説明

溶接監視装置と溶接監視方法

【課題】溶接の良否を精度よく監視するにあたって、誤判定の確率を十分に減少させることができる技術を提供する。
【解決手段】
溶接の良否を監視する装置は、溶接実施中の測定期間において溶接指標を経時的に測定する測定手段と、測定した溶接指標が所定指標範囲にある期間を計時する計時手段と、前記測定期間に対する前記計時期間の期間率を計算する計算手段と、計算した期間率が所定期間率範囲にあるのか否かを判定する判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接の良否を監視する技術に関する。本発明は、現に実施中の溶接処理の良否を監視するために用いることもできるが、過去に収集したデータを分析することによって過去に実施した溶接処理の良否を監視するために用いることもできる。
【背景技術】
【0002】
溶接処理の実施中に各種の溶接指標を経時的に測定し、溶接処理の良否を監視する技術が知られている。
例えば特許文献1には、溶接処理の実施中に、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、ワイヤ送給速度等を経時的に測定し続け、溶接指標の測定値が所定の範囲を超えたときに、警告ランプを点灯させる溶接監視装置が記載されている。
【特許文献1】特開平9−57442号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の技術では、溶接指標の正常範囲を狭く設定してしまうと、ノイズ等による影響を受けやすくなり、誤判定が頻発してしまう。一方において、溶接指標の正常範囲を広く設定してしまうと、異常判定の感度が鈍くなってしまう。特許文献1の技術では、正常なものを異常と誤判定したり、異常なものを正常と誤判定しやすい。
誤判定を減らすために、溶接指標の測定値が正常範囲を超えた回数をカウントし、カウント数を許容カウント数範囲と比較する技術も提案されている。この技術によると、正常時でも生じる単発的なふれによって異常としてしまう誤判定を防止することができ、誤判定の確率を減少させることができる。
しかしながら、カウント数を許容カウント数範囲と比較する技術でも、許容カウント数の範囲を適切に設定することが困難であり、誤判定の確率を十分に減少させることができない。
従来の技術では、溶接の良否を精度よく監視することができない。本発明は、その課題を解決する。本発明では、溶接の良否を精度よく監視するにあたって、誤判定の確率を十分に減少させることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、溶接の良否を監視する装置に具現化することができる。この監視装置は、溶接実施中の測定期間において溶接指標を経時的に測定する測定手段と、測定した溶接指標が所定指標範囲にある期間を計時する計時手段と、測定期間に対する計時期間の期間率を計算する計算手段と、計算した期間率が所定期間率範囲にあるのか否かを判定する判定手段を備えている。
ここでいう溶接指標は、溶接処理の実施中に測定可能であって溶接品質に影響を与える指標をいう。例えば、溶接電流、溶接電圧、溶接速度、ワイヤ送給速度、ワイヤ送給力、シールドガス圧力、シールドガス流量等が挙げられる。測定期間は選択可能であり、測定環境に合わせて長短が調節される。
本装置は、直前に測定された溶接指標と現時点で測定された溶接指標を分析対象とすることによって、溶接の良否をほぼリアルタイムで監視することができる。過去に測定して記憶しておいた溶接指標を分析対象とすることによって、過去に実施した溶接の良否を判別することもできる。
【0005】
図3は、溶接実施中(溶接実施期間)に、溶接電流C(溶接指標の一例である)を経時的に測定した測定結果の一例を示している。正常に溶接している場合の溶接電流は、正常範囲CL〜CUにあることがわかっている。
溶接指標を経時的に測定し続けると、溶接指標はしばしば正常範囲CL〜CUから逸脱する。正常に溶接している場合でも、溶接指標がしばしば正常範囲CL〜CUから逸脱するために、溶接の良否を判別することはひどく難しい。
