説明

滑り止め性手袋の製造方法

【課題】滑り止め性及び耐摩耗性をバランス良く備え、特に油に対する滑り止め性に優れた手袋を提供する。
【解決手段】手型に被せた繊維製手袋の表面に成膜助剤を含有するゴム又は樹脂配合液により被覆層を形成し、次いで、該被覆層に溶解性微粒子を埋め込み、該溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により予備硬化し、更に、前記溶解性微粒子を被覆層から溶解除去した後、前記被覆層を加熱により本硬化することを特徴とする滑り止め性手袋の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は滑り止め性手袋の製造方法に関し、更に詳しくは、表面に多数かつ極小の凹部を設けた、耐摩耗性が著しく優れたゴムまたは樹脂製の滑止め性手袋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より手袋の滑止め性を向上させるために、手袋の表面に極小の凹部を設けたゴム又は樹脂製の手袋が知られている。
例えば、製品の表面となる未固化状態の液状樹脂組成物の表面に、その固化した樹脂組成物を溶解しない溶液に溶ける粉粒物を付着させてから、その液状樹脂組成物を固化し、粉粒物を溶解除去することにより、その樹脂組成物からなる表皮に凹凸を付けることを特徴とする手袋が開示され(例えば、特許文献1参照) 、また、より凹部の径が小さく、単位面積当たりの凹部の数が多い手袋およびその製造方法が開示されている( 例えば特許文献2、特許文献3) 。
その他にも、表面に多数かつ極小の凹部を設けた手袋として、化学発泡剤を用いて発泡させた、或いは、機械的に発泡させたゴム又は樹脂を繊維性手袋の上に被覆させた手袋が提案されている(例えば特許文献4) 。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2639415号公報
【特許文献2】特開2002−20913号公報
【特許文献3】特表2007−524771号公報
【特許文献4】特開2000−96322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の手袋は表面に設けられた凹部の径が大きく、かつ手袋表面の単位面積当たりの凹部の数が少ないため、滑り止め効果が十分とはいえない。
また、特許文献2、3の手袋は、滑り止め効果が改善されているものの、実際には凹凸部の形状において凹部と凸部とが配列されたような形状ではなく、スポンジのような多孔質形状になっているため、耐摩耗性に著しく劣るという問題を含んでいる。
更に、特許文献3の手袋は塩の粒子をラテックスに接触させてゲル化させた後、硬化させることなく塩の粒子を水洗除去するためラテックス皮膜強度が弱く、強力な水洗が不可能である。そのため、水洗中に凹部の形状や個数が変動したり、また、例えば錆を惹き起こす硫酸イオン等の残留イオンを除去することができず、作業中に手袋が接触した金属部を発錆させるという問題を含んでいる。この残留イオンは水洗時間を延長する等の手段を施してもイオン濃度の低下は見込めず、ひいては繊維製手袋が変色することもある。
更に、特許文献4の手袋は、滑り止め性は優れているものの、やはり耐摩耗性に弱く、さらには被覆部が気泡によって貫通した部分を有しているため、薬液などが付着した部品を触るなどの作業では薬品が手袋内部に浸入してくるなどの弊害があり、当該手袋を使用できる作業環境が限られるといった問題がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑み、ゴム又は樹脂からなる被覆層の表面に多数かつ極小の凹部を設けた手袋において、該被覆層の表面に特定の幅で、特定の深さで、特定の数密度の凹部を形成することにより、滑止め性に優れ、作業性を損なうことなく、耐摩耗性に著しく優れ、特に油に接触した際の滑り止め性に著しく優れた手袋の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、本発明の請求項1は、手型に被せた繊維製手袋の表面に成膜助剤を含有するゴム又は樹脂配合液により被覆層を形成し、次いで、該被覆層に溶解性微粒子を埋め込み、該溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により予備硬化し、更に、前記溶解性微粒子を被覆層から溶解除去した後、前記被覆層を加熱により本硬化することを特徴とする滑り止め性手袋の製造方法を内容とする。
【0007】
本発明の請求項2は、手型に被せた繊維製手袋の表面に成膜助剤を含有するゴム又は樹脂配合液により被覆層を形成し、次いで、該被覆層に溶解性微粒子を埋め込み、該溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により硬化し、更に、前記溶解性微粒子を被覆層から溶解除去した後、前記被覆層を乾燥することを特徴とする滑り止め性手袋の製造方法を内容とする。
【0008】
本発明の請求項3は、溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により予備硬化した手袋を手型から離型して、前記溶解性微粒子を溶解除去することを特徴とする請求項1又は2記載の滑り止め性手袋の製造方法を内容とする。
【0009】
本発明の請求項4は、ドラムウオッシャーにより溶解性微粒子を溶解除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の滑り止め性手袋の製造方法を内容とする。
【0010】
本発明の請求項5は、成膜助剤が30〜40℃の曇点を有する化合物であり、ゴム又は樹脂の固形分100重量部に対し0.05〜20重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の滑り止め性手袋の製造方法を内容とする。
【0011】
