条件下でのGLP−1放出の測定
合計11個の電気刺激条件が評価のために選択された。その結果を、同じラットから採取しLA中でインキュベーションした回腸の対照断片と比較し、GLP−1濃度の絶対値変化の差として(図5)、及びパーセンテージとして(図6)示す。示されているデータは、7つの電気刺激条件で一貫している。図6に示すように、100%に正規化したとき、LA単独でのインキュベーションで期待される場合に比べ、8つの条件でGLP−1放出が増大した。図5に示すように、8つの条件で、GLP−1の濃度の増加が生じた。図5に示すように、0.7V 0.15Hz 300msではGLP−1がLA単独の反応の濃度を上回り、図6において、100%に正規化したとき、14V 4Hz 5msではLAを上回るGLP−1パーセンテージが増加した。図5及び6に示すように、いずれの分析でも、2つの条件ではLAを上回るGLP−1増加が起こらなかった。これらは、14V 0.4Hz 5ms及び2V 0.15Hz 5msである。LAがない条件で組織に電気刺激を印加した場合、検出可能な量のGLP−1放出は起こらなかった(2.3±0.2pM GLP−1、n=46、46サンプル中38サンプルがELISAによる検出レベル未満)。
【0047】
GLP−1放出の刺激に対する神経毒の影響組織断片における神経経由の電気刺激の効果を測定するために、ニューロンのナトリウムチャンネルを遮断するのに一般的に使用される毒素であるテトロドトキシン(TTX)を、最後の15分間KRB組織洗浄液に、0.5μMの濃度で加えた(15分間プリインキュベーション)。TTXは、リノール酸及び/又は電気刺激と45分間同時に、0.5μMで存在した。TTX単独ではGLP−1放出に影響がなく、TTXの存在下でもLA誘発のGLP−1の増加は持続した(図7)。よって、ニューロンのナトリウムチャンネル活性は、LAがL細胞の受容体と相互作用しGLP−1の放出を引き起こすのに必要ではない。TTXの存在にもかかわらず、LAと共に電気刺激(14V 0.4Hz 300ms)を行うと、LA単独の誘発に比べ、GLP−1放出は239±64%増加した。これは、TTXが存在しない同じ電気刺激条件で引き起こされるLA強化GLP−1と同様であった(図6)。このことから、ニューロン活性は、L細胞からのLA誘発GLP−1放出を強化するための電気刺激に、必要条件でも十分条件でもないことが結論付けられる。
【0048】
すべての条件(電気刺激の周波数、電圧及び持続時間の組み合わせによって定義される条件)を含め、かつ、条件、繰り返し因子としての処置(LA単独、又はLAプラス電気刺激)、及びこれら2つの間の相互作用を含めて、統計分析が実施された。処置は、被験者内の効果であり、各被験者のLA単独反応を、同じ調査日からの電気刺激を伴うその被験者の反応についての対照標準として用いることができる。GLP−1放出は、繰り返し因子としてのLA単独又はLAプラス電気刺激の11個の条件すべてについて、繰り返し測定分散分析(ANOVA)によって分析された。下記の表に報告されている平均及びSEMは、ラット当たり平均した各電気刺激条件の2つの複製からのデータを用いた条件当たり2〜6匹のラットに基づいている。P値は、各分析毎の、およびペアでの比較について、繰り返し測定分散分析(ANOVA)に基づいて報告されている。このデータは、正規分布母集団からの等しい変異性及びサンプリングという、基盤となる統計的モデリング仮定をより良く満たすため、分析前に対数変換された。
【0049】
11個の条件すべてを合わせたとき、電気刺激の効果の総合p値は、p<0.001である。よって、電気刺激プラスLAの場合は、LA単独によって放出された場合に比べ、GLP−1放出の量を有意に変えることが結論付けられている。下の表は、各条件について個々のP値をまとめたものであり、この厳密な分析により、2つの条件が、統計学的有意性レベルに達したGLP−1放出レベルを生じていることが示されている。
【0050】
下の表1は、14V、パルス持続時間5msで、Hzを変えた、5つの電気刺激条件試験の結果をまとめたものである。これらの条件のうち1つ、40Hz、14V及び5msには、LAのみに組織を曝した場合に比べ、GLP−1放出の統計的有意差が生じている。
【0051】
【表1】

【0052】
4つの電気刺激条件が評価された、ここにおいて周波数及びパルス持続時間が0.15Hz及び5msにおいて一定に維持された、かつ電圧が変えられた(下記表2)。これらのいずれの条件も、LA単独に比べて、GLP−1放出を有意に増加させなかった。
【0053】
【表2】

