説明

溶融金属めっき用ロール

【課題】特に大型で長尺のロールにおいて、ロール自体の自重による荷重が軸部にかかり、ロールを回転させて大面積の鋼板を送るときの駆動力が軸部にかかったとしても、容易に破損することの少ない軸部を有する溶融金属めっき用ロールおよびこれを用いた溶融金属めっき装置を提供する。
【解決手段】セラミックス製の筒状の胴部11の端部に、従動側と駆動側とにそれぞれ接続される支持部12bと嵌合部12aとからなるセラミックス製の軸部12を有する溶融金属めっき用ロール10において、少なくとも一方の軸部12は、支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する複数の貫通孔13および支持部12bの周囲の嵌合部12aを貫通する複数の貫通孔13の少なくとも一方を有する溶融金属めっき用ロール10である。強度に優れた軸部12を有しているので、溶融金属めっき用ロール10は長期間にわたって用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムや亜鉛等の溶融金属中に浸漬して鋼板に金属めっきを施す溶融金属めっき装置で用いられるシンクロールやサポートロールと呼ばれるセラミックス製の溶融金属めっき用ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディ等は、金属めっきを施した鋼板を加工して形成されており、表面を活性化させた鋼板をアルミニウムや亜鉛等の溶融金属中に浸漬して金属めっきを施すのに溶融金属めっき装置が用いられている。
【0003】
図5は、溶融金属めっき装置の例を示す概略構成図である。
【0004】
この溶融金属めっき装置41は、溶融金属45を入れる溶融金属槽44と、鋼板42の表面を清浄するスナウト43と、溶融金属45中で鋼板42を外周に沿わせて回転することにより鉛直方向に鋼板42の向きを変えて送るシンクロール46と、鋼板42の幅方向の反りの矯正等を図りながら、さらに鉛直方向に鋼板42を送るサポートロール47と、溶融金属45から引き上げられた鋼板42にガスを吹き付けることによって、鋼板42の表面の金属めっきの厚さを調整するガスノズル48とから構成されている。
【0005】
そして、還元雰囲気の連続焼鈍炉から送り出された鋼板42は、スナウト43の中を通して溶融金属45の中に送り出されるため、大気雰囲気に曝されることなく溶融金属45に浸漬される。溶融金属45に浸漬された鋼板42は、溶融金属槽44の底部付近に備えられたシンクロール46の外周に沿わされてシンクロール46が回転することによって、進行方向が溶融金属槽44の底部方向から溶融金属45の液面方向へと変えて送られる。次に、回転する2つのサポートロール47の間を鋼板42が通過することによって、鋼板42の幅方向の反りの矯正等が行なわれ、さらに鉛直方向に鋼板42が送られ、溶融金属45から引き上げられた鋼板42にガスノズル48からガスを吹き付けることによって、金属めっきの厚みが均一に調整された鋼板42を得ることができる。そして、金属めっきが施された鋼板42に塑性加工を施すことにより、自動車のボディ等を形成することができる。
【0006】
ここで、溶融金属めっき装置41を構成するシンクロール46およびサポートロール47の材質としては、従来はクロム鋼やステンレス鋼などの金属材料が用いられていたが、長時間溶融金属45に浸漬されて用いられるため、これらの金属材料からなるシンクロール46やサポートロール47は、表面が溶融金属45に浸食されて磨耗しやすいという問題があった。
【0007】
このように、シンクロール46やサポートロール47の表面が溶融金属45に浸食されて磨耗すると、シンクロール46やサポートロール47は回転時に微振動が生じて、この微振動によって均一な厚みの金属めっきを施した鋼板42を得ることが困難となるため、溶融金属めっき装置41を停止させて、磨耗したシンクロール46やサポートロール47を交換しなければならず、メンテナンスコストが増大するとともに、生産効率が低下するという問題があった。
【0008】
