説明

溶融紡糸方法および溶融紡糸装置

【課題】交換後の紡糸パック内の多錘同時脱気作業に際し、脱気作業効率、操業性および品質を改善することができる溶融紡糸方法と溶融紡糸装置を提供すること。
【解決手段】溶融紡糸をするに際し、糸条冷却装置10の上部に少なくとも2つ以上の口金内部を減圧する口金減圧ヘッドを設置し、該糸条冷却装置を上昇させることにより口金シール手段7を紡糸パック3の下面に密着させ、前記2つ以上の口金を同時に減圧し、該紡糸パック内を減圧状態とした後に、計量ポンプを作動させ、溶融ポリマが口金から吐出された後に、前記口金減圧ヘッドを取り外し、紡出を継続する溶融紡糸方法。少なくとも2つ以上の口金内部を同時に減圧する減圧手段を有し、かつ該減圧手段は、口金減圧ヘッド、糸条冷却装置と減圧源とを備え、前記口金減圧ヘッドは、紡糸パックの下面にてシールする口金シール手段、弾性支持する弾性支持手段、口金シール手段ベースを有する溶融紡糸装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質な糸条を製造するうえで好適に適用できる溶融紡糸方法と溶融紡糸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂ポリマを溶融紡糸する場合、押出機直上のチップ貯留槽から押出機へチップを供給し、押出機にて溶融しながら計量ポンプを経て紡糸パックに順次ポリマを供給し紡出する。
【0003】
この工程において、ポリマ中に気泡を含み、気泡が存在したままポリマを紡出すると、繊度斑が大きくなったり糸切れ率が高くなるという問題がある。また、気泡中に酸素が存在したまま溶融した場合には、酸化によるポリマ変性やガスの発生が起こりやすくなるという問題がある。
【0004】
この問題に対して、押出機へのチップ供給部を不活性気体で置換したり、また真空にした後不活性気体で置換したりすることで押出機内の酸素濃度を抑え溶融紡糸する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、押出機へのチップ供給部を真空状態に保ったままにし、押出機内への気泡の噛み込みを防止する溶融紡糸方法も知られている。
【0006】
また、熱可塑性樹脂ポリマへの改質剤の添加等により、熱分解あるいは重化合によるガスが発生する場合があるが、ベント押出機を使用してベント部を真空化することによりガスを脱気することで、気泡の噛み込みを防止する溶融紡糸方法も提案されている(特許文献2)。
【0007】
上記以外の気泡噛み込み部として交換直後の紡糸パックが挙げられる。紡糸パック交換後に計量ポンプを起動すると、紡糸パック内に熱可塑性ポリマが流入し、濾過層等に充填されるが、流速が遅くデッドスペースになりやすい部分では空気が抜けず滞留することが多い。特に、重合度が高いポリマにおいては粘度が高いため気泡が滞留しやすい。また、近年の高速紡糸化や超極細化やポリマの多様化においては、この問題の解決が課題となっている。
【0008】
これを解決するための方法として、真空発生源に連通する吸引用ポットを紡糸パック下面に口金を覆うように取り付け、紡糸パック内を吸引用ポットを介して真空状態とした後に計量ポンプを作動し、溶融ポリマが口金から紡出されると計量ポンプの作動を一旦停止して吸引用ポットを取り外し、しかる後計量ポンプを再起動して溶融ポリマを口金から紡出することで気泡の噛み込みを防止する溶融紡糸方法が提案されている(特許文献3)。しかし、吸引用ポットの紡糸パックした面への取り付けは、単錘対応であり、また人手で実施しているのが現状である。
【特許文献1】特開昭61−113816号公報
【特許文献2】特公平2−14441号公報
【特許文献3】特開平3−59104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年において、特に紡糸機の多錘化が進んでおり、交換後の紡糸パック内の脱気作業を単錘単位で実施するのは非常に効率が悪く、多錘同時脱気による作業の効率化が求められていた。