本発明の請求項6は、成膜助剤がアルコール系化合物であり、ゴム又は樹脂の固形分100重量部に対して5〜25重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の手袋の製造方法を内容とする。
【0012】
本発明の請求項7は、溶解性微粒子が硫酸ナトリウムである請求項1〜6のいずれか1項に記載の手袋の製造方法を内容とする。
【発明の効果】
【0013】
また、本発明の手袋の製造方法によれば、溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を予備硬化又は硬化することにより被膜強度を高めてから溶解性微粒子を溶解除去するので、形成された凹部は溶解除去による影響を受けず、凹部の形状や個数が変動することがなく、所望の滑り止めを備えた手袋を製造することができる。
【0014】
また、上記のように、被膜強度が高められているので、手袋を手型から取り外してドラムウオッシャー等を用いて強力に溶解除去でき、上記したような有害残留イオンを大巾に減らすことができ、作業中に手袋が金属部に接触したとしても、該金属部を発錆させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例3の手袋の掌部の表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図2】実施例3の手袋の掌部の断面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図3】比較例1の手袋の掌部の表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図4】比較例1の手袋の掌部の断面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図5】比較例2の手袋の掌部の表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図6】比較例2の手袋の掌部の断面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図7】比較例7の手袋の掌部の表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図8】比較例7の手袋の掌部の断面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)である。
【図9】耐摩耗性テスト後の実施例3の手袋の掌部の表面を真上からデジタルカメラにより撮影した写真である。
【図10】耐摩耗性テスト後の比較例2の手袋の掌部の表面を真上からデジタルカメラにより撮影した写真である。
【図11】耐摩耗性テスト後の比較例7の手袋の掌部の表面を真上からデジタルカメラにより撮影した写真である。
【図12】滑り止め性の評価に用いた六角穴付ボルトと六角ナットを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の滑り止め性手袋の製造方法は、手型に被せた繊維製手袋の表面に成膜助剤を含有するゴム又は樹脂配合液により被覆層を形成し、次いで、該被覆層に溶解性微粒子を埋め込み、該溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により予備硬化し、更に、前記溶解性微粒子を被覆層から溶解除去した後、前記被覆層を加熱により本硬化する。
【0017】
先ず、手型に被せた繊維製手袋の表面に、成膜助剤を含有するゴム又は樹脂配合液により被覆層を形成させる。繊維製手袋には各種繊維のものが適用でき、綿、ポリエステル、ポリウレタン、高強度延伸ポリエチレン、例えば、ダイニーマ(登録商標)、アラミド、例えば、ケブラー(登録商標)等、既知のフィラメント糸または紡績糸を単独で、または複合してシームレスで編まれてなる手袋や編布、織布、不織布の縫製による手袋などが使用できる。
【0018】
ゴムまたは樹脂としては、天然ゴム(NR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR )、クロロプレンゴム(CR)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR )、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR )、塩化ビニル樹脂(PVC) などが例示できる。これらは一般的には水系分散ラテックスであるが、溶剤系溶液や溶剤系分散液でも使用できる。
【0019】
上記ゴム又は樹脂の中では、汎用的かつ安価であるNBR が好ましい。市販品のNBR としては、Nipol (登録商標)Lx−550(日本ゼオン株式会社製)、Nipol (登録商標)Lx−551(日本ゼオン株式会社製)、Nipol (登録商標)Lx−550L (日本ゼオン株式会社製)、Nipol (登録商標)Lx−556(日本ゼオン株式会社製)、PERBUNAN(登録商標)N LATEX VT-LA (Polymer Latex 社製)、PERBUNAN(登録商標) N LATEX X 1130 (Polymer Latex 社製)、PERBUNAN(登録商標) N LATEX X 1138 (PolymerLatex社製)、PERBUNAN(登録商標) N LATEX X 1150 (Polymer Latex 社製)、PERBUNAN(登録商標) N LATEX X 1172 (Polymer Latex 社製)、PERBUNAN(登録商標) N LATEX 2000 (Polymer Latex 社製)、PERBUNAN(登録商標)N LATEX426C (Polymer Latex 社製)、Synthomer (登録商標)6810(Synthomer 社製)、Synthomer (登録商標)6311(Synthomer 社製)、Synthomer (登録商標)6501(Synthomer 社製)、Synthomer (登録商標) 6617 (Synthomer 社製)、Synthomer (登録商標) 6710 (Synthomer 社製)などが使用可能である。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0020】
