溶接方法、溶接装置
【課題】溶接線の検出を、より迅速に、より高精度に行うことのできる溶接方法、溶接装置を提供することを目的とする。
【解決手段】自動溶接装置1は、溶接線に沿った複数の位置(位置y1、y2、…、yn)のそれぞれにおいて3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線13cの位置座標を高精度に特定し、溶接トーチ2の実軌道情報を生成する。このとき、最小限の箇所へのタッチセンシングにより溶接線13cの位置座標が高精度に特定するので、実溶接線の検出をより迅速に行うことが可能となる。また、タッチセンシングは、シールドノズル3をワーク(実ワーク)13に接触させて行うので、高精度な位置検出が行える。
【解決手段】自動溶接装置1は、溶接線に沿った複数の位置(位置y1、y2、…、yn)のそれぞれにおいて3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線13cの位置座標を高精度に特定し、溶接トーチ2の実軌道情報を生成する。このとき、最小限の箇所へのタッチセンシングにより溶接線13cの位置座標が高精度に特定するので、実溶接線の検出をより迅速に行うことが可能となる。また、タッチセンシングは、シールドノズル3をワーク(実ワーク)13に接触させて行うので、高精度な位置検出が行える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチを被溶接部材(以下、「ワーク」)の溶接線に沿って自動的溶接する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの溶接線に対し予め溶接ワイヤ(以下、単に「ワイヤ」)の位置を設定し、この予め設定されたワイヤの位置に基づき、自動的にワイヤを溶接線に沿って溶接を行っている。溶接を正確に行うために、溶接中に移動するワイヤが溶接線に正確に沿う必要がある。ワイヤを溶接線に正確に沿わせるためには、溶接を開始する位置において、溶接線に対して溶接トーチが正確に位置決めされなければならない。
自動溶接を行う場合、ワークに対して予め溶接線を設定する。この溶接線を「基準溶接線」と言う。溶接トーチ(またはワイヤ)は基準溶接線に沿って移動することになる。ところが、現場での溶接作業において、実際にセットされたワークの溶接線(以下、「実溶接線」)が基準溶接線に対してずれていることがある。これでは、正確な溶接作業を自動で行うことができなくなる。
そこで、溶接を開始する前に、基準溶接線と実溶接線とのずれを検出し、このずれ量に基づいて溶接線を補正する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、タッチセンサでワークの大まかな位置を検出し、このタッチセンサが検出したワークの大まかな位置に応じて、カメラの位置を補正して、この補正された位置でカメラがワークの溶接箇所を撮像する。この場合、補正された位置でカメラがワークの溶接箇所を撮像することができるので、溶接箇所を十分に拡大して撮像することができる。したがって、ワークの溶接箇所の位置を精密に算出し、この算出した溶接箇所の位置に基づきワイヤの位置を制御することで、ワークの溶接箇所に対するワイヤの位置決め精度を向上することができる。
【0004】
特許文献1は、ワイヤとは別個にタッチセンサを設けるとともに、カメラを設けているため、装置構成が複雑かつ高価となる。これに対して、ワイヤにタッチセンサの機能を持たせ、ワイヤを用いて基準溶接線と実溶接線とのずれ量を検出する手法が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3)。ワイヤにタッチセンサの機能を持たせる場合、ワイヤに検出電圧を印加しておき、ワイヤがワークに接触すると電流がワークに流れることにより、電圧が低下して接触を検知することができる。または、ワークに流れた電流を検知することによっても、接触を検知することができる。
【0005】
図25は、隅肉継手において、タッチセンサ100で基準溶接線と実溶接線とのずれ量を検出する原理を説明する図である。
図25に示すように、基準ワークモデル101が点線で示されている。この基準ワークモデル101は、ティーチングを行うために予め設定されるものであり、板101aと板101bとが直交して隅肉継手を構成する。この交差部が基準溶接線103で示してある。実際にセットされた実ワーク102が実線で示されている。実ワーク102も、板102aと板102bとが直交して隅肉継手を構成する。この交差部が実溶接線104で示してある。
【0006】
基準ワークモデル101に対して、タッチセンサ100の初期位置Psがティーチングにより設定される。タッチセンサ100は触針として機能するワイヤ100aを備えている。タッチセンサ100は、ワイヤ100aの先端が初期位置Psに一致するように配置される。以下説明するセンシングは、ワイヤ100aの突き出し長さを一定として行われる。
タッチセンサ100の初期位置Psから、x軸に沿って板101aに向かって、タッチセンサ100を移動させたとき、タッチセンサ100のワイヤ100a(以下、単にタッチセンサ100と言うことがある)と板101aが仮想的に接触する位置を、位置座標P101aと設定する。また、タッチセンサ100の初期位置Psから、z軸に沿って板101bに向かって、タッチセンサ100を移動させたとき、ワイヤ100aと板101bが仮想的に接触する位置を位置座標P101bと設定する。
【0007】
タッチセンサ100を、初期位置Psからx軸に沿って板102aに向かって移動させる。ワイヤ100aと板102aとが接触して、ワイヤ100aと板102aが接触する位置座標P102aを検出する。ワイヤ100aが板102aと接触する位置座標P102aを検出した後、タッチセンサ100は、初期位置Psに復帰する。次いで、タッチセンサ100を、初期位置Psからz軸方向に沿って板102bに向かって移動させる。ワイヤ100aと板102bとが接触して、ワイヤ100aと板102bが接触する位置座標P102bを検出する。
予め設定されている位置座標P101aと検出された位置座標P102aにより、基準ワークモデル101に対する実ワーク102との水平方向、つまり、x軸方向のずれ量Δxが求められる。また、予め設定されている位置座標P101bと検出された位置座標P102bにより、基準ワークモデル101に対する実ワーク102との垂直方向、つまり、z軸方向のずれ量Δzが求められる。求められたΔxおよびΔzに基づいて、基準ワークモデル101の基準溶接線103を実ワーク102の実溶接線104に合わせて補正することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2003−33874号公報
【特許文献2】特開平6−55269号公報
【特許文献3】特開2001−225288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような従来の技術においては、実溶接線の検出を、より迅速に、より高精度に行うという点で更なる改善の余地がある。例えば、図25の例では、基準ワークモデル101と実ワーク102の設置角度が同一となっているが、実ワーク102を実際にセットした時には、実ワーク102が基準ワークモデル101に対して傾くことがある。このような場合、上記手法では、実溶接線104の位置を正確に特定できず、補正後の基準溶接線103も実溶接線104からずれたままとなる。また、実ワーク102の板102aと板102bとが直交するものとしているが、これについても、板102aと板102bを実際にセットした時に、その交差角度がずれることがある。このような場合も、上記手法では実溶接線104の位置を正確に特定することができない。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、溶接線の検出を、より迅速に、より高精度に行うことのできる溶接方法、溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決すべくなされた本発明の溶接方法は、隅肉継手部を有するワークを隅肉溶接する際に溶接トーチを隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を作成するステップと、作成された軌道情報に基づいて溶接トーチを溶接線に沿って動作させてワークを隅肉溶接するステップと、を備える。そして、軌道情報を作成するステップでは、ワークに対し、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ両側でタッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行って各箇所の位置座標を取得する。さらに、取得された各箇所の位置座標から、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を特定し、特定された溶接線の位置座標から軌道情報を生成する。
ここで、本発明においては、隅肉継手部の溶接線を挟んだ両側で3箇所以上のタッチセンシングを行うが、ここで言う3箇所とは、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側におけるタッチセンシングの箇所数と、他方の側におけるタッチセンシングの箇所数の合計である。
【0011】
このような方法によれば、実際のワークに対して3箇所以上でタッチセンシングを行うことで、実際のワークが傾いている場合にも、溶接線に沿った複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を正確に特定することができ、特定された位置座標から溶接トーチの軌道情報を生成できる。平板どうしを隅肉溶接するような単純な形状のワークであれば、実際にセットしたワークのタッチセンシングのみで軌道情報を生成して自動溶接を行うこともできる。
溶接線が3次元上に湾曲している場合等、複雑な形状のワークの場合には、ワークの設計データに基づいて、ワークを隅肉溶接する際に溶接トーチを動作させるための基準軌道情報を作成するステップをさらに備えるのが好ましい。そして、軌道情報を作成するステップでは、特定された溶接線の位置座標と基準軌道情報との位置ずれ量を取得し、取得された位置ずれ量から基準軌道情報を補正し、ワークを隅肉溶接するステップでは、補正された基準軌道情報を軌道情報とし、溶接トーチを動作させる。
【0012】
軌道情報を作成するステップでは、タッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を特定することで、溶接線の位置座標を高精度に特定できる。
ここで、タッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行うわけであるが、これには以下に示すような複数の形態が有効である。
【0013】
まず、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、ワークに対し、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側のタッチ箇所と他方の側のタッチ箇所でそれぞれタッチセンシングを行って、一方の側のタッチ箇所と他方の側のタッチ箇所の中間位置を算出するステップと、算出された中間位置にタッチセンサを移動させ、タッチセンサを溶接線に接近させるステップと、を複数回繰り返していく手法がある。この手法では、タッチセンサは最終的に溶接線に対向する位置に到達する。これにより、ワークが傾いている場合だけでなく、隅肉継手部の角度がずれている場合にも、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を正確に特定することができる。
【0014】
また、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側と他方の側で、それぞれ2箇所でタッチセンシングを行い、隅肉継手部の一方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第一の仮想線と、隅肉継手部の他方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第二の仮想線との交点を、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標として特定することもできる。この場合も、ワークが傾いていた場合や、隅肉継手部の角度がずれていた場合にも、溶接線の位置座標を正確に特定することができる。また、タッチセンシングを行う箇所数が少ないので、溶接線位置の特定を迅速に行える。
【0015】
また、ワークの設計データに基づいて、少なくともワークの隅肉継手部の形状を示す設計モデルを生成するステップをさらに備えるようにし、軌道情報を作成するステップは、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側で2箇所のタッチセンシングを行うとともに、他方の側で1箇所のタッチセンシングを行うステップと、設計モデルにおいて隅肉継手部の一方の側の形状を示す第一の線分が、溶接線を挟んだ一方の側でタッチセンシングを行った2箇所の位置座標に合致するよう、設計モデルを回転させるステップと、回転させた設計モデルにおいて隅肉継手部の他方の側を示す第二の線分が、溶接線を挟んだ他方の側でタッチセンシングを行った1箇所の位置座標に合致するよう、設計モデルを第一の線分に平行に移動させるステップと、平行移動した設計モデルにおける第一の線分と第二の線分の交点を、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標として特定するステップとを含むこともできる。つまり、実際にセットされたワークに対し、設計モデルを合わせ込むのである。この場合も、ワークが傾いていた場合や、隅肉継手部の角度がずれていた場合にも、溶接線の位置座標を正確に特定することができる。また、タッチセンシングを行う箇所数が少ないので、溶接線位置の特定を迅速に行える。
【0016】
さらに、軌道情報を作成するステップでは、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のうち、互いに前後する第一の位置S1と第二の位置S2において、それぞれ3箇所でタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線の位置座標を特定することもできる。具体的には、第一の位置S1においては、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側の第一の箇所aおよび第二の箇所bでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第三の箇所cでタッチセンシングを行う。そして、第二の位置S2においては、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側の第四の箇所dでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第五の箇所eおよび第六の箇所fでタッチセンシングを行う。この後、第一の箇所a、第二の箇所b、および第四の箇所dを含む第一の平面F1と、第三の箇所c、第五の箇所e、および第六の箇所fを含む第二の平面F2と、第一の箇所a、第二の箇所b、および第三の箇所cを含む第三の平面F3と、第四の箇所d、第五の箇所e、および第六の箇所fを含む第四の平面F4とを算出する。そして、第一の平面F1、第二の平面F2、および第三の平面F3の交点を第一の位置S1における溶接線の位置座標として特定し、第一の平面F1、第二の平面F2、および第四の平面F4の交点を第二の位置S2における溶接線の位置座標として特定するのである。
溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置を、順次上記の第一の位置S1、第二の位置S2に当てはめて同様の処理を行うことで、それぞれの位置における溶接線の位置座標を特定できる。
この場合も、ワークが傾いていた場合や、隅肉継手部の角度がずれていた場合にも、溶接線の位置座標を正確に特定することができる。また、タッチセンシングを行う箇所数が少ないので、溶接線位置の特定を迅速に行える。
【0017】
さて、上記したような手法は、MIG溶接(Metal Inert Gas welding)等において、溶接トーチの先端に取り付けられたシールドノズルからシールドガスを吐出するとともに、シールドノズルをワークに接触させながら隅肉溶接を行う場合に有効である。これ以外にも、シールドガスを用いない場合等においても、適宜のタッチセンサを用いることで溶接トーチの軌道情報を高精度に生成して、溶接を行うことが可能である。
【0018】
ところで、例えば、図26(a)に示すように、シールドノズル105をワーク(隅肉継手)106に接触させながら溶接を行う場合、前述したように、基準ワークモデル101に対する実ワーク102のずれ量を求めるセンシング過程で、ワイヤ100aの突き出し長さは一定である。そして、溶接時におけるワイヤ100aの突き出し長さも、このずれ量を求める過程の突き出し長さと一致させることを前提としている。この場合、継手角度が一定のワーク106を溶接する場合には支障はない。ところが、溶接線上の位置によって継手角度が変化するワーク106を溶接する場合には、問題が生ずる。すなわち、図26(b)に示すように、継手角度が小さい部分では、ワーク106とシールドノズル105が干渉してしまい、溶接自体ができなくなる。また、図26(c)のように、継手角度が大きい部分では、ワーク106とシールドノズル105とが離間してしまい、シールドガスのシールド性を確保することができなくなる。
【0019】
従来、図25にも示しているように、突き出し量が一定のワイヤ100aにタッチセンサの機能を持たせてセンシングを行っていた。したがって、前述したように、ワーク106とシールドノズル105の干渉または離間が発生した。そこで、本発明者は、ワークに接触させるべきシールドノズルにタッチセンサの機能を持たせ、シールドノズルのずれ量を求めることを着想した。センシングの際にシールドノズルと実ワークとは接触するから、このセンシングに基づき補正されたトーチの軌道情報に沿って溶接を行う過程で、シールドノズルと実ワークとの接触を確保することができる。これにより、継手角度が変化するワークであっても、シールドノズルとワークの干渉または離間を防止して自動で溶接を行うことが可能となる。
【0020】
このような着想に基づき、本発明者らは、以下のような溶接方法を既に提案した(特願2007−44822)。この方法は、ガスシールドアーク溶接によって溶接される隅肉継手部を有するワークの設計データに基づいて、溶接する際の溶接トーチの基準軌道情報を作成するステップ(a)と、基準軌道情報に対する溶接トーチの位置ずれ量を、溶接位置に実際にセットされたワークへのタッチセンシングにより取得するステップ(b)と、溶接トーチの位置ずれ量に基づいて基準軌道情報を補正して実軌道情報を作成するステップ(c)と、実軌道情報に基づいて溶接トーチの軌道を制御して溶接するステップ(d)と、を備えている。ここで、溶接は、溶接トーチの先端に取付けられ、かつ溶接時にシールドガスが吐出されるシールドノズルを隅肉継手部に接触させながら行われる。シールドガスによるシールド性を確保するためである。そこで、基準軌道情報を、シールドノズルをワークに接触させながら溶接するものとして作成するとともに、溶接トーチの位置ずれ量を、シールドノズルをワークに接触させることにより取得する。その結果、補正された溶接トーチの実軌道情報に基づいて、シールドノズルをワークに接触させながら溶接を行うことができる。