【0010】
本発明は、この課題を解決するためになされたものであり、交換後の紡糸パック内の脱気作業に際し、多錘同時に脱気することにより脱気作業効率を上げ、操業性および品質を改善することができる溶融紡糸方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を解決するための本発明の溶融紡糸方法は、次の(1)の構成を有するもである。
(1)溶融ポリマを口金から糸条として吐出する溶融紡糸をするに際し、糸条冷却装置の上部に少なくとも2つ以上の口金内部を減圧する口金減圧ヘッドを設置し、該糸条冷却装置を上昇させることにより口金シール手段を紡糸パックの下面に密着させ、前記2つ以上の口金を同時に減圧し、該紡糸パック内を減圧状態とした後に、計量ポンプを作動させ、溶融ポリマが口金から吐出された後に、前記口金減圧ヘッドを取り外し、紡出を継続することを特徴とする溶融紡糸方法。
【0012】
また、上述した目的を達成する本発明の溶融紡糸装置は、以下の(2)の構成を有するものである。
(2)溶融ポリマを口金から糸条として吐出する溶融紡糸装置において、少なくとも2つ以上の口金内部を同時に減圧する減圧手段を有し、かつ該減圧手段は、口金減圧ヘッドと、該口金減圧ヘッドを支持する糸条冷却装置と減圧源とを備え、前記口金減圧ヘッドは、紡糸パックの下面にてシールする口金シール手段と、該口金シール手段を弾性支持する弾性支持手段と、該弾性支持手段を支持する口金シール手段ベースを有することを特徴とする溶融紡糸装置。
【0013】
また、かかる本発明の溶融紡糸装置において、より具体的構成として好ましくは、以下の(3)〜(6)のいずれかの構成を有するものである。
(3)少なくとも2つ以上の前記紡糸パックを備え、各紡糸パックに備えた口金を同時に減圧する減圧手段を有することを特徴とする上記(2)記載の溶融紡糸装置。
(4)1つの前記紡糸パックに少なくとも2つ以上の口金を備え、該1つの紡糸パック内の各口金を同時に減圧する減圧手段を有することを特徴とする上記(2)または(3)に記載の溶融紡糸装置。
(5)少なくとも2つ以上の互いに独立昇降可能な前記糸条冷却装置を有し、各糸条冷却装置にそれぞれ口金減圧ヘッドを備え、該各口金減圧ヘッドに対応する口金を同時に減圧する減圧手段を有することを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載の溶融紡糸装置。
(6)各口金における減圧手段において、少なくとも2つ以上の口金を1つの減圧源で同時に減圧可能な減圧源を有することを特徴とする上記(2)〜(5)のいずれかに記載の溶融紡糸装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紡糸パック交換後に紡糸パック内の脱気作業を行い溶融紡糸を行うに際して、紡糸パック内脱気作業の効率を大幅に上げることができ操業性および品質を改善することができる溶融紡糸方法と溶融紡糸装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の溶融紡糸方法と溶融紡糸装置の実施の形態を図を用いて説明する。
【0016】
本発明の溶融紡糸方法は、溶融ポリマを口金から糸条として吐出する溶融紡糸をするに際し、糸条冷却装置の上部に少なくとも2つ以上の口金内部を減圧する口金減圧ヘッドを設置し、該糸条冷却装置を上昇させることにより口金シール手段を紡糸パックの下面に密着させ、前記2つ以上の口金を同時に減圧し、該紡糸パック内を減圧状態とした後に、計量ポンプを作動させて溶融ポリマが口金から吐出された後に、前記口金減圧ヘッドを取り外し、紡出を継続することを特徴とする。
【0017】
図1は本発明の溶融紡糸装置の一実施態様を示した概略模式図(正面図)である。図2は、図1に示した溶融紡糸装置の側面図である。図3は本発明の溶融紡糸装置の一実施態様を示すものであり、糸条冷却装置を下降させたときの溶融紡糸装置の模式図(正面図)である。図4は、図3に示した溶融紡糸装置の側面図である。図5〜図7は本発明の溶融紡糸装置の他の実施態様を示す模式図である。