この問題に対し、耐食性に優れる超硬合金やセラミックス等を金属材料の表面に溶射して、溶射保護層を形成したシンクロール46やサポートロール47が種々提案されていた。この溶射保護層を形成したシンクロール46やサポートロール47は、金属材料のみからなるシンクロール46やサポートロール47よりも耐食性に優れているものの、溶射保護層は密度が低く、溶射保護層と金属材料からなるシンクロール46やサポートロール47との熱膨張係数が異なることから、溶射保護層に亀裂を生じやすく、この亀裂に入り込んだ溶融金属45に浸食されて金属材料が磨耗するという問題は依然として解消されていなかった。
【0009】
そのため、さらに耐食性や耐磨耗性に優れたシンクロール46やサポートロール47として、例えば特許文献1には、ロール胴部と軸部をそれぞれセラミックスにより中空状に形成し、ロール胴部の内面と軸部の外面との間に隙間を有するように、ロール胴部の両端部に軸部を嵌合して組み立てた連続溶融金属めっき用ロールが提案されている。
【0010】
また、特許文献2には、ロール胴部と軸部とをそれぞれセラミックスにより中空状に形成し、ロール胴部の両端部に軸部を接合して構成され、軸部の外周に溶融金属を排出するための孔を形成した連続溶融金属めっき用ロールが提案されている。
【0011】
また、特許文献3には、ロール胴部と軸部とをそれぞれセラミックスにより中空状に形成し、ロール胴部の両端部に軸部を接合した溶融金属浴中に浸漬して用いられる連続溶融金属めっき用ロールが提案されている。
【0012】
これらの特許文献1〜3の連続溶融金属めっき用ロールであれば、耐食性,耐熱性および耐磨耗性等に優れているので耐用寿命が永くなり、中空状に形成されているのでロールの軽量化を図ることができるため、鋼板の走行速度の変化に良好に追従して回転させることができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3765485号公報
【特許文献2】特許第4123457号公報
【特許文献3】特許第4147509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された連続溶融金属めっき用ロールは、いずれも軸部が中空状に形成されており、軽量化が図られているものの、近年は、大面積の鋼板42に金属めっきを施すために、外径が150mmを超えて長さが1500〜3000mmの大型で長尺のシンクロール46やサポートロール47が求められており、特許文献1〜3に記載された連続溶融金属めっき用ロールのように軸部の径を中心とした大口径の孔が開いていると、ロール自体の自重による荷重や、ロールを回転させて大面積の鋼板42を送るときの駆動力が軸部にかかるため、軸部の強度が足りずに破損するおそれがある。
【0015】
本発明は上記課題を解決すべく案出されたものであり、特に大型で長尺のロールにおいて、ロール自体の自重による荷重や、ロールを回転させて大面積の鋼板を送るときの駆動力が軸部にかかったとしても、容易に破損することの少ない軸部を有する溶融金属めっき用ロールおよびこれを用いた溶融金属めっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の溶融金属めっき用ロールは、セラミックス製の筒状の胴部の端部に、従動側と駆動側とにそれぞれ接続される嵌合部と支持部とからなるセラミックス製の軸部を有する溶融金属めっき用ロールにおいて、少なくとも一方の前記軸部は、前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する複数の貫通孔および前記支持部の周囲の前記嵌合部を貫通する複数の貫通孔の少なくとも一方を有することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の溶融金属めっき用ロールは、上記構成において、前記支持部の周囲の前記嵌合部を貫通する貫通孔が前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する貫通孔よりも大きいことを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の溶融金属めっき用ロールは、上記いずれかの構成において、前記嵌合部に、前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する前記複数の貫通孔とつながる穴を設けたことを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の溶融金属めっき用ロールは、上記いずれかの構成において、前記胴部および前記軸部が、窒化珪素質焼