説明

溶解性マイクロニードル・アレイ先端部に位置する目的物質保持部の長さの制御法

【課題】水溶性の洩糸性高分子物質を基剤に用いてワクチン抗原、インスリンなどの目的物質を先端部に保持する溶解性マイクロニードル・アレイを製造する場合、皮膚の厚みに応じて溶解性マイクロニードル・アレイ先端の薬物保持部の長さを調整せねばならない。そのためには、溶解性マイクロニードル・アレイ先端の薬物保持部の長さを自由に制御する技術が求められている。
【解決手段】水溶性の洩糸性高分子物質を基剤としてメス型を用いて溶解性マイクロニードル・アレイを作成する過程において、基剤濃厚液の粘調度を調整するとともにスキジーによる塗布・充填時の加圧力を調整することにより目的物質保持部の先端からの長さを制御することが可能となり、上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性の洩糸性高分子物質を基剤として用いて調製する溶解性マイクロニードル・アレイの先端部に形成する目的物質保持部の先端からの長さを制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロニードルは、皮膚に刺しても痛みを感じないほどに微細化された針であり、従来の吸収促進技術を用いても経皮的に高いバイオアベイラビリティを得ることが困難な薬物のバイオアベイラビリティを改善する製剤技術として研究が行われている。マイクロニードルの材質としては、従来の注射針と同じ金属の他、シリカ等が用いられている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
これらのマイクロニードル・アレイは、注射針と同様に中空構造を有し、薬液を注入するタイプである。また、ポリ乳酸などの生分解性高分子物質を材料として作成されたマイクロニードル・アレイも開発されている。さらに、生体内溶解性を有する物質を基剤とする溶解性マイクロニードルも開発されている。すなわち、基剤に目的物質を配合しておき、皮膚に挿入された後、基剤が溶解することにより、目的物質を皮膚内に投与することができる。例えば、麦芽糖からなる基剤を有する溶解性マイクロニードルが開示されている(特許文献1〜3、40〜43)。マイクロニードルを介して薬物を注入する装置、器具、あるいはマイクロニードルの素材、形状、製法などに関する特許も多数公知である(特許文献4、特許文献7から55)。
【0004】
本発明者は上記麦芽糖を基剤とするマイクロニードルの欠点を克服したマイクロニードルとして、水溶性の洩糸性高分子物質を基剤とする溶解性マイクロニードルを特許出願した(特許文献5)。当該発明は、遺伝子組み換え蛋白薬、ワクチン、遺伝子DNAなどの高分子薬、水溶性の難・低経皮吸収性薬物など皮膚透過性が低いために従来の経皮的投与技術では十分な効果が期待できない薬物の皮膚透過性を高めたものである。
【0005】
ここで、水溶性の難・低経皮吸収性薬物とは、経皮吸収時のバイオアベイラビリティが数%あるいは数%以下という値を示す薬物をいう。より具体的には、アミノグリコシド系抗生物質、バンコマイシンなどのペプチド系抗生物質、ビタミンCなどが典型的な例である。
【0006】
さらに本発明者は水溶性の洩糸性高分子物質であるコンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸などを基剤とする溶解性マイクロニードル・アレイの工業的製造法を発明して特許出願を行った(特許文献6)。さらに溶解性多層マイクロニードル・アレイを考案した(特許文献51)。
【0007】
また、本発明者は、ワクチン抗原などの高分子、インスリンなどのペプチド・蛋白薬を目的物質とし、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ヒアルロン酸などを基剤に用いて、長さ約500μm、底部直径約300μmの円錐状のマイクロニードルを例えば1平方センチメートルのチップ上に10行10列で100本構築した溶解性マイクロニードル・アレイを製造する方法を発明した(特許文献52)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−238347号公報
【特許文献2】特開2005−154321号公報
【特許文献3】特開2005−152180号公報
【特許文献4】特表2006−500973号広報
【特許文献5】国際公開2006/080508号パンフレット
【特許文献6】特願2007−150574号公報
【特許文献7】特表2006−513811号公報(WO2005/044364号)
【特許文献8】特表2006−502831号公報(WO2004/035105号)
【特許文献9】特表2005−533625号公報(WO2004/009172号)
【特許文献10】特表2005−514179号公報(WO2003/059431号)
【特許文献11】特表2005−503194号公報(WO2002/100474号)
【特許文献12】特表2005−501615号公報(WO2003/020359号)
【特許文献13】特表2004−532698号公報(WO2002/100476号)
【特許文献14】特表2004−507371号公報(WO2002/017985号)