このような溶接方法において、シールドノズル上において、溶接の際にシールドノズルが隅肉継手部に接触する位置にタッチセンサの触針を配置して、ワークへのタッチセンシングを行うことができる。シールドノズル自体がワークに接触してセンシングできることから、その結果得られる溶接トーチの実軌道情報は、シールドノズルとワークの接触を確保するものとなる。
【0021】
また、シールドノズルと同形状を有したシールドノズル模擬体にタッチセンサの機能を持たせてセンシングを行っても、溶接位置に実際にセットされたワークに対する溶接トーチの位置ずれ量を同様に取得することができる。そして、実際に溶接を行う際には模擬体に替えてシールドノズルを装着すればよい。この着想は、シールドノズルが取付けられた溶接トーチ全体を、タッチセンサとしての機能を有する模擬体に替えて実現することを含む。つまり、シールドシールドノズルに替えて、シールドノズル模擬体をワークに接触させることにより、溶接トーチの位置ずれ量を取得することもできる。
【0022】
上記のような技術について、本発明者らが更なる検討を重ねた結果、上記技術には以下に示すような解決すべき課題があることを見出した。
まず、シールドノズル模擬体を用いてセンシングを行う場合には、実際に溶接を行うときに用いるシールドノズルとの間での精度の確保に課題がある。すなわち、シールドノズル模擬体でセンシングを行った後、シールドノズル模擬体をシールドノズルに交換する際、その取付誤差等により、位置ずれが生じる可能性がある。また、使用に伴い、シールドノズル模擬体やシールドノズルに変形などが生じれば、これも実際のシールドノズルに交換したときの位置ずれに繋がる。さらに、ワークが大型のものである場合、溶接トーチも長尺なものとなることがある。長尺な溶接トーチにおいては、使用にともなって外力等によって形状変化が生じることもある。したがって、シールドノズル模擬体とシールドノズルの双方の精度維持が必要となり、そのための管理に手間がかかる。
また、シールドノズル模擬体を用いず、シールドノズルにタッチセンサの触針を設ける場合、溶接トーチやシールドノズルが導電性材料から形成されているため、これらと触針との絶縁を図る必要がある。このためには触針と溶接トーチおよびシールドノズルとの間に絶縁層を形成する必要があるが、溶接トーチは、隅肉継手部の狭い空間に挿入する必要があるため、絶縁のために溶接トーチやシールドノズルが大型化するのは好ましくない。しかし、絶縁層の厚さが小さくては、十分な絶縁が図れない。
さらに、触針は、シールドノズルあるいはシールドノズル模擬体に対称な位置に一対を設ける必要があるが、それぞれの触針に通電するための配線も必要であり、これもシールドノズルあるいはシールドノズル模擬体の大型化につながってしまう。加えて、溶接線が3次元的に湾曲しているような場合、シールドノズルあるいはシールドノズル模擬体の中心軸に対し、隅肉継手部の両側の被溶接材料の位置(角度)が、溶接線上の位置によって異なる。その結果、シールドノズルあるいはシールドノズル模擬体に設けられた一対の触針に対するワークのタッチ角度が変わり、確実なタッチセンシングが行えないこともある。これに対応するため、溶接トーチをその中心軸線周りに回転させ、一対の触針によるワークのタッチ角度を常に適切なものとすることも考えられるが、これでは制御が複雑化する。
上記したような理由から、本発明者らが既に提案した手法については更なる改善の余地があるのである。
【0023】
そこで、本発明においては、シールドノズルを用いる場合、タッチセンサは、導電性材料から形成されたシールドノズルと、シールドノズルに電圧を印加する電源と、シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの溶接トーチの位置座標を取得するコントローラと、を含むものとすることを提案する。つまり、シールドノズル自体をタッチセンサとして機能させるのである。これによって上記のような問題が解決できる。
【0024】
本発明は、隅肉継手部を有するワークの隅肉溶接を行う溶接トーチと、溶接トーチを移動させる移動装置と、溶接トーチに設けられて溶接時にシールドガスを吐出し、導電性材料からなるシールドノズルと、シールドノズルに電圧を印加する電源と、シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの溶接トーチの位置座標を取得するとともに、取得された位置座標に基づき溶接トーチを隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を生成する軌道生成部と、軌道情報に基づいて溶接トーチの動作を制御するトーチ動作制御部と、を備えることを特徴とする溶接装置とすることもできる。
【0025】
ここで、軌道生成部は、ワークに対し、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ両側でシールドノズルを3箇所以上で接触させて各箇所の位置座標を取得し、取得された各箇所の位置座標から位置における溶接線の位置座標を特定し、特定された溶接線の位置座標から軌道情報を生成するものとすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、実際のワークに対して、溶接線に沿った複数の位置のそれぞれにおいて、3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線の位置座標を高精度に特定することができ、特定された位置座標から溶接トーチの軌道情報を生成できる。このとき、最小限の箇所へのタッチセンシングにより溶接線の位置座標が高精度に特定できるので、実溶接線の検出をより迅速に行うことが可能となる。
また、シールドノズル自体をタッチセンサとして機能させることにより、シールドノズル模擬体を用いる場合に比較し、精度を確実に確保できる。また、シールドノズルにタッチセンサの触針を設ける場合に比較し、シールドノズルが大型化することもなく、隅肉継手部の狭い空間にもシールドノズルを確実に挿入してタッチセンシングや溶接を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用した自動溶接装置1の概略構成を示す図である。なお、自動溶接装置1は、例えばMIG溶接、TIG溶接(Tungsten Inert Gas)、MAG溶接(Metal Active Gas welding)等のシールドガスをシールドノズルから吐出するガスシールド溶接に広く適用することができる。
【0028】
自動溶接装置1は、図1に示すように、溶接ワイヤ5を保持する溶接トーチ2と、溶接トーチ2の先端に着脱自在に取付けられるシールドノズル3と、を備えている。ここで、シールドノズル3は、実際にセットされたワーク13(以下、これを実ワークと称することがある)の位置を検出するためのタッチセンサとして機能するものとされている。
なお、図1は、実ワークの位置ずれ量を検出する状態を示しているため、溶接ワイヤ5はシールドノズル3内に退避している。溶接時には溶接ワイヤ5はシールドノズル3から所定の長さだけ突き出す。自動溶接装置1は、所謂消耗電極式の溶接装置であり、溶接ワイヤ5は溶接時には図示しないワイヤ供給装置から逐次供給される。
また、自動溶接装置1は、溶接トーチ2を保持する多関節ロボット(移動装置)6、シールドガスを供給するガス供給装置7、この多関節ロボット6を駆動制御するロボットコントローラ(コントローラ、トーチ動作制御部)8、シールドノズル3に所定の電圧を印加するセンサ用電源(電源)9、溶接時に溶接ワイヤ5に電力を供給する溶接電源10を備えている。
さらに、自動溶接装置1はCADシステム11およびオフライン教示データ作成システム(軌道生成部)12を備えている。
【0029】
自動溶接装置1にて溶接されるワーク13は、底板13aと縦板13bを備えている。隅肉継手を構成するワーク13は、溶接線13cが連続する方向において、図1に示すように底板13aと縦板13bからなる継手角度が一定ではなく、変化する。このワーク13は、図中、手前から継手角度が連続的に小さくなる例を示しているが、本発明はこれに限らず、継手角度が増減するワークについて適用できることは言うまでもない。また、図1において、溶接線13cは直線状であるが、溶接線13cは、3次元状に湾曲したものであっても本発明は適用できる。
【0030】
自動溶接装置1は、ガス供給装置7から供給され、かつ溶接トーチ2を通過してきた不活性ガスで溶接部分を外部から効果的にシールドするために、シールドノズル3を備えている。シールドノズル3は、中空円筒状の形態をなしている。ワーク13を溶接する場合、図26に示したのと同様にして、シールドノズル3の先端外周縁を、底板13aおよび縦板13bに接触させる。シールド性を高めるためである。シールドノズル3の先端外周縁の1点が底板13aに接触し、この点と中心を挟んで対称に位置するシールドノズル3の先端外周縁の1点が縦板13bに接触しながら、ワーク13の長手方向に連続する溶接線13cに沿って溶接が行われる。溶接時には、溶接電源10から溶接ワイヤ5に電力を供給するとともに、ガス供給装置7からシールドガス(不活性ガス)を供給する。溶接電源10からの電力供給制御、ガス供給装置7からのシールドガス供給制御は、ロボットコントローラ8によって行われる。
【0031】
シールドノズル3は、導電性材料から形成され、外形が、例えば円形、矩形等、左右対称形状とされている。
このシールドノズル3を実ワークの位置を検出するためのタッチセンサとして機能させるため、センサ用電源9からシールドノズル3に電圧を印加するための通電ケーブル4a、4bがシールドノズル3に接続されている。
センサ用電源9から通電ケーブル4a、4bを介して電圧が印加された状態で、シールドノズル3が底板13aまたは縦板13bに接触すると、シールドノズル3に印加されていた電圧が低下する。センサ用電源9に電気的に接続されるロボットコントローラ8において、この電圧の低下を検知することで、シールドノズル3が底板13aまたは縦板13bに接触したことを検出できる。ロボットコントローラ8においては、シールドノズル3の底板13aまたは縦板13bへの接触を検出したときのシールドノズル3(溶接トーチ2)の位置(座標)を検出できるようになっている。
このとき、シールドノズル3の移動方向は既知であるため、ロボットコントローラ8では、底板13aに接触したのか、縦板13bに接触したのかを認識できる。そして、シールドノズル3の外形寸法も既知であるため、ロボットコントローラ8で検出する位置座標から、シールドノズル3の底板13aまたは縦板13bに対するタッチ箇所の位置座標を検出できる。
【0032】
多関節ロボット6は、例えば、6つの互いに独立したジョイントを有するものとすることができる。多関節ロボット6は、ヘッド6aを備え、このヘッド6aで溶接トーチ2を保持する。ヘッド6aを移動させることにより、溶接軌道上に沿って溶接トーチ2を自在に移動させることができる。ヘッド6aに対して溶接トーチ2は着脱自在な装置を別途設けることにより、溶接トーチ2を自動で交換する自動溶接装置1とすることができる。これらの動作は、多関節ロボット6に電気的に接続されるロボットコントローラ8により制御される。
【0033】
ロボットコントローラ8は、センサ用電源9、溶接電源10の動作を制御する他、上述のように、多関節ロボット6の動作を制御する。この動作制御は、基準ワークモデル(設計モデル)に対する実ワークのずれ量の検知、溶接時の溶接トーチ2の動作を含んでいる。ロボットコントローラ8には、オフライン教示データ作成システム12が接続され、かつオフライン教示データ作成システム12を介してCADシステム11が接続されている。ロボットコントローラ8は、コンピュータ装置のCPUやメモリ等が協働して所定の処理を実行することによって上記の動作制御を実現する。
【0034】
CADシステム11は、オフライン教示データ作成システム12と協働して、ワーク13のCADデータ(設計データ)に基づき、より理想的な溶接状態を得るための溶接トーチ2の基準軌道情報を作成する。CADシステム11は、マウス、キーボード等からなる入力手段と、予めインストールされたコンピュータプログラムに基づいて所定の処理を行う処理手段と、処理手段での処理結果等を出力(表示)する表示部と、溶接対象物であるワーク13のCADデータ等、各種データを格納するデータ格納部とを含んでいる。オフライン教示データ作成システム12は、オフライン教示データを作成するためのコンピュータプログラムを含んでいる。
【0035】
CADシステム11において基準軌道情報を作成するには、まず、処理手段にて、データ格納部から読み出されたワーク13のCADデータに基づき、ワーク13の三次元モデル(ワーク形状モデル)を仮想的に作成する。このモデルが基準ワークモデルとなる。このモデルは、少なくともワーク13の底板13a、縦板13bの表面の形状を示す線分を含んでいる。ワーク形状モデルは、表示部に表示される。オペレータは、表示部に表示されたワーク13のワーク形状モデルを見ながら、溶接トーチ軌道生成の基準となる溶接線位置情報を、入力手段のマウス等を用いて作成する。したがって、この溶接線位置情報は、CADシステム11とオフライン教示データ作成システム12が協働してティーチングによって作成される。次に、CADシステム11およびオフライン教示データ作成システム12は、データ格納部に格納された溶接トーチ2の寸法データおよび溶接線位置情報に基づき、溶接線位置情報で特定される溶接線に沿って溶接トーチ2が溶接を行うための基準軌道情報を作成する。
つまりこのようにして作成された基準軌道情報は、設計データ(基準ワークモデル)上における基準軌道を示す情報である。
【0036】
オフライン教示データ作成システム12は、実際にセットされたワーク13の溶接線13cに沿って溶接トーチ2を移動させるため、前記のように作成された基準軌道情報を、実際にセットされたワーク13の位置に応じて補正し、実軌道情報(軌道情報)を作成する。
【0037】
次に、自動溶接装置1を用いてワーク13の底板13aおよび縦板13bを溶接する手順についてなお、以下に示す処理は、CADシステム11、オフライン教示データ作成システム12が協働して、予めインストールされたプログラムに基づいて所定の処理を実行することで行われる。
【0038】
自動溶接装置1を用いてワーク13を溶接する場合、まず、前述したように、実際の溶接を行う前に溶接トーチ2の実軌道情報を作成する。これには、図2のS101(ワーク形状モデル作成)、S103(溶接線位置情報作成)、S105(トーチ基準軌道情報作成)、S107(タッチセンシング)およびS109(トーチ軌道補正)の各ステップを順次行う。溶接トーチ2の実軌道情報の作成が終了した後に、当該軌道情報に基づいて溶接トーチ2を移動させながら溶接を実行させる。
【0039】
「ステップS101(ワーク形状モデル作成)」
溶接トーチ2の実軌道情報作成の最初の手順として、ワーク13について、三次元のワーク形状モデルを作成する。このモデルは、前述したようにして、CADシステム11の処理手段がデータ格納部から読み出したワーク13のCADデータに基づいて作成される。この三次元のワーク形状モデルが基準ワークモデルとなる。したがって、このモデルはx,yおよびzの三次元座標によって特定される。
【0040】
「ステップS103(溶接線位置情報作成)」
基準ワークモデルが作成されたならば、このモデル上における溶接線の位置情報が作成される。この溶接線位置情報は、前述したように、CADシステム11とオフライン教示データ作成システム12が協働して作成される。この溶接線位置情報もまた、x,yおよびzの三次元座標によって特定される。溶接線の位置情報は、基準ワークモデル上の溶接線上において、互いに間隔を隔てた複数の点の位置情報からなる。これにより、基準ワークモデル上における溶接線(これを基準溶接線と適宜称する)を特定できる。
【0041】
「ステップS105(トーチ基準軌道情報作成)」
ロボットコントローラ8は、CADシステム11およびオフライン教示データ作成システム12により作成された溶接線位置情報とデータ格納部に格納された溶接トーチ2の寸法データを取得し、溶接線位置情報で特定される基準溶接線に沿って溶接トーチ2が溶接を行うための基準軌道情報を作成する。
【0042】
「ステップS107(タッチセンシング)」
次いで、実際にセットされたワーク13へのタッチセンシングを行う。タッチセンシングのステップは、本願発明の最も特徴的な部分であり、後に詳述するように複数のステップを含んでいる。タッチセンシングはロボットコントローラ8が、多関節ロボット6の動作を制御して、タッチセンサとして機能するシールドノズル3を接触させることでワーク13の位置を検出し、基準ワークモデルに対するワーク13の位置ずれ量を取得する。
【0043】
上記のタッチセンシングは、ワーク13を所定の溶接位置に設置して行う。ワーク13を設置する対象は特に限定されず、タッチセンシング時および溶接時にワーク13を適切に固定できるものであればよい。ワーク13の姿勢を変えることのできるポジショナに設置することもできる。
そして、ワーク13の溶接線13cに沿って互いに間隔を隔てた複数の位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおいて、タッチセンシングを行っていき、位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおいて、溶接線13cの位置(底板13aと縦板13bの交差位置)情報を取得する。
【0044】
「ステップS109(トーチ軌道補正)」
位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおける、溶接線13cの位置情報が求められたなら、この位置情報を用いてロボットコントローラ8がトーチ軌道補正を行う。トーチ軌道補正は、ステップS105で作成された基準軌道情報に含まれる位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおける基準溶接線の位置と、前記の実際のワーク13の溶接線13cの位置とのずれ量を算出し、基準軌道情報にこのずれ量を加算することにより得ることができる。例えば、位置y1におけるトーチ軌道情報を(x1、z1)とし、位置y1における位置ずれ量を(Δx1、Δz1)とすると、(x1+Δx1、z1+Δz1)が補正された実軌道情報となる。補正された実軌道情報は、実際の溶接線13cに対応する。この補正を、位置y2、y3、…、ynまで行って、トーチ軌道の補正は終了する。
【0045】
位置ずれ量を求めるワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置は任意であるが、必要以上に多くの位置で位置ずれ量を求めることにすれば、センシングの時間が無駄に長くなる。そこで、溶接線13cの曲率に応じてセンシングを行う位置を定めることが好ましい。図3はこのことを示している。つまり、溶接線13cの曲率が大きい領域ではセンシングの間隔が広くなるようにセンシングの位置を特定し、逆に、溶接線13cの曲率が小さい領域ではセンシングの間隔が狭くなるようにセンシングの位置を特定する。そうすることにより、位置精度を確保しつつもセンシング点数を低減することができる。溶接線13cの曲率は、ティーチングによって求められる基準溶接線から求めることができる。そして、得られた実軌道情報(x1+Δx1、z1+Δz1)、(x2+Δx2、z2+Δz2)(x3+Δx3、z3+Δz3)、(x4+Δx4、z4+Δz4)…の間は、当該曲率に応じて直線補間または円弧補間すればよい。
