説明

漏水防止シート及び該シートよりなるパッキング

【課題】乳化重合法によって得られるPTFEと吸水性樹脂とを組み合わせてなる給排水管の理想的な漏水防止シート及び該シートからなるパッキングを提供する。
【解決手段】漏水防止シートは、PTFEの乳化重合粉末と20重量%以上60重量%以下の吸水性樹脂粉末との混合粉をペースト押出成形により成形したPTFE粒子が連続層となり吸水性樹脂粉末が不連続に点在するシート状物であって、該シート状物がPTFEの融点以上の温度で加熱処理されていないことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏水防止シート及び該漏水防止シートよりなるパッキングに関し、特に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)と吸水性樹脂とからなる水により膨張するシートを使用した漏水防止シート及び該漏水防止シートよりなるパッキングに関する。
【背景技術】
【0002】
給水及び排水管工事に伴う管接続部における万全な漏水防止対策が求められている。漏水防止の一方法としてカップリングによる管接続方法があり、カップリングは、配管にねじを切らずに接続できる継手であり、ゴムパッキングにより流体をシールする構造である。しかし、配管表面にキズが付いたり異物を挟み込む等の原因によりパッキングが有効にシール作用を果たないことがあり、漏水防止対策としては万全ではない。また、マンション等の集合住宅やオフィスビルあるいは公共施設などの恒久的建造物においては、給水及び排水管の漏水が工事完了後に発生する場合があり、当該建造物が利用中にある状況において、その補修には膨大な費用及び長期の工事を伴い、建造物の関係者及び利用者は多大な迷惑をこうむることとなる。したがって、漏水対策としてさらなる完全なパッキング及び該パッキングに使用するシール材料が求められている。
【0003】
優れたパッキング材としては、PTFEの延伸によって得られるシール材が知られている。例えばジャパンゴアテックス株式会社の商品名ハイパーシート(登録商標)ガスケットに関する説明よると、「従来のPTFEガスケットに比べて、非常に柔らかいため、あれたシール面や傷ついたシール面によくなじみます。」とされている。また、下記特許文献1には、熱で膨張するパッキング材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平9−508193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シール面となる配管表面についたキズがスジ状キズの場合、優れたシール性を有するとされている延伸されたPTFE材でもそのキズを埋めるほどにはなじまない場合が起こる。そのために、水が配管表面のキズ部分を伝わって漏水が起こる。
【0006】
そこで、本発明者は、鋭意研究を重ね、乳化重合法から得られたPTFEと吸水性樹脂とを組み合わせることにより、給排水管の理想的な漏水防止シート及び該シートからなるパンキングが製作できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る漏水防止シートは、PTFEの乳化重合粉末と20重量%以上60重量%以下の吸水性樹脂粉末との混合粉をペースト押出成形により成形したPTFE粒子が連続層となり吸水性樹脂粉末が不連続に点在するシート状物であって、該シート状物がPTFEの融点以上の温度で加熱処理されていないことを特徴とするものである。なお、PTFEの乳化重合粉末は、0.2ミクロンサイズの球形粒子がおおよそ500ミクロンサイズに集合した状態にある。
【0008】
また、本発明に係る漏水防止シートは、PTFEの乳化重合粉末と20重量%以上60重量%以下の吸水性樹脂粉末との混合粉をペースト押出成形により成形し、一対の圧延ロールにより拡幅率25%以下に薄膜化したPTFE粒子が連続層となり吸水性樹脂粉末が不連続に点在するシート状物であって、PTFEの融点以上の温度で加熱処理されていないことを特徴とするものである。
【0009】
なお、PTFEの乳化重合粉末と吸水性樹脂粉末との混合粉の成形には、PTFEの成形法の1つとして確立しているペースト押出成形法を採用することが望ましく、連続したシート状の成形物を得るために成形金型はシート状押出成形金型を採用することが望ましい。ペースト押出成形により押出した厚肉のシートは圧延により適宜薄膜化することができる。
【0010】
