説明

溶接装置

【課題】溶接品質の確保、すなわち噴射した冷却水の溶接電極への飛散,浸入が発生し難い溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接後、溶接の入熱で昇温した部位が高温のうちに、溶接部とその近傍を冷却する溶接装置であって、冷却媒体を噴射する噴射ノズル3と、噴射した冷却媒体を吸引する吸引ノズル4と、溶接電極の周辺及び冷却領域を監視する監視装置5と、を備えることを特徴とする溶接装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材の溶接表面に存在する引張残留応力で生じる角変形を低減する溶接装置に係り、特に、溶接部の品質を低下させることなく角変形を低減した溶接を行う溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
開先肉盛り溶接による変形は、被接合材に投入される溶接入熱量と溶融金属の溶着量により変化し、溶接入熱量及び溶着量を抑制すれば変形量を低減できることが知られており、具体的には溶接開先を狭開先化する方法等が用いられる。アーク溶接により一方向から多層肉盛溶接する場合、開先幅が狭くなると開先壁面を優先的に溶融してしまい、融合不良による内部欠陥が発生しやすいことから極度な狭開先化が難しく、開先角を30°程度設けるのが一般的であり、開先形状にしたがって溶融形状も逆三角形になり、板底溶融幅<板表面溶融幅になる。
【0003】
溶接によって発生する変形の形態は種々あるが、角変形においては一般に、溶接表面側に折れ曲がるように生じる。これは溶接表面に発生する引張残留応力の影響による。引張残留応力を低減させる手段として、引張応力状態の溶接部表面の領域に対し、溶接によって昇温した表面領域に冷却材を噴射して急冷することにより、表面層直下との間に過渡的な温度差を生じさせることで引張応力を緩和させる方法が特許文献1により知られている。
【0004】
また、冷却方法として、昇温部に冷却水を噴射するノズルと噴射した冷却水を回収するための枠体を有し、この枠体で冷却領域を囲い周囲への冷却水の飛散を防止する構造が特許文献2に記載されている。
【0005】
冷却媒体である水を噴射する際、水の流量が少ない場合には噴射された水の多くは瞬間的に水蒸気となり周囲へ飛散、あるいは噴射した水の一部は水滴となって部材表面を流れる。逆に水の流量が十分に多い場合には、噴射した水の多くはそのまま部材表面を流れていく。一方で、冷却水の噴射位置は、特許文献1によれば、表面温度が炭素鋼では600℃以上、ステンレス鋼では800℃以上の位置が望ましいとされる。これは例えば、30kJ/cm程度の入熱量で板厚10mm程度の鋼材を溶接した場合、溶接電極の後方およそ50〜60mm以内の距離である。このような溶接電極と冷却位置が近い場合には、噴射した水(あるいは水蒸気)が溶接前方へ飛散しやすくなる。溶融池あるいはアークへの水分の浸入は、溶湯の噴出しによる欠陥やブローホール欠陥など、溶接品質を著しく低下させる原因となる。対策として溶接電極と冷却部の間に隔壁を設ける、あるいは冷却部周辺を枠体で囲い、かつ、前記隔壁と部材表面とを接触させることで溶接電極側への水の浸入を防止する方法が考えられる。
【0006】
しかしながら、部材の形状が一定でなく溶接の進行に従って溶接部形状が変化するような構造物では、隔壁と部材表面との密着を維持するのが困難な場合が生じる。また、隔壁と部材表面との接触部分に柔軟性を持たせるため、シート材を装着する方法もあるが、この場合にはシートに耐熱性が求められる。一般に市販される耐熱シートでは耐熱性の低下によりシートの脱落などの不具合が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−343270号公報
【特許文献2】特許第3071066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、溶接品質の確保、すなわち噴射した冷却水の溶接電極への飛散,浸入が発生し難い溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶接装置は、溶接後、溶接の入熱で昇温した部位が高温のうちに、溶接部とその近傍を冷却する溶接装置であって、冷却媒体を噴射する噴射ノズルと、噴射した冷却媒体を吸引する吸引ノズルと、溶接電極の周辺及び冷却領域を監視する監視装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶接電極あるいは冷却部周辺に固体隔壁を設けることなく、非接触の方法にて溶接電極側への水の浸入による溶接品質の低下、すなわち溶接欠陥を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明における装置構成を示した図。
【図2】本発明における水量調整方法の例を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の第一は、溶接電極の後方に配置した水噴射ノズルに対し、前記水噴射ノズルと一体に外周上に吸引ノズルを設け、溶接部表面に噴射された後に水蒸気となった水を周囲へ飛散させないよう積極的に吸引することである。溶接電極及びアークの保護を接触式の固体隔壁ではなく非接触式の機構にすることが特徴であり、これによって複雑な部材形状についても対応できる。また、水噴射ノズルに同軸上に配置することで、装置構成を省スペースにできる。さらに、冷却機構全体が小さく、溶接電極を含めた装置全体を小型に設計できることから、隅肉継手などの狭隘部への適用も期待できる。