結体からなることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の溶融金属めっき装置は、上記いずれかの構成の溶融金属めっき用ロールを、溶融金属中で被めっき体を取り扱うためのロールとして用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の溶融金属めっき用ロールによれば、セラミックス製の筒状の胴部の端部に、従動側と駆動側とにそれぞれ接続される嵌合部と支持部とからなるセラミックス製の軸部を有する溶融金属めっき用ロールにおいて、少なくとも一方の前記軸部は、前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する複数の貫通孔および前記支持部の周囲の前記嵌合部を貫通する複数の貫通孔の少なくとも一方を有することにより、溶融金属めっき用ロール自体の自重による荷重や、溶融金属めっき用ロールを回転させて鋼板を送るときの駆動力が軸部にかかったとしても、容易に破損することが少なく、より耐久性を向上させることができる。
【0022】
また、本発明の溶融金属めっき用ロールによれば、前記支持部の周囲の前記嵌合部を貫通する貫通孔が前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する貫通孔よりも大きいことにより、鋼板に金属めっきを施す溶融金属めっき装置の運転に耐え得る強度を有するとともに、軽量化を図ることができるので、軸部にかかる荷重を低減することができる。
【0023】
また、本発明の溶融金属めっき用ロールによれば、前記嵌合部に、前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する前記複数の貫通孔とつながる穴を設けたことにより、鋼板に金属めっきを施す溶融金属めっき装置の運転に耐え得る強度を有するとともに、軽量化を図ることができるので、軸部にかかる荷重を低減することができる。
【0024】
また、本発明の溶融金属めっき用ロールによれば、前記胴部および前記軸部が窒化珪素質焼結体からなることにより、溶融金属めっき用ロール自体の自重による荷重や溶融金属めっき用ロールを回転させて鋼板を送るときの駆動力に耐え得る機械的強度を有し、溶融金属との濡れ性が低いことから、本発明の溶融金属めっき用ロールを溶融金属中から取り出したときに、胴部および軸部への溶融金属の付着が極めて少なく容易にメンテナンスを実施することができる。
【0025】
また、本発明の溶融金属めっき装置によれば、本発明の溶融金属めっき用ロールを、溶融金属中で被めっき体を取り扱うためのロールとして用いることにより、長時間にわたって安定して鋼板への金属めっきを施すことができるため、メンテナンスコストを削減できるとともに、交換頻度が少なくなるので生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の溶融金属めっき用ロールを用いた溶融金属めっき装置の実施の形態の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の溶融金属めっき用ロールの実施の形態の一例を示す、(a)は溶融金属めっき用ロールの軸方向の断面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面の拡大図である。
【図3】本発明の溶融金属めっき用ロールの実施の形態の他の例を示す、(a)は溶融金属めっき用ロールの軸方向の断面図であり、(b)は(a)のB−B’線での断面の拡大図である。
【図4】本発明の溶融金属めっき用ロールの実施の形態のさらに他の例を示す、(a),(b),(c)はいずれも溶融金属めっき用ロールの軸方向の断面図である。
【図5】溶融金属めっき装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の溶融金属めっき用ロールおよびこれを用いた溶融金属めっき装置の実施の形態の例について図面を用いて説明する。
【0028】
図1は、本発明の溶融金属めっき用ロールを用いた溶融金属めっき装置の実施の形態の一例を示す概略構成図である。
【0029】
