説明

溶削異常検出装置および溶削異常検出方法

【課題】ホットスカーフ直後で精度高く溶削異常を検出する。
【解決手段】ホットスカーフ200の直後に配置された溶削異常検出装置100は、溶削後の被溶削材300の表面における高さ分布を計測する高さ計測部と、溶削後の被溶削材300の表面における輝度分布を計測する輝度計測部と、高さ計測部が計測した被溶削材の幅方向における高さ分布と、輝度計測部が計測した被溶削材の幅方向における輝度分布に基づいて、溶削異常を検出する溶削異常検出部、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分塊圧延工程に設置されたホットスカーフ設備により溶削された後の鋳片または鋼片における溶削異常を検出する技術に関し、特に、ホットスカーフ直後において精度高く溶削異常を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットスカーフ設備(以下、ホットスカーフと記載)は、線材・棒鋼の製造工程の中で、連続鋳造したブルームから中間製品であるビレットを製造する分塊圧延工程に配置され、ブルームに存在する表面欠陥(脱炭層および表面疵)を溶削により除去するための設備である。分塊圧延後のビレットの表面品質は、ホットスカーフの出来の良し悪しに大きく左右される。
【0003】
ホットスカーフの出来の良し悪しは、分塊圧延終了後の鋳片または鋼片(以下、鋼片と記載)の検査工程における表面疵検査によって判定されている。しかし、表面疵検査は鋼片の冷却後でなければ実施できないため、ホットスカーフ不良による表面疵の大量発生を防止できない。
このため、ホットスカーフの出来の良し悪しをホットスカーフ直後で判定してホットスカーフ不良(たとえば火口ユニットの局所的なノズル詰まり)を解消する必要がある。
【0004】
ホットスカーフの出来の良し悪しを評価する上で重要な指標の1つにホットスカーフの溶削量がある。このような溶削量の測定方法としては、レーザ距離計を用いて溶削前後の鋼片の寸法の変化を計測することにより溶削量を求める方法(光切断法)が採用されており、たとえば、以下の特許文献1(特開平5−237654号公報)および特許文献2(特開2007−69223号公報)に開示される技術がある。
【0005】
特許文献1に開示された溶削量測定方法は、ホットスカーフ前後において、レーザ距離計によって溶削前後の被溶削材寸法を測定しその差を溶削量として求める方法であって、レーザ距離計として被溶削材の高さ方向および幅方向共に2次元レーザ距離計を用い、または被溶削材の高さ方向は1次元レーザ距離計、幅方向は2次元レーザ距離計を用い、これらレーザ距離計により測定された溶削前断面プロフィールと溶削後断面プロフィールとの差より被溶削材の溶削量プロフィールを求めることを特徴とする。
【0006】
特許文献2に開示された溶削量測定方法は、ホットスカーフにより溶削された鋼片表面の溶削量を測定する方法であって、鋼片の溶削前に上下方向の鋼片寸法を測定するとともに、溶削しない側面の特定部位の上下方向の位置を記憶し、鋼片の溶削後に再度上下方向の鋼片寸法を測定するとともに、前記特定部位の上下方向の位置を記憶し、前記特定部位の位置について溶削前後の上下方向の移動量を求めることにより鋼片下面の溶削量を求め、前記上下方向の鋼片寸法について溶削前後の変化量と前記鋼片下面の溶削量とから鋼片上面の溶削量を求めることを特徴とする。
【0007】
いずれの溶削量測定方法も、ホットスカーフ前後で、レーザ距離計により鋼片の高さを計測して、その差を溶削量とする技術である。
また、特許文献3(特開平5−249051号公報)は、作業者の目視に代えてCCDカメラを用いた画像処理により溶削不良の有無を判定する溶削不良検出装置を開示する。
この溶削不良検出装置は、ホットスカーフの直後に配置し、搬送されて来る分塊圧延材の周囲に該分塊圧延材に対向する位置に配置したCCDカメラと、該CCDカメラからの画像情報を受けて画像処理を行い、該分塊圧延材の輝度分布または輝度変化率分布を求める画像処理装置と、該画像処理装置により求めた輝度分布または輝度変化率分布と分塊圧延の製造情報により溶削不良の有無を判定するパソコンと、溶削不良の検出に必要な分塊圧延の製造情報を蓄積し、その情報を前記パソコンに送るとともに、溶削状況の統計、管理を行う上位CPUとを備えることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−237654号公報
