説明

溶接技量評価装置及び溶接部品質評価装置

【課題】溶融池を画像として目視しながらの溶接訓練により、溶融池の詳細な知見を得ることができ、より短時間での溶接技量向上を可能とした溶接技量評価装置や、溶接部の品質(溶接途上完全溶け込みと不完全溶け込み)を溶接途上リアルタイムに検知しながらの溶接作業を可能とした溶接部品質評価装置を提供すること。
【解決手段】トーチ挙動と溶融池表面挙動を観察する溶融池観察カメラ、前記溶融池観察カメラと一体で移動する溶融池裏側の溶融状態を計測する裏波観察カメラ、溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラ、溶接者の姿勢を撮影する全体挙動撮影カメラ、これら4台のカメラにより撮像された画像を、溶接電流・電圧信号とともに表示するモニター、4台のカメラにより撮像された画像情報を、溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに記憶・解析する記憶装置、及び、前記4台のカメラにより撮像された画像のいずれかを表示する小型モニターを装着した溶接保護面を装備した溶接技量評価装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融池を画像として目視しながらの溶接訓練により、溶融池の詳細な知見を得ることができ、より短時間での溶接技量向上を可能とした溶接技量評価装置や、溶接部の品質(溶接途上完全溶け込みと不完全溶け込み)を溶接途上リアルタイムに検知しながらの溶接作業を可能とした溶接部品質評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手溶接支援装置としては、手溶接施工が行われる際にその溶接対象を含む溶接環境およびその溶接施工作業中の溶接士の挙動に関するデータを計測する溶接士動作計測装置および溶接環境計測装置と、これらの計測データから溶接施工中の溶接状態の特徴量を抽出する演算処理装置と、これにより抽出された特徴量に基づいて手溶接状態の良否を判定する溶接状態判定装置と、ここでの判定結果を含む溶接状態の推移に関する情報を溶接施工中の溶接士に認知可能に提示する溶接状態提示装置とを備える手溶接支援装置(特許文献1)や、溶接対象となる2つの母材のギャップ溶接やインサートリング溶接時の裏波溶接を支援する溶接作業支援装置において、溶接トーチに取付けたCCDカメラなどの視覚センサと、この視覚センサにより撮像された画像情報を処理して溶融池状態を計測し、その結果を過去のデータと比較して裏波状態を推定する画像解析手段とを備え、この画像解析手段により推定された裏波情報の推測情報を溶接士へ伝達する溶接支援情報伝達手段からなる溶接作業支援装置(特許文献2)が知られている。
【0003】
また、溶接部品質評価装置としては、溶接中において、その品質を評価する装置であって、加熱により金属が溶融した部分の外側の部分であって、所定の温度まで昇温した熱影響部の分布に基づく情報を取得する手段と、正常な溶接が行われた場合の熱影響部の分布に基づく参照情報を記憶する手段と、前記取得された情報と前記参照情報を比較し、これらの情報が不一致の場合、溶接品質を不良とする手段と、を有する溶接の品質評価装置(特許文献3)や、手溶接作業対象周辺に設置した監視カメラで撮影した溶接施工中の溶融池周辺の画像情報を分析、処理する手溶接作業分析装置において、手溶接トーチに監視カメラを一体接続させる手溶接機一体型撮像装置と、この撮像装置からの画像のデジタル信号を処理、収録する画像データ収録装置と、収録された画像をデータとして情報処理するデータ処理装置と、処理した情報をディスプレイするディスプレイ装置とを備えたことを特徴とする手溶接作業分析装置(特許文献4)や、互いに溶接された被溶接部材の溶接品質を評価する溶接品質評価装置であって、被溶接部材の融点よりも低い所定の温度で軟化または溶融する材料からなり、前記被溶接部材の所定位置に設置される溶接品質評価用要素と、該溶接品質評価用要素の軟化または溶融を検知する検知手段と、該検知手段によって検知された溶接品質評価用要素の設置された位置における軟化または溶融したか否かに基づいて溶接品質を評価する評価手段とを備えたことを特徴とする溶接品質評価装置(特許文献5)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−71140号公報
【特許文献2】特開2006−181578号公報
【特許文献3】特開2003−80394号公報
【特許文献4】特開2006−281270号公報