シートとして構成される理由は、ペースト押出成形等上記の加工によってPTFE粒子とPTFE粒子からほぐれたフィビリル(小繊維)によって、PTFE粒子が相互に結合されて連続層となるからである。
【0011】
また、上記の吸水性樹脂粉末として、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム及びエチレンビニル共重合樹脂のいずれかを採用することが好ましい。
【0012】
本発明に係るパッキングは、上記の各漏水防止シートを任意の形状に切り出して作成したものである。
【0013】
一般に多用されている吸水性樹脂は、その保水能力に優れている。しかし、吸水性樹脂のうちポリビニルアルコールなどの吸水性樹脂粉末は造形性に乏しく、また吸水すると脆く、機械的強度を持たない。一方、PTFEの乳化重合粉末と吸水性樹脂粉末との混合粉は、吸水性樹脂粉末粒子がPTFEの粒子およびフィビリルによって包含される。たとえ吸水性樹脂粉末粒子が水と接触することにより膨張しても、PTFEの融点以上の温度で加熱処理されていないことによりPTFEの粒子およびフィビリルは熱固定されていないので伸縮可能であり、水を吸収した吸水性樹脂は大きな粘性を有するので、吸水性樹脂粉末粒子がPTFEの粒子およびフィビリルの隙間から流れ出すことはほとんどない。
【0014】
また、PTFEと吸水性樹脂の配合比はシートの成形可能領域と有効な膨張率とによって決められる。吸水性樹脂の配合比は重量比で20%以上60%以下である。吸水性樹脂が少ないと効果的な膨張率が得られず、多いと連続した押出物が得られない。
【0015】
さらに、上記のように成形された漏水防止シートは、吸水性樹脂の劣化温度以下で一軸方向または二軸方向に延伸すれば、空孔率を上げることができる。空孔率を上げることによりシートの弾力性をあげることができるので、シール面への馴染みが向上して、例えば相対する配管の嵌合が歪なシール面あるいはあれたシール面、キズついたシール面、凹凸段差があるシール面の場合に、パッキング性能があがる。なお、上記漏水防止シートは、1軸方向に長さで3倍まで、又は、2軸方向に面積で4倍まで延伸することが可能であるが、これを超えて延伸することはシートに亀裂が入り、破断するおそれがあるので性能上好ましくない。したがって、上記漏水防止シートは、シートの弾力性を上げてシール面に対するフィット性を向上させ、かつ、薄膜にすることによるシール面に対する被覆性を向上させるためには、1軸方向に長さで1.2倍〜3倍の範囲で、又は、2軸方向に面積で1.5倍〜4倍の範囲で延伸することが最も好ましい。
【0016】
以上のことから、本発明に係る漏水防止シートは、水と接触すると吸水性樹脂粉末が水を吸収し、その吸収した水の量だけ該シートが少なくとも厚み方向において10%以上、望ましくは20%以上膨張し、その状態が維持される。したがって、漏水を吸収して膨張する前記漏水防止シートによって自己シール性を発現するものである。
【0017】
また、上記のように成形された漏水防止シートは、トムソン刃等による打ち抜き加工をすれば、任意の形状のパッキングを作成することができる。
【0018】
なお、従来、水道配管用ネジシールテープは、100%PTFE未焼成シートやフイルムをリボン状に裁断して作成していたが、これに代えて、本発明に係る圧延により薄膜化された漏水防止シートは、水道配管用ネジシールテープとしても活用できる。
【発明の効果】
【0019】
以上の構成を有する漏水防止シートは水分吸収により厚み方向への十分な膨張率を有し、また、該シートからなるパンキングは自己シール性により配管表面のキズ部分を伝わってくる漏水を止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】比較例2のペースト押出成形ビードの写真
【図2】実施例1のペースト押出成形シートの成形に使用したTダイ金型の写真
【図3】比較例1の圧縮成形シートに水を含浸させた状態のもの(図3の左もの)と含浸させる前の状態のもの(図3の右のもの)とを示す写真
【図4】実施例1のペースト押出成形シートに水を含浸させた状態のもの(図4の左もの)と含浸させる前の状態のもの(図4の右のもの)とを示す写真
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例について、以下に詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
