説明

溶出低減材、溶出低減材の製造方法および溶出低減方法

【課題】重金属等の溶出抑制作用の優れた溶出低減材を提供すること、及び、重金属等の溶出抑制作用の優れた溶出低減材の製造方法および、ヒ素を含む汚染土壌からのヒ素の溶出低減を抑制するのに優れた溶出低減方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明にかかる溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物と、水溶性硫酸塩とを含有し、 前記軽焼生成物と前記水溶性硫酸塩とが5:5〜1:9の質量比で配合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として汚染土壌等からヒ素等の有害重金属が溶出することを抑制する溶出低減材とその製造方法、および溶出低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工場跡地における土壌汚染や、産業廃棄物等の不法投棄による土壌汚染が社会問題として指摘されるようになり、このような汚染土壌から化学物質が溶出することを抑制する方法が、種々試みられている。
【0003】
例えば、該汚染土壌中に含まれる重金属に対しては、酸化マグネシウム、軽焼ドロマイト、セメント、ゼオライト、鉄塩、高炉スラグなど用いて溶出低減処理を図ることが提案されている。なかでも、ドロマイトは、栃木県葛生地方など日本国内でも大量に産出する鉱物であるため、比較的安価に入手することができ、該ドロマイトを低温で焼成した軽焼ドロマイトは、溶出低減材としても注目されている(下記特許文献1参照)。
【0004】
ところで、この軽焼ドロマイトは、ドロマイトの主成分であるCaCO3やMgCO3に由来するカルシウムイオンやマグネシウムイオンが、ポゾラン反応やゲル化反応を起こすことによって重金属の溶出を抑制するものと言われているが、従来の軽焼ドロマイトにおいては、重金属等の溶出抑制効果が十分とは言えないという問題があった。
【0005】
また、前記重金属等のうち、鉱山等から排出される汚染土壌には、3価の亜ヒ酸の形でヒ素が含まれている場合があり、かかる亜ヒ酸はpHが9以上になると溶出が促進される。
前記特許文献1に記載の溶出低減材を汚染土壌に混合した場合には、汚染土壌は高pHになるため、他の重金属の溶出は低減できても、亜ヒ酸を含む汚染土壌からのヒ素の溶出を低減することは難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−289306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の如き従来技術の問題点に鑑み、重金属等の溶出抑制作用の優れた溶出低減材を提供すること、及び、重金属等の溶出抑制作用の優れた溶出低減材の製造方法および、ヒ素を含む汚染土壌からのヒ素の溶出を効果的に低減しうる溶出低減方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物と、水溶性硫酸塩とを含有し、前記軽焼生成物と前記水溶性硫酸塩とが5:5〜1:9の質量比で配合されていることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る溶出低減材は、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物と、水溶性硫酸塩とを含有し、
前記軽焼生成物と前記水溶性硫酸塩とが5:5〜1:9の質量比で配合されていることによって、優れた溶出抑制作用を発揮させることができる。
【0010】
尚、本発明における軽焼とは、前記鉱物を加熱して、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部を脱炭酸させることをいう。
【0011】
本発明において、前記水溶性硫酸塩が、硫酸第一鉄であることが好ましい。
【0012】
特に、前記水溶性硫酸塩として硫酸第一鉄を用いた場合には、より一層高い溶出抑制作用を発揮させることができる。
【0013】
本発明に係る溶出低減材において、前記軽焼生成物は、X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、前記MgCxyのピークが、MgCO3およびCaCO3の各ピークの中間領域に示されることが好ましい。
