説明

漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物。

【構成】ポリカーボネート樹脂(A)および有機系黒色染料(B)を必須成分として含有する樹脂組成物であって、(B)の配合量が0.05〜1.0重量部((A)100重量部あたり)であり、かつ(B)の光学特性が、(A)100重量部および(B)0.3重量部からなる樹脂組成物を射出成形して得られた厚さ2mmの平板の光線透過率を測定した際に、波長800〜900nmの領域において50%以上の光線透過率を有することを特徴とする漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物。
【効果】本発明の優れた漆黒性を有するポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られた成形品は、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた衝撃強度、耐熱性、熱安定性等性能を維持したまま、美麗かつ重厚で品位の高いピアノブラック様の外観を有することから、情報機器、パーソナルコンピュータ、家電製品のみならず様々な分野の製品の意匠性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。更に詳しくは、ポリカーボネート樹脂の特徴である耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等を保持したまま、優れた漆黒性を有するポリカーボネート樹脂組成物に関する。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品は美麗かつ重厚で品位の高い外観を有する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、熱安定性等に優れた熱可塑性樹脂であり、電気、電子、ITE、機械、自動車などの分野で広く用いられている。一方、前述の各分野では、当該樹脂が有するこれらの優れた性能を活かしつつ、得られた成形品の意匠面やデザイン上の観点から優れた漆黒性を有する(ピアノブラックとも称される)外観が望まれる場合があった。
【0003】
ポリカーボネート樹脂組成物に漆黒性を付与させる手法として、従来から隠蔽性の高いカーボンブラックを添加する手法(特許文献1)、シリコーンオイルを添加する手法(特許文献2)などが提案されてきた。
【0004】
しかしながら、カーボンブラック系の顔料を添加した場合、隠蔽性は向上するものの高い漆黒性を発現することは困難であり、一方、シリコーンオイルの添加は成形時に白化するという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−96286
【特許文献2】特開2004−210889
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術における問題点、すなわち、カーボンブラックやシリコーンオイルを使用した場合における漆黒性の低下や白化という欠点を克服し、従来技術では達成しえなかった優れた漆黒性を有する(ピアノブラック様の外観を有する)ポリカーボネート樹脂組成物を提供することことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる目的に鑑み鋭意研究を行った結果、透明性を有するポリカーボネート樹脂に特定の光学性能を有する有機系黒色染料を配合することにより、得られた成形品の漆黒性が向上し、ピアノブラック様の外観を得られる事を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)および有機系黒色染料(B)を必須成分として含有する樹脂組成物であって、
(1)有機系黒色染料(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.05〜1.0重量部であり、かつ
(2)有機系黒色染料(B)の光学特性が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部および有機系黒色染料(B)0.3重量部からなる樹脂組成物を射出成形して得られた厚さ2mmの平板の光線透過率を測定した際に、波長800〜900nmの領域において50%以上の光線透過率を有することを特徴とする漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の優れた漆黒性を有するポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られた成形品は、ポリカーボネート樹脂が本来有する優れた衝撃強度、耐熱性、熱安定性等性能を維持したまま、美麗かつ重厚で品位の高いピアノブラック様の外観を有することから、情報機器、パーソナルコンピュータ、家電製品のみならず様々な分野の製品の意匠性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0011】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0012】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0013】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは14000〜30000、さらに好ましくは16000〜26000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂(A)を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じ使用することができる。
【0015】
上記の粘度平均分子量は、塩化メチレンを溶媒として0.5重量%のポリカーボネート樹脂溶液とし、キャノンフェンスケ型粘度管を用い温度20℃で比粘度(ηsp)を測定し、濃度換算により極限粘度〔η〕を求め下記のSCHNELLの式から算出した。
〔η〕=1.23×10−40.83
【0016】
本発明にて使用される有機系黒色染料(B)としては、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、アゾ系、メチン系、キリノン系等の有機染料の混合物などが挙げられる。とりわけ、アントラキノン系、ペリノン系の有機染料が好適に使用され、アントラキノン系有機染料としては青、紫、緑など、ペリノン系有機染料としては赤、オレンジなどの有機染料が好ましい。
【0017】
本発明の有機系黒色染料(B)は、その光学特性として、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部および有機系黒色染料(B)0.3重量部からなる樹脂組成物を射出成形して得られた厚さ2mmの平板の光線透過率を測定した際に、波長800〜900nmの領域において50%以上の光線透過率を有することを要件とする。当該光線透過率は、ASTM D−1003に準拠して測定される。
【0018】
前記の光線透過率が50%未満である場合は、優れた漆黒性(ピアノブラック様)の外観が得られないので好ましくない。好ましい光線透過率は80%以上、より好ましくは85%以上である。
【0019】
