説明

溶存メタン回収方法及び装置

【課題】嫌気性処理水に含まれる溶存メタンを物理的作用である物質移動作用により簡単且つ安価に効率良く回収できるようにしてエネルギの有効利用を確実に行い得るようにする。
【解決手段】嫌気性処理水供給装置3により多孔質性の保水部材14の上部に供給した嫌気性処理水5を保水部材14に沿い流下させ、保水部材14の下部より空気7を供給して嫌気性処理水5と空気7とを接触させ、嫌気性処理水5から空気7への物質移動作用によって嫌気性処理水5中の溶存メタンを空気中に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性微生物により処理した嫌気性処理水等の溶存メタン含有排水中に含まれる溶存メタンを物理的作用である物質移動作用によりガス化して回収するようにした溶存メタン回収方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタンは強力な温室効果ガスの一つとして知られており、その温室効果は二酸化炭素のおよそ21倍であるといわれている。又、その量は二酸化炭素についで多いといわれており、産業活動の結果、大気中のメタン濃度は200年前に比べて2倍以上に達していると推定され、メタンが気象に与える影響、すなわち地球温暖化が懸念されている。
【0003】
一方、有機性排水を処理するプロセスには嫌気性微生物群を利用する場合と、好気性微生物群を利用する場合とがあるが、嫌気性微生物群の働きを利用した有機性排水処理プロセス、すなわち嫌気性排水処理プロセスは、好気性微生物群の働きを利用した標準活性汚泥法に比べて余剰汚泥の発生が少ないことや、エネルギ消費量が少ない等の長所を有することから、産業排水や下水等の処理に普及している。又、嫌気性排水処理プロセスによって各種排水を処理することで、エネルギとして利用可能なメタンガスを生成させることができる。
【0004】
しかし、嫌気性排水処理プロセスにおいて生成されたメタンガスの一部は、気相と液相との間の物理的作用である物質移動作用によって嫌気性処理水に溶け込んでしまう。これにより、生成されたメタンガスの回収量が減少してしまうだけでなく、溶存メタンを含んだ嫌気性処理水が排出されることで、メタンガスは何れは大気中に放出されてしまう。
【0005】
なお、溶存メタンを含む排水は、嫌気性処理水以外にも、石油発掘の際の間隙水や、埋立て処分地の浸出等があり、これらの排水の処理の際にもメタンの大気気散が生じている。
【0006】
而して、上記した理由により、地球温暖化防止の観点から、嫌気性処理水等(以下、単に嫌気性処理水という)に含まれた溶存メタンを回収することが必要である。しかし、嫌気性処理水に含まれている溶存メタンを物理的作用である物質移動作用により回収する技術はないのが現状である。而して、有機性排水を処理する技術としては特許文献1、2がある。
【0007】
特許文献1では、深海から採集した化学合成依存生物を用いて、有機性排水である嫌気性処理排液、及び汚泥脱水機の排液中に含まれている溶存メタンを生物学的に酸化して処理するようにしている。
【0008】
特許文献2では、酸生成槽からメタン生成槽に送給されなかった流出液の残部を減圧容器に送給し、この減圧容器で減圧攪拌することにより、液中に含有される溶存水素や二酸化炭素等のガス成分を気相側へ移行させて回収する方法が示されている。又、この方法では、減圧容器において溶存水素を液相から除去して酸生成槽での水素濃度を適切に保つことで、酸生成槽での酢酸生成効率及びメタン生成槽でのメタン生成効率を高めるようしている。
【0009】
更に、この特許文献2においては文献中に示されている実験結果から見ると、減圧容器からは、液中に含有される溶存ガスである水素や二酸化炭素等のガス成分と共に、溶存メタンも回収されることは明らかである。しかし、減圧容器で溶存メタンを回収するためには、減圧度を大きくしなけばならず、減圧度を溶存水素の回収に適したレベルにすると溶存メタンを効率よく回収することはできない。従って、この方法では、溶存メタンの回収に適用するのは効率が悪く、実施するには不適当である。
