説明

潤滑油の冷却装置

【課題】大掛かりな改造を要することなく、復水器で生成された復水を利用して軸受潤滑用の潤滑油を冷却できるようにすること。
【解決手段】蒸気タービン(高圧蒸気タービン11、低圧蒸気タービン12)で使用した水蒸気を冷却し凝縮させて復水にする復水器31から復水ポンプ33で復水を吸引して蒸気タービン(高圧蒸気タービン11、低圧蒸気タービン12)のボイラに送る復水経路32上に、復水器31と復水ポンプ33との間を通る復水を冷媒とする冷却水冷却器102を配置し、軸受11a、12a、13aを潤滑する潤滑油LOを溜めて潤滑後の排油である潤滑油LOを回収する主油タンク54に溜められた潤滑油LOを取り出し、これを油冷却器110によって冷却して主油タンク54に戻すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば発電機の軸受やこの発電機を駆動するタービンの軸受を潤滑する潤滑油を冷却するための潤滑油の冷却装置に係り、特に、蒸気タービンで使用した水蒸気を復水器で冷却し凝縮させた後の復水を冷媒として用いる潤滑油の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電設備で使用される蒸気タービンやガスタービン等の各種タービン、タービンに駆動される発電機では、その回転軸を支える軸受に対する潤滑油の供給が不可欠である。潤滑油は、潤滑油循環システムに取り込まれて制御され、主油タンクから軸受に供給された後、軸受から再び主油タンクに戻される。主油タンクから軸受に供給される際の潤滑油の温度は、例えば45〜50℃程度の適温に維持される一方、軸受から排油される潤滑油の温度は、軸受で発生した熱エネルギーの影響を受けて60℃程度まで上昇する。潤滑油の循環システムは、60℃程度まで温度上昇した潤滑油を油冷却器で冷却し、45〜50℃程度の適温にして再び軸受に送り出す。
【0003】
図4は、潤滑油の冷却装置1の従来の一例を示す回路図である。図4に示す一例では、高圧蒸気タービン11の軸受11a、低圧蒸気タービン12の軸受12a、および発電機13の軸受13aを潤滑する潤滑油LOを冷却の対象としている。発電機13は、高圧蒸気タービン11と低圧蒸気タービン12とによって駆動される。
【0004】
潤滑油循環システム51は、潤滑油供給ライン52と排油ライン53とを介して個々の軸受11a、12a、13aに連絡している。潤滑油供給ライン52は、主油タンク54から個々の軸受11a、12a、13aに潤滑油LOを供給するラインである。排油ライン53は、個々の軸受11a、12a、13aから排油された潤滑油LOを再び主油タンク54に戻すラインである。潤滑油循環システム51中、潤滑油LOに循環の流れを生じさせているのは、主油ポンプ55およびブースターポンプ56である。ブースターポンプ56は、主油ポンプ55からの高圧の潤滑油LOを駆動源として動作する。もっとも、蒸気タービン11、12の起動時、ブースターポンプ56は、電動式の油ポンプ(図示を省略)によって駆動される。その後、通常運転時になると、主油ポンプ55は、主油タンク54から潤滑油LOを吸引して蒸気タービン11、12に高圧の制御油を供給すると共に、その一部をブースターポンプ56の駆動源として利用する。こうして、潤滑油LOに循環の流れが生ずる。
【0005】
潤滑油循環システム51は、油冷却器57を備えている。油冷却器57は、例えば海から取水した海水を冷媒とする軸受冷却水により、潤滑油LOを冷却する。油冷却器57に対する軸受冷却水の取り込みは、冷却水バルブ58によって制御される。油冷却器57は、一例として、軸受11a、12a、13aで発生した熱エネルギーの影響を受けて60℃程度まで上昇して主油タンク54に戻された潤滑油LOの温度を、例えば45〜50℃程度の適温にする。
【0006】
図4に例示する潤滑油の冷却装置1が有している問題は、油冷却器57を通過することによって軸受に発生した熱エネルギーが何ら利用されることなく、軸受冷却水の冷媒である海水を通じてそのまま海に廃棄されてしまうという点である。一例として、156MW級の蒸気タービンプラントを例に挙げて無駄になるエネルギー量を考える。この規模の蒸気タービンの場合、約120kl/hで潤滑油が循環している。とすると、軸受で発生した熱エネルギー量は、約0.74×10
kcal/hである。156MW時の燃料熱量は、約350×10
kcal/hであるから、0.2%、電力に換算すると約330kWhものエネルギーが活用されることなく廃棄されることになる。この際、軸受冷却水の冷媒である海水を通じて海水を温めてしまうという別の問題も発生する。