これらには一般的なゴムに用いられる添加剤、すなわち金属酸化物、加硫促進剤、硫黄、界面活性剤、老化防止剤、充填剤等を配合することが好ましい。
金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化鉛、四酸化三鉛などが挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。金属酸化物の配合量は、ゴムラテックスの固形分100重量部に対し1〜3重量部が好ましい。1重量部未満では十分な強度が得られないために引張強度及びモジュラスの基本特性が得られにくく、また3重量部を超えるとモジュラスが高くなりすぎて手袋にした際にごわごわとした触感となる傾向がある。
【0021】
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系、ジチオカーバメート系、チオウレア系、グアニジン系の加硫促進剤が使用できるが、中でもチウラム系、ジチオカーバメート系のものが好ましい。チウラム系の加硫促進剤としては、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。ジチオカーバメート系加硫促進剤としては、ジブチルチオジカルバミン酸ナトリウム、ジブチルチオジカルバミン酸亜鉛、ジエチルチオジカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
加硫促進剤の配合量は、ゴムラテックスの固形分100重量部に対し0.1〜3.0重量部が好ましい。0.1重量部未満では、加硫の促進効果が十分でなく、また3.0重量部を超えると手袋にしても硬い触感の手袋となったり、初期加硫が進み、スコーチ現象を起こすなどの問題が発生する場合がある。
【0022】
加硫促進剤だけでは加硫が不十分の場合、通常、硫黄を併用する。硫黄の配合量は、ゴムラテックスの固形分100重量部に対し0.1〜3.0重量部が好ましい。0. 1重量部未満では架橋が十分でないために、引張強度およびモジュラスの基本特性が得られにくく、また3.0重量部を超えるとモジュラスが高すぎて手袋にした際にごわごわとした触感となる傾向がある。
【0023】
乳化剤としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム、ロジン酸石鹸、脂肪酸石鹸などが挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
乳化剤の配合量は、ゴムラテックスの固形分100重量部に対し0.1〜10.0重量部が好ましい。0.1重量部未満では、ラテックスの安定性が不十分となりやすく、また10.0重量部を超えると、ラテックスが安定となり過ぎ、被膜が形成しにくくなる傾向がある。
【0024】
老化防止剤としては、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、p−フェニレンジアミン系、キノリン系、ハイドロキノン誘導体系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系、イミダゾール系、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系、亜リン酸エステル系、有機チオ酸系、チオウレア系等の化合物が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
老化防止剤の配合量は、ゴムラテックスの固形分100重量部に対し0.5〜3.0重量部が好ましい。0.5重量部未満では、劣化を遅延させる十分な効果が得られにくく、また、3.0重量部を超えると、特に劣化を遅延させる効果が増大するわけでもなく、さらには強度が低下する場合もある。
【0025】
無機充填剤としては、酸化物系充填剤、炭酸塩系充填剤、ケイ酸塩系充填剤、窒化物系充填剤などが挙げられる。酸化物系充填剤としては、シリカ、酸化チタン、酸化マグネシウム、珪藻土、アルミナ、酸化鉄、酸化スズなどが挙げられ、中でも、シリカ、酸化チタン、酸化鉄が好ましい。炭酸塩系充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛などが挙げられるが、中でも炭酸カルシウムが好ましい。ケイ酸塩系充填剤としては、クレー、カオリナイト、パイロフィライトといったケイ酸アルミニウム、タルクのようなケイ酸マグネシウム、ウォラストナイト、ゾノトライトといったケイ酸カルシウム、ベントナイト、ガラスビーズ、ガラス繊維などが挙げられるが、中でもケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ベントナイトが好ましい。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
充填剤の配合量は、ゴムラテックスの固形分100重量部に対し1〜40重量部が好ましい。1重量部未満では充填剤の効果があまり得られず、また40重量部を超えるとゴムラテックスの安定性等が損なわれる場合がある。
【0026】
本発明では、必要に応じて、更に上記以外の添加剤、例えば、顔料、着色剤、湿潤剤、可塑剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
