説明

溶接台車

【課題】 従来の溶接台車の問題点を解決したものであり、受光側に指向性を持たせた光センサーを使用して離れた位置から非接触で、対象とする溶接台車の溶接を停止する、また、走行速度を制御する機能を備えた溶接台車を得る。
【解決手段】 溶接台車100であって、台車本体1あるいは台車本体1上に設けた制御箱8に開口部を設け、該開口部に面して光センサーの受光器を設置し、受光器からの遮断信号により溶接電源300を遮断する手段を備え、また、受光器からの速度調整信号により溶接台車100の走行速度を調整する手段を備えると共に、台車と離れた位置から開口部を通して光センサーの受光器に遮断用光信号と調整用光信号を投光する投光器14を備えた。また、開口からの距離を調節移動可能にして光センサーの受光器を配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接台車に関するものであり、特に、リモートコントロールにより離れた位置から非接触で溶接動作、走行動作を制御することができる溶接台車に係わる。
【背景技術】
【0002】
船舶やその他構造物の建造において、高速で移動し、高い溶接能率が得られる簡易自動隅肉溶接機など溶接台車が使用されている。この溶接台車は自動走行する台車本体上に、台車本体の幅方向と直角方向にスライドするスライダーを備えており、該スライダーに上下方向に回動可能にトーチホルダーが取り付けられ、該トーチホルダーに溶接トーチが保持される構成になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような構成であるから、スライダーの位置およびトーチホルダーの角度を調整して溶接トーチを最適な姿勢に保持させ、台車本体の走行により連続して隅肉溶接が施工可能である。
また、溶接現場では一人の作業者が同時に、間隔を空けてセットされた複数台の溶接台車を扱うことも頻繁に行われているが、この場合作業者は、溶接台車の誤動作での停止による過剰溶接や、外部条件により生ずる走行速度の微妙な変化による脚長不足、脚長過大など溶接不良がないか細心の注意を払って監視している。
【0004】
何らかの事由により台車本体が走行せず、同じ位置に止まったまま溶接を続けると過剰溶接が生じるが、この過剰溶接は溶材資源の無駄遣いになるし、過剰溶接部分を手作業で修復しなければならず、余分な修復工程が生じる。また、熱負荷が残存し、製品の品質が低下することもある。さらに、余分な溶接ヒュームが発生し、環境汚染に繋がることにもなる。
このため、過剰溶接が生じると、その溶接台車については即座に溶接を停止させなければならない。
【0005】
また、走行負荷などにより溶接台車の走行速度が変化した場合、溶接は一定出力で行っているため、走行速度が速くなると溶接脚長が細くなり、走行速度が遅くなると溶接脚長が太くなって、何れも溶接不良状態が生じるので、正常の溶接脚長が得られるよう所定の走行速度に戻さなければならない。
【0006】
溶接台車には制御箱が設置されていて、その制御箱に押しボタン式の溶接停止ボタンが設けられているので、過剰溶接が生じた溶接台車を停止させるためには、その溶接台車の位置まで行って、溶接停止ボタンを押して溶接を停止させているのが現状である。
また、前記制御箱には溶接台車の走行速度を調整するための速度調整ツマミが設けられており、溶接台車の走行速度が変化した場合は正常の溶接脚長にするために、溶接停止の動作と同様に溶接台車の位置まで行って、制御箱に設けられている速度調整ツマミを回して溶接台車の走行速度を調整している。
【0007】
これらの作業は、強いアークの光を浴びながら、遮光フードマスクを付けての手探り状態での作業であるし、停止ボタンや調整ツマミは溶接トーチの下方に配された制御箱上に設けられており、非常に狭いところでの作業であり、また、アークが出ている状態の溶接トーチと至近距離での作業であって危険を伴うものであった。
【0008】
【特許文献1】特開2001−212670号公報(第2頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のごとき問題点を解決したもので、受光器に指向性を持たせた光センサーを使用して離れた位置から非接触で、対象とする溶接台車の溶接を停止する、また、走行速度を制御する機能を備えた溶接台車を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