【0013】
本発明の第二は、噴射する水量の調整に関するもので、溶接によって昇温された部材表面へ噴射された水のほぼ全てが水蒸気となるよう、水噴射ノズルから噴射する水の流量を調整することである。直接的には、溶接電極と水噴射ノズル間を監視装置によって監視しておき、水滴を検知した場合には水の流量を減らして水滴発生を防止する。間接的な方法として、溶融地あるいはアークの状態を監視しておき、乱れが生じた場合に水の流量を調整し、溶融部あるいはアーク状態を一定に制御する。
【0014】
以下、本発明を図面により詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明における装置構成を示したものである。
【0016】
溶接電極1の後方に冷却機構2が設けられている。冷却機構2は同軸2重構造になっており、前記冷却機構2の中心部に水噴射ノズル3、その外周に吸引ノズル4が形成されており、両者は外観上、一体の構造になっている。監視装置5は溶接電極1と冷却機構2との間を監視しており、水噴射ノズル3から噴射された水が、前記溶接電極1の側へ飛散する状況を監視している。水が溶接電極1まで達した場合には、流量制御機構9によって水噴射ノズル3から噴射する水の流量を減少させる。また、冷却機構2の後方には温度センサ10が設置されており、水噴射後の溶接部表面温度を測定している。測定値が指定の温度以下まで低下した場合には、流量制御機構8によって水の噴射量を増加させる制御を行う。監視装置5による判別は、CCDカメラ画像を利用した水滴の判別や、放射温度計によって温度差から水滴を識別する方法等で目的を達成でき、方法を限定するものではない。
【0017】
図2は本発明における水量調整方法の他の例である。
【0018】
前述の方法が噴射された水を直接監視して水量調整するのに対して、本方法は間接的に監視、水量調整する方法であって、CCDカメラ11によって、溶接電極1及び溶接部材6との間に発生するアーク7及び溶融池8の様子を監視している。溶接の条件が一定なら前記アーク7及び溶融池8もほぼ一定で安定した状態にあるが、水や水蒸気が浸入すると前記アーク7及び溶融池8に乱れが生じ、その形状が変化する。これを識別して水量調整を行うものである。この場合には、溶接品質に影響を及ぼさない範囲であれば水滴の侵入も許容できる。間接的な監視方法としては、本方法以外にも、溶接時に発生する音やアーク光の輝度の変化で水の浸入を判別する手段を用いることができる。
【符号の説明】
【0019】
1 溶接電極
2 冷却機構
3 水噴射ノズル
4 吸引ノズル
5 監視装置
6 溶接材
7 アーク
8 溶融池
9 流量制御機構
10 温度センサ
11 CCDカメラ
12 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接後、溶接の入熱で昇温した部位が高温のうちに、溶接部とその近傍を冷却する溶接装置であって、
冷却媒体を噴射する噴射ノズルと、噴射した冷却媒体を吸引する吸引ノズルと、溶接電極の周辺及び冷却領域を監視する監視装置と、を備えることを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
請求項1において、前記噴射ノズルの外周に吸引ノズルが同軸上に配置され、前記噴射ノズルから噴射された冷却媒体を全方位から吸引、回収することを特徴とする溶接装置。
【請求項3】
請求項1において、前記監視装置が、前記噴射ノズルから噴射され、溶接電極側に流れる冷却媒体を、センサにて検知することを特徴とする溶接装置。
【請求項4】
請求項3において,前記センサで検知された冷却媒体の量が規定値を超えた場合に、噴射ノズルから噴射する冷却媒体の量を制御し規定値以下となるように供給量をインプロセスで制御することを特徴とする溶接装置。
【請求項5】
請求項1において、前記監視装置が溶接電極から発せられるアークの状態を監視することを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
請求項5において、溶接部のアーク発生状態が不安定となった場合に、噴射ノズルから噴射する冷却媒体の噴射量を調整し、アークが常に一定した状態となるようにインプロセスで制御することを特徴とする溶接装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、前記噴射ノズルから噴射される冷却媒体は水であり、噴射ノズルで溶接部材に供給した後、水蒸気として周囲に飛散するように水量を制御することを特徴とする溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−152790(P2012−152790A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14686(P2011−14686)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)