図3において、記号GとHで示す期間は、溶接指標が正常範囲CL〜CUから逸脱した期間を示す。このとき、期間Gではわずかに逸脱し、期間Hでは大きく逸脱している。逸脱した回数をカウントするとすれば、期間Gでも期間Hでも1回ずつ逸脱していることとなる。
本発明者らの研究によって、溶接品質に大きく影響する要素は、逸脱したスケールでもなく、逸脱した回数でもなく、逸脱している時間であることが判明した。
例えば図3に示す場合、期間Gではわずかに逸脱し、期間Hでは大きく逸脱している。逸脱したスケールで考察すると、期間Gよりも期間Hの溶接品質の方が深刻であるはずである。しかしながら、実際には、期間Hよりも期間Gの溶接品質の方が深刻である。期間Hでは、溶接指標が正常範囲から大きく逸脱しているが、短期間に正常範囲に復帰することから、結果的には溶接品質に与える影響が少ない。それに対して、期間Gでは、溶接指標が正常範囲からわずかに逸脱しているのにすぎないが、溶接指標が長期に亘って正常範囲から逸脱するために、結果的には溶接品質に与える影響が大きい。
従来の技術では、溶接指標が正常範囲を逸脱したときに異常と判別することから、誤判定が頻発してしまう。それを避けるために、正常範囲を広く設定してしても誤判定を防止することはできない。図3の場合、溶接品質の低下が深刻な期間Gを見過ごしてしまい、さらに溶接品質の低下がそれほどでもない期間Hを異常としてしまう。
正常範囲を逸脱した回数をカウントしても、溶接品質の低下が深刻な期間Gを重視し、溶接品質の低下がそれほどでもない期間Hを軽視するように、判定することはできない。回数をカウントする技術では、期間Gでも期間Hでも区別することなく、それぞれ1回とカウントする。
【0006】
本発明の監視装置は、測定した溶接指標が所定指標範囲にある期間を計時する。図3の場合、期間Gと期間H以外の経過時間を計時する。計時した時間は、測定期間Tmと比較される。即ち、測定期間に対する計時期間の期間率が計算される。図3の場合、
(測定期間Tm−期間Gの持続時間Tf−期間Hの持続時間Tf)/(測定期間Tm)が計算される。
測定した溶接指標が全測定期間において所定指標範囲に留まっていれば、期間率は1.00となる。期間Hのように、短期間だけ所定指標範囲から逸脱した期間が存在する場合には、期間率が1.00から若干は低下するが、それでも1.00に近い値に留まる。期間Gのように、長期間に亘って所定指標範囲から逸脱した期間が存在する場合には、期間率が1.00より大きく低下する。
この溶接監視装置によると、期間率に着目することから、溶接品質に及ぼす影響の度合いを定量的に把握することができ、溶接の良否を精度よく監視することができる。
なお、所定指標範囲を正常範囲以外とすることもできる。この場合の期間率は、
(期間Gの持続時間Tf+期間Hの持続時間Tf)/(測定期間Tm)で計算される。どちらを期間率としても、溶接品質に及ぼす影響の度合いを数値化して把握することができる。
【0007】
上記の監視装置では、計算手段が計算した期間率を蓄積記憶する蓄積記憶手段をさらに備えていることが好ましい。
計算手段が計算する期間率は、溶接品質を定量的に示す指標である。計算した期間率を蓄積して記憶しておくことによって、過去に実施した溶接を解析することが可能となる。また、過去の期間率の変遷から、計算された期間率と比較する所定期間率範囲を更新するために利用することもできる。
【0008】
判定手段は、計算手段が計算した期間率が所定期間率範囲にあると判定したときに、蓄積記憶手段に記憶されている期間率が所定期間率範囲にあるのか否かをさらに判定することが好ましい。この場合、蓄積記憶手段に記憶されている期間率のうち、最後に実施した溶接時の期間率を判定対象とする。
上記の判定をすると、判定結果がその溶接時に限るものなのか、前回の溶接時から連続しているものなのかを判定することができる。例えば連続して異常と判定されている場合には、溶接装置に問題があると推定することができ、溶接装置のメンテナンス等を促すこともできる。
【0009】