【0010】
又、仮に、特許文献2の装置を実機に適用しようとする場合には、減圧容器を真空圧に耐えられるよう強固な構造としなけばならず、又、真空圧にするために真空ポンプ等が必要となり、更に、回収された水素とメタンを分離するための複雑なシステムが必要となり、その結果、設備費、運転維持費が高価となる。
【特許文献1】特開平11−169884号公報
【特許文献2】特開平5−309400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では溶存メタンを生物学的に酸化処理しており、溶存メタンを回収することはできないため、エネルギの有効利用を図ることができない。
【0012】
又、特許文献2では、水素とメタンとを別々に生産回収することにより、酸醗酵段階の水素濃度を調整することを目的としており、溶存メタンの回収は直接の目的とはしてはいないため、溶存メタンの回収に適用しても上述したように、効率良い溶存メタンの回収は困難であり、又、溶存メタン回収の効率を上げるためには設備費、運転維持費が高価となる。
【0013】
本発明は、前記実情に鑑み、嫌気性処理水のような溶存メタン含有排水中に含まれる溶存メタンを物理的作用である物質移動作用により簡単且つ安価に効率良く回収できるようにしてエネルギの有効利用を確実に行い得るようにした溶存メタンの回収方法及び装置を提供することを目的としてなしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の請求項1の溶存メタン回収方法は、気相中に配置した多孔質性の保水部材の上部から溶存メタン含有排水を供給して気液接触させ、該溶存メタン含有排水から気相への物質移動作用により前記溶存メタン含有排水に含まれる溶存メタンをガス化して回収するものである。
【0015】
本発明の請求項2の溶存メタン回収方法では、溶存メタン含有排水を保水部材の上部から流下或は散水するようにしており、請求項3の溶存メタン回収方法では、保水部材の下部或は保水部材を収納した容器の下部から保水部材に向けて空気或は不活性ガス若しくは炭酸ガス、又はこれらのガスのうち所定のガスの混合ガスを供給するようにしている。
【0016】
本発明の請求項4の溶存メタン回収装置は、多孔質性の保水部材と、該保水部材に上部から溶存メタン含有排水を供給する溶存メタン含有排水供給手段と、溶存メタン含有排水と気相とが接触して溶存メタン含有排水中の溶存メタンがガス化して生じたメタンガスを回収するメタンガス回収手段とを設けたものである。
【0017】
本発明の請求項5の溶存メタン回収装置においては、保水部材の下部から保水部材に向けて空気或は不活性ガス若しくは炭酸ガス、又はこれらのガスのうち所定のガスの混合ガスを供給するガス供給手段を設けたものであり、請求項6の溶存メタン回収装置においては、保水部材は容器内に収納されている。
【0018】
保水部材の下部或は保水部材を収納した容器の下部から保水部材に向けて供給するガスとしては、空気以外に、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、或は炭酸ガス等、種々のガスを用いることができる。又、これらのガスを空気と混ぜて供給しても良い。例えば、空気に炭酸ガスを混合した混合ガス、或は炭酸ガスを単独で供給すると、溶存メタン含有排水から回収したメタンを含むガスを精製する際に、アルカリ剤等を通すことで、炭酸ガス成分のみを除去できるので、得られるガスのメタン濃度を向上させることができ、これによって回収ガスの再利用(燃焼、燃料電池等)を行ないやすくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1〜6記載の溶存メタン回収方法及び装置によれば、下記のごとき種々の優れた効果を奏し得る。
I)保水部材を流下する溶存メタン含有排水は、保水部材に形成された個々の連続した比表面積の大きい多孔部に短絡することなく均一に充たされるため、保水部材に対し高効率に接触することができ、その結果、空気や不活性ガスとの気液接触により、溶存メタン含有排水中に含有されている溶存メタンの空気或は不活性ガスへの放出が活発に行なわれ、従って、これまで回収されずに大気放出されていた溶存メタン含有排水中の溶存メタンを簡単且つ確実にしかも安価に効率良く回収することができる。