この溶融金属めっき装置1は、溶融金属5を入れる溶融金属槽4と、鋼板2の表面を清浄するスナウト3と、溶融金属5中で鋼板2を外周に沿わせて回転することにより鉛直方向に鋼板2の向きを変えて送るシンクロール6と、鋼板2の幅方向の反りの矯正等を図りながらさらに鉛直方向に鋼板2を送るサポートロール7と、溶融金属5から引き上げられた鋼板2にガスを吹き付けることによって、鋼板2の表面の金属めっきの厚さを調整するガスノズル8とから構成されている。
【0030】
そして、還元雰囲気の連続焼鈍炉から送り出された鋼板2は、スナウト3の中を通して溶融金属5の中に送り出されるため、大気雰囲気に曝されることなく溶融金属5に浸漬される。溶融金属5に浸漬された鋼板2は、溶融金属槽4の底部付近に備えられたシンクロール6の外周に沿わされてシンクロール6が回転することによって、進行方向が溶融金属槽4の底部方向から溶融金属5の液面方向へと変えて送られる。次に、回転する2つのサポートロール7の間を鋼板2が通過することによって、鋼板2の幅方向の反りの矯正等が行なわれ、さらに鉛直方向に鋼板2が送られ、溶融金属5から引き上げられた鋼板2にガスノズル8からガスを吹き付けることによって、金属めっきの厚みが均一に調整された鋼板2を得ることができる。この溶融金属めっき装置1を構成するシンクロール6やサポートロール7に本発明の溶融金属めっき用ロール10が適用される。
【0031】
図2は、本発明の溶融金属めっき用ロールの実施の形態の一例を示す、(a)は溶融金属めっき用ロールの軸方向の断面図であり、(b)は(a)のA−A’線での断面の拡大図である。
【0032】
図2に示す例の本発明の溶融金属めっき用ロール10は、セラミックス製の筒状の胴部11と、筒状の胴部11の両端に接続される嵌合部12aと支持部12bとからなるセラミックス製の軸部12によって構成されており、軸部12の一方はロールの回転の駆動源となる駆動側の回転軸に接続されて、もう一方は駆動源から与えられた駆動力に従って回転する従動側の軸受に接続されている。そして、従動側および駆動側にそれぞれ接続される軸部12の少なくとも一方が、支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する貫通孔13aおよび支持部12bの周囲の嵌合部12aを貫通する複数の貫通孔13bの少なくとも一方を有していることが重要である。なお、図2(a)において、図の左側の部分では、右側の部分と同様の箇所についての参照符号を省略している。
【0033】
このように、溶融金属めっき用ロール10が軸部12に貫通孔13aおよび貫通孔13bの少なくとも一方を有していることにより、特に大面積の鋼板2に金属めっきを施すのに用いられる大型で長尺のロールにおいて、溶融金属めっき用ロール10自体の自重による荷重や、溶融金属めっき用ロール10を回転させて大面積の鋼板2を送るときの駆動力が軸部12にかかったとしても、容易に破損することが少なく、より耐久性を向上させた溶融金属めっき用ロール10とすることができる。また、軸部12に貫通孔13aおよび貫通孔13bの少なくとも一方を有していることにより、溶融金属めっき用ロール10からなるシンクロール6やサポートロール7を溶融金属5の中から取り出したときに、筒状の胴部11内に溜まった溶融金属5を貫通孔13aや貫通孔13bから、従来の中空状に形成されたロールと同様に排出することができる。
【0034】
また、従来のように中空状に形成された軸部は、軸部の一部にでも亀裂が生じると、自重による荷重や継続してかかる駆動力によって、亀裂が全体に伝播して破損するおそれがあるが、本発明のように軸部12に複数の貫通孔13aや貫通孔13bを有する構造とすれば、軸部12の一部に亀裂が生じたときにも、生じた亀裂の近傍の貫通孔13aや貫通孔13bで亀裂の伝播を防ぐことができる。
【0035】
また、図2に示す例のように、貫通孔13a同士,貫通孔13b同士および貫通孔13aと貫通孔13bとの間隔はそれぞれ等しくして設けることが好ましい。これらの間隔が等しく設けられていれば、嵌合部12aおよび支持部12bの強度にばらつきを生じることが少なく、軸部12となる成形体に切削加工を施して貫通孔13aおよび貫通孔13bを形成したり、焼成したりするときにクラック等の不具合を生じることが少ない。
【0036】
