説明

潤滑グリース組成物

【課題】
潤滑部、特に金属製部摺動材および樹脂製部摺動材、特にはガラス繊維で強化された樹脂製摺動部材からなる摺動部の摩擦係数を低くし、潤滑部の耐久寿命を長くすることができる潤滑グリース組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩、および次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物、脂肪酸金属塩、好ましくはさらにウレア化合物を含むことを特徴とする潤滑グリース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑グリース組成物に関するものであり、さらに詳細には、金属製部材と樹脂製部材及び/または金属製部材間に塗布されると、両部材間に優れた潤滑性を付与する潤滑グリース組成物に関するものである。特には、金属製部材とガラス繊維強化樹脂製部材間に塗布されると、両部材間に優れた潤滑性を付与する潤滑グリース組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や家電製品、OA、AV機器などにおいて、軽量化や低コスト化を目的として、従来は金属製部材を用いていたギヤ等の部材、特には摺動部材の樹脂製部材への置き換えが数多く見られる。例えば、自動車操舵機構の電動パワーアシストステアリング(EPS)やワイパーモータにおいてそれらの減速機構部に樹脂製ギアと金属ギアが使用されている。一方で、機構の小型化による荷重や摺動速度が増大、あるいは伝達効率向上を目的とした摺動条件の変更により潤滑剤に求められる性能はより高度となり、充分な低摩擦係数と耐久性を提供することが困難となっている。そこで、過酷な条件下であっても、これらの樹脂部材に潤滑性皮膜を形成し、磨耗を抑制し、部材の寿命・耐久性を向上させるために特定のポリテトラフルオロエチレン微粉末を含有するグリース組成物を使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、樹脂製部材そのものに着目すると、ポリアミド等の有機樹脂にガラス繊維を複合強化したガラス繊維強化樹脂は、引張強度、曲げ弾性率等の機械的特性に優れ、前記の樹脂製部材、特には樹脂製摺動部材にかかる荷重や速度の増大という要求特性に応えるものである。しかしながら、ガラス繊維で強化された樹脂材料では、強化されていない樹脂材料に比して、機械的強度に優れるものの、その長期特性が不十分であるいう問題があり、従来のグリース組成物を潤滑剤に使用しても、その機械的強度が経時で劣化しやすいという問題があった。
【0004】
特許文献2および特許文献3には、増粘剤としてポリ尿素とカルシウム石鹸を用いた潤滑グリースであって、燐酸三カルシウムと炭酸カルシウムを極圧耐磨耗性添加物として含む潤滑グリースが開示されている。また、特許文献4には鉱油とリン酸3カルシウムからなる潤滑用グリース組成物が開示されており、特許文献5には、リン酸三カルシウムとウレア化合物を増ちょう剤として用いる潤滑用グリース組成物が開示されている。
しかしながら、これらの潤滑用グリース組成物は金属製部材からなる摺動部使用した場合の潤滑性には優れるが、特にはガラス繊維で強化された樹脂材料の潤滑性を十分に改善するものではなく、樹脂製部材もしくはガラス繊維強化樹脂製部材および金属部材からなる摺動部に使用した場合、金属製部材のみからなる摺動部に比して、樹脂製部材、特にはガラス繊維強化樹脂部材による金属製相手材の損傷が著しく、従来技術で解決することが困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−89778号公報
【特許文献2】特開昭64−26698号公報
【特許文献3】特公平04−41714号公報
【特許文献4】特公平04−65119号公報
【特許文献5】特開平08−157859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決すべくなされたものであり、過酷な条件においても潤滑部の摩擦係数を低くし、潤滑部の耐久寿命を長くすることができる潤滑グリース組成物を提供することを目的とする。さらに、金属製摺動部材または樹脂製摺動部材(特には、ガラス繊維強化樹脂製摺動部材)に塗布されると、過酷な条件においても潤滑部の摩擦係数を低くし、潤滑部の耐久寿命を長くすることができる潤滑グリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩、次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物および脂肪酸金属塩を含んでなる潤滑グリース組成物を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
