説明

溶融亜鉛めっき

【課題】精密部品に対する溶融亜鉛めっきにおいて、Pbの含有量を0.1%以下にしながら、蒸留亜鉛地金から得られる溶融亜鉛めっき浴とほぼ同様の流動性を得られるようにすることを課題とする。
【解決手段】溶融亜鉛めっき浴として、Pbが0.1質量%以下、Biが0.2〜0.4質量%、Snが0.2〜0.3質量%、BiとSnとを合わせて0.6質量%以下であり、残部がZn及び不可避的不純物より構成し、場合によって、0.02質量%以下のAlを付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっきに関し、特に、Pb含有量を抑えつつ流動性のよい溶融亜鉛めっき浴及びこれを用いた溶融亜鉛めっきによるめっき鋼材の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融亜鉛めっきには、蒸留亜鉛地金を溶かした溶融亜鉛めっき浴が用いられることが一般的であり、この地金は通常Pb成分を1〜2質量%程度含有している。一方、EUにおいて環境保護のために出されたRoHS指令において、Pbの含有量が1000ppm(0.1質量%)を超える電気・電子機器に関する規制が発表されて以来、溶融亜鉛めっきの分野においても、Pbの含有量を低減させる要求が高まっている。
しかし、溶融亜鉛めっきにおけるPbは、流動性を高め、たれ不具合を抑え、めっきを綺麗に仕上げる効果があるため、単純にPbの含有量を減らした場合、実用に耐えないものとなる。
このような課題に対して、Pbの同属元素であるBiを代替物として使用することが行われている。
下記特許文献1には、めっき外観及び耐食性に優れ、めっきのつき廻り性のよい溶融亜鉛めっきとして、Pbを0.1質量%以下とし、Biを0.5質量%〜7%質量%含有させた溶融亜鉛めっき浴を用いることが示され、また、Snを0.001〜0.1質量%及び/又はCuを0.01〜0.1質量%付加することが示されている。
下記特許文献2には不めっき発生を抑制するために、Pbを0.1質量%以下とし、Biを0.4〜1.5質量%含有する溶融亜鉛めっき浴を用いることが示されている。
下記特許文献3には、不めっき発生を抑制するために、Pbを0.1質量%以下とし、Sbを0.5質量%以上、Biを0.3質量%以上、かつ、SbとBiの合計で1.5質量%以下含有する溶融亜鉛めっき浴を用いることが示されている。
下記特許文献4には、不めっき発生を抑制するために、Alを0.5〜10重量%、Sn、Bi、Tl又はClを0.4〜5重量%含む溶融亜鉛めっき浴を用いることが示されている。
下記特許文献5には、流動性を確保するととともに、外観性、耐食性に優れた溶融亜鉛めっきとしてNiを0.01〜0.05重量%、Alを0.001〜0.01重量%、Biを0.01〜0.08重量%含有する溶融亜鉛めっき浴を用いることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4163232号公報
【特許文献2】特開2009−221604号公報
【特許文献3】特開2009−221605号公報
【特許文献4】特開平3−173754号公報
【特許文献5】特許第3781055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ネジなどの精密部品に対して、溶融亜鉛めっきをする場合、溶融亜鉛めっき浴にかなりの流動性がなければ、たれ切りをしてもネジ溝などに余分な亜鉛が残存し、不良品が生じる確率が高くなり、めっき製品の歩留まりが悪くなってしまうという問題がある。
このような問題を解決すべく、本願発明者らが種々試験をしたところ、精密部品に対する溶融亜鉛めっきでは、純粋な亜鉛にBiのみの混合した溶融亜鉛めっき浴では、蒸留亜鉛地金から得られた溶融亜鉛めっき浴と比較して十分な流動性を確保できなかった。さらに、本願発明者らは、Biを中心に、種々の金属を混合した溶融亜鉛めっき浴を試したところ、BiとSnを一定の割合で混合したときに、従来の蒸留亜鉛地金を溶かした溶融亜鉛めっき浴とほぼ同様の流動性を確保できることを見出した。
本発明は、この知見に基づき、精密部品に対する溶融亜鉛めっきにおいて、Pbの含有量を0.1%以下にしながら、蒸留亜鉛地金から得られる溶融亜鉛めっき浴とほぼ同様の流動性を得られるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は次のような構成を有する。
請求項1に記載の発明は、Pbが0.1質量%以下、Biが0.2〜0.4質量%、Snが0.2〜0.3質量%、BiとSnとを合わせて0.6質量%以下であり、残部がZn及び不可避的不純物である溶融亜鉛めっき浴である。
請求項2に記載の発明は、Pbが0.1質量%以下、Alが0.02質量%以下、Biが0.2〜0.4質量%、Snが0.2〜0.3質量%、BiとSnとを合わせて0.6質量%以下であり、残部がZn及び不可避的不純物である溶融亜鉛めっき浴である。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の溶融亜鉛めっき浴を用いて鋼材表面に溶融亜鉛めっき被覆を形成する溶融亜鉛めっき鋼材の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
以上のような溶融亜鉛めっき浴を用いて、溶融亜鉛めっきを行うと、Pbの含有量を0.1%以下に抑えながら、蒸留亜鉛めっきから得られる溶融亜鉛めっき浴と遜色のない流動性を確保することができ、Pbの含有量を抑えた精密部品に対する溶融亜鉛めっき製品を歩留まりよく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】試験体の形状と測定点を示す正面図である。