上記の如くして得られた配合物の粘度を、カルボン酸系増粘剤、セルロース系増粘剤、多糖類系増粘剤等を用いて、好ましくは1000〜3500mPa ・秒、より好ましくは1500〜3000mPa ・秒、さらに好ましくは2000〜3000mPa ・秒に調節して用いるのが好ましい。粘度が1000mPa ・秒未満であると、手袋作製時に繊維性手袋内部に原料が浸透し、手袋にしたときの触感が極めて悪くなる傾向があり、3500mPa ・秒を超えると、皮膜が厚すぎて作業効率の悪い手袋となる傾向がある。
【0027】
本発明においては、上記のようにして得られた基本的な配合に、成膜助剤が添加される。成膜助剤は凝固剤や熱によるゲル化スピードに影響を与え、本発明の目的とする凹部の幅、深さ及び数密度を達成するために必要である。このような成膜助剤としては、30〜40℃の曇点を有する化合物からなる成膜助剤またはアルコール系化合物からなる成膜助剤が好ましい。曇点が40℃を超えると熱によるラテックスのゲル化スピードが低下し、目的とする深さの凹部が得られず、一方、30℃未満ではラテックスのゲル化スピードが速く、原料の不安定化を招く恐れがある。
30〜40℃の曇点を有する化合物からなる成膜助剤としては、ポリビニルメチルエーテル(34℃) 、官能性オルガノポリシロキサン(35±5℃) が好ましい。ここで官能性オルガノポリシロキサンとは低級アルコキシ基、ポリオキシ低級アルキレン基、ポリ低級アルキレンアミノ基又はこれらの誘導体を官能基に持つオルガノシロキサンであって、特にアルキレンオキサイドが付加したものが汎用的であり好ましい。さらに、この官能性ポリオルガノシロキサンの変性物であってもよい。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
30〜40℃の曇点を有する化合物からなる成膜助剤の添加量は0.05〜20重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜1重量部、さらに好ましくは0.2〜0.5重量部である。0.05よりも少ないと本発明の目的とする凹部を有する手袋を作製することが困難で、20重量部を超えるとブリスターが発生しやすくなり不良率が高くなるので好ましくない。
【0028】
アルコール系化合物からなる成膜助剤としては、アルコールやポリオール、エーテルポリオールのように複数のアルコール性ヒドロキシル基をもつ化合物をいい、具体的には、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、へキシレングリコール、ベンジルアルコール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
アルコール系化合物からなる成膜助剤の添加量は5〜25重量部が好ましく、10〜25重量部がより好ましい。5重量部よりも少ないと本発明の目的とする凹部を有する手袋を作製することが困難で、25重量部を超えるとブリスターが発生しやすくなり不良率が高くなるので好ましくない。
【0029】
上記の如く形成された被覆層に溶解性微粒子が埋め込まれる。溶解性微粒子としては、水や溶媒、好ましくは水に溶解するものが好適に用いられる。例えば、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸カルシウム、リン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの金属塩や、グラニュー糖などの砂糖類、クエン酸、アスコルビン酸などの有機酸、その他にはワックス等が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。しかしながら、例えば塩化ナトリウムなどは市販品を入手した場合、その粒子径は500μm前後である場合が多く、下記の粒子径を満たすために粒子を粉砕するなどの手間が必要になる。従って、このような粉砕が不要で、容易に準備できる硫酸ナトリウムが最も好ましい。
【0030】
溶解性微粒子の粒子径は0.1〜425μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1〜300μm、さらに好ましくは75〜300μmである。さらに、使用した全粒子のうち、少なくとも99.5%の粒子の粒子径が300μm以下であることが好ましい。
ここで粒子径とは、Endecotts社製の装置を用いて英国規格(BS812:Part103:1985)に基づいて測定して得られた値である。
【0031】
被覆層への溶解性微粒子の付着量は、被覆層のうち溶解性微粒子を付着する面積、即ち、凹部を形成する被覆層の面積に対し付着させ埋め込むに十分な量である。従って、溶解性微粒子の付着量は、該微粒子を付着させ埋め込む面積、形成させる凹部の数密度により変動する。
溶解性微粒子は被覆層が予備硬化する前に該被覆層に埋め込まれるが、埋め込む方法としては流動浸漬、静電塗装、吹き付け、ふりかけ等の方法が用いられる。
【0032】
次に、溶解性微粒子が埋め込まれた被覆層は、加熱により予備硬化される。予備硬化は次の溶解除去の工程で被覆層が流去したり、変形したりしない程度の強度を被覆層に与えるためのもので、通常、被覆層の固形分量が好ましくは65〜100%、より好ましくは70〜100%、更に好ましくは85〜100%になるように硬化させる。具体的には100〜150℃で5〜10分程度加熱される。
【0033】
次に、被覆層に埋め込まれた溶解性微粒子は、水や溶媒により溶解除去される。溶解性微粒子の除去は水又は温水による洗浄による方法が好ましい。被覆層は前記予備硬化により強度が高められているので、強力な条件下で溶解除去することができ、必要に応じ、手袋を手型から離型してドラムウオッシャー等により溶解除去することも可能である。
この場合、例えば、作業中に接触することによる金属部の発錆を防ぐ手袋を得るには、発錆の原因となるアニオンやカチオンの含有量ができるだけ少なくなるように洗浄するのが好ましく、特に、硫酸イオンは100ppm以下、硝酸イオンは50ppm以下、塩素イオンは1000ppm以下、ナトリウムイオンは1000ppm以下、アンモニウムイオンは50ppm以下とするのが好ましい。