さらに、本発明者らは、(A)基油、(B)ウレア化合物、(C)リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩、次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物 0.5〜20重量%および(D)脂肪酸金属塩0.5〜40重量%を含んでなる潤滑グリース組成物を用いることにより、上記課題をよりよく解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、
「〔1〕リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩、次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物および脂肪酸金属塩を含むことを特徴とする潤滑グリース組成物。
〔2〕(A)基油、(B)ウレア化合物、(C)リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩、次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物 0.5〜20重量%および(D)脂肪酸金属塩0.5〜40重量%を含んでなる潤滑グリース組成物。
〔3〕脂肪酸金属塩が、8〜22の炭素原子を有する一種類又は二種類以上のモノカルボキシル脂肪酸またはヒドロキシモノカルボキシル脂肪酸とリチウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウムのうちから選ばれた一種類又は二種類以上の金属塩である〔1〕または〔2〕に記載の潤滑グリース組成物。
〔4〕リン化合物がピロリン酸亜鉛及び/またはリン酸三カルシウムの粉末である〔1〕または〔2〕に記載の潤滑グリース組成物。
〔5〕脂肪酸金属塩が、ステアリン酸またはヒドロキシステアリン酸とリチウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウムのうちから選ばれた一種類又は二種類以上の金属塩である〔1〕または〔2〕に記載の潤滑グリース組成物。
〔6〕樹脂製摺動部材用である〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物
〔7〕ガラス繊維強化樹脂製摺動部材用である〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物
〔8〕金属製部材と樹脂製部材からなる摺動部用である〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物
〔9〕自動車用である〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。」
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過酷な条件においても潤滑部の摩擦係数を低くし、潤滑部の耐久寿命を長くすることができる潤滑グリース組成物を提供することができる。さらに、金属製摺動部材または樹脂製摺動部材(特には、ガラス繊維強化樹脂製摺動部材)に塗布されると、過酷な条件においても潤滑部の摩擦係数を低くし、潤滑部の耐久寿命を長くすることができる潤滑グリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A)基油
本発明のグリース組成物に使用される基油は特に限定されるものではなく、特に限定されるものではなく、すべての基油が使用可能である。例えば、パラフィン系鉱油、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリαオレフィン、エチレンとαオレフィンとのコオリゴマー、ポリブテンに代表される合成炭化水素油;アルキレンジフェニルエーテル、ポリアルキレンエーテルに代表されるエーテル系合成油;ジエステルやポリオールエステルに代表されるエステル系油;ポリジメチルシリコーン、ポリメチルフェニルシリコーンに代表されるシリコーン油等が挙げられる。好ましいものは、樹脂材への攻撃性が低く耐熱性、低温性のバランスに優れ、樹脂材の応力割れを引き起こしにくい合成炭化水素油であるが、樹脂材の応力割れを引き起こしにくい点では、ポリアルキレンエーテル、ポリオールエステル、ポリメチルフェニルシリコーンも好適に用いられる。これらの基油を2種類以上混合して使用しても良い。また、1種または2種以上からなる基油の動粘度は、40℃において5〜500mm/sであることが好ましい。
【0012】
(B)ウレア化合物
本発明の潤滑グリース組成物に使用されるウレア化合物は、基油の増稠剤であり、高温での耐酸化劣化性に優れ、樹脂材を含む潤滑部の耐久寿命を改善することから、好ましく使用される。該ウレア化合物は、具体的にはジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物(ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物は除く)等のウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物等のウレタン化合物又はこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、ジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物又はこれらの混合物が好ましい。