【0046】
なお、以上では溶接線13cの位置ずれ量として説明した。しかし、位置検出はシールドノズル3で行うため、溶接線13cを溶接するときのシールドノズル3の位置ずれ量として取り扱うことも可能である。さらに、シールドノズル3は溶接トーチ2に取付けられているものであるから、溶接トーチ2の位置ずれ量として取り扱うこともできる。
【0047】
「ステップS111(溶接)」
実軌道情報に基づいて溶接トーチ2を移動させながら溶接が行われる。一連の溶接の制御はロボットコントローラ8が行う。なお、トーチ軌道の補正までは、溶接ワイヤ5はシールドノズル3内に退避しているので、溶接ワイヤ5を所定長だけ突き出した後に溶接を行う。溶接は、シールドノズル3をワーク13に接触させながら、かつシールドノズル3内にシールドガスを供給しながら行う。
ワーク13の場合、溶接線13cが一つであるが、複数の溶接線13cを有するワーク13の場合には、溶接線13c毎にステップS103(溶接線位置情報作成)〜S111(溶接)までの手順を実行する(ステップS113、S117)。
全ての溶接線13cについて溶接が完了したならば(ステップS113)、次に溶接すべきワーク13がある場合には(ステップS115)、次のワーク13について、ステップS101(ワーク形状モデル作成)〜S111(溶接)までの手順を実行する。次に溶接すべきワーク13がない場合には(ステップS115)、一連の処理は終了する。
【0048】
ここで、前記のタッチセンシングのステップS107について詳述する。図4はタッチセンシングの詳細な処理の流れを示す図である。タッチセンシングを行うには、まず、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおいて、タッチセンシングを行う際の、基準となる当初のタッチセンサの位置(以下、これを初期位置と称する)P1、P2、P3、…、Pnを設定する。例えば図5に示すように、初期位置P1は、ワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置y1におけるものである。この初期位置P1は、オペレータがティーチングによって設定する。ただし、初期位置P1の設定はティーチングに限定されるものではなく、基準軌道情報に所定のオフセット値を与える等の方法により自動設定してもよい。なお、初期位置P1の設定にあたっては、タッチセンサとワーク13とが干渉しないように行われることは言うまでもない。
【0049】
この後、まず、位置y1におけるタッチセンシングを行う。
「ステップS201(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
図5に示すようにワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置y1における初期位置P1にタッチセンサを移動させる。ここでいうタッチセンサとは、センサ用電源9から通電したシールドノズル3を意味し、シールドノズル3の中心が初期位置P1と一致するように移動させる。なお、シールドノズル3は溶接トーチ2に取付けられているが、図5〜図9ではシールドノズル3のみを記載している。
図5において、ワーク(実ワーク)13は便宜上、図1の設置状態とは姿勢を変えて描いている。また、図5は、位置y1におけるワーク13の断面を示している。さらに、図5において、三次元x、y、zの軸方向は図示矢印のように定義されるものとする。したがって、y軸はワーク13の長手方向に沿っている。図5に示すように、ワーク(実ワーク)13は、基準ワークモデル13’に対してずれて設置されている。
【0050】
「ステップS202(タッチセンサ底板13aに接触)」
初期位置P1のシールドノズル3を、図6に示すように、図中右方向に移動させて底板13aに接触させる。初期位置P1から底板13aに接触したことを検知するまでのシールドノズル3の移動量xRが求められる。シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。ロボットコントローラ8は、移動量xRを取得する。
「ステップS203(タッチセンサ縦板13bに接触)」
移動量xRが求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、図7に示すように、シールドノズル3を図中左方向に移動させる。縦板13bに接触したことを検知することにより、初期位置P1から縦板13bに接触するまでのシールドノズル3の移動量xLが求められる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。ロボットコントローラ8は、移動量xLを取得する。
「ステップS204(底板13a−縦板13b間の中央位置座標Pc1算出)」
移動量xRおよび移動量xLが求められたなら、ロボットコントローラ8は(xR+xL)/2の演算処理を行う(図8)。この演算処理で求められる中央位置座標Pc1は、底板13aと縦板13bの間の中央となる。この中央位置座標Pc1は、初期位置P1を通りかつx軸と平行な線上に存在する。
【0051】
「ステップS205(タッチセンサ中央位置へ移動、下降)」
底板13aと縦板13bの間の中央位置座標Pc1が求められたなら、図8に示すように、シールドノズル3の中心が中央位置座標Pc1と一致するようにシールドノズル3を移動させる。
シールドノズル3が中央位置座標Pc1に移動したならば、今度は、シールドノズル3をz軸方向に平行に下降させる。すると、図9に示すように、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触する。そこで、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触したときの位置座標Pw1を取得する。
【0052】
このとき、ワーク13の形状が複雑な3次元形状である場合や、ワーク13が基準ワークモデル13’に対して傾いて設置されている場合等においては、シールドノズル3をz軸方向に平行に下降させても、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触しないことがある。そこで、ワーク13の形状等によっては、シールドノズル3を中央位置座標Pc1に移動させた後、シールドノズル3をz軸方向に平行に所定寸法だけ移動させ、溶接線13cに接近させる(ステップS206、S207)。このときの移動寸法は、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触しない位置までの下降に留める。
その位置において、上記のステップS202、S203、S204を、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触するまで繰り返す。そして、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触したときの位置座標Pw1を取得する。
【0053】
ここで、図2のステップS105において作成されている溶接トーチ2の軌道情報から、シールドノズル3が基準ワークモデル13’の底板13’aおよび縦板13’bに接触する位置座標P’w1を算出することができる。したがって、図9に示すように、位置座標Pw1と位置座標P’w1を比較することにより、基準ワークモデル13’に対するワーク(実ワーク)13の位置ずれ量(Δx1、Δz1)を求めることができる(ステップS208)。
【0054】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置y1におけるワーク13の位置ずれ量の算出が終了する。ワーク13の溶接線13cに沿った方向における他の位置(位置y2、y3、…、yn)において、ワーク13の位置ずれ量の算出が必要であれば、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ、他の位置(位置y2、y3、…、yn)に位置させる(ステップS209、S210)。そして、ステップS201に戻り、上記と同様の位置ずれ量の算出を行う。必要とされる全ての溶接線13cに沿った方向における他の位置において、ワーク13の位置ずれ量の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0055】
本実施の形態による自動溶接装置1は、ワーク13の位置ずれ量を、シールドノズル3をワーク(実ワーク)13に接触させて自動的に算出することができる。したがって、自動溶接装置1がシールドノズル3をワーク13に接触させながら溶接する場合にも、溶接の過程においてシールドノズル3がワーク13と干渉し、あるいはシールドノズル3がワーク13から離間することがない。また、シールドノズル3自体をタッチセンサとして機能させるので、シールドノズル模擬体を用いる場合に比較し、精度を確実に確保できる。また、シールドノズル3にタッチセンサの触針を設ける場合に比較し、シールドノズル3が大型化することもなく、隅肉継手部の狭い空間にもシールドノズル3を確実に挿入してタッチセンシングや溶接を行うことが可能となる。
また、このとき、ワーク13の形状が複雑な3次元形状である場合や、ワーク13が基準ワークモデル13’に対して傾いて設置されている場合等においては、溶接線13cに沿った複数の位置(位置y1、y2、…、yn)のそれぞれにおいて3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線13cの位置座標を高精度に特定することができ、特定された位置座標から溶接トーチ2の実軌道情報を生成できる。このとき、最小限の箇所へのタッチセンシングにより溶接線13cの位置座標が高精度に特定できるので、実溶接線の検出をより迅速に行うことが可能となる。
【0056】
ところで、上記のステップS107のタッチセンシングにおいては、図4に示したような処理に変えて、図10に示すような処理を採用することもできる。
「ステップS301(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
まず、設定された初期位置P1にタッチセンサ(シールドノズル3)を移動させる。
【0057】
「ステップS302(タッチセンサ底板13aに接触)」
初期位置P1のシールドノズル3を、図6に示すように、図中右方向に移動させて底板13aに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所の位置座標P11を取得する。
【0058】
「ステップS303(タッチセンサ縦板13bに接触)」
位置座標P11が求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、図7に示すように、シールドノズル3を図中左方向に移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。縦板13bに接触したときのシールドノズル3の位置座標P12を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0059】
「ステップS304(タッチセンサ下降)」
位置座標P11と位置座標P12が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P11と位置座標P12の間の位置に移動させる。そして、図11に示すように、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの移動位置、下降寸法は、シールドノズル3を下降させても底板13aおよび縦板13bに接触しない位置、寸法とする。
【0060】
「ステップS305(タッチセンサ底板13aに接触)」
その位置において、図12に示すように、x軸と平行に図中右方向に移動させて底板13aに接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所の位置座標P13を取得する。
【0061】
「ステップS306(タッチセンサ縦板13bに接触)」
次いで、縦板13bに接触するまで、図13に示すように、シールドノズル3をx軸と平行に図中左方向に移動させる。縦板13bに接触したときのシールドノズル3の位置座標P14を、ロボットコントローラ8で取得する。
このようにして、タッチセンサを、底板13a、縦板13bのそれぞれにおいて2点ずつ、合計4点で接触させる。
【0062】
「ステップS307(溶接位置の算出)」
このようにして取得された位置座標P11、P13から、図14に示すように、底板13aの表面に沿った仮想線(第一の仮想線)Laを算出し、位置座標P12、P14から、縦板13bの表面に沿った仮想線(第二の仮想線)Lbを算出し、最終的に、仮想線La、Lbの交点、すなわち位置y1における溶接位置P15を算出する。
【0063】
ここで、図2のステップS105において作成されている溶接トーチ2の軌道情報は、基準ワークモデル13’における溶接位置P’15を含むことができる。したがって、図14に示すように、溶接位置P15と溶接位置P’15を比較することにより、基準ワークモデル13’とワーク(実ワーク)13の位置ずれ量(Δx1、Δz1)を求めることができる。
【0064】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1におけるワーク13の位置ずれ量の算出が終了する。この後、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ、他の位置(位置y2、y3、…、yn)に位置させる(ステップS308、S309)。そして、ステップS301に戻り、上記と同様の位置ずれ量の算出を行う。必要とされる他の位置の全てにおいて、ワーク13の位置ずれ量の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0065】
このようにすることで、ワーク13の溶接線13cに沿った各位置において、4点においてのみ位置検出を行うことで、シールドノズル3の位置ずれ量を求め、トーチ軌道補正を行うことができる。ここで、前述の図4に示した手法の場合、ワーク13が複雑な3次元形状等である場合等には、シールドノズル3を徐々に下降させながら、底板13a、縦板13bへのタッチセンシングを多数回繰り返す必要があったが、図10に示した手法によれば、4点のみの位置検出で、溶接位置P15の高精度な検出・補正が行える。
【0066】
上記のステップS107のタッチセンシングにおいては、図15に示すような処理を採用することもできる。
「ステップS401(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
まず、設定された初期位置P1にタッチセンサを移動させる。
【0067】
「ステップS402(タッチセンサ縦板13bに接触)」
初期位置P1のシールドノズル3を、図16に示すように、図中左方向に移動させて縦板13bに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所の位置座標P21を取得する。
【0068】
「ステップS403(タッチセンサ底板13aに接触)」
位置座標P21が求められたら、次いで、底板13aに接触するまで、図17に示すように、シールドノズル3を図中右方向に移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。底板13aに接触したときのシールドノズル3の位置座標P22を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0069】
「ステップS404(タッチセンサ下降)」
位置座標P21と位置座標P22が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P21と位置座標P22の間の位置に移動させる。そして、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの移動位置、下降寸法は、シールドノズル3を下降させても底板13aおよび縦板13bに接触しない位置、寸法とする。
【0070】
「ステップS405(タッチセンサ縦板13bに接触)」
その位置において、図18に示すように、x軸と平行に図中一方の側(例えば左方向)に移動させて底板13a、縦板13bのいずれか一方(例えば縦板13b)に接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所の位置座標P23を取得する。
【0071】
「ステップS406(基準ワークモデル13’の移動)」
次いで、図19に示すように、取得された縦板13b上の位置座標P21に、基準ワークモデル13’の縦板13’bが重なるように基準ワークモデル13’をセットする。
【0072】
「ステップS407(基準ワークモデル13’の回転)」
次いで、図20に示すように、取得された縦板13b上の位置座標P21、P23の2点を含む仮想線Lを算出し、さらにこの仮想線Lと、基準ワークモデル13’における縦板13’bの表面を示す線分との角度θを算出する。
そして、基準ワークモデル13’を、位置座標P21を中心として角度θだけ回転させる。すると、図21に示すように、基準ワークモデル13’の縦板13’bの表面を示す線分が、仮想線L、すなわち実際のワーク13の縦板13bに重なる。
【0073】
「ステップS408(基準ワークモデル13’の実際のワーク13への合わせ込み)」
基準ワークモデル13’を回転させた時点においては、図21に示すように、実際のワーク13と基準ワークモデル13’とが、底板13a側においてずれている。そこで、図22に示すように、基準ワークモデル13’の底板13’aの表面を示す線分が位置座標P22を含むように、基準ワークモデル13’を縦板13’bに平行な方向に移動させる。
これにより、基準ワークモデル13’が実際のワーク13に合致することになる。
「ステップS409(溶接位置の算出)」
そこで、基準ワークモデル13’における底板13’aの表面を示す線分と縦板13’bの表面を示す線分との交点を算出する。算出した交点の位置を、溶接位置P25とすることができる。
【0074】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1における溶接位置P25の取得が終了する。この後、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ、他の位置(位置y2、y3、…、yn)に位置させる(ステップS410、S411)。そして、ステップS401に戻り、上記と同様の溶接位置の算出を行う。必要とされる全ての溶接線13cに沿った方向における他の位置において、溶接位置の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0075】
このようにすることで、ワーク13の溶接線13cに沿った各位置において、溶接位置を求め、トーチ軌道補正を行うことができる。このとき、ワーク13が複雑な3次元形状等である場合においても、図4や図10に示した手法よりも少ない点数でのタッチセンシングにより溶接位置P25の高精度な検出が行え、生産性の向上に寄与できる。
【0076】