【特許文献2】特開2007−69223号公報
【特許文献3】特開平5−249051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献に開示された技術では以下の問題がある。
特許文献1および特許文献2に開示された技術では、ホットスカーフ前の鋼片の寸法(高さ)をレーザ距離計を用いて計測しているが、ホットスカーフ前の鋼片の表面にはスケールが付着していることが多い。このため、ホットスカーフ前の鋼片の寸法を基準として溶削量を算出する技術では、誤差を多く含む場合があり、ホットスカーフの出来の良し悪しを精度高く評価することは難しい。
【0010】
さらに、これらの特許文献1、2に開示された技術は、単に溶削量(溶削深さ)を測定するものであって、そもそも疵につながる溶削異常を検出するものではない。すなわち、ホットスカーフの溶削量はホットスカーフの出来の良し悪しを評価する上で重要な指標の1つであったとしても、溶削量は、疵につながる溶削異常に必ずしもつながるものとはいえない。
【0011】
また、特許文献3に開示された技術は、輝度の情報(輝度分布または輝度変化率分布)のみに基づいて溶削不良を判定するため、温度低下部と溶削不良部とを区別しにくい。このため、溶削不良ではないものを溶削不良と誤って判定しやすく精度が低い。たとえば、水(圧延ライン中の種々の冷却水等)が付着した鋼片の表面は温度が低下して輝度が周囲よりも低くなるので、溶削不良でなくても溶削不良と判定されてしまう。
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、ホットスカーフの出来の良し悪しをホットスカーフ直後で精度高く検出することのできる溶削異常検出装置および溶削異常検出方法を提供することを目的とする。さらに、ホットスカーフによる歩留まり損を低減させることのできる溶削異常検出装置および溶削異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の溶削異常検出装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の溶削異常検出装置は、ホットスカーフにより溶削された後の被溶削材の溶削異常を検出する。この装置は、溶削後の被溶削材の表面における高さ分布を計測する高さ計測部と、溶削後の被溶削材の表面における輝度分布を計測する輝度計測部と、前記高さ計測部が計測した被溶削材の幅方向における高さ分布と、前記輝度計測部が計測した被溶削材の幅方向における輝度分布に基づいて、溶削異常を検出する溶削異常検出部と、を備えることを特徴する。
【0014】
好ましくは、前記溶削異常検出部は、前記高さ分布にて予め定められた高さ閾値以上の部分で且つ前記輝度分布にて予め定められた輝度閾値以下の部分を、溶削異常が存在する部分として検出するように構成されると良い。
好ましくは、前記高さ計測部は、被溶削材の幅方向に向けて光切断線を照射する光照射部と、前記光切断線が照射された被溶削材を撮像する撮像部と、を有するように構成されると良い。
【0015】
好ましくは、前記輝度計測部は、前記被溶削の表面において光切断線が照射された以外の部分の輝度を計測するように構成されると良い。
好ましくは、前記輝度計測部は、被溶削材の表面を撮像する撮像部を有しており、前記輝度計測部の撮像部と前記高さ計測部の撮像部とが、同一のエリアカメラで構成されると良い。
【0016】
好ましくは、前記溶削異常検出部の検出結果に基づいて、ホットスカーフにおける溶削条件を変更する溶削条件変更部を含むように構成されると良い。
また、本発明の溶削異常検出方法は、ホットスカーフにより溶削された被溶削材表面の溶削異常を検出する。この方法は、溶削後の被溶削材表面における被溶削材の高さ分布を計測する高さ計測ステップと、溶削後の被溶削材表面における輝度を計測する輝度計測ステップと、前記高さ計測ステップにて計測した被溶削材の幅方向における高さ分布と、前記輝度計測ステップにて計測した被溶削材の幅方向における輝度分布に基づいて、溶削異常を検出する溶削異常検出ステップとを備えることを特徴する。