【0007】
この問題を解決するために、従来、蒸気タービンに用いられる復水器で生成された復水を冷媒として潤滑油を冷却することが提案されている(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−036535公報
【特許文献2】特開2004−353571公報
【特許文献3】特開2006−009592公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1〜3が開示する復水を利用した潤滑油の冷却装置は、いずれも、復水器で生成された復水の本来の経路から分岐した潤滑油冷却用の経路を設置している。このため、既設の設備を利用して設置しようとすると、大掛かりな改造を余儀なくされるという問題が発生する。
【0010】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、大掛かりな改造を要することなく、復水器で生成された復水を利用して軸受潤滑用の潤滑油を冷却できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明の潤滑油の冷却装置は、軸受を潤滑する潤滑油を溜めて前記軸受潤滑後の排油を回収する主油タンクと、蒸気タービンで使用した水蒸気を冷却し凝縮させて復水にする復水器と、前記蒸気タービンのボイラに送るために前記復水器から復水を吸引する復水ポンプと、前記復水器と前記復水ポンプとの間を通る復水を冷媒とする冷却器と、前記主油タンクに溜められた潤滑油を取り出し前記冷却器によって冷却し前記主油タンクに戻す潤滑油循環装置と、を備えることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、既存設備に対して復水器と復水ポンプとの間に冷却器を設置するという改造を施し、後は潤滑油循環装置を新設するだけで、大掛かりな改造を要することなく、復水器で生成された復水を利用して軸受潤滑用の潤滑油を冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の一形態として、潤滑油の冷却装置を示す回路図。
【図2】本実施の形態の潤滑油の冷却装置の冷媒取り出し部分(復水器と復水ポンプとの間の部分)を示す正面図。
【図3】潤滑油が冷却される仕組みを説明するための模式図。
【図4】潤滑油の冷却装置の従来の一例を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の一形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、図4に例示する既存の設備を利用して潤滑油LOの冷却装置101を構築した一例である。本実施の形態において、図4を参照して前述した潤滑油LOの冷却装置1は、既存の冷却装置1として撤去することなく、設備を生かしている。そこで、図4に示すシステムついて説明した部分と同一部分は同一符号で示し説明も省略する。
【0015】
図1は、実施の一形態として、潤滑油LOの冷却装置101を示す回路図である。本システムは、蒸気タービンである高圧蒸気タービン11および低圧蒸気タービン12で使用した水蒸気を冷却し凝縮させて復水SC(図2参照)にする復水器31を既存設備として備えている。復水器31で生成された復水SCは、復水経路32に配置された復水ポンプ33によって吸引され、脱気器で脱気後、高圧蒸気タービン11および低圧蒸気タービン12のボイラが内蔵する蒸気発生器(いずれも図示せず)に送られる。本システムは、復水器31と復水ポンプ33との間を通る復水SCを冷媒として利用し、主油タンク54に溜められた潤滑油LOを冷却する。
【0016】
図2は、本実施の形態の潤滑油LOの冷却装置101の冷媒取り出し部分(復水器31と復水ポンプ33との間の部分)を示す正面図である。図2に示すように、復水器31は復水タンク34に復水SCを溜める。復水タンク34は、底面にストレーナ35を備え、復水経路32はストレーナ35に連結している。復水経路32は、ストレーナ35の下方位置で略直角に屈曲している。復水ポンプ33は、電動機33aとバーレル33bとの組み合わせによって構成され、入口側には入口弁37、出口側には出口弁38を配置している。復水器31の復水タンク34と復水ポンプ33との水頭差は、約1.5m程度である。図2中、ここまで既存設備である。
【0017】