上記のステップS107のタッチセンシングにおいては、図23に示すような処理を採用することもできる。
まず、ワーク13の所定の溶接位置への設置、タッチセンサの初期位置の設定を行った後に、以下の処理を行う。
「ステップS501(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
ワーク13の溶接線13cに沿った位置y1に設定された初期位置P1にタッチセンサを移動させる。
【0077】
「ステップS502(タッチセンサ底板13aに接触)」
図24に示すように、初期位置P1のシールドノズル3を移動させて底板13aに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所(第一の位置S1)の位置座標(第一の箇所a)P31を取得する。
【0078】
「ステップS503(タッチセンサ縦板13bに接触)」
位置座標P31が求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、シールドノズル3を移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所(第二の位置S2)の位置座標(第二の箇所b)P32を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0079】
「ステップS504(タッチセンサ下降)」
位置座標P31と位置座標P32が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P31と位置座標P32の間の位置に移動させる。そして、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの移動位置、下降寸法は、シールドノズル3を下降させても底板13aおよび縦板13bに接触しない位置、寸法とする。
【0080】
「ステップS505(タッチセンサ底板13aに接触)」
その位置において、x軸と平行に一方の側に移動させて底板13a、縦板13bのいずれか一方(本実施の形態では底板13a)に接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所(第三の位置)の位置座標(第三の箇所c)P33を取得する。
【0081】
「ステップS506(位置y2に設定された初期位置P2へのタッチセンサ移動)」
次いで、ワーク13の溶接線13cに沿った位置y2に設定された初期位置P2にタッチセンサを移動させる。
【0082】
「ステップS507(タッチセンサ底板13aに接触)」
初期位置P2のシールドノズル3を他方の側に移動させて底板13aに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所(第四の位置)の位置座標(第四の箇所d)P34を取得する。
【0083】
「ステップS508(タッチセンサ縦板13bに接触)」
位置座標P34が求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、シールドノズル3を移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所(第五の位置)の位置座標(第五の箇所e)P35を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0084】
「ステップS509(タッチセンサ下降)」
位置座標P34と位置座標P35が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P34と位置座標P35の間の位置に移動させる。
そして、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの下降寸法は、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触しない位置までの下降に留める。
【0085】
「ステップS510(タッチセンサ縦板13bに接触)」
その位置において、x軸と平行に、ステップS505とは反対の側に移動させて底板13a、縦板13bのいずれか他方(本実施の形態では縦板13b)に接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所(第六の位置)の位置座標(第六の箇所f)P36を取得する。
【0086】
「ステップS511(仮想平面の算出)」
このようにして取得された6点の位置座標P31、P32、P33、P34、P35、P36、から、以下の仮想平面F1〜F4を算出する。
・仮想平面(第一の平面)F1:位置座標P31、P33、P34の3点を含み、底板13aに相当する平面、
・仮想平面(第二の平面)F2:位置座標P32、P35、P36の3点を含み、縦板13bに相当する平面、
・仮想平面(第三の平面)F3:位置座標P31、P32、P33の3点を含み、位置y1における断面に相当する平面、
・仮想平面(第四の平面)F4:位置座標P34、P35、P36の3点を含み、位置y2における断面に相当する平面。
【0087】
「ステップS512(溶接位置の算出)」
上記のように算出された仮想平面F1、F2、F3の交点を、位置y1における溶接位置P37として算出し、仮想平面F1、F2、F4の交点を、位置y2における溶接位置P38として算出する。
なお、溶接線13cが3次元曲線を描く場合であっても、互いに隣接する位置y1、y2間においては、上記のような仮想平面F1〜F4を組み合わせることで、ワーク13の形状をモデル化することができる。
【0088】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1、y2における溶接位置P37、P38の取得が終了する。
この後、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ(ステップS513、S514)、ステップS401に戻り、互いに前後する次の位置(位置y2、y3)について、上記と同様の溶接位置の算出を行う。このとき、位置y2における位置座標P34、P35、P36は既知であるため、新たに位置y3においてのみ、上記と同様に三点の位置座標を取得する(ステップS515〜S519)。そして、既知の位置y2における位置座標P34、P35、P36を前記のステップS511における位置座標P31、P32、P33に置き換え(ステップS520)、これら位置座標P31、P32、P33と、新たに取得した位置y3における位置座標P34、P35、P36とから、位置y3における溶接位置を算出する(ステップS511)。ただしこの場合、上記における「底板13a、縦板13bのいずれか一方」、「他方」は上記とは逆に取り扱う必要がある。
必要とされる全ての溶接線13cに沿った方向における他の位置において、上記と同様に順次溶接位置の算出を行っていき、すべての位置において溶接位置の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0089】
このようにすることで、ワーク13の溶接線13cに沿った各位置において、溶接位置を求め、トーチ軌道補正を行うことができる。ここで、ワーク13の底板13aと縦板13bの継手角度が、ワーク13の姿勢等によって設計値に対してずれてしまうことがあるが、上記の手法によれば、そのような場合であっても、実際のワーク13の底板13aと縦板13bの継手角度に応じて溶接位置P37、P38の算出が行えるため、高精度な実軌道情報の生成が行える。また、この場合も、図15の手法と同様、より少ない点数でのタッチセンシングにより高精度な実軌道情報の生成が行えるため、生産性の向上に寄与できる。
【0090】
なお、上記実施の形態において、図4〜図24に示したような、実起動情報を生成するための各手法については、シールドノズル3自体をタッチセンサとして機能させる場合のみならず、シールドノズル3にタッチセンサの触針を設けたり、シールドノズル3に変えてタッチセンシング専用のシールドノズル模擬体を設けたりする場合にも適用することが可能である。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本実施の形態における自動溶接装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施の形態による自動溶接装置における溶接手順を示すフローチャートである。
【図3】センシング位置を特定する方法を説明する図である。
【図4】タッチセンサで実ワークの位置ずれ量を検出する手順を示すフローチャートである。
【図5】タッチセンサで実ワークの位置ずれ量を検出する原理を説明する図であって、タッチセンサが初期位置に配置された状態を示す図である。
【図6】同、タッチセンサが一方の板に接触した状態を示す図である。
【図7】同、タッチセンサが他方の板に接触した状態を示す図である。
【図8】同、タッチセンサが両方の板間の中央に配置した状態を示す図である。
【図9】同、タッチセンサが両方の板に接触した状態を示す図である。
【図10】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する手順を示すフローチャートである。
【図11】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する原理を説明する図であって、タッチセンサが初期位置に配置された状態を示す図である。
【図12】同、タッチセンサが一方の板に接触した状態を示す図である。
【図13】同、タッチセンサが他方の板に接触した状態を示す図である。
【図14】タッチセンシングした4箇所の位置情報から溶接線位置を算出する手法を示す図である。
【図15】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する他の手順を示すフローチャートである。
【図16】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する原理を説明する図であって、タッチセンサが一方の板に接触した状態を示す図である。
【図17】同、タッチセンサが他方の板に接触した状態を示す図である。
【図18】同、タッチセンサを下降させて一方の板に接触した状態を示す図である。
【図19】タッチセンシングした3箇所の位置に対し、基準ワークモデルを合わせ込むため、基準ワークモデルを1箇所に位置に合わせてセットした状態を示す図である。
【図20】実ワークと基準ワークモデルの交差角度を示す図である。
【図21】基準ワークモデルを回転させて実ワークと同角度とした状態を示す図である。
【図22】基準ワークモデルを移動させて実ワークに合わせ込んだ状態を示す図である。
【図23】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出するさらに他の手順を示すフローチャートである。
【図24】図23の手法において、タッチセンシングを行う箇所と、溶接線の位置を算出するために用いる仮想平面との関係を示す図である。
【図25】隅肉継手において、タッチセンサで基準溶接線と実溶接線とのずれ量を検出する原理を説明する図である。
【図26】継手角度が変化するワークで、シールドノズルがワークと干渉し、または離間することを示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1…自動溶接装置、2…溶接トーチ、3…シールドノズル、5…溶接ワイヤ、6…多関節ロボット(移動装置)、7…ガス供給装置、8…ロボットコントローラ(コントローラ、トーチ動作制御部)、9…センサ用電源(電源)、10…溶接電源、11…CADシステム、12…オフライン教示データ作成システム(軌道生成部)、13…ワーク、13’…基準ワークモデル、13a…底板、13b…縦板、13c…溶接線、F1…仮想平面(第一の平面)、F2…仮想平面(第二の平面)、F3…仮想平面(第三の平面)、F4…仮想平面(第四の平面)、L…仮想線、La…仮想線(第一の仮想線)、Lb…仮想線(第二の仮想線)
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチを被溶接部材(以下、「ワーク」)の溶接線に沿って自動的溶接する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークの溶接線に対し予め溶接ワイヤ(以下、単に「ワイヤ」)の位置を設定し、この予め設定されたワイヤの位置に基づき、自動的にワイヤを溶接線に沿って溶接を行っている。溶接を正確に行うために、溶接中に移動するワイヤが溶接線に正確に沿う必要がある。ワイヤを溶接線に正確に沿わせるためには、溶接を開始する位置において、溶接線に対して溶接トーチが正確に位置決めされなければならない。
自動溶接を行う場合、ワークに対して予め溶接線を設定する。この溶接線を「基準溶接線」と言う。溶接トーチ(またはワイヤ)は基準溶接線に沿って移動することになる。ところが、現場での溶接作業において、実際にセットされたワークの溶接線(以下、「実溶接線」)が基準溶接線に対してずれていることがある。これでは、正確な溶接作業を自動で行うことができなくなる。
そこで、溶接を開始する前に、基準溶接線と実溶接線とのずれを検出し、このずれ量に基づいて溶接線を補正する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、タッチセンサでワークの大まかな位置を検出し、このタッチセンサが検出したワークの大まかな位置に応じて、カメラの位置を補正して、この補正された位置でカメラがワークの溶接箇所を撮像する。この場合、補正された位置でカメラがワークの溶接箇所を撮像することができるので、溶接箇所を十分に拡大して撮像することができる。したがって、ワークの溶接箇所の位置を精密に算出し、この算出した溶接箇所の位置に基づきワイヤの位置を制御することで、ワークの溶接箇所に対するワイヤの位置決め精度を向上することができる。
【0004】
特許文献1は、ワイヤとは別個にタッチセンサを設けるとともに、カメラを設けているため、装置構成が複雑かつ高価となる。これに対して、ワイヤにタッチセンサの機能を持たせ、ワイヤを用いて基準溶接線と実溶接線とのずれ量を検出する手法が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3)。ワイヤにタッチセンサの機能を持たせる場合、ワイヤに検出電圧を印加しておき、ワイヤがワークに接触すると電流がワークに流れることにより、電圧が低下して接触を検知することができる。または、ワークに流れた電流を検知することによっても、接触を検知することができる。
【0005】
図25は、隅肉継手において、タッチセンサ100で基準溶接線と実溶接線とのずれ量を検出する原理を説明する図である。
図25に示すように、基準ワークモデル101が点線で示されている。この基準ワークモデル101は、ティーチングを行うために予め設定されるものであり、板101aと板101bとが直交して隅肉継手を構成する。この交差部が基準溶接線103で示してある。実際にセットされた実ワーク102が実線で示されている。実ワーク102も、板102aと板102bとが直交して隅肉継手を構成する。この交差部が実溶接線104で示してある。
【0006】
基準ワークモデル101に対して、タッチセンサ100の初期位置Psがティーチングにより設定される。タッチセンサ100は触針として機能するワイヤ100aを備えている。タッチセンサ100は、ワイヤ100aの先端が初期位置Psに一致するように配置される。以下説明するセンシングは、ワイヤ100aの突き出し長さを一定として行われる。
タッチセンサ100の初期位置Psから、x軸に沿って板101aに向かって、タッチセンサ100を移動させたとき、タッチセンサ100のワイヤ100a(以下、単にタッチセンサ100と言うことがある)と板101aが仮想的に接触する位置を、位置座標P101aと設定する。また、タッチセンサ100の初期位置Psから、z軸に沿って板101bに向かって、タッチセンサ100を移動させたとき、ワイヤ100aと板101bが仮想的に接触する位置を位置座標P101bと設定する。
【0007】
タッチセンサ100を、初期位置Psからx軸に沿って板102aに向かって移動させる。ワイヤ100aと板102aとが接触して、ワイヤ100aと板102aが接触する位置座標P102aを検出する。ワイヤ100aが板102aと接触する位置座標P102aを検出した後、タッチセンサ100は、初期位置Psに復帰する。次いで、タッチセンサ100を、初期位置Psからz軸方向に沿って板102bに向かって移動させる。ワイヤ100aと板102bとが接触して、ワイヤ100aと板102bが接触する位置座標P102bを検出する。
予め設定されている位置座標P101aと検出された位置座標P102aにより、基準ワークモデル101に対する実ワーク102との水平方向、つまり、x軸方向のずれ量Δxが求められる。また、予め設定されている位置座標P101bと検出された位置座標P102bにより、基準ワークモデル101に対する実ワーク102との垂直方向、つまり、z軸方向のずれ量Δzが求められる。求められたΔxおよびΔzに基づいて、基準ワークモデル101の基準溶接線103を実ワーク102の実溶接線104に合わせて補正することができる。
【0008】
【特許文献1】特開2003−33874号公報
【特許文献2】特開平6−55269号公報
【特許文献3】特開2001−225288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したような従来の技術においては、実溶接線の検出を、より迅速に、より高精度に行うという点で更なる改善の余地がある。例えば、図25の例では、基準ワークモデル101と実ワーク102の設置角度が同一となっているが、実ワーク102を実際にセットした時には、実ワーク102が基準ワークモデル101に対して傾くことがある。このような場合、上記手法では、実溶接線104の位置を正確に特定できず、補正後の基準溶接線103も実溶接線104からずれたままとなる。また、実ワーク102の板102aと板102bとが直交するものとしているが、これについても、板102aと板102bを実際にセットした時に、その交差角度がずれることがある。このような場合も、上記手法では実溶接線104の位置を正確に特定することができない。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、溶接線の検出を、より迅速に、より高精度に行うことのできる溶接方法、溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような課題を解決すべくなされた本発明の溶接方法は、隅肉継手部を有するワークを隅肉溶接する際に溶接トーチを隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を作成するステップと、作成された軌道情報に基づいて溶接トーチを溶接線に沿って動作させてワークを隅肉溶接するステップと、を備える。そして、軌道情報を作成するステップでは、ワークに対し、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ両側でタッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行って各箇所の位置座標を取得する。さらに、取得された各箇所の位置座標から、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を特定し、特定された溶接線の位置座標から軌道情報を生成する。