【特許文献5】特開2009−297748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接部は形状、構造等多種多用である。現在の溶接部検査は非破壊検査(X線検査、超音波検、浸透探傷検査等)と破壊検査があるが共に事後の検査であり充分な検査はできない。ISOにおいても溶接部は事後の検査であり充分な検証はできない特殊工程として定義されている。特に手動溶接においては熟練溶接士の溶接施工品であっても品質に関する確証は得られない。
【0006】
また本発明者らは、裏まで完全に溶け込んでいるか否かを判断する以下の技術的知見を有している。
1)裏まで完全には溶け込んでいない状態(以下不完全溶け込みと称す)では安定な底があり、完全に裏まで抜ける(以下完全溶け込みと称す)と裏面で溶融金属は垂れ下がり(支える力は表面張力のみ)、表面の液位も下がる。
2)溶けた金属部分は内部で流動するとともに、上下の液面振動も存在する。完全溶け込みとその前の不完全溶け込み状態とでは、振動周期と振動高さが異なる。ティグ溶接では電極先端部と液面の高さが変動すると、溶接電圧も変動する(近づくと電圧は短くなり、離れると電圧は高くなる)。このため、電圧信号を解析することにより、溶け込みを判断できる可能性がある。自動溶接機では、電極と溶接材料との距離が常に一定になるため、ある程度の判断は可能であるが、手動溶接では、高さはかなり変動するため、電圧信号のみで判断するのは難しい。特に、非熟練者ではトーチの動きによる電圧変動が高く電圧電流信号のみで判断することは不可能に近い。
3)不完全溶け込みの場合にも、溶接線前方付近の溶融池前面部では溶けた金属の位置は溶接材料表面より若干下側に下がっている場合が多い(ほとんど等しい高さの場合もある)が、完全に溶け込むと溶融金属表面位置が溶接材料表面より多く下がる場合が多い。母材の板の厚さが厚いほどこの違いは大きい。また、溶接材料のアークがあたっている部分も完全に溶け込むと若干低下する。アーク電圧の増加として検知は可能であるが、熟練者の場合には液面の低下にあわせてトーチを下げる場合も多く、電圧信号として完全溶け込みを認識するのは難しい。
4)裏側のシールド状態が悪いと、裏面での酸化反応が活発となり比較的軽いスラグが裏から表面に出てきて、溶融池表面のスラグ(=酸化物、酸化物の種類により異なるが、ステンレスより溶融温度が高いものが多い)が増加することも多い。
【0007】
他方、近年の人口減少、少子高齢化から将来世代への溶接技量伝承が困難になってきている。本発明の課題は、溶融池を画像として目視しながらの溶接訓練により、溶融池の詳細な知見を得ることができ、より短時間での溶接技量向上を可能とした溶接技量評価装置や、溶接部の品質(溶接途上完全溶け込みと不完全溶け込み)を溶接途上リアルタイムに検知しながらの溶接作業を可能とした溶接部品質評価装置を提供することにある。
【0008】
より具体的には、以下の1)〜8)を課題とした。
1)裏面まで確実に溶け込んでいるか否かを溶接施工中に確認できること。
2)30cm程度以上の長さの溶接を、安定に(溶け込み幅一定で、裏面まで確実に溶け込ませ、溶接部の垂れ下がりを極力少なくした状態を保って)溶接できること。具体的には、
3)溶接中に電極先端位置、溶融池(溶接中に金属が溶けている部分)、溶接線(溶接する2枚の部材の継ぎ目線)を確認することができること。
4)電極先端部と溶接する部材との高さ(距離)をほとんど変動させずに、溶接トーチを自由に移動させることができること。
5)アーク開始時のみ、溶接トーチのノズル(セラミックスの絶縁部材)を溶接材料に軽く接触させ、電極と溶接材料とが短絡しない範囲で、距離が1〜2mm程度とできるだけ接近した状態に保ちアークを始動させ、アークが安定した状態を見極め、電極高さが変動しないように保ちながらノズルを溶接材料から浮かして、溶接を安定に行うために最適なノズルの向きに変更できること。
6)最初は溶接する材料の温度が低く、裏まで完全に溶け込ませるのに3〜5秒(板の厚みで異なる)かかるが、この間に溶融池の幅があまり大きくなりすぎないように軽く前後に移動させながらアークを維持し、裏まで完全に溶け込むことが確認できること。
7)溶接開始時点では、溶接する部分は暗闇の中にある状態なので、手探りとなるため、ノズルなどを介して電極と溶接材料との位置を一定に保つのが最も容易であり、アーク開始に最も適した溶接材料への接し方を理解することができること。