また、有機系黒色染料(B)の配合量としては、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、0.05〜1.0重量部である。この配合量が0.05重量部未満では漆黒性および隠蔽性に劣り、また1.0重量部を超えるとポリカーボネート樹脂(A)の熱安定性が劣り、さらには成形時の発生ガス量が多くなるので好ましくない。より好ましい配合量は、0.1〜0.5重量部、さらに好ましくは0.2〜0.3重量部の範囲である。
【0020】
本発明の各種配合成分(A)および(B)の配合方法は、特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の単軸または二軸押出機等で溶融混練する方法があげられる。また、これら配合成分は一括混合、分割混合を採用することについても特に制限はない。
【0021】
また、混合時、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、リン系熱安定剤、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)等を配合することができる。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、部や%は特に断りのない限り重量基準に基づく。
【0023】
使用した配合成分の詳細は、以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製 カリバー 200−20(粘度平均分子量:19000)
(以下、PCと略記)
有機系黒色染料:
Sumiplast Black HB
(住化ケムテックス社製、以下、着色剤1と略記)
波長800〜900nmの領域における光線透過率:85%
Sumiplast Black HLG
(住化ケムテックス社製、以下、着色剤2と略記)
波長800〜900nmの領域における光線透過率:55%
カーボンブラック:
ファーネス型カーボンブラック
(キャボット社製XC−305、以下、着色剤3と略記)
波長800〜900nmの領域における光線透過率: 1%未満
【0024】
(ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの作成)
前述の各種配合成分を表1に示す配合比率にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(神戸製鋼所製KTX37)を用いて、溶融温度280℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物の各種ペレットを得た。
【0025】
(評価用試験片の作成)
得られた各種樹脂組成物のペレットを120℃×4時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製J100E−C5)にてシリンダー温度280℃、金型温度100℃の条件下、平板(90×50×2mm)とASTM Izod衝撃試験片(3.2mm厚み)を作成した。
【0026】
(漆黒性の評価)
漆黒性の評価は、得られた平板にLED光源のライト(GEMTOS社製GTR−32T、明るさ26.6ルーメン)を照射し(平板とLED光源のライトの距離は10cm)、目視にて漆黒性の程度を評価した。結果を表1に示した。
尚、評価基準は以下のとおり:
良好(◎):LED光源を照射しても、黒く光る。
良 (○):LED光源を照射しても、黒く光るが、若干白っぽく見える。
不良(×):LED光源を照射すると、白っぽく光る。
【0027】
(光学特性の評価)
光学特性は、得られた2mmの平板を紫外可視分光光度計(日本分光社製V−570)により、波長800nmと900nmの光線透過率を測定することで評価した。光線透過率が何れの波長においても50%以上を合格とした。結果を表1に示した。
【0028】
(衝撃強度の評価)
衝撃強度は、得られたIzod衝撃試験片を用いて、ASTM D−256に準拠し、23℃の条件下、ノッチつきIzod衝撃強度(J/m)を測定した。500J/m以上を合格とした。結果を表1に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を全て満足する場合(実施例1〜4)にあっては、全ての評価項目にわたり良好な結果を示した。
【0031】
一方、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1は、有機系黒色染料の配合量が規定量よりも少ないため、漆黒性に劣っていた。
比較例2は、有機系黒色染料の配合量が規定量よりも多いため、樹脂が劣化することによる衝撃強度が見られた。
比較例3は、本発明の有機系黒色染料の代わりにカーボンブラックを使用しているために、漆黒性および光学特性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)および有機系黒色染料(B)を必須成分として含有する樹脂組成物であって、
(1)有機系黒色染料(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.05〜1.0重量部であり、かつ
(2)有機系黒色染料(B)の光学特性が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部および有機系黒色染料(B)0.3重量部からなる樹脂組成物を射出成形して得られた厚さ2mmの平板の光線透過率を測定した際に、波長800〜900nmの領域において50%以上の光線透過率を有する、
ことを特徴とする漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
有機系黒色染料(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.1〜0.5重量部であることを特徴とする請求項1に記載の漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
有機系黒色染料(B)の配合量が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.2〜0.3重量部であることを特徴とする請求項1に記載の漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
有機系黒色染料(B)の光学特性が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部および有機系黒色染料(B)0.3重量部からなる樹脂組成物を射出成形して得られた厚さ2mmの平板の光線透過率を測定した際に、波長800〜900nmの領域において80%以上の光線透過率を有することを特徴とする請求項1に記載の漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
有機系黒色染料(B)の光学特性が、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部および有機系黒色染料(B)0.3重量部からなる樹脂組成物を射出成形して得られた厚さ2mmの平板の光線透過率を測定した際に、波長800〜900nmの領域において85%以上の光線透過率を有することを特徴とする請求項1に記載の漆黒性に優れたポリカーボネート樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−74098(P2011−74098A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223649(P2009−223649)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】