説明

溶接用ワイヤの装填物

【課題】ペールパックから溶接用ワイヤが高速度で取り出された場合などにおいて、ワイヤ積載収納量に係わらずからみやもつれがなく、円滑に溶接部へと送給することを可能にする溶接用ワイヤの装填物を提供する。
【解決手段】ペールパック1の中央部に円柱状の空洞3を形成するごとく溶接用ワイヤ4に捩りを与えてループ状に積載収納した溶接用ワイヤの装填物において、収納溶接用ワイヤの上部に平板円環状の押さえ板6を配置し、該押さえ板中心部のワイヤ取り出し孔端部の下面に、積載収納された溶接ワイヤの円柱状空洞径よりも小さい外径の環状凸部7を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペールパックに捩り入りの溶接用ワイヤをループ状に積載収納した溶接用ワイヤの装填物に関する。
【背景技術】
【0002】
200〜350kgの大容量の溶接用ワイヤ収納容器としてペールパックが一般に使用されるが、収納された溶接用ワイヤは弾性限界の範囲内で捩り、例えばワイヤ1ループ当たり360°の捩りを与えられてペールパック内に積載収納されている。この溶接用ワイヤは、ペールパック内でワイヤの捩りを戻そうとする力が内在し、ワイヤを自由にするとペールパックの軸方向に跳ねようとするため、ワイヤ取り出し時にからみやもつれが発生する。このため、従来から例えば特公昭59−8474号公報(特許文献1)にあるように、ペールパック内のワイヤループ上に円環状の押さえ板を載置してワイヤを上から押さえることにより解決する方法が提案されている。
【0003】
図4は、前記特許文献1に記載のペールパックに積載収納された溶接用ワイヤの取り出し状態を示した断面図である。ペールパック1内に捩られた溶接用ワイヤ4がループ状に積載収納されている。2は溶接ワイヤが積載されたループ体、3は溶接用ワイヤが積載されたループ体2内の円柱状空洞である。溶接用ワイヤ4が積載されたループ体2の上部に円環状押さえ板13が載せられており、溶接用ワイヤの跳ね上がりおよび取り出し時のからみやもつれを防止している。これにより溶接用ワイヤ4は、ループ体2上部の円柱状空洞3側より円環状押さえ板13の内側円周端14に沿って取り出し位置が回転しながら上方に取り出される。
【0004】
図5は、図4の一部を示した平面図である。前述のように、溶接用ワイヤ4の取り出し位置は円環状押さえ板13の内側円周端14に沿って取り出し位置が回転しているので、溶接ワイヤ4は常に次のループ10とほぼ平行に接触しながら、かつ円環状押さえ板13の内側円周端14方向に移動しながら取り出される。したがって、溶接用ワイヤ4が高速で取り出されて円環状押さえ板13が瞬時に持ち上げられた場合などに次のループ10やその次のループ11を円柱状空洞3に引き出し、円柱状空洞3で捩りを解消しようとして跳ねて、からみやもつれを発生することがある。
【0005】
この解決策として、特開平11−192552号公報(特許文献2)に、図6に示すように円環状押さえ板13の取り出し孔径を小さくし、さらに重量を限定して、溶接用ワイヤ4をペールパック1内壁への接触点と取り出し孔を支点として、円柱状空洞3でペールパック1底部方向に弓状にする技術が提案されている。これにより、次のループ10や下層のループ11を押さえながら取り出して下層のループが円柱状空洞3に引き出されるのを防止するというものである。
【0006】
しかし、溶接用ワイヤをペールパック底部付近まで使用した状態では円環状押さえ板13とループ体2の上部間に空間が生じて、複数のループが円柱状空洞3に引き出されてからみやもつれが発生する場合がある。すなわち図7はペールパック底部近傍まで溶接ワイヤ4が取り出された時の溶接用ワイヤの取り出し状態を示した断面図である。5はペールパックの底板かしめ部でペールパックの内側に壁面が一部隆起している。ループ体2が底面かしめ部5より低くなると、円環状押さえ板13の外縁部が底面かしめ部5に接触して止り、ループ体2の上部を円環状押さえ板13が押さえられなくなる。その結果、次のループ10やその次のループ11が取り出される溶接ワイヤ4に引っ張られて円柱状空洞3に引き出されて円柱状空洞3で捩りを戻そうとして溶接用ワイヤが跳ねてからみやもつれが生じるという問題がある。
【0007】
この解決法として、特開2007−927号公報(特許文献3)に、押さえ板の形状をペールパック底部のかしめ部の形状に合わせた堰形状にしてペールパック底部で溶接用ワイヤ取り出し時のもつれを防止する技術が提案されている。しかし、ワイヤ取り出し孔付近のループの押さえは、押さえ板の面の部分で押さえているので押さえ板が瞬時に持ち上げられた場合は押さえ板とループ体の間に空間が生じて複数のループが引き出され、からみやもつれが発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭59−8474号公報