8)アークが発生すると溶接部の監視が可能になるため、アークを見ながらトーチの向きや高さの調節ができる。トーチ操作の自由度を高くするためには、ノズルと溶接材料は離れていることが好ましい。ノズルを溶接材料に軽く接触したまま溶接することは可能であるが、溶融池内部の溶融金属の流れ方や状態に応じてトーチの向き(アークの流れる方向)を調節できること。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下の1)〜6)を開発コンセプトとすることとにより溶接技量評価装置を開発した。
1)接トーチに取り付けたカメラ、溶融池裏側(裏波)観察用カメラ、溶融池表側観察用カメラ、及び溶接士姿勢観察用カメラによる4方向からの画像と、更に保護面内に取り付けたモニターに映し出された画像を目視しながらの溶接訓練装置とする。
2)溶融池の状況(画像)と同期した溶接施工品実物の状況を目視比較しながら興味を持ち技量向上に効率的訓練が可能な装置、特に溶接電圧の変動、溶接電流の変動を検知し溶接溶け込み検知のサポート信号とする装置とする。
3)裏波が出た場合の裏波状況、同期した表面状況の知見が得られ、表面画像観察から裏側状況の推測を可能とする訓練装置とする。
4)溶接訓練士の溶接技量を認識しながら改良点を見つけ効率的、短時間での技量向上を可能とする装置とする。
5)溶接熟練士の画像と比較しながら異なる点を見つけ対策を講じ早期の技量向上を可能とする装置、すなわち、溶接訓練士は溶融池表面の状況、裏面の状況、溶接姿勢について熟練溶接士の画像と比較することにより本人の欠点が理解し易く短時間での技量向上を可能とした装置とする。
6)溶接保護面内に設置したモニターで裏波状況を確認しながら表状況を確認し、完全溶け込みを認識しながら溶接施工の訓練を可能とする装置、より具体的には、保護面に設置した小型モニターで溶接裏面に裏波が出ていることを確認しながらその時の表面溶融池状況チェックを可能とし、将来溶融池表面の状況から裏波が出たことの知見取得を可能とした装置とする。
【0010】
また、溶接部の品質評価装置を溶融池表面の画像を溶接途上リアルタイムに取得し、得た画像から品質を評価しながら溶接士へリアルタイムに状況を伝達し、不良が出た場合は警報を発する機能を備えた装置とするため、以下の1)〜6)を開発コンセプトとすることとにより開発した。
1)溶接施工作業終了時には同時に検査終了であり品質良好が確認済となる機能を有する装置とする。
2)溶接トーチに取り付けたカメラで溶接時トーチ先端に形成される金属溶融池画像を取得する装置とする。
3)パソコンに設定された溶接部品質(完全溶け込みと不完全溶け込み)の判定基準とするデータベース(適正電流、適正電圧を含む)からリアルタイムに溶接部品質評価を行い溶接士へ状況を伝達する機能を有する装置とする。
4)溶接部完全溶け込みの判定基準として、溶融池の落ち込み、固液界面で液体側の挙動、液体表面部面積の変化、液体表面温度の変化、液体表面での湯流れ状態の変化、液体表面部でのスラグ量変化、スラグの挙動変化、液体表面の振動周期の変化とした装置とする。
5)溶接途上溶融池画像からリアルタイムに検査を実施し完全溶け込みを確認しながら溶接作業実行を可能とする装置とする。
6)品質不具合発生時には警報(不良程度にあわせて5段階数段階の音程あるいはリズム)を発し修正を促す機能を有する装置とする。
【0011】
すなわち本発明は、溶接装置に移動可能に固定され溶接の進行とともに移動する、トーチ挙動と溶融池表面挙動を観察する溶融池観察カメラ、前記溶融池観察カメラと一体で移動する溶融池裏側の溶融状態を計測する裏波観察カメラ、溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラ、溶接者の姿勢と溶接部の大きな状況を撮影する全体挙動撮影カメラ、これら4台のカメラにより撮像された画像を、溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに表示するモニター、前記4台のカメラにより撮像された画像情報を、溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに記憶・解析する記憶装置、及び、前記4台のカメラにより撮像された画像のいずれかを表示する小型モニターを装着した溶接保護面を装備した溶接技量評価装置に関する。
【0012】