【0017】
好ましくは、前記溶削異常検出ステップの検出結果に基づいて、ホットスカーフにおける溶削条件を変更する溶削条件変更ステップを含むように構成されると良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明の溶削異常検出装置または溶削異常検出方法を用いることにより、ホットスカーフの出来の良し悪しをホットスカーフ直後で精度高く検出することができるとともに、ホットスカーフによる歩留まり損を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る溶削異常検出装置を含むホットスカーフ工程の概要図である。
【図2】図1における溶削異常検出装置の構成を示す図である。
【図3】CCDカメラにより撮像された画像の一例を示す図である。
【図4】ブルームの幅方向の高さ分布および輝度分布を示す図である。
【図5】溶削速度と溶削深さとの関係を示す図である。
【図6】溶削異常発生時と溶削速度調整後の疵指数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る溶削異常検出装置を、図面に基づき詳しく説明する。なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
[全体構成・ホットスカーフ]
図1に示すように、本実施形態に係る溶削異常検出装置100は、分塊圧延工程に設置されたホットスカーフ200により溶削された後の被溶削材の溶削異常を検出する。被溶削材は、鋳片または鋼片であって、ここではブルーム300とする。
【0021】
ホットスカーフ200は、ブルーム300を搬送するローラテーブル400における搬送路の適宜な位置に配置される。このホットスカーフ200は、ブルーム300の各面(上下左右の4面)にそれぞれ対応して上下左右の火口ユニットが配設されている。各火口ユニットは、ブルーム300の表面側に開口する火口(ノズル)を備える。ホットスカーフ200は、溶融鉄と酸素との熱化学反応によってブルーム300の表面層を削り取る設備であり、ブルーム300の4面(上下面と両側面)を長手方向に沿って同時に溶削する。
【0022】
具体的には、ブルーム300を停止した状態で火口からプロパンと酸素とを噴付けることにより、ブルーム300の先端部に溶融部を形成させブルーム300の先端部を予熱する。このように予熱してブルーム300の先端部に溶融部を形成させた後、ブルーム300の全長における表面層を削り取るために、ブルーム300を火口方向に一定速度で搬送する。このときのプロパンと酸素との流量比は予熱時とは異なり,プロパンの流量を下げて酸素の流量が多くなるように設定する。これにより、溶融鉄と酸素とによる酸化反応熱を発生させて継続的に溶削を進行させる。
【0023】
このようなホットスカーフ200の出側の直後に溶削異常検出装置100が配置される。
[全体構成・溶削異常検出装置]
本実施形態の溶削異常検出装置100は、溶削後のブルーム300の表面における高さ分布を計測する高さ計測部と、溶削後のブルーム300の表面における輝度分布を計測する輝度計測部とを有している。
【0024】
さらに、溶削異常検出装置100は、高さ計測部が計測したブルーム300の幅方向における高さ分布と、輝度計測部が計測したブルーム300の幅方向における輝度分布に基づいて、溶削深さが予定した量より少ない等の溶削異常を検出する溶削異常検出部を備えている。
なお、本実施の形態においては、溶削後のブルーム300の上面のみを溶削異常の検出対象としているが、これに限定されるものではなく、他の表面(両側面、下面)も検出対象としても構わない。このため、「溶削後の被溶削材(ブルーム300)表面における被溶削材(ブルーム300)の高さ」とは、単に鉛直上方の寸法を指すのみではなく、水平方向の寸法(側面を検出対象とした場合)、鉛直下方の寸法(下面を検出対象とした場合)も含むものとする。
【0025】
[全体構成・高さ検出部]
