説明

潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤

【構成】トレハロースを有効成分とする潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤。
【効果】トレハロースを投与することにより、大腸粘膜のびらん形成を抑制することから、潰瘍性大腸炎の予防又は治療に優れた効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、トレハロースを有効成分とする副作用の少ない優れた潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜の粘膜層あるいは粘膜下層にびらんや潰瘍を形成する非特異性炎症性腸疾患であり、その臨床症状として下痢、血便、腹痛及び体重減少などの特徴的所見が挙げられる。わが国においては従来比較的まれな疾患であったが、近年食生活の欧米化等に伴い患者数は年々急増している。その原因として、腸内細菌感染説、食餌アレルギー説、血管障害説、自律神経障害説及び免疫異常説など種々の要因が考えられているが、詳細は未だ不明であり、根本的治療法が確立されていないのが現状である。現在のところ薬物療法としては、ステロイドホルモン、サラゾスルファピリジン、免疫抑制剤などの単独投与あるいは併用投与が行われている。しかしながら、治療効果が不十分であるばかりか副作用発現も少なくなく、より予防又は治療効果の優れた薬剤が望まれている。一方、トレハロースは、臓器保存液、製剤添加剤、化粧品など広範にわたって利用されているが、潰瘍性大腸炎に対して予防又は治療効果があることは全く知られていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は副作用が少なく、且つ治療効果に優れた潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】そこで本発明者らは、かかる問題を解決するために鋭意研究した結果、トレハロースが潰瘍性大腸炎の予防又は治療に極めて有効であるということを見出し、本発明を完成した。
【0005】すなわち、本発明は、トレハロースを有効成分とする潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤に関する。
【0006】更に、本発明の潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤は、緩解期の再燃、再発予防としても用いることができる。
【0007】本発明に用いられるトレハロースは、酵母、かび、海産動物、海草等の天然物中に広く分布する非還元性の二糖類で、上記天然物からエタノールで熱抽出して得る方法や微生物の発酵による方法が知られている。また、化学構造的には、D−グルコースの還元性基どうしが結合したもので、その結合様式からα,α−トレハロース、α,β−トレハロース又はβ,β−トレハロースの3種の異性体が存在するが、いずれも本発明に使用することができる。これらのうち天然に存在するα,α−トレハロースを使用するのが好ましい。
【0008】上記本発明のトレハロースを有効成分とする潰瘍性大腸炎の予防及び治療剤は、これのみを含む製剤として単独で投与してもよいが、医薬的に許容される医薬補助剤と組み合わせた経口医薬組成物又は高カロリー輸液剤と併用して用いるか、若しくは輸液製剤に添加して非経口組成物として使用することができる。
【0009】上記医薬組成物の投与剤型としては、各種の形態が治療目的にに応じて選択でき、その代表的なものとして錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤等の経口剤、座剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の非経口剤が挙げられる。このような製剤は、薬理学的、製剤学的に許容される添加物を必要により添加し、公知の方法により製造することかできる。経口剤の製造に際しては、例えば通常用いられる乳糖、白糖、澱粉、結晶セルロース、コーンスターチ等の賦形剤、カルボキシメチルセルロース、寒天、ゼラチン末等の崩壊剤、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の結合剤、シリカ、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖等のコーティング剤等を使用すればよい。また、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等の経口液剤、注射剤の製造に際しては、注射用蒸留水、生理食塩水等に溶解ないし、懸濁し、例えば無機又は有機の酸あるいは塩基等のpH調整剤、等張化剤、安定化剤、希釈剤等を必要により添加すればよい。さらに、本発明の潰瘍性大腸炎の予防及び治療剤には、各種のアミノ酸、糖、電解質等を添加してもよい。
【0010】本発明における潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤は必要に応じ、トレハロースに加えて、他の薬効成分を添加することができる。
【0011】固形製剤として投与する場合にはトレハロース濃度が0.5〜100w/w%、輸液製剤として投与する場合には0.5〜20w/v%の範囲で適宜選択できる。
【0012】本発明の潰瘍性大腸炎の予防及び治療剤の投与量は、投与の方法、患者の年齢、体重、症状等により異なるが通常成人に対して経口投与の場合、1日当たり10〜1000mg/kg、好ましくは50〜300mg/kgの範囲で適宜調節して投与することができる。
【0013】
【実施例】次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0014】〔実施例1〕7週齡のSD系雄性ラットを用い、正常ラットを5匹無作為に抽出した後、大腸炎作製のために残りの動物を各群間の平均体重に差が生じないように1群7〜10匹に群分けした。その後、3%デキストラン硫酸ナトリウム(以下、DDSと略す)水溶液を吸水瓶に入れてラットに連日自由飲水させ、正常群ではDDS水溶液の代わりに精製水を同様に自由飲水させた。トレハロースの150mg/kgは、3%DDS飲水開始日より1日2回、10日間経口投与した。また正常群及び対照群には0.5%カルボキシメチルセルロース水溶液を同様に経口投与した。被験物質最終投与の翌日に動物を解剖し、大腸の長さ(結腸及び小腸)及び大腸粘膜のびらん面積測定並びに血液学的検査(白血球、赤血球、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値)を実施した。なお、大腸粘膜のびらん面積は我々の確立した方法(日薬理誌、102,343〜350(1993))に従って測定した。
【0015】
【表1】


【0016】表1に大腸の長さ及び大腸粘膜のびらん面積測定の結果を示した。大腸粘膜のびらん形成は、トレハロースの経口投与により著明に抑制された。さらに、大腸炎の発症に伴って有意に短縮した大腸の長さ(大腸壁肥厚の指標となる)も明らかに改善された。
【0017】
【表2】


【0018】表2に血液学的検査の結果を示した。トレハロースは、大腸炎発症の指標となる白血球数の増加を有意に改善した。また潰瘍性大腸炎の特徴的な症状として貧血が挙げられるが、その指標となるヘモグロビン濃度及びヘマトクリット値の低下に対しても有意な改善を示した。
【0019】以下に製剤例を示す。
〔製剤例1〕錠剤常法により、以下の組成を有する錠剤を製造する。
1錠(200mg)中の組成トレハロース 100mgコーンスターチ 45mg乳糖 50mgヒドロキシプロピルセルロース 4mgステアリン酸マグネシウム 1mg
【0020】〔製剤例2〕カプセル剤常法により、以下の組成を有するカプセル剤を製造する。
1カプセル(1錠200mg)
トレハロース 100mg乳糖 25mgコーンスターチ 65mgヒドロキシプロピルセルロース 10mg
【0021】〔製剤例3〕注射剤常法により、以下の組成を有する注射剤を製造する。
1アンプル(1本20ml)
トレハロース 8g塩化ナトリウム 0.2g蒸留水 適量
【0022】
【発明の効果】本発明の潰瘍性大腸炎予防治療剤は、大腸粘膜のびらん形成を抑制することから、優れた効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 トレハロースを有効成分とする潰瘍性大腸炎の予防又は治療剤。