説明

溶出制御された粒状農薬製剤およびその施用方法

【課題】種々の殺菌活性成分および/または殺虫活性成分に適用できる、溶出制御性に優れた粒状農薬製剤を提供すること。また、植え穴処理に用いても、幼苗に対する薬害がなく、長期間にわたり薬効が持続する粒状農薬製剤を提供すること。
【解決手段】殺菌活性成分および/または殺虫活性成分、1重量%水溶液の粘度が100〜1000mPa・sである水溶性アルギン酸塩、陰イオン界面活性剤および担体からなることを特徴とする、粒状農薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
農薬活性成分の溶出を制御した粒状農薬製剤およびその施用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農薬を使用する際には省力化・環境負荷の低減という面から農薬の使用量および使用回数の減少と使用期間の早期化が望まれる。この要望を受け、農薬活性成分の溶出制御、溶出期間の長期化を目的とした粒状農薬製剤の開発が行われている。例えば、次のものが知られている。
(1)パラフィンワックスを使用するもの(特許文献1参照。)。
(2)アルコール型ワックスを使用するもの(特許文献2参照。)。
(3)2価以上の無機金属塩(例:Al、Cr、Co、Cu、Fe、Mg、Znなどの塩)を使用するもの(特許文献3参照。)。
(4)水溶性有機酸塩と吸着性担体を使用するもの(特許文献4参照。)。
(5)カルボキシメチルセルロースを使用するもの(特許文献5参照。)。
【0003】
しかしながら、(1)〜(5)の溶出制御した粒状農薬製剤は、長期持続型の溶出が保たれず十分な生物効果が得られない、あるいは薬物がいつまでも粒状農薬製剤中に保持されるため生物効果を得るには十分な溶出が得られないなどの欠点を有していた。
【0004】
また、上記以外に、アルギン酸塩を用いた放出制御技術として、次のものが知られている。
(6)水不溶性アルギン酸塩及びベントナイトを含有する粒状農薬組成物で農薬活性成分が放出抑制された例(特許文献6参照。)。
(7)農薬活性成分とアルギン酸塩を含有する粒状物を樹脂で被覆した被覆農薬粒剤で農薬活性成分が放出抑制された例(特許文献7参照。)。
(8)アルギン酸またはその塩、酸性白土または活性白土、及び農薬活性成分を含有する粒状組成物で農薬活性成分の溶出を向上させた例(特許文献8参照。)。
【0005】
しかし、(6)の水不溶性アルギン酸塩を使用した粒状農薬組成物、あるいは(7)のアルギン酸塩を含有した粒状物を樹脂で被覆した粒剤では、農薬活性成分が徐々に放出されるため、生物効果の持続性という面では優れるが、例えば粒剤散布1日後程度ではほとんど農薬活性成分が放出されないため、散布直後から数日間においては、害虫被害などの懸念があった。また、(8)のアルギン酸またはその塩と、酸性白土または活性白土を使用した粒状物は、農薬活性成分が酸性白土または活性白土に吸着されてしまい、農薬活性成分の効果が十分発揮されない場合があった。したがって、上記したいずれの発明においても、溶出制御が十分に達成されているとは言えない。
【0006】
一方、農薬の施用方法の一つとして、作物を植えつける穴に作物の幼苗と同時に薬剤を散布する植え穴処理方法がある。作物を植えつける時に、薬剤を同時に散布できるため、省力化という面でとても優れるが、幼苗に対する薬害、長期間の薬効の持続などの面で問題があった。
【特許文献1】特開昭63−35504号公報
【特許文献2】特開平11−292706号公報
【特許文献3】特公平6−76282号公報
【特許文献4】特開平8−175903号公報
【特許文献5】特開2001−233706号公報
【特許文献6】特開平7−228501号公報
【特許文献7】特開2003−160407号公報
【特許文献8】特開2004−359567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、種々の殺菌活性成分および/または殺虫活性成分に適用できる溶出制御性に優れた粒状農薬製剤を提供することである。また、植え穴処理に用いても、幼苗に対する薬害がなく、長期間にわたり薬効が持続する粒状農薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究した。その結果、殺菌活性成分および/または殺虫活性成分、1重量%水溶液の粘度が100〜1000mPa・sである水溶性アルギン酸塩、陰イオン界面活性剤および担体からなることを特徴とする、粒状農薬製剤が前記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は次のように要約できる。
(1)殺菌活性成分および/または殺虫活性成分、1重量%水溶液の粘度が100〜1000mPa・sである水溶性アルギン酸塩、陰イオン界面活性剤および担体からなることを特徴とする、粒状農薬製剤。
(2)水溶性アルギン酸塩が、水溶性アルギン酸アルカリ金属塩から選らばれた1種類以上の化合物であることを特徴とする、粒状農薬製剤。