溶削異常検出装置100に備えられた高さ計測部は、ブルーム300の表面に対し、その幅方向にライン状のレーザ光、すなわち光切断線を照射する光照射部110を備えている。光照射部110は、スポット状のレーザ光を発射するレーザ投光器(図示せず)と、レーザ投光器が投光したスポット光が入射されてライン状のレーザ光へと集光するシリンドリカルレンズ(図示せず)からなる。
【0026】
さらに、高さ計測部は、光切断線が照射されたブルーム300の表面を撮像する撮像部120を有している。本実施形態の場合、撮像部120はCCDカメラ(エリアカメラ)で構成され、図3に示す如く、ブルーム300の幅方向全て且つ長手方向に所定長さが映り込むように、設置場所や撮像レンズの焦点距離などが設定される。
CCDカメラ120で撮像された画像(光切断線を含む画像)は、高さ計測部を構成する画像処理装置130へ送られる。画像処理装置130へ送られてきた画像は二値化などの処理を施されることで、光切断線のみが抽出される。
【0027】
画像処理装置130で抽出された光切断線の情報(座標データ)は、高さ計測部を構成するコンピュータ140へ送られる。コンピュータ140は、パーソナルコンピュータ等であって、このコンピュータ140において、抽出された光切断線に対して三角測量法の原理を適用することで、ブルーム300の表面における高さ分布(高さプロファイル)が算出される。算出された高さ分布(高さプロファイル)は、プロファイルデータ保管部160に保存される。
【0028】
[全体構成・輝度測定部]
一方、溶削異常検出装置100に備えられた輝度計測部は、ブルーム300の表面を撮像する撮像部120を有している。
本実施形態の場合、撮像部120は、高さ計測部を構成するCCDカメラと同一とされ、図3に示す如く、ブルーム300の幅方向全て且つ長手方向に所定長さが写り込むように、設置場所や撮像レンズの焦点距離などが設定される。
【0029】
CCDカメラ120で撮像された画像は、輝度計測部を構成する画像処理装置130へ送られる。画像処理装置130では、送られてきた画像に対して、図3に示すように、ブルーム300の幅方向より広幅の矩形ウインド(輝度測定領域)を設定し、この輝度測定領域における輝度分布(幅方向の輝度プロファイル)を算出する。このとき、幅方向の1ライン分の輝度分布を算出しているが、数ライン分の平均値を算出するようにしても構わない。なお、輝度測定領域内に、高さプロファイルを求めるための光切断線が入り込まないように当該領域を設定することは非常に好ましい。算出される輝度は、例えば8bit(0〜255階調)のデジタル輝度値とされる。
【0030】
画像処理装置130で抽出された輝度分布の情報は、コンピュータ140へ送られる。さらに、輝度分布の情報は、プロファイルデータ保管部160に保存される。
なお、本実施形態の場合、輝度計測部を構成する画像処理装置130及びコンピュータ140は、高さ計測部を構成する画像処理装置130及びコンピュータ140と共用(同じもの)とされているが、別々に設けられていてもよい。
【0031】
さて、高さ計測部が計測したブルーム300の幅方向における高さ分布と、輝度計測部が計測したブルーム300の幅方向における輝度分布は、ブルーム300の溶削異常を検出する溶削異常検出部へと送られる。
溶削異常検出部は、前述したコンピュータ140と、警報装置(出力器)150と、プロファイルデータ保管部160とで構成される。高さ分布と輝度分布とから溶削異常を検出する処理は、コンピュータ140内のプログラムにより実現される。具体的な溶削異常の検出方法は後述する。
【0032】
警報装置150は、音声発生スピーカや発光ランプなどで構成されており、コンピュータ140に接続され、コンピュータ140で溶削異常を検出すると、ホットスカーフ200の操業管理者へ警報を報知する。操業管理者は、警報を認知すると、ホットスカーフ200の溶削条件を変更する。なお、この警報装置150に代えて/加えて、ホットスカーフ200の溶削条件を自動的に変更する溶削条件変更部(図示せず)を設けるようにしても構わない。溶削条件変更部は、ホットスカーフを制御するプロセスコンピュータ内にプログラムの形で実現されることが考えられる。なお、溶削条件変更部で行われる溶削条件の具体的な変更方法についても後述する。
【0033】
[設置状況]
次に、溶削異常検出装置100の高さ計測部、輝度計測部の具体的な設置状況について述べる。