【0034】
次に、溶解性微粒子が除去され、該微粒子が抜け出た形跡である凹部が形成された被覆層は、加熱することにより本硬化される。本硬化により凹部が形成された被覆層は硬化され、形成された凹部の幅、深さ、数密度が維持される。本硬化は通常100〜160℃で15〜60分加熱される。
本硬化された手袋は、手型から離型される。得られた手袋は、滑り止め性及び耐摩耗性のバランスに優れ、発錆の原因となるアニオンやカチオンの含有量が少なく、手袋を装着して作業をする際に金属部に接触しても、該金属部を発錆させることが防止される。
尚、上記した予備硬化、溶解除去、本硬化の方法に代えて、硬化(本硬化)、溶解除去、乾燥の方法を採用することもできる。
【0035】
本発明の製造方法により、繊維製手袋とその表面のゴム又は樹脂の被覆層とからなり、該被覆層の表面に幅0. 1〜425μm 、深さ0. 1〜200μm 、数密度1000〜5000個/cm2の凹部が設けられた滑り止め性手袋を得ることができる。
【0036】
滑り止め性手袋の被覆層表面の凹部の幅、数密度については被覆層の表面を、また、深さについては被覆層の断面をDIGITAL MICROSCOPE VHX-900(KEYENCE製) を用いて100倍に拡大して観察され測定される。
【0037】
凹部の幅は0.1〜425μmであり、好ましくは0.1〜300μm、より好ましくは75〜300μmであり、全ての凹部の少なくとも99.5%が300μm以下の幅を有する。凹部の幅は埋め込まれた溶解性微粒子が抜け出た形跡(凹部)の幅であるから該微粒子の粒子径分布と実質的に同じとなり、従って、溶解性微粒子の粒子径分布によりコントロール可能である。0.1μmよりも小さい幅の凹部は存在する割合が極端に少なく、たとえ僅かに存在するとしても滑り止め効果には殆ど影響することはなく、また、425μmを超えると滑り止め効果が著しく低下する。
凹部の幅とは、凹部を真上から見たときの外周上に2点の任意点を設定し、その直線距離のうちの最大のものを指し、被覆層表面上の任意の点における1mm2 に存在する全ての凹部の幅を測定し、その測定値の最小値と最大値とで示す。
【0038】
凹部の深さは0.1〜200μmであり、好ましくは30〜200μm、より好ましくは30〜150μmである。凹部の深さは溶解性微粒子の粒子径分布と成膜助剤の添加によるゲル化スピードによりコントロール可能である。0.1μmよりも浅いと凹部を設けた意義が失われ目的とする効果が得られず、200μmよりも深いと耐摩耗性が低下したり、被覆層を貫通するおそれがある。
凹部の深さとは、手袋の断面を被覆層を上に、繊維製手袋を下にして観察した場合に、被覆層に存する空隙のうちで最も繊維製手袋側に位置する空隙の最下点と手袋表面(被覆層表面)との距離を指し、被覆層上の任意の10箇所における2mm幅の断面を測定したときの深さのうちの最小値と最大値とを示す。
【0039】
凹部の数密度は1000〜5000個/cm2 であり、好ましくは1000〜4000個/cm2 、さらに好ましくは1500〜3500個/cm2 である。数密度が1000個/cm2 よりも少ないと十分な滑り止め効果、特に油に対する十分な滑り止め効果が得られず、一方、5000個/cm2 を超えるような手袋を作製するのは極めて困難である。数密度は溶解性微粒子の粒子径分布によりコントロール可能である。
凹部の数密度とは、被覆層表面上の任意の1mm2 内に存在する凹部の個数を数え、これを被覆層表面上10箇所で行い、得られた測定値10個のうち最大値と最小値を除いた8個の測定値の平均値を算出し、更に、この平均値を100倍して1cm2 当りの凹部の個数としたものである。
【0040】
滑り止め性手袋の被覆層中の硫酸イオン含有量は好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、ナトリウムイオンの含有量は好ましくは1000ppm以下、より好ましくは700ppm以下、更に好ましくは50ppm以下、塩素イオンの含有量は好ましくは1000ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは30ppm以下、アンモニウムイオンの含有量は好ましくは50ppm以下、硝酸イオンの含有量は好ましくは50ppm以下である。これらのイオンの含有量が上記範囲を超えると、作業中に手袋が金属部に接触した際に、該金属部が発錆する場合がある。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
実施例1
金属製手型に13ゲージの編み機で編んだナイロン製のシームレス手袋を被せ、70℃に加温した後、メタノール100重量部、硝酸カルシウム1.0重量部から成る凝固剤浴槽に浸漬した後、室温30〜40℃の間で30秒間放置することにより、ゴム配合液浸漬直前の手型表面温度を38℃に調整した。
一方、表1記載のゴム配合液に、成膜助剤であるアルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンとして、TPA−4380(GE東芝シリコーン株式会社製、曇点:35℃)をゴムの固形分100重量部に対し0.05重量部添加したゴム配合液の浴槽に手型に被せた手袋を浸漬し、浴槽から引き上げた。続いて、室温で20秒間放置し、溶解性微粒子として粒子径0.1〜300μm の硫酸ナトリウムを満たした流動浸漬槽に浸漬した。その後、100℃で10分間加熱して予備硬化させ、35℃のぬるま湯で60分間水洗して溶解性微粒子を溶解除去した後、135℃で30分間加熱して本硬化させた。その後、手型から離型して手袋を得た。
【0043】
実施例2
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を0.10重量部とした以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0044】