(3)水溶性アルギン酸塩の製剤中の添加量が、0.1重量%から20重量%であることを特徴とする、粒状農薬製剤。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の粒状農薬製剤を、植え穴処理に用いることを特徴とする、粒状農薬製剤の施用方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粒状農薬製剤は、種々の殺菌活性成分または殺虫活性成分の溶出速度を制御することができる。その結果、薬効が十分に発揮され、作物に対する薬害もない優れた農薬粒剤として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明の粒状農薬製剤を構成する成分、製剤の調製方法、製剤の使用様態様は以下のとおりである。
【0012】
<構成成分>
(1)殺菌活性成分または殺虫活性成分
本発明に使用できる殺菌活性成分または殺虫活性成分としては、殺菌剤、殺虫剤などの一般に農薬の活性成分として使用されるものであればよい。また、殺菌活性成分または殺虫活性成分を2種類以上併用してもかまわない。このような殺菌活性成分または殺虫活性成分としては次のものが挙げられる。
例えば、殺菌剤としては、無機銅類、有機銅類、無機硫黄剤、有機硫黄剤、有機リン系、フタリド系、ベンズイミダゾール系、ジカルボキシイミド系、酸アミド系、トリアゾール系、イミダゾール系、メトキシアクリレート系、ストロビルリン系、アニリノピリミジン系、ジチオラン系、キノキサリン系、アミノピリミジン系、フェニルピロール系、トリアジン系、シアノアセトアミド系、グアニジン系の殺菌剤、抗生物質系殺菌剤および天然物殺菌剤などが挙げられる。
殺虫剤として、有機リン系、カルボスルファンなどのカーバメート系、アセタミプリドなどのネオニコチノイド系、ピレスロイド系、クロロニコチニル系、フェニルピラゾール系、ネライストキシン系およびベンゾイルフェニル尿素系の殺虫剤、天然殺虫剤、殺ダニ剤などが挙げられる。
これらに含まれる個々の具体的な農薬活性成分は、例えば「農薬ハンドブック2005年版」(財団法人日本植物防疫協会、平成17年10月11日発行)、「SHIBUYA INDEX 11th Edition」(平成18年5月25日発行)、「The Pesticide Manual Fourteenth Edition」(British Crop Protection Council発行)などに記載されている。
また、本発明において使用される殺菌活性成分または殺虫活性成分として、上記以外の公知あるいは、今後開発される殺菌活性成分または殺虫活性成分を適用することもできる。
【0013】
(2)水溶性アルギン酸塩
本発明で使用する水溶性アルギン酸塩とは、渇藻類から抽出されるアルギン酸およびこれを工業的に改質したものである。工業的には海藻を塩化カルシウム溶液および塩酸で洗浄後、炭酸ナトリウム溶液で抽出し、塩酸または塩化カルシウム溶液で沈殿させて精製し、その後各種化学反応を行うことで得ることができる。具体的には、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムなどが挙げられるが、溶出制御の面から、水溶性アルギン酸アルカリ金属塩が好ましい。
本発明で使用する水溶性アルギン酸塩は、溶出を制御しようとする農薬活性成分の種類にもよるが、通常、1重量%水溶液の粘度が100mPa・s〜1000mPa・sである。1重量%水溶液の粘度が100mPa・sより低いアルギン酸塩を用いた場合には、溶出量の持続性が悪くなり、1重量%水溶液の粘度が1000mPa・sより高いアルギン酸塩を用いた場合には溶出の持続性はあるが初期溶出量が低くなってしまい、十分な薬効が期待できない。
水溶性アルギン酸塩の使用量は、粒状農薬組成物中の含有量として、0.01重量%〜50重量%、好ましくは0.05重量%〜30重量%、さらに好ましくは0.1重量%〜20重量%である。アルギン酸塩が0.01重量%より少ない場合には溶出の持続性が悪く、十分な薬効が得られなくなる。一方、水溶性アルギン酸塩の量が50重量%より多い場合には溶出の持続性はあるが、初期溶出量が低くなり、十分な薬効が期待できない。
【0014】
(3)陰イオン界面活性剤
本発明に使用できる陰イオン界面活性剤は、特に限定されず、例えば、リグニンスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルアリールホスフェート、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルサルフェート、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェートなどが挙げられるが、これらの例示に限定されるわけではない。これらの界面活性剤は1種類あるいは2種類以上を併用してもよい。また、製剤中への添加量は通常0.01重量%〜20重量%、好ましくは0.1重量%〜10重量%である。
【0015】
(4)担体
本発明に使用できる担体は、特に限定されず、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ジークライト、セリサイト、珪石、ケイソウ土、軽石、ゼオライト、バーミキュライト、ホワイトカーボン、モミガラ、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、ラクトース、デンプン、デキストリンなどの単糖類、二糖類、多糖類、尿素、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、ベントナイトなどが挙げられるが、これらの例示に限定されるわけではない。また、これらの担体は1種類あるいは2種類以上を併用してもよい。