【0054】
次に、より長いパルス持続時間300msを有する2つの電気刺激条件が適用され、その結果が分析された(下記表3)。LAプラス0.7V、0.4Hz 300ms持続時間でインキュベーションされたGLP−1の増加は、この分析で統計的有意性に達した(P=0.056)。0.15Hz、0.7V及び300msでの電気刺激では、小さいが一貫した増加が生じた。
【0055】
【表3】

【0056】
前の分析から、結果が偶然によるものではないと見込まれる2つの条件を識別することが可能であった、それらは40Hz、14V、5ms及び0.4Hz、14V、300msである。加えて、この条件を互いに比較し、これら条件及びGLP−1放出量の統計的有意差(p=0.029)は明らかである。
【0057】
この統計分析及び集積した反応(図5及び6)を考慮に入れ、2つを除く全ての電気刺激条件が、栄養素刺激を伴ったインキュベーション中のGLP−1放出量を強化することが示された。GLP−1放出量に明らかな影響がなかった2つの条件は、14V 0.4Hz 5ms、14V 4Hz 5ms、2V 0.15Hz 5msであった)。残る9つの電気刺激条件は、様々な度合で、LAによって誘発されるGLP−1レベルを増加させた。
【0058】
これらのデータを分析するもう1つの方法は、11個の電気刺激条件におけるおよその電荷を推定することである。結果として得られる「Q」は、電流と時間の積であり、刺激中に送達される「電荷」に関連する。電気刺激印加において、電極又は接触表面を介して送達される電荷が、有効性の目安として使える。結果は、位相当たりの電荷、又は単位面積当たりの電荷で表わすことができる。送達される合計電荷は、電流と、送達されている持続時間との積として定義される。図8は、刺激中の位相当たり送達される平均電荷(Qave)が、平均電流(Iave)及びパルス幅(PW)の関数であることを示す。
ave=Iave*
【0059】
電流波形のない場合は、送達される電荷は、印加される電圧とインピーダンス(Z)又は抵抗(R)から次のように得られる:
【0060】
【数1】