実施例3
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を0.25重量部とした以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
得られた手袋の掌部表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)を図1に示し、同じく断面を真上から撮影した拡大写真(100倍)を図2に示す。図1、図2に示すように、凹部は被覆層の表面に形成され、被覆層の内部には多孔質層は実質的に形成されていない。
【0045】
実施例4
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を1.00重量部とした以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0046】
実施例5
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を2.50重量部とした以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0047】
実施例6
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を5.00重量部とした以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0048】
実施例7
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を10.00重量部とした以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0049】
実施例8
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を18.00重量部とした以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0050】
実施例9
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を0.25重量部とし、さらに溶解性微粒子として粒子径100〜200μm に調整した硫酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0051】
実施例10
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を0.25重量部とし、さらに溶解性微粒子として粒子径75〜250μm に調整した硫酸ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0052】
実施例11
表1に記載したゴム配合液に、成膜助剤としてポリビニルメチルエーテル(PVME)Lutonal(登録商標、M/BASF Corporation製、曇点:34℃)1.00重量部を添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0053】
実施例12
ポリビニルメチルエーテル(PVME)Lutonal(登録商標、M/BASF Corporation製、曇点:34℃)を5.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0054】
実施例13
成膜助剤としてシロキサン系のCoagulant WS(LANXESS株式会社製、曇点:38℃))を0.25重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0055】
実施例14
Coagulant WSを5.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0056】
実施例15
Coagulant WSを10.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0057】
実施例16
成膜助剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートであるブチルセノール20アセテート(協和発酵ケミカル株式会社製)6.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0058】
実施例17
成膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートKyowanol-M( 協和発酵ケミカル株式会社製) 10.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0059】
実施例18
ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートであるブチルセノール20アセテート20.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0060】
実施例19
実施例1で用いた表1記載のゴム配合液を表2記載の樹脂配合液へ変更し、135℃で30分間の架橋を115℃で20分間の乾燥に変更した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0061】
実施例20
実施例1において、成膜助剤であるアルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサン、TPA−4380(GE東芝シリコーン株式会社製、曇点:35℃)をゴムの固形分100重量部に対し0.25重量部に変更し、予備硬化を、110℃で15分間、更に130℃で15分間加熱して本硬化に変更し、本硬化の後、40℃のぬるま湯で30分間水洗して溶解性微粒子を溶解除去した後、130℃で20分間乾燥させた他は、実施例1と同様に操作し、手袋を得た。