【0016】
(5)その他の成分
本発明の粒状農薬製剤には、上記の必須成分の他に、必要に応じて、陰イオン界面活性剤以外の界面活性剤、結合剤、溶剤、補助剤などが含まれてもよい。
陰イオン界面活性剤以外の界面活性剤としては、従来既知の非イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
非イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル(例:ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)、ポリオキシアルキレンアリールフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレート、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシエチレンフェニルエーテルポリマーなどが挙げられる。
陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤の例としては、アルキルアミン類、第4級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アミンオキサイドなどが挙げられる。
【0017】
結合剤としては、例えば次のものがあげられる。
セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、カルボキシメチルデンプン、デキストリン、プルラン、マンナン、ペクチン、トラガントガム、マンニット、ソルビトール、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアゴム、キサンタンガム、ゼラチン、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、エチレン・プロピレンブロックポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、コーンファイバー、キチン、キトサンなどである。
結合剤は、1種類または2種類以上の組み合わせで用いてもよい。結合剤の農薬製剤への添加量は、一般的に、製剤全体の0.1〜20重量部、好ましくは0.3〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。
【0018】
本発明に使用できる溶剤としては、例えば、ソルベッソ150(エクソン化学株式会社製の商品名)、ハイゾールE、ハイゾールF(日本石油化学株式会社製の商品名)、カクタスソルベントP100、カクタスソルベントP150、カクタスソルベントP187、カクタスソルベントP200(株式会社ジャパンエナジー製の商品名)、アルケン56N、アルケン60NH、アルケンL(日本石油化学株式会社製の商品名)などのアルキルベンゼン系溶剤、カクタスソルベント220、カクタスソルベントP240(株式会社ジャパンエナジー製の商品名)、ソルベッソ200(エクソン株式会社製の商品名)、精製メチルナフタレン(住金化工株式会社製)、ジイソプロピルナフタレン(商品名「KMC−113」呉羽化学工業株式会社製)などのアルキルナフタレン系溶剤、イソパラフィン(商品名「アイソゾール300」日本石油化学株式会社製)、流動パラフィン、n−パラフィンなどのパラフィン系溶剤、ナフテゾール(日本石油化学株式会社製)、Exssol(エクソン株式会社製の商品名)などのナフテン系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルなどのエーテル系溶剤、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−1,3−ブタンジオールなどのアルコール系溶剤、N−メチルピロリドン、n−オクチルピロリドン、n−ドデシルピロリドンなどのアルキルピロリドン系溶剤、デュポンDBE(デュポン株式会社製の商品名)、フタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソデシル、フタル酸ジデシル、フタル酸ジアルキル(C10〜C12)、トリメリット酸トリノルマルアルキル(C8〜C10)、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリアルキル(C9)、トリメリット酸トリイソデジル、アジピン酸ジオレイルなどの多塩基酸エステル系溶剤、オレイン酸イソブチル、ヤシ脂肪酸メチル、ラウリン酸メチル、パーム脂肪酸メチル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソトリデシル、ステアリン酸−2−エチルヘキシル、オレイン酸メチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸デシルなどの脂肪酸エステル、ジアリルエタンを基本骨格とする芳香族炭化水素系溶剤、ハイゾールSAS−296(日本石油化学株式会社製の商品名)、トリアリルジエタンを基本骨格とする芳香族炭化水素系溶剤、ハイゾールSAS−LH(日本石油化学株式会社製の商品名)などの溶剤、さらに、米ヌカ油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸メチルエステルなどの植物油脂肪酸エステル、ナタネ油、大豆油、ヒマシ油、綿実油、コーン油などの植物油を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、また、これらの1種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