II)回収したメタンは、後段で脱硫や炭酸ガスの吸着等の適切な処理を施すことにより、メタンガス利用の創エネルギプロセスに利用できてエネルギの有効利用を確実に行うことができる。
III)比表面積の大きい多孔質の保水部材を用いているため、溶存メタン含有排水と気相が高効率に接触することができて、保水部材を収納する容器の容積を小さくできるうえ、物質移動作用を用いて溶存メタンを回収するようにしているため、装置が簡略化でき、その結果、設備費、運転維持費を安価にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1〜図3は本発明を実施する形態の第一例である。
図1に示すように、溶存メタン回収装置1は、密閉された立方体箱状の容器2と、容器2内上部に収納された複数の嫌気性処理水供給装置3と、各嫌気性処理水供給装置3の側面に幕状に垂下されて容器2内に収納された溶存メタン回収ユニット4と、嫌気性処理水供給装置3に嫌気性処理水5を供給する嫌気性処理水供給管路6と、容器2の下部に空気7を供給する給気管路8と、容器2内で回収されたメタンを含むメタン回収ガス9を取出すためのメタンガス回収管路10と、容器2の下端近傍から処理水11を排水するための排水管路12を備えている。
【0021】
嫌気性処理水供給装置3は上部が開放された深さの浅い箱状の容器であり、嫌気性処理水供給装置3を配した長辺側の側面上縁側には、複数のスリット3aが刻設されている。而して、嫌気性処理水供給管路6から供給された嫌気性処理水5が嫌気性処理水供給装置3に所定量溜まると、嫌気性処理水5はスリット3aからオーバーフローして溶存メタン回収ユニット4の全幅に亘って供給され均一に流下し得るように構成されている。嫌気性処理水供給装置3に形成するスリット3aの形状は、図1に示すような逆三角形形状以外に、種々の形状を採用することができる。
【0022】
溶存メタン回収ユニット4は、嫌気性処理水供給装置3から嫌気性処理水5を流下させることで、嫌気性処理水5に含有されている溶存メタンを回収するためのユニットである。而して、図2及び図3に示すように、溶存メタン回収ユニット4は、塩化ビニール板13の両面にポリウレタンスポンジ製の保水部材14を貼着する等して固設した構造である。保水部材14は、導液性のシート15と、シート15に対し一体的に形成されて上下方向に段状に並設された複数の多孔質棒状体16を備えている。
【0023】
多孔質棒状体16の鉛直方向断面形状は二等辺三角形状で、その頂部は半円形に形成され、上下の多孔質棒状体16、16間にはくびれ部17が形成されている。又、多孔質棒状体16の二等辺三角形状の頂部は水平方向へ突出している。更に、シート15の両面に固設される多孔質棒状体16は、図示するように、一面側の多孔質棒状体16の頂部が他面側の多孔質棒状体16のくびれ部17に対向するよう、高さ方向の位相をずらして設けられている。
【0024】
保水部材14は連続気泡を有する多孔質体であり、連続気泡は孔径5〜5,000μm、好ましくは30〜3,000μm、空隙率は10〜90%、好ましくは30〜90%とする。又、比表面積は500〜10,000m/mとすることが好ましい。更に、保水部材14としては、多孔質スポンジのような発泡成形体、或は焼結金属のような粒子若しくは繊維状物の結合体を用いることができる。具体的には、ポリウレタン製等のスポンジ状のものや、セラミックス等の透液性の多孔質体が好ましいが、不織布のような透液性のシートを用いても良い。
【0025】