図1、図2に示すように、本実施の形態において、既存設備に対する改造部分は、復水器31が有するストレーナ35の直ぐ下流に電動弁36を配置し、この電動弁36と復水ポンプ33の入口弁37との間に冷却器としての冷却水冷却器102を配置した点である。冷却水冷却器102は、新設の冷却装置101において、復水器31と復水ポンプ33との間を通る復水SCを冷媒として利用するための構造物である。冷却装置101は、主油タンク54に溜められた潤滑油LOを取り出し冷却水冷却器102によって冷却して主油タンク54に戻す潤滑油循環装置103を備え、この潤滑油循環装置103によって潤滑油LOの冷却を実現している。
【0018】
潤滑油循環装置103は、冷却水冷却器102の側の冷却水経路104と主油タンク54の側の潤滑油経路105とを有している。
【0019】
冷却水経路104は、冷却水循環ポンプ106で配管内部の冷却水を循環させ、冷却水冷却器102を通る冷却水の循環経路を形成している。冷却水の循環経路中、冷却水冷却器102の入口側には冷媒入口弁107、冷却水冷却器102の出口側には冷媒出口弁108がそれぞれ配置され、冷却水循環ポンプ106の下流側には調整弁109が配置されている。調整弁109は、冷却水経路104中の冷却水の流量を調整する。流量調整されて冷却水経路104を循環する冷却水には、純水の使用が好適である。
【0020】
潤滑油経路105は、冷却水経路104を循環する冷却水を冷媒とする油冷却器110を含み、油移送ポンプ111で主油タンク54に溜められた潤滑油LOを取り出し循環させる潤滑油LOの循環経路を形成している。
【0021】
図3は、潤滑油LOが冷却される仕組みを説明するための模式図である。冷却水冷却器102は、復水器31から復水経路32に送り出された復水SCを冷媒として冷却される。そこで、冷却水経路104を循環する冷却水は、冷却水冷却器102を通過することによって冷却される。油冷却器110は、冷却水経路104を循環する冷却水を冷媒として冷却される。そこで、潤滑油経路105を循環する潤滑油LOは、油冷却器110を通過することによって冷却される。これが、本実施の形態における主油タンク54に溜められた潤滑油LOの冷却原理である。ここで、より具体的な数値を当てはめてより詳しく説明する。
【0022】
復水器31において、復水タンク34に溜められている復水SCの温度は、約40.0℃程度である。したがって、復水ポンプ33で吸引されて復水経路32に送り出された復水SCは、約40.0℃程度の温度で冷却水冷却器102を通過する。この際、主油タンク54に回収された潤滑油LOの油温度は、約60.0℃程度である。したがって、油移送ポンプ111によって主油タンク54から潤滑油経路105に送り出された潤滑油LOは、約60.0℃程度の温度で油冷却器110を通過する。
【0023】
ここで、復水経路32中、復水ポンプ33によって復水タンク34から吸引された復水SCの復水流量xを300m
/h、冷却水冷却器102の伝熱面積xを70m、熱伝達率xを340kcal/m
h℃とする。冷却水経路104中、冷却水循環ポンプ106による冷却水の流量xを20m
/hとする。そして、潤滑油経路105中、油移送ポンプ111による潤滑油LOの流量xを20m
/h、油冷却器110の伝熱面積xを40m、熱伝達率xを340kcal/m
h℃とする。
【0024】
上記条件の下、冷却水経路104を循環し冷却水冷却器102を通過する冷却水は、復水経路32に送り出された約40.0℃の温度の復水SCを冷媒として冷却される。この際、冷却水経路104を循環する冷却水は、油冷却器110での潤滑油LOの冷却によって温度上昇し、冷却水冷却器102には約47.3℃の温度で入り、復水経路32を通過する復水SCに冷却されて約42.5℃の温度で冷却水冷却器102を通過する。そこで、潤滑油経路105を循環し油冷却器110を通過する潤滑油LOは、冷却水冷却器102を通過した約42.5℃の温度の冷却水を冷媒として冷却される。この際、主油タンク54から送り出された潤滑油LOは約60.0℃の温度で油冷却器110に入り、冷却水経路104を循環する冷却水に冷却されて約48.0℃の温度で油冷却器110を通過し、主油タンク54に戻される。こうして、高圧蒸気タービン11、低圧蒸気タービン12および発電機13の軸受11a、12a、13aを潤滑するための潤滑油LOを冷却することができる。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態によれば、既存設備に対して復水器31と復水ポンプ33との間に冷却水冷却器102を設置するという改造を施し、後は潤滑油循環装置103を新設するだけで、大掛かりな改造を要することなく、復水器31で生成された復水SCを利用して軸受潤滑用の潤滑油LOを冷却することができる。