ここで、本発明においては、隅肉継手部の溶接線を挟んだ両側で3箇所以上のタッチセンシングを行うが、ここで言う3箇所とは、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側におけるタッチセンシングの箇所数と、他方の側におけるタッチセンシングの箇所数の合計である。
【0011】
このような方法によれば、実際のワークに対して3箇所以上でタッチセンシングを行うことで、実際のワークが傾いている場合にも、溶接線に沿った複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を正確に特定することができ、特定された位置座標から溶接トーチの軌道情報を生成できる。平板どうしを隅肉溶接するような単純な形状のワークであれば、実際にセットしたワークのタッチセンシングのみで軌道情報を生成して自動溶接を行うこともできる。
溶接線が3次元上に湾曲している場合等、複雑な形状のワークの場合には、ワークの設計データに基づいて、ワークを隅肉溶接する際に溶接トーチを動作させるための基準軌道情報を作成するステップをさらに備えるのが好ましい。そして、軌道情報を作成するステップでは、特定された溶接線の位置座標と基準軌道情報との位置ずれ量を取得し、取得された位置ずれ量から基準軌道情報を補正し、ワークを隅肉溶接するステップでは、補正された基準軌道情報を軌道情報とし、溶接トーチを動作させる。
【0012】
軌道情報を作成するステップでは、タッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を特定することで、溶接線の位置座標を高精度に特定できる。
ここで、タッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行うわけであるが、これには以下に示すような複数の形態が有効である。
【0013】
まず、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、ワークに対し、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側のタッチ箇所と他方の側のタッチ箇所でそれぞれタッチセンシングを行って、一方の側のタッチ箇所と他方の側のタッチ箇所の中間位置を算出するステップと、算出された中間位置にタッチセンサを移動させ、タッチセンサを溶接線に接近させるステップと、を複数回繰り返していく手法がある。この手法では、タッチセンサは最終的に溶接線に対向する位置に到達する。これにより、ワークが傾いている場合だけでなく、隅肉継手部の角度がずれている場合にも、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標を正確に特定することができる。
【0014】
また、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側と他方の側で、それぞれ2箇所でタッチセンシングを行い、隅肉継手部の一方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第一の仮想線と、隅肉継手部の他方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第二の仮想線との交点を、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標として特定することもできる。この場合も、ワークが傾いていた場合や、隅肉継手部の角度がずれていた場合にも、溶接線の位置座標を正確に特定することができる。また、タッチセンシングを行う箇所数が少ないので、溶接線位置の特定を迅速に行える。
【0015】
また、ワークの設計データに基づいて、少なくともワークの隅肉継手部の形状を示す設計モデルを生成するステップをさらに備えるようにし、軌道情報を作成するステップは、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側で2箇所のタッチセンシングを行うとともに、他方の側で1箇所のタッチセンシングを行うステップと、設計モデルにおいて隅肉継手部の一方の側の形状を示す第一の線分が、溶接線を挟んだ一方の側でタッチセンシングを行った2箇所の位置座標に合致するよう、設計モデルを回転させるステップと、回転させた設計モデルにおいて隅肉継手部の他方の側を示す第二の線分が、溶接線を挟んだ他方の側でタッチセンシングを行った1箇所の位置座標に合致するよう、設計モデルを第一の線分に平行に移動させるステップと、平行移動した設計モデルにおける第一の線分と第二の線分の交点を、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおける溶接線の位置座標として特定するステップとを含むこともできる。つまり、実際にセットされたワークに対し、設計モデルを合わせ込むのである。この場合も、ワークが傾いていた場合や、隅肉継手部の角度がずれていた場合にも、溶接線の位置座標を正確に特定することができる。また、タッチセンシングを行う箇所数が少ないので、溶接線位置の特定を迅速に行える。
【0016】
さらに、軌道情報を作成するステップでは、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のうち、互いに前後する第一の位置S1と第二の位置S2において、それぞれ3箇所でタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線の位置座標を特定することもできる。具体的には、第一の位置S1においては、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側の第一の箇所aおよび第二の箇所bでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第三の箇所cでタッチセンシングを行う。そして、第二の位置S2においては、隅肉継手部の溶接線を挟んだ一方の側の第四の箇所dでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第五の箇所eおよび第六の箇所fでタッチセンシングを行う。この後、第一の箇所a、第二の箇所b、および第四の箇所dを含む第一の平面F1と、第三の箇所c、第五の箇所e、および第六の箇所fを含む第二の平面F2と、第一の箇所a、第二の箇所b、および第三の箇所cを含む第三の平面F3と、第四の箇所d、第五の箇所e、および第六の箇所fを含む第四の平面F4とを算出する。そして、第一の平面F1、第二の平面F2、および第三の平面F3の交点を第一の位置S1における溶接線の位置座標として特定し、第一の平面F1、第二の平面F2、および第四の平面F4の交点を第二の位置S2における溶接線の位置座標として特定するのである。
溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置を、順次上記の第一の位置S1、第二の位置S2に当てはめて同様の処理を行うことで、それぞれの位置における溶接線の位置座標を特定できる。
この場合も、ワークが傾いていた場合や、隅肉継手部の角度がずれていた場合にも、溶接線の位置座標を正確に特定することができる。また、タッチセンシングを行う箇所数が少ないので、溶接線位置の特定を迅速に行える。
【0017】
さて、上記したような手法は、MIG溶接(Metal Inert Gas welding)等において、溶接トーチの先端に取り付けられたシールドノズルからシールドガスを吐出するとともに、シールドノズルをワークに接触させながら隅肉溶接を行う場合に有効である。これ以外にも、シールドガスを用いない場合等においても、適宜のタッチセンサを用いることで溶接トーチの軌道情報を高精度に生成して、溶接を行うことが可能である。
【0018】
ところで、例えば、図26(a)に示すように、シールドノズル105をワーク(隅肉継手)106に接触させながら溶接を行う場合、前述したように、基準ワークモデル101に対する実ワーク102のずれ量を求めるセンシング過程で、ワイヤ100aの突き出し長さは一定である。そして、溶接時におけるワイヤ100aの突き出し長さも、このずれ量を求める過程の突き出し長さと一致させることを前提としている。この場合、継手角度が一定のワーク106を溶接する場合には支障はない。ところが、溶接線上の位置によって継手角度が変化するワーク106を溶接する場合には、問題が生ずる。すなわち、図26(b)に示すように、継手角度が小さい部分では、ワーク106とシールドノズル105が干渉してしまい、溶接自体ができなくなる。また、図26(c)のように、継手角度が大きい部分では、ワーク106とシールドノズル105とが離間してしまい、シールドガスのシールド性を確保することができなくなる。
【0019】
従来、図25にも示しているように、突き出し量が一定のワイヤ100aにタッチセンサの機能を持たせてセンシングを行っていた。したがって、前述したように、ワーク106とシールドノズル105の干渉または離間が発生した。そこで、本発明者は、ワークに接触させるべきシールドノズルにタッチセンサの機能を持たせ、シールドノズルのずれ量を求めることを着想した。センシングの際にシールドノズルと実ワークとは接触するから、このセンシングに基づき補正されたトーチの軌道情報に沿って溶接を行う過程で、シールドノズルと実ワークとの接触を確保することができる。これにより、継手角度が変化するワークであっても、シールドノズルとワークの干渉または離間を防止して自動で溶接を行うことが可能となる。
【0020】
このような着想に基づき、本発明者らは、以下のような溶接方法を既に提案した(特願2007−44822)。この方法は、ガスシールドアーク溶接によって溶接される隅肉継手部を有するワークの設計データに基づいて、溶接する際の溶接トーチの基準軌道情報を作成するステップ(a)と、基準軌道情報に対する溶接トーチの位置ずれ量を、溶接位置に実際にセットされたワークへのタッチセンシングにより取得するステップ(b)と、溶接トーチの位置ずれ量に基づいて基準軌道情報を補正して実軌道情報を作成するステップ(c)と、実軌道情報に基づいて溶接トーチの軌道を制御して溶接するステップ(d)と、を備えている。ここで、溶接は、溶接トーチの先端に取付けられ、かつ溶接時にシールドガスが吐出されるシールドノズルを隅肉継手部に接触させながら行われる。シールドガスによるシールド性を確保するためである。そこで、基準軌道情報を、シールドノズルをワークに接触させながら溶接するものとして作成するとともに、溶接トーチの位置ずれ量を、シールドノズルをワークに接触させることにより取得する。その結果、補正された溶接トーチの実軌道情報に基づいて、シールドノズルをワークに接触させながら溶接を行うことができる。
このような溶接方法において、シールドノズル上において、溶接の際にシールドノズルが隅肉継手部に接触する位置にタッチセンサの触針を配置して、ワークへのタッチセンシングを行うことができる。シールドノズル自体がワークに接触してセンシングできることから、その結果得られる溶接トーチの実軌道情報は、シールドノズルとワークの接触を確保するものとなる。
【0021】
また、シールドノズルと同形状を有したシールドノズル模擬体にタッチセンサの機能を持たせてセンシングを行っても、溶接位置に実際にセットされたワークに対する溶接トーチの位置ずれ量を同様に取得することができる。そして、実際に溶接を行う際には模擬体に替えてシールドノズルを装着すればよい。この着想は、シールドノズルが取付けられた溶接トーチ全体を、タッチセンサとしての機能を有する模擬体に替えて実現することを含む。つまり、シールドシールドノズルに替えて、シールドノズル模擬体をワークに接触させることにより、溶接トーチの位置ずれ量を取得することもできる。
【0022】
上記のような技術について、本発明者らが更なる検討を重ねた結果、上記技術には以下に示すような解決すべき課題があることを見出した。
まず、シールドノズル模擬体を用いてセンシングを行う場合には、実際に溶接を行うときに用いるシールドノズルとの間での精度の確保に課題がある。すなわち、シールドノズル模擬体でセンシングを行った後、シールドノズル模擬体をシールドノズルに交換する際、その取付誤差等により、位置ずれが生じる可能性がある。また、使用に伴い、シールドノズル模擬体やシールドノズルに変形などが生じれば、これも実際のシールドノズルに交換したときの位置ずれに繋がる。さらに、ワークが大型のものである場合、溶接トーチも長尺なものとなることがある。長尺な溶接トーチにおいては、使用にともなって外力等によって形状変化が生じることもある。したがって、シールドノズル模擬体とシールドノズルの双方の精度維持が必要となり、そのための管理に手間がかかる。
また、シールドノズル模擬体を用いず、シールドノズルにタッチセンサの触針を設ける場合、溶接トーチやシールドノズルが導電性材料から形成されているため、これらと触針との絶縁を図る必要がある。このためには触針と溶接トーチおよびシールドノズルとの間に絶縁層を形成する必要があるが、溶接トーチは、隅肉継手部の狭い空間に挿入する必要があるため、絶縁のために溶接トーチやシールドノズルが大型化するのは好ましくない。しかし、絶縁層の厚さが小さくては、十分な絶縁が図れない。
さらに、触針は、シールドノズルあるいはシールドノズル模擬体に対称な位置に一対を設ける必要があるが、それぞれの触針に通電するための配線も必要であり、これもシールドノズルあるいはシールドノズル模擬体の大型化につながってしまう。加えて、溶接線が3次元的に湾曲しているような場合、シールドノズルあるいはシールドノズル模擬体の中心軸に対し、隅肉継手部の両側の被溶接材料の位置(角度)が、溶接線上の位置によって異なる。その結果、シールドノズルあるいはシールドノズル模擬体に設けられた一対の触針に対するワークのタッチ角度が変わり、確実なタッチセンシングが行えないこともある。これに対応するため、溶接トーチをその中心軸線周りに回転させ、一対の触針によるワークのタッチ角度を常に適切なものとすることも考えられるが、これでは制御が複雑化する。
上記したような理由から、本発明者らが既に提案した手法については更なる改善の余地があるのである。
【0023】
そこで、本発明においては、シールドノズルを用いる場合、タッチセンサは、導電性材料から形成されたシールドノズルと、シールドノズルに電圧を印加する電源と、シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの溶接トーチの位置座標を取得するコントローラと、を含むものとすることを提案する。つまり、シールドノズル自体をタッチセンサとして機能させるのである。これによって上記のような問題が解決できる。
【0024】
本発明は、隅肉継手部を有するワークの隅肉溶接を行う溶接トーチと、溶接トーチを移動させる移動装置と、溶接トーチに設けられて溶接時にシールドガスを吐出し、導電性材料からなるシールドノズルと、シールドノズルに電圧を印加する電源と、シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの溶接トーチの位置座標を取得するとともに、取得された位置座標に基づき溶接トーチを隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を生成する軌道生成部と、軌道情報に基づいて溶接トーチの動作を制御するトーチ動作制御部と、を備えることを特徴とする溶接装置とすることもできる。
【0025】
ここで、軌道生成部は、ワークに対し、溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、隅肉継手部の溶接線を挟んだ両側でシールドノズルを3箇所以上で接触させて各箇所の位置座標を取得し、取得された各箇所の位置座標から位置における溶接線の位置座標を特定し、特定された溶接線の位置座標から軌道情報を生成するものとすることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、実際のワークに対して、溶接線に沿った複数の位置のそれぞれにおいて、3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線の位置座標を高精度に特定することができ、特定された位置座標から溶接トーチの軌道情報を生成できる。このとき、最小限の箇所へのタッチセンシングにより溶接線の位置座標が高精度に特定できるので、実溶接線の検出をより迅速に行うことが可能となる。
また、シールドノズル自体をタッチセンサとして機能させることにより、シールドノズル模擬体を用いる場合に比較し、精度を確実に確保できる。また、シールドノズルにタッチセンサの触針を設ける場合に比較し、シールドノズルが大型化することもなく、隅肉継手部の狭い空間にもシールドノズルを確実に挿入してタッチセンシングや溶接を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用した自動溶接装置1の概略構成を示す図である。なお、自動溶接装置1は、例えばMIG溶接、TIG溶接(Tungsten Inert Gas)、MAG溶接(Metal Active Gas welding)等のシールドガスをシールドノズルから吐出するガスシールド溶接に広く適用することができる。
【0028】
自動溶接装置1は、図1に示すように、溶接ワイヤ5を保持する溶接トーチ2と、溶接トーチ2の先端に着脱自在に取付けられるシールドノズル3と、を備えている。ここで、シールドノズル3は、実際にセットされたワーク13(以下、これを実ワークと称することがある)の位置を検出するためのタッチセンサとして機能するものとされている。
なお、図1は、実ワークの位置ずれ量を検出する状態を示しているため、溶接ワイヤ5はシールドノズル3内に退避している。溶接時には溶接ワイヤ5はシールドノズル3から所定の長さだけ突き出す。自動溶接装置1は、所謂消耗電極式の溶接装置であり、溶接ワイヤ5は溶接時には図示しないワイヤ供給装置から逐次供給される。
また、自動溶接装置1は、溶接トーチ2を保持する多関節ロボット(移動装置)6、シールドガスを供給するガス供給装置7、この多関節ロボット6を駆動制御するロボットコントローラ(コントローラ、トーチ動作制御部)8、シールドノズル3に所定の電圧を印加するセンサ用電源(電源)9、溶接時に溶接ワイヤ5に電力を供給する溶接電源10を備えている。
さらに、自動溶接装置1はCADシステム11およびオフライン教示データ作成システム(軌道生成部)12を備えている。
【0029】
自動溶接装置1にて溶接されるワーク13は、底板13aと縦板13bを備えている。隅肉継手を構成するワーク13は、溶接線13cが連続する方向において、図1に示すように底板13aと縦板13bからなる継手角度が一定ではなく、変化する。このワーク13は、図中、手前から継手角度が連続的に小さくなる例を示しているが、本発明はこれに限らず、継手角度が増減するワークについて適用できることは言うまでもない。また、図1において、溶接線13cは直線状であるが、溶接線13cは、3次元状に湾曲したものであっても本発明は適用できる。
【0030】