多孔質棒状体16の鉛直方向断面形状は、図示例のようなくびれ部17を形成する場合、三角形状の他に矩形状、半円形状等任意の断面形状とすることができるが、図示したような三角形状の場合、多孔質棒状体16の底辺同士が水平方向へ対向するよう、そろばん球状に配置しても良いし、或は四角形状にした場合は長手方向の対角線が水平方向或は垂直方向を向くように配置しても良い。又、斯かる多孔質棒状体16は、比表面積を大きくするため、図示例のようにくびれ部17を介して上下方向に連続的に接続されているものが好ましいが、くびれ部17を形成する場合は、導水性シート15の片面又は両面に、多孔質棒状体16を貼り付けた形状のものが容易に製作することができて好ましい。更に、シート15は織物或は網状のシートやネット等の透液性のシートが好ましいが、樹脂のような非透液性のシートを用いても良い。
【0026】
嫌気性処理水供給管路6は、嫌気性処理水供給管路6に対し長手方向に間隔を置いて接続した3本の分岐管路6aを介して、3組の嫌気性処理水供給装置3のスリット3aが形成されていない側面に接続されており、嫌気性処理水供給装置3のうち、分岐管路6a長手方向の前後の2組の嫌気性処理水供給装置3は連通管路6bにより接続されている。又、給気管路8は、平面視で嫌気性処理水供給管路6と90度角度を異にして配置されていると共に、給気管路8の長手方向両端部近傍に接続された分岐管路8aは、容器2の下側面に接続されている。更に、排水管路12は、給気管路8と平行に配置されると共に、嫌気性処理水供給管路6の給気管路8から離反した側の端部側下方に位置するよう配置されて容器2の下側面に接続されている。更に又、メタンガス回収管路10は、容器2の排水管路12接続部と対向する面の上側部に接続されている。
【0027】
次に、上記した実施の形態の作動を説明する。
例えば、下水、産業排水、汚泥等の有機性排水が嫌気性微生物により処理されて生成された嫌気性処理水5は嫌気性処理水供給管路6を送給され、分岐管路6aから、当該分岐管路6aに接続された嫌気性処理水供給装置3に導入され、この嫌気性処理水供給装置3から連通管路6bを介して、下流側の嫌気性処理水供給装置3に供給される。
【0028】
而して、嫌気性処理水供給装置3に所定量の嫌気性処理水5が溜まると嫌気性処理水5は、スリット3aからオーバーフローして、下方へ垂下している溶存メタン回収ユニット4の全幅に亘って供給され、均一に流下する。而して、流下した嫌気性処理水5は、鉛直方向に配置した複数の多孔質棒状体16間を順次流下するが、一気に流下するのではなく、多孔質棒状体16及び導水性シート15の表面形状に沿い、順々に伝いながらゆっくりと流下する。
【0029】
又、嫌気性処理水5は、保水部材14の多孔質棒状体16及びシート15内の連続気泡である個々の多孔部内に侵入し、多孔部内を均一に充たした状態で短絡することなく流下する。又、給気管路8から送給された空気7は、分岐管路8aから容器2内に供給されて容器2内を上昇する。
【0030】
このため、嫌気性処理水5と空気7とは保水部材14において気液接触する。そうすると、嫌気性処理水5中の溶存メタンの濃度は空気7中のメタンの濃度よりも高いため、液体と気体との系において両相の組成の温度、圧力が一定になろうとする気液平衡の原理により、液相である嫌気性処理水5中の溶存メタンは、気相である空気7中へ物理的作用である物質移動作用により移動し、空気7中のメタン濃度が高まることで嫌気性処理水5中の溶存メタンはガスとして気相である空気7中に回収される。空気7中に回収されたメタンはメタン回収ガス9として容器2内を上昇し、メタンガス回収管路10から後段に送給される。
【0031】
又、嫌気性処理水5を上方から下方へ向けて流下させ、空気7を下方から上方へ向けて流すことにより、嫌気性処理水5と空気7との接触効率が向上し、その結果、メタン回収速度が速まり、しかも空気7が上昇するにつれて徐々に空気7中のメタン濃度は高くなる。このため、容器2の下部では嫌気性処理水5中のメタン濃度は低い状態となる。
【0032】
溶存メタン回収ユニット4を流下して溶存メタンを回収された嫌気性処理水5は容器2下部の排水管路12から排出される。
【0033】
本図示例によれば、保水部材14を流下する嫌気性処理水5は、保水部材14の多孔質棒状体16及び導水性シート15に形成された個々の連続した比表面積の大きい多孔部に短絡することなく均一に充たされる。このため、嫌気性処理水5は気相に対し高効率に接触することができ、その結果、空気7との気液接触により、嫌気性処理水5に含有されている溶存メタンの空気7への放出が活発に行なわれる。