【特許文献2】特開平11−192552号公報
【特許文献3】特開2007−927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ペールパックから溶接用ワイヤが高速度で取り出された場合などにおいて、ワイヤ積載収納量に関わらずからみやもつれがなく、円滑に溶接部へと送給することを可能にする溶接用ワイヤの装填物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、ペールパックの中央部に円柱状の空洞を形成するごとく溶接用ワイヤに捩りを与えてループ状に積載収納した溶接用ワイヤの装填物において、収納溶接用ワイヤの上部に平板円環状の押さえ板を配置し、該押さえ板中心部のワイヤ取り出し孔端部の下面に、積載収納された溶接ワイヤの円柱状空洞径よりも小さい外径の環状凸部を設けたことを特徴とする溶接用ワイヤの装填物にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の溶接用ワイヤの装填物によれば、ペールパックから溶接用ワイヤが高速度で取り出された場合などにおいて、ワイヤ積載収納量に関わらずペールパック内の溶接用ワイヤ全て使い切るまでからみやもつれがなく、円滑に溶接部へと送給することを可能にする溶接用ワイヤの装填物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のペールパックに積載収納された溶接ワイヤの取り出し状態を示す図である。
【図2】図1の一部を示した平面図である。
【図3】図1の一部断面図である。
【図4】従来のペールパックに積載収納された溶接ワイヤの取り出し状態を示す図である。
【図5】図4の一部を示した平面図である。
【図6】図4や図5とは別の従来のペールパックに積載収納されたワイヤの取り出し状態を示す平面図である。
【図7】図6のペールパックにおける底部近傍での取り出し状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるペールパックに収納された溶接用ワイヤの取り出し状態を図1に示す。図2は図1の一部を示した平面図である。ペールパック1の内部に捩り入りワイヤ4がループ状に積載収納されている。ループ体2の上部には平板円環状押さえ板6が載置され、平板円環状押さえ板6中心部のワイヤ取り出し孔8の端部下面には環状凸部7が設けられている。紐部材9はペールパック1内壁と平板円環状押さえ板6との隙間から溶接用ワイヤ4が飛び出すのを防ぐためのものである。この紐部材9に代えてペールパック1内壁に当接する弾性部材を平板円環状押さえ板6に備えても同様の効果が得られる。
【0014】
溶接用ワイヤ4は、取り出し装置または取り出し案内部材(図示しない)がワイヤ取り出し孔8の上部に設けられていることによって真上に取り出される。溶接用ワイヤ4は所定の剛性を有するので、取り出し張力によって平板円環状押さえ板6に設けられた環状凸部7を支点として円柱状空洞3のペールパック底面12方向に弓状となり、取り出される溶接用ワイヤをペールパック内壁方向に押し返す力が作用する。
【0015】
よって、溶接用ワイヤ4には環状凸部7においてループ体2の方向に対して力が作用し、次の引き出されようとするループおよび下層のループをペールパック内壁方向に押さえながら取り出される。これにより高速度で取り出されたり平板円環状押さえ板6が僅かに持ち上がっても、環状凸部7が取り出されるループを押さえるので下層部のループを円柱状空洞3に引き出すことはない。したがって、平板円環状押さえ板6に設けられた環状凸部7によって溶接用ワイヤを点で押さえ、取り出される溶接用ワイヤ4はからんだりもつれることがない。
【0016】
図3はペールパック下層部での溶接ワイヤの取り出し状態を示す断面図である。環状凸部7は平板円環状押さえ板6に一体に設けられており、この凸部の断面形状を滑らかな曲線にすることでワイヤ取り出し時の抵抗を軽減することができる。ペールパック下層部では、平板円環状押さえ板6の外縁部が底面かしめ部5に接触して止まるが、ペールパック底面12と環状凸部7との間が狭くなるので、溶接用ワイヤ4を取り出すための空間が環状凸部7によって遮られ、次のループ10や下層のループ11を引き出すことがない。
【0017】