また本発明は、溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラ、該トーチカメラにより撮像された画像情報を処理して溶融池状態とアーク状態を計測し、その画像情報を溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに、蓄積した溶接部品質評価データと比較して、溶接部品質を判定・評価する判定・評価装置、該判定・評価装置からリアルタイムに溶接部品質評価を行い溶接士へ状況を伝達する伝達手段を装備した溶接部品質評価装置であって、前記溶接部品質評価データが、溶接装置に移動可能に固定され溶接の進行とともに移動する、トーチ挙動と溶融池表面挙動を観察する溶融池観察カメラと、前記溶融池観察カメラと一体で移動する溶融池裏側の溶融状態を計測する裏波観察カメラと、溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラとにより撮像された画像情報を、溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに記憶・解析する記憶装置に蓄積されているデータベース中のデータである、溶接施工終了時には同時に品質確認も完了を可能とする溶接部品質評価装置に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶接技量評価装置によると、以下の効果を奏することができる。
1)裏面溶け込み状態をリアルタイムで確認できる。溶接の進行とともにカメラが移動するため、サイズの大きな画面で溶融池の状態を解析できる。
2)トーチにとりつけたカメラで溶融池とアークの状況をリアルタイムで確認できる。トーチ固定のカメラの画像であり、電極先端位置は常に一定となり、トーチの変動によるアーク長さの変動が計測できる。溶融池のサイズはトーチ(カメラ)高さにより変動する。
3)裏波観察カメラと同期して移動する溶融池観察カメラにより、溶接者の操作するトーチと溶融池を監視することにより、カメラを基準とした静止系の画像が撮影でき、トーチの変動や溶融池形状の変動を計測できる。
4)4台のカメラで取得した画像と電圧電流信号とをリアルタイムで画面に表示するとともに、溶接状況を溶接状態に応じた音声信号で発信できる。
5)画像信号および電圧電流信号は外部記録装置に記録され、必要に応じていつでも再現できる。
6)溶接中に表示発信する画像情報および音声信号とまったく同じ情報をいつでも再生できるとともに、溶融池のサイズ(幅や長さおよび面積)や裏面ビードのサイズと電圧電流信号の短時間の平均値や標準偏差などのマクロ情報を表示することにより溶接者の技能の特徴を明確にする機能を有する。
7)溶接中に溶接者のヘルメットに装着したモニタにより、裏面の画像あるいはPCモニターに表示される画面などを任意に選択してリアルタイム表示することにより、溶接中に本人の技能向上に必要な情報を表示する。
8)溶接後溶接者のヘルメットに装着したモニタに各種情報を再現することにより、実際に溶接している状況を同じ状況を再現することにより、良い点悪い点を注意しながら繰り返し学習できる。
9)本人の溶接結果のみでなく、模範とすべき熟練者の画像データも同様に繰り返し表示して再現することにより、効率的な学習が可能である。
10)溶接中に記録・解析した情報は外部記録装置に記録され、溶接装置なしのPCなどで溶接中の装置と同等な画像および音声信号を再現させることにより、時間と場所に依存せずに必要に応じて学習できる。
11)手動溶接技能のみでなく、溶接トーチおよび裏面ビードを撮影する駆動部に溶接トーチを固定することにより、自動溶接装置として新技術開発過程で用いることも可能であり、画像信号や電圧電流信号の解析により新技術開発時の問題点の把握と解決に有効な機能を有する。
12)また、上記自動溶接機構を用いて溶接させ、溶接技能者に手動で溶加棒(溶接金属量を確保するための外部から添加する溶接金属)を送り込む訓練が可能であることから、溶加棒を送り込む訓練を独立して実施可能としたことにより溶融池の状態を冷静に確認しながら溶加棒を送り込むことにより、訓練の効率を飛躍的に増加させることができる。通常の状態では、うまく溶接できないことが溶接トーチの影響かあるいは溶加棒の送りが悪いのか判断できないことが多いのに対して、溶接自体は理想的な状態で自動で実施し訓練者は溶加棒の送りのみに専念して訓練することにより学習効率が向上する。
13)溶加棒の送り方の相違による溶融池の状態変化について事前に多くの例を画像を見ながら学習することにより客観的な学習が可能であり、従来一方交通的な面も多く存在する熟練者からの教育がより具体的に理解できる。
【0014】
また本発明の溶接部品質評価装置によると、以下の効果を奏することができる。
1)トーチに取り付けた超小型カメラにより全溶接中のアークの発生状況と溶融池の挙動およびトーチ挙動を画像記録として記録するとともに、電圧電流信号とを同期して記録でき、必要に応じて外部モニターにより溶接状況を再現できる。
2)画像および電圧電流信号をリアルタイムで解析し、溶接状態が悪化する傾向を示すときに、溶接者にリアルタイムで音声信号あるいは画像信号により通知可能である。
