説明

溶融シリコン中のボロン除去方法

【課題】本発明は、容器内に収容された溶融シリコンに高周波誘導加熱を施したり、容器の底部から溶融シリコンに不活性ガスを吹き込んだり、または、溶融シリコンの浴面近傍に酸化性ガスとは別にさらに水素を吹き付けたりせずとも、溶融シリコン中のボロンの除去速度を向上させることが可能な溶融シリコン中のボロン除去方法を提供することを目的とする。
【解決手段】容器としてのルツボ1内に収容された溶融シリコン3の浴面3aにAr−5.0%HOガスを吹き付けてプラズマアーク溶解しながら溶融シリコン3中のBを除去する方法であって、ルツボ1内に収容された溶融シリコン3を、プロペラ2を用いて周方向に250rpmの速度で攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に太陽電池に用いるボロン含有量の低い高純度シリコンを安全かつ短時間に得るための溶融シリコン中のボロン除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーとして、太陽光発電が注目されている。この太陽光発電のための主要デバイスが太陽電池である。また、この太陽電池には、リンやボロン等の不純物濃度を低減したシリコンが必要となる。リンは、蒸気圧が高いので蒸発除去が可能であるが、ボロンは蒸気圧が低いため蒸発除去が困難である。そこで、シリコン中のボロンを除去する方法が種々研究され、いくつかの方法が提案されている。
【0003】
例えば、容器内に収容された溶融シリコンの浴面近傍に、プラズマガスとともに酸化性ガスとしての水蒸気を別の噴出孔から吹き付けながら、高周波誘導加熱を併用し、溶融シリコン中のボロンを除去する技術が開示されている。また、酸化性ガスとしての水蒸気とは別にさらに水素を吹き付けたりする方法も開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、容器内に収容された溶融シリコンの浴面近傍に、プラズマガスとともに酸化性ガスとしての水蒸気を吹き付けながら、高周波誘導加熱を併用するとともに、容器の底部から溶融シリコンに不活性ガスを吹き込んだりする方法も開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中村ら、日本金属学会誌、vol.67、No.10(2003)、p.583〜p.589
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−139713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1、特許文献1に開示された技術には、以下のような問題点が存在する。
【0008】
すなわち、非特許文献1に記載の溶融シリコン中のボロンを除去する技術は、
溶融シリコン中のボロンの移動速度を向上させるために、高周波誘導加熱を併用し、容器内に収容された溶融シリコンの高さ方向の攪拌が施されるものである。しかし、このような攪拌では、溶融シリコンの流速も遅く、溶融シリコンの浴面に生成するシリカ膜(SiO膜)を抑えることができず、溶融シリコン中のボロンの除去速度を向上させることが出来ないという問題点があった。また、酸化性ガスとしての水蒸気とは別にさらに水素を吹き付けることにより、SiO膜の生成を抑えようとする試みも見られるが、このような方法ではガスの費用が嵩むばかりか、水素という爆発性の危険があるガスを利用することで安全上の問題も伴う。
【0009】
また、特許文献1に記載の溶融シリコン中のボロンを除去する技術は、容器の底部から溶融シリコンに不活性ガスをさらに吹き込むことで溶融シリコン内に気泡を発生させ、容器内に収容された溶融シリコンの高さ方向の攪拌をさらに促進させようとするものである。しかし、この程度の攪拌では、やはり溶融シリコンの流速も遅く、溶融シリコンの浴面に生成するSiO膜を抑えることができず、溶融シリコン中のボロンの除去速度を向上させることが出来ないという問題点があった。
【0010】
本発明の目的は、容器内に収容された溶融シリコンに高周波誘導加熱を施したり、容器の底部から溶融シリコンに不活性ガスを吹き込んだり、または、溶融シリコンの浴面近傍に酸化性ガスとは別にさらに水素を吹き付けたりせずとも、溶融シリコン中のボロンの除去速度を向上させることが可能な溶融シリコン中のボロン除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、