【0018】
図1において、2はパックハウジングであり、紡糸ビーム1に内設されており、パックハウジング2内に紡糸パック3が収納されている。紡糸パック3には口金4が組み込まれており、口金下面は露出させている。1つのパックハウジングに1つの紡糸パック3を備えた構成でもよく、あるいは1つのパックハウジングに複数の紡糸パック3を備えた構成であってもよい。また、1つの紡糸パック3に1つの口金4を組み込んだ構成でもよく、あるいは、1つの紡糸パック3に複数の口金を組み込んだ構成であってもよい。
【0019】
図2、図3において、少なくとも2つ以上の口金4を同時に減圧する減圧手段5(図示せず)は、口金減圧ヘッド6(図4(b)参照)と該口金減圧ヘッドを支持する糸条冷却装置10と減圧源11から構成される。
【0020】
口金減圧ヘッド6は、紡糸パック下面にてシールする口金シール手段7と、該口金シール手段7を弾性支持する弾性支持手段8と、該弾性支持手段8を支持する口金シール手段ベース9を備えている。
【0021】
紡糸パック3は、品種に応じて、紡糸ビーム1により通常150〜300℃前後の温度で加熱され、このとき紡糸パック下面の表面温度は通常100〜250℃前後となる。このため、口金シール手段7は、耐熱性が要求される。耐熱性が優れた材料としてフッ素樹脂で構成されるシール材が一例として挙げられる。また、そのシール材にゴムを含むものや含まないものも例として挙げられるが、本発明は、それらの例にのみ限定されるものではない。
【0022】
紡糸パック3の下面で確実にシールができるように紡糸パック下面は傷等による段差がなく、また表面仕上げされていることが好ましく、傾きなく水平であることが好ましい。
【0023】
口金シール手段の紡糸パック下面に接触する面も同様に傷等による段差がなく、また表面仕上げされていることが好ましく、傾きなく水平であることがシール性向上のために好ましい。
【0024】
シール部の形状は、口金全面を覆うような形状であればどのような形状でもよい。あるいは、複数の口金を同時に覆う形状とすることもできる。
【0025】
口金シール手段を紡糸パック下面に密着させ、紡糸パック内を減圧した後に、計量ポンプを作動し、口金からポリマが吐出されたら計量ポンプを止めるが、口金から吐出されたポリマが減圧源11の方へ進入するのを防止するために、計量ポンプ作動開始からポリマ吐出までに要する時間を予め計測し、計量ポンプ停止のタイミングを把握しておくことが好ましい。また、同じく口金から吐出されたポリマが減圧源11の方へ進入するのを防止するために、口金シール手段5と減圧源11との間にフィルターを入れておくことも好ましい。
【0026】
また、口金シール手段7の紡糸パック下面に直接接触する部分は、繰り返しの接触により経時で接触面が傷み、シール性が悪化していくので、この消耗部分のみ交換できるような構成とするのが好ましい。
【0027】
口金シール手段7は、弾性支持手段8により弾性支持される。本発明では、糸条冷却装置の上に口金減圧ヘッドを設置し、糸条冷却装置を上昇させることで口金シール手段を紡糸パック下面に密着させるが、糸条冷却手段に多少傾きがあっても、パックピッチが多少ずれていても、確実にシールできるように、糸条冷却装置と紡糸パックとの間を介する口金シール手段が、口金シール手段ベースを介して糸条冷却装置上で弾性支持される必要がある。さらに複数の紡糸パック下面を同時に確実にシールする場合を考慮すると、各紡糸パックに対応した口金シール手段の単位で弾性支持されるのが好ましい。弾性支持するための部材として、弾性体として一般的な金属バネやゴムが挙げられる。
【0028】
バネ形態としては、コイルバネの他、皿バネ、板バネ、金属メッシュバネ等が例として挙げられ本発名に使用することができる。また、ゴムとしては、板状の天然ゴムや合成ゴムの他、防振座として使用するものなども使用することができる。