3)該当溶接作業において、その標準的な状態と異なる状況が発生した場合、その事象の発生した時刻およびそのときの画像の特徴(溶融池の形状、アーク長さ)と電圧電流信号の特徴(平均値とその時間帯の標準偏差など)を全体の平均値とともに別途記録保存すること、あるいは完成した装置仕様書にその情報を添付することにより、その装置の長時間稼動時になんらかの異常が発生したときに、原因究明の早期解決の情報として利用可能である。
4)画像および電圧電流信号とを標準化して記録保存し、出荷した装置の長時間経過による事故的事象の無発生あるいは発生記録と対比することが可能となり、評価精度向上に資する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の溶接技量評価装置の模式図である。
【図2】本発明の溶接技量評価装置の一態様の側面図である。
【図3】本発明の溶接技量評価装置の一態様の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の溶接技量評価装置や溶接部品質評価装置におけるカメラとしては、画像を電気信号に変換する際に、受光素子が光から発生した電荷を読み出すために電荷結合素子 (Charge Coupled Device) と呼ばれる回路素子を用いて転送を行うことができるCCDカメラを好適に例示することができる。また、トーチカメラが取り付けられている溶接トーチは、溶接技量評価装置の場合、電極と母材との距離が常に一定になる自動溶接機用であっても、高さが変動する手動溶接用であってもよいが、溶接部品質評価装置の場合は手動溶接用であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の溶接技量評価装置や溶接部品質評価装置における上記記憶装置としては、溶融池観察カメラと裏波観察カメラとトーチカメラとからの画像情報と溶接電流・電圧信号に基づき、溶接施工状態の記録保持・管理・信号処理・判定等をオンラインで行うことができ、好ましくは演算処理機能や溶接条件判定機能を有する手段と、全体挙動撮影カメラの画像情報に基づき、溶接者の連続的な動作や姿勢に関する情報を計測し、この計測信号に基づき、溶接者の姿勢の他、頭や手の位置と動き等の動作など、溶接者の施工状態の記録保持・管理・信号処理・判定等をオンラインで行うことができる手段を合わせもつ装置を挙げることができる。
【0018】
上記溶接条件判定において、完全溶け込みに達した状況と判定する基準としては、溶融池の落ち込み、固腋界面で液体側表面の下降、液体表面部面積低下、液体表面温度の増加率、液体表面部での湯流れの変化、液体表面部でのスラグ量変化率、スラグの挙動変化、液体表面振動数周期延長という諸要素が考えら、これら判定要素の数値化は、溶接者の技量及び要求される溶接速度により個々の値は大幅に異なり、絶対値で与えることは困難であるが、例えば材質をSUS304、板厚を3mm、電流を100A、アーク長を3mmとした場合、個々溶接者の溶接条件で裏まで溶けていない限界条件での数値に対して裏面まで完全に溶け込んだ状態での以下の数値は次のように変動する。溶融池表面の母材表面に対する落ち込みは0.2〜1.0mm、溶接池前方部の界面落ち込み0.05〜0.3mm、溶融池表面積は変動の誤差範囲で変化は検出できず、液体表面部の湯流れ状態も定量的な変動誤差範囲となり検出は難しい。液体表面部でのスラグ量は材質や裏面の状態に大きく依存し、ある程度の試行の結果により、有意な差が検出できる場合もある。液体表面振動数は10秒程度値で有意さが検出できるが、実際の溶接作業中に品質評価判定に用いるには時間の遅れが大きく実用的ではない。
【0019】
本発明の溶接技量評価装置における溶融池観察カメラと裏波観察カメラは、母材の上方と下方に設置され、溶接の進行とともに開先に沿って一体的に移動するようになっている。これら溶融池観察カメラと裏波観察カメラの移動速度は、所定のモデル速度とすることもできるし、また、溶接者の姿勢を撮影する全体挙動撮影カメラからの画像情報に基づき解析された溶接トーチの移動速度と同期した速度とすることができる。また、本発明の溶接技量評価装置には、溶接中に溶接者の溶接保護面に装着した小型モニターに、裏面の画像あるいはPCモニターに表示される画面などを任意に選択してリアルタイム表示することに加え、溶接状況を溶接状態に応じた音声信号で発信できる機構を備えるものが好ましい。
【0020】