【0034】
従って、これまで回収されずに大気放出されていた嫌気性処理水5中の溶存メタンを、物理的作用である物質移動作用により簡単且つ確実にしかも安価に効率良く回収することができ、又、回収したメタンは、後段で脱硫や炭酸ガスの吸着等の適切な処理を施すことにより、メタンガス利用の創エネルギプロセスに利用できてエネルギの有効利用を確実に行うことができる。
【0035】
又、上述のように、比表面積の大きい多孔質の保水部材14を用いているため、嫌気性処理水と気相が高効率に接触することができて、保水部材14を収納する容器2の容積を小さくできるうえ、物質移動作用を用いて溶存メタンを回収するようにしているため、装置を簡略化できる。その結果、設備費、運転維持費を安価にすることができる。
【0036】
図4、図5は本発明を実施する形態の第二例である。
而して、本図示例においては、図5に示すように、軸心Lに対して直行する方向の断面形状が円形の短柱体である円筒状多孔質性スポンジを保水部材18として使用するようにしている。保水部材18は外周面を樹脂製の補強部材19により補強されている。
【0037】
有底円筒状の容器20には、無底無蓋の網目状で且つ円筒状の複数の容器21が多段に収納され、容器21内には図5に示す形状の保水部材18が多数収納されている。容器21内の保水部材18の向きは任意となる。
【0038】
容器21の上部には、嫌気性処理水22が供給される嫌気性処理水供給管路23が容器20の軸心と合致するよう縦向きに配置されており、嫌気性処理水供給管路23の下端には、スプリンクラのような嫌気性処理水散水装置24が旋回可能に設けられている。又、図中、25は容器20の下端部近傍に接続されて空気26を容器20内に供給するようにした給気管路、27は容器20の上端部近傍に接続されてメタン回収ガス28を回収するメタンガス回収管路、29は容器20の下端部近傍に給気管路25と180度位相を異ならしめ且つ給気管路25よりも下方に位置するよう接続された排水管路であり、メタンが回収された処理水30が排出されるようになっている。
【0039】
保水部材18の空隙率、比表面積、材質は前記実施の形態の第一例の保水部材14と同様にする。又、保水部材18は図示例の形状の他に、軸心に対して直交する方向の断面形状が矩形状の短柱状、同じく軸心に対して直交する方向の断面形状が三角形状の短柱状、等任意の断面形状とすることができるが、強度を高めるためには、断面形状を図示例のような短円柱状とすると良い。
【0040】
本図示例においては、嫌気性処理水供給管路23から供給された嫌気性処理水22は、旋回している嫌気性処理水散水装置24によって容器21内の保水部材18に散布され、散布された嫌気性処理水22は、保水部材14の外周面に沿い流下すると共に、保水部材14内の連続する気泡である個々の多孔部内を均一に充たした状態で、短絡することなく流下する。又、給気管路25から送給された空気26は容器20から網状の容器21内に供給されて保水部材18間や保水部材18の多孔部内を上昇する。
【0041】
このため、嫌気性処理水22と空気26とは気液接触する。そうすると、嫌気性処理水22中の溶存メタンの濃度は、空気26中のメタンの濃度よりも高いため、液相である嫌気性処理水22中の溶存メタンは、実施の形態の第一例で説明したように、気相である空気26中へ物理的作用である物質移動作用により移動し、空気26中のメタン濃度が高まることで嫌気性処理水22中の溶存メタンはガスとして空気26中に回収される。空気26中に回収されたメタンは空気26に同伴され、メタン回収ガス28は容器20内を上昇し、メタンガス回収管路27から後段に送給される。
【0042】
又、嫌気性処理水22を上方から下方へ向けて流下させ、空気26を下方から上方へ向けて流すことにより、嫌気性処理水22と空気26との接触効率が向上し、その結果、メタン回収速度が速まり、しかも空気26が上昇するにつれて徐々に空気26中のメタン濃度は高くなる。このため、容器20の下部では空気26中のメタン濃度は低い状態となる。
