説明

滴下装置

【課題】液体の滴下動作を簡単に調整して精度よく液体を滴下することができる滴下装置を提供する。
【解決手段】腐食液Lの滴下量及び/又は滴下間隔などの滴下条件を設定部3eによって試験者が設定すると、これらの滴下条件が滴下条件情報として設定部3eから制御部3gに出力されて、制御部3gが記憶部3fにこの滴下条件情報を記憶させる。記憶部3fから制御部3gが滴下条件情報を読み出して制御部3gが一連の腐食試験動作を実行する。その結果、調整部3dの開度を制御部3gが動作制御して、所定の滴下量及び/又は滴下間隔で収容部3a内の腐食液Lが滴下部3bから試験対象物Tの表面に落下し、試験対象物Tと腐食液Lとが接触する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、滴下対象物に液体を滴下する滴下装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気車などの鉄道車両の集電装置(パンタグラフ)が接触するトロリ線やこのトロリ線を支持する電車線金具などは、耐蝕性の材料を用いなければならない。このため、新しいトロリ線や電車線金具などを開発する場合には、塩水噴霧試験装置を用いた塩水噴霧試験方法(JIS Z 2371)や腐食溶液に浸した液体浸漬試験(材料が銅系材料のときにはJIS K 8085に規定するアンモニア水などを用いた時期割れ試験)などによって材料の評価をする必要がある。
【0003】
従来の応力腐食疲労試験装置は、塩化ナトリウム溶液などの腐食液を収容する液槽と、棒状の試験片の略中央部に腐食液を滴下する滴下ノズルと、液槽から滴下ノズルに腐食液を供給する配管と、この配管内を流れる腐食液の流量を調整するバルブなどを備えている(例えば、特許文献1参照)。このような従来の応力腐食疲労試験装置では、バルブを手動で回転させてこのバルブの開度を調整して、試験片に滴下する腐食液の滴下量を予め決められた量に調整している。
【0004】
【特許文献1】特開平8-005532号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この従来の応力腐食疲労試験装置では、腐食液の滴下量を試験者がバルブを操作して調整する必要があり、調整作業に手間がかかり調整作業が長時間になる問題点があった。また、従来の応力腐食疲労試験装置では、試験者毎にバルブの調整作業にばらつきが生じるため腐食試験を精度よく実施できない問題点があった。さらに、従来の応力腐食疲労試験装置では、腐食試験中に腐食液の滴下量を変化させて実際の自然環境を模擬した腐食試験を実施するときには、滴下量を変化させる度にバルブを手動で調整して滴下量を可変する必要があるため、実際の自然環境を模擬した腐食試験を正確に再現することが困難である問題点がある。
【0006】
この発明の課題は、液体の滴下動作を簡単に調整して精度よく液体を滴下することができる滴下装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、滴下対象物(T)に液体(L)を滴下する滴下装置であって、前記液体の滴下動作を制御する制御部(3g)を備えることを特徴とする滴下装置(3)である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の滴下装置において、前記制御部は、前記液体の滴下量及び/又は滴下間隔を制御することを特徴とする滴下装置である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の滴下装置において、前記液体を収容する収容部(3a)と、前記滴下対象物に前記液体を滴下する滴下部(3b)と、前記収容部から前記滴下部に前記液体を供給する供給流路(3c)と、前記供給流路内の前記液体の流れを調整する調整部(3d)とを備え、前記制御部は、前記調整部の動作を制御することを特徴とする滴下装置である。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の滴下装置において、前記制御部は、実際の自然環境と同一環境を再現するように前記調整部の動作を制御することを特徴とする滴下装置である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4に記載の滴下装置において、前記制御部は、一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように前記調整部の動作を制御することを特徴とする滴下装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によると、液体の滴下動作を簡単に調整して精度よく液体を滴下することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る滴下装置を備える腐食試験装置の構成図である。