自動溶接装置1は、ガス供給装置7から供給され、かつ溶接トーチ2を通過してきた不活性ガスで溶接部分を外部から効果的にシールドするために、シールドノズル3を備えている。シールドノズル3は、中空円筒状の形態をなしている。ワーク13を溶接する場合、図26に示したのと同様にして、シールドノズル3の先端外周縁を、底板13aおよび縦板13bに接触させる。シールド性を高めるためである。シールドノズル3の先端外周縁の1点が底板13aに接触し、この点と中心を挟んで対称に位置するシールドノズル3の先端外周縁の1点が縦板13bに接触しながら、ワーク13の長手方向に連続する溶接線13cに沿って溶接が行われる。溶接時には、溶接電源10から溶接ワイヤ5に電力を供給するとともに、ガス供給装置7からシールドガス(不活性ガス)を供給する。溶接電源10からの電力供給制御、ガス供給装置7からのシールドガス供給制御は、ロボットコントローラ8によって行われる。
【0031】
シールドノズル3は、導電性材料から形成され、外形が、例えば円形、矩形等、左右対称形状とされている。
このシールドノズル3を実ワークの位置を検出するためのタッチセンサとして機能させるため、センサ用電源9からシールドノズル3に電圧を印加するための通電ケーブル4a、4bがシールドノズル3に接続されている。
センサ用電源9から通電ケーブル4a、4bを介して電圧が印加された状態で、シールドノズル3が底板13aまたは縦板13bに接触すると、シールドノズル3に印加されていた電圧が低下する。センサ用電源9に電気的に接続されるロボットコントローラ8において、この電圧の低下を検知することで、シールドノズル3が底板13aまたは縦板13bに接触したことを検出できる。ロボットコントローラ8においては、シールドノズル3の底板13aまたは縦板13bへの接触を検出したときのシールドノズル3(溶接トーチ2)の位置(座標)を検出できるようになっている。
このとき、シールドノズル3の移動方向は既知であるため、ロボットコントローラ8では、底板13aに接触したのか、縦板13bに接触したのかを認識できる。そして、シールドノズル3の外形寸法も既知であるため、ロボットコントローラ8で検出する位置座標から、シールドノズル3の底板13aまたは縦板13bに対するタッチ箇所の位置座標を検出できる。
【0032】
多関節ロボット6は、例えば、6つの互いに独立したジョイントを有するものとすることができる。多関節ロボット6は、ヘッド6aを備え、このヘッド6aで溶接トーチ2を保持する。ヘッド6aを移動させることにより、溶接軌道上に沿って溶接トーチ2を自在に移動させることができる。ヘッド6aに対して溶接トーチ2は着脱自在な装置を別途設けることにより、溶接トーチ2を自動で交換する自動溶接装置1とすることができる。これらの動作は、多関節ロボット6に電気的に接続されるロボットコントローラ8により制御される。
【0033】
ロボットコントローラ8は、センサ用電源9、溶接電源10の動作を制御する他、上述のように、多関節ロボット6の動作を制御する。この動作制御は、基準ワークモデル(設計モデル)に対する実ワークのずれ量の検知、溶接時の溶接トーチ2の動作を含んでいる。ロボットコントローラ8には、オフライン教示データ作成システム12が接続され、かつオフライン教示データ作成システム12を介してCADシステム11が接続されている。ロボットコントローラ8は、コンピュータ装置のCPUやメモリ等が協働して所定の処理を実行することによって上記の動作制御を実現する。
【0034】
CADシステム11は、オフライン教示データ作成システム12と協働して、ワーク13のCADデータ(設計データ)に基づき、より理想的な溶接状態を得るための溶接トーチ2の基準軌道情報を作成する。CADシステム11は、マウス、キーボード等からなる入力手段と、予めインストールされたコンピュータプログラムに基づいて所定の処理を行う処理手段と、処理手段での処理結果等を出力(表示)する表示部と、溶接対象物であるワーク13のCADデータ等、各種データを格納するデータ格納部とを含んでいる。オフライン教示データ作成システム12は、オフライン教示データを作成するためのコンピュータプログラムを含んでいる。
【0035】
CADシステム11において基準軌道情報を作成するには、まず、処理手段にて、データ格納部から読み出されたワーク13のCADデータに基づき、ワーク13の三次元モデル(ワーク形状モデル)を仮想的に作成する。このモデルが基準ワークモデルとなる。このモデルは、少なくともワーク13の底板13a、縦板13bの表面の形状を示す線分を含んでいる。ワーク形状モデルは、表示部に表示される。オペレータは、表示部に表示されたワーク13のワーク形状モデルを見ながら、溶接トーチ軌道生成の基準となる溶接線位置情報を、入力手段のマウス等を用いて作成する。したがって、この溶接線位置情報は、CADシステム11とオフライン教示データ作成システム12が協働してティーチングによって作成される。次に、CADシステム11およびオフライン教示データ作成システム12は、データ格納部に格納された溶接トーチ2の寸法データおよび溶接線位置情報に基づき、溶接線位置情報で特定される溶接線に沿って溶接トーチ2が溶接を行うための基準軌道情報を作成する。
つまりこのようにして作成された基準軌道情報は、設計データ(基準ワークモデル)上における基準軌道を示す情報である。
【0036】
オフライン教示データ作成システム12は、実際にセットされたワーク13の溶接線13cに沿って溶接トーチ2を移動させるため、前記のように作成された基準軌道情報を、実際にセットされたワーク13の位置に応じて補正し、実軌道情報(軌道情報)を作成する。
【0037】
次に、自動溶接装置1を用いてワーク13の底板13aおよび縦板13bを溶接する手順についてなお、以下に示す処理は、CADシステム11、オフライン教示データ作成システム12が協働して、予めインストールされたプログラムに基づいて所定の処理を実行することで行われる。
【0038】
自動溶接装置1を用いてワーク13を溶接する場合、まず、前述したように、実際の溶接を行う前に溶接トーチ2の実軌道情報を作成する。これには、図2のS101(ワーク形状モデル作成)、S103(溶接線位置情報作成)、S105(トーチ基準軌道情報作成)、S107(タッチセンシング)およびS109(トーチ軌道補正)の各ステップを順次行う。溶接トーチ2の実軌道情報の作成が終了した後に、当該軌道情報に基づいて溶接トーチ2を移動させながら溶接を実行させる。
【0039】
「ステップS101(ワーク形状モデル作成)」
溶接トーチ2の実軌道情報作成の最初の手順として、ワーク13について、三次元のワーク形状モデルを作成する。このモデルは、前述したようにして、CADシステム11の処理手段がデータ格納部から読み出したワーク13のCADデータに基づいて作成される。この三次元のワーク形状モデルが基準ワークモデルとなる。したがって、このモデルはx,yおよびzの三次元座標によって特定される。
【0040】
「ステップS103(溶接線位置情報作成)」
基準ワークモデルが作成されたならば、このモデル上における溶接線の位置情報が作成される。この溶接線位置情報は、前述したように、CADシステム11とオフライン教示データ作成システム12が協働して作成される。この溶接線位置情報もまた、x,yおよびzの三次元座標によって特定される。溶接線の位置情報は、基準ワークモデル上の溶接線上において、互いに間隔を隔てた複数の点の位置情報からなる。これにより、基準ワークモデル上における溶接線(これを基準溶接線と適宜称する)を特定できる。
【0041】
「ステップS105(トーチ基準軌道情報作成)」
ロボットコントローラ8は、CADシステム11およびオフライン教示データ作成システム12により作成された溶接線位置情報とデータ格納部に格納された溶接トーチ2の寸法データを取得し、溶接線位置情報で特定される基準溶接線に沿って溶接トーチ2が溶接を行うための基準軌道情報を作成する。
【0042】
「ステップS107(タッチセンシング)」
次いで、実際にセットされたワーク13へのタッチセンシングを行う。タッチセンシングのステップは、本願発明の最も特徴的な部分であり、後に詳述するように複数のステップを含んでいる。タッチセンシングはロボットコントローラ8が、多関節ロボット6の動作を制御して、タッチセンサとして機能するシールドノズル3を接触させることでワーク13の位置を検出し、基準ワークモデルに対するワーク13の位置ずれ量を取得する。
【0043】
上記のタッチセンシングは、ワーク13を所定の溶接位置に設置して行う。ワーク13を設置する対象は特に限定されず、タッチセンシング時および溶接時にワーク13を適切に固定できるものであればよい。ワーク13の姿勢を変えることのできるポジショナに設置することもできる。
そして、ワーク13の溶接線13cに沿って互いに間隔を隔てた複数の位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおいて、タッチセンシングを行っていき、位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおいて、溶接線13cの位置(底板13aと縦板13bの交差位置)情報を取得する。
【0044】
「ステップS109(トーチ軌道補正)」
位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおける、溶接線13cの位置情報が求められたなら、この位置情報を用いてロボットコントローラ8がトーチ軌道補正を行う。トーチ軌道補正は、ステップS105で作成された基準軌道情報に含まれる位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおける基準溶接線の位置と、前記の実際のワーク13の溶接線13cの位置とのずれ量を算出し、基準軌道情報にこのずれ量を加算することにより得ることができる。例えば、位置y1におけるトーチ軌道情報を(x1、z1)とし、位置y1における位置ずれ量を(Δx1、Δz1)とすると、(x1+Δx1、z1+Δz1)が補正された実軌道情報となる。補正された実軌道情報は、実際の溶接線13cに対応する。この補正を、位置y2、y3、…、ynまで行って、トーチ軌道の補正は終了する。
【0045】
位置ずれ量を求めるワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置は任意であるが、必要以上に多くの位置で位置ずれ量を求めることにすれば、センシングの時間が無駄に長くなる。そこで、溶接線13cの曲率に応じてセンシングを行う位置を定めることが好ましい。図3はこのことを示している。つまり、溶接線13cの曲率が大きい領域ではセンシングの間隔が広くなるようにセンシングの位置を特定し、逆に、溶接線13cの曲率が小さい領域ではセンシングの間隔が狭くなるようにセンシングの位置を特定する。そうすることにより、位置精度を確保しつつもセンシング点数を低減することができる。溶接線13cの曲率は、ティーチングによって求められる基準溶接線から求めることができる。そして、得られた実軌道情報(x1+Δx1、z1+Δz1)、(x2+Δx2、z2+Δz2)(x3+Δx3、z3+Δz3)、(x4+Δx4、z4+Δz4)…の間は、当該曲率に応じて直線補間または円弧補間すればよい。
【0046】
なお、以上では溶接線13cの位置ずれ量として説明した。しかし、位置検出はシールドノズル3で行うため、溶接線13cを溶接するときのシールドノズル3の位置ずれ量として取り扱うことも可能である。さらに、シールドノズル3は溶接トーチ2に取付けられているものであるから、溶接トーチ2の位置ずれ量として取り扱うこともできる。
【0047】
「ステップS111(溶接)」
実軌道情報に基づいて溶接トーチ2を移動させながら溶接が行われる。一連の溶接の制御はロボットコントローラ8が行う。なお、トーチ軌道の補正までは、溶接ワイヤ5はシールドノズル3内に退避しているので、溶接ワイヤ5を所定長だけ突き出した後に溶接を行う。溶接は、シールドノズル3をワーク13に接触させながら、かつシールドノズル3内にシールドガスを供給しながら行う。
ワーク13の場合、溶接線13cが一つであるが、複数の溶接線13cを有するワーク13の場合には、溶接線13c毎にステップS103(溶接線位置情報作成)〜S111(溶接)までの手順を実行する(ステップS113、S117)。
全ての溶接線13cについて溶接が完了したならば(ステップS113)、次に溶接すべきワーク13がある場合には(ステップS115)、次のワーク13について、ステップS101(ワーク形状モデル作成)〜S111(溶接)までの手順を実行する。次に溶接すべきワーク13がない場合には(ステップS115)、一連の処理は終了する。
【0048】
ここで、前記のタッチセンシングのステップS107について詳述する。図4はタッチセンシングの詳細な処理の流れを示す図である。タッチセンシングを行うには、まず、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1、y2、y3、…、ynのそれぞれにおいて、タッチセンシングを行う際の、基準となる当初のタッチセンサの位置(以下、これを初期位置と称する)P1、P2、P3、…、Pnを設定する。例えば図5に示すように、初期位置P1は、ワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置y1におけるものである。この初期位置P1は、オペレータがティーチングによって設定する。ただし、初期位置P1の設定はティーチングに限定されるものではなく、基準軌道情報に所定のオフセット値を与える等の方法により自動設定してもよい。なお、初期位置P1の設定にあたっては、タッチセンサとワーク13とが干渉しないように行われることは言うまでもない。
【0049】
この後、まず、位置y1におけるタッチセンシングを行う。
「ステップS201(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
図5に示すようにワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置y1における初期位置P1にタッチセンサを移動させる。ここでいうタッチセンサとは、センサ用電源9から通電したシールドノズル3を意味し、シールドノズル3の中心が初期位置P1と一致するように移動させる。なお、シールドノズル3は溶接トーチ2に取付けられているが、図5〜図9ではシールドノズル3のみを記載している。
図5において、ワーク(実ワーク)13は便宜上、図1の設置状態とは姿勢を変えて描いている。また、図5は、位置y1におけるワーク13の断面を示している。さらに、図5において、三次元x、y、zの軸方向は図示矢印のように定義されるものとする。したがって、y軸はワーク13の長手方向に沿っている。図5に示すように、ワーク(実ワーク)13は、基準ワークモデル13’に対してずれて設置されている。
【0050】
「ステップS202(タッチセンサ底板13aに接触)」
初期位置P1のシールドノズル3を、図6に示すように、図中右方向に移動させて底板13aに接触させる。初期位置P1から底板13aに接触したことを検知するまでのシールドノズル3の移動量xRが求められる。シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。ロボットコントローラ8は、移動量xRを取得する。
「ステップS203(タッチセンサ縦板13bに接触)」
移動量xRが求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、図7に示すように、シールドノズル3を図中左方向に移動させる。縦板13bに接触したことを検知することにより、初期位置P1から縦板13bに接触するまでのシールドノズル3の移動量xLが求められる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。ロボットコントローラ8は、移動量xLを取得する。
「ステップS204(底板13a−縦板13b間の中央位置座標Pc1算出)」
移動量xRおよび移動量xLが求められたなら、ロボットコントローラ8は(xR+xL)/2の演算処理を行う(図8)。この演算処理で求められる中央位置座標Pc1は、底板13aと縦板13bの間の中央となる。この中央位置座標Pc1は、初期位置P1を通りかつx軸と平行な線上に存在する。
【0051】
「ステップS205(タッチセンサ中央位置へ移動、下降)」
底板13aと縦板13bの間の中央位置座標Pc1が求められたなら、図8に示すように、シールドノズル3の中心が中央位置座標Pc1と一致するようにシールドノズル3を移動させる。
シールドノズル3が中央位置座標Pc1に移動したならば、今度は、シールドノズル3をz軸方向に平行に下降させる。すると、図9に示すように、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触する。そこで、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触したときの位置座標Pw1を取得する。
【0052】
このとき、ワーク13の形状が複雑な3次元形状である場合や、ワーク13が基準ワークモデル13’に対して傾いて設置されている場合等においては、シールドノズル3をz軸方向に平行に下降させても、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触しないことがある。そこで、ワーク13の形状等によっては、シールドノズル3を中央位置座標Pc1に移動させた後、シールドノズル3をz軸方向に平行に所定寸法だけ移動させ、溶接線13cに接近させる(ステップS206、S207)。このときの移動寸法は、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触しない位置までの下降に留める。
その位置において、上記のステップS202、S203、S204を、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触するまで繰り返す。そして、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触したときの位置座標Pw1を取得する。
【0053】
ここで、図2のステップS105において作成されている溶接トーチ2の軌道情報から、シールドノズル3が基準ワークモデル13’の底板13’aおよび縦板13’bに接触する位置座標P’w1を算出することができる。したがって、図9に示すように、位置座標Pw1と位置座標P’w1を比較することにより、基準ワークモデル13’に対するワーク(実ワーク)13の位置ずれ量(Δx1、Δz1)を求めることができる(ステップS208)。
【0054】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向における位置y1におけるワーク13の位置ずれ量の算出が終了する。ワーク13の溶接線13cに沿った方向における他の位置(位置y2、y3、…、yn)において、ワーク13の位置ずれ量の算出が必要であれば、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ、他の位置(位置y2、y3、…、yn)に位置させる(ステップS209、S210)。そして、ステップS201に戻り、上記と同様の位置ずれ量の算出を行う。必要とされる全ての溶接線13cに沿った方向における他の位置において、ワーク13の位置ずれ量の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0055】