【0029】
口金シール手段ベース9は弾性支持手段8を支持し、糸条冷却装置上部に設置させる。口金シール手段ベース9は糸条冷却装置上部で位置が一箇所に決まるようにするのが好ましく、相互に印をつけ位置決めするようにしてもよいし、左右および前後位置を規制する規制手段を口金シール手段ベース9側に、または糸条冷却装置10側に設けてもよい。また、口金シール手段ベース9は、糸条冷却装置に設置するが、設置したときに冷却風吹き出し面を傷つけないように、また糸条冷却装置上部で安定するように配慮することが好ましい。
【0030】
糸条冷却装置10は、口金下面の空間において昇降可能なものであればよく、冷却風を一方向に送風するタイプの糸条冷却装置であっても、あるいはまた、図5に示すような円筒状フィルターにより冷却風を糸条の外側からから糸条に向かって送風するタイプの糸条冷却装置であってもよく、また、あるいは、円筒状フィルターにより糸条の内側から放射状に送風するタイプの糸条冷却装置であってもよく、冷却風の性質は問わないものである。
【0031】
また、糸条冷却装置10の昇降のための駆動源は特に限定されるものではなく、電気を利用しても空気圧を利用してもよい。糸条冷却装置10に口金減圧ヘッドを預けるために使用される。糸条冷却装置以外の口金シール手段の支持方法として、手で支持することが考えられる。単錘毎に減圧する場合はこの方法でもよいが、多錘型紡糸機においては錘が増すとその分作業量が増える。また、紡糸パック下面でのシール部接圧は減圧源による接圧のみとなるため、何らかの原因で真空破壊が起きた場合に、口金シール手段が落下するおそれがある。また、口金シール手段が落下した場合、再装着までの時間帯においては紡糸パック内の気泡が残ったままポリマが流れている可能性が残り、これが原因で繊度斑や糸切れ率が大きくなる場合がある。よって2つ以上の口金を同時に減圧する場合においては、手での支持は作業性・安全性とも好ましくない。他の助力装置を使用し支持する方法もあるが経済的に好ましくない。
【0032】
本発明において、口金減圧ヘッドは糸条冷却装置を下降させた位置にて、糸条冷却装置の上部にセットして設置し、その後糸条冷却装置を上昇することにより紡糸パック下面に密着させるため、手で密着させる場合に比べて作業性は大幅に改善する。また、口金減圧ヘッド6は糸条冷却装置10の上に預けられており、真空破壊が起きた場合でも落下するおそれはない。さらに、糸条冷却装置10を使用することで、紡糸パック下面でのシール部接圧は減圧源による接圧の他に、糸条冷却装置上昇圧力による接圧を利用することができるので、複数の口金を口金シール手段により同時に減圧可能となり、また口金シール手段の落下の可能性もなく、さらにシール性能の向上が期待できるという効果がある。つまり、本発明は、作業性・安全性・経済性ともに優れた方法である。
減圧源11は真空ポンプの他、真空エジェクタなど任意の真空発生手段でよい。減圧源11と口金減圧ヘッド6に連通する減圧手段として、金属配管や真空用のホース12などが使用できる。
【0033】
また、減圧手段の取り扱いを容易にするために、前記金属配管や真空ホースは、カプラ13等を使用し、より容易に口金減圧ヘッド6または減圧源11への脱着が行えるよう構成するのが好ましい。また、各口金に対して複数の減圧源による減圧を行っても、各口金に対して1つの減圧源による減圧を行ってもよい。経済的には複数の口金に対して1つの減圧源により減圧することが好ましい場合がある。減圧によって到達する到達真空圧は、より小さい方が好ましく、具体的には1kPa以下であることが好ましく、より好ましくは1Pa以下である。1kPa以上で紡糸パック内の脱気が十分でなく、糸切れ改善の効果も十分でない。
【0034】
