説明

溶融炭酸塩形燃料電池の電極及びこれを有する溶融炭酸塩形燃料電池

【課題】 出力電圧の上昇に資することができるMCFCの電極及びこれを有するMCFCを提供する。
【解決手段】 多孔質の導電体の板で形成したアノード6及びカソード4であって、アノード6びカソード4の体積に占める孔の割合である細孔率を、アノード6の細孔率よりもカソード4の細孔率が大きくなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融炭酸塩形燃料電池の電極及びこれを有する溶融炭酸塩形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高温形燃料電池として、溶融炭酸塩形燃料電池(以下、MCFCと称す。)が知られている。MCFCは、例えば多孔質ニッケル板で形成した電極である燃料極(アノード)と、例えば多孔質酸化ニッケル板で形成した空気極(カソード)との間に、電解質(炭酸塩)を挟んで構成されている。そして、天然ガス等の燃料から得られた水素(H)をアノードに供給すると共に、アノードで生成された二酸化炭素(CO)及び空気(O)をカソードに供給することで、HとOの電気化学反応により発電が行われる。MCFCは高温で作動するため高効率で、同時にCOを回収分離できるため環境への影響が少ない等の特徴を有している。このため、近年は、水力、火力、原子力に続く発電システムとして注目されてきている。
【0003】
なお、かかるMCFCを開示する公知技術として特許文献1が存在する。
【0004】
【特許文献1】特開2004−179166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の如きMCFCにおいても1セル当たり出力電圧の上昇を図り得る技術の出現が待望されている。
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、出力電圧の上昇に資することができるMCFCの電極及びこれを有するMCFCを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、多孔質ニッケル板で形成したアノード及び多孔質酸化ニッケル板で形成したカソードの体積に占めるそれぞれの孔の割合である細孔率が、MCFCの出力電圧特性に大きく影響することをつきとめた。すなわち、アノードの細孔率よりもカソードの細孔率が大きくなるように構成した場合により高い出力電圧が得られることが分った。これは、次のように考えられる。アノード、カソード及び電解質板にそれぞれ分散して保持されている溶融炭酸塩は、電解質板に最も多く保持されており、次にカソード、アノードの順で保持される傾向にある。これは、各部材と炭酸塩との濡れ性に起因する毛細管現象に基づくものである。すなわち、アノードとカソードにおける溶融炭酸塩の引張り合いにより溶融炭酸塩の保持量が決定されているからであると考えられる。そこで、アノードとカソードの細孔率のバランスを最適化してやることによりMCFCの出力電圧の向上を図ることに思い至った。
【0008】
図1はガス組成及びガス温度に基づきネルンスト式で決まる出力電圧の理論値(本例の場合、1060mV)と実際に外部に取出し得た出力電圧との差である電圧降下分の原因を分析評価したもので、図1(a)がアノードの細孔率が62%で、且つアノードの細孔率>カソードの細孔率(従来技術)の場合、図1(b)が図1(a)の場合よりもアノードの細孔率を55%迄緻密化し、この結果アノードの細孔率=カソードの細孔率とした場合、図1(c)が図1(b)の場合よりもさらにカソードの細孔率を61%迄粗孔化し、この結果アノードの細孔率<カソードの細孔率とした場合である。なお、図1(b)の場合のカソードの細孔率は図1(a)の場合と同じになるように形成した(ただし、若干のバラツキは発生する)。また、図1(c)の場合のアノードの細孔率は図1(b)の場合と同じになるように形成した(ただし、若干のバラツキは発生する)。
【0009】
図1を参照すれば(a)から(c)に向かってカソード0反応ロス及び内抵抗が大きく改善され、従来技術を示す(a)で817mVであった出力電圧が、(b)で847mV迄上昇し、さらに(c)では860mV迄上昇していることが分る。
【0010】
さらに、アノード細孔率とカソード細孔率との組み合わせを種々変化させて、各試料の1セル当たりの出力電圧を測定したものが表1である。
【0011】
【表1】

【0012】
表1中の試料1が図1(a)、試料5が図1(b)、試料7が図1(c)の特性を与えるアノード及びカソードの組み合わせである。ここで、表1中酸化時とは、カソードが酸化された後の細孔率を意味している。例えば多孔質ニッケル板を焼成して形成したカソードは、これを実際の電極に用いた場合には酸化されて例えば多孔質酸化ニッケル板となるが、焼成直後で電極として使用する前のカソードの細孔率は、その電極として使用した後のカソードの細孔率よりも大きい。これは、カソードがその酸化後には素材の膨張により孔が収縮するからである。したがって、MCFCとしては酸化後のカソード細孔率を基準にその出力電圧との関連を評価している。
【0013】
また、表1の結果に基づきアノード細孔率とカソード細孔率(酸化時)との差に対する出力電圧特性を図2に示す。同図を参照すれば、アノード細孔率とカソード細孔率(酸化時)との差に対する出力電圧特性は前記差がマイナスの値として大きくなればなるほど上昇する傾向にあることが分った。特に、アノード細孔率<カソード細孔率の関係が成立し、両者の差の絶対値が大きい場合ほど高い出力電圧が得られている。
【0014】
