説明

潤滑組成物

本発明は、基油および1つ以上の添加剤を含む潤滑組成物であって、少なくとも:潤滑組成物の全重量に基づいて、40.0から60.0重量%のI群の鉱物由来基油、および潤滑組成物の全重量に基づいて、10.0から40.0重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油を含み、100℃(ASTM D445準拠)で26.1cSt未満の動粘度を有する、潤滑組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジン、特に高負荷ディーゼルエンジンなどのディーゼルエンジンのクランクケースにおける特定の使用のための、フィッシャー−トロプシュ由来基油および1つ以上の添加剤を含む潤滑組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー−トロプシュ由来基油および1つ以上の添加剤を含む潤滑組成物は、当技術分野において公知である。例として、WO2008/055975は、フィッシャー−トロプシュ由来基油を含み、潤滑組成物の全重量に基づいて、0.01から0.3重量%の硫黄含有量、0.01から0.1重量%のリン含有量および0.1から1.2重量%の硫酸塩灰分含有量を有する、いわゆる低SAPS潤滑組成物を開示している。WO2008/055975の実際の実施例は、フィッシャー−トロプシュ由来基油の混合物またはIII群の基油の混合物のいずれかを含む、SAE 5W−40潤滑組成物が開示されている。
【0003】
US2004/0094453A1は、低粘度フィッシャー−トロプシュ由来基油画分をより高い粘度の従来の石油由来基油画分と混合して、クランクケースエンジン油などの商業用最終潤滑剤を調製するのに有用である潤滑基油を製造することに関する。実施例6の混合物6は、20重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油および80重量%のI群の基油を含む。
【0004】
US2005/0258078A1は、潤滑剤混合物および、これらの潤滑剤混合物を含む最終ギヤ油に関し、この潤滑剤混合物は、フィッシャー−トロプシュ由来基油、石油由来基油および流動点降下剤を含む。表Vにおいて、55.8重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油、43.9重量%のI群の基油および0.3重量%の流動点降下剤を含む、潤滑剤混合物が示されている。混合物は、100℃で5.514の動粘度を有する。US2005/0258078A1の[0157]段落において説明されているように、I群の基油を含む混合物は、II群の基油を含む混合物と比較した場合に、最適ではない。
【0005】
WO2009/071609A1は、基油配合物およびこれらの調製、使用に関する。WO2009/071609A1の実施例2および3は、基油配合物(即ち、添加剤を含まない。)を開示している;実施例2は、22.7重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油および77.3重量%のI群の基油を含むのに対して、実施例3は、41重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油および59重量%のI群の基油を含む。
【0006】
US2003/0100453は、酸化安定性の改善を提供する基油の混合物に関する。US2003/0100453の表IIにおいて、48.5重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油および51.5重量%のI群の基油を含む混合物を含む、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびI群の基油の様々な混合組み合わせ(添加剤を含まない。)が示されている。
【0007】
US2007/0142242A1は、高動粘度潤滑油および潤滑油配合物およびこれらの重量損失に対する酸化安定性/耐酸化性の改善に関する。US2007/0142242A1の表Aは、16.6重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油、40.1重量%のI群の重質基油(ブライトストック)、20.0重量%のPIBおよび23.3重量%の添加剤を含む、40℃で230mm/sの動粘度を有する(好ましくない)潤滑剤配合物を開示している。この(好ましくない)高動粘度潤滑剤配合物の100℃における動粘度に関する実際の値は与えられていないが、これは、26.1cStをかなり超えるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2008/055975号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0094453号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0258078号明細書