【特許文献15】特表2004−504120号公報(WO2002/007813号)
【特許文献16】特表2002−526273号公報(WO00/16833号)
【特許文献17】特開2008−46507号公報
【特許文献18】特開2008−29710号公報
【特許文献19】特開2008−29559号公報
【特許文献20】特開2008−6178号公報
【特許文献21】特開2007−130030号公報
【特許文献22】特開2006−335754号公報
【特許文献23】特開2005−246595号公報
【特許文献24】特表2007−523771号公報(WO2005/082596号)
【特許文献25】特表2007−511318号公報(WO2005/049107号)
【特許文献26】WO2007/030477号公報
【特許文献27】WO2004/000389号公報
【特許文献28】WO2007/091608号公報
【特許文献29】WO2007/116959号公報
【特許文献30】特開2008−011959号公報
【特許文献31】特開2008−074763号公報
【特許文献32】特開2008−125864号公報
【特許文献33】特開2008−237675号公報
【特許文献34】特開2008−296037号公報
【特許文献35】特開2009−061212号公報
【特許文献36】特開2009−072270号公報
【特許文献37】特開2009−078074号公報
【特許文献38】特表2009−501066号公報(WO2008/010681号)
【特許文献39】特表2009−502261号公報(WO2007/012144号)
【特許文献40】特開2009−254756号公報
【特許文献41】特開2009−273872号公報
【特許文献42】特開2009−201956号公報
【特許文献43】特開2009−273772号公報
【特許文献44】特開2009−233170号公報
【特許文献45】特開2009−241357号公報
【特許文献46】特開2009−241358号公報
【特許文献47】特開2009−254876号公報
【特許文献48】特表2009−507573号公報(WO2007/030477号)
【特許文献49】特表2009−533197号公報(WO2008/004781号)
【特許文献50】特表2009−540984号公報(WO2007/147671号)
【特許文献51】WO2009/066763号
【特許文献52】特開2009−195583号公報
【特許文献53】US Patent Application20090155330
【特許文献54】特開2010−029634号公報
【特許文献55】特開2010−082401号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. C. バーチャル(Birchall),「ストラータム・コーニウム・バイパスド・オア・リムーブド(StratumCorneum Bypassed or Removed)」,エンハンスメント・イン・ドラッグ・デリバリー(Enhancement in Drug Delivery),2007年出版,CRC Press、第18章、337−351
【非特許文献2】M. R. プラウスニッツ(Prausnitz),「マイクロニードルズ・フォー・トランスダーマル・ドラッグ・デリバリー(Microneedles for transdermal drug delivery)」,アドバンスト・ドラッグ・デリバリー・レビューズ(Advanced Drug Delivery Reviews),2004年,第56巻,p.581−587
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者が考案した溶解性多層マイクロニードル・アレイの一様相として、先端の皮膚などの適用部位へ挿入される部分に薬物などの目的物質分子が基剤中に固体分散体あるいは懸濁状態で保持されている。マイクロニードル・アレイを用いる患者は乳幼児から高齢者まで多岐にわたることから、溶解性マイクロニードル・アレイの皮膚挿入部に相当する先端部分の長さは患者ポピュレーションにより異なることが予想される。
【0011】
皮膚は構造上、表面から順に、角質層、表皮、真皮に分類される。幼児ではこれら皮膚を構成する層が成人と比べて薄い。このような患者群に対しては、長さを例えば150マイクロメートルというように短くしたマイクロニードル・アレイを適用すれば良いという議論もあるが、円錐状のマイクロニードル・アレイの場合、短くすると根元部分の口径が細くなり強度的に脆くなる。申請者の溶解性マイクロニードル・アレイに関する長年の研究を通じて、円錐状のマイクロニードル・アレイの場合、長さが約500マイクロメートルのマイクロニードル・アレイが強度的にも取り扱い上の観点からも実用的であることが分かってきている。そこで、広範囲の患者群に適用可能な溶解性マイクロニードル・アレイとするためには、薬物などの目的物質を保持する先端部の長さを自由に制御することが求められている。
【0012】