図1及び図2の実験結果は、アノード側に炭酸塩がより多くの残るような電極構成とすることによりMCFCの出力電圧を上昇させることができることを表わしている。
【0015】
かかる知見に基づく本発明の第1の態様は、
多孔質の導電体の板で形成したアノード及びカソードであって、前記アノード及び前記カソードの体積に占める孔の割合である細孔率を、前記アノードと前記カソードとで同じにするか、又は前記アノードの細孔率よりも前記カソードの細孔率が大きくなるように構成したことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極にある。
【0016】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載するMCFCの電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率と前記アノードの細孔率との差が0乃至13%であることを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極にある。
【0017】
本発明の第3の態様は、
第1又は第2の態様に記載するMCFCの電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率が80%以下であることを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極にある。
【0018】
本発明の第4の態様は、
第1乃至第3の態様の何れか一つに記載するMCFCの電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記カソードの細孔に含まれる炭酸塩の体積を前記細孔の体積で除した値である炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値としたことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極にある。
【0019】
本発明の第5の態様は、
第1乃至第4の態様の何れか一つに記載するMCFCの電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値よりも前記炭酸塩仕込み量が多くなるような値としたことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極にある。
【0020】
本発明の第6の態様は、
第1乃至第5の態様に記載する何れか一つの電極を有することを特徴とするMCFCにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アノード側により多くの炭酸塩が残るような構成としてMCFCとしての出力電圧を上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
図3は本発明の実施の形態に係るMCFCを示す分解斜視図である。同図に示すように、本形態に係るMCFCは、カソードガスホルダ1、流路板2、SUSメッシュ板3、カソード4、電解質板5、アノード6、流路板7及びアノードガスホルダ8を有している。ここで、カソードガスホルダ1には空気(O)と二酸化炭素(CO)が供給される。また、アノードガスホルダ8には燃料としての水素(H)と一酸化炭素(CO)とが供給される。カソード4は多孔質の導電体の板である酸化ニッケル板で形成されており、SUSメッシュ3板及び流路板2を介してカソードガスホルダ1内に収納してある。ここで、SUSメッシュ3は脆い酸化ニッケル板であるカソード4の機械的な補強を行うとともに、カソード4に作用する面圧分布を均一化するためのものである。また、アノード6は多孔質の導電体の板であるニッケル板で形成されており、流路板7を介してアノードガスホルダ8内に収納してある。電解質板5は炭酸塩を浸漬させたセラミック多孔質板で形成してあり、アノード6とカソード4との間に挟持してある。
【0024】
かかるMCFCにおけるカソード側では、カソードガスホルダ1を介して供給された空気(O)と二酸化炭素(CO)が流路板2及びSUSメッシュ板3を介してカソード4に接触する。この結果、カソード4では外部回路から供給された電子と反応して炭酸イオンが生成され、この炭酸イオンが電解質板5を移動してアノード側に至る。
【0025】
一方、アノード側では、アノードガスホルダ8を介して供給された燃料としての水素(H)と一酸化炭素(CO)とが流路板7を介してアノード6に接触する。この結果、アノード6では電解質板5を移動してきた電子と水素が反応して二酸化炭素、水及び電子を生成する。かくして生成された電子が外部回路を介してカソード側へ移動して同様の反応が繰り返されることにより外部回路には連続的に電流を流すことができる。
【0026】
ここで、本形態に係るカソード4とアノード6との細孔率の関係は次の様に調整してある。なお、細孔率とはカソード4及びアノード6の体積に占める孔の割合(%)である。本形態では、前記細孔率を、アノード6とカソード4とで同じにするか、又はアノード6の細孔率よりもカソード4の細孔率が大きくなるように構成してある。
【0027】
また、本形態に係るアノード6及びカソード4にはプレ含浸法により予め炭酸塩を仕込んである。ここで、アノード6及びカソード4に含浸させる炭酸塩は、ガスの透過性を考慮してアノード6及びカソード4の各細孔体積の75%に含浸し、残りの必要な炭酸塩はカソード側の流路に仕込んである。具体的には、溶剤(例えば、エタノール乃至水)に溶かし込んだ炭酸塩をカソード側の流路板2に塗布することにより構成している。