本実施の形態による自動溶接装置1は、ワーク13の位置ずれ量を、シールドノズル3をワーク(実ワーク)13に接触させて自動的に算出することができる。したがって、自動溶接装置1がシールドノズル3をワーク13に接触させながら溶接する場合にも、溶接の過程においてシールドノズル3がワーク13と干渉し、あるいはシールドノズル3がワーク13から離間することがない。また、シールドノズル3自体をタッチセンサとして機能させるので、シールドノズル模擬体を用いる場合に比較し、精度を確実に確保できる。また、シールドノズル3にタッチセンサの触針を設ける場合に比較し、シールドノズル3が大型化することもなく、隅肉継手部の狭い空間にもシールドノズル3を確実に挿入してタッチセンシングや溶接を行うことが可能となる。
また、このとき、ワーク13の形状が複雑な3次元形状である場合や、ワーク13が基準ワークモデル13’に対して傾いて設置されている場合等においては、溶接線13cに沿った複数の位置(位置y1、y2、…、yn)のそれぞれにおいて3箇所以上のタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における溶接線13cの位置座標を高精度に特定することができ、特定された位置座標から溶接トーチ2の実軌道情報を生成できる。このとき、最小限の箇所へのタッチセンシングにより溶接線13cの位置座標が高精度に特定できるので、実溶接線の検出をより迅速に行うことが可能となる。
【0056】
ところで、上記のステップS107のタッチセンシングにおいては、図4に示したような処理に変えて、図10に示すような処理を採用することもできる。
「ステップS301(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
まず、設定された初期位置P1にタッチセンサ(シールドノズル3)を移動させる。
【0057】
「ステップS302(タッチセンサ底板13aに接触)」
初期位置P1のシールドノズル3を、図6に示すように、図中右方向に移動させて底板13aに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所の位置座標P11を取得する。
【0058】
「ステップS303(タッチセンサ縦板13bに接触)」
位置座標P11が求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、図7に示すように、シールドノズル3を図中左方向に移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。縦板13bに接触したときのシールドノズル3の位置座標P12を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0059】
「ステップS304(タッチセンサ下降)」
位置座標P11と位置座標P12が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P11と位置座標P12の間の位置に移動させる。そして、図11に示すように、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの移動位置、下降寸法は、シールドノズル3を下降させても底板13aおよび縦板13bに接触しない位置、寸法とする。
【0060】
「ステップS305(タッチセンサ底板13aに接触)」
その位置において、図12に示すように、x軸と平行に図中右方向に移動させて底板13aに接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所の位置座標P13を取得する。
【0061】
「ステップS306(タッチセンサ縦板13bに接触)」
次いで、縦板13bに接触するまで、図13に示すように、シールドノズル3をx軸と平行に図中左方向に移動させる。縦板13bに接触したときのシールドノズル3の位置座標P14を、ロボットコントローラ8で取得する。
このようにして、タッチセンサを、底板13a、縦板13bのそれぞれにおいて2点ずつ、合計4点で接触させる。
【0062】
「ステップS307(溶接位置の算出)」
このようにして取得された位置座標P11、P13から、図14に示すように、底板13aの表面に沿った仮想線(第一の仮想線)Laを算出し、位置座標P12、P14から、縦板13bの表面に沿った仮想線(第二の仮想線)Lbを算出し、最終的に、仮想線La、Lbの交点、すなわち位置y1における溶接位置P15を算出する。
【0063】
ここで、図2のステップS105において作成されている溶接トーチ2の軌道情報は、基準ワークモデル13’における溶接位置P’15を含むことができる。したがって、図14に示すように、溶接位置P15と溶接位置P’15を比較することにより、基準ワークモデル13’とワーク(実ワーク)13の位置ずれ量(Δx1、Δz1)を求めることができる。
【0064】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1におけるワーク13の位置ずれ量の算出が終了する。この後、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ、他の位置(位置y2、y3、…、yn)に位置させる(ステップS308、S309)。そして、ステップS301に戻り、上記と同様の位置ずれ量の算出を行う。必要とされる他の位置の全てにおいて、ワーク13の位置ずれ量の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0065】
このようにすることで、ワーク13の溶接線13cに沿った各位置において、4点においてのみ位置検出を行うことで、シールドノズル3の位置ずれ量を求め、トーチ軌道補正を行うことができる。ここで、前述の図4に示した手法の場合、ワーク13が複雑な3次元形状等である場合等には、シールドノズル3を徐々に下降させながら、底板13a、縦板13bへのタッチセンシングを多数回繰り返す必要があったが、図10に示した手法によれば、4点のみの位置検出で、溶接位置P15の高精度な検出・補正が行える。
【0066】
上記のステップS107のタッチセンシングにおいては、図15に示すような処理を採用することもできる。
「ステップS401(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
まず、設定された初期位置P1にタッチセンサを移動させる。
【0067】
「ステップS402(タッチセンサ縦板13bに接触)」
初期位置P1のシールドノズル3を、図16に示すように、図中左方向に移動させて縦板13bに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所の位置座標P21を取得する。
【0068】
「ステップS403(タッチセンサ底板13aに接触)」
位置座標P21が求められたら、次いで、底板13aに接触するまで、図17に示すように、シールドノズル3を図中右方向に移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。底板13aに接触したときのシールドノズル3の位置座標P22を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0069】
「ステップS404(タッチセンサ下降)」
位置座標P21と位置座標P22が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P21と位置座標P22の間の位置に移動させる。そして、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの移動位置、下降寸法は、シールドノズル3を下降させても底板13aおよび縦板13bに接触しない位置、寸法とする。
【0070】
「ステップS405(タッチセンサ縦板13bに接触)」
その位置において、図18に示すように、x軸と平行に図中一方の側(例えば左方向)に移動させて底板13a、縦板13bのいずれか一方(例えば縦板13b)に接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所の位置座標P23を取得する。
【0071】
「ステップS406(基準ワークモデル13’の移動)」
次いで、図19に示すように、取得された縦板13b上の位置座標P21に、基準ワークモデル13’の縦板13’bが重なるように基準ワークモデル13’をセットする。
【0072】
「ステップS407(基準ワークモデル13’の回転)」
次いで、図20に示すように、取得された縦板13b上の位置座標P21、P23の2点を含む仮想線Lを算出し、さらにこの仮想線Lと、基準ワークモデル13’における縦板13’bの表面を示す線分との角度θを算出する。
そして、基準ワークモデル13’を、位置座標P21を中心として角度θだけ回転させる。すると、図21に示すように、基準ワークモデル13’の縦板13’bの表面を示す線分が、仮想線L、すなわち実際のワーク13の縦板13bに重なる。
【0073】
「ステップS408(基準ワークモデル13’の実際のワーク13への合わせ込み)」
基準ワークモデル13’を回転させた時点においては、図21に示すように、実際のワーク13と基準ワークモデル13’とが、底板13a側においてずれている。そこで、図22に示すように、基準ワークモデル13’の底板13’aの表面を示す線分が位置座標P22を含むように、基準ワークモデル13’を縦板13’bに平行な方向に移動させる。
これにより、基準ワークモデル13’が実際のワーク13に合致することになる。
「ステップS409(溶接位置の算出)」
そこで、基準ワークモデル13’における底板13’aの表面を示す線分と縦板13’bの表面を示す線分との交点を算出する。算出した交点の位置を、溶接位置P25とすることができる。
【0074】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1における溶接位置P25の取得が終了する。この後、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ、他の位置(位置y2、y3、…、yn)に位置させる(ステップS410、S411)。そして、ステップS401に戻り、上記と同様の溶接位置の算出を行う。必要とされる全ての溶接線13cに沿った方向における他の位置において、溶接位置の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0075】
このようにすることで、ワーク13の溶接線13cに沿った各位置において、溶接位置を求め、トーチ軌道補正を行うことができる。このとき、ワーク13が複雑な3次元形状等である場合においても、図4や図10に示した手法よりも少ない点数でのタッチセンシングにより溶接位置P25の高精度な検出が行え、生産性の向上に寄与できる。
【0076】
上記のステップS107のタッチセンシングにおいては、図23に示すような処理を採用することもできる。
まず、ワーク13の所定の溶接位置への設置、タッチセンサの初期位置の設定を行った後に、以下の処理を行う。
「ステップS501(タッチセンサ初期位置P1に移動)」
ワーク13の溶接線13cに沿った位置y1に設定された初期位置P1にタッチセンサを移動させる。
【0077】
「ステップS502(タッチセンサ底板13aに接触)」
図24に示すように、初期位置P1のシールドノズル3を移動させて底板13aに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所(第一の位置S1)の位置座標(第一の箇所a)P31を取得する。
【0078】
「ステップS503(タッチセンサ縦板13bに接触)」
位置座標P31が求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、シールドノズル3を移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所(第二の位置S2)の位置座標(第二の箇所b)P32を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0079】
「ステップS504(タッチセンサ下降)」
位置座標P31と位置座標P32が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P31と位置座標P32の間の位置に移動させる。そして、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの移動位置、下降寸法は、シールドノズル3を下降させても底板13aおよび縦板13bに接触しない位置、寸法とする。
【0080】
「ステップS505(タッチセンサ底板13aに接触)」
その位置において、x軸と平行に一方の側に移動させて底板13a、縦板13bのいずれか一方(本実施の形態では底板13a)に接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所(第三の位置)の位置座標(第三の箇所c)P33を取得する。
【0081】
「ステップS506(位置y2に設定された初期位置P2へのタッチセンサ移動)」
次いで、ワーク13の溶接線13cに沿った位置y2に設定された初期位置P2にタッチセンサを移動させる。
【0082】
「ステップS507(タッチセンサ底板13aに接触)」
初期位置P2のシールドノズル3を他方の側に移動させて底板13aに接触させる。このときのシールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が底板13aに接触した箇所(第四の位置)の位置座標(第四の箇所d)P34を取得する。
【0083】
「ステップS508(タッチセンサ縦板13bに接触)」
位置座標P34が求められたら、次いで、縦板13bに接触するまで、シールドノズル3を移動させる。この場合も、シールドノズル3の移動は、x軸と平行に行われる。シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所(第五の位置)の位置座標(第五の箇所e)P35を、ロボットコントローラ8で取得する。
【0084】
「ステップS509(タッチセンサ下降)」
位置座標P34と位置座標P35が求められたなら、シールドノズル3を位置座標P34と位置座標P35の間の位置に移動させる。
そして、シールドノズル3をz軸方向に平行に一定寸法だけ下降させる。このときの下降寸法は、シールドノズル3が底板13aおよび縦板13bに接触しない位置までの下降に留める。
【0085】
「ステップS510(タッチセンサ縦板13bに接触)」
その位置において、x軸と平行に、ステップS505とは反対の側に移動させて底板13a、縦板13bのいずれか他方(本実施の形態では縦板13b)に接触させる。そして、ロボットコントローラ8は、シールドノズル3が縦板13bに接触した箇所(第六の位置)の位置座標(第六の箇所f)P36を取得する。
【0086】
「ステップS511(仮想平面の算出)」
このようにして取得された6点の位置座標P31、P32、P33、P34、P35、P36、から、以下の仮想平面F1〜F4を算出する。
・仮想平面(第一の平面)F1:位置座標P31、P33、P34の3点を含み、底板13aに相当する平面、
・仮想平面(第二の平面)F2:位置座標P32、P35、P36の3点を含み、縦板13bに相当する平面、
・仮想平面(第三の平面)F3:位置座標P31、P32、P33の3点を含み、位置y1における断面に相当する平面、
・仮想平面(第四の平面)F4:位置座標P34、P35、P36の3点を含み、位置y2における断面に相当する平面。
【0087】
「ステップS512(溶接位置の算出)」
上記のように算出された仮想平面F1、F2、F3の交点を、位置y1における溶接位置P37として算出し、仮想平面F1、F2、F4の交点を、位置y2における溶接位置P38として算出する。
なお、溶接線13cが3次元曲線を描く場合であっても、互いに隣接する位置y1、y2間においては、上記のような仮想平面F1〜F4を組み合わせることで、ワーク13の形状をモデル化することができる。
【0088】
以上で、ワーク13の溶接線13cに沿った方向の位置y1、y2における溶接位置P37、P38の取得が終了する。
この後、シールドノズル3を、ワーク13の溶接線13cに沿った方向に移動させ(ステップS513、S514)、ステップS401に戻り、互いに前後する次の位置(位置y2、y3)について、上記と同様の溶接位置の算出を行う。このとき、位置y2における位置座標P34、P35、P36は既知であるため、新たに位置y3においてのみ、上記と同様に三点の位置座標を取得する(ステップS515〜S519)。そして、既知の位置y2における位置座標P34、P35、P36を前記のステップS511における位置座標P31、P32、P33に置き換え(ステップS520)、これら位置座標P31、P32、P33と、新たに取得した位置y3における位置座標P34、P35、P36とから、位置y3における溶接位置を算出する(ステップS511)。ただしこの場合、上記における「底板13a、縦板13bのいずれか一方」、「他方」は上記とは逆に取り扱う必要がある。
必要とされる全ての溶接線13cに沿った方向における他の位置において、上記と同様に順次溶接位置の算出を行っていき、すべての位置において溶接位置の算出が終了していれば、タッチセンシングのステップS107は終了する。
【0089】
このようにすることで、ワーク13の溶接線13cに沿った各位置において、溶接位置を求め、トーチ軌道補正を行うことができる。ここで、ワーク13の底板13aと縦板13bの継手角度が、ワーク13の姿勢等によって設計値に対してずれてしまうことがあるが、上記の手法によれば、そのような場合であっても、実際のワーク13の底板13aと縦板13bの継手角度に応じて溶接位置P37、P38の算出が行えるため、高精度な実軌道情報の生成が行える。また、この場合も、図15の手法と同様、より少ない点数でのタッチセンシングにより高精度な実軌道情報の生成が行えるため、生産性の向上に寄与できる。
【0090】
なお、上記実施の形態において、図4〜図24に示したような、実起動情報を生成するための各手法については、シールドノズル3自体をタッチセンサとして機能させる場合のみならず、シールドノズル3にタッチセンサの触針を設けたり、シールドノズル3に変えてタッチセンシング専用のシールドノズル模擬体を設けたりする場合にも適用することが可能である。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本実施の形態における自動溶接装置の概略構成を示す図である。
【図2】本実施の形態による自動溶接装置における溶接手順を示すフローチャートである。
【図3】センシング位置を特定する方法を説明する図である。
【図4】タッチセンサで実ワークの位置ずれ量を検出する手順を示すフローチャートである。
【図5】タッチセンサで実ワークの位置ずれ量を検出する原理を説明する図であって、タッチセンサが初期位置に配置された状態を示す図である。
【図6】同、タッチセンサが一方の板に接触した状態を示す図である。
【図7】同、タッチセンサが他方の板に接触した状態を示す図である。
【図8】同、タッチセンサが両方の板間の中央に配置した状態を示す図である。
【図9】同、タッチセンサが両方の板に接触した状態を示す図である。
【図10】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する手順を示すフローチャートである。
【図11】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する原理を説明する図であって、タッチセンサが初期位置に配置された状態を示す図である。