溶接台車であって、台車本体あるいは台車本体上に設置された制御箱に開口部を設け、該開口部に面して光センサーの受光器を設置し、該光センサーの受光器からの遮断信号により溶接電源を遮断する手段を備えると共に、台車本体あるいは台車本体上に設置された制御箱に設けられた開口部を通して光センサーの受光器に遮断用光信号を投光する投光器を備えた。
【0011】
また、光センサーの受光器からの調整信号により台車本体の走行速度を調整する手段を設けると共に、光センサーの受光器に調整用光信号を投光する投光器を備えた。光センサーの受光器を調節移動可能に設置したこと、開口部に光を透過する窓を有するカバーを蓋被したこと、開口部に絞り機能を備えたことも特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
光センサーにより非接触で、対象溶接台車の溶接を制御できるようにしたので、過剰溶接が生じたとき、作業者は離れた位置から、過剰溶接を生じている溶接台車に遮断用光信号を投光して溶接を停止することができる。また、脚長不足や脚長過大などの溶接不良が生じた場合にも、調整用光信号を投光して、非接触で、正常な脚長を得るよう溶接台車の走行速度を制御できる。光センサーの受光器に指向性を持たせたので、複数の溶接台車を扱っているときでも同じ信号を使用して他の溶接台車に対して混信することなく、当該溶接台車の溶接を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図示した本発明の最良の形態について説明する。図1は本発明による溶接台車と溶接電源の概要を示す図である。図2は制御箱内の平面図、図3は制御箱内の正面図、図4は制御箱の側面図である。図5は制御箱の開口カバーの正面図、図6は光センサーの受光領域を示す説明図であり、図7は台車本体の走行制御盤の概略図、図8は投光器の概略図である。
【0014】
先ず、図1に沿って自動隅肉溶接の概要について説明する。溶接台車100は、走行車輪6を有し自動走行する台車本体1と、該台車本体1上に搭載され、台車本体1の幅方向にスライドするスライダー2を備えており、該スライダー2に上下方向に回動可能にトーチホルダー3が取り付けられ、該トーチホルダー3に溶接トーチ4が保持されている。
5はトーチ4に連結されているトーチケーブルであり、7は台車本体1を被溶接材に倣わせるための倣いローラである。
【0015】
トーチケーブル5は心線供給装置200に連結されており、溶材である心線の供給を受けるとともに、該心線供給装置200を介して溶接電源300より溶接電源を、ガスボンベ400より溶接部シールド用の炭酸ガスなどの供給を受けている。
そして、被溶接材a上に載置され、この被溶接材a上に置かれ、仮止めされた被溶接材bに倣い走行しながら、被溶接材aとbの隅部を連続して溶接していく。
【0016】
さて、台車本体1上には制御箱8が設置されており、該制御箱8の側面には開口部9が設けられている。該開口部9にはアクリル樹脂板など光透過性のある窓24を有する開口カバー10が蓋被されていて、開口部9を通して制御箱8内に塵埃が進入するのを防止している。
【0017】
開口部9に面して制御箱8内に光センサーの受光器11が、開口部9からの距離を調節移動可能にして配設されている。例えば、制御箱8内に設置され、複数の取り付け穴を穿孔した取付台12に受光器11がボルト固定されるが、取り付け穴を選択することによって開口部9からの距離を調節できる。
【0018】
また、図5に示すように開口部9の開口カバー10は、窓24の大きさが異なる複数枚のものを準備しておき、開口カバー10を付け替えることによって、開口部9の大きさを変えることができる。
制御箱8内の、受光器11に遮断用光信号が入力され、溶接電源を遮断するための手段であるリレー回路13が制御箱8内に設けられている。該リレー回路13は受光器11からの微弱電流を増幅するコンデンサーや抵抗および当該溶接台車100の溶接電源を遮断するスイッチなどで構成されている。
【0019】
複数台の溶接台車100を扱う作業者が携帯する、受光器11への投光器14(図8参照)は、一つの波長信号を発する赤外線信号を使用している。つまり、複数台の溶接台車100を扱うときに、溶接台車100の機番を選ぶ必要がないように一つの停止ボタン15の操作のみで対応できるようにしている。
【0020】
このため、複数台の溶接台車100に対し赤外線信号が混信しないように、その溶接現場に対応して受光器11の取り付け設定がなされるものである。例えば、複数台の溶接台車100の配置間隔に応じて受光器11の取り付け位置が設定される。
【0021】