本発明において、2つ以上の口金を同時に減圧するに際し、減圧手段5における口金減圧ヘッド6と糸条冷却装置10の組み合わせは、特に限定されるものでないが、口金減圧ヘッド6の昇降が糸条冷却装置10の昇降によって行われることから、1つの糸条冷却装置10に対応して1つの口金減圧ヘッド6を使用するのが好ましく、1つの口金減圧ヘッド6で1つの糸条冷却装置が賄う全紡糸パックに対応する全口金を同時に減圧できるように、口金減圧ヘッド6に口金シール手段7を配置するのが作業効率上好ましい。さらに作業効率を上げるために、複数の糸条冷却装置が賄う全紡糸パックに対応する全口金を同時に減圧できるように、例えば図7に示すような構成とすることも作業効率上、好ましい。
【0035】
なお、本発明に使用される熱可塑性樹脂原料は、ポリエステルやポリアミドに代表される熱可塑性樹脂の他、溶融紡糸可能なものであれば特に限定されるものではない。
【0036】
上記のような構成により、本発明においては、溶融された合成樹脂(溶融ポリマー)を口金から糸条として吐出する溶融紡糸をするに際し、糸条冷却装置上部に少なくとも2つ以上の口金を減圧する口金減圧ヘッドを設置し、該糸条冷却装置を上昇させることで口金シール手段を紡糸パック下面に密着させ、少なくとも2つ以上の口金を同時に減圧し、紡糸パック内を減圧状態とした後に、計量ポンプを作動し、溶融ポリマが口金から吐出された後に、口金減圧ヘッドを取り外し、通常の紡出を継続して行うことが可能となる。
【0037】
すなわち、交換後の紡糸パック内の脱気作業を行うに際し、多錘同時に脱気することにより脱気作業効率を上げ、操業性および品質を改善することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。評価方法は次のとおりである。
【0039】
(1)製糸性
対象錘について紡糸パック交換後の生産量1tonあたりの糸切れ回数を算出し、3回分のデータの平均値を、次の基準で評価した。値は小数点以下1桁までとし小数点以下2桁目を四捨五入する。
○:ブランク対比で1割以上改善されたもの
×:○以外のもの
【0040】
(2)繊度斑
紡糸パック交換後の紡糸開始直後の糸条をサンプリングし、ZELLWEGER USTER社のUSTER TESTER UT−4を使用して糸速50m/分、Z撚り、撚り数8000rpmで3分間、1/2inertで測定し、対象錘について平均値を算出した。
値は小数点以下2桁までとし小数点以下3桁目を四捨五入した。この値を次の基準で評価した。
○:ブランク対比で1割以上改善(繊度斑が小さくなる)されたもの
×:○以外のもの
【0041】
(3)1口金あたりの口金減圧作業時間
紡糸パック交換後、口金減圧作業開始の合図で対象口金の減圧作業を開始する。作業は次の順に一人で行う。口金減圧ヘッドを糸条冷却装置の上にのせ、糸条冷却装置を上昇させることにより口金減圧ヘッドを紡糸パック下面に密着させ、紡糸パック内を減圧した後に、計量ポンプを作動し、口金からポリマが吐出されたら計量ポンプを止め、全ての対象口金の脱気作業完了後、真空ホースを取り外し口金減圧ヘッドを取り外す。
口金減圧作業開始から口金減圧ヘッドを取り外すまでの時間を秒単位で計測し減圧作業時間とし、対象口金数で徐した数値を1口金あたりの減圧作業時間とする。この作業を互いに異なる作業者3人がそれぞれ1回ずつ実施し、3回の平均値を1口金あたりの減圧作業時間として用いる。小数点以下は四捨五入する。
【0042】
実施例1
図1に示す溶融紡糸装置を用いて、ナイロン66ポリマを285℃で溶融紡糸を行い、
5000m/minの速度で巻き取り78デシテックス52フィラメントの糸条を得た。
【0043】
装置構成は、1つの紡糸ビーム1に4つの紡糸パック3を備え、それぞれの紡糸パック3に1つの口金4を備え、1つの紡糸ビーム1に1つの糸条冷却装置10と1つの口金減圧ヘッド6を備えている。総口金数は4つである。
【0044】
口金減圧ヘッド6は、各紡糸パック3に対応して口金シール手段7を4つ備えており、各口金シール手段7はそれぞれ独立した弾性支持手段8によって支持され、弾性支持手段は1つの口金シール手段5(c)によって支持される。
【0045】