本発明の目的は、目的物質を先端部に保持する溶解性マイクロニードル・アレイにおいて目的物質を保持する部分の先端からの長さを制御することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、水溶性の洩糸性高分子物質を基剤として用い、目的物質を基剤の粘調性濃厚液とともにマイクロニードル・アレイ製造用メス型の中に挿入する際の粘度およびスキジー圧を制御することにより、目的物質保持部の先端からの長さを制御することに成功し、本発明を完成した。
【0014】
より具体的には、メス型を用いて目的物質を先端部へ充填する際に用いる水溶性の洩糸性高分子物質の基剤からなる粘調性濃厚液中における高分子物質の濃度を低くすることによりマイクロニードル・アレイへ中の目的物質保持部の先端からの長さを短くすることができる。
【0015】
また、前記目的物質保持部のマイクロニードル・アレイ先端からの長さは、目的物質を先端部へ充填する際に用いる水溶性の洩糸性高分子物質の粘調性濃厚液をメス型へ入れる際のスキジー圧を高めることにより短くすることができる。
【0016】
前記水溶性の洩糸性高分子物質は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン、ヒアルロン酸などの多糖類、アルブミンなどの蛋白質およびその誘導体ならびにこれらの少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0017】
医薬品製剤としての溶解性マイクロニードル・アレイは幼児から老人まで幅広いポピュレーションに適用される製剤である。しかしポピュレーション間において皮膚の厚さには差がある。そこで、溶解性マイクロニードル・アレイの先端の皮膚に挿入される部分に薬物などの目的物質を保持させる場合、マイクロニードル・アレイの皮膚に挿入される部分の長さをポピュレーション群に応じて調節しなければならない。本発明の技術を用いれば、溶解性マイクロニードル・アレイ製造用メス型の中に目的物質を含む粘調性の基剤濃厚液もしくは粘調性の基剤懸濁液を充填する際の基剤濃度およびスキジー圧を制御することにより、目的物質保持部分の長さを制御して溶解性マイクロニードル・アレイを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に用いる溶解性マイクロニードル・アレイ作成用の基剤は水溶性の洩糸性高分子物質である。基剤濃度としては28.5w/v%から100w/v%の範囲で用いる。
【0019】
目的物質を含有する基剤の濃厚液をメス型に充填するに際し、スキジー圧をかけなくても良いし、かけても良い。スキジー圧をかけて充填すると、できあがった溶解性マイクロニードル・アレイにおいて目的物質保持部の先端からの長さをより短くすることができる。
【0020】
スキジーの際に加圧する場合、その圧力としては0から10MPaの範囲内で用いる。好ましくは0.05から7MPa、より好ましくは0.1から5MPaである。
【0021】
好ましくは、水溶性の洩糸性高分子物質基剤としては、洩糸性を有する多糖類、タンパク質、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。なお、これらの高分子物質については、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
好ましくは、前記洩糸性の多糖類は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン、デキストラン硫酸、ヒアルロン酸、シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸、アガロース、プルラン、及びグリコーゲンおよびそれらの誘導体より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0023】
好ましくは、前記洩糸性のタンパク質は、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、コラーゲン及びゼラチンおよびそれらの誘導体より選ばれた少なくとも1つの物質である。
【0024】
本発明に用いるメス型の材料は、シリコン樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステルのような触媒・重合開始剤・光・熱等により硬化する樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化エチレン、ポリカーボネートのような熱可塑性樹脂などである。また、メス型は加工が容易な材料が好ましい。溶解性マイクロニードル・アレイは、上述したように、数百マイクロメートル程度の大きさであるので、メス型には、このサイズの凹みを加工しなければならないからである。
【0025】
メス型には、深さ約500μm、表面の開口直径約300μmを有する針状の凹みが形成される。高さ約500μm、底面直径約300μmの微小の針状構造物を形成するための型だからである。また、この凹みは例えば1平方センチメートルのチップ上に10行10列で100本程度の密度で構築される。溶解性マイクロニードル・アレイは、その1単位が数平方センチメートルほどのパッチ製剤として提供される場合が多いので、メス型には、マイクロニードル・アレイの1単位に相当する面積毎に上述の凹みの密集が形成され、凹みが形成されていない領域がその周囲に形成されるようにしてもよい。1つのメス型で多くのマイクロニードル・アレイを作製できるようにするためである。また、凹みが形成されていない領域を設けるのは、マイクロニードル・アレイの1単位に植え付けるニードルの数を決め、含有させる目的物質の分量を正確にするためである。