蓄積記憶手段は、期間率を、その時の溶接条件を特定する情報と対にして蓄積記憶するものであることが好ましい。この場合、判定手段は、計算手段が計算した期間率が所定期間率範囲にあると判定したときに、蓄積記憶手段に記憶されている期間率が所定期間率範囲にあるのか否かをさらに判定することが好ましい。この場合、蓄積記憶手段に記憶されている期間率のうち、同一溶接条件で最後に実施した溶接時の期間率を判定対象とする。
上記の判定をすると、判定結果がその溶接時に限るものなのか、同一溶接条件の溶接時から連続しているものなのかを判定することができる。例えば同一溶接条件の溶接において連続して異常と判定されている場合には、溶接条件等に問題があると推定することができ、溶接条件等の見直し等を図ることができる。
【0010】
本発明の技術は、溶接の良否を監視する方法にも具現化される。この監視方法は、溶接実施中の測定期間において溶接指標を経時的に測定する工程と、測定した溶接指標が所定指標範囲にある期間を計時する工程と、測定期間に対する計時期間の期間率を計算する工程と、計算した期間率が所定期間率範囲にあるのか否かを判定する工程とを備える。
この監視方法によると、溶接品質の程度を定量化して把握することができ、溶接の良否を精度よく監視することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、溶接の良否を精度よく監視することが可能となり、溶接欠陥の発生を防止しすることや、溶接装置や溶接条件の異常を早期に発見することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
最初に、以下に説明する実施例の主要な形態を列記する。
(形態1) 溶接設備は、溶接を実施する溶接装置と、溶接装置が実施する溶接を監視する監視装置を備えている。
(形態2) 監視装置は、溶接装置が備える溶接指標の測定器や、その測定器の測定結果に基づいて処理を行う監視処理装置等によって構成されている。
(形態3) 監視装置は、溶接指標である溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給力等を測定する測定器を備えている。
(形態4) 監視処理装置は、処理装置や記憶装置を備えるコンピュータ装置を備えている。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施例の溶接設備を模式的に示している。図1に示す溶接設備は、自動車ボディを製造する設備の一部であり、複数の金属パーツを溶接して自動車ボディを成形する設備である。
図1に示す溶接設備は、搬送装置48が順次搬送してくる複数のワークA、B、C・・に順次溶接を実施し、複数の自動車ボディを順に成形する。各ワークA、B、Cは、複数の金属製のパーツ101、102、103、104から構成されている。図1に示すように、パーツ101とパーツ102の間には、両者を溶接するための溶接線(溶接箇所)L1が定められている。同様に、パーツ102とパーツ103の間には溶接線L2が定められており、パーツ103とパーツ104の間には溶接線L3が定められており、パーツ104とパーツ101の間には溶接線L4が定められている。溶接設備は、各溶接線L1〜L4の位置に順次溶接を実施する。即ち、溶接設備は、ワークAに対して溶接線L1〜L4の位置に順次溶接を実施し、次いでワークBに対して溶接線L1〜L4の位置に順次溶接を実施し、次いでワークCに対して溶接線L1〜L4の位置に順次溶接を実施する。
【0014】
図1に示すように、溶接設備は、主に、溶接装置10と、溶接装置10が実施する溶接を監視するための処理を実行する監視処理装置50と、監視処理装置50の処理結果等を表示するモニタ80等で構成されている。
最初に、溶接装置10について説明する。溶接装置10は、消耗電極式ガスシールドアーク溶接を実施(施工)する装置である。図1に示すように、溶接装置10は、給電チップ38が取り付けられている溶接トーチ36と、溶接トーチ36の位置を調節する産業用のロボット24と、溶接トーチ36に溶接ワイヤ20を送給するワイヤ送給装置32と、溶接電力を供給する溶接電源16と、ロボット24やワイヤ送給装置32や溶接電源16の動作を制御する制御装置14等を備えている。
溶接電源16は、溶接電流を経時的に測定する電流測定器42と、溶接電圧を経時的に測定する電圧測定器44を備えている。