【図12】同、タッチセンサが一方の板に接触した状態を示す図である。
【図13】同、タッチセンサが他方の板に接触した状態を示す図である。
【図14】タッチセンシングした4箇所の位置情報から溶接線位置を算出する手法を示す図である。
【図15】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する他の手順を示すフローチャートである。
【図16】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出する原理を説明する図であって、タッチセンサが一方の板に接触した状態を示す図である。
【図17】同、タッチセンサが他方の板に接触した状態を示す図である。
【図18】同、タッチセンサを下降させて一方の板に接触した状態を示す図である。
【図19】タッチセンシングした3箇所の位置に対し、基準ワークモデルを合わせ込むため、基準ワークモデルを1箇所に位置に合わせてセットした状態を示す図である。
【図20】実ワークと基準ワークモデルの交差角度を示す図である。
【図21】基準ワークモデルを回転させて実ワークと同角度とした状態を示す図である。
【図22】基準ワークモデルを移動させて実ワークに合わせ込んだ状態を示す図である。
【図23】タッチセンサで実ワークにおける溶接線の位置を検出するさらに他の手順を示すフローチャートである。
【図24】図23の手法において、タッチセンシングを行う箇所と、溶接線の位置を算出するために用いる仮想平面との関係を示す図である。
【図25】隅肉継手において、タッチセンサで基準溶接線と実溶接線とのずれ量を検出する原理を説明する図である。
【図26】継手角度が変化するワークで、シールドノズルがワークと干渉し、または離間することを示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1…自動溶接装置、2…溶接トーチ、3…シールドノズル、5…溶接ワイヤ、6…多関節ロボット(移動装置)、7…ガス供給装置、8…ロボットコントローラ(コントローラ、トーチ動作制御部)、9…センサ用電源(電源)、10…溶接電源、11…CADシステム、12…オフライン教示データ作成システム(軌道生成部)、13…ワーク、13’…基準ワークモデル、13a…底板、13b…縦板、13c…溶接線、F1…仮想平面(第一の平面)、F2…仮想平面(第二の平面)、F3…仮想平面(第三の平面)、F4…仮想平面(第四の平面)、L…仮想線、La…仮想線(第一の仮想線)、Lb…仮想線(第二の仮想線)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隅肉継手部を有するワークを隅肉溶接する際に溶接トーチを前記隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を作成するステップと、
作成された前記軌道情報に基づいて前記溶接トーチを前記溶接線に沿って動作させて前記ワークを隅肉溶接するステップと、を備え、
前記軌道情報を作成するステップでは、前記ワークに対し、前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ両側でタッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行って各箇所の位置座標を取得し、
取得された前記各箇所の位置座標から前記位置における前記溶接線の位置座標を特定し、
特定された前記溶接線の位置座標から前記軌道情報を生成することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記ワークの設計データに基づいて、前記ワークを隅肉溶接する際に前記溶接トーチを動作させるための基準軌道情報を作成するステップをさらに備え、
前記軌道情報を作成するステップでは、特定された前記溶接線の位置座標の前記基準軌道情報に対する位置ずれ量を取得し、取得された前記位置ずれ量から前記基準軌道情報を補正し、
前記ワークを隅肉溶接するステップでは、補正された前記基準軌道情報を前記軌道情報とし、前記溶接トーチを動作させることを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記軌道情報を作成するステップでは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記ワークに対し、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側のタッチ箇所と他方の側のタッチ箇所でそれぞれタッチセンシングを行って、前記一方の側のタッチ箇所と前記他方の側のタッチ箇所の中間位置を算出するステップと、
算出された前記中間位置に前記タッチセンサを移動させ、さらに前記タッチセンサを前記溶接線に接近させるステップと、
を複数回繰り返すことで、前記位置における前記溶接線の位置座標を特定することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記軌道情報を作成するステップでは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側と他方の側で、それぞれ2箇所でタッチセンシングを行い、
前記隅肉継手部の一方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第一の仮想線と、前記隅肉継手部の他方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第二の仮想線との交点を、前記位置における前記溶接線の位置座標として特定することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記ワークの設計データに基づいて、少なくとも前記ワークの前記隅肉継手部の形状を示す設計モデルを生成するステップをさらに備え、
前記軌道情報を作成するステップは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側で2箇所のタッチセンシングを行うとともに、他方の側で1箇所のタッチセンシングを行うステップと、
前記設計モデルにおいて前記隅肉継手部の一方の側の形状を示す第一の線分が、前記溶接線を挟んだ一方の側でタッチセンシングを行った2箇所の位置座標に合致するよう、前記設計モデルを回転させるステップと、
回転させた前記設計モデルにおいて前記隅肉継手部の他方の側を示す第二の線分が、前記溶接線を挟んだ他方の側でタッチセンシングを行った1箇所の位置座標に合致するよう、前記設計モデルを前記第一の線分に平行に移動させるステップと、
平行移動した前記設計モデルにおける前記第一の線分と前記第二の線分の交点を、前記位置における前記溶接線の位置座標として特定するステップと、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記軌道情報を作成するステップでは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のうち、互いに前後する第一の位置S1と第二の位置S2において、それぞれ3箇所でタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における前記溶接線の位置座標を特定するため、
前記第一の位置S1において、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側の第一の箇所aおよび第二の箇所bでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第三の箇所cでタッチセンシングを行うステップと、
前記第二の位置S2において、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側の第四の箇所dでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第五の箇所eおよび第六の箇所fでタッチセンシングを行うステップと、
前記第一の箇所a、前記第二の箇所b、および前記第四の箇所dを含む第一の平面F1、前記第三の箇所c、前記第五の箇所e、および前記第六の箇所fを含む第二の平面F2、前記第一の箇所a、前記第二の箇所b、および前記第三の箇所cを含む第三の平面F3、前記第四の箇所d、前記第五の箇所e、および前記第六の箇所fを含む第四の平面F4を算出するステップと、
前記第一の平面F1、前記第二の平面F2、および前記第三の平面F3の交点を前記第一の位置S1における前記溶接線の位置座標として特定し、前記第一の平面F1、前記第二の平面F2、および前記第四の平面F4の交点を前記第二の位置S2における前記溶接線の位置座標として特定するステップと、を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記隅肉溶接は、前記溶接トーチの先端に取り付けられたシールドノズルからシールドガスを吐出するとともに、前記シールドノズルを前記ワークに接触させながら行われることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の溶接方法。
【請求項8】
前記タッチセンサは、
導電性材料から形成された前記シールドノズルと、
前記シールドノズルに電圧を印加する電源と、
前記シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの前記溶接トーチの位置座標を取得するコントローラと、
を含むことを特徴とする請求項7に記載の溶接方法。
【請求項9】
隅肉継手部を有するワークの隅肉溶接を行う溶接トーチと、
前記溶接トーチを移動させる移動装置と、
前記溶接トーチに設けられて溶接時にシールドガスを吐出し、導電性材料からなるシールドノズルと、
前記シールドノズルに電圧を印加する電源と、
前記シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの前記溶接トーチの位置座標を取得するとともに、取得された前記位置座標に基づき前記溶接トーチを前記隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を生成する軌道生成部と、
前記軌道情報に基づいて前記溶接トーチの動作を制御するトーチ動作制御部と、を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項10】
前記軌道生成部は、
前記ワークに対し、前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ両側で前記シールドノズルを3箇所以上で接触させて各箇所の位置座標を取得し、
取得された前記各箇所の位置座標から前記位置における前記溶接線の位置座標を特定し、特定された前記溶接線の位置座標から前記軌道情報を生成することを特徴とする請求項9に記載の溶接装置。
【請求項1】
隅肉継手部を有するワークを隅肉溶接する際に溶接トーチを前記隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を作成するステップと、
作成された前記軌道情報に基づいて前記溶接トーチを前記溶接線に沿って動作させて前記ワークを隅肉溶接するステップと、を備え、
前記軌道情報を作成するステップでは、前記ワークに対し、前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ両側でタッチセンサによる3箇所以上のタッチセンシングを行って各箇所の位置座標を取得し、
取得された前記各箇所の位置座標から前記位置における前記溶接線の位置座標を特定し、
特定された前記溶接線の位置座標から前記軌道情報を生成することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記ワークの設計データに基づいて、前記ワークを隅肉溶接する際に前記溶接トーチを動作させるための基準軌道情報を作成するステップをさらに備え、
前記軌道情報を作成するステップでは、特定された前記溶接線の位置座標の前記基準軌道情報に対する位置ずれ量を取得し、取得された前記位置ずれ量から前記基準軌道情報を補正し、
前記ワークを隅肉溶接するステップでは、補正された前記基準軌道情報を前記軌道情報とし、前記溶接トーチを動作させることを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記軌道情報を作成するステップでは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記ワークに対し、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側のタッチ箇所と他方の側のタッチ箇所でそれぞれタッチセンシングを行って、前記一方の側のタッチ箇所と前記他方の側のタッチ箇所の中間位置を算出するステップと、
算出された前記中間位置に前記タッチセンサを移動させ、さらに前記タッチセンサを前記溶接線に接近させるステップと、
を複数回繰り返すことで、前記位置における前記溶接線の位置座標を特定することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記軌道情報を作成するステップでは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側と他方の側で、それぞれ2箇所でタッチセンシングを行い、
前記隅肉継手部の一方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第一の仮想線と、前記隅肉継手部の他方の側でタッチセンシングを行った2箇所を含む第二の仮想線との交点を、前記位置における前記溶接線の位置座標として特定することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記ワークの設計データに基づいて、少なくとも前記ワークの前記隅肉継手部の形状を示す設計モデルを生成するステップをさらに備え、
前記軌道情報を作成するステップは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側で2箇所のタッチセンシングを行うとともに、他方の側で1箇所のタッチセンシングを行うステップと、
前記設計モデルにおいて前記隅肉継手部の一方の側の形状を示す第一の線分が、前記溶接線を挟んだ一方の側でタッチセンシングを行った2箇所の位置座標に合致するよう、前記設計モデルを回転させるステップと、
回転させた前記設計モデルにおいて前記隅肉継手部の他方の側を示す第二の線分が、前記溶接線を挟んだ他方の側でタッチセンシングを行った1箇所の位置座標に合致するよう、前記設計モデルを前記第一の線分に平行に移動させるステップと、
平行移動した前記設計モデルにおける前記第一の線分と前記第二の線分の交点を、前記位置における前記溶接線の位置座標として特定するステップと、
を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記軌道情報を作成するステップでは、
前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のうち、互いに前後する第一の位置S1と第二の位置S2において、それぞれ3箇所でタッチセンシングを行うことで、それぞれの位置における前記溶接線の位置座標を特定するため、
前記第一の位置S1において、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側の第一の箇所aおよび第二の箇所bでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第三の箇所cでタッチセンシングを行うステップと、
前記第二の位置S2において、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ一方の側の第四の箇所dでタッチセンシングを行うとともに、他方の側の第五の箇所eおよび第六の箇所fでタッチセンシングを行うステップと、
前記第一の箇所a、前記第二の箇所b、および前記第四の箇所dを含む第一の平面F1、前記第三の箇所c、前記第五の箇所e、および前記第六の箇所fを含む第二の平面F2、前記第一の箇所a、前記第二の箇所b、および前記第三の箇所cを含む第三の平面F3、前記第四の箇所d、前記第五の箇所e、および前記第六の箇所fを含む第四の平面F4を算出するステップと、
前記第一の平面F1、前記第二の平面F2、および前記第三の平面F3の交点を前記第一の位置S1における前記溶接線の位置座標として特定し、前記第一の平面F1、前記第二の平面F2、および前記第四の平面F4の交点を前記第二の位置S2における前記溶接線の位置座標として特定するステップと、を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記隅肉溶接は、前記溶接トーチの先端に取り付けられたシールドノズルからシールドガスを吐出するとともに、前記シールドノズルを前記ワークに接触させながら行われることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の溶接方法。
【請求項8】
前記タッチセンサは、
導電性材料から形成された前記シールドノズルと、
前記シールドノズルに電圧を印加する電源と、
前記シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの前記溶接トーチの位置座標を取得するコントローラと、
を含むことを特徴とする請求項7に記載の溶接方法。
【請求項9】
隅肉継手部を有するワークの隅肉溶接を行う溶接トーチと、
前記溶接トーチを移動させる移動装置と、
前記溶接トーチに設けられて溶接時にシールドガスを吐出し、導電性材料からなるシールドノズルと、
前記シールドノズルに電圧を印加する電源と、
前記シールドノズルに印加された電圧の変化を検出し、電圧の変化が検出されたときの前記溶接トーチの位置座標を取得するとともに、取得された前記位置座標に基づき前記溶接トーチを前記隅肉継手部の溶接線に沿って動作させるための軌道情報を生成する軌道生成部と、
前記軌道情報に基づいて前記溶接トーチの動作を制御するトーチ動作制御部と、を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項10】
前記軌道生成部は、
前記ワークに対し、前記溶接線に沿って互いに間隔を隔てた複数の位置のそれぞれにおいて、前記隅肉継手部の前記溶接線を挟んだ両側で前記シールドノズルを3箇所以上で接触させて各箇所の位置座標を取得し、
取得された前記各箇所の位置座標から前記位置における前記溶接線の位置座標を特定し、特定された前記溶接線の位置座標から前記軌道情報を生成することを特徴とする請求項9に記載の溶接装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2008−279461(P2008−279461A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123474(P2007−123474)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】
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