また、図2に示す例の溶融金属めっき用ロール10では、従動側および駆動側の両方に、支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する複数の貫通孔13aおよび支持部12bの周囲の嵌合部12aを貫通する複数の貫通孔13bを有する軸部12を示したが、従動側よりも駆動源の駆動力が直接かかる駆動側の軸部12に強度が求められるため、従動側を中空状として駆動側の軸部12に複数の貫通孔13aおよび貫通孔13bの少なくとも一方を有する組合せとしたり、駆動側の軸部12に形成する貫通孔13aや貫通孔13bの径を従動側の軸部12に形成する貫通孔13aや貫通孔13bよりも小さくしたり、従動側の軸部12には貫通孔13aおよび貫通孔13bを形成して、駆動側の軸部12には貫通孔13aおよび貫通孔13bのいずれかを形成するなど、従動側よりも駆動側の軸部12が高い強度を有するようにしてもよい。
【0037】
図3は、本発明の溶融金属めっき用ロールの実施の形態の他の例を示す、(a)は溶融金属めっき用ロールの軸方向の断面図であり、(b)は(a)のB−B’線での断面の拡大図である。なお、図3(a)においても、図の左側の部分では、右側の部分と同様の箇所についての参照符号を省略している。
【0038】
図3に示す例の本発明の溶融金属めっき用ロール10は、支持部12bの周囲の嵌合部12aを貫通する貫通孔13bが支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する貫通孔13aよりも大きいことにより、鋼板2に金属めっきを施す溶融金属めっき装置1の運転に耐え得る強度を有するとともに、軽量化を図ることができるので、軸部12にかかる荷重を低減することができる。
【0039】
また、図3(b)では、貫通孔13aの断面形状が円状であり、貫通孔13bの断面形状が扇状である例を示したが、これに限らず様々な形状とすることができ、かつ様々な形状の組合せとすることができる。さらに、軸部12の強度にばらつきを与えないためには、貫通孔13aや貫通孔13bが軸Cに対して対称に設けられ、貫通孔13a同士の間隔や貫通孔13aと貫通孔13bとの間隔が等しいことが好ましい。
【0040】
また、軸部12にかかる荷重が分散されて貫通孔13aや貫通孔13bの外周部に応力として加わるため、図3(b)に示す例のように、断面視したときの貫通孔13aや貫通孔13bの形状において、応力集中を招く鋭角な部分がない方が好ましい。そのため、貫通孔13aや貫通孔13bの形状を扇状や多角形状とするときには、孔の頂点となる部分をR形状となるように加工して応力の分散を図ることが好ましい。
【0041】
また、軸部12の嵌合部12aと支持部12bとの境界部は、特に溶融金属めっき用ロール10の自重が荷重として集中してかかりやすいために、テーパ形状とするのが好ましく、さらに好ましくは、図3(a)に示す例のように、R形状とするのが良い。
【0042】
図4は、本発明の溶融金属めっき用ロールの実施の形態のさらに他の例を示す、(a),(b),(c)はいずれも溶融金属めっき用ロールの軸方向の断面図である。なお、これらの図においても、図の左側の部分では、右側の部分と同様の箇所についての参照符号を省略している。
【0043】
図4に示す例の本発明の溶融金属めっき用ロール10は、嵌合部12aに、支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する複数の貫通孔13aとつながる大径の穴14が設けられていることから、鋼板2に金属めっきを施す溶融金属めっき装置1の運転に耐え得る強度を有するとともに、軽量化を図ることができるので、軸部12にかかる荷重を低減することができる。なお、穴14は、軸部12において穴14が無い場合に嵌合部12aが占める体積を100%としたときに、嵌合部12aの強度を維持するためには、穴14の体積の割合が50%以下であることが好ましい。
【0044】
また、本発明の溶融金属めっき用ロール10を構成する胴部11および軸部12の材質としては、アルミナ,ジルコニア,窒化珪素,炭化珪素,コージェライトなど種々のセラミックスを適用可能であるが、機械的強度に優れており、溶融金属5との濡れ性が低い特性を有している点で、軸部12が窒化珪素質焼結体からなることが好ましい。本発明の溶融金属めっき用ロール10を構成する胴部11および軸部12が窒化珪素質焼結体からなることにより、溶融金属めっき用ロール10自体の自重による荷重や溶融金属めっき用ロール10を回転させて鋼板2を送るときの駆動力に耐え得る機械的強度を有し、溶融金属5との濡れ性が低いことから、本発明の溶融金属めっき用ロール10からなるシンクロール6およびサポートロール7を溶融金属5中から取り出したときに、胴部11および軸部12への溶融金属5の付着が極めて少なく、容易にメンテナンスを実施することができる。また、胴部11および軸部12が同じ材質の窒化珪素質焼結体からなることにより、胴部11と軸部12との熱膨張差によって嵌め合いが緩んだり亀裂や破損が生じたりすることが少なくなり好ましい。