容器内に収容された溶融シリコンの浴面近傍にアルゴン−xvol%水蒸気(x=3〜20)ガスを吹き付けてプラズマアーク溶解しながら溶融シリコン中のボロンを除去する方法であって、前記容器内に収容された溶融シリコンを周方向に250rpm以上の速度で攪拌することを特徴とする溶融シリコン中のボロン除去方法である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明は、
容器内に収容された溶融シリコンの浴面近傍にアルゴン−xvol%水蒸気(x=3〜20)ガスを吹き付けてプラズマアーク溶解しながら溶融シリコン中のボロンを除去する方法であって、前記容器内に収容された溶融シリコンを周方向に250rpm以上の速度で攪拌するため、溶融シリコンの流速も速く、溶融シリコンの浴面に生成するSiO膜を強制的に細かく破壊することが可能になる。したがって、溶融シリコンの浴面に、ボロンと水蒸気が反応する反応界面の面積を増大させることが可能になり、溶融シリコン中のボロンの除去速度を安全上の問題もなく確実に向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の溶融シリコン中のボロン除去方法に用いる装置の模式断面図である。
【図2】攪拌の有無の条件下において、吹き付けるHO濃度とボロン(B)除去速度定数Kの関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の一実施形態の溶融シリコン(Si)中のボロン(B)除去方法に用いる装置の模式断面図である。図1において、1は容器としての内径120mm×高さ150mmの黒鉛製のルツボ、2は攪拌手段としてのルツボ1の底に設置された耐火物製のプロペラ、3は不純物としてのボロンを含有した溶融シリコン、3aは溶融シリコン3の浴面、4は100kWプラズマアークトーチ、5はプラズマジェット、6は浴面3aに生成されたSiO膜である。Aは溶融シリコン3の周方向の回転方向を示す。
【0015】
溶融シリコン3は、ルツボ1の中に原料シリコン1kg(塊状:平均粒径30〜50mm)を入れ、加熱溶解したものである。また、プラズマ発生用ガスとしてのアルゴン(Ar)を30L(Lはリットル)/minでプラズマトーチ4に供給し、プラズマトーチ4の出口から20〜30mm離れた溶融シリコン3の浴面3a近傍(すなわち、浴面3aを含めて、浴面3aから所定距離内)にプラズマジェット5を吹き付けプラズマアーク溶解する(これにより、溶融シリコン3を高温に保持することが可能である。)とともに、前記溶融シリコン3の浴面3a近傍にAr−xvol%水蒸気(x=3〜20;以下、vol%水蒸気は「%HO」と称す)ガスを30L/minで吹き付けながら、ルツボ1内に収容された溶融シリコン3を、プロペラ2を用いて、周方向(図1に符号Aとして示す)に250rpm以上の速度で攪拌する。
【0016】
以上のような手法が講じられることにより、下記式(1)、式(2)に示すような反応が進行する。
B(in Si(l))+HO(g)=BO(g)+H(g)−−−(1)
ここで、lは液体、gは気体(ガス)を示す。
【0017】
【数1】

【0018】
すなわち、プラズマジェット5とともに吹き付けられる酸化性ガスとしての水蒸気(HO)により、溶融シリコン3中のボロン(B)が酸化され、BO(g)として除去される。このように、BO(g)としての除去が進行する一方で、酸化性ガスとしてのHOにより、下記式(3)に示すような反応も進行する。すなわち、溶融シリコン3の浴面3aに、SiO膜6が生成される(図1参照)。
Si+2HO=SiO+2H−−−(3)
【0019】
しかし、本発明においては、ルツボ1内に収容された溶融シリコン3を、プロペラ2を用いて、周方向(図1に符号Aとして示す)に250rpm以上の速度で攪拌するため、生成されたSiO膜6を強制的に細かく破壊することが可能になる。このように、溶融シリコン3を周方向に速く攪拌するため、SiO膜6を強制的に細かく破壊できるばかりでなく、この細かく破壊したSiO膜6の破片がルツボ1の内壁側に堆積しても、この堆積したSiO膜6の破片で溶融シリコン3の浴面3aを覆ってしまうようなことにもならない。したがって、溶融シリコン3の浴面3aに、BとHOが反応する反応界面の面積を増大させることが可能になり、溶融シリコン3中のBの除去速度を安全上の問題もなく(∵ 水素を添加することがない。)、かつ、確実に向上させることが出来る。