ワイヤ送給装置32は、溶接ワイヤ20を送給するのに要した力(ワイヤ送給力)を経時的に測定する測定器(図示省略)を備えている。ワイヤ送給力は、例えばワイヤ送給装置32の駆動電流を検出して測定することができる。ワイヤ送給力は、例えばコンジットケーブル34や給電チップ38等の磨耗(内面荒れ)の進行等によって上昇する。
【0015】
溶接トーチ36には、溶接ワイヤ20とシールドガスが供給される。溶接ワイヤ20は、ワイヤ供給装置32によってワイヤクリール18から巻き出され、コンジットケーブル34に案内される。シールドガスは、ガスボンベ22からホース26に案内されて供給される。供給された溶接ワイヤ20は給電チップ38から突出し、その先端部20aはシールドガスによってシールドされる。溶接電源16から供給される溶接電流は、給電チップ38から溶接ワイヤ20の先端20aへと流れ込み、溶接ワイヤ20の先端20aとワークA、B、C間でアークを生じる。溶接トーチ36が各溶接線L1〜L4に沿って移動し、各溶接線L1〜L4に沿って溶接が実施される。各溶接線L1〜L4では、所定の期間に亘ってガスシールドアーク溶接が実施される。
【0016】
制御装置14には、ワークA、B、Cに実施する溶接に関する指示条件データ12が予め教示されている。指示条件データ12は、各溶接線L1〜L4に関して、溶接線の軌跡、溶接速度(溶接トーチ36の移動速度)、溶接電流の目標値と正常範囲と許容範囲、溶接電圧の目標値と正常範囲と許容範囲、ワイヤ送給力の正常範囲と許容範囲等を記述している。これらを溶接条件という。ここで、溶接電圧や溶接電流の正常範囲とは、溶接時の溶接電圧や溶接電流がこの範囲にあれば、ほぼ予定通りに溶接が実施されたと判断できる範囲である。また溶接電圧や溶接電流の許容範囲とは、溶接時の溶接電圧や溶接電流がこの範囲にあれば、予定とは若干異なることもあるが、必要な接合強度を満たす溶接が行われたと判断できる範囲である。ワイヤ送給力の正常範囲とは、ワイヤ送給力がこの範囲にあれば、溶接ワイヤ20が正常に送給されていると判断できる範囲である。ワイヤ送給力の許容範囲とは、コンジットケーブル34や給電チップ38等の磨耗等が疑われることもあるが、コンジットケーブル34や給電チップ38等を交換する必要はないと判断される範囲である。それぞれの指標において、正常範囲は許容範囲よりも狭く設定されている。これらの正常範囲や許容範囲は、後述する図3、図4、図5等に記載されている。
【0017】
制御装置14は、指示条件データ12に記述されている溶接線L1〜L4の軌跡や溶接速度等に基づいて、ロボット24の動作を制御する。それにより溶接トーチ36は、溶接線L1、L2、L3、L4の順に、各溶接線L1〜L4に沿って移動する。
制御装置14は、指示条件12に記述されている溶接電圧の目標値や、自身が制御するロボット24の動作等に基づいて、溶接電源16の動作を制御する。それにより、溶接トーチ36が各溶接線L1〜L4に沿って移動している間、溶接トーチ36の給電チップ38とワークA、B、C間に溶接電圧が印加される。
制御装置14は、指示条件12に記述されている溶接電流の目標値等に基づいて、目標とする溶接電流が実現される溶接ワイヤ20の送給速度を計算する。次いで、計算した溶接ワイヤ20の送給速度や、自身が制御するロボット24の動作等に基づいて、ワイヤ送給装置32に動作指令を与える。それにより、溶接トーチ36が各溶接線L1〜L4に沿って移動している間、溶接トーチ36に溶接ワイヤ20が送給される。
制御装置14は、溶接設備に関する設備管理情報を記憶している。設備管理情報とは、例えば消耗品であるコンジットケーブル34や給電チップ38等が交換された日時や、ロボット24や搬送装置48に発生した動作エラーに関する記録等が含まれている。
以上のように、制御装置14は指示条件データ12に基づいて各装置を制御する。その結果、溶接時における各種の溶接指標が、指示条件データに基づいて調節される。
【0018】
次に、監視処理装置50について説明する。監視処理装置50は、汎用のコンピュータ装置を用いて構成されている。即ち、監視処理装置50は、各種の演算を実行する処理装置や、各種の電子データを記憶する記憶装置を備えている。