【0062】
比較例1
成膜助剤を添加せず、溶解性微粒子を用いなかった以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
得られた手袋の掌部表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)を図3に示し、同じく断面を真上から撮影した拡大写真(100倍)を図4に示す。
【0063】
比較例2
成膜助剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
得られた手袋の掌部表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)を図5に示し、同じく断面を真上から撮影した拡大写真(100倍)を図6に示す。
【0064】
比較例3
ポリビニルメチルエーテル(PVME)Lutonalを0.01重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0065】
比較例4
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380を50.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0066】
比較例5
Kyowanol-Mを2.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0067】
比較例6
Kyowanol-Mを30.00重量部添加した以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0068】
比較例7
成膜助剤を添加せず、溶解性微粒子として粒子径を500〜1000μm に調整した塩化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
得られた手袋の掌部表面を真上からDIGITAL MICROSCOPE VHX-900 (KEYENCE 社製)により撮影した拡大写真(100倍)を図7に示し、同じく断面を真上から撮影した拡大写真(100倍)を図8に示す。
【0069】
比較例8
アルキレンオキサイド変性オルガノポリシロキサンTPA−4380の添加量を0.25重量部とし、さらに溶解性微粒子として粒子径500〜1000μm に調整した塩化ナトリウムを用いた以外は実施例1と同様にして手袋を得た。
【0070】
比較例9
成膜助剤を添加せず、溶解性微粒子を用いなかった以外は実施例19と同様にして手袋を得た。
【0071】
上記実施例1〜20及び比較例1〜9で得られた手袋について、それぞれの製造の概要を表3、表4に示す。尚、凹部の幅、深さ及び数密度は前記した方法で測定又はカウントした。また、手袋の滑り止め性、耐摩耗性、ブリスターを下記の方法で測定、評価した結果を被覆層の厚みとともに表3、表4に示す。
【0072】
(1)滑止め性テスト
工業用油であるSUNOCO IRM 903(SUN OIL COMPANY製、以下「試験用油」)100gを100mLビーカーに注ぎ込み、この中に、図12に示すように、M4と呼ばれる六角穴付ボルトと六角ナットからなる一組のネジセット(以下「ネジセットA」)及びM6と呼ばれる六角穴付ボルトと六角ナットからなる一組のネジセット(以下「ネジセットB」)を入れた。その後、この二組のネジセットを油浴中からピンセットを用いてシャーレ上に取り出した。
このネジセットを取り出したときの時間を0秒とし、この二組のネジセットを連続して組み立てて取り外すまでの一連の作業に要した時間を測定した。
ここでM4と呼ばれるネジセットAとは鋼製の六角穴付きボルトとこれに対応する六角ナットで、当該ボルトのネジ山の間隔は0.7mmであって、図中における各所寸法がdkは7.0mm、dsは4.0mm、tは2mm、kは4.0mm、lは25mm、sは3mm、eは3.4mmである。
また、M6と呼ばれるネジセットBとは鋼製の六角穴付きボルトとこれに対応する六角ナットで、当該ボルトのネジ山の間隔は1.0mmであって、図中における各所寸法がdkは10.0mm、dsは6.0mm、tは3mm、kは6.0mm、lは25mm、sは6mm、eは5.7mmである。
因みに、測定時間が短いほど、OIL使用時の組立て作業性に優れており、10人の被験者によって時間の測定を行い、その平均値(sec)を示した。
【0073】
(2)耐摩耗性テスト
欧州規格EN 388に準拠して耐摩耗性試験を行った。試験機には Nu−Martindale Abration and Pilling Tester Model 406−6 Positions(James H. Heal & Co. Ltd.製)を用いた。また、試験時には、φ40mmに切り取った試験片、サンドペーパー(OAKEY GLASS PAPER F2、#100、SAINT−GOBA IN ABRASIVES LTD.製)を準備し、摩擦子荷重を9kPaにして試験を実施し、試験開始前と2000回摩耗時の試験片の重量を測定した。
そして、摩耗開始前の試験片の重量と摩耗2000回時の試験片の重量の差を算出し、摩耗による試験片の減少量(以下「摩耗減少量」)によって摩耗強度を判断した。
従って、摩耗減少量が少ないほど耐摩耗性に優れている。
耐摩耗性テスト後の実施例3、比較例2、比較例7の各手袋の掌部表面を真上からデジタルカメラにより撮影した写真を図9、図10、図11に示す。
【0074】
(3)ブリスターの評価
被覆層を目視観察し、ブリスターの有無を測定した。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
表3から明らかなように、実施例1〜20に代表される本発明の手袋は、滑り止め性及び耐摩耗性が共に優れており、ブリスターも認められない。