本実施例に使用する混合粉は次のようにして作成した。すなわち、PTFE乳化重合粉末は(ダイキン工業株式会社製の商品名「ファインパウダーF104」)を使用した。吸水性樹脂粉末はポリビニルアルコール粉末(日本酢ビ・ポバール株式会社製の商品名「ポバールJF−17」)を使用した。このPTFE乳化重合粉末と吸水性樹脂粉末とを重量比率2対1で100g調整し、小型の粉砕混合機(台湾HSIAN TAI社製・アズワン株式会社販売の商品名「ワンダーブレンダー」)で粉砕混合し、混合粉を作成した。なお、粉砕混合機の作動時間が長いと摩擦熱等により粉砕混合機内の温度が100℃以上に昇温するので、これを避けるために30秒間作動し30分間停止して室温に下がるのを待ち、これを3回繰り返した。この工程を繰り返し、次の工程に必要な量の混合粉を作成した。
【0023】
本実施例に使用する成形品は次のようにして作成した。すなわち、まず、混合粉100重量部に対して成形助剤としてパーフルオロアルカン溶剤(幸成商事株式会社製の商品名「コーセゾール」)50重量部を配合し、予備成形してプレフォーム材を作成し、このプレフォーム材を使用して、下記に詳述するように比較例1及び2、実施例1〜4の各成形品を作成した。
【0024】
「比較例1」
上記のプレフォーム材を矩形30mm×120mmの金型で圧縮成形し、成形助剤を乾燥除去して圧縮成形シートを作成した。この圧縮成形シートについて、測定した重量と寸法から計算した体積とからを比重を算出した。
【0025】
「比較例2」
上記のプレフォーム材を直径25mmシリンダーからダイス先端直径2.5mmノズルランド10mmの円推状のノズルを有する金型でペースト押出成形によりストランド(紐)を押出成形し、成形助剤を乾燥除去してペースト押出成形ビードを作成した。なお、押出ラム速度は10mm/分で行い、プレフォーム材を80g用いた。しかし、連続したストランドは得られなかった。図1にその状態を示す。このペースト押出成形ビードについて、測定した重量と寸法から計算した体積とから比重を算出した。
【実施例1】
【0026】
上記のプレフォーム材を、図2に示す50mm正方形のシリンダーと10mm正方形のノズルとで一旦絞り、ノズルの先は扇状で先端が幅150mmに広がり開口厚み2mmの出口を持つTダイ金型でシートを作成した。このシートから成形助剤を乾燥除去してペースト押出成形シートを作成した。なお、ラム押出速度10mm/分で行い、プレフォーム材を600g用いた。このペースト押出成形シートについて、測定した重量と寸法から計算した体積とから比重を算出した。
【実施例2】
【0027】
実施例1で成形したシートを一対のロールで圧延し、成形助剤を乾燥除去してペースト押出圧延成形シート1を作成した。このペースト押出圧延成形シート1について、測定した重量と寸法から計算した体積とから比重を算出した。
【実施例3】
【0028】
実施例1で成形したシートを一対のロールで圧延し、成形助剤を乾燥除去してペースト押出圧延成形シート2を作成した。このペースト押出圧延成形シート2について、測定した重量と寸法から計算した体積とから比重を算出した。
【実施例4】
【0029】
実施例1で成形したシートを一対のロールで圧延し、成形助剤を乾燥除去してペースト押出圧延成形シート3を作成した。このペースト押出圧延成形シート3について、測定した重量と寸法から計算した体積とから比重を算出した。
【0030】
「各成形品の比較と評価」
以上の比較例1及び2、実施例1〜4の各成形品について、成形品サイズ、成形品の評価、比重を表1にまとめる。比較例2のペースト押出成形ビードAの比重は、不連続な部分から測定したバラツキである。
【表1】

【0031】
「成形品の膨張性能」
上記の比較例1及び実施例1の各成形品について、水を含浸させた場合にどの程度膨張するかを測定した。
【0032】
図3は、比較例1の圧縮成形シートに水を含浸させた状態のもの(図3の左もの)と含浸させる前の状態のもの(図3の右のもの)とを示す図である。
【0033】
そして、図3に示すものを実測したところ、次の結果を得た。すなわち、含水前の重量が10gのところ含水後は17gとなった。したがって、含水量(含水後の重量−含水前の重量)は7gと算出され、含水増量率(含水量/含水前の重量×100)は70%と算出される。また、含水前の厚みが4.45mmのところ含水後は5.8mmとなった。したがって厚み方向(圧縮方向)の膨張量は1.35mmと算出され、膨張率(膨張量/含水前の厚み×100)は30.4%と算出される。また、含水前の横長さが50mmのところ含水後は62mmとなった。したがって横長さ方向の膨張量は10mmと算出され、膨張率(膨張量/含水前の横長さ×100)は27%と算出される。また、含水前の縦長さが30mmのところ含水後は38mmとなった。したがって縦長さ方向の膨張量は8mmと算出され、膨張率(膨張量/含水前の縦長さ×100)は24%と算出される。
