説明

溶射皮膜の封孔処理方法と装置

【目的】 円筒状基材上の溶射皮膜層に、均一な封孔剤の被覆層を自動的に形成するための手段の提供。
【構成】 溶射皮膜を有する円筒状基材両端を回転可能に支持する支持機構と、同支持機構に支持された円筒状基材に対して昇降自在に設けられた封孔剤浸漬用パンと、前記基材の長さ軸に対して平行に移動可能に設けた封孔剤吹付けガンと、同じく前記基材の長さ軸に対して平行に且つ前記基材を挿通して移動可能に設けた基材を挿通する透孔を有し、この透孔の内周面に沿って弾性材を取り付けた板材から形成した掃き取り具を設けた装置を利用して、溶射皮膜を有する円筒状基体をゆっくり回転しながら封孔剤浴中に浸漬したのち、弾性材からなる掃き取り具に前記円筒状基体を挿通して溶射皮膜表面に偏在する封孔剤を掃き取り、さらに、前記円筒状基体を早めに回転しながら同表面に封孔剤を均一に吹付ける各工程を連続的に行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の技術分野】本発明は、例えば印刷用ローラのように、円筒状の基材表面に形成した溶射皮膜に封孔処理を施す方法と装置に関する。
【0002】
【従来の技術】溶射皮膜への封孔剤塗布は、■封孔剤浴中への基材の浸漬、■スプレー、■ハケ塗り等の方法がある。ところが、印刷用ローラのような円筒状基材表面に封孔剤を塗布する場合、■の浸漬法においては、浴中から基材を引き上げた段階で封孔剤が下部に垂れ、封孔剤塗膜厚みが上下で大きくばらつく。また、この垂れ部分をヘラ等で掻き取ると、塗膜厚みムラができ、さらに乾燥・焼成した後、気孔内に残存する封孔剤が焼減り(封孔剤中の固形物は20〜30%のため、水、溶剤が蒸発した後の体積は20〜30%になる)するため、気孔を封孔剤で完全に埋めきれない。また、■のスプレー法、■のハケ塗り法は、ローラ表面には封孔剤塗膜を形成できるが、微細気孔の深部まで封孔剤が含浸されにくいという問題がある。
【0003】これら何れの方法も、封孔処理後、研磨仕上げしたローラ表面の粗度が上がらず、Rmax0.3μmレベルの鏡面仕上げが難しい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】印刷機給水用ローラのような、ローラ表面粗度Rmax0.3μmレベルの鏡面仕上げを行い、また、溶射皮膜の微小な開放気孔から腐食性液が浸透して鉄母材界面を腐食させることによるトラブルを皆無にするためには、■気孔の深部まで封孔剤を充分に含浸させること、■封孔剤液垂れ等による塗膜厚みムラがないこと、■乾燥・焼成による封孔剤の焼減りで気孔内を充分に埋めきれない部分が生じることがないこと、の三つの条件を満たすことが極めて重要である。
【0005】本発明の目的は、円筒状基材上に形成された溶射皮膜に前記三つの条件を完全に満たした均一な封孔剤皮膜を高効率で形成することができる手段を確立することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係る円筒状基材表面の溶射皮膜の封孔処理方法は、溶射皮膜を有する円筒状基材を一定速度で回転しながら封孔剤浴中に浸漬したのち、弾性材からなる掃き取り具に前記円筒状基材を挿通して溶射皮膜表面に偏在する封孔剤を掃き取り、さらに、前記円筒状基材を回転しながら同表面に封孔剤を均一に吹付ける各工程を連続的に行うことを特徴とする。
【0007】かかる方法を実施するための装置として、溶射皮膜を有する円筒状基材両端を回転可能に支持する支持機構と、同支持機構に支持された円筒状基材に対して昇降自在に設けられた封孔剤浸漬用パンと、前記基材の長さ軸に対して平行に且つ前記基材を挿通して移動可能に設けた掃き取り具と、同じく前記基材の長さ軸に対して平行に移動可能に設けた封孔剤吹付けガンとを有する装置を利用することによって好適に実施できる。
【0008】さらに、この掃き取り具としては、基材を挿通する透孔を有し、この透孔の内周面に沿って弾性材を取り付けた板材から形成したものが、取扱い上も効果の面からもきわめて都合がよい。
【0009】
【作用】円筒状基材を回転しながら封孔剤中に浸漬することによって充分な含浸層を形成し、表面を一様に掻き去ることによって表面に余分に付着した封孔剤を一旦基材表面から掃き去り、その後、表面状態の形成は少なめに封孔剤をスプレーすることによって優れた封孔処理後の表面状態を得ることができる。
【0010】このように、溶射皮膜への封孔と表面状態の形成の工程を表面掃き取りによって分離したもので、しかも、これらを連続的に行うことによって、封孔剤の流動性が充分に維持された状態で全工程が終了するために優れた表面状態を得ると共に、作業効率が改善される。
【0011】
【実施例】本発明の実施例として、本発明方法を表面にセラミックスの溶射皮膜を有する印刷用ローラの封孔に使用した例を示す。
【0012】図1は本発明の方法を実施するための装置を正面から見た図であり、封孔処理を行うべきローラRを取り付け、浸漬させた状態で示す。図2はその側面図である。