図2に示すように、溶削異常検出装置100は、幅300mm程度、高さ250mm程度のブルーム300の上側表面における溶削異常を検出する。溶削異常検出装置100は、ホットスカーフ200の出側であって約2m程度の直後に配置される。このように、ホットスカーフ200の直後に溶削異常検出装置100を配置することにより、(1)溶削直後からブルーム300の表面に発生するスケールの影響を回避して高さ分布を正確に測定することができ、(2)ブルーム300の表面が赤色に発光しているので輝度分布を正確に測定することができる。
【0034】
光照射部110は、ブルーム300の上面から約1.5m程度の上方位置から、緑色レーザ光をブルーム300の表面に投射する。この緑色レーザ光の波長は490〜570nm程度である。溶削後のブルーム300の表面からは表面温度に対応した赤色の放射光が発せられている故、光照射部110からは、放射光とは波長の異なる緑色レーザ光を照射するようにしている。なお、CCDカメラ120の撮像レンズ前には、緑色レーザ光のみを通過させるバンドパス光学フィルタを取り付けることが好ましい。
【0035】
光照射部110から発せられるレーザ光は、図2に示すように、ブルーム300の幅方向長さよりも広幅とされ、幅方向に輝度が均一となっている。
CCDカメラ120は、ブルーム300の進行方向に対して上方へ30°傾けて配置されて、斜め上方からブルーム300の表面を撮像する。それ故、CCDカメラ120の撮像方向と光照射部110のレーザ照射方向とがなす角度は60°となる。
【0036】
なお、この図2に示す寸法は一例であって、本発明がこの図2に示す寸法に限定されるものではない。
上記した設置状況の下、CCDカメラ120により図3に示す画像が撮像される。図3に示すように、輝度測定領域は光切断線を避けるように設定されている。もし、輝度測定領域をレーザ光が横切るように設定された場合、レーザ光が照射された領域で輝度を測定すると、レーザ光に起因する輝度がブルーム300表面の輝度に混在することとなり、測定された輝度値に誤差が発生する。本実施形態では、斯かる不都合は回避される。
【0037】
図3(A)は溶削異常がブルーム300の長手方向に平行に存在する場合を、図3(B)は溶削異常が存在しない場合を、それぞれ示している。
図3(A)では、ホットスカーフ直後のブルーム300の表面には,ブルーム300の長手方向に平行な凹凸(溶削むら、溶削異常)が形成される。こうした溶削むらは、その程度によっては、ホットスカーフ後の分塊圧延において表面疵を発生させる原因になることがある。また、これらの表面疵には脱炭層が認められることから、ホットスカーフによる溶削では元々ブルーム300の表面を覆っている脱炭層を完全に除去しきれない場合があることがわかる。したがって、分塊圧延後のブルーム表面疵を低減させるためには、ホットスカーフの溶削深さを十分確保した上で、溶削むらの小さい平滑な溶削面を実現させることが必要である。このため、本実施形態に係る溶削異常検出装置100は、溶削異常を検出すると、十分な溶削深さになるように、ホットスカーフ200の溶削条件を変更するように操業管理者へ警報を報知したり、ホットスカーフ200の溶削条件を自動的に変更したりする。
【0038】
[溶削異常検出方法]
次に、溶削異常検出部にて行われる溶削異常検出の処理内容、言い換えれば、溶削異常検出装置100における溶削異常検出方法について説明する。
高さ計測部にて得られた高さプロファイルのデータ(ブルーム300の幅方向の高さ分布)は、ホットスカーフ200による溶削後のブルーム300表面の凹凸の程度であり、これが極大となる位置においてホットスカーフ200における溶削深さが少ない可能性がある。しかし、溶削前のブルーム300の表面形状が不明な状況または不正確な状況(特許文献1のように溶削前後のプロファイルを作成したとしても溶削前のプロファイルデータの精度が低い状況)では、溶削後のプロファイルデータから溶削深さの正確な絶対値を算出することができないため、極大値の位置を単純に溶削異常と判定することはできない。
【0039】