【0043】
保水部材18を流下して溶存メタンを回収された嫌気性処理水30は容器20下部の排水管路29から排出される。而して、本図示例においても、前記第一例と同様の効果を奏することができる。
【0044】
図6、図7は本発明を実施する形態の第三例で、基本的構成は図4、図5に示す第二例と似ているが、異なるところは、保水部材が中空円筒状で、容器が矩形状である点である。
【0045】
而して、本図示例においては、図7に示すように、保水部材31として、軸心Lに対して直行する方向の断面形状が中心部を軸心方向にくり抜かれた円筒状の短柱体である中空円筒状多孔質性スポンジを使用するようにしている。保水部材31は図示してないが樹脂等により形成した細い骨組みの補強部材により外周表面を補強されている。31aは保水部材31の中空孔である。
【0046】
有底矩形筒状の容器32には、無底無蓋の網目状で且つ矩形筒状の複数の容器33が多段に収納され、容器33内には図7に示す形状の多数の保水部材31が収納されている。容器32内の保水部材31の向きは任意となる。図6中、図4に示す符号と同一の符号のものは同一のものを示す。
【0047】
保水部材31の空隙率、比表面積、材質は前記実施の形態の第二例の保水部材18と同様にする。又、保水部材31は図示例の形状の他に、軸心Lに対して直交する方向の断面形状を中心部においてくり抜き、図7のように貫通形状に形成された中空矩形状の短柱状や、断面形状が中空三角形状の短柱状、等任意の中空断面形状とすることができるが、強度を高めるためには、断面形状を図示例のような中空短円柱状とすると良い。更に、これらの保水部材も、強度を高めるため、図示してないが樹脂等により形成した細い骨組みの補強部材により外周表面を補強することが好ましい。
【0048】
本図示例においても、嫌気性処理水供給管路23から供給された嫌気性処理水22は、旋回している嫌気性処理水散水装置24により容器33内の保水部材31に散布され、散布された嫌気性処理水22は、保水部材31の外周面及び中空孔31a内周面に沿い流下すると共に、保水部材31内の連続する気泡である個々の多孔部内を均一に充たした状態で、短絡することなく流下する。又、給気管路25から送給された空気26は容器32から網状の容器33内に供給されて容器32内を上昇する。
【0049】
このため、実施の形態の第一例、第二例と同様、気相である空気7と嫌気性処理水22が気液接触する。その結果、物理的作用による物質移動作用により嫌気性処理水22中の溶存メタンは空気26中に回収され、空気26に同伴されて上昇し、メタン濃度が濃くなったメタン回収ガス28はメタンガス回収管路27から後段に送給される。
【0050】
保水部材31を流下して溶存メタンを回収された嫌気性処理水30は容器20下部の排水管路29から排出される。
【0051】
而して、本図示例においても、前記第二例と同様の作用効果を奏することができる。
【0052】
[実験例]
本発明者は、本発明の作用効果を確認するために、図1に類似した図8に示す装置を用い実験を行なった。
図中、41は有底有蓋の容器、42は容器41内に収納された溶存メタン回収ユニットにおける多孔質の保水部材である。保水部材42は図2、図3に示す溶存メタン回収ユニット4の保水部材14と略同一の構成のものを使用しており、塩化ビニル板に固設した保水部材42の多孔質棒状体43は鉛直方向へ段状に配置されており、保水部材42の上下の多孔質棒状体43は導液性のシートと一体的に接続されている。
【0053】
又、容器41の内側面に取り付けられる保水部材42の多孔質棒状体43の頂部は半円球状であるが、容器41内側面から離反した位置に配置される保水部材42の多孔質棒状体43は、対向する多孔質棒状体43の二等辺三角形状の底辺が水平対向されてそろばん玉形状に配置されている。多孔質棒状体43の材質はポリウレタンスポンジである。
【0054】