また、減圧源11として、真空到達圧0.01kPaの能力を持つ真空ポンプを1つ用いた。真空ポンプと口金シール手段との間の接続にはシリコンゴム性真空用のホース12を用い、それぞれカプラ13で接続できるよう端末処理を行った。
【0046】
まず、ブランクとして全ての紡糸パック交換後、口金減圧作業を行わずに溶融紡糸を行った。このとき糸切れ回数は1.5回/tonであり、繊度斑は0.82%であった。
【0047】
次に上記装置を用いて、紡糸パック交換後に、口金減圧作業を行った後に溶融紡糸を行った。口金減圧作業時の真空圧は100Paであり、1口金あたりの口金減圧作業時間は108秒であった。糸切れ回数は0.9回/tonであり、繊度斑は0.56%であり、いずれもブランク対比で改善した。
【0048】
実施例2
図6に示す溶融紡糸装置を用いて、下記の点を変更した以外は実施例1と同様に溶融紡糸を行い、5000m/minの速度で巻き取り78デシテックス52フィラメントの糸条を得た。
【0049】
装置構成は、1つの紡糸ビーム1に4つの紡糸パック3を備え、それぞれの紡糸パック3に2つの口金4を備え、1つの紡糸ビーム1に1つの糸条冷却装置10と1つの口金減圧ヘッド6を備えている。総口金数は8つである。
【0050】
上記装置を用いて紡糸パック交換後に、口金減圧作業を行った後に溶融紡糸を行った。口金減圧作業時の真空圧は100Paであり、1口金あたりの口金減圧作業時間は59秒であった。糸切れ回数は1.0回/tonであり、繊度斑は0.58%であり、いずれもブランク対比で改善した。
【0051】
実施例3
下記の点を変更した以外は実施例2と同様に溶融紡糸を行い、5000m/minの速度で巻き取り78デシテックス52フィラメントの糸条を得た。
【0052】
装置構成は、2つの紡糸ビーム1を備え、それぞれの紡糸ビーム1に4つの紡糸パック3を備え、それぞれの紡糸パック3に2つの口金4を備え、それぞれの1に1つの糸条冷却装置10と1つの口金減圧ヘッド6を備えている。総口金数は16個である。
【0053】
上記装置を用いて紡糸パック交換後に、口金減圧作業を行った後に溶融紡糸を行った。口金減圧作業時の真空圧は100Paであり、1口金あたりの口金減圧作業時間は32秒であった。糸切れ回数は1.0回/tonであり、繊度斑は0.57%であり、いずれもブランク対比で改善した。
【0054】
比較例1
下記の点を変更した以外は実施例2と同様に溶融紡糸を行い、5000m/minの速度で巻き取り78デシテックス52フィラメントの糸条を得た。
【0055】
装置構成は、1つの紡糸ビーム1に4つの紡糸パック3を備え、それぞれの紡糸パック3に1つの口金4を備え、1つの紡糸ビーム1に1つの糸条冷却装置10と1つの口金減圧ヘッド6を備えている。総口金数は4つである。
【0056】
口金減圧ヘッド6は各紡糸パック3に対応して口金シール手段7を1つ備えており、1口金単位でシールする。この口金減圧ヘッドを4つ準備する。
【0057】
減圧源11として、真空到達圧0.01kPaの能力を持つ真空ポンプを1つ用いた。真空ポンプと口金シール手段との間の接続にはシリコンゴム性真空用のホース12を用い、各口金シール手段に対応して4つ準備し、それぞれカプラ13で接続できるよう端末処理を行った。また4つの口金シール手段に連通した真空ホースを1つの真空ポンプに接続できるように、真空ポンプ側に4つの枝を設けた。口金減圧作業は、作業者が手で口金シール手段7を紡糸パック下面にあて、紡糸パック内の減圧により口金シール手段7が紡糸パック下面に保持された後、口金シール手段7から手を離し、隣の紡糸パックに移る。別の口金シール手段7を次の紡糸パック下面にあて同様の作業を行い、これを4パックすべて実施する。
【0058】