【0014】
本発明の溶出低減材に含まれる前記軽焼生成物において、前記のような前記MgCxy、MgCO3、CaCO3が含まれていることは、X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて示される前記各ピークによって、明確に確認できる。
すなわち、前記のようなピークを示す前記軽焼生成物であれば、優れた溶出抑制作用を発揮させうる状態で前記MgCxy、MgCO3、CaCO3の各成分が含有されている軽焼生成物である。
【0015】
本発明において、前記軽焼生成物は、酸化カルシウム(CaO)を実質的に含まないことが好ましい。
【0016】
前記鉱物中のCaCO3が脱炭酸されたCaOを実質的に含まない軽焼生成物を含むことによって、より溶出抑制作用を発揮させることができる。
尚、CaOを実質的に含まない、とは、前記軽焼生成物の、X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、CaOのピークを示さないことをいう。
【0017】
また、本発明は、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物を650〜1000℃の条件下で軽焼するとともに、該軽焼による重量減少率が9〜20%となった時点で該軽焼を終了させて軽焼生成物とし、前記軽焼生成物と水溶性硫酸塩とが5:5〜1:9の質量比になるように混合して溶出低減材を調製することを特徴とする溶出低減材の製造方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記したような溶出低減材を、ヒ素含有土壌に混合し、前記ヒ素含有土壌と前記溶出低減材との混合物のろ液のpHが8.0未満となるように調整して、前記ヒ素含有土壌からのヒ素の溶出を低減させることを特徴とする溶出低減方法を提供する。
【0019】
ヒ素含有土壌に対して、溶出低減材を混合して、ヒ素含有土壌と前記溶出低減材との混合物のろ液のpHが8.0未満となるように調整することで、特に、ヒ素の溶出を低減させることが可能となる。
尚、本発明において、ろ液のpHは、環境庁告示46号に準じた溶出試験で得られた検液のpHをいう。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重金属等の溶出抑制作用の優れた溶出低減材を提供することが可能となり、また、重金属等の溶出抑制作用の優れた溶出低減材の製造方法を提供することが可能となる。
さらに、特に、ヒ素の溶出を効果的に低減しうる溶出低減方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例の溶出低減材についての、X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトル
【図2】材齢7日における実施例、比較例の溶出低減材についての、硫酸第一鉄の割合に対する溶出量および溶出液pHの変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る溶出低減材とその製造方法、および溶出低減方法について具体的に説明するが、先ず、溶出低減材の製造方法について説明する。
本発明に係る溶出低減材の製造方法は、前記のように、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物を650〜1000℃の条件下で軽焼するとともに、該軽焼による重量減少率が9〜20%となった時点で該軽焼を終了させて軽焼生成物とし、前記軽焼生成物と水溶性硫酸塩とが5:5〜1:9の質量比になるように混合して溶出低減材を調製するものである。
【0023】
炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを主成分として含む前記鉱物とは、炭酸マグネシウムを40質量%以上、好ましくは45質量%以上含み、且つ炭酸カルシウムを15質量%以上、好ましくは50質量%以上含む鉱物を好適に用いることができる。
前記鉱物の具体例としては、ドロマイト等を挙げることができる。
【0024】
前記ドロマイトとしては、炭酸マグネシウムと炭酸カルシウムとを含有してなるものであれば特に限定されず、天然に産出するドロマイト(白雲石)のほか、水酸化マグネシウムスラリーと石灰乳との混合物を焼成して得られた合成ドロマイト等を用いることもできる。