又、図8中、44は容器41の上側部から容器41内に旋回可能に設置されたスプリンクラのような嫌気性処理水散水装置45に嫌気性処理水46を供給する嫌気性処理水供給管路、47は容器41の下端部近傍に接続されて送風機48により空気49を容器41内に供給するようにした給気管路、50は容器41の上端部近傍に接続されてメタン回収ガス51を回収するメタンガス回収管路、52は外気が容器41へ流入するのを阻止する水封装置、53は容器41の下端部近傍に給気管路47と180度位相を異ならしめ且つ給気管路47よりも下方に位置するよう接続されて処理水54が排出されるようにした排水管路、55は排水管路53の中途部に設けられたU字管、56は容器41の底部に形成されて容器41から排水管路53を介しガスが外部へ漏洩したり外気が容器41内へ侵入するのを防止するための水封槽である。
【0055】
容器41は内辺20cm×20cm、塔高さ2.0mの角柱形で、容量約80lであり、多孔質棒状体43の二等辺三角形は、三辺が3.0cm×3.0cm×4.2cmであり、保水部材42は紙面に平行な方向において10列、多孔質棒状体43は鉛直方向へ46列配置した構成としている。
【0056】
上記装置での実験は以下のように行った。すなわち、嫌気性処理水供給管路44を通り供給された嫌気性処理水46を、旋回する嫌気性処理水散水装置45から溶存メタン回収ユニットの保水部材42に散水し、保水部材42の表面及び保水部材42の多孔部を通り流下する嫌気性処理水46に送風機48により給気管路47を通り容器41内に供給された空気49を接触させて、物質移動作用により、嫌気性処理水46中の溶存メタンをガスとして空気49へ移動させ、メタンを含有したメタン回収ガス51を容器41内に上昇させ、メタン回収管路50から水封装置52を介して後段に送給した。この際、溶存メタンを回収された処理水54は排水管路53から後段へ送給された。
【0057】
嫌気性処理水46の散水量は420l/dayとし、回収装置は温度制御は行なわず、常温条件下(10〜25℃)で運転した。又、給気管路47から容器41内へ供給される空気49の量は、運転開始後51日までの期間は、およそ73NL/dayであった。
【0058】
この実験における溶存メタン回収後の嫌気性処理水46及び処理水54に含まれる溶存メタン濃度の経日変化を図示すると、図9のようなグラフが得られた。
【0059】
この実験において運転開始後51日までは、嫌気性処理水46に含まれる溶存メタン濃度はおよそ22.7mgCH−COD/Lであり、処理水54に含まれる溶存メタン濃度はおよそ1.0mgCH−COD/Lであった。
【0060】
又、運転開始後52日目以降は、メタン回収ガス51中のメタン濃度を高めるために、容器41内へ供給される空気49の量はおよそ36NL/dayと減少させた。而して、運転開始後52日以降は、嫌気性処理水46に含まれる溶存メタン濃度は、およそ52.0mgCH−COD/Lであり、処理水54に含まれる溶存メタン濃度はおよそ11.3mgCH−COD/Lであった。
【0061】
又、図9で得られた嫌気性処理水46中の溶存メタンの濃度と、処理水54中に残存する溶存メタンの濃度から実験装置の溶存メタン回収率の経日変化を求めると、図10のようなグラフが得られた。運転開始後51日までの実験装置による溶存メタン回収率は、およそ96%であり、運転開始後52日以降は、おおよそ78%であった。
【0062】
又、メタン回収管路50から排出されたメタン回収ガス51のメタンガス濃度の経日変化を測定すると、図11のグラフが得られた。運転開始後51日までの実験装置におけるメタン回収ガス51のメタンガス濃度は、およそ4.0%であり、運転開始後52日以降は、おおよそ21.3%であった。
【0063】
図8に示す実験装置の運転の継続に伴って、保水部材42への生物膜の付着及び成長が見られたが、保水部材42の保水性は保たれ、又、溶存メタンの回収効率への影響は見られなかった。
【0064】
なお、本発明の実施の形態においては、容器2,20,32,41には、空気7,26,49を供給する場合について説明したが、窒素ガスのような空気以外のガスを供給するようにしても実施可能なこと、本発明において処理の対象となる排水は、溶存メタンを含む嫌気性処理水であるが、溶存メタン含有排水なら嫌気性処理水に限らず、全ての排水に適用できること、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の溶存メタン回収方法及び装置に適用する本発明の溶存メタン回収装置の実施の形態の第一例の斜視図である。