本発明の溶接部品質評価装置における伝達手段としては、溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラで撮像された画像データに基づき、画像解析、溶接状態判定及び溶接挙動・条件改善指示を、ケーブルを介して、溶接保護面に装着した小型モニターに視覚情報又は聴覚情報として伝達、特に異常時(溶接溶け込み不良など)には危険シグナルとして伝達するようにしたものである。
【0021】
本発明の溶接技量評価装置の模式図を図1に、本発明の溶接技量評価装置の一態様の側面図を図2に、正面図を図3にそれぞれ示す。図中、1は溶接トーチ、2はトーチカメラ、3は裏波観察カメラ、4は溶融池観察カメラ、5は全体挙動撮影カメラ、6は作業台、7はモニター、8は溶融池観察カメラと裏波観察カメラの連結体、9は溶融池観察カメラと裏波観察カメラの同期移動用モータ、Mは溶融池、Bは母材をそれぞれ示す。
【0022】
図1〜3において、裏波観察カメラ3は、作業台6上に開先を介して並置された一対の母材Bの開先裏面側に設けられており、溶融池観察カメラ4は、裏波観察カメラ3と連結体8を介して開先に対して直交する方向に移動可能で、かつトーチ挙動と溶融池M表面挙動を観察することができるように、開先斜め上方に傾斜させて設けられている。溶融池観察カメラ4と裏波観察カメラ3は同期移動用モータ9の駆動により、溶接の進行とともに開先に沿って移動する(図3参照)。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の溶接技術は、造船、機械、自動車、建設、橋梁、充填タンクなどの産業界に広く利用できる。
【符号の説明】
【0024】
1 溶接トーチ
2 トーチカメラ
3 裏波観察カメラ
4 溶融池観察カメラ
5 全体挙動撮影カメラ
6 作業台
7 モニター
8 溶融池観察カメラと裏波観察カメラの連結体
9 溶融池観察カメラと裏波観察カメラの同期移動用モータ
M 溶融池
B 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接装置に移動可能に固定され溶接の進行とともに移動する、トーチ挙動と溶融池表面挙動を観察する溶融池観察カメラ、前記溶融池観察カメラと一体で移動する溶融池裏側の溶融状態を計測する裏波観察カメラ、溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラ、溶接者の姿勢と溶接部の大きな状況を撮影する全体挙動撮影カメラ、これら4台のカメラにより撮像された画像を、溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに表示するモニター、前記4台のカメラにより撮像された画像情報を、溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに記憶・解析する記憶装置、及び、前記4台のカメラにより撮像された画像のいずれかを表示する小型モニターを装着した溶接保護面を装備した溶接技量評価装置。
【請求項2】
溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラ、該トーチカメラにより撮像された画像情報を処理して溶融池状態とアーク状態を計測し、その画像情報を溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに、蓄積した溶接部品質評価データと比較して、溶接部品質を判定・評価する判定・評価装置、該判定・評価装置からリアルタイムに溶接部品質評価を行い溶接士へ状況を伝達する伝達手段を装備した溶接部品質評価装置であって、前記溶接部品質評価データが、溶接装置に移動可能に固定され溶接の進行とともに移動する、トーチ挙動と溶融池表面挙動を観察する溶融池観察カメラと、前記溶融池観察カメラと一体で移動する溶融池裏側の溶融状態を計測する裏波観察カメラと、溶接トーチに取り付けて溶融状態とアーク状態を監視するトーチカメラとにより撮像された画像情報を、溶接電流・溶接電圧測定装置から得られる溶接電流・電圧信号とともに記憶・解析する記憶装置に蓄積されているデータベース中のデータである、溶接施工終了時には同時に品質確認も完了を可能とする溶接部品質評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−91086(P2013−91086A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235415(P2011−235415)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000180298)四国化工機株式会社 (44)