監視処理装置50は、制御装置14から、指示条件データ12が記述している指示条件や、制御装置14が他の装置に指令した指令条件を入力することができる。それにより、各溶接線L1〜L4に関して、例えば溶接電圧の目標値と正常範囲と許容範囲や、溶接電流の目標値と正常範囲と許容範囲等を把握することができる。
また監視処理装置50は、制御装置14から、制御装置14が他の装置に指令した指令条件等を入力することができる。それにより、監視処理装置50は、例えば現時点において溶接が実施されている溶接線L1〜L4や、ワイヤ送給装置32に指令されたワイヤ送給速度等を把握することができる。
また監視処理装置50は、制御装置14から、設備管理情報を入力することができる。
また監視処理装置50は、溶接電源16から、測定された溶接電圧や溶接電流を入力することができる。監視処理装置50は、溶接電源16の測定器42、44を利用して、溶接が実施されている期間における溶接電圧や溶接電流を経時的に測定することができる。
また監視処理装置50は、ワイヤ送給装置32から、測定されたワイヤ送給力を入力することができる。監視処理装置50は、ワイヤ送給装置32を介して、溶接が実施されている期間におけるワイヤ送給力を経時的に測定することができる。
【0019】
監視処理装置50は、上述した各種の入力情報に基づいて、溶接装置10が実施する溶接を監視するための処理を実行する。図2は、監視処理装置50が実行する処理の流れを示すフローチャートである。以下、図2に示すフローチャートに沿って、監視処理装置50が実行する処理について説明する。なお、監視処理装置50は、溶接装置10が各ワークA、B、Cの溶接線L1〜L4のそれぞれに順次溶接を実施するサイクルに併せて、図2に示す一連の処理フローを繰り返し実行する。
図2のステップS2では、溶接装置10が溶接を実施する溶接線が特定される。詳しくは、どのワーク(A、B、C)のどの溶接線(L1〜L4)に溶接を実施するのかが特定される。溶接が実施される溶接線L1〜L4を特定することで、実施される溶接の溶接条件を特定する情報を得ることができる。
ステップS4では、ステップS2で特定した溶接線に基づいて、測定する溶接指標の正常範囲が設定される。ここでは、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給力の正常範囲が設定される。図3に、溶接電流Cの正常範囲CL〜CUの一例を、溶接実施期間中における溶接電流Cの経時変化とともに例示する。また図4に、溶接電圧Vの正常範囲VL〜VUの一例を、溶接実施期間中における溶接電圧Vの経時変化とともに例示する。また図5に、ワイヤ送給力Fの正常範囲0〜FUの一例を、溶接実施期間中におけるワイヤ送給力Fの経時変化とともに例示する。
ステップS6では、溶接装置10が溶接を開始した時点から所定の時間だけ遅れて、溶接指標の測定が開始される。ここでは、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給力等の測定が開始される。図3、図4、図5に示すように、溶接実施期間の初期や終期では、各溶接指標が不安定に変化する。溶接指標の測定開始時点を、溶接開始時点から遅らせることによって、溶接実施期間の初期を測定期間Tmに含まないようにしている。
【0020】
ステップS8では、測定した溶接指標が正常範囲内であるのか否かが判定される。測定した溶接指標が正常範囲内であればステップS12へ進み、測定した溶接指標が正常範囲外であればステップS10へ進む。このステップの判定は、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給力のそれぞれについて行われる。
ステップS10では、測定した溶接指標が正常範囲外である異常期間Tfを計時する処理が行われる。具体的には、現在までの異常期間Tfに、ステップS8〜S12の判定サイクル時間Δtを加算して、異常期間Tfを累積計算していく。異常期間Tfは、溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給力のそれぞれについて計時される。