【0026】
基剤に目的物質を保持させる方法としては特に限定はなく、種々の方法が適用可能である。例えば、目的物質を基剤中に超分子化して含有させることにより、目的物質を基剤に保持させた状態でメス型に挿入し、その後、基盤を用いて溶媒を吸収・蒸発させて乾燥・硬化することによってマイクロニードル・アレイを作ることができる。その他の例としては、溶解した基剤の中に微粒子化を施した目的物質を加えて懸濁状態とした状態でメス型に注入し、その後に、基盤を用いて溶媒を吸収・蒸発させて乾燥・硬化することによってマイクロニードル・アレイを取り出すことができる。
【0027】
好ましくは、前記目的物質は、薬物および化粧品に用いられている有効物質である。
【0028】
好ましくは、前記薬物は、ワクチン用抗原、ペプチド、タンパク質、核酸又は多糖類に属するものである。
【0029】
化粧品の分野において目的物質は、皮膚の美白の予防・治療、アンチエージング等を目的とする物質である。
【0030】
溶解性マイクロニードル・アレイを構成するマイクロニードルの長さについては特に限定はないが、好ましくは200〜700マイクロメートル程度、より好ましくは300〜600マイクロメートル程度が好適である。
【0031】
基盤の面積については特に限定はないが、好ましくは約25平方センチメートル、より好ましくは約5.0平方センチメートル、さらに好ましくは約2.0〜1.0平方センチメートル程度が好ましい。また、厚さも特に限定はないが、好ましくは5ミリメートル、より好ましくは3〜1ミリメートル程度がよい。
【0032】
本発明の限定を意図しない以下の実施例によりさらに詳しく説明される。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
直径1.7センチメートルの円形内に深さ約500マイクロメートル、開口部直径約300マイクロメートルの逆円錐状細孔225個を有するシリコン樹脂製のメス型を準備した。また、モデル抗原である卵白アルブミン1 mg、エバンスブルー0.5 mgおよびコンドロイチン硫酸ナトリウム100 mgをサンプルカップに秤量した後、100、150、200、250、300および350マイクロリットルの脱気精製水を各々加えて、基剤濃度が100w/v%、66w/v%、50w/v%、40w/v%、33w/v%、28.5w/v%となる粘調性の濃厚液を調製した。この粘調性濃厚液をメス型の穴の上に塗布し、約3.0MPaの加圧下でスキジーにて挿入した後、卓上遠心分離器を用いてメス型ごと回転させ、遠心力を利用して加重下、充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウム100mgに精製水300マイクロリットルを加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布した。単発打錠器の臼に錠剤用酢酸セルロースを入れ、約10kNの打錠圧で作成した直径1.7cmの錠剤基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化した。その後、基盤をメス型から剥がして、目的物質である卵白アルブミンを含有する青色に着色した先端部を有するマイクロニードル・アレイを得た。
【0034】
作成したマイクロニードル・アレイをビデオマイクロスコープ(VH-5500、キーエンス社、)で観察し、青色に着色した先端の目的物質保持部の先端からの長さを測定した。基剤濃度が100w/v%の場合には228マイクロメートル、66w/v%の場合には213マイクロメートル、50w/v%の場合には203マイクロメートル、40w/v%の場合には186マイクロメートル、33w/v%の場合には168マイクロメートル、28.5w/v%の場合には151マイクロメートルであった。
【0035】
(実施例2)
実施例1と同様に、卵白アルブミン1
mg、エバンスブルー0.5 mgおよびコンドロイチン硫酸ナトリウム100 mgをサンプルカップに秤量した後、100、150、200、250、300および350マイクロリットルの脱気精製水を各々加えて、基剤濃度が100w/v%、66w/v%、50w/v%、40w/v%、33w/v%、28.5w/v%となる粘調性の濃厚液を調製した。シリコン樹脂製のメス型にこの粘調性濃厚液を塗布し、加圧することなくスキジーすることによりメス型基盤上に残留する粘調性濃厚液を除去した後、遠心力を利用して加重下、充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウム100mgに精製水300マイクロリットルを加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布した。直径1.7cmの錠剤基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化した。その後、基盤をメス型から剥がして目的物質である卵白アルブミンを含有する青色に着色した先端部を有するマイクロニードル・アレイを得た。