【0020】
本実施形態においては、攪拌方法として、ルツボ1の底に設置された耐火物製のプロペラ2を回転させる方法を採用しているため、装置のコストを安価にすることが可能である。
【0021】
なお、本実施形態においては、攪拌方法として、プロペラ2を回転させる方法について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、電磁攪拌により、図1に示すような溶融シリコン3を周方向(符号Aとして示す)に250rpm以上の速度で攪拌してもよい。このような電磁攪拌を用いると、機械的な駆動部分がないため、メンテナンスが極めて容易になる。
【0022】
また、本発明において、プラズマジェット5とともに、溶融シリコン3の浴面3a近傍に吹き付けるAr−x%HO(x=3〜20)ガスのHO濃度が3%〜20%であるのは、HO濃度が3%より小さいと所定量のB除去が確保できなくなり、HO濃度が20%を超えると溶融シリコン3の酸化ロスが多くなり材料歩留の低下が懸念されるためである。
【実施例】
【0023】
本発明の効果を確認するために、図1に示すような装置を用いて、溶融シリコン3の浴面3aに吹き付けるAr−x%HO(x=3〜20)ガスのHO濃度が5.0%で、溶融シリコン3を周方向(図1に符号Aとして示す)に250rpmで攪拌し、溶融シリコン3中のBを除去する試験を行なった(試験No.1)。また、比較のために、溶融シリコン3の浴面3aに吹き付けるAr−x%HO(x=3〜20)ガスのHO濃度が5.0%、7.5%、10.0%の3水準で、溶融シリコン3を攪拌せずに、溶融シリコン3中のBを除去する試験を行なった(試験No.2、3、4)。その評価結果は、上記式(2)に基づきボロン(B)除去速度定数Kを算出し、下記表1および図2に示す。また、試験条件を下記表1にまとめて示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記表1に示すように、攪拌の有る試験No.1(発明例、図2に示す▲印)、攪拌の無い試験No.2(比較例、図2に示す■印)のB除去速度定数Kは、それぞれ2.469×10−4(s−1)、1.667×10−4(s−1)となった。この試験結果より、攪拌の有無で、B除去速度定数Kに大きな違いが生ずることが判明した。すなわち、攪拌の有る試験No.1が攪拌の無い試験No.2に比べて、B除去速度定数Kが約1.5倍となった。また、試験前の溶融シリコン3中のB濃度が試験No.2(比較例)に比べて約2倍(17.0ppm)の試験No.3(比較例)、試験No.4(比較例)も、溶解時間を2倍にし、溶融シリコン3の浴面3aに吹き付けるAr−x%HO(x=3〜15)ガスのHO濃度をそれぞれ7.5%、10.0%にすることで、試験後の溶融シリコン3中のB濃度をそれぞれ4.0ppm、2.0ppmと低減可能である(上記表1参照)。この場合の試験No.3、No.4のB除去速度定数Kは、それぞれ2.124×10−4(s−1)、2.451×10−4(s−1)である(上記表1および図2に示す■印参照)が、上記試験No.1と試験No.2との比較実験より、上述したような本発明の攪拌を付与することで、これらのB除去速度定数Kも約1.5倍に増加させることが可能ではないかと推定している(図2に示す△印参照)。
【符号の説明】
【0026】
1 ルツボ
2 プロペラ
3 溶融シリコン
3a 溶融シリコン3の浴面
4 プラズマアークトーチ
5 プラズマジェット
6 SiO

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収容された溶融シリコンの浴面近傍にアルゴン−xvol%水蒸気(x=3〜20)ガスを吹き付けてプラズマアーク溶解しながら溶融シリコン中のボロンを除去する方法であって、前記容器内に収容された溶融シリコンを周方向に250rpm以上の速度で攪拌することを特徴とする溶融シリコン中のボロン除去方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−254907(P2012−254907A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129810(P2011−129810)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】