【特許文献4】国際公開第2009/071609号
【特許文献5】米国特許出願公開第2003/0100453号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2007/0142242号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、特にディーゼルエンジンなどの内燃エンジンにおける使用のための潤滑組成物のシール適合性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記または他の目的は、基油および1つ以上の添加剤を含む潤滑組成物であって、少なくとも:
潤滑組成物の全重量に基づいて、40.0から60.0重量%のI群の鉱物由来基油、および
潤滑組成物の全重量に基づいて、10.0から40.0重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油
を含み、
100℃(ASTM D445準拠)で26.1cSt未満の動粘度を有する、潤滑組成物を提供することによって、本発明によって達成される。
【0011】
驚いたことに、本発明によると、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびこれを含む潤滑組成物の使用が、特にVDA 675301ダイムラー仕様に準拠するAK6(150℃で7日間)およびACM E7503(150℃で7日間)で測定されるシール適合性特性の改善をもたらすことが見出された。
【0012】
この点において、WO2006/003119は、特にクランクケースギヤ油用途および油圧油におけるシール膨潤特性を改善するためのフィッシャー−トロプシュ由来基油の使用を開示していることが留意される。しかしながら、WO2006/003119は、BS903:パートA16:1987/ISO 1817−1985で測定されるNBRニトリルゴムシール膨潤試験における平均体積および硬度以外のシール適合性特性を改善するための、添加剤ならびにフィッシャー−トロプシュ由来基油および鉱物由来I群の組み合わせを含む潤滑組成物を教示していない(WO2006/003119の27ページの表2を参照)。当業者であれば、NBRニトリルゴムシール膨潤試験における平均体積および硬度の改善が、他のシール適合性特性(例えば、NBRニトリルゴム試験における抗張力および伸長破断、または上記NBRニトリルゴムシール膨潤試験において使用されたもの以外の異なる物質を使用して測定される特性)における一般的な上昇にそのままつながらないことを容易に理解する。さらに、WO2006/003119は、ディーゼルエンジン油などの内燃エンジン油よりもむしろクランクケースギヤ油用途および油圧油に焦点を合わせている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1および2ならびに比較例3に関する測定した分散性値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(基油が少なくともフィッシャー−トロプシュ由来基油およびI群の鉱物由来基油を含む場合は、)本発明による潤滑組成物で用いられる基油に関して特に限定はなく、様々な通常の鉱油、合成油および植物油などの天然に由来するエステルも、都合よく用いることができる。
【0015】
本発明で用いられる基油は、(フィッシャー−トロプシュ由来基油およびI群の鉱物由来基油に加えて)1つ以上の鉱油および/または1つ以上の合成油の混合物を含むのが好都合であり得る。従って、本発明によると、用語「基油」は、少なくとも1つのフィッシャー−トロプシュ由来基油および1つのI群の鉱物由来基油および/またはII群の基油を含む2つ以上の基油を含む混合物を指すことができる。鉱油は、水素化精製法および/または脱蝋によってさらに精製してもよい、パラフィン、ナフテンまたはパラフィン/ナフテン混合タイプの液状の石油および溶媒処理または酸処理した鉱物性潤滑油を含む。
【0016】
本発明の潤滑油組成物で使用される適切な基油は、I−III群の鉱物性基油、IV群のポリα−オレフィン(PAO)、III群のフィッシャー−トロプシュ由来基油およびこれらの混合物である。
【0017】
本発明において、「I群」、「II群」、「III群」および「IV群」の基油は、米国石油協会(API)のカテゴリーIおよびIIの定義に従う潤滑油基油を意味する。これらのAPIカテゴリーはAPI刊行物1509第15版、付録E(2002年4月)に定義されている。
【0018】
I群の鉱物由来基油は、典型的には95から105の範囲の粘度指数を有し、典型的には90.0重量%未満の飽和度(ASTM D2007準拠)および少なくとも0.03重量%の硫黄(ASTM D1552準拠)を含む。II群の鉱物由来基油は、典型的には、90.0重量%超える飽和度(ASTM D2007準拠)および多くとも0.03重量%の硫黄(ASTM D1552準拠)を含む。
【0019】