【0036】
作成したマイクロニードル・アレイをビデオマイクロスコープで観察し、青色に着色した先端の目的物質充填部の先端からの長さを測定した。基剤濃度が100w/v%の場合には366マイクロメートル、66w/v%の場合には349マイクロメートル、50w/v%の場合には320マイクロメートル、40w/v%の場合には297マイクロメートル、33w/v%の場合には291マイクロメートル、28.5w/v%の場合には283マイクロメートルであった。
【0037】
(実施例3)
実施例1と同様に、卵白アルブミン1
mg、エバンスブルー0.5 mgおよびデキストラン(高分子、ナカライテスク)100 mgをサンプルカップに秤量した後、100、150、200、250、300および350マイクロリットルの脱気精製水を各々加えて、基剤濃度が100w/v%、66w/v%、50w/v%、40w/v%、33w/v%、28.5w/v%となる粘調性の濃厚液を調製した。シリコン樹脂製のメス型にこの粘調性濃厚液を塗布し、約3.0MPaの加圧下でスキジーにて挿入した後、遠心力を利用して加重下、充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウム100mgに精製水300マイクロリットルを加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布した。直径1.7cmの錠剤基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化した。その後、基盤をメス型から剥がして目的物質である卵白アルブミンを含有する青色に着色した先端部を有するマイクロニードル・アレイを得た。
【0038】
作成したマイクロニードル・アレイをビデオマイクロスコープで観察し、青色に着色した先端の目的物質充填部の先端からの長さを測定した。基剤濃度が100w/v%の場合には237マイクロメートル、66w/v%の場合には218マイクロメートル、50w/v%の場合には196マイクロメートル、40w/v%の場合には185マイクロメートル、33w/v%の場合には172マイクロメートル、28.5w/v%の場合には155マイクロメートルであった。
【0039】
(実施例4)
実施例1と同様に、卵白アルブミン1
mg、エバンスブルー0.5 mgおよびデキストラン(高分子、ナカライテスク)100 mgをサンプルカップに秤量した後、100、150、200、250、300および350マイクロリットルの脱気精製水を各々加えて、基剤濃度が100w/v%、66w/v%、50w/v%、40w/v%、33w/v%、28.5w/v%となる粘調性の濃厚液を調製した。シリコン樹脂製のメス型にこの粘調性濃厚液を塗布し、加圧することなくスキジーすることによりメス型基盤上に残留する粘調性濃厚液を除去した後、遠心力を利用して加重下、充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウム100mgに精製水300マイクロリットルを加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布した。直径1.7cmの錠剤基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化した。その後、基盤をメス型から剥がして目的物質である卵白アルブミンを含有する青色に着色した先端部を有するマイクロニードル・アレイを得た。
【0040】
作成したマイクロニードル・アレイをビデオマイクロスコープで観察し、青色に着色した先端の目的物質充填部の先端からの長さを測定した。基剤濃度が100w/v%の場合には364マイクロメートル、66w/v%の場合には359マイクロメートル、50w/v%の場合には339マイクロメートル、40w/v%の場合には313マイクロメートル、33w/v%の場合には290マイクロメートル、28.5w/v%の場合には262マイクロメートルであった。
【0041】
(実施例5)
実施例1と同様に、卵白アルブミン1
mg、エバンスブルー0.5 mgおよびデキストラン(低分子、ナカライテスク)100 mgをサンプルカップに秤量した後、100、150、200、250、300および350マイクロリットルの脱気精製水を各々加えて、基剤濃度が100w/v%、66w/v%、50w/v%、40w/v%、33w/v%、28.5w/v%となる粘調性の濃厚液を調製した。シリコン樹脂製のメス型にこの粘調性濃厚液を塗布し、約3.0MPaの加圧下でスキジーにて挿入した後、遠心力を利用して加重下、充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウム100mgに精製水300マイクロリットルを加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布した。直径1.7cmの錠剤基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化した。その後、基盤をメス型から剥がして目的物質である卵白アルブミンを含有する青色に着色した先端部を有するマイクロニードル・アレイを得た。
【0042】