【0013】
かかるウレア化合物として好ましくは、下記式(1):
A−CONH−R−NHCO−B (1)
で表されるジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物が挙げられる。式(1)中、A及びBは同一でも異なっていてもよく、それぞれ−NHR、−NR又は−ORで表される基を表す。ここで、R、R、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素原子数6〜20の炭化水素基を表ものである。かかるR、R、R、Rで表される炭化水素基としては、例えば、炭素原子数6〜20の直鎖又は分枝状のアルキル基、直鎖又は分枝状のアルケニル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。好ましくは、炭素原子数6〜20の直鎖又は分枝状のアルキル基、シクロアルキル基またはアルキルアリール基であり、オクタデシル基、シクロヘキシル基またはトルイル基であることが特に好ましい。
【0014】
式(1)中のRは2価の炭化水素基を表す。かかる2価の炭化水素基としては、具体的には、直鎖又は分枝状のアルキレン基、直鎖又は分枝状のアルケニレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基、アリールアルキレン基等が挙げられる。Rで表される2価の炭化水素基の炭素原子数は、6〜20であることが好ましく、6〜15であることがより好ましい。
Rで表される2価の炭化水素基は、具体的には、エチレン基、2,2−ジメチル−4−メチルヘキシレン基、または下記式(2)〜(11)で表される基が挙げられ、中でも式(3)、(5)で表される2価の炭化水素基が特に好ましい。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【0015】
式(1)で表されるウレア化合物は、例えば、OCN−R−NCOで表されるジイソシアネートと、RNH、RNH又はROHで表される化合物もしくはこれらの混合物とを、基油中、10〜200℃で反応させることにより得られる。なお、原料化合物を表す式中のR、R、R、R、Rは、それぞれ前記の基である。
【0016】
本発明の潤滑グリース組成物において、ウレア化合物の配合は任意であり、潤滑グリース組成物全体に対して、0〜20重量%配合することができる。しかし、特に樹脂材(特にガラス繊維強化樹脂材)を含む潤滑部の耐久寿命を改善するために、5〜10重量%含むことが特に好ましい。ウレア化合物の配合量が前記上限を超えると潤滑グリース組成物が過剰に硬くなり、十分な潤滑性能を得ることができなくなる場合がある。
【0017】
本発明の潤滑グリース組成物は、潤滑部、特に樹脂材(特にガラス繊維強化樹脂材)を含む潤滑部の摩擦係数を低くし、その耐久寿命を改善するために、潤滑グリース組成物中に(C)リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩および次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物および(D)炭素原子数8〜24の脂肪酸金属塩を含むことを特徴とするものであり、特に潤滑グリース組成物全体に対して、前記の成分(C) 0.5〜20重量%および成分(D) 0.5〜40重量%を含むことが好ましく、成分(C)1〜15重量%および成分(D)1〜30重量%を含むことが特に好ましい。かかる成分(C)および成分(D)を配合した潤滑グリース組成物は、潤滑部が金属部材と樹脂部材からなる摺動部である場合、特には、潤滑部が金属部材とガラス繊維強化樹脂材からなる摺動部である場合に、摩擦係数を低くし、その耐久寿命を著しく改善するものである。以下、成分(C)、成分(D)についてさらに詳細に説明する。
【0018】
成分(C)は、リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩および次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物であり、成分(D)と共に潤滑グリース組成物に添加することにより、固体潤滑材剤的な機能を奏し、潤滑部の摩擦係数を長期間に渡って低下させ、その耐久寿命を著しく改善するものである。
【0019】