環状凸部7の外径は、積載収納された溶接ワイヤの円柱状空洞3よりも小さくする必要がある。環状凸部7の外径が円柱状空洞3より大きくなると、積載されたループ体2上部と環状凸部7の外側端部が接触して平板円環状押さえ板6がループ体2上部から浮き上がり積載収納された溶接用ワイヤ全体を押さえることができなくなり、からみやもつれが生じやすくなる。また環状凸部7の断面形状は半楕円が好適であるが、ワイヤ摺動時の抵抗が少ないような曲線になっていればこれに限定されない。たとえば小判型を並行部の途中で切断したような断面形状であってもよい。
【0018】
なお、環状凸部7の高さは、5〜20mmであることが好ましい。環状凸部7の高さが5mm未満であると、平板円環状押さえ板6が底板かしめ部5で止まった時に環状凸部7とペールパック底面12との間隔が広いので、底面にある複数ターンのワイヤを遮ることができない。したがって、取り出される溶接用ワイヤ4が次のループ10および下層のループ11とほぼ平行にずれながら移動して取り出されて、次のループ10が円柱状空洞3に引き出されてワイヤがもつれる。逆に、環状凸部7の高さが20mmを超えると、ワイヤ取り出し孔8より引き出されるワイヤの角度が付き過ぎ、線癖および引き出し抵抗が大きくなり、ワイヤ送給性が不良となる。
【0019】
さらに、環状凸部7の幅は30〜50mmであることが好ましい。環状凸部7の幅が30mm未満であると、環状凸部7が鋭角となり、強い線癖が発生する。環状凸部7の幅が50mmを超えると、積載された溶接用ワイヤ4に環状凸部7が接触して、押さえ板全体がループ体2上部から浮いて、積載収納された溶接用ワイヤ4を押さえることができず、からみやもつれを生じやすくなる。
【実施例】
【0020】
内径500mmのペールパック内に、ワイヤ径1.2mmの溶接用ソリッドワイヤをループ状に1周回当たり360°捩りながら積載収納した。これに重量1100gの平板円環状押さえ板に設けた環状凸部の高さを種々変更してループ体の上に載置して、溶接用ワイヤを取り出した時のからみ、もつれの回数を調べた。試験方法は、ペールパックから溶接用ワイヤを15m/分の速度でペールパック内の溶接用ワイヤ全てを連続で取り出した。その結果を表1にまとめて示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1中、No.1〜3が本発明例で、No.4および5が比較例である。本発明例であるNo.1〜3は、いずれも押さえ板に環状凸部が設けられ、環状凸部の外径が円柱状空洞よりも小さい。したがって取り出される溶接用ワイヤは環状凸部を支点として円柱状空洞のペールパック底部方向に弓状となり、次のループおよび下層のループを押さえ付けながら取り出されたので、次のループはもちろん下層のループも円柱状空洞に引き出されることがなかった。また、ペールパック下層部における溶接用ワイヤ取り出し時も、複数ターンのループが円柱状空洞に引き出されることがなく、からみやもつれが全く生じることなく、極めて満足な結果であった。
【0023】
比較例No.4は、環状凸部の外径が円形状空洞より大きいので、環状凸部の外側端部とループ体の上部が接触し、平板円環状押さえ板がループ体上部のワイヤ全体を押さえることができなくなり、もつれが1回発生した。
【0024】
比較例No.5は、環状凸部を設けていないので、取り出されるワイヤが次のループおよび下層のループとほぼ平行にずれながら移動して取り出され、押さえ板が僅かに持ち上がった時に次のループを円柱状空洞に引き出して、からみが1回発生した。
【符号の説明】
【0025】
1 ペールパック
2 ループ体
3 円柱状空洞
4 溶接用ワイヤ
5 底板かしめ部
6 平板円環状押さえ板
7 環状凸部
8 ワイヤ送給孔
9 紐部材
10 次のループ
11 その次のループ
12 ペールパック底面
13 円環状押さえ板(従来技術)
14 内側円周端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペールパックの中央部に円柱状の空洞を形成するごとく溶接用ワイヤに捩りを与えてループ状に積載収納した溶接用ワイヤの装填物において、収納溶接用ワイヤの上部に平板円環状の押さえ板を配置し、該押さえ板中心部のワイヤ取り出し孔端部の下面に、積載収納された溶接ワイヤの円柱状空洞径よりも小さい外径の環状凸部を設けたことを特徴とする溶接用ワイヤの装填物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−161817(P2012−161817A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24755(P2011−24755)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】