【0045】
次に、本発明の溶融金属めっき用ロール10の製造方法の一例として、図2に示す形状の筒状の胴部11および軸部12について窒化珪素質焼結体を用いた例の詳細を説明する。
【0046】
まず、1次原料として平均粒径が1μmの窒化珪素粉末を用意して所定量秤量し、バインダと溶媒とを加えてスラリーとする。次に、このスラリーをスプレードライヤーにて噴霧造粒して2次原料を得る。そして、この2次原料を所定の成形型に入れて静水圧プレス成形装置(ラバープレス装置)を用いて、筒状の胴部11となる筒状の成形体と、軸部12となる円柱状の成形体とをそれぞれ成形する。その後、これらの成形体に切削加工を施して所定形状とし、筒状の胴部11となる筒状の成形体と、軸部12となる軸方向に断面視したときの形状が凸状の成形体とを還元雰囲気炉に入れて、1950℃の最高温度にて焼成して焼結体とする。焼成後、焼結体の表面に研削加工を施すことにより、窒化珪素質焼結体からなる筒状の胴部11と軸部12とを得る。
【0047】
次に、得られた筒状の胴部11と軸部12の嵌合部12aとを嵌合させて接合する。筒状の胴部11と軸部12との接合方法としては、焼嵌めやねじ締結等、一般的に部材同士を接合する方法であればいずれの方法も適用可能である。焼嵌めを用いる場合には、筒状の胴部11の内周部と軸部12の嵌合部12aの外周部を焼嵌め可能な寸法に精度よく研削加工を施した後、筒状の胴部11をガスバーナーで加熱して膨張させ、軸部12の嵌合部12aを筒状の胴部11の内周に沿って嵌め込んで、緩やかに冷却させて焼嵌めする。ねじ締結を用いる場合には、筒状の胴部11の端面近くの内周部と軸部12の嵌合部12aの外周部に締結可能なようにねじ加工を施し、ねじ締結する。このときねじ締結を行なう場合は、溶融金属めっき用ロール1の回転方向と逆方向にねじ加工を施し、回転させた際にねじが緩まないようにするのが良い。
【0048】
なお、成形体に施す切削加工によって、図3(a),(b)および図4(a),(b),(c)に示す本発明の溶融金属めっき用ロール10を構成する軸部12を形成できることはいうまでもない。
【0049】
このようにして得られた本発明の溶融金属めっき用ロール10は、特に大型で長尺のロールにおいて、ロール自体の自重による荷重が軸部にかかり、ロールを回転させて大面積の鋼板を送るときの駆動力が軸部にかかったとしても、容易に破損することの少ない軸部を有する溶融金属めっき用ロール10となり、長時間にわたって使用することができる。また、本発明の溶融金属めっき用ロール10を、溶融金属5中で被めっき体である鋼板2を取り扱うためのロールとして用いれば、長時間にわたって鋼板2に金属めっきを施すことができるため、メンテナンスコストを削減できるとともに、交換頻度が少なくなるので生産効率を向上させることができる。
【実施例1】
【0050】
本発明の溶融金属めっき用ロールの実施例を以下に示す。
【0051】
本発明の実施の形態の一例である、図2に示す溶融金属めっき用ロール10を製造し、図1に概略構成を示す溶融金属めっき装置1のサポートロール7としてこれを設置し、鋼板2に金属めっきを施す試験を実施した。以下に詳細を示す。
【0052】
<筒状の胴部11の製造>
図2(a),(b)に示す、セラミックス製の筒状の胴部11の製造を実施した。まず、1次原料として平均粒径が1μmの窒化珪素粉末を用意して所定量秤量し、バインダと溶媒とを加えてスラリーとした。次に、このスラリーをスプレードライヤーにて噴霧造粒して2次原料を得た。そして、この2次原料を筒状の成形品を得ることのできるゴム型に入れて、静水圧プレス成形装置(ラバープレス装置)を用いて、筒状の胴部11となる筒状の成形体を得た。そして、この筒状の成形体の内周や外周等に必要な切削加工を施した。その後、還元雰囲気炉に入れて、1950℃の最高温度にて焼成して焼結体を得た。焼成後、焼結体の表面に研削加工を施して、外径が300mm,内径が220mm,長さが2000mmの窒化珪素質焼結体からなる筒状の胴部11を得た。