【0026】
この際、復水経路32では、復水器31に連絡する復水ポンプ33の入口側で大きな流れが生ずる。この流れは、復水ポンプ33の液体吸引作用に、復水器31と復水ポンプ33との間の1.5m程度の水頭差が重畳されてより一層大きくなる。冷却水冷却器102は、こうして大きな流れが生ずる復水ポンプ33の入口側、つまり、復水器31と復水ポンプ33との間に設置されて当該部分を通る復水SCを冷媒とするので、高い冷却効率をもって冷却される。したがって、冷却水経路104に直接的に復水SCを導き入れずとも、軸受11a、12a、13aの潤滑によって温度上昇した潤滑油LOを十分に冷却することができる。
【0027】
しかも、本実施の形態によれば、復水SCを冷媒として直接的に潤滑油LOの潤滑油経路105を冷却するのではなく、冷却水経路104を介在させている。これにより、復水SCに潤滑油LOが混入してしまうようなもしもの事故を確実に防止することができ、安全性を高めることができる。
【0028】
さらに、本実施の形態によれば、高圧蒸気タービン11および低圧蒸気タービン12に不可欠である復水器31で生成される復水SCを冷媒として高圧蒸気タービン11および低圧蒸気タービン12並びにこれらを駆動源とする発電機13の軸受11a、12a、13aを潤滑する潤滑油LOを冷却する。したがって、別途に冷媒を用意する必要がなく、極めて効率的なシステム構築が可能となる。
【0029】
なお、既存設備であるそもそもの冷却装置1については、新設の冷却装置101を設置した場合でも、分解廃棄するには及ばない。冷却装置101に何らかの障害が発生した場合、冷却装置1を稼動させて潤滑油LOを冷却するという有効な使途が残されているからである。実施に際しては、このような予備的な使用に備えて、冷却装置1を準備状態に維持しておくことが望ましい。もっとも、このような冷却装置1の利用の示唆は、本実施の形態のシステムにおいて、冷却装置1の残置を必須のものとする意図ではなく、必要なければ、冷却装置1を分解し廃棄することは一向に差し支えない。
【符号の説明】
【0030】
11 高圧蒸気タービン(蒸気タービン)
11a 軸受
12 低圧蒸気タービン(蒸気タービン)
12a 軸受
13 発電機
13a 軸受
31 復水器
33 復水ポンプ
54 主油タンク
102 冷却水冷却器(冷却器)
103 潤滑油循環装置
104 冷却水経路
105 潤滑油経路
110 油冷却器
LO 潤滑油
SC 復水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受を潤滑する潤滑油を溜めて前記軸受潤滑後の排油を回収する主油タンクと、
蒸気タービンで使用した水蒸気を冷却し凝縮させて復水にする復水器と、
前記蒸気タービンのボイラに送るために前記復水器から復水を吸引する復水ポンプと、
前記復水器と前記復水ポンプとの間を通る復水を冷媒とする冷却器と、
前記主油タンクに溜められた潤滑油を取り出し前記冷却器によって冷却し前記主油タンクに戻す潤滑油循環装置と、
を備える、ことを特徴とする潤滑油の冷却装置。
【請求項2】
前記潤滑油循環装置は、
前記冷却器を含んだ冷却水の循環経路を形成する冷却水経路と、
前記冷却水経路を循環する冷却水を冷媒とする油冷却器を含んで前記主油タンクに溜められた潤滑油を取り出し循環させる潤滑油経路と、
を備える、ことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油の冷却装置。
【請求項3】
前記復水ポンプは、前記復水器の復水排出口よりも低位置に設置されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油の冷却装置。
【請求項4】
前記軸受は、前記蒸気タービンの軸受である、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の潤滑油の冷却装置。
【請求項5】
前記軸受は、前記蒸気タービンによって駆動される発電機の軸受である、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一に記載の潤滑油の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−57520(P2012−57520A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200777(P2010−200777)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)