図1に示すに示す試験対象物Tは、腐食試験の対象となる試験片であり、例えばトロリ線又はこのトロリ線を支持する支持金具などである。試験対象物Tの材質は、例えば、銅又はアルミニウムなどの金属、プラスチックなどの合成樹脂である。
【0014】
腐食試験装置1は、試験対象物Tの耐食性を試験する装置である。腐食試験装置1は、試験対象物Tを腐食液Lと接触させてこの試験対象物Tの耐食性を試験する。腐食試験装置1は、図1に示すように、収容装置2と滴下装置3などを備えている。
【0015】
収容装置2は、試験対象物Tを収容する装置である。収容装置2は、外部の温度及び湿度などの環境による影響が試験対象物Tなどに作用しないように、この試験対象物Tを密閉して収容する容器などである。収容装置2は、試験対象物Tを搭載する搭載部2aと、滴下後の腐食液Lを収容装置2の外部に排出する排出口2bとを備えている。
【0016】
滴下装置3は、試験対象物Tに腐食液Lを滴下する装置である。滴下装置3は、試験対象物Tの表面に腐食液Lを所定の間隔(例えば、図1に示す滴下間隔Δ)をあけて落下させてこの試験対象物Tを腐食させる。滴下装置3は、図1に示すように、収容部3aと、滴下部3bと、供給流路3cと、調整部3dと、設定部3eと、記憶部3fと、制御部3gなどを備えている。
【0017】
収容部3aは、腐食液Lを収容する部分であり、塩水、水酸化ナトリウム水溶液、硫酸銅水溶液又は水酸化アンモニウム水溶液などの腐食液Lを収容するタンクである。滴下部3bは、試験対象物Tに腐食液Lを滴下する部分であり、試験対象物Tの表面に向かって腐食液Lが落下するようにこの腐食液Lを排出する排出口(ノズル)である。供給流路3cは、収容部3aから滴下部3bに腐食液Lを供給する部分であり、収容部3aと滴下部3bとを接続し収容部3a内の腐食液Lを滴下部3bに導く配管である。
【0018】
調整部3dは、供給流路3c内の腐食液Lの流れを調整する部分であり、供給流路3cを開閉してこの供給流路3cの開度を調整するバルブ、又は供給流路3cを流れる腐食液Lの流量を調整して滴下部3bに腐食液Lを送出するポンプである。調整部3dは、例えば、海水が漏出する海底トンネル内などの自然環境を模擬するときには、腐食液Lの滴下量及び/又は滴下間隔を可変して試験対象物Tの表面に腐食液Lを滴下部3bから滴下させる。
【0019】
設定部3eは、滴下装置3の種々の動作を設定する部分である。設定部3eは、腐食液Lの滴下量及び/又は滴下間隔などの滴下条件を設定するときに試験者によって操作される操作パネルなどである。設定部3eは、例えば、鉄道車両が走行する実際の海岸地域、山岳地域、積雪地域又は豪雪地域などの気象データや、これらの地域の一年間の時間を短縮した時間などに基づいて滴下条件を設定する。設定部3eは、例えば、実際の対象物が配置される現場の一年間の実際の自然環境と同一環境に基づいて滴下条件を設定する。設定部3eは、設定後の滴下条件を滴下条件情報として制御部3gに出力する。
【0020】
記憶部3fは、設定部3eによって設定された滴下条件を記憶する部分である。記憶部3fは、例えば、設定部3eによって設定された滴下量及び/又は滴下間隔などの滴下条件を滴下条件情報として記憶するメモリである。
【0021】
制御部3gは、滴下装置3の種々の動作を制御する部分であり、腐食液Lの滴下動作を制御する。制御部3gは、例えば、腐食液Lの滴下量及び/又は滴下間隔を制御する。また、制御部3gは、例えば、実際の自然環境と同一環境を再現するように調整部3dの動作を制御したり、実際の対象物が配置される現場の一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように調整部3dの動作を制御したりする。
【0022】
次に、この発明の実施形態に係る滴下装置の動作を説明する。
腐食液Lの滴下量及び/又は滴下間隔などの滴下条件を設定部3eによって試験者が設定すると、これらの滴下条件が滴下条件情報として設定部3eから制御部3gに出力されて、制御部3gが記憶部3fにこの滴下条件情報を記憶させる。記憶部3fから制御部3gが滴下条件情報を読み出して制御部3gが一連の腐食試験動作を実行する。その結果、調整部3dの開度を制御部3gが動作制御して、所定の滴下量及び/又は滴下間隔で収容部3a内の腐食液Lが滴下部3bから試験対象物Tの表面に落下し、試験対象物Tと腐食液Lとが接触する。
【0023】