なお、天然に産出するドロマイトは、一般に、CaO/MgOで表わされる複塩のモル比が0.70〜1.63の範囲であり、CaCO3をCaO換算で概ね9〜40質量%、MgCO3をMgO換算で概ね10〜38質量%含有するものである。
【0025】
本実施形態の前記鉱物は、前記したようなMgCxyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)と、炭酸カルシウム(CaCO3)とを含む生成物が生成されるように軽焼する。
かかる軽焼の際の温度条件としては、650〜1000℃の範囲とし、好ましくは700〜900℃とし、さらに好ましくは760〜850℃とする。
また、軽焼時間は温度条件によっても変動するが、通常、10〜60分である。
【0026】
前記のような軽焼を行なうことにより、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部を脱炭酸してMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)を生成することができる。
すなわち、前記軽焼を行なうことにより、前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxyとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO3)は実質的には脱炭酸させないことによって、前記MgCxyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)と、炭酸カルシウム(CaCO3)とを含む軽焼生成物を得ることができる。
前記鉱物を、前記軽焼よりも高温長時間焼成した場合、前記鉱物中に含まれる炭酸マグネシウム(MgCO3)が脱炭酸されると同時に、炭酸カルシウム(CaCO3)も脱炭酸されてしまい、前記のような3つの成分を実質的に含む軽焼生成物を得ることができない。
【0027】
前記軽焼生成物における前記MgCxyは、例えば、MgCO3の基本構造が脱炭酸によって変化し基本構造の規則性が崩れたあるバラツキを持った不定形な形で存在していると考えられる。
【0028】
また、前記軽焼生成物における前記MgCO3および前記MgCxyはおそらく非晶質であると考えられる。
前記鉱物中の炭酸マグネシウム(MgCO3)の一部はそのまま残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxyとし、さらに前記鉱物中の炭酸カルシウム(CaCO3)は実質的には脱炭酸させない状態で軽焼を停止することによって、残存するMgCO3および生成されるMgCxyは非晶質化するものと考えられる。
このことは、前記のようなXRDによる同定結果およびXPSによる検出スペクトル解析から推測しうる。
すなわち、前記軽焼生成物を、XPSによる成分分析を行うと、MgCO3およびMgCxyのピークが検出されるが、同時にXRDによる同定を行うと、MgCO3およびMgCxyは検出されない。これは、XRDでは結晶質のものしか検出できないため、前記軽焼生成物中に含まれるMgCO3およびMgCxyは非晶質化しているものと推定される。
【0029】
前記軽焼生成物における、前記MgCO3および前記MgCxyの合計含有量は、32.1質量%〜40.3質量%、好ましくは34.5質量%〜39.6質量%であることが好ましい。
かかる範囲の含有量であることで、溶出低減材とした場合に溶出低減効果を向上させることができる。
【0030】
前記軽焼生成物における、前記CaCO3の含有量は40質量%〜65質量%、好ましくは45質量%〜65質量%であることが好ましい。
かかる範囲の前記CaCO3の含有量であることで、溶出低減材とした場合に、長期間溶出低減効果を維持することができる。
前記MgCO3および前記MgCxyの合計含有量、前記CaCO3の含有量の測定は、例えば、JIS R2212−4に規定するマグネシア及びドロマイト質耐火物の成分分析方法、または、X線回析法(XRD)による同定結果およびX線光電子分光法(XPS)による成分分析により、測定することが可能である。
【0031】
前記軽焼生成物は、前記鉱物を軽焼することで質量が減少するが、かかる軽焼による質量減少率は9〜20%、好ましくは10〜17%、より好ましくは16〜17%であるように軽焼することが好ましい。