フィッシャー−トロプシュ由来基油は当技術分野で知られている。用語「フィッシャー−トロプシュ由来」は、フィッシャー−トロプシュ法の合成生成物の基油である、またはフィッシャー−トロプシュ法の合成生成物に由来する基油であることを意味する。フィッシャー−トロプシュ由来基油もGTL(ガスから液体の)基油と呼んでもよい。本発明の潤滑組成物で基油として都合よく用いることができる適切なフィッシャー−トロプシュ由来基油は、例えばEP0776959、EP0668342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP1029029、WO01/18156およびWO01/57166に開示されたようなものである。
【0020】
合成油は、オレフィンオリゴマー(ポリα−オレフィン基油を含む;PAO)、二塩基酸エステル、多価アルコールエステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキルナフタレンおよび脱蝋したワックス状異性化物などの炭化水素油を含む。「Shell XHVI」(商標)の名称でShellグループから販売されている合成炭化水素基油は、都合よく用いることができる。
【0021】
ポリα−オレフィン基油(PAO)およびこれらの製造は当技術分野で周知である。本発明の潤滑組成物で用いることができる好ましいポリα−オレフィン基油は、直鎖状のCからC32、好ましくはCからC16の、α−オレフィンに由来してもよい。前記ポリα−オレフィンのための特に好ましい供給材料は、1−オクタン、1−デセン、1−ドデセンおよび1−テトラデセンである。
【0022】
PAOの高い製造コストを考慮すると、(IV群の)PAO基油よりフィッシャー−トロプシュ由来基油を用いる方がはるかに好ましい。従って、好ましくは、5重量%以下、好ましくは2重量%以下の基油が、PAO基油である。PAO基油が存在しないことが、より一層好ましい。
【0023】
本発明の潤滑組成物に組み込まれる基油の合計量は、潤滑組成物の全重量に基づいて、60から99重量%の範囲の量で存在するのが好ましく、より好ましくは65から90重量%の範囲の量、および最も好ましくは70から85重量%の範囲の量である。
【0024】
好ましくは、鉱物由来基油として、I群の基油が使用される。存在する場合は、II群の鉱物由来基油は、潤滑組成物の全重量に基づいて、0.1から80重量%の量で、好ましくは60重量%未満の量で存在する。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によると、組成物は、組成物の全重量に基づいて、30.0から80.0重量%、好ましくは40.0から60.0重量%のI群の鉱物由来基油を含む。また、組成物は、潤滑組成物の全重量に基づいて、10.0から40.0重量%、好ましくは15.0から35.0重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油を含むことが好ましい。
【0026】
本発明による好ましい実施形態において、フィッシャー−トロプシュ由来基油は、100℃(ASTM D445準拠)で2.0と9.0cStの間、好ましくは2.5と5.5cStの間の動粘度を有する。
【0027】
好ましくは、本発明による潤滑組成物は、(2009年1月に改訂された)いわゆるSAE J300仕様、好ましくはxW−y配合物(式中、xは10または15を表し、yは30または40を表す。)を満たす。SAEは、ソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズの略である。15W−40、10W−30および10W40クランクケースエンジン油、特に15W40が特別に好ましい。
【0028】
本発明によると、組成物は、−20℃(ASTM D5293準拠)で7000cP(1cPは1mPa.sと同じである。)未満の動的粘性率を有することが好ましい。典型的には、−20℃における組成物の動的粘性率は、3000と7000cPの間である。
【0029】
100℃における本発明による組成物の動粘度は、26.1cSt未満である。組成物は、100℃(ASTM D445準拠)で少なくとも5.6cSt、好ましくは少なくとも9.3cSt、より好ましくは少なくとも12.5cStの動粘度を有することが好ましい。典型的には、100℃における組成物の動粘度は、5.6と26.1cStの間、好ましくは16.3未満である。
【0030】
さらに、組成物は、少なくとも2.9cP、好ましくは3.5cPの高温高剪断粘度(「HTHS」;ASTM D4683準拠)を有することが好ましい。典型的には、組成物のHTHSは、2.9と4.5cPの間である。
【0031】
典型的には、組成物のNoack揮発性(ASTM D5800準拠)は、1と18.0重量%の間、好ましくは15.0重量%未満、より好ましくは13.0重量%未満である。
【0032】