【0061】
下記の表4は、各電気刺激条件についてQ(マイクロクーロン)の比較を示す。
【0062】
【表4】

【0063】
全般に、11個の電気刺激条件について、反応の大きさはQと相関していた。GLP−1放出量に対して明らかな影響がなかった2つの条件(14V 0.4Hz 5ms、2V 0.15Hz 5ms)は、合計電荷がそれぞれ28μC及び1.5μCであった。合計電荷が3.8μCのとき、増加が見られた。GLP−1放出を150〜300%増加させた4つの条件は、合計電荷が1400、1680、2800及び5600μCであった。しかしながら、合計電荷が100μC未満のとき、GLP−1の電気刺激強化の度合は、周波数、パルス幅、及び電圧強度の組み合わせを変えることによって最適化することができる。
【0064】
GLP−1放出に加え、収縮性及び筋緊張が記録された。LA単独でのインキュベーションは、分離された回腸の筋緊張を40分後に減少させる傾向が見られた。ただし、14V 40Hz 5ms及び14V 80Hz 5msをLAと組み合わせた場合には、KRB緩衝液中でのインキュベーションに比べて、張力の有意な減少が生じた(図9、ANOVAによりP<0.05)。14V 0.4Hz 300ms及び14V 20Hz 5msの電気刺激パラメーターでLA中インキュベーションを行った後の筋緊張は、KRB緩衝液単独の場合と比べて違いはなかった。
【0065】
結論として、GLP−1放出及び平滑筋収縮活性が、LA及び11個の電気刺激条件の存在下で、分離された腸組織断片において測定された。全般に、この反応の強度は、合計電荷に相関していた。4つの電気刺激条件が、LA単独の場合に比べて、栄養素刺激を伴うインキュベーション中に放出されるGLP−1の量を150〜300%増大させ、これらは合計電荷レベルが1400μCであった。これら条件のうち2つは、平滑筋緊張における有意な変化には関連していなかった(14V 0.4Hz 300ms及び14V 20Hz 5ms)。2つの条件(14V 80Hz 5ms及び14V 40Hz 5ms)が、LA単独の影響と同様に、筋緊張の減少と関連していた。特定の理論に拘束されるものではないが、このことは、ホルモン放出に対する電気刺激の影響は、平滑筋に対する影響とは独立であり得ることを示唆している。合計電荷が100μC未満のとき、GLP−1の電気刺激強化の度合は、周波数、パルス幅、及び電圧強度の組み合わせを変えることによって最適化することができる。このことから、小腸内での局所的なGLP−1放出を強化するための、具体的な電気エネルギー要件が存在し、この効果は脂肪酸刺激の存在に依存することが結論付けられる。
【0066】
よって、天然の(食物)刺激に対応した内分泌細胞からのホルモン群の放出を好適に変化させることができる小腸の電気刺激は、回腸ブレーキへのパワー支援を提供し得る。これは、肥満患者において体重減少が見込まれ、T2D患者においては改善された血糖コントロールのためのインスリン放出及びグルコース利用の増加が期待される。更に、腸の管腔内に、自然の開口部を介して一時的にデバイスを配置し、血中のホルモン放出(例えばGLP−1)増加の検出のための栄養素刺激、及び患者が報告する充足感と組み合わせて、使用することもできる。この診断は、改善された体重管理及び糖尿病のための電気装置による外科的及び永久的治療から最も治療的効果が得られる患者を識別し得る。また、有害反応を最小限に抑えつつ、電気刺激の位置又は送達と、有益な充足感及び血糖コントロールを達成するための持続時間とを最適化するのに使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養素刺激で被験者の胃腸系の組織のL細胞を収縮させるのと同時に、該組織に第一電気刺激を印加することを含む、被験者において満腹ホルモンの放出を刺激する方法。
【請求項2】
前記第一電気刺激が、前記被験者の胃腸系の粘膜組織に印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一電気刺激が、回腸の粘膜組織に印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一電気刺激が、遠位回腸の粘膜組織に印加される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第一電気刺激が、約0.1Hz〜約90Hzの周波数で印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第一電気刺激が、約0.5V〜約25Vの電圧で印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第一電気刺激が、約3ms〜約500msのパルス持続時間で印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第一電気刺激が、電圧約14V、パルス持続時間約5ms、及び周波数約20〜約80Hzで印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第一電気刺激が、約40Hzの周波数で印加される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第一電気刺激が、電圧約14V、パルス持続時間約300ms、及び周波数約0.4Hzで印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第一電流が、3μCを超える電荷を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第一電流が、両端を含めて約3μC〜約6000μCの電荷を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第一電気刺激を、前記被験者の管腔組織上の複数の場所に印加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
第二電気刺激を、前記被験者の管腔組織に印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第二電気刺激が、電圧、周波数、パルス持続時間、電荷、又はこれらの任意の組み合わせに関して、前記第一電気刺激とは異なる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第一電気刺激が印加される場所とは異なる場所で、前記被験者の胃腸系の管腔内にある第二組織に第二電気刺激を印加することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第一電気刺激が、前記被験者の回腸に印加され、ここにおいて前記第二電気刺激が、前記被験者の十二指腸の管腔組織、空腸の管腔組織、又は大腸の管腔組織に印加される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一電気刺激の印加と同時に前記第二電気刺激が印加される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記第二電気刺激が、電圧、周波数、パルス持続時間、電荷、又はこれらの任意の組み合わせに関して、前記第一電気刺激とは異なる、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記栄養素刺激が、炭水化物、アミノ酸、タンパク質、脂肪酸、脂肪、L細胞を刺激する明白な目的で製造された物質、又はこれらの任意の組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記満腹ホルモンがGLP−1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
組織のL細胞が栄養素刺激に接触すると同時に、患者の胃腸系の組織に第一電気刺激を印加することと、前記患者における前記電気刺激の影響を評価することと、前記影響を、前記体重減少手術に対する前記患者の反応と相互に関連づけることとを含む、体重減少手術に対する患者反応を予測するための方法。
【請求項23】
前記評価することが、1つ以上の満腹ホルモン、1つ以上の回腸ブレーキホルモン、グルコース、若しくはこれらの任意の組み合わせの、前記患者の血中レベルを測定することと、前記患者の側の満足感の存在、強化、若しくは両方を評価することと、前記患者における第二栄養素刺激に対する胃内容物排出、満腹感、若しくは両方の、存在、強化、若しくは両方を評価することと、又はこれらの任意の組み合わせとを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記評価することが、前記患者の血中の循環GLP−1レベルを測定することを含む、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−501224(P2012−501224A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525148(P2011−525148)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/054929
【国際公開番号】WO2010/025146
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】