一方、溶削中のブルーム300は温度が1000℃〜1100℃の状態にあり、光を放射している。通常、この光は、温度が高ければ明るく低ければ暗くなる。したがって、輝度が低下した位置は温度が低下していることを示す。ホットスカーフ200はブルーム300の表層を削り取る設備であり、このホットスカーフ後にブルーム300の表面に存在する輝度の低下部は、比較的温度が低い表層部が残存したものと考えることができる。しかし、ブルーム300には圧延ライン中の種々の冷却水がかかり、局所的に温度低下している箇所があるため、輝度だけで溶削異常を正確に判定できない。
【0040】
そこで、本実施形態に係る溶削異常検出装置100においては、高さ計測部で得られたブルーム300の幅方向の高さ分布の極大部(増大部)と輝度計測部で得られたブルーム300の幅方向の輝度分布の極小部(低下部)とが一致乃至はオーバラップしていれば、そこは溶削深さの減少によって、形状が凸となり表層部の残存によって輝度が低下したと考えられることに着目した。
【0041】
このように、プロファイルと輝度とを組み合わて溶削異常を判定することによりで、各々単独で判定するよりも高い精度で溶削異常を判定することができる。
具体的には、図4(A)に示すように、ブルーム300の幅方向において、高さが高さ閾値以上で、かつ、輝度が輝度閾値以下である領域が存在すると、異常条件が一致し、溶削異常を検出する。一方、図4(A)および図4(B)に示すように、ブルーム300の幅方向において、高さが高さ閾値以上あっても、輝度が輝度閾値以下でないと、異常条件が一致しない。また、ブルーム300の幅方向において、輝度が輝度閾値以下であっても、高さが高さ閾値以上でないと、異常条件が一致しない。すなわち、ブルーム300の幅方向において、輝度が輝度閾値以上である、または、高さが高さ閾値以上であると(いずれか一方を満足すると)、異常条件は一致しない。
【0042】
なお、高さ閾値および輝度閾値は、被溶削材の種類、過去の操業実績などを勘案して適宜設定される。
表1に、それぞれの条件に合致する箇所に存在した疵指数を比較した結果を示す。条件Aは、本実施形態に係る溶削異常検出装置100の判定方法である「高さも輝度も異常」、条件Bは「高さが異常で輝度は正常」、条件Cは「高さは正常で輝度が異常」、条件Dは「高さは正常で輝度も正常」である。疵指数は、ホットスカーフ直後で異常と判定した箇所が、後工程(塊圧延終了後の鋼片検査工程における表面疵検査工程)での検査結果を、条件Dの疵個数を1とした場合の疵個数で示すものである。この表1から明らかなように、条件Aで溶削異常と判定すると、高さのみで溶削異常判定する場合および輝度のみで溶削異常判定する場合に比べて、高い疵発生率となっている。すなわち、条件Aでの溶削異常判定が、精度高く異常を検出していることを示している。
【0043】
【表1】

【0044】
[溶削条件変更方法]
次に、溶削異常検出装置100における溶削条件変更方法について説明する。
上述したように、図3(A)および図4(A)に示すように溶削異常を検出した場合には、ホットスカーフの溶削深さを十分確保するように、溶削条件を変更する必要がある。
図5に溶削速度と溶削深さとの関係を示す。
【0045】
図5に示すように、溶削速度を低下させると、溶削深さが大きくなる。これは、溶削速度を低下させると溶削時における溶融鉄と酸素との反応時間が長くなる。これにより、溶融鉄と酸素との反応熱が増大するので、溶削深さが深くなる。したがって、溶削異常を検出した場合、溶削深さの浅い箇所を含めた全体の溶削量を増加させることで異常を解消できる。このため、溶削異常を検出すると、溶削速度を低下させるように、操業管理者へ警報を報知したり、ホットスカーフ200の溶削条件を自動的に変更したりする。
【0046】
この場合において、溶削異常部の高さから高さ閾値を差し引いて、高さが逸脱している量(逸脱量分)を求める。その逸脱量分を深く削るための溶削速度の減速量を、図5に示す溶削速度と溶削深さとの関係に基づいて決定する。
このようにして決定した溶削速度の減速量を、操業管理者へ報知したり、溶削条件変更部を介して、ホットスカーフ200の溶削速度を自動的に変更したりする。
【0047】
図6に溶削速度の減速による効果を示す。溶削異常発生時の疵指数を100として、溶削速度を調整(減速)した後は、45程度にまで疵指数が改善されていることがわかる。
なお、溶削異常を検出した場合に溶削量を増加させる方法として、上述したように溶削速度を低下させる方法の他に、プロパンまたは/および酸素の流量を増加させる方法であっても構わない。