作成したマイクロニードル・アレイをビデオマイクロスコープで観察し、青色に着色した先端の目的物質充填部の先端からの長さを測定した。基剤濃度が100w/v%の場合には221マイクロメートル、66w/v%の場合には184マイクロメートル、50w/v%の場合には169マイクロメートル、40w/v%の場合には151マイクロメートル、33w/v%の場合には147マイクロメートル、28.5w/v%の場合には139マイクロメートルであった。
【0043】
(実施例6)
実施例1と同様に、卵白アルブミン1
mg、エバンスブルー0.5 mgおよびデキストラン(低分子、ナカライテスク)100 mgをサンプルカップに秤量した後、100、150、200、250、300および350マイクロリットルの脱気精製水を各々加えて、基剤濃度が100w/v%、66w/v%、50w/v%、40w/v%、33w/v%、28.5w/v%となる粘調性の濃厚液を調製した。シリコン樹脂製のメス型にこの粘調性濃厚液を塗布し、加圧することなくスキジーすることによりメス型基盤上に残留する粘調性濃厚液を除去した後、遠心力を利用して加重下、充填した。乾燥後、コンドロイチン硫酸ナトリウム100mgに精製水300マイクロリットルを加えて作成した粘調性濃厚液をメス型上に塗布した。直径1.7cmの錠剤基盤を被せ、メス型ごと卓上遠心分離器で回転させて乾燥・硬化した。その後、基盤をメス型から剥がして目的物質である卵白アルブミンを含有する青色に着色した先端部を有するマイクロニードル・アレイを得た。
【0044】
作成したマイクロニードル・アレイをビデオマイクロスコープで観察し、青色に着色した先端の目的物質充填部の先端からの長さを測定した。基剤濃度が100w/v%の場合には297マイクロメートル、66w/v%の場合には277マイクロメートル、50w/v%の場合には251マイクロメートル、40w/v%の場合には244マイクロメートル、33w/v%の場合には228マイクロメートル、28.5w/v%の場合には217マイクロメートルであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
溶解性マイクロニードル・アレイにより、ワクチン抗原、インスリンなどの目的物質を正しい投与量で確実に皮膚に投与するために、皮膚に挿入される先端の部分に目的物質を保持させる。投与する対象が幼児から老人まで多岐のポピュレーションにわたる場合には、皮膚の厚みに応じて溶解性マイクロニードル・アレイ先端の薬物保持部の長さを調整せねばならない。そのためには、溶解性マイクロニードル・アレイ先端の薬物保持部の長さを自由に制御できる技術が求められている。
【0046】
本発明により溶解性マイクロニードル・アレイの先端部に位置する目的物質保持部のマイクロニードル・アレイ先端からの長さを自由に制御することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性の洩糸性高分子物質を基剤としてメス型を用いて溶解性マイクロニードル・アレイを作成する過程において、基剤濃厚液の粘調度を調整するとともにスキジーによる塗布・充填時の加圧力を調整することにより目的物質保持部の先端からの長さを制御する方法。
【請求項2】
水溶性の洩糸性高分子物質を基剤としてメス型を用いて溶解性マイクロニードル・アレイを作成する過程において、高分子物質の濃度を低くすることにより目的物質保持部の先端からの長さを短くする方法。
【請求項3】
水溶性の洩糸性高分子物質を基剤としてメス型を用いて溶解性マイクロニードル・アレイを作成する過程において、目的物質を含有する基剤の粘調性濃厚液をメス型へ塗布・充填する際のスキジー圧を高めることにより目的物質保持部の先端からの長さを短くする方法。
【請求項4】
前記水溶性の洩糸性高分子物質は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストラン、ヒアルロン酸などの多糖類、アルブミンなどの蛋白質およびその誘導体ならびにこれらの少なくとも1つを含む。
【請求項5】
前記メス型は、シリコン樹脂、ポリメタクリル酸メチル、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステルのような触媒・重合開始剤・光・熱等により硬化する樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化エチレン、ポリカーボネートのような熱可塑性樹脂などである。

【公開番号】特開2012−20955(P2012−20955A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159328(P2010−159328)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明は独立行政法人科学技術振興機構が(株)バイオセレンタックに委託した平成20年度独創的シーズ展開事業 革新的ベンチャー活用開発一般プログラムに係る「2層マイクロニードル製造装置」の成果によるものであり、産業技術力強化法第19条の適用を受けるものである。
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】