【0034】
図4は、実施例1のペースト押出成形シートに水を含浸させた状態のもの(図4の左もの)と含浸させる前の状態のもの(図4の右のもの)とを示す図である。
【0035】
そして、図4に示すものを実測したところ、次の結果を得た。すなわち、含水前の重量が10gのところ含水後は20gとなった。したがって、含水量(含水後の重量−含水前の重量)は10gと算出され、含水増量率(含水量/含水後の重量)は50%と算出される。また、含水前の厚みが2.75mmのところ含水後は3.6mmとなった。したがって厚み方向(圧縮方向)の膨張量は0.85mmと算出され、膨張率(膨張量/含水前の厚み)は31%と算出される。また、含水前の横長さが50mmのところ含水後は56mmとなった。したがって横長さ方向の膨張量は6mmと算出され、膨張率(膨張量/含水前の横長さ)は12%と算出される。また、含水前の縦長さが50mmのところ含水後は56mmとなった。したがって縦長さ方向の膨張量は6mmと算出され、膨張率(膨張量/含水前の縦長さ)は12%と算出される。
【0036】
なお、上記した比較例1及び実施例1の各成形品の外、実施例2〜4の各成形品についても同様の測定を行い、表2の結果を得た。
【表2】

【0037】
以上の測定の結果、比較例2の成形品であるペースト押出成形ビードは、連続性を有していないので成形品足りうる形態をなさず、漏水防止シートとしては不適格である。また、比較例1の成形品である圧縮成形シートは、厚さ方向の膨張率は30.4%であって20%以上膨張しているので、この点に関しては問題はないが、機械的強度がなく、脆いために漏水防止シートとしては不適格である。いずれにしても比較例1、2が不適格であることは、PTFE粒子が連続層となるに不十分な成形物であるために発生することに起因している。実施例1のペースト押出成形シート、実施例2のペースト押出圧延成形シート1、実施例3のペースト押出圧延成形シート及び実施例4のペースト押出圧延成形シート3は、いずれも成形品として良好な形態をなし、膨張率も20%以上であり、漏水防止シートとして遜色のない性能を有するものであった。したがって、各実施例の成形品を利用して、パッキングを作成すれば、自己シール性を有する漏水防止パッキンとして活用し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のシート中の吸水性樹脂を通して水を移動させる透水膜として浄水に活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンの乳化重合粉末と20重量%以上60重量%以下の吸水性樹脂粉末との混合粉をペースト押出成形により成形したポリテトラフルオロエチレン粒子が連続層となり吸水性樹脂粉末が不連続に点在するシート状物であって、該シート状物がポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で加熱処理されていないことを特徴とする漏水防止シート。
【請求項2】
ポリテトラフルオロエチレンの乳化重合粉末と20重量%以上60重量%以下の吸水性樹脂粉末との混合粉をペースト押出成形により成形し、一対の圧延ロールにより拡幅率25%以下に薄膜化したポリテトラフルオロエチレン粒子が連続層となり吸水性樹脂粉末が不連続に点在するシート状物であって、ポリテトラフルオロエチレンの融点以上の温度で加熱処理されていないことを特徴とする漏水防止シート。
【請求項3】
吸水性樹脂粉末が、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム又はエチレンビニル共重合樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の漏水防止シート。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の漏水防止シートを任意の形状に切り出して作成したことを特徴とするパッキング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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