説明

漏洩液体の拡散防止構造及び拡散防止方法

【課題】 容易に短時間で構築できる拡散防止構造を提供する。
【解決手段】 第1の区域の機器、配管等から漏洩した液体が当該第1の区域に隣接する第2の区域に拡散するのを防止する漏洩液体の拡散防止構造であって、前記第1の区域の床面上、又は前記第1の区域と前記第2の区域との境界部の床面上に設置される帯状の基材3と、該基材3の上部に一体に立設され、前記基材3と共に所定の高さの止水堰2を形成する止水板10と、前記基材3と前記床面との間、及び前記基材3と前記止水板10との間を水密に接合する接合手段14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩液体の拡散防止構造及び拡散防止方法に関し、例えば、原子力発電所の管理区域内で機器、配管等から漏洩した液体が、想定外区域に拡散するのを防止するのに好適な漏洩液体の拡散防止構造及び拡散防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子力発電所においては、機器や配管等からの液体(例えば、水等)の漏洩を完全になくすことができないため、管理区域内で漏洩が懸念されるエリアには止水堰を設け、漏洩した液体が想定外区域に拡散するのを防止している。
【0003】
この場合、機器や配管等から漏洩した液体の量を測定し、その量が一定の基準を超えた場合には報道機関等に公表することとしている。また、漏洩した液体に含まれる放射能量が、一定基準を超えた場合には、法に基づく報告対象になるが、漏洩液体が止水堰を越えなければ法に基づく報告対象から除外されている。
【0004】
この種の拡散防止構造の一例が特許文献1に記載されている。この拡散防止構造は、
コンクリート製又は鋼製の止水堰を設け、この止水堰によって管理区域の機器や配管等から漏洩した液体(例えば、水)が管理区域から想定外区域に拡散するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−280695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載されている拡散防止構造のうち、コンクリート製の止水堰は、床及び止水堰に対応する部分に鉄筋を組み立て、この組み立てた鉄筋を囲むように型枠を組み立て、この型枠の内部にコンクリートを打設しなければならない。また、鋼製の止水堰は、予め床面に鋼製のプレートを埋め込んでおき、この鋼製のプレートにゴム製のパッキンを介して鋼製の止水板を取り付けなければならない。
【0007】
このため、コンクリート製の止水堰又は鋼製の止水堰に関わらずに、構築に時間と手間と費用がかかり、止水堰の設置されていない場所で液体が漏洩した場合、漏洩液体の拡散の防止に早急に対応することができず、漏洩液体が想定外区域に拡散するのを避けられない。
【0008】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、容易に、短時間で、費用をかけることなく構築できるとともに、止水堰が設置されていない場所であっても早急に漏洩液体が拡散するのを防止する対策を施すことができる、漏洩液体の拡散防止構造及び拡散防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、第1の区域の機器、配管等から漏洩した液体が当該第1の区域に隣接する第2の区域に拡散するのを防止する漏洩液体の拡散防止構造であって、前記第1の区域の床面上、又は前記第1の区域と前記第2の区域との境界部の床面上に設置される帯状の基材と、該基材の上部に一体に立設され、前記基材と共に所定の高さの止水堰を形成する止水板と、前記基材と前記床面との間、及び前記基材と前記止水板との間を水密に接合する接合手段とを備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明の漏洩液体の拡散防止構造によれば、第1の区域の床面上又は第1の区域と第2の区域との境界部の床面上に基材を設置し、この基材の上部に止水板を一体に立設し、基材と止水板とによって所定の高さの止水堰を形成し、基材と床面との間、及び基材と止水板との間を接合手段で水密に接合することで、拡散防止構造を構築することができる。