前記軽焼による質量減少率をこのような数値範囲内とすることにより、炭酸マグネシウム等からの脱炭酸反応を適切に生じさせ、前記鉱物中の炭酸マグネシウムの一部を残存させると同時に、炭酸マグネシウムの一部を脱炭酸してMgCxyとし、かかる脱炭酸によって生じる前記MgCxyと、炭酸マグネシウム(MgCO3)と、炭酸カルシウム(CaCO3)とを含む軽焼生成物を適切に生成させることができるものと考えられる。
【0032】
尚、加熱雰囲気等の他の加熱条件や、軽焼に用いる加熱装置については、従来公知の加熱条件および加熱装置を採用することができる。
【0033】
本発明に係る溶出低減材の製造方法では、前記のような軽焼生成物と、水溶性硫酸塩とを混合して、溶出低減材として調製する。
【0034】
前記水溶性硫酸塩としては、例えば、硫酸第一鉄、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウム等を挙げることができ、中でも、硫酸第一鉄を用いることが好ましい。
【0035】
本実施形態の溶出低減材の製造方法においては、前記水溶性硫酸塩は、前記軽焼生成物との質量比が、5:5〜1:9、好ましくは、4:6〜3:7となるように配合する。
特に、前記水溶性硫酸塩として硫酸第一鉄を混合する場合には、前記軽焼生成物と硫酸 第一鉄との質量比が、5:5〜1:9、好ましくは、4:6〜3:7とすることが好ましい。
【0036】
前記水溶性硫酸塩を前記範囲に配合することで、重金属等の溶出を抑制することが可能となり、特に、長期間にわたって、安定して溶出低減効果が継続して得られる。
【0037】
次に、本実施形態の溶出低減材について説明する。
本実施形態の溶出低減材は、例えば上記のような方法によって、炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物と、水溶性硫酸塩とを含有し、前記軽焼生成物と前記水溶性硫酸塩とが5:5〜1:9の質量比で配合されているものである。
【0038】
前記軽焼生成物が前記のような3つの成分を実質的に含む軽焼生成物であることは、X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるスペクトルにおけるにおいて示される前記各ピーク値によって明確に確認できる。
本実施形態では、例えば、X線光電子分光装置 Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて、前記軽焼生成物を試料ペレットに埋めて表面をエッチング処理等適宜前処理した試料を分析し、検出されるXPSスペクトルのO1sに対応するスペクトルにおけるピークを調べることで、前記軽焼生成物が前記のような3つの成分を含む場合には、各成分のピークが現れる。
【0039】
尚、本実施形態の前記軽焼生成物は、CaOを実質的に含まないことが好ましい。
前記鉱物を軽焼した場合には、前記鉱物中のMgCO3の一部を脱炭酸させるが、CaCO3を実質的には脱炭酸する温度での焼成ではないため、前記軽焼生成物中には、実質的にCaOは含まれていない。
【0040】
前記軽焼生成物がCaOを実質的に含まないことは、例えば、前記X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、CaOのピークが現れないことで確認することができる。
【0041】
さらに、本実施形態の溶出低減材には、前記水溶性硫酸塩が、前記軽焼生成物との質量比が、5:5〜1:9、好ましくは、4:6〜3:7となるように配合されている。
【0042】
尚、本実施形態の溶出低減材には、前記軽焼生成物および前記水溶性硫酸塩の他、pH調整剤等が添加されていてもよい。
【0043】
次に、前記のような溶出低減材を用いた溶出低減方法について説明する。
本実施形態の溶出低減方法においては、前記溶出低減材を、記載の溶出低減材を、ヒ素含有土壌に混合し、前記ヒ素含有土壌と前記溶出低減材との混合物のろ液のpHが8.0未満となるように調整して、前記ヒ素含有土壌からのヒ素の溶出を低減させる。
【0044】
本実施形態の溶出低減材は、特に、重金属としてヒ素を含むヒ素含有土壌に添加することにより、優れた溶出低減作用を発揮しうる。
鉱山等において産生されるヒ素含有土壌には、亜ヒ酸(As(OH)3)の形でヒ素が含まれている場合があり、かかる亜ヒ酸はpHが9以上になると溶出が促進される。よって、高pHの状態では、他の重金属の溶出は抑制できても、ヒ素の溶出を低減することが難しい場合がある。