図6は受光器11の受光領域を示しているが、少なくとも所定の受光器11Aに向けて投光した赤外線を、隣りの受光器11Bが受光しないように配置されなければならない。このため、開口部9からの距離Lを調整し、受光器11の取付台12へのボルト固定位置を決める。
なお、取付台12に穿孔する複数の取り付け穴に代えて長穴を設けておいてもよい。また、ガイドレールを備えた取付台12を設け、受光器11をガイドレールに沿わせて摺動させ、所定のところでクランプして調節移動するようにしてもよい。
【0022】
また、図5(A)、(B)、(C)、(D)に示すように中央に設ける窓24の大きさが異なる開口カバー10を備えておき、開口カバー10を選択使用することによって、開口部9の大きさを変えることにより受光領域を制限することができる。
なお、開口カバー10の窓は丸型円形だけでなく、上下方向に長い長円形としてもよい。この場合、左右方向の受光領域は制限しつつ、上下方向の大きな開口で赤外線を受光できるので、投光器14の狙いが上下方向に少しずれても効果的に受光できる。
【0023】
図7には溶接台車100あるいは制御箱8上に設けられる台車本体1の走行制御盤17を示している。盤面には走行ボタン18と走行停止ボタン19が設けられている。また、台車本体1は溶接条件によって右行(前進)または左行(後進)走行させるので、その切替えスイッチ20が設けられている。
【0024】
制御箱8には、受光器11からの微弱電流を増幅するコンデンサーや抵抗および当該台車本体1の走行モータへの供給電流を調整するシーケンスなどで構成された台車本体1の走行速度を調整する手段(図示せず)が設けられていて、受光器11からの調整信号を受けて台車本体1の走行速度が制御される。
【0025】
また、走行制御盤17には走行速度調整手段を手動で調整するための速度調整ツマミであるロータリースイッチ21が設けられていて、手動でも調整可能である。
投光器14には調整用光信号を投光するための速度調整ボタン16が設けられている。該速度調整ボタン16からは走行速度を上げる信号と走行速度を下げる信号が発せられるが、この速度調整用光信号は、例えば、プラス側とマイナス側とに整形したデジタル信号を赤外線搬送波に乗せて投光される。
【0026】
走行制御盤17の盤面上、ロータリースイッチ21の周囲には発光ダイオード22が配置されていて、前記した速度調整ボタン16から速度調整用光信号を発するごとにプラス側あるいはマイナス側に発光させて走行速度の調整状態を認識できるようになっている。さらに、走行制御盤17の盤面上には発光ダイオード23が設けられており、その時点での走行速度をゾーン的(低速、中速、高速)に示すようになっている。
【0027】
なお、発光ダイオード22の代わりにデジタル数値表示器を使うことはできるし、また、ロータリースイッチ21の代わりに可変抵抗器を使用し、A−D変換器を備えて抵抗値をA−D変換して制御する速度調整手段とすることもできる。
【0028】
上記実施の形態においては、台車本体1上に設けた制御箱8に開口部9を設けた構成を説明したが、台車本体1内に制御機器をそのまま配置する場合もある。このときは、台車本体1の側面に開口部9を設け、台車本体1内に受光器11およびリレー回路13を設置する。なお、制御箱8には台車本体1の走行速度を調整する手段の機器も収容されているが、図示省略してある。
【0029】
また、台車本体1あるいは台車本体1上に設置された制御箱8の側面に開口部9を設け、該開口部9に面して受光器11を配置するようにしたが、台車本体1あるいは制御箱8の後面(台車1の走行方向に対して)に開口部9を設け、この開口部9に面して受光器11を設けることも可能である。
さらに、開口部9の大きさを変えるため異なる大きさの窓24を有するカバー10を使用したが、開口部9を部分的に塞ぐ板片を止めつけて絞ってもよいし、あるいは、開口部9の輪郭に添って複数枚の板片を重ね合せて回動可能に設け、例えば、カメラのシャッターのようにして開口部9の面積を変えるようにしてもよい。この場合開口部9には、埃の侵入を防止するため、例えば、アクリル板などのカバーを付けておくことがよい。
【0030】
本発明では、光センサーの受光器11に指向性を持たせている。したがって、連続溶接中に過剰溶接を発見した場合は、作業者は当該溶接台車100のおおよその側方あるいは後方からその溶接台車100の開口部9に向けて投光器14の停止ボタン15を押して遮断用光信号を投光して溶接を停止させることになる。また、脚長不足や脚長過大などによる溶接不良状態を発見した場合は、作業者はその溶接台車100の開口部9に向けて投光機14の速度調整ボタン16を押して調整用光信号を投光して台車本体1の走行速度を調整することになる。