リン酸塩の具体例として、PO3−の金属塩が挙げられる。好適には、NaPO4、Ca3(PO42、AlPO4、Zn3(PO42、FePO4、Fe3(PO42、Sn3(PO42、Pb3(PO42等が挙げられるが、リン酸塩であれば特別な制限はない。メタリン酸塩の具体的例として、PO3-、P393-又はP4124-などの金属塩が挙げられる。好適には、(NaPO3)n、K339、K2Na2(P412)等を挙げることができるが、メタリン酸塩であれば格別な制限はない。二リン酸塩(ピロリン酸塩)の具体例としては、P274-と金属からなるリン酸塩が挙げられる。好適には、Ca227、Pb227、Fe4(P273、Zn227、Sn227等を挙げることができるが、二リン酸塩であれは、格別な制限はない。三リン酸塩(トリポリリン酸塩)の具体例としては、P3105-の金属塩を挙げることができる。好適には、Zn5(P3102、Na5310等が挙げられるが、三リン酸塩であれば、格別な制限はない。亜リン酸塩の具体例としては、PHO2-の金属塩を挙げることができる。好適には、ZnHPO3、PbHPO3などを挙げることができるが、亜リン酸塩であれば、格別な制限はない。二亜リン酸塩(ピロ亜リン酸塩)の具体例としては、P2252-の金属塩を挙げることができる。好適には、Na2225等を挙げることができるが、二亜リン酸塩であれば格別な制限はない。次亜リン酸塩の具体例としては、PH22-の金属塩を挙げることができる。好適には、NaPH22等を挙げることができるが、次亜リン酸塩であれば、格別な制限はない。また、該成分(C)は、潤滑グリース組成物への均一分散性および潤滑部の摩擦係数を長期間に渡って低下させる効果の点から、粉末状、特に微粉末であることが好ましい。本発明において、成分(C)として特に好ましいリン化合物は、Zn227で示されるピロリン酸亜鉛やCa3(PO42で示されるリン酸三カルシウム、AlPO4で示されるリン酸アルミニウムの微粉末である。本発明においては、これらリン化合物を単独または併用して使用することができる。
【0020】
本発明の潤滑グリース組成物中、前記の成分(C)の含有量は0.5〜20重量%であり、好ましくは1〜15重量%、特に好ましくは2〜10重量%である。前記下限未満の含有量では成分(D)と共に配合しても、本発明の効果が不十分となる場合がある。また、含有量が前記上限を超えても効果が更に増大するとは限らず、グリースが硬化しやすくなり、本発明の効果が不十分となる場合がある。
【0021】
成分(D)は脂肪酸金属塩であり、基油の増稠剤として機能するほか、成分(C)のリン化合物と共に潤滑グリース組成物に配合することにより、潤滑部の摩擦係数を長期間に渡って低下させ、その耐久寿命を著しく改善する成分である。かかる成分(C)および成分(D)が添加されることにより、特に摩擦熱が上がり難い金属製部材および樹脂製部材(特には、ガラス繊維強化樹脂製部材)からなる潤滑部に対しても、その耐久寿命を著しく改善するものである。なお、成分(D)は基油の増稠剤としても機能するものであるが、グリースの滴点の低下を回避するために、基油の増稠剤として、前記の成分(B)を併用することが好ましい。
【0022】
該脂肪酸金属塩の具体例として、モノカルボキシル脂肪酸またはヒドロキシモノカルボキシル脂肪酸の金属塩および金属石鹸の製造に使用される種子油等の植物油、動物油またはこれらから誘導される脂肪酸類の金属塩が挙げられる。好適には、モノカルボキシル脂肪酸またはヒドロキシモノカルボキシル脂肪酸の金属塩であり、特に、炭素原子数8〜22のモノカルボキシル脂肪酸またはヒドロキシモノカルボキシル脂肪酸の金属塩が好ましい。さらに具体的には、モノカルボキシル脂肪酸の金属塩として、ラウリン酸、ミチスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ミリストオレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸およびリノレン酸の金属塩が例示され、ヒドロキシモノカルボキシル脂肪酸の金属塩として、12−ヒドロキシステアリン酸、14−ヒドロキシステアリン酸、16−ヒドロキシステアリン酸、6−ヒドロキシステアリン酸、9,10−ヒドロキシステアリン酸の金属塩が例示される。また、これらの脂肪酸金属塩は、前記の脂肪酸とリチウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウムのうちから選ばれた一種類又は二種類以上の金属塩であることが好ましい。さらに、本発明においては、金属製部材および樹脂製部材(特には、ガラス繊維強化樹脂製部材)からなる潤滑部に対する耐久寿命の改善性から、直鎖状モノカルボキシル脂肪酸または直鎖状ヒドロキシモノカルボキシル脂肪酸が好ましく、リチウム塩であることが特に好ましい。更に具体的には、ステアリン酸リチウムまたは12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを用いることが好ましい。
【0023】
本発明の潤滑グリース組成物中、前記の成分(D)の含有量は0.5〜40重量%であり、好ましくは1〜30重量%である。前記下限未満の含有量では成分(C)と共に配合しても、本発明の効果が不十分となる場合がある。また、含有量が前記上限を超えても効果が更に増大するとは限らず、却って、潤滑グリース組成物の粘度が高くなりすぎて、潤滑部に塗布しにくくなる場合がある。
【0024】