【0053】
<軸部12の製造>
図2(a),(b)に示す、セラミックス製の軸部12の製造を実施した。筒状の胴部11の製造に用いた同様の窒化珪素の2次原料を円柱形状の成形品を得ることのできるゴム型に入れて、静水圧プレス成形装置(ラバープレス装置)を用いて、円柱形状の成形体を得た。そして、円柱形状の成形体の支持部12bとなる部分に切削加工を施して、軸方向に断面視したときの形状が凸状の成形体を得た。さらに、切削加工を施して貫通孔13a,13bを形成して、軸部12となる成形体を得た。その後、還元雰囲気炉に入れて1950℃の最高温度にて焼成して焼結体を得た。焼成後、焼結体の表面に研削加工を施して、嵌合部12aの外径が220mm,長さが100mmであり、支持部12bの外径が150mm,長さが250mmであり、貫通孔13aおよび13bの内径が16mmの窒化珪素質焼結体からなる軸部12を得た。
【0054】
<筒状の胴部11と軸部12の接合>
焼嵌めにより窒化珪素質焼結体からなる筒状の胴部11と軸部12とを接合した。まず筒状の胴部11をガスバーナーで加熱して、軸部12の嵌合部12aが嵌合可能となる内径の大きさとなるまで膨張させた。その後、軸部12の嵌合部12aを筒状胴部11に嵌め込み、緩やかに冷却することにより、筒状胴部11と軸部12とを接合し、本発明の溶融金属めっき用ロール10を得た。
【0055】
<鋼板2への金属めっき試験>
図1に示す溶融金属めっき装置1のサポートロール7として、本発明の溶融金属めっき用ロール10を用いて、実際に溶融金属めっき装置1を連続運転させて鋼板2へ金属めっきする試験を実施した。試験は、板厚が2mmで、幅が1300mm,1500mmおよび1800mmの3種類のステンレス製の鋼板2を用いて、溶融金属5として亜鉛を用いた。
【0056】
また、試験には、胴部および軸部を中空状に形成した比較例のロールも準備した。なお、比較例のロールは、軸部が中空状であり、嵌合部および支持部の厚みが30mmであること以外は、本発明の溶融金属めっき用ロール10と同様の原料を用いて同様の寸法となるように製造したものを用いた。
【0057】
<試験結果>
胴部および軸部を中空状に形成した比較例のロールについては、幅が1300mmの鋼板2の亜鉛めっきを行なったところ、2週間の連続運転で駆動側の軸部が破損した。また、幅が1500mmおよび1800mmの鋼板2の亜鉛めっきを行なったところ、いずれも1週間以内に駆動側の軸部が破損した。
【0058】
これに対し、本発明の溶融金属めっき用ロール10は、板厚が2mmで、幅を1300mm,1500mmおよび1800mmの3種類のステンレス製の鋼板2へ亜鉛めっきを行なったところ、軸部12に亀裂や破損を生じることはなく、いずれも2週間を超える溶融金属めっき装置1の連続運転ができた。これにより、大型で長尺のロールにおいて、ロール自体の自重による荷重が軸部12にかかり、ロールを回転させて大面積の鋼板2を送るときの駆動力が軸部12にかかったとしても、容易に破損することの少ない軸部12を有する溶融金属めっき用ロール10であることが確認された。
【0059】
また、比較例において、破損したのがいずれも駆動側の軸部であったことから、駆動源の駆動力が直接かかる駆動側の軸部は、本発明の溶融金属めっき用ロール10を構成する、支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する複数の貫通孔13aおよび支持部12bの周囲の嵌合部12aを貫通する複数の貫通孔13bの少なくとも一方を有する軸部12とすることが好ましいことが確認された。
【0060】
なお、本発明の溶融金属めっき用ロール10に対して駆動側の軸部12についてさらに高い強度が要求される場合には、従動側の軸部12に複数の貫通孔13aおよび貫通孔13bを有し、駆動側の軸部12には従動側の軸部12よりも小さい径の貫通孔13aおよび貫通孔13b、もしくは貫通孔13aおよび貫通孔13bの少なくとも一方を有する組合せとすればよい。
【実施例2】
【0061】
次に、実施例1と同様の製造方法にて、図3(a),(b)に示す、支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する貫通孔13aよりも大きく、支持部12bの周囲の嵌合部12aを貫通する複数の扇状の貫通孔13bを形成した本発明の溶融金属めっき用ロール10を製造した。