【0048】
以上のようにして、本実施の形態に係る溶削異常検出装置100によると、ホットスカーフの出来の良し悪しをホットスカーフ200の直後で精度高く検出することができる。特に、溶削異常をオンラインで精度高く検出することができる。さらに、溶削異常を検出すると溶削条件(溶削速度)を変更するので溶削異常が発生しなくなり、溶削異常の大量発生を防止することができ、ホットスカーフによる歩留まり損を低減させることができる。
【0049】
ところで、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。また、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、たとえば、運転条件、操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0050】
100 溶削異常検出装置
110 光照射部
120 CCDカメラ
130 画像処理装置
140 コンピュータ
150 警報装置(出力器)
160 プロファイルデータ保管部
200 ホットスカーフ
300 ブルーム
400 ローラテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットスカーフにより溶削された後の被溶削材の溶削異常を検出する装置であって、
溶削後の被溶削材の表面における高さ分布を計測する高さ計測部と、
溶削後の被溶削材の表面における輝度分布を計測する輝度計測部と、
前記高さ計測部が計測した被溶削材の幅方向における高さ分布と、前記輝度計測部が計測した被溶削材の幅方向における輝度分布に基づいて、溶削異常を検出する溶削異常検出部と、
を備えることを特徴する溶削異常検出装置。
【請求項2】
前記溶削異常検出部は、前記高さ分布にて予め定められた高さ閾値以上の部分で且つ前記輝度分布にて予め定められた輝度閾値以下の部分を、溶削異常が存在する部分として検出するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶削異常検出装置。
【請求項3】
前記高さ計測部は、被溶削材の幅方向に向けて光切断線を照射する光照射部と、前記光切断線が照射された被溶削材を撮像する撮像部、を有することを特徴する請求項1または請求項2に記載の溶削異常検出装置。
【請求項4】
前記輝度計測部は、前記被溶削の表面において光切断線が照射された以外の部分の輝度を計測するように構成されていることを特徴する請求項1〜3のいずれかに記載の溶削異常検出装置。
【請求項5】
前記輝度計測部は、被溶削材の表面を撮像する撮像部を有しており、
前記輝度計測部の撮像部と前記高さ計測部の撮像部とが、同一のエリアカメラで構成されていることを特徴する請求項1〜4のいずれかに記載の溶削異常検出装置。
【請求項6】
前記溶削異常検出部の検出結果に基づいて、ホットスカーフにおける溶削条件を変更する溶削条件変更部を含むことを特徴する請求項1〜5のいずれかに記載の溶削異常検出装置。
【請求項7】
ホットスカーフにより溶削された被溶削材表面の溶削異常を検出する方法であって、
溶削後の被溶削材表面における被溶削材の高さ分布を計測する高さ計測ステップと、
溶削後の被溶削材表面における輝度を計測する輝度計測ステップと、
前記高さ計測ステップにて計測した被溶削材の幅方向における高さ分布と、前記輝度計測ステップにて計測した被溶削材の幅方向における輝度分布に基づいて、溶削異常を検出する溶削異常検出ステップとを備えることを特徴する溶削異常検出方法。
【請求項8】
前記溶削異常検出ステップの検出結果に基づいて、ホットスカーフにおける溶削条件を変更する溶削条件変更ステップを含むことを特徴する請求項7に記載の溶削異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−107127(P2013−107127A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256326(P2011−256326)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)