【図2】図1の装置に適用する溶存メタン回収ユニットの斜視図である。
【図3】図2のIII−III方向矢視図である。
【図4】本発明の溶存メタン回収方法及び装置に適用する本発明の溶存メタン回収装置の実施の形態の第二例の斜視図である。
【図5】図4の装置に適用する保水部材の斜視図である。
【図6】本発明の溶存メタン回収方法及び装置に適用する本発明の溶存メタン回収装置の実施の形態の第三例の斜視図である。
【図7】図6の装置に適用する保水部材の斜視図である。
【図8】実験に適用した溶存メタン回収装置の縦断面図である。
【図9】嫌気性処理水と溶存メタンを回収した処理水について、縦軸に溶存メタン濃度を採り、横軸に経過時間を採って示すグラフである。
【図10】図9に示すグラフの基となったデータから実験装置の溶存メタン回収率を求めたグラフで、縦軸に溶存メタン回収率を採り、横軸に経過時間を採って示すグラフである。
【図11】図8に示す実験装置において、縦軸にメタン回収ガス中のメタンガス濃度を採り、横軸に経過時間を採って示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1 溶存メタン回収装置
2 容器
3 嫌気性処理水供給装置(溶存メタン含有排水供給手段)
5 嫌気性処理水(溶存メタン含有排水)
7 空気
8 給気管路(ガス供給手段)
10 メタンガス回収管路(メタンガス回収手段)
14 保水部材
18 保水部材
20 容器
22 嫌気性処理水(溶存メタン含有排水)
24 嫌気性処理水散水装置(溶存メタン含有排水供給手段)
25 給気管路(ガス供給手段)
26 空気
27 メタンガス回収管路(メタンガス回収手段)
31 保水部材
32 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相中に配置した多孔質性の保水部材の上部から溶存メタン含有排水を供給して気液接触させ、該溶存メタン含有排水から気相への物質移動作用により前記溶存メタン含有排水に含まれる溶存メタンをガス化して回収することを特徴とする溶存メタン回収方法。
【請求項2】
溶存メタン含有排水を保水部材の上部から流下或は散水する請求項1に記載の溶存メタン回収方法。
【請求項3】
保水部材の下部或は保水部材を収納した容器の下部から保水部材に向けて空気或は不活性ガス若しくは炭酸ガス、又はこれらのガスのうち所定のガスの混合ガスを供給する請求項1又は2に記載の溶存メタン回収方法。
【請求項4】
多孔質性の保水部材と、該保水部材に上部から溶存メタン含有排水を供給する溶存メタン含有排水供給手段と、溶存メタン含有排水と気相とが接触して溶存メタン含有排水中の溶存メタンがガス化して生じたメタンガスを回収するメタンガス回収手段とを設けたことを特徴とする溶存メタン回収装置。
【請求項5】
保水部材の下部から保水部材に向けて空気或は不活性ガス若しくは炭酸ガス、又はこれらのガスのうち所定のガスの混合ガスを供給するガス供給手段を設けた請求項4に記載の溶存メタン回収装置。
【請求項6】
保水部材は容器内に収納されている請求項5に記載の溶存メタン回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−168264(P2008−168264A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5968(P2007−5968)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(504389544)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(501273886)独立行政法人国立環境研究所 (30)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】