従って、容易に、短時間で、かつ費用をかけることなく、拡散防止構造を構築することができるので、例えば、原子力発電所の第1区域の止水堰が設置されていない場所で液体が漏洩しても、漏洩液体の拡散を防止する対策を早急に施すことができ、漏洩液体が第1の区域から第2の区域に拡散するのを確実に防止することができる。
【0011】
また、本発明は、前記基材の上部には、前記基材の長手方向に延びる嵌合溝が設けられ、該嵌合溝内に前記止水板の端部を嵌合させることで、前記止水板が前記基材の上部に立設されることとしてもよい。
【0012】
本発明の漏洩液体の拡散防止構造によれば、基材の嵌合溝内に止水板の端部を嵌合させることで、基材の上部に止水板を立設することができるので、漏洩液体の拡散を防止する止水堰を容易に、短時間で構築することができる。従って、例えば、原子力発電所の第1区域の止水堰が設置されていない場所で液体が漏洩しても、漏洩液体の拡散を防止する対策を早急に施すことができ、漏洩液体が第1の区域から第2の区域に拡散するのを確実に防止することができる。
【0013】
さらに、本発明は、前記基材は、弾性を有する材料から形成され、前記嵌合溝内に前記止水板の端部を嵌合させた際に、前記基材の弾性力によって前記止水板が前記基材の上部に立設された状態に支持されることとしてもよい。
【0014】
本発明の漏洩液体の拡散防止構造によれば、基材の嵌合溝内に止水板の端部を嵌合させることにより、基材の弾性力によって止水板を基材の上部に立設された状態に支持することができるので、漏洩液体の拡散を防止する止水堰を容易に、短時間で構築することができる。
従って、例えば、原子力発電所の第1区域の止水堰が設置されていない場所で液体が漏洩しても、漏洩液体の拡散を防止する対策を早急に施すことができ、漏洩液体が第1の区域から第2の区域に拡散するのを確実に防止することができる。
【0015】
さらに、本発明は、前記基材及び前記止水板は、汎用のゴム材から形成されていることとしてもよい。
【0016】
本発明の漏洩液体の拡散防止構造によれば、基材及び止水板は、汎用のゴム材から形成されているので、例えば、原子力発電所の第1区域の止水堰が設置されていない場所で液体が漏洩し、その液体が放射能線を含むものであっても、ゴム材としの弾性力を失ったり、形状が変化するようなことはなく、漏洩液体が第1の区域から第2の区域に拡散するのを確実に防止することができる。
【0017】
さらに、本発明は、第1の区域の機器、配管等から漏洩した液体が第1の区域から当該第1の区域に隣接する第2の区域に拡散するのを防止する漏洩液体の拡散防止方法であって、前記第1の区域の床面上、又は前記第1の区域と前記第2の区域との境界部の床面上に基材を設置するとともに、該基材の上部に止水板を一体に立設して、前記基材と共に所定の高さの止水堰を形成し、前記基材と前記床面との間、及び前記基材と前記止水板との間を接合手段によって水密に接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上、説明したように、本発明の漏洩液体の拡散防止構造及び拡散防止方法によれば、容易に、短時間で、かつ費用をかけることなく構築することができるので、例えば、原子力発電所の第1区域の止水堰が設置されていない場所で液体が漏洩しても、液体の漏洩を防止する対策を早急に施すことができ、漏洩液体が第1区域から第2区域に拡散するのを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による拡散防止構造の一実施の形態を示した概略斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。
図1及び図2には、本発明による漏洩液体の拡散防止構造の一実施の形態が示されている。図1は全体を示す概略斜視図、図2は図1の断面図である。
【0021】
すなわち、本実施の形態の漏洩液体の拡散防止構造(以下、「拡散防止構造1」という。)は、例えば、原子力発電所の施設の第1区域(以下、「管理区域15」という。)で機器や配管等から漏洩した液体(例えば、放射能線を含む水等)が第2区域(以下、「想定外区域17」という。)に拡散するのを防止するのに有効なものであって、管理区域15の止水堰2の設けられていない場所での漏洩液体の拡散防止に有効なものである。
【0022】