また、本発明の潤滑グリース組成物では、必要な添加剤として、使用される用途に応じ一般的に使用される添加剤が添加されることを妨げない。添加剤としては、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、防錆剤、腐食防止剤、金属不活性剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤等がある。
【0025】
本発明の潤滑グリース組成物は、好ましくは前記成分(A)〜(D)を混合することにより得ることができるほか、基グリースにリン酸金属塩、脂肪酸金属塩及びその他の添加剤を添加して攪拌・混合し、ロールミル等を通したミル仕上げすることによっても容易に得ることができる。さらに、基グリースが脂肪酸金属塩を含有するものであれば、リン酸金属塩のみを混合、ミル仕上げすることによっても容易に得ることができる。特に好ましい製造方法は、(B)ウレア化合物を(A)基油の増稠剤として用いた基グリースにリン酸金属塩、脂肪酸金属塩及びその他の添加剤を混合、ミル仕上げするものである。また、潤滑グリース組成物の(A)基油に(B)ウレア化合物の原料を予め添加して溶融し、これらを撹拌・混合して基油中で(B)ウレア化合物を調製した後、リン酸金属塩、脂肪酸金属塩及びその他の添加剤を添加して攪拌・混合し、ロールミル等を通すことによっても、本発明の潤滑グリース組成物を得ることができる。
【0026】
本発明の潤滑グリース組成物は、金属部材、樹脂部材、セラミックス等の表面に潤滑皮膜を形成することができ、樹脂製部材、特にはガラス繊維強化樹脂製部材からなる潤滑部に対する耐久寿命の改善性に優れる。また、金属製部材と樹脂製部材からなる摺動部に本発明の潤滑グリース組成物を適用すると、該摺動部材上に長期間にわたって潤滑皮膜を形成することができ、耐久寿命の改善性が著しく、特に金属製部材とガラス繊維強化樹脂製部材からなる摺動部に好適に使用することができる。従来の極圧添加剤を含む潤滑グリース組成物(例えば、特許文献3〜特許文献5に開示されたもの)は、金属同士の摩擦で生じる摩擦熱で金属表面に強固な潤滑膜を形成することで摩擦部分の摩耗・破損を抑制していた。しかし、金属と樹脂、特に放熱性に優れるガラス繊維で強化された樹脂の摩擦では従来の極圧添加剤を含む潤滑グリース組成物が潤滑膜を形成できるまでの温度に至らず潤滑性が不十分となるものである。本発明の潤滑グリース組成物は、金属と樹脂、特に放熱性に優れるガラス繊維で強化された樹脂の摩擦熱による添加剤の金属表面への潤滑膜形成を可能とするものであり、金属製部材の摩耗・損傷を抑制しその耐久寿命を改善することができる。
【0027】
本発明の潤滑グリース組成物を用いて潤滑する樹脂部材の樹脂としては、全ての汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチックが使用可能であり、さらにこれらの樹脂部材をガラス繊維で強化したガラス繊維強化樹脂製部材が使用可能である。かかる樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ABS樹脂(ABS)、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、ポリアセタール(POM)、ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0028】
上記の潤滑グリース組成物は、摩擦低減効果が十分に高く、また、その摩擦低減効果を長期間にわたり、高水準に維持されるものである。従って、等速ギヤ、変速ギヤ等のギヤ用グリース、玉軸受、ころ軸受等の軸受用グリース、製鉄設備用グリース等として非常に有用であり、等速ジョイント、無断変速機用軸受、自動車・鉄道車両用軸受等のグリースとして特に好ましく用いられる。特には、自動車用途に好適であり、金属製部材とガラス繊維強化樹脂製部材からなる摺動部を有する自動車操舵機構の電動パワーアシストステアリング(EPS)、ワイパーモータ、ウィンドレギュレータの金属ウォームギアと樹脂ホイールギア等に使用されることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[潤滑グリース組成物の評価方法(金属製部材および樹脂製部材からなる摺動部への適用):鈴木式試験機による評価(1)]
S45C鋼(以下、「S45C」と略す)および30%ガラス入46ナイロン(以下、「PA46GF30」と略す)により内径φ20mm外径φ25.6mm高さ15mmの中空円筒(図1)を作製し試験片とした。
潤滑グリース組成物 約0.1gを塗布したS45C製試験片およびPA46GF30製試験片を組み合わせ、荷重20MPa・摺動速度100mm/s・試験時間120分の条件で試験を行い、上部に設置したS45C製試験片の摺動面から約1mmの部分での温度が160℃に達したとき、あるいは急激な摩擦力上昇が認められたとき焼き付きと見做し試験を終了し耐久寿命として記録した。また、耐久寿命が試験時間(120分)を超えるものについては、120分時点での最高温度を記録した。摩擦係数は試験中最も安定した部分を記録した。
【0031】
[潤滑グリース組成物の評価方法(金属製部材同士からなる摺動部への適用):鈴木式試験機による評価(2)]