本発明による潤滑組成物は、抗酸化剤、耐摩耗性添加剤、分散剤、清浄剤、過塩基化清浄剤、極圧添加剤、摩擦改良剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、金属不動態化剤、防蝕剤、解乳化剤、消泡剤、シール適合性剤および添加剤希釈基油などの1つ以上の添加剤をさらに含む。
【0033】
当業者は上記および他の添加剤に精通しているため、本明細書においてはさらに詳細に論じない。このような添加剤の具体的な例は、例えば、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,third edition,volume 14, pages 477−526に述べられている。適切な添加剤のさらなる例は、例えばUS2008/0153722において開示されており、この教示は具体的な参照により本明細書に組み込まれる。
【0034】
本発明の潤滑組成物は、基油と1つ以上の添加剤との混合により都合よく調製することができる。
【0035】
前述の添加剤は、潤滑組成物の全重量に基づいて、典型的には、0.01から35.0重量%の範囲の量で、好ましくは0.05から25.0重量%、より好ましくは、潤滑組成物の全重量に基づいて、1.0から20.0重量%の範囲の量で存在する。
【0036】
特に好ましい実施形態によると、本発明による潤滑組成物は、潤滑組成物の全重量に基づいて、少なくとも1.0重量%、好ましくは少なくとも2.5重量%の清浄剤および/または分散剤を含む。
【0037】
好ましくは、組成物は、耐摩耗性添加剤、金属清浄剤、無灰分散剤および抗酸化剤を含む少なくとも9.0重量%、好ましくは少なくとも10.0重量%、より好ましくは少なくとも11.0重量%の添加剤パッケージを含む。
【0038】
本発明による潤滑組成物は、好ましくは、いわゆる「低SAPS」(SAPS=硫酸塩灰分、リンおよび硫黄)、「中SAPS」または「標準SAPS」配合物である。
【0039】
乗用車モーター油(PCMO)エンジン油に関して、上記範囲は:
それぞれ最大0.5重量%、最大0.8重量%および最大1.5重量%の硫酸塩灰分含有量(ASTM D874準拠);
それぞれ最大0.05重量%、最大0.08重量%および典型的には最大0.1重量%のリン含有量(ASTM D5185準拠);ならびに
それぞれ最大0.2重量%、最大0.3重量%および典型的には最大0.5重量%の硫黄含有量(ASTM D5185準拠)
を意味する。
【0040】
高負荷ディーゼルエンジン油に関して、上記SAPS範囲は:
それぞれ最大1重量%(低SAPS)、最大1.5重量%(中SAPS)および最大2重量%(標準SAPS)の硫酸塩灰分含有量(ASTM D874準拠);
それぞれ最大0.08重量(低SAPS)および最大0.12重量%(中および標準SAPS)のリン含有量(ASTM D5185準拠);ならびに
それぞれ最大0.3重量%(低SAPS)、最大0.4重量%(II/II群の基油における中および標準SAPS)および1.0重量%超(I群の基油における中および標準SAPS)の硫黄含有量(ASTM D5185準拠)
を意味する。
【0041】
最も好ましくは、本発明による潤滑組成物は、低SAPS負荷ディーゼルエンジン油である。
【0042】
本発明による潤滑組成物は、たとえ潤滑組成物が異なる用途に意図される場合でも、エンジン油に関する上記SAPS範囲を満たし得る。
【0043】
別の態様において、本発明は、1つ以上の以下の特性:
特にVDA 675301ダイムラー仕様に準拠する1つ以上のAK6およびACM E7503で測定されるシール適合性特性;
分散性;ならびに
ポンプ能力
を改善するための、本発明による潤滑組成物の使用を提供する。
【0044】
さらなる態様において、本発明は、1つ以上の以下の特性:
特にVDA 675301ダイムラー仕様に準拠する1つ以上のNBR34、AK6、ACM E7503およびEAM D8948−200で測定されるシール適合性特性;
分散性;ならびに
ポンプ能力
を改善するための、本発明において定義されるフィッシャー−トロプシュ由来基油の使用を提供する。
【0045】
本発明はある種の潤滑剤に限定されるものではないが、本発明は、内燃エンジン、より特には輸送用の圧縮点火エンジンおよびエネルギー生成の他の手段におけるエンジン油としての具体的な使用である。圧縮点火エンジンまたは「ディーゼルエンジン」は、欧州において乗用車に採用される主なタイプのエンジンの間で、および、これらの高効率の結果として高負荷用途でおよび定置発電で世界的に主要なものである。ディーゼルエンジンは内燃エンジンである;より具体的には、これは圧縮点火エンジンであり、この内部で燃料/空気の混合物は、ガソリンエンジンの場合と同様に、スパークプラグなどの別々の起点の発火によってよりもむしろ、圧縮による温度上昇によりこれが発火するまで圧縮されることによって発火される。
【0046】
本発明は以下の実施例に関して下記に述べられるが、本発明の範囲の限定を意図するものでは決してない。
【実施例】
【0047】
潤滑組成物
ディーゼルエンジンにおける使用のための様々なエンジン油を配合した。
【0048】