ステップS12では、溶接指標の測定を開始して(ステップS6)から、測定期間Tmが経過したのか否かが判定される。測定期間Tmは、例えば各溶接線L1〜L4に対して予め設定しておくことができる。測定期間Tmを経過する以前であれば(ノー)、ステップS8に戻る。測定期間Tmを経過していれば(イエス)、ステップS14に進む。
上記のステップS8〜S12の判定と計時の処理は、サイクル時間Δt毎に繰り返し実行される。それにより、溶接指標(溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給力)毎に、溶接指標が正常範囲外である異常期間Tfが計時される。
【0021】
ステップS14では、測定期間Tmに対する異常期間Tfの比率である異常期間率Pが計算される。即ち、(異常期間率P)=(異常期間Tf)/(測定期間Tm)である。異常期間率Pは、それぞれの溶接指標(溶接電流、溶接電圧、ワイヤ送給力)毎に計算される。計算された異常期間率Pは、対応する溶接線(ワーク別および溶接線別)とともに記憶される。監視処理装置50は、溶接装置10が順次実施する溶接毎に、その溶接時の溶接線と異常期間率Pを対応付けて蓄積記憶している。
ここで、異常期間率Pの特徴について説明する。図3に示すように、例えば溶接実施期間に亘って溶接電流Cを経時的に測定したときに、溶接電流Cが緩やかに変動する期間Gや、溶接電流が急激に変動する期間H等が観測される。溶接電流Cが比較的に緩やかに変動する期間Gでは、溶接電流Cが目標値(例えば正常範囲の中央値)から小さく外れていても、溶接電流Cが長期に亘って目標値から外れることから、実施された溶接に欠陥等が含まれる可能性が高い。一方、溶接電流が急激に変動する期間Hでは、溶接電流Cが目標値から大きく外れても、溶接電流Cが目標値へと短期間で復帰することから、実施された溶接に残る影響も少ない。あるいは、測定された期間Hにおける変動自体が、測定機器のノイズ等に起因している場合もある。そのことから、溶接を監視する場合には、図3の期間Gに示すような変動を精度よく検出し、図3の期間Hに示すような変動は看過することが好ましい。
【0022】
一方において、異常期間Tfは、正常範囲の設定幅CL〜CUを変化させたときに、溶接電流が緩やかに変動する期間Gに対して敏感に変化し、溶接電流Cが急激に変動する期間Hに対しては鈍感に変化する。例えば正常範囲の設定幅CL〜CUを狭く設定した場合、溶接電流が緩やかに変動する期間Gによる異常期間Tfは敏感に長くなる一方、溶接電流が急激に変動する期間Hによる異常期間Tfはそれほど長くならない。その結果、異常期間率Pは、検出すべき状態(図3の期間Gにおける変動)に対して敏感に反応し、看過すべき状態(図3の期間Hにおける変動)に対しては鈍感に反応する。即ち、異常期間率Pは、実施された溶接の良否を定量的に示す指標といえる。このことは、溶接電流Cに限らず、溶接電圧Vやワイヤ送給力F等の他の溶接指標にもいえる。本実施例の異常期間率Pは、溶接が異常に行われたときほど大きな値をとる。
【0023】
ステップS16では、それぞれの溶接指標について、計算した異常期間率Pが所定の判定基準値Pzを超えているのか否かが判定される。異常期間率Pが判定基準値Pzを超えていれば、溶接が異常(あるいは異常に準ずる状態)に実施されたと判断することができる。このステップの判定結果は、後のステップS22においてモニタ80に表示され、オペレータ等に教示される。判定基準値Pzは、各溶接指標について異なる値を用いてもよいし、同一の値を用いることもできる。計算した異常期間率Pが所定の判定基準値Pzを超えている(イエス)場合はステップS18に進む。そうでない(ノー)場合はステップS22に進む
【0024】
ステップS18では、今回の溶接において異常期間率Pが判定基準値Pzを超えていることを受けて、記憶されている前回の溶接時における異常期間率Pが、判定基準値Pzを越えているのか否かを判定する。即ち、最近2回の溶接に亘って異常期間率Pが連続して判定基準値Pzを越えているのか否かを判定する。なおこのステップでは、最近の2回の溶接に限らず、さらに多数回の溶接に亘って同一判定が連続しているのか否かを判定してもよい。