上記装置を用いて紡糸パック交換後に、口金減圧作業を行った後に溶融紡糸を行った。口金減圧作業時の真空圧は100Paであったが、4つの口金のうち1つは、真空破壊が発生し落下した。30秒後に再取り付けし、真空圧は100Paまで戻った。1口金あたりの口金減圧作業時間は135秒であり、実施例1〜3に比べて大幅に減圧作業時間を要した。シール手段が落下した錘のみを対象とした糸切れ回数は1.4/tonであり、繊度斑は0.75%であり、いずれもブランク対比で同等であり、判定は×であった。シール手段が落下した錘以外の錘を対象とした、糸切れ回数は1.1回/tonであり繊度斑は0.61%であり、いずれもブランク対比で改善された。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は本発明の溶融紡糸装置の一実施態様を示した概略模式図(正面図)である。
【図2】図2は、図1に示した溶融紡糸装置の側面図である。
【図3】図3は本発明の溶融紡糸装置の一実施態様を示すものであり糸条冷却装置を下降させたときの溶融紡糸装置の模式図(正面図)である。
【図4】図4は、図3に示した溶融紡糸装置の側面図である。
【図5】図5は、本発明の溶融紡糸装置の他の実施態様を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の溶融紡糸装置の他の実施態様を示す模式図である。
【図7】図7は、本発明の溶融紡糸装置の他の実施態様を示す模式図である。
【符号の説明】
【0062】
1 紡糸ビーム
2 パックハウジング
3 紡糸パック
4 口金
5 減圧手段
6 口金減圧ヘッド
7 口金シール手段
8 弾性支持手段
9 口金シール手段ベース
10 糸条冷却装置
11 減圧源
12 ホース
13 カプラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ポリマを口金から糸条として吐出する溶融紡糸をするに際し、糸条冷却装置の上部に少なくとも2つ以上の口金内部を減圧する口金減圧ヘッドを設置し、該糸条冷却装置を上昇させることにより口金シール手段を紡糸パックの下面に密着させ、前記2つ以上の口金を同時に減圧し、該紡糸パック内を減圧状態とした後に、計量ポンプを作動させ、溶融ポリマが口金から吐出された後に、前記口金減圧ヘッドを取り外し、紡出を継続することを特徴とする溶融紡糸方法。
【請求項2】
溶融ポリマを口金から糸条として吐出する溶融紡糸装置において、少なくとも2つ以上の口金内部を同時に減圧する減圧手段を有し、かつ該減圧手段は、口金減圧ヘッドと、該口金減圧ヘッドを支持する糸条冷却装置と減圧源とを備え、前記口金減圧ヘッドは、紡糸パックの下面にてシールする口金シール手段と、該口金シール手段を弾性支持する弾性支持手段と、該弾性支持手段を支持する口金シール手段ベースを有することを特徴とする溶融紡糸装置。
【請求項3】
少なくとも2つ以上の前記紡糸パックを備え、各紡糸パックに備えた口金を同時に減圧する減圧手段を有することを特徴とする請求項2記載の溶融紡糸装置。
【請求項4】
1つの前記紡糸パックに少なくとも2つ以上の口金を備え、該1つの紡糸パック内の各口金を同時に減圧する減圧手段を有することを特徴とする請求項2または3に記載の溶融紡糸装置。
【請求項5】
少なくとも2つ以上の互いに独立昇降可能な前記糸条冷却装置を有し、各糸条冷却装置にそれぞれ口金減圧ヘッドを備え、該各口金減圧ヘッドに対応する口金を同時に減圧する減圧手段を有することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の溶融紡糸装置。
【請求項6】
各口金における減圧手段において、少なくとも2つ以上の口金を1つの減圧源で同時に減圧可能な減圧源を有することを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の溶融紡糸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−133024(P2009−133024A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309488(P2007−309488)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】