本実施形態の溶出低減方法においては、前記溶出低減材をヒ素含有土壌に混合した場合、そのろ液のpHが、pH8.0未満になるように調整し、好ましくは、pH4.0〜7.6程度になるように調整する。
【0045】
前記pHの範囲であれば、亜ヒ酸の形で土壌中に含まれているヒ素の溶出が促進されることがないため、本実施形態の溶出低減材のヒ素溶出低減作用が阻害されることがない。
前記ろ液のpHを前記範囲に調整する方法としては、前記溶出低減材を前記混合量でヒ素含有土壌に混合することで調整しうる。
尚、前記pHの範囲になるように前記溶出低減材を混合する方法としては、予めヒ素含有土壌のサンプルを用いて、前記pHの範囲になるように溶出低減材の混合量を決めておくことで、所望のpHの範囲になるように前記溶出低減材を混合しうる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明する。
【0047】
軽焼生成物の調整
栃木県葛生地方産出のドロマイト(住友大阪セメント株式会社 唐沢鉱業所産)を準備して、800℃の電気炉で30分間加熱したものを準備した。
【0048】
軽焼生成物の成分分析
上記軽焼生成物を、X線光電子分光装置:Sigma Probe(VGサイエンティフィック社製)を用いて分析した。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
X線源: AlKα線(1486.6eV)
検出角度:約45°
ビーム径:100W/400μm
パスエネルギー(ワイドスキャン):100eV、 Ar(30),C(20),O(3 0),Mg(10),Ca(10)、(カッコ内は積算回数)
パスエネルギー(元素ナロースキャン):20eV
測定元素:Ar,C,O,Mg,Ca
Ar+ イオンスパッタ速度:約2nm/min (Ta25膜に換算)
【0049】
前記試料はInペレットに埋めて平らにし、カーボンテープで試料台に固定した。
測定は各試料とも300秒、Arイオンでスパッタによるエッチング処理後、測定した。
【0050】
図1および表1に、前記軽焼生成物のXPSスペクトルのOs1のスペクトルおよび分析結果を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
図1および表1に示すように、前記軽焼生成物からは、MgCO3およびCaCO3のピークの間の領域に2種類のMgCxyのピークが現れている。
すなわち、前記軽焼生成物は、ドロマイト中のMgCO3の一部が脱炭酸されたMgCxyを含み、且つ、MgCO3およびCaCO3も含むことを示している。
一方、CaOの位置にはピークが見られないことから、前記軽焼生成物では、ドロマイト中の成分であるCaCO3が脱炭酸されたCaOを含んでいないことを示している。
【0053】
さらに、前記軽焼生成物を、X線回析装置:X’Pert PRO(PANalyti
cal社製)を用いてXRD回析を行った。
測定条件は以下の通りである。
《測定条件》
手法:粉末X線回折、スピンなし
管球:Cu
出力設定:45kV,40mA
2θ:30〜85°
ステップサイズ:0.05°2Th.
スキャンステップ時間:0.5s
スキャン種類:連続
【0054】
前記XRD回析の結果、前記軽焼生成物からはCaCO3のみが同定された。
すなわち、前記軽焼生成物のXPSスペクトルにおいてはMgCO3およびMgCxyのピークを示しているにもかかわらず、XRD同定ではこれらのマグネシウム化合物は検出されなかったことから、前記軽焼生成物に含まれるMgCO3およびMgCxyはXRDで検出されない非晶質化したものであると推定される。
【0055】
溶出低減材の評価
前記軽焼生成物、硫酸第一鉄一水塩(堺化学工業社製)および、無水石膏(住友大阪セメント株式会社赤穂工場製)を準備し、表2に示す配合で混合した試験例1乃至6の溶出低減材を調製した。
【0056】
【表2】

【0057】
前記各試験例を、以下の手順で汚染土壌に混合して、溶出低減効果を評価した。
【0058】
実施例、比較例の調製
汚染土として、鉱山系ヒ素汚染土壌(九州産の硫化鉱物系(硫砒鉄鉱))を用いた。
前記各試験例として調製した溶出低減材を用い、上記汚染土に対し、質量比で1%(18kg/m3)の割合で添加し撹拌混合した。