表1は、試験した十分に配合されたエンジン油配合物の組成および特性を示す;成分の量は、十分に配合された配合物の全重量に基づいて、重量%で与えられる。
【0049】
試験したエンジン油配合物はすべて、基油、添加剤パッケージおよび粘度調整剤の組み合わせを含んでおり、この添加剤パッケージは試験したすべての組成物で同じであった。
【0050】
添加剤パッケージは、抗酸化剤、亜鉛基耐摩耗性添加剤、無灰分散剤、1.0重量%超の過塩基化清浄剤混合物、約2.0重量%の流動点降下剤および約30ppmの消泡剤を含む添加剤の組み合わせを含んでいた。
【0051】
従来の粘度調整剤濃縮物は、粘度を調整するのに使用した。
【0052】
「基油1」は、100℃(ASTM D445)で約4cSt(mm−1)の動粘度を有するフィッシャー−トロプシュ由来基油(「GTL4」)であった。このGTL4基油は、例えば、WO−A−02/070631(この教示は、参照により本明細書に組み込まれる。)に記載されている方法によって、都合よく製造することができる。
【0053】
「基油2」、「基油3」および「基油4」は、100℃(ASTM D445)で約5cSt(mm−1)、8cStおよび11cStの動粘度をそれぞれ有するI群の鉱物由来基油(例えば、「HVI 60」、「HVI 105」および「HVI 160S」の取引名称でシェルベースオイルズ(Shell Base Oils)から市販されている。)であった。
【0054】
「基油5」および「基油6」は、100℃(ASTM D445)で約6cSt(mm−1)および12cStの動粘度をそれぞれ有するII群の鉱物由来基油(例えば、「Star 6」および「Star 12」の取引名称でモティバ社(Motiva LLC)(ポートアーサー、テキサス州、米国)から市販されている。)であった。
【0055】
実施例1から4ならびに比較例1および2の組成物は、従来の潤滑剤混合手順を使用して、基油を添加剤パッケージおよび粘度調整剤と混合することによって得た。実施例1から4ならびに比較例1および2の組成物は、SAE J300準拠で15W−40配合の要件を満たす。
【0056】
【表1】

【0057】
シール適合性試験
本発明のシール適合性特性を実証するために、VDA 675301ダイムラー仕様に準拠する以下の標準試験:
NBR34(ニトリル)試験(100℃で7日間)、
AK6(150℃で7日間)、
ACM E7503(150℃で7日間)、および
EAM D8948−200(150℃で7日間)
に従って、幾つかの測定を実施した。
【0058】
測定したシール特性を以下の表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
分散性試験
本発明による潤滑組成物のすす分散性特性を実証するために、TAインストゥルメンツ(TA Instruments)(ニューカッスル、デラウェア州、米国)から入手可能なAR500レオメータを使用して、以下のように測定を実施した:
カーボンブラック(カボット(Cabot)(ルーバン、ベルギー)から入手可能なVulcan XC72R)をオーブン中で140℃で少なくとも12時間予熱した。1.25gのカーボンブラックおよび25gの油試料を150mlの瓶(カーボンブラックの4.76重量%に対応する。)中で測定した。次いで、撹拌棒を瓶中に追加し、瓶を蓋で閉じた。瓶を加熱した撹拌ブロック(100℃)上に置き、一晩平衡化した。
【0061】
一晩撹拌した後、油試料およびカーボンブラックを含む混合物をレオメータのカップに注入し、100℃に加熱した。混合物が100℃の温度に達すると、一定速度で混合物を剪断し、粘度を測定した。
【0062】
実施例1および2ならびに比較例3に関する測定した分散性値を以下の表3に示し、添付の図1にも表す。
【0063】
【表3】

【0064】
低温ポンプ能力試験
本発明による潤滑組成物の低温ポンプ能力特性を実証するために、(−15℃の代わりに)−20℃で試験を実施した点を除き、SAEペーパー2000−01−1989に記載されているように測定を実施した。実施例1および比較例3に関する測定したポンプ能力値(油だめからエンジン中の各部分までの−20℃のカミンズM−11におけるフロー時間[秒単位])を以下の表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
考察
表2からわかるように、実施例1および2ならびに比較例1および2(すべてが、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびI群またはII群の鉱物由来基油の組み合わせを含む。)に関するシール適合性特性は、比較例3および4(I群またはII群の鉱物由来基油のみを含む。)と比較した場合に、顕著に改善した。
【0067】
特に、比較例3(I群の鉱物由来基油を含む。)がAK6試験の抗張力パートに合格しなかった(−52.3%;−50%分間の限界を超える。)のに対して、実施例1および2(フィッシャー−トロプシュ由来基油およびI群の鉱物性基油の組み合わせを含む。)は合格したことに留意すべきである。抗張力は、潤滑剤に接触させると試験片の機械的特性が変化するという程度の好印象を与える;大きな%は、より良い結果を意味する。