本発明で使用できる補助剤としては、酸化防止剤、紫外線防止剤、結晶析出防止剤などの安定化剤、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、p−クロロ−m−キシレノール、p−オキシ安息香酸ブチルなどの防腐防かび剤、クエン酸、リン酸、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどのpH調整剤などを挙げることができる
【0020】
<粒状農薬製剤の調製方法>
本発明の粒状農薬製剤を得るに際して、粒状物とするには、各種の造粒法によればよいが、その方法としては、押出し造粒法、転動造粒法、転動流動造粒法、流動層造粒法、圧縮造粒法、攪拌混合造粒法、被覆造粒法および打錠法などを挙げることができる。円柱状の造粒物を得る場合は、押出し造粒法が好ましく、また、球状の造粒物を得る場合は、転動造粒法および攪拌混合造粒法が好ましい。
【0021】
押出し造粒法においては、まず、農薬活性成分、水溶性アルギン酸塩、陰イオン界面活性剤、担体を結合剤とともにまたは結合剤なしで、また、必要に応じて陰イオン界面活性剤以外の界面活性剤、溶剤、補助剤を添加して、ジュースミキサー、ハンマーミル、レディゲミキサーまたはリボンミキサーなどを用いて均一に混合する。この混合物に水および/または結合剤の水溶液または水分散液を添加して双腕ニーダーまたはリボンミキサーなどを用いて混練する。
次に、この混練物をバスケット式造粒機、スクリュー式造粒機などの押出し造粒機を用いて造粒する。造粒時の押出し穴径(スクリーン径)は通常0.3〜5mm、好ましくは0.5〜2mmの範囲である。得られた造粒物をマルメライザーなどで整粒した後、流動層乾燥機やベッド式乾燥機などを用いて乾燥させ、次いで篩別することにより本発明で用いられる上記粒状物が得られる。
【0022】
攪拌混合造粒法においては、まず、農薬活性成分、水溶性アルギン酸、陰イオン界面活性剤、担体を、結合剤とともに、または結合剤なしで、また、必要に応じて陰イオン界面活性剤以外の界面活性剤、溶剤、補助剤を添加して、ジュースミキサー、ハンマーミル、レディゲミキサーまたはリボンミキサーなどを用いて均一に混合する。この混合物を攪拌混合造粒機の造粒ベッセル内で攪拌羽根を回転させて攪拌転動状態にする。転動状態の混合物に水および/または結合剤の水溶液または水分散液を滴下または噴霧して、適度な大きさまで粒子を成長させて造粒する。この造粒物を取り出し、流動層乾燥機やベッド式乾燥機などを用いて乾燥させた後、篩別することにより本発明で用いられる粒状物が得られる。
【0023】
転動造粒法や転動流動層造粒法により得られる粒状物は球状であり、本発明で用いられる粒状物としては直径または最大径が、通常0.1〜20mm、好ましくは0.5〜10mmの範囲にあるものが好ましい。
【0024】
打錠法においては、押出し造粒法により得られた粒状物の所定量をそのまま打錠機を用いて加圧圧縮して整形造粒してもよく、また、農薬活性成分、水溶性アルギン酸塩、陰イオン界面活性剤、担体、必要に応じて、結合剤、陰イオン界面活性剤以外の界面活性剤、溶剤、補助剤を添加して混合し、混合された粉体をそのまま打錠機で加圧圧縮することにより整形造粒して粒状物としてもよい。この場合の粒状物の形態は、打錠機の臼と杵の形によって決まるが、それらは円形板状、長円形板状、角形板状、楕円球状など種々の形状、大きさのものを得ることができ、いずれも本発明において使用できる。これら打錠法により得られる粒状物の直径または最大径は、通常0.1〜30mm、好ましくは0.5〜20mmの範囲にあるものである。
【0025】
<粒状農薬製剤の使用様態>
上記により調製した粒状農薬製剤は、通常の粒状農薬と同様な方法によって施用することができる。例えば、手での直接散布、人力式散粒機、電動式散粒機、背負形動力式散粒機、走行形動力散粒機、トラクター搭載型散粒機、田植機搭載型散粒機、育苗箱散粒機、側条施用用施薬機などによる方法を挙げることができるが、好ましくは植え穴処理である。
【0026】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお以下の実施例、比較例において「部」は「重量部」の意味である。
また、粘度は、B型粘度計を使用し、ローターNo.2、12rpm、温度20℃の条件で測定した。
【実施例1】
【0027】
アセタミプリド 2.0部、1重量%水溶液の粘度が550mPa・sのアルギン酸ナトリウム 5.0部、ラウリル硫酸ナトリウム 0.5部、クレー 89.5部、デキストリン 3.0部をハンマーミル(アトマイザー、不二パウダル株式会社製)で粉砕混合した。この粉砕混合物に水13.0部を添加し、双腕ニーダ(不二パウダル株式会社製)で混練した。次に、この混練物を孔径1.0mmのバスケット型スクリーンをつけた押し出し造粒機(NYG−200、日本薬業株式会社製)で造粒した。造粒物を流動層乾燥機(不二パウダル株式会社製)で乾燥した後、500〜1400μmの篩で篩別して本発明の粒状農薬製剤を得た。