【0031】
台車本体1の走行速度の表示は、例えば、速度を上げる側あるいは速度を下げる側に速度調整ボタン16を押すたびに、発光ダイオード22が順次右回りあるいは左回りに点灯して調整状況が認識される。また、速度調整ボタン16を、例えば、1秒以上押し続けると、一定の速度で発光ダイオード22が順次継続して点灯していくようになっており、急激に速度を上げたり、下げたりするときに便利である。さらに、発光ダイオード23は現在の台車本体1の走行速度のゾーン(低速、中速、高速)を示すように点灯する。
【0032】
そして、当該溶接台車100の過剰溶接の原因を取り除いたあとは、リセットして電源を投入し連続溶接を再開させる。また、速度調整を行い正常の溶接脚長が得られるようになったら、その速度を維持して溶接を継続させる。
【0033】
このように、過剰溶接が生じたときは、光センサーの受光器11により離れた位置から非接触で、当該溶接台車100の溶接を停止でき、また、脚長不足や脚長過大による溶接不良状態が生じたときも、光センサーの受光器11により離れた位置から非接触で、当該台車本体1の走行速度を調整でき、これらの作業を安全な状態で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による溶接台車と溶接電源の概要を示す図。
【図2】制御箱内の平面図。
【図3】制御箱内の正面図。
【図4】制御箱の側面図。
【図5】制御箱の開口カバーの正面図。
【図6】光センサーの受光領域を示す説明図。
【図7】台車本体の走行制御盤の概略図。
【図8】投光器の概略図。
【符号の説明】
【0035】
1 台車本体 2 スライダー
3 トーチホルダー 4 溶接トーチ
5 トーチケーブル 6 走行車輪
7 倣いローラ 8 制御箱
9 開口部 10 開口カバー
11 受光器 12 取付台
13 リレー回路 14 投光器
15 停止ボタン 16 速度調整ボタン
17 走行制御盤 18 走行ボタン
19 走行停止ボタン 20 切替えスイッチ
21 速度調整ツマミ 22 発光ダイオード
23 発光ダイオード 24 窓
100 溶接台車 200 心線供給装置
300 溶接電源 400 ガスボンベ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車本体あるいは台車本体上に設置された制御箱に開口部を設け、該開口部に面して光センサーの受光器を設置し、該光センサーの受光器からの遮断信号により溶接電源を遮断する手段を備えると共に、前記開口部を通して光センサーの受光器に遮断用光信号を投光する投光器を備えたことを特徴とする溶接台車。
【請求項2】
台車本体あるいは台車本体上に設置された制御箱に開口部を設け、該開口部に面して光センサーの受光器を設置し、該光センサーの受光器からの調整信号により台車本体の走行速度を調整する手段を備えると共に、前記開口部を通して光センサーの受光器に調整用光信号を投光する投光器を備えたことを特徴とする溶接台車。
【請求項3】
開口部に光を透過する窓を有するカバーを蓋被したことを特徴とする請求項1、請求項2記載の溶接台車。
【請求項4】
光センサーの受光器が、開口部からの距離を調節移動可能にして配設されていることを特徴とする請求項1、請求項2記載の溶接台車。
【請求項5】
取付台に複数個の取り付け穴もしくは長穴を設けて光センサーの受光器を取り付けるようにしたことを特徴とする請求項4記載の溶接台車。
【請求項6】
開口部に絞り機能を備えたことを特徴とする請求項1、請求項2記載の溶接台車。
【請求項7】
異なる大きさの窓を有する開口カバーを付け替えて、開口部の大きさを変えられるようにしたことを特徴とする請求項6記載の溶接台車。
【請求項8】
光センサーに赤外線センサーを使用したことを特徴とする請求項1〜7記載の溶接台車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−275975(P2007−275975A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108750(P2006−108750)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)
【出願人】(000185374)小池酸素工業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】