そして、溶出低減材を混合していない原土(比較例1)及び各試験例を混合した汚染土を各実施例および各比較例として、環境庁告示46号に準じて溶出試験を実施し、溶出液中のヒ素の濃度について下記装置を用いて測定した。
同時に、各溶出液のpH、および酸化還元電位(ORP)を測定した。
結果を下記表3に示す。
【0059】
《使用装置》
ヒ素溶出量:水素化物原子吸光法(日立製作所社製、装置名「Z−5000型偏光ゼーマン原子吸光光度計」)
ORP:ORP計(アズワン株式会社製、装置名:ラコムスターORP計)
pH:pHメータ(堀場製作所社製)
【0060】
【表3】

【0061】
表3に示すように、軽焼生成物と硫酸第一鉄との質量比が5:5〜1:9である実施例1〜3ではヒ素の溶出は検出されなかった。
【0062】
次に、前記軽焼生成物、硫酸第一鉄一水塩(堺化学工業社製)、硫酸第二鉄(キシダ化学社製)を準備し、表4に示す配合で混合した試験例7乃至13の溶出低減材を調製した。
【0063】
【表4】

【0064】
各試験例として調製した溶出低減材を用い前記汚染土に対し、質量比で1%(18kg/m3)の割合で添加し撹拌混合した。
そして、溶出低減材を混合していない原土(比較例5)及び各試験例を混合した実施例4〜5、比較例6〜10の汚染土を環境庁告示46号に準じて溶出試験を実施し、溶出液中のヒ素の濃度、pH、および酸化還元電位(ORP)について前記の装置を用いて測定した。
尚、各実施例および比較例6〜10については、各溶出低減材を汚染土に混合してから、1日、7日および28日経過後に各数値を測定した。
結果を下記表5に示す。
また、7日経過後(材齢7日)の各実施例、比較例7,8および9におけるヒ素溶出量、各実施例および比較例6乃至9における溶出液のpHを示すグラフを図2に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
表5および図2より、各試験例の溶出低減材のうち、軽焼生成物と硫酸第一鉄とを4:6およびを3:7の質量比で混合した実施例4と5は、いずれの材齢においても、優れたヒ素の溶出低減効果を発揮していることが認められる。
尚、実施例4および5のヒ素の溶出量は、いずれの材齢においても環境基準値である0.01mg/lを下回っていることが認められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物が軽焼されてなり、且つ前記MgCO3が脱炭酸されることで生成されるMgCxy(但し、0<x≦1、0<y<3を満たす。)と、MgCO3と、CaCO3とを含む軽焼生成物と、
水溶性硫酸塩とを含有し、
前記軽焼生成物と前記水溶性硫酸塩とが5:5〜1:9の質量比で配合されていることを特徴とする溶出低減材。
【請求項2】
前記水溶性硫酸塩が、硫酸第一鉄である請求項1に記載の溶出低減材。
【請求項3】
前記軽焼生成物は、X線電子発光分析法(XPS)によって検出されるO1sに対応するスペクトルにおいて、前記MgCxyのピークが、MgCO3およびCaCO3の各ピークの中間領域に示される請求項1または2に記載の溶出低減材。
【請求項4】
前記軽焼生成物は、酸化カルシウム(CaO)を実質的に含まない請求項1乃至3のいずれか一項に記載の溶出低減材。
【請求項5】
炭酸マグネシウム(MgCO3)と炭酸カルシウム(CaCO3)とを主成分として含む鉱物を650〜1000℃の条件下で軽焼するとともに、該軽焼による重量減少率が9〜20%となった時点で該軽焼を終了させて軽焼生成物とし、
前記軽焼生成物と水溶性硫酸塩とを5:5〜1:9の質量比になるように混合して溶出低減材を調製することを特徴とする溶出低減材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の溶出低減材を、ヒ素含有土壌に混合し、前記ヒ素含有土壌と前記溶出低減材との混合物のろ液のpHが8.0未満となるように調整して、前記ヒ素含有土壌からのヒ素の溶出を低減させることを特徴とする溶出低減方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−31796(P2013−31796A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168644(P2011−168644)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】