このステップS18の処理は、2つの意味を持つ。第1の意味は、同一判定が連続することを判定することによって、判定結果の信頼性を高めることにある。この場合、例えば正常範囲の設定幅をさらに狭く設定した場合でも、ノイズ等の影響を低減して正確な判定を行うことができる。
第2の意味は、異常期間率Pが、特定の溶接線L1〜L4において上昇しているのか、溶接線L1〜L4に関わらず上昇しているのかを判定することにある。後者の場合であれば、例えば溶接装置10に異常が生じていることが推測される。図6に示すように、例えば給電チップ38の磨耗が進行していくと、溶接電流Cの異常期間率Pが徐々に上昇していく。このような場合、ある溶接時から異常期間率Pが連続して判定基準値Pzを超えることとなる。図6に示す場合では、ワークBの溶接線L3の溶接時から異常期間率Pが連続して判定基準値Pzを超えている。ステップS18の処理によって、溶接装置10に異常が発生していることを検知することができる。
【0025】
ステップS20では、今回の溶接に対する異常期間率Pが判定基準値Pzを超えていることを受けて、記憶されている前回の同一溶接線に対する溶接に対する異常期間率Pが、判定基準値Pzを越えているのか否かを判定する。例えば今回がワークBの溶接線L1に対する判定であれば、記憶されているワークAの溶接線L1に対する異常期間率Pについて判定する。それにより、最近2回(2個のワーク)の同一溶接線に対する溶接において、異常期間率Pが連続して判定基準値Pzを越えているのか否かを判定することができる。なお、最近2回に限らず、さらに多数回(多数のワーク)の同一溶接線について連続しているのか否かを判定してもよい。
このステップS20の処理によって、特定の溶接線L1〜L4のみにおいて異常と判定されているのか否かが判定される。この判定によって、特定の溶接条件で実施された溶接に対して異常と判定されているのか否かを判定することができる。図7に示すように、例えば溶接線L2のみにおいて、異常期間率Pが判定基準値Pzを繰り返し超える場合がある。このような現象は、溶接線L2に対する溶接条件の設定に問題がある場合がある。溶接条件の問題とは、溶接電流、溶接電圧等の設定値に限らず、例えばロボット24に教示する溶接線L2の軌跡の設定等も含まれる。あるいは、各ワークA、B、Cにおける各パーツ101〜104の位置決めに関する設定等も含まれる。図6に示す状態と図7に示す状態では、異常の発生要因が大きく異なることから、図6に示す状態と図7に示す状態を区別して判定することが好ましい。ステップS20の処理は、図7に示すように単に溶接の実施順に並ぶ異常期間率Pを、図8(a)〜(d)に示すように溶接線L1〜L4別に並べて評価することに等しい。
【0026】
ステップS22では、ステップS16、S18、S20における判定結果が、モニタ80に表示される。例えばステップS16における判定において、イエスの場合は「要観察」と表示し、ノーの場合は「正常」と表示する。さらにステップS18における判定がイエスの場合は、例えば「要点検」と表示する。このとき、例えば制御装置14から入力した設備管理情報を加味してもよい。例えば給電チップ38が交換されてから相当期間が経過しており、溶接電流Cに基づいて「要点検」と判定する場合には、給電チップ38の交換を促す表示をしてもよい。ステップS20の判定がイエスの場合は、該当する溶接線L2を表示して、溶接条件の見直しを促すのもよい。
【0027】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
図9に示すように、例えば異常期間を計時する際には、測定した溶接指標(図9では溶接電流C)が正常範囲の下限値CLを下回る期間Taと、正常範囲の上限値CUを上回る期間Tbとを区別して計時し、それぞれの期間Ta、Tbについて異常期間率を計算してもよい。溶接装置10等の問題による溶接指標の変動は、その原因に応じて一方方向に定まっている。それに対して、ノイズ等に起因して生じる変動は、指標の測定値を増大させたり、減少させたりする場合が多い。そのことから、例えば両者の異常期間率の差分を計算することによって、ノイズに起因する影響を把握することができ、ノイズの影響をさらに取り除いた判定を行うこともできる。
