説明

澱粉を塗布した印刷用紙

【課題】本発明の課題は、印刷特性に優れた印刷用紙を提供することであり、特にベッセルピック等の発生が少ない良好な表面強度を持ち、ネッパリトラブルの低減された印刷用紙を提供することである。
【解決手段】本発明により、炭酸カルシウムを含有する原紙にアミロペクチンの比率が95重量%以上のポテト澱粉を0.1〜3.0g/m塗布した印刷用紙が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用紙に関する。本発明は特に、表面強度が高く、オフセット印刷時のベッセルピックが改善され、かつ印刷時にブランケットに紙が取られるネッパリトラブルが改善されたオフセット印刷用紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷用紙は従来の凸版印刷方式からオフセット印刷方式への転換が急速に進んでおり、現在では印刷印刷の8割以上がオフセット印刷方式によるといわれている。オフセット印刷は通常PS版と呼ばれる刷版を作成し、刷版に湿し水とインキを供給して印刷する方式である。刷版は平版であり、刷版上で画線部は親油性の表面となるように処理され、他方非画線部は親水性の表面になるように処理されている。この刷版に湿し水とインキを供給すると、画線部にはインキが、非画線部には水が付着した状態となり、この刷版より、ブランケットを介して紙にインキが転写されて印刷が行われる。
【0003】
一般にオフセット印刷では、比較的タックの強いインキが使用されるので、ベッセルピック等が発生し難い表面強度の強い印刷用紙が要求される。また、印刷時に用紙表面に湿し水が付加されるので、表面強度の弱い用紙、あるいは表面の耐水性が弱い用紙を使用すると紙粉がブランケットに堆積したり、インキに混入することにより、印刷面にいわゆるカスレが生じるといったトラブルが起こる。
【0004】
また、印刷用紙の軽量化に伴い、印刷不透明度の改善要望が強まっており、紙の不透明度を高めるためホワイトカーボンや酸化チタン、タルク等の無機顔料が抄紙時の填料として多く使われるようになった。ところで、これらの無機顔料は、オフセット印刷時の湿し水によって容易に紙層内から浸み出し易く、ベッセルピックの基因となる紙粉成分の一つである。近年、環境意識の高まりを受けて脱墨パルプの配合量が増加しているが、脱墨パルプの配合量の増加は紙中灰分の増加を伴うため、ベッセルピックが悪化する傾向にある。
【0005】
このようなオフセット印刷時のトラブルに対処するため、従来より印刷用紙の表面に澱粉、ポリビニルアルコール、あるいはポリアクリルアミド等の水溶性高分子材料を含有する表面処理剤を塗布することが一般に行われている。このような接着剤を主体とする表面処理剤は、紙面の強度を向上させ、紙表面の微細繊維や填料を用紙に強く接着させることができるものの、塗布量が多くなると、湿潤状態で紙表面の表面粘着性が増加して印刷時にブランケットに貼り付いたり、あるいは断紙を誘発するといったトラブル(いわゆるネッパリトラブル)が発生する。さらには、表面処理剤を多く使用することでインキの紙表面への浸透が抑制され、結果として、カラー印刷に際して塗工ムラに起因するインキ吸収ムラ(印刷面の色ムラ)が発生し易いといった難点を有している。
【0006】
従来より、表面粘着性を抑制しつつ表面強度を高めるための種々の方法が提案されてきた。例えば、特許文献1(特開平8−13384号公報)には、特定のポリアクリルアミド系化合物を表面に塗布することにより用紙表面の強度を高め、さらに多価アルデヒド類を併用することで表面耐水性を高める方法が記載されている。また、特許文献2(特開平5−59689号公報)には、ポリビニルアルコールにエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合体を加えた水性組成物を塗布することにより、表面サイズ性、表面強度、及び表面粘着性を改良する方法が提案されている。しかしながら、いずれの場合においても、表面粘着性の緩和と表面強度を両立させることは必ずしも十分なものではなく、また、カラー印刷面におけるインキ吸収ムラについても依然として改良されていないのが実状である。
【0007】
また、ロジンエマルジョンサイズ剤等の内添サイズ剤を使用して紙のサイズ度を高め、オフセット印刷時の湿し水の紙層内部への浸透を抑えることにより紙粉の発生を抑制することが従来行われてきた。しかしながら、上記の如き内添サイズ剤は高速抄紙機では、白水系で泡立ちによるトラブルを誘発し易い。なお、印刷用紙はサイズ効果が発現されにくい機械パルプを原料として多用しているために内添サイズ剤と共に歩留り向上剤が併用される場合には抄紙系内のピッチ等も紙中に取り込み、新聞用紙の白色度を低下させるといった難点を抱えている。
【特許文献1】特開平8−13384号公報
【特許文献2】特開平5−59689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、印刷特性に優れた印刷用紙を提供することであり、特にベッセルピック等の発生が少ない良好な表面強度を持ち、ネッパリトラブルの低減された印刷用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、原紙上に、特定のポテト澱粉を含有する表面処理剤を炭酸カルシウムを含む原紙にクリア塗工することによって、印刷適性に優れた印刷用紙が効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、湿し水を用いるオフセット印刷用の印刷用紙に特に好適に適用でき、また、顔料塗工層を有しない非塗工印刷用紙に特に有効である。
【0010】
すなわち、本発明は、少なくとも以下の発明を包含する。
(1) 炭酸カルシウムを含有する原紙にアミロペクチンの比率が95重量%以上のポテト澱粉を0.1〜3.0g/m塗布した印刷用紙。
(2) 前記ポテト澱粉が、酵素処理により低分子量化した変性ポテト澱粉である、(1)に記載の印刷用紙。
(3) ネッパリ強度が300mN/3cm以下である、(1)または(2)に記載の印刷用紙。