【0062】
そして、扇状の貫通孔13bを形成した本発明の溶融金属めっき用ロール10を、実施例1と同様に図1に示す溶融金属めっき装置1のサポートロール7として用いて、板厚が2mmで幅が1800mmのステンレス製の鋼板2へ亜鉛めっきを行なったところ、軸部12に亀裂や破損を生じることはなく、2週間を超える連続運転においても問題なく鋼板2に亜鉛めっきを施すことができた。
【0063】
また、実施例1で製造した本発明の溶融金属めっき用ロールよりも軽量化を図りつつも、鋼板2に亜鉛めっきを施す溶融金属めっき装置1の運転に耐え得る強度を有しており、優れた溶融金属めっき用ロール10となることがわかった。
【実施例3】
【0064】
次に、実施例1と同様の製造方法にて、図4(a)に示す、嵌合部12aに、支持部12bから嵌合部12aにかけて貫通する複数の貫通孔13aとつながる大径の穴14を設けた本発明の溶融金属めっき用ロール10を製造した。なお、軸部12の長さや外径等は実施例1と同様とし、嵌合部12aの筒状の胴部11側に外径が150mmで深さが40mmの穴14を形成した。
【0065】
そして、軸部12に穴14を形成した本発明の溶融金属めっき用ロール10を、実施例1と同様に図1に示す溶融金属めっき装置1のサポートロール7として用いて、板厚が2mmで幅が1800mmのステンレス製の鋼板2へ亜鉛めっきを行なったところ、軸部12に亀裂や破損を生じることはなく、2週間を超える連続運転においても問題なく鋼板2に亜鉛めっきを施すことができた。
【0066】
また、実施例2で製造した本発明の溶融金属めっき用ロール10と同様に、実施例1で製造した本発明の溶融金属めっき用ロール10よりも軽量化を図りつつも、鋼板2に亜鉛めっきを施す溶融金属めっき装置1の運転に耐え得る強度を有しており、優れた溶融金属めっき用ロール10となることがわかった。
【符号の説明】
【0067】
1:溶融金属めっき装置
2:鋼板
3:スナウト
4:溶融金属槽
5:溶融金属
6:シンクロール
7:サポートロール
8:ガスノズル
10:溶融金属めっき用ロール
11:胴部
12:軸部
12a:嵌合部
12b:支持部
13a,13b:貫通孔
14:穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス製の筒状の胴部の端部に、従動側と駆動側とにそれぞれ接続される嵌合部と支持部とからなるセラミックス製の軸部を有する溶融金属めっき用ロールにおいて、少なくとも一方の前記軸部は、前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する複数の貫通孔および前記支持部の周囲の前記嵌合部を貫通する複数の貫通孔の少なくとも一方を有することを特徴とする溶融金属めっき用ロール。
【請求項2】
前記支持部の周囲の前記嵌合部を貫通する貫通孔が前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する貫通孔よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の溶融金属めっき用ロール。
【請求項3】
前記嵌合部に、前記支持部から前記嵌合部にかけて貫通する前記複数の貫通孔とつながる穴を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の溶融金属めっき用ロール。
【請求項4】
前記胴部および前記軸部が、窒化珪素質焼結体からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の溶融金属めっき用ロール。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の溶融金属めっき用ロールを、溶融金属中で被めっき体を取り扱うためのロールとして用いることを特徴とする溶融金属めっき装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−255043(P2010−255043A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105959(P2009−105959)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】