潤滑グリース組成物 約0.1gを塗布したS45C製試験片同士組み合わせ、荷重20MPa・摺動速度100mm/s・試験時間120分の条件で試験を行い、試験装置のトルク制御機能により試験機が停止するまでの時間を耐久時間(分)とし、その時点において上部に設置したS45C製試験片の摺動面から約1mmの部分での温度を最高温度(℃)として測定した。なお、試験開始からX分後に潤滑グリースが焼付きを興した場合には「X分後に焼付き」と評価した。また、試験開始直後に焼付きを起こした場合、最高温度(℃)は「測定不可」と評価した。
【0032】
[実施例1〜6、比較例1、比較例2]
表1に示す基油および脂肪酸金属塩(増稠剤)からなるベースグリースに、表1に示す各種添加剤を加え、攪拌した後、3本ロールミルを用いて、稠度No.2グレードに調製し、潤滑グリース組成物を調製した(ただし、比較例1はベースグリース自体であり、添加剤は加えていない)。さらに、上記の方法で、S45C製試験片およびPA46GF30製試験片からなる摺動部に適用し、得られた潤滑グリース組成物の磨耗係数、耐久寿命(分)および最高温度(℃)を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0033】
[実施例7〜14、比較例3〜5]
基油としてポリ−α−オレフィン(40℃での動粘度:47mm/s)を用意し、この基油の半量と、及びアミン混合物(シクロヘキシルアミン:ステアリルアミン=8:2(モル比))と、を反応容器に秤取して混合物(1)とし、70〜80℃に加温した。一方、基油の半量と、ジフェニルメタンジイソシアネートと、を別の容器に秤取して混合物(2)とし、70〜80℃に加温して混合物(1)に加えて攪拌した。反応熱により反応混合物の温度は上昇し、約30分間この状態で攪拌を続け、さらに昇温して170〜180℃で30分間保持した。このようにして、ポリ−α−オレフィン中でジウレア化合物を合成した。該反応混合物の冷却後、表2に示す各種添加剤を加え、攪拌した後、3本ロールミルを用いて、稠度No.2グレードに調製し、潤滑グリース組成物を調製した(ただし、比較例3はベースグリース自体であり、添加剤は加えていない)。さらに、上記の方法で、S45C製試験片およびPA46GF30製試験片からなる摺動部に適用し、得られた潤滑グリース組成物の磨耗係数、耐久寿命(分)および最高温度(℃)を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0034】
[実施例15、16]
[実施例1〜6、比較例1、比較例2]と同様に、表3に示す基油および脂肪酸金属塩(増稠剤)からなるベースグリースに、表3に示す各種添加剤を加え、攪拌した後、3本ロールミルを用いて、稠度No.2グレードに調製し、潤滑グリース組成物を調製した。さらに、上記の方法で、S45C製試験片同士からなる摺動部に適用し、得られた潤滑グリース組成物の耐久時間(分)および最高温度(℃)を評価した。得られた結果を表3に示す。
【0035】
[実施例17、比較例6、7]
[実施例7〜14、比較例3〜5]と同様に、ポリ−α−オレフィン中でジウレア化合物を合成した。該反応混合物の冷却後、表3に示す各種添加剤を加え、攪拌した後、3本ロールミルを用いて、稠度No.2グレードに調製し、潤滑グリース組成物を調製した(ただし、比較例6はベースグリース自体であり、添加剤は加えていない)。さらに、上記の方法で、S45C製試験片同士からなる摺動部に適用し、得られた潤滑グリース組成物の耐久時間(分)および最高温度(℃)を評価した。得られた結果を表3に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

*試験装置のトルク制御機能により試験機が停止するまでの時間
【0039】
表1〜表3において、
PAO:ポリ−α−オレフィン(40℃での動粘度:68mm/s )
PAOU:ポリ−α−オレフィン(ウレア増稠用)(40℃での動粘度:47mm/s)
PAE:ポリアルキレンエーテル(40℃での動粘度:105mm/s)
POE:ポリオールエステル(40℃での動粘度:52mm/s)
PMPS:ポリメチルフェニルシリコーン(40℃での動粘度:70mm/s)
St-Li: ステアリン酸リチウム
12OH-Li: 12−ヒドロキシステアリン酸リチウム
PP_Zn:ピロリン酸亜鉛
P_Ca:リン酸三カルシウム
St_Ca:ステアリン酸カルシウム
St_Zn:ステアリン酸亜鉛
St_Mg:ステアリン酸マグネシウム
St_Na:ステアリン酸ナトリウム
St_Al:ステアリン酸アルミニウム
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末
をそれぞれ表す。
【0040】
[表1に示した評価結果について]