この発明の実施形態に係る滴下装置には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、腐食液Lの滴下動作を制御部3gが制御する。このため、液体の滴下動作を簡単に調整して精度よく液体を滴下することができる。
【0024】
(2) この実施形態では、腐食液Lの滴下量及び/又は滴下間隔を制御部3gが制御する。このため、腐食液Lの滴下量及び/又は滴下間隔を自動的に精度よく調整することができるとともに、調整作業が簡単になり短時間で腐食試験を実施することができる。
【0025】
(3) この実施形態では、腐食液Lを収容する収容部3aからこの腐食液Lを滴下する滴下部3bに、この腐食液Lを供給流路3cが供給しており、この供給流路3c内の腐食液Lの流れを調整部3dが調整し、この調整部3dの動作を制御部3gが制御する。このため、滴下装置3の構造を簡単にすることができるとともに、腐食液Lの滴下動作を簡単に調整して精度よく腐食液Lを滴下させることができる。
【0026】
(4) この実施形態では、実際の自然環境と同一環境を再現するように制御部3gが各動作を制御する。このため、海岸付近や海底トンネル内などのような実物の材料が配置される自然環境に合わせて腐食液Lを滴下させて耐食性を評価することができる。
【0027】
(5) この実施形態では、一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように制御部3gが各動作を制御する。このため、実際の自然環境を模擬して腐食液Lを滴下させて腐食試験を短期間に効率的に実施することができる。
【0028】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、滴下装置3を腐食試験装置1に使用する場合を例に挙げて説明したが、腐食試験装置1に使用する場合に限定するものではない。また、この実施形態では、滴下装置3が腐食液Lを滴下する場合を例に挙げて説明したが、水などの他の液体を滴下する場合についてもこの発明を適用することができる。
【0029】
(2) この実施形態では、1つの試験対象物Tの耐食性を試験する場合を例に挙げて説明したが、耐食性の評価の基準となる基準用試験片と耐食性を評価する評価用試験片とを腐食させ、基準用試験片と評価用試験片とを比較して基準用試験片に対する評価用試験片の腐食度を判定することもできる。また、この実施形態では、腐食液Lとして塩水などを例に挙げて説明したが、試験期間を短縮するときには塩水以外の腐食性の強い任意の腐食液Lを選択することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施形態に係る滴下装置を備える腐食試験装置の構成図である。
【符号の説明】
【0031】
1 腐食試験装置
2 収容装置
2a 搭載部
2b 排出口
3 滴下装置
3a 収容部
3b 滴下部
3c 供給流路
3d 調整部
3e 設定部
3f 記憶部
3g 制御部
T 試験対象物(滴下対象物)
L 腐食液(液体)
Δ 滴下間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滴下対象物に液体を滴下する滴下装置であって、
前記液体の滴下動作を制御する制御部を備えること、
を特徴とする滴下装置。
【請求項2】
請求項1に記載の滴下装置において、
前記制御部は、前記液体の滴下量及び/又は滴下間隔を制御すること、
を特徴とする滴下装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の滴下装置において、
前記液体を収容する収容部と、
前記滴下対象物に前記液体を滴下する滴下部と、
前記収容部から前記滴下部に前記液体を供給する供給流路と、
前記供給流路内の前記液体の流れを調整する調整部とを備え、
前記制御部は、前記調整部の動作を制御すること、
を特徴とする滴下装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の滴下装置において、
前記制御部は、実際の自然環境と同一環境を再現するように前記調整部の動作を制御すること、
を特徴とする滴下装置。
【請求項5】
請求項4に記載の滴下装置において、
前記制御部は、一年間の実際の自然環境を実際の時間よりも短時間に再現するように前記調整部の動作を制御すること、
を特徴とする滴下装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−206016(P2007−206016A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28108(P2006−28108)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】