本実施の形態の拡散防止構造1は、管理区域15の床面16上(又は管理区域15と想定外区域17との境界部の床面16上)に設置される基材3と、基材3の上部に一体に立設される止水板10とからなる止水堰2と、止水堰2の基材3と床面16との間、及び基材3と止水板10との間をそれぞれ水密に接合する接合手段である接着剤14とを備えている。
【0023】
基材3は、ゴム等の弾性体からなる長方形板状をなすものであって、下面4が略平面に形成され、上面6が幅方向の中央部から両端にかけて順次傾斜する傾斜面に形成される断面山形状に形成され、この基材3の断面中心に基材3の長手方向を向く嵌合溝7が基材3の全長に亘って設けられている。
【0024】
基材3は、その下面4と床面6との間に接着剤14を充填することにより、床面6上に一体に接合される。
接着剤14は、基材3を床面6上に水密に接合し、基材3に後述する止水板10を水密に接合し、かつ、所定の接合力が得られるものであれば特に制限はなく、例えば、スリーボンド1500シリーズ工業用接着剤(株式会社スリーボンド製)等を用いることができる。
【0025】
基材3の下面4は、中央部が両端部より一段低い凹部5に形成され、この凹部5によって接着剤14を介しての床面6との接合面積を大きくとることができ、基材3の下面4と床面6との接合力を高めることができる。
【0026】
なお、基材3の下面4に複数の凹部(図示せず)を設けて、床面6との接合面積を大きくとっても良いし、所定の接合力が得られる場合には、基材3の下面4に凹部を設けずに、基材3の下面4を全体に亘って均一な平面に形成してもよい。
【0027】
嵌合溝7は、後述する止水板10の形状に応じた形状に形成されるものであって、本実施の形態においては、基材3の断面中心に基材3の全長に亘って設けられる円形断面の第1溝8と、第1溝8の上部と基材3の上面6中央部との間を相互に連通する、基材3の全長に亘って設けられる長方形断面の第2溝9とによって構成されている。
【0028】
基材3を幅方向の中央部から山なりに折り曲げることにより、嵌合溝7の第2溝9が押し広げられ、この状態で基材3の上方から止水板10を嵌合溝7内に挿入して、止水板10の端部を第1溝8内に嵌合させ、端部に連続する部分を第2溝9内に嵌合させ、基材3を元の形状に戻すことにより、基材3の上部中央部に止水板10を垂直に立設することができる。
【0029】
基材3としては、市販のケーブルプロテクター(例えば、ケーブルプロテクターMPシリーズ(株式会社ミトヨ製)、ケーブルプロテクターCPシリーズ(木本ゴム工業株式会社製)等)を用いることができる。
【0030】
また、基材3の材料として、汎用のゴムで対応できる。
【0031】
止水板10は、ゴム等の弾性体から形成されるものであって、長方形板状の本体部11と、本体部11の幅方向の一端部に本体部11の全長に亘って一体に設けられる円形断面のリブ部12とから構成され、リブ部12を基材3の嵌合溝7の第1溝8内に嵌合させ、リブ部12に連続する本体部11の部分を基材3の嵌合溝7の第2溝9内に嵌合させることで、基材3の上部中央部に一体に立設される。
【0032】
止水板10のリブ部12は、基材3の嵌合溝7の第1溝8の直径よりも小さい円形断面に形成され、止水板10の本体部11は、基材3の嵌合溝7の第2溝9の幅よりも薄い長方形板状に形成され、止水板10のリブ部12及びリブ部12に連続する本体部11の部分を基材3の嵌合溝7内に嵌合させた際に、リブ部12の周面と嵌合溝7の第1溝8の内面との間、及びリブ部12に連続する本体部11の外面と嵌合溝7の第2溝9の内面との間に所定の間隙13が形成され、この間隙13内に基材3の接合に用いた接着剤14と同一の接着剤14を充填することにより、基材3の上部中央部に止水板10が水密に一体に立設されるようになっている。
【0033】
基材3の上部中央部に止水板10を水密に一体に立設することにより、床面6上に所定の高さの止水堰2を形成することができ、この止水堰2によって管理区域15の機器や配管等から漏洩した液体を止水でき、管理区域15から想定外区域17に漏洩液体が拡散するのを防止できる。
【0034】
止水板10としては、市販の建築、土木資材のゴム製の止水板を用いることができる。また、止水板10も基材3と同様に、汎用のゴム材を用いることにより、止水板10が放射線の影響により、弾性体としての機能及び形状を失うことはなく、長期に亘って止水板10としての機能を維持することができる。