実施例1〜6の潤滑グリース組成物はS45C製試験片(金属製部材)およびPA46GF30製試験片(ガラス繊維強化樹脂部材)からなる摺動部に適用すると、すべて摩擦係数0.03以下であり、摩擦係数を低減した。さらに、実施例1〜3、6においては120分以上の潤滑寿命を示した。これに対して、ステアリン酸リチウムだけを含有する比較例1では摩擦係数の低減は認められず、潤滑寿命は2分に留まった。また、摩擦係数を改善することで知られる固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末(PTFE)を5%含有する比較例2においても摩擦係数と潤滑寿命の改善は認められなかった。
【0041】
[表2に示した評価結果について]
実施例7〜14の潤滑グリース組成物は、ウレア化合物を増稠剤として含有するものであり、S45C製試験片(金属製部材)およびPA46GF30製試験片(ガラス繊維強化樹脂部材)からなる摺動部に適用すると、すべて摩擦係数0.03以下であり、摩擦係数を低減し、120分以上の潤滑寿命を示した。
一方、リン化合物及び脂肪酸金属塩を含有しない比較例3であり摩擦係数は高く、潤滑寿命は2分であった。また、比較例4及び比較例5はリン化合物あるいは脂肪酸金属塩のみを含有させた潤滑グリース組成物であり、リン化合物あるいは脂肪酸金属塩単独で配合しても、摩擦係数の低減及び潤滑寿命は認められなかった。
【0042】
[表3に示した評価結果について]
実施例15〜17の本発明に係る潤滑グリース組成物は、S45C製試験片(金属製部材)同士からなる摺動部に適用した場合、何れも30分以上の耐久時間を達成した。また、これらの潤滑グリース組成物を用いた実施例においては、試験機が停止時においても、S45C製試験片の焼付きは確認されなかった。一方、添加剤を含まないウレア増稠グリース(比較例6)は、試験開始直後に焼付きをおこし試験を続行することができなかった。また、ウレア増稠グリースにピロリン酸亜鉛のみを5重量%添加した比較例7においても、試験開始から4分後に焼付きを起こし、評価試験を続行することができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)および(b)はそれぞれ鈴木式試験機による評価に用いた試験片を示す上面図および側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩および次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物および脂肪酸金属塩を含むことを特徴とする潤滑グリース組成物。
【請求項2】
(A)基油、(B)ウレア化合物、(C)リン酸塩、メタリン酸塩、二リン酸塩(ピロリン酸塩)、三リン酸塩(トリポリリン酸塩)、亜リン酸塩、二亜リン酸塩、および次亜リン酸塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種のリン化合物 0.5〜20重量%および(D)脂肪酸金属塩0.5〜40重量%を含んでなる潤滑グリース組成物。
【請求項3】
脂肪酸金属塩が、8〜22の炭素原子を有する一種類又は二種類以上のモノカルボキシル脂肪酸またはヒドロキシモノカルボキシル脂肪酸とリチウム、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウムのうちから選ばれた一種類又は二種類以上の金属塩である請求項1または請求項2に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項4】
リン化合物がピロリン酸亜鉛及び/またはリン酸三カルシウムの粉末である請求項1または請求項2に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項5】
脂肪酸金属塩が、ステアリン酸またはヒドロキシステアリン酸とリチウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウムのうちから選ばれた一種類又は二種類以上の金属塩である請求項1または請求項2に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項6】
樹脂製摺動部材用である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項7】
ガラス繊維強化樹脂製摺動部材用である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項8】
金属製部材と樹脂製部材からなる摺動部用である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。
【請求項9】
自動車用である請求項1〜8のいずれか1項に記載の潤滑グリース組成物。


【図1】
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【公開番号】特開2007−297553(P2007−297553A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128381(P2006−128381)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】