これに対して、表4から明らかなように、成膜助剤も溶解性微粒子も使用しない比較例1、比較例9の手袋は、滑り止め性に劣っている。また、成膜助剤を使用せず、溶解性微粒子を使用した比較例2の手袋は、凹部の深さが大きすぎ耐摩耗性に劣っている。また、成膜助剤の添加量が少ない比較例3、比較例5の手袋は、凹部の深さが大きすぎ耐摩耗性に劣り、一方、成膜助剤の添加量が多い比較例4、比較例6の手袋は、ブリスターが認められる。また、成膜助剤を使用せず、溶解性微粒子として粒子径の大きいNaClを用いた比較例7の手袋は、凹部の幅が大きすぎ、従って、数密度が小さくなりすぎ、滑り止め性、耐摩耗性のいずれにおいても劣り、この場合において、成膜助剤を使用した比較例8の手袋も同様の結果である。尚、比較例7、8において、被覆層の厚みが約半分と薄くなっているが、その理由は不明である。
【0080】
また、実施例3の手袋についての拡大写真(図1、図2)と、比較例1の手袋についての拡大写真(図3、図4)、比較例2の手袋についての拡大写真(図5、図6)との比較から実施例3に代表される本発明の手袋は被覆層に適切な幅、深さ、数密度の凹部が比較的規則的に形成されているのに対し、比較例1の手袋ではかかる凹部は存在せず、また、比較例2、比較例3の手袋はいずれも凹部の深さが大きいことがわかる。
更に、耐摩耗性テスト後の実施例3の手袋についての拡大写真(図9)と、同比較例2の手袋についての拡大写真(図10)、同比較例7の手袋についての拡大写真(図11)との比較から、実施例3に代表される本発明の手袋は、耐摩耗性テスト後も被覆層の摩耗剥離が小さく耐摩耗性に優れているのに対し、比較例2、比較例7の手袋はいずれも摩耗剥離が大きく耐摩耗性に劣ることがわかる。
【0081】
実施例21
実施例1において、予備硬化させた手袋を手型から離型してドラムウオッシャーにより1分当たり容積の5%の水(ぬるま湯)を入れ換えながら60分間水洗して溶解性微粒子を溶解除去した他は実施例1と同様に操作した。
得られた手袋表面のアニオン及びカチオンのイオンを抽出し、そのイオン量をイオンクロマトグラフィーを用いて測定した。イオンの抽出方法としては、得られた手袋から被覆層を1g採取し、200gの水中に入れ85℃で1時間加熱して抽出した。その結果を表5に示す。
【0082】
比較例10
実施例1において、予備硬化させることなく直ちに40℃のめるま湯で60分間水洗した他は実施例1と同様に操作した。
得られた手袋表面のアニオン及びカチオンのイオン量を測定した。その結果を表5に示す。
【0083】
【表5】

【0084】
上記表5から明らかなように、本発明は手袋の被覆層表面のアニオン及びカチオンの量を大巾に減らすことができる。特に、錆の原因となる硫酸イオン、ナトリウムイオン、塩素イオン、アンモニウムイオン、硝酸イオン等を顕著に減らすことができるので、作業中に手袋が接触することにより惹き起こされる金属部の発錆を防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
叙上のとおり、本発明によれば、滑り止め性と耐摩耗性とをバランス良く備え、特に油に接触している際の滑り止め性に優れた滑り止め性手袋が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手型に被せた繊維製手袋の表面に成膜助剤を含有するゴム又は樹脂配合液により被覆層を形成し、次いで、該被覆層に溶解性微粒子を埋め込み、該溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により予備硬化し、更に、前記溶解性微粒子を被覆層から溶解除去した後、前記被覆層を加熱により本硬化することを特徴とする滑り止め性手袋の製造方法。
【請求項2】
手型に被せた繊維製手袋の表面に成膜助剤を含有するゴム又は樹脂配合液により被覆層を形成し、次いで、該被覆層に溶解性微粒子を埋め込み、該溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により硬化し、更に、前記溶解性微粒子を被覆層から溶解除去した後、前記被覆層を乾燥することを特徴とする滑り止め性手袋の製造方法。
【請求項3】
溶解性微粒子を埋め込んだ被覆層を加熱により予備硬化した手袋を手型から離型して、前記溶解性微粒子を溶解除去することを特徴とする請求項1又は2記載の滑り止め性手袋の製造方法。
【請求項4】
ドラムウオッシャーにより溶解性微粒子を溶解除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の滑り止め性手袋の製造方法。
【請求項5】
成膜助剤が30〜40℃の曇点を有する化合物であり、ゴム又は樹脂の固形分100重量部に対し0.05〜20重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の滑り止め性手袋の製造方法。
【請求項6】
成膜助剤がアルコール系化合物であり、ゴム又は樹脂の固形分100重量部に対して5〜25重量部含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の手袋の製造方法。
【請求項7】
溶解性微粒子が硫酸ナトリウムである請求項1〜6のいずれか1項に記載の手袋の製造方法。

【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−231447(P2011−231447A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90901(P2011−90901)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【分割の表示】特願2010−103970(P2010−103970)の分割
【原出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】