【0028】
かかる本形態によればアノード側により多くの炭酸塩が残るような構造となって、大きな出力電圧を得ることができる。
【0029】
さらに、具体的には、表1に試料5,6,7として示すアノード6及びカソード4を有するMCFCは、すべて上記実施の形態の条件を満たしており、従来技術である試料1に比べ何れも高い出力電圧を得ている。したがって、次の3つを本発明の実施例として挙げることができる。
【0030】
<実施例1>
アノード6の細孔率が55%で、且つカソード4の細孔率が55%の場合である。本実施例によれば847mVの出力電圧が得られる。
【0031】
<実施例2>
アノード6の細孔率が57%で、且つカソード4の細孔率が59%の場合である。本実施例によれば842mVの出力電圧が得られる。
【0032】
<実施例3>
アノード6の細孔率が58%で、且つカソード4の細孔率が61%の場合である。本実施例によれば860mVの出力電圧が得られる。
【0033】
なお、本発明においては、基本的にはアノード6の細孔率とカソード4の細孔率とが同じか、又はアノード6の細孔率よりもカソード4の細孔率が大きくなっていれば良いが、カソード4の細孔率はその機械的強度により制限される。カソード4の形成部材である酸化ニッケルが酸化により脆くなることとも相俟って細孔率があまりに大きくなると電極として必要な機械的強度を維持し得ないからである。したがって、カソード4の細孔率は酸化前のニッケル板の状態で80%(酸化後では68%)程度が上限であると考えられる。そこで、表1及び図2の結果に基づけばカソード4の細孔率とアノード6の細孔率との差が0乃至13%であることが好ましい。
【0034】
図4はアノード乃至カソードの細孔に含まれる炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性を示す特性図である。同図に示すように、過電圧特性は、アノード6乃至カソード4における炭酸塩の仕込み量に対し極小値Aを持つことが知られている。そして、過電圧が極小の場合がMCFCの出力電圧も最大になると考えられる。そこで、アノード6及びカソード4の細孔率との関係とともに過電圧が極小値Aを持つように炭酸塩の仕込み量を調整することで、さらに容易に高出力電圧を得ることができる。ここで、アノード6及びカソード4に仕込んだ炭酸塩は、MCFCとして発電を継続すると蒸発等によりその量が減少する。したがって、最初は極小値Aを与える仕込み量よりも若干多い仕込み量としておくのが最適である。このように最適値BとすることによりMCFCの使用とともに炭酸塩の量が減少して極小値Aに向かう特性とすることにより使用により過電圧を低減することができるという効果を得る。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は電力設備の製造、販売、運用を行う産業界において有効に利用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ネルンスト式で決まる出力電圧の理論値と実際に外部に取出し得た出力電圧との差である電圧降下分の原因を分析評価した結果を示すグラフである。
【図2】アノード細孔率とカソード細孔率との差に対する出力電圧特性を示す特性図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るMCFCを示す分解斜視図である。
【図4】アノード乃至カソードの細孔に含まれる炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0037】
1 カソードガスホルダ
2 流路板
3 SUSメッシュ板
4 カソード
5 電解質板
6 アノード
7 流路板
8 アノードガスホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の導電体の板で形成したアノード及びカソードであって、前記アノード及び前記カソードの体積に占める孔の割合である細孔率を、前記アノードと前記カソードとで同じにするか、又は前記アノードの細孔率よりも前記カソードの細孔率が大きくなるように構成したことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項2】
請求項1に記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率と前記アノードの細孔率との差が0乃至13%であることを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率が80%以下であることを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記カソードの細孔に含まれる炭酸塩の体積を前記細孔の体積で除した値である炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値としたことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値よりも前記炭酸塩仕込み量が多くなるような値としたことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5に記載する何れか一つの電極を有することを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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