【0035】
上記のように構成した本実施の形態による漏洩液体の拡散防止構造1にあっては、管理区域15の床面16上、又は管理区域15と想定外区域17との境界部の床面16上に基材3を接着剤14によって一体に接合し、基材3の上部中央部に止水板10を接着剤14によって一体に接合することで、所定の高さの止水堰2を形成することができ、この止水堰2によって管理区域15の機器や配管等から漏洩した液体を止水でき、漏洩液体が管理区域15から想定外区域17に拡散するのを防止できる。
【0036】
この場合、基材3を床面16上に接着剤14によって接合し、基材3の嵌合溝7内に止水板10の端部を嵌合させて、止水板10の端部を接着剤14によって基材3に接合するだけでよいので、管理区域15の止水堰2が設けられていない場所で機器や配管等から液体が漏洩した場合に早急に対応でき、漏洩液体が想定外区域17側に拡散するのを確実に防止できる。
【0037】
また、基材3に市販のケーブルプロテクターを用い、止水板10に市販の止水板を用いることができるので、拡散防止構造1の構築に要する時間、手間、及び費用を大幅に削減することができ、安価な拡散防止構造1を提供することができる。
【0038】
なお、前記の説明においては、本発明による漏洩液体の拡散防止構造1を原子力発電所の管理区域15での液体の漏洩の拡散防止に適用したが、これに限らず、他の施設の液体の漏洩の拡散防止に適用してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 拡散防止構造
2 止水堰
3 基材
4 下面
5 凹部
6 上面
7 嵌合溝
8 第1溝
9 第2溝
10 止水板
11 本体部
12 リブ部
13 間隙
14 接着剤
15 管理区域
16 床面
17 想定外区域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の区域の機器、配管等から漏洩した液体が当該第1の区域に隣接する第2の区域に拡散するのを防止する漏洩液体の拡散防止構造であって、
前記第1の区域の床面上、又は前記第1の区域と前記第2の区域との境界部の床面上に設置される帯状の基材と、該基材の上部に一体に立設され、前記基材と共に所定の高さの止水堰を形成する止水板と、前記基材と前記床面との間、及び前記基材と前記止水板との間を水密に接合する接合手段とを備えていることを特徴とする漏洩液体の拡散防止構造。
【請求項2】
前記基材の上部には、前記基材の長手方向に延びる嵌合溝が設けられ、該嵌合溝内に前記止水板の端部を嵌合させることで、前記止水板が前記基材の上部に立設されることを特徴とする請求項1に記載の漏洩液体の拡散防止構造。
【請求項3】
前記基材は、弾性を有する材料から形成され、前記嵌合溝内に前記止水板の端部を嵌合させた際に、前記基材の弾性力によって前記止水板が前記基材の上部に立設された状態に支持されることを特徴とする請求項2に記載の漏洩液体の拡散防止構造。
【請求項4】
前記基材及び前記止水板は、汎用のゴム材から形成されていることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の漏洩液体の拡散防止構造。
【請求項5】
第1の区域の機器、配管等から漏洩した液体が第1の区域から当該第1の区域に隣接する第2の区域に拡散するのを防止する漏洩液体の拡散防止方法であって、
前記第1の区域の床面上、又は前記第1の区域と前記第2の区域との境界部の床面上に基材を設置するとともに、該基材の上部に止水板を一体に立設して、前記基材と共に所定の高さの止水堰を形成し、前記基材と前記床面との間、及び前記基材と前記止水板との間を接合手段によって水密に接合することを特徴とする漏洩液体の拡散防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−168861(P2010−168861A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14456(P2009−14456)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】