【0068】
また、実施例1および2は、比較例3を、体積変化(2.0および2.5対3.4)および抗張力(2.8および0.4対−3.6)に関するNBR34試験において;体積変化(1.5および2.5対3.4)および抗張力(3.5および2.8対−1.4)に関するACM E7503試験において;ならびに硬度(2および0対−3)および体積変化(2.9および6.1対10.3)に関するEAM D8948−200試験において、顕著に上回った。シール膨潤または収縮は、密封性に影響し得る;浸潤剤に接触させた場合の体積の最小変化は、これが設計された適合をシールが与えることを保証することが望まれる。
【0069】
さらに、比較例1および2(フィッシャー−トロプシュ由来基油およびI群の鉱物性基油の組み合わせを含む。)は、比較例4(II群の鉱物由来基油を含む。)を、体積変化(1.7および1.8対2.4)に関するACM E7503試験において、ならびに、硬度(5および4対2)および体積変化(0.8および1.8対4.8)に関するEAM D8948−200試験において、顕著に上回った。
【0070】
ACM E7503試験において測定した抗張力値から、本発明の利点は、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびII群の鉱物性基油の組み合わせ(比較例1および2)においてよりも、フィッシャー−トロプシュ由来基油およびI群の鉱物性基油の組み合わせを含む組成物(実施例1および2)においてより顕著であることが確立できる。従って、本発明は、フィッシャー−トロプシュ由来基油と組み合わせた場合に、II群の鉱物性基油よりもI群の鉱物性基油を使用することの驚くべき選好性を見出した。
【0071】
表3および図1からわかるように、本発明による潤滑組成物は、良い分散性特性も示した。表3および図1は、実施例1および2は比較例3よりも良く成果を出すが、分散性特性の点では実施例1に選好性があることを示している。さらに、表4からわかるように、本発明による潤滑組成物は、(高い減少率から明らかなように)低Tポンプ能力特性の改善をさらに示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油および1つ以上の添加剤を含む潤滑組成物であって、少なくとも:
潤滑組成物の全重量に基づいて、40.0から60.0重量%のI群の鉱物由来基油、および
潤滑組成物の全重量に基づいて、10.0から40.0重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油
を含み、
100℃(ASTM D445準拠)で26.1cSt未満の動粘度を有する、潤滑組成物。
【請求項2】
潤滑組成物の全重量に基づいて、15.0から35.0重量%のフィッシャー−トロプシュ由来基油を含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
−20℃(ASTM D5293準拠)で7000cP未満の動的粘性率を有する、請求項1または2のいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項4】
100℃(ASTM D445準拠)で少なくとも5.6cSt、好ましくは少なくとも12.5cSt、および好ましくは16.3cSt未満の動粘度を有する、請求項1から3のいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項5】
少なくとも2.9cP、好ましくは少なくとも3.5cPの高温高剪断粘度(「HTHS」;ASTM D4683準拠)を有する、請求項1から4のいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項6】
潤滑組成物の全重量に基づいて、少なくとも1.0重量%、好ましくは少なくとも2.5重量%の清浄剤および/または分散剤を含む、請求項1から5のいずれかに記載の潤滑組成物。
【請求項7】
1つ以上の以下の特性:
特にVDA 675301ダイムラー仕様に準拠する1つ以上のAK6およびACM E7503で測定されるシール適合性特性;
分散性;ならびに
ポンプ能力
を改善するための、請求項1から6のいずれかに記載の潤滑組成物の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−514416(P2013−514416A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543769(P2012−543769)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069974
【国際公開番号】WO2011/073349
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】