【実施例2】
【0028】
カルボスルファン 3.0部をホワイトカーボン3.0部に吸油させた後、1重量%水溶液の粘度が550mPa・sのアルギン酸ナトリウム5.0部、ラウリル硫酸ナトリウム0.5部、デキストリン3.0部、クレー85.5部をハンマーミルで粉砕混合した。この粉砕混合物に水15.0部を添加し、双腕ニーダーで混練後、孔径1.2mmのバスケット型スクリーンをつけた押し出し造粒機で造粒した。造粒物を流動層乾燥機で乾燥した後、1400〜500μmの篩で篩別して本発明の粒状農薬製剤を得た。
【0029】
後掲の表1に示すとおり、上記実施例1、2に準拠して製剤No.1〜11を調製した。製剤No.1は、実施例1で得られた製剤であり、製剤No.2〜9は実施例1に準じて調製した製剤であり、実施例1において各成分の種類や配合量を他のものに変えて同様の製法で調製された製剤である。同様に、製剤No.10は、実施例2で得られた製剤であり、No.11はそのバリエーションである。
表2に示す比較製剤No.1〜11は、実施例1、2に準じて調製したものであるが、比較製剤No.1、2は水溶性アルギン酸塩の1重量%水溶液の粘度が100〜1000mPa・sの範囲外の例であり、比較製剤No.3、6、8は陰イオン界面活性剤を配合しない例であり、比較製剤No.4、10は、アルギン酸塩を配合しない例であり、比較製剤No.5、9は陰イオン界面活性剤およびアルギン酸塩を配合しない例であり、比較製剤No.7、11は水不溶性のアルギン酸塩を配合した例である。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
次に、試験例により、本発明の粒状農薬製剤の有用性を示す。
試験例1 溶出試験
底面の直径が約11cmの1L容のガラス製シャーレに、3度硬水500mlを添加する(水面の高さは約6cmとなる)。その後実施例に準じて調製した粒状農薬製剤1gを投入し、20℃の恒温室中に静置する。なお、粒状農薬製剤の投入時には、ビーカー底面に粒状農薬製剤がほぼ均一に存在するようにした。所定時間経過後(24、48、72、96、120時間後)、ビーカーの底面から高さ3cm地点の5ヶ所から、各3mlサンプリングし、すべてを混合後、農薬活性成分濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)またはその他の方法により定量し(分解物が生成した場合には、分解物も定量し、農薬活性成分濃度に換算して合算する)、下記式より算出した。その結果を表3〜表4に示す。
【0033】
【数1】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
試験例2 アザミウマに対する殺虫効果試験
直径30cmのプラスチックポットを使用し、キュウリの苗の定植時に1株当たり1gの薬剤を植え穴に処理した。定植後2、7、14、30日にキュウリの葉を切り取りプラスチック製のカップに入れ、アザミウマの成虫を10頭接種した。接種後3日後に死虫率を下記式より算出した。その結果を表5〜表6に示す。
【0037】
【数2】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
表3および表4の結果から明らかなように、製剤No.1〜11の溶出率は、24時間後で4〜15%、120時間後で31〜95%である。一方、比較製剤No.1、3、5、7〜9、11は24時間後で1〜2%であり、溶出量が少なく、また、比較製剤No.2、4、6、10は、72時間後から100%の溶出となった。
また、表5および表6の結果から、製剤No.1〜11の死虫率は、2〜30日後まで90〜100%と高い値であったのに対し、24時間後の溶出量が少なかった比較製剤No.1、3、5、7〜9、11は、2日後の死虫率が20〜60%と低く、72時間後に溶出量が100%に達した比較製剤No.2、4、6、10は、30日後の死虫率40〜60%と低く、顕著な差が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌活性成分および/または殺虫活性成分、1重量%水溶液の粘度が100〜1000mPa・sである水溶性アルギン酸塩、陰イオン界面活性剤および担体からなることを特徴とする、粒状農薬製剤。
【請求項2】
水溶性アルギン酸塩が、アルギン酸アルカリ金属塩から選らばれた1種類以上の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の粒状農薬製剤。
【請求項3】
水溶性アルギン酸塩の製剤中の添加量が、0.1重量%から20重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の粒状農薬製剤。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれかに記載の粒状農薬製剤を、植え穴処理に用いることを特徴とする、粒状農薬製剤の施用方法。

【公開番号】特開2008−150320(P2008−150320A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339834(P2006−339834)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】