【0013】図1において、1は底面にキャスター2とレベル調整アジャスター3とを有する機枠であって、同機枠1の上面には摺動可能な芯押し台4と芯付回転装置5とが設けられており、その間に封孔処理をすべき表面にセラミックス溶射皮膜を有する印刷用ローラRが取り付けられ、機枠1の下部に設けられた変速機能を有するローラ回転モータ6の回転を伝達するベルト7によって回転する。なお、図中41は芯押し台4の摺動レールである。8は封孔剤を収納した浸漬用パンであって機枠1に取り付けられた昇降用モータ9に取り付けられた昇降台10に載置されている。なお、昇降台10に立設した浸漬用パン8を支持する支柱101の内、芯押し台4側の支柱101は摺動可能としている。91はスクリュー軸である。11は封孔剤掃き取り具を示し、機枠1の後部の上下に取り付けられたガイド枠12に走行具13を介して支持され、ローラRを挿通した状態で横行する。前記封孔剤掃き取り具11はその中央部にローラRよりも大きい径の透孔が形成され、その内周にゴム材14がローラRよりも若干小さい径の透孔が形成できるよう取り付けられ、外方に突き出した操作レバー15を持ってローラRの長さ方向に移動させることによって、ローラR表面に付着した封孔剤を一様に掻き取る。16は封孔剤掃き取り具11によって表面に付着した余分の封孔剤を掃き取り除去したのち、表面に封孔剤を一様に吹付けるための吹付装置を示す。図2に示すように、封孔剤を収納した容器17とスプレーノズル18とこのスプレーノズル18の吹付けレバーを遠隔操作で引くためのエアシリンダー19からなる。この吹付装置16は、機枠1上面に配置されたガイドレール20上を吹付装置移動用モータ21を作動させることによって、自動的に任意の速度で印刷用ローラRに沿って横行可能に取り付けられる構造になっている。図中160はエアホース等を収めたケーブルベア、161は駆動ベルト、162は伝達ベルトである。
【0014】このような構造を有する封孔処理装置は以下の要領で操作される。まず、溶射皮膜形成後、Rmax0.8μm程度まで表面研磨後、洗浄乾燥されたローラRを芯押し台4と芯付回転装置5の両芯によって支持し、ローラ回転モータ6を駆動して所定速度でゆっくりローラRを回転する。次いで、機枠1に取り付けられた昇降用モータ9を駆動して昇降台10に載置されている浸漬用パン8中にローラRの表面を浸漬して封孔剤を溶射皮膜表面から溶射皮膜中に存在する微小孔に含浸させる。浸漬後、昇降用モータ9を駆動して浸漬用パン8を下降せしめると共にローラRの回転を停止して、一端部に予め挿通配置した掃き取り具11の操作レバー15を持ってローラR端部から他方の端部まで移動させると、ローラR表面に付着した封孔剤は一様に掃き取られて、掃き取った封孔剤は浸漬用パン8中に落下する。次いで、ローラRを早めに回転させ、封孔剤吹付装置16を作動させてローラRの表面に沿って一端から他端まで移動させローラR表面に封孔剤の均一な被覆層を形成する。これによって、溶射皮膜を完全に封孔し、しかも表面に一様な封孔剤の膜を形成した製品が得られる。
【0015】
【発明の効果】本発明によって以下の効果を奏する。
(1)溶射皮膜上に均一かつ薄い封孔剤被覆層を機械的に形成できて、タレやダレ現象を防ぐことができる。
(2)封孔剤の消費を最小にすることができる。
(3)処理機械としても比較的単純な構造とすることができるので、保守が簡単になる。
(4)溶射皮膜中に存在する微小孔に充分な量の封孔剤を含浸させることができる。
(5)機械的に封孔処理を行うものであるから、作業能率が高く、短い時間内に作業を行なえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例に係る封孔処理装置を正面から見た図である。
【図2】 図1の封孔処理装置を側面から見た図である。
【符号の説明】
R 印刷用ローラ 1 機枠 2 キャスター
3 レベル調整アジャスター 4 芯押し台 5 芯付回転装置
6 ローラ回転モータ 7 ベルト 8 浸漬用パン
9 昇降用モータ 10 昇降台 11 封孔剤掃き取り具
12 ガイド枠 13 走行具 14 ゴム材
15 操作レバー 16 吹付装置 17 容器
18 スプレーノズル 19 エアシリンダー 20 ガイドレール
21 吹付装置移動用モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶射皮膜を有する円筒状基材を一定速度で回転しながら封孔剤浴中に浸漬したのち、弾性材からなる掃き取り具に前記円筒状基材を挿通して溶射皮膜表面に偏在する封孔剤を掃き取り、さらに、前記円筒状基材を回転しながら同表面に封孔剤を均一に吹付ける溶射皮膜の封孔処理方法。
【請求項2】 溶射皮膜を有する円筒状基材両端を回転可能に支持する支持機構と、同支持機構に支持された円筒状基材に対して昇降自在に設けられた封孔剤浸漬用パンと、前記基材の長さ軸に対して平行に且つ前記基材を挿通して移動可能に設けた掃き取り具と、同じく前記基材の長さ軸に対して平行に移動可能に設けた封孔剤吹付けガンとを有する溶射皮膜の封孔処理装置。
【請求項3】 請求項2の記載において、掃き取り具が基材を挿通する透孔を有し、この透孔の内周面に沿って弾性材を取り付けた板材からなる溶射皮膜の封孔処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平6−57398
【公開日】平成6年(1994)3月1日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−214401
【出願日】平成4年(1992)8月11日
【出願人】(000159618)吉川工業株式会社 (60)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)