また、計算した異常期間率を判定する際には、第2の判定基準値を設定し、異常期間率に対する判定を2段階に行ってもよい。異常期間率が溶接の良否を定量的に示す指標であることから、溶接が異常な状態で行われるのに先立って、未然に対策を施すことが可能となる。
あるいは、各溶接指標に対する異常期間率を集積計算して、集積異常期間率に基づいて溶接の良否を判定してもよい。各溶接指標に対する異常期間率を集積計算する際には、各溶接指標の相関関係に基づいて、それぞれの異常期間率を重みづけしてもよい。
【0028】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例の溶接工程を模式的に示す図。
【図2】監視処理装置が実行する動作の流れを示すフローチャート。
【図3】溶接実施期間における溶接電流の計時変化を示す図。
【図4】溶接実施期間における溶接電圧の計時変化を示す図。
【図5】溶接実施期間におけるワイヤ送給力の計時変化を示す図。
【図6】溶接実施回数に伴って増大する異常期間率を溶接実施順に示す図。
【図7】特定の溶接線において増大する異常期間率を溶接実施順に示す図。
【図8】特定の溶接線において増大する異常期間率を溶接線別に示す図。
【図9】異常期間の計時手法の別例を示す図。
【符号の説明】
【0030】
10・・溶接装置
12・・指示条件
14・・制御装置
16・・溶接電源
20・・溶接用のワイヤ
20a・・ワイヤの先端
22・・ガスボンベ
24・・産業用のロボット
32・・ワイヤ供給装置
36・・溶接トーチ
38・・給電チップ
42・・電流測定器
44・・電圧測定器
48・・搬送装置
50・・監視処理装置
80・・モニタ
101、102、103、104・・パーツ
A、B、C・・ワーク(自動車ボディ)
L1、L2、L3、L4・・溶接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接の良否を監視する装置であって、
溶接実施中の測定期間において溶接指標を経時的に測定する測定手段と、
測定した溶接指標が所定指標範囲にある期間を計時する計時手段と、
前記測定期間に対する前記計時期間の期間率を計算する計算手段と、
計算した期間率が所定期間率範囲にあるのか否かを判定する判定手段と、
を備える監視装置。
【請求項2】
前記計算手段が計算した前記期間率を蓄積記憶する蓄積記憶手段をさらに備えることを特徴とする請求項1の監視装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記計算手段が計算した前記期間率が前記所定期間率範囲にあると判定したときに、蓄積記憶手段に記憶されている最後に実施した溶接時の期間率が前記所定期間率範囲にあるのか否かをさらに判定することを特徴とする請求項2の監視装置。
【請求項4】
前記蓄積記憶手段は、前記期間率を、その時の溶接条件を特定する情報と対にして蓄積記憶し、
前記判定手段は、前記計算手段が計算した前記期間率が前記所定期間率範囲にあると判定したときに、蓄積記憶手段に記憶されている同一溶接条件で最後に実施した溶接時の期間率が前記所定期間率範囲にあるのか否かをさらに判定することを特徴とする請求項2の監視装置。
【請求項5】
溶接の良否を監視する方法であって、
溶接実施中の測定期間において溶接指標を経時的に測定する工程と、
測定した溶接指標が所定指標範囲にある期間を計時する工程と、
前記測定期間に対する前記計時期間の期間率を計算する工程と、
計算した期間率が所定期間率範囲にあるのか否かを判定する工程と、
を備える監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−198674(P2006−198674A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16068(P2005−16068)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】