【図2】試験結果を示す表である。
【図3】試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、説明する。本発明は、溶融亜鉛めっきにおいて、溶融亜鉛めっき浴の成分を、Pbが0.1質量%以下、Biが0.2〜0.4質量%、Snが0.2〜0.3質量%、BiとSnとを合わせて0.6質量%以下であり、残部がZn及び不可避的不純物としたことに特徴がある。
これにより、ネジなどの精密部品に対して溶融亜鉛めっきを行った場合、ネジ溝などの亜鉛が残りやすい部分に対しても、蒸留亜鉛と遜色ない程度にたれ切りにより亜鉛を排出できる程度の流動性を確保することができる。
ここで、Pb成分は含まなくてもよいが、上記の範囲でPb成分が多いほど流動性は高くなる。
【0009】
また、従来の蒸留亜鉛を溶かした溶融亜鉛めっき浴において、0.02質量%以下程度のAlを加えると、めっき表面に付着する亜鉛酸化物等を減少させ、めっき表面の光沢を美しくすることが知られているが、上記成分を有する本発明に係る溶融亜鉛めっき浴に対し0.02質量%以下のAlを混合しても、流動性に影響を与えることなく、めっき表面を美しくすることができる。
【0010】
(流動性試験)
以下に、Bi、Snの混合割合による溶融亜鉛めっき浴の流動性試験の結果を示す。流動性試験は、電気亜鉛地金(Zn:99.99%以上)を溶融したものに、Bi、Snを成分比を変えて混合した溶融亜鉛めっき浴ごとに、図1に示す厚さ1mm、幅50mm、長さ100mmのSS400からなる試験体Tを吊り穴Hに紐を掛けて一定時間浸漬することにより行った。具体的には、試験体を浸漬後引き上げ、冷却した後に、上部15mm位置の5点の測定点aにおける膜厚Aと、下部15mmの5点の測定点bにおける膜厚Bとを膜圧計により測定し、膜圧Aの平均値に対する膜厚Bの平均値と膜厚Aの平均値との差の比率を厚さ比として算出した。この試験を同じ成分比を有する溶融亜鉛めっき浴ごとに3回行い、比率の平均値を算出した。詳細な試験条件は下記の通りである。
(試験条件)
浴温度:465±2℃
浸漬時間: 10秒
引き上げ速度: 0.6m/min
冷却:水冷 24℃
試験鋼材 SS400
ここで浸漬時間が10秒と短いのは、ネジなどの精密部品において、タレ切りが必要なのは合金層に関与しない上層部分であり、この部分の流動性を比較するためである。
また、ベンチマークとして、蒸留亜鉛地金1種(Zn:98.5%以上)を溶融した溶融亜鉛めっき浴に対しても同様の試験を行った。
【0011】
試験結果を図2に示し、試験結果をグラフ化したものを図3に示す。なお、蒸留亜鉛地金から得られる溶融亜鉛めっき浴では、厚さ比は20.0%であった。図3において、蒸留亜鉛めっき浴の試験結果に比較的近いと考えられる16%を超えるものを抽出すると、図2の太線で囲まれた範囲に集中していることがわかる。また、結果からBiとSnの合計が多すぎるものも流動性には良い結果を与えないと推測される。
以上のことから、Biを0.2〜0.4質量%、Snを0.2〜0.3質量%とし、BiとSnの合計が0.6質量%を超えない範囲で、蒸留亜鉛地金から得られる溶融亜鉛めっきに近い流動性が確保できると考えられる。
実際に、この範囲の成分比の溶融亜鉛めっき浴にて、M10のネジにネジに対して溶融亜鉛めっきを施した場合、蒸留亜鉛めっき地金から得られる溶融亜鉛めっき浴と遜色のない、歩留まりを得ることができた。
また、上記範囲の成分比の溶融亜鉛めっき浴に0.01質量%程度のAlを混合したもので同様にM10のネジにネジに対して溶融亜鉛めっきを施した場合でも、蒸留亜鉛めっき地金から得られる溶融亜鉛めっき浴に0.01質量%程度のAlを混合したものと遜色のない歩留まりを得ることができた。
さらに、これらの溶融亜鉛めっき浴に0.1質量%以下のPbを加えた場合、流動性は変わらないか多少増加する傾向が見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbが0.1質量%以下、Biが0.2〜0.4質量%、Snが0.2〜0.3質量%、BiとSnとを合わせて0.6質量%以下であり、残部がZn及び不可避的不純物である溶融亜鉛めっき浴。
【請求項2】
Pbが0.1質量%以下、Alが0.02質量%以下、Biが0.2〜0.4質量%、Snが0.2〜0.3質量%、BiとSnとを合わせて0.6質量%以下であり、残部がZn及び不可避的不純物である溶融亜鉛めっき浴。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶融亜鉛めっき浴を用いて鋼材表面に溶融亜鉛めっき被覆を形成する溶融亜鉛めっき鋼材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−153326(P2011−153326A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13849(P2010−13849)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【特許番号】特許第4497431号(P4497431)
【特許公報発行日】平成22年7月7日(2010.7.7)
【出願人】(508008223)株式会社駒形亜鉛鍍金所 (1)
【Fターム(参考)】