(4) オフセット印刷用である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の印刷用紙。
(5) 前記炭酸カルシウムが、原紙の10重量%以上を構成する、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の印刷用紙。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、印刷適性に優れた印刷用紙が提供される。特に本発明によって、印刷時にベッセルピック等の発生が少ない良好な表面強度を持ち、ネッパリトラブルの低減された印刷用紙を提供される。本発明の印刷用紙は、オフセット印刷用として特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
前述したように、印刷用紙には、一般に、澱粉、ポリビニルアルコール、あるいはポリアクリルアミド等の接着剤を主成分とする表面処理剤が塗布されている。しかしながら、上記の表面処理剤はいずれも、紙粉の発生量を低下させるために塗布量を増加させると、カラー印刷におけるインキ吸収ムラやウェット状態での表面粘着性に基づく印刷時のブランケットへの貼り付きといった問題が生じる。すなわち、表面処理剤の塗布量を増加させることにより、紙粉の発生量を低減できるものの表面粘着性が悪化するため、ベッセルピックなどの紙粉の発生とネッパリトラブルにつながる表面粘着性とを同時に改善することは困難であった。
【0013】
このような状況の中、本発明者らは、特に優れた印刷作業性を有する印刷用紙を得るべく鋭意検討し、炭酸カルシウムを含有する原紙上に、特定のポテト澱粉を含有する表面処理剤を塗布することにより、表面粘着性が低く、表面強度が高い印刷用紙を効率よく製造できることを見出した。
【0014】
すなわち、1つの態様において、本発明は、炭酸カルシウムを含有する原紙にアミロペクチンの比率が95重量%以上のポテト澱粉を0.1〜3.0g/m塗布した印刷用紙である。
【0015】
炭酸カルシウム
したがって、本発明の印刷用紙は、填料として炭酸カルシウムを含むことが必須であるが、炭酸カルシウムは、重質炭酸カルシウムであっても軽質炭酸カルシウムであってもよい。本発明の印刷用紙中の炭酸カルシウムの配合量は、特に制限されないが、絶乾パルプに対して3〜30重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましく、10〜20重量%がさらに好ましい。炭酸カルシウムを含む原紙に後述のポテト澱粉を塗布すると優れた印刷用紙が得られる理由の詳細は明らかでなく、本発明は以下の推論に拘束されるものではないが、ポテト澱粉中のアニオン性の燐酸基が原紙中の炭酸カルシウムのカチオンのカルシウムのサイトと静電的な相互作用で結合し、表面強度を向上させると考えており、炭酸カルシウムを含まない原紙(例えば、填料がクレー単独の原紙等)では、ポテト澱粉の燐酸基と相互作用のあるサイトが原紙中にないために、表面強度の発現効果が十分でないと考えられる。
【0016】
本発明の印刷用紙は、原紙中に少なくとも炭酸カルシウムが含まれていればよく、必要に応じて、一般に公知の製紙用填料を適宜添加することができる。炭酸カルシウムと併用する填料としては、無機填料、有機填料、有機無機複合填料などを単用または併用することができる。、などを添加できる。無機填料としては、例えば、ホワイトカーボン、クレー、シリカ、タルク、酸化チタン、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、ケイ酸ナトリウムの鉱酸による中和で製造される非晶質シリカ等が挙げられる。また、有機填料としては、例えば、合成樹脂填料(塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン/ブタジエン系共重合体系樹脂、フェノール樹脂など)、微小中空粒子、アクリルアミド複合体、木材由来の物質(微細セルロース、ミクロフィブリル繊維、紛体ケナフ)、変成不溶化澱粉、未糊化澱粉などの有機填料が挙げられる。なお、炭酸カルシウム−シリカ複合物としては、特開2003−212539号公報や特開2005−219945号に記載の複合物を例示できる。
【0017】
本発明の印刷用紙に含まれる填料全体の配合率は、特に制限されないが、紙中填料率が高いほど層間強度や歩留りが低下するため、填料全体の紙中灰分(紙中填料率)は、40%以下が好ましい。
【0018】
ポテト澱粉
本発明の印刷用紙は、炭酸カルシウムを含む原紙に特定のポテト澱粉を塗布して得られる。具体的には、本発明においては、アミロペクチンの比率が95重量%以上のポテト澱粉を使用する。本発明において、ポテト澱粉とは、ポテト(じゃがいも)由来の澱粉を意味し、変性等がなされていてもよい。ポテト澱粉を塗布することによって優れた印刷用紙が得られる理由について、その詳細は明らかでないが、トウモロコシなどの地上系の穀物由来の澱粉にはアニオン性の燐酸基が殆ど存在しないのに対し、地下系澱粉であるポテト澱粉には燐酸基がある程度(例えば、500〜1000ppm)存在することが関係していると考えられる。すなわち、ポテト澱粉の燐酸基が、原紙中の炭酸カルシウム表面のカチオン性のカルシウムのサイトと静電的に相互作用するために、印刷用紙の表面強度が高くなると考えられる。
【0019】
本発明においては、上述したように、アミロペクチンの比率が95重量%以上のポテト澱粉を使用する。アミロペクチンの比率は、97重量%であることが好ましく、99重量%であることがより好ましい。一般に、通常のポテト澱粉は約20%のアミロースと約80%のアミロペクチンを含んでいるのに対し、本発明のポテト澱粉は、アミロペクチンの比率が95重量%以上である。ここで、アミロースは、グルコースがα1−4結合により直鎖状に結合したグルカンで、平均重合度が1000〜5000と比較的分子量が小さい、一方アミロペクチンは、α1−4結合とα1−6結合を持つ分岐状のグルカンで、平均重合度が1,000,000以上になることもある、非常に大きい分子である。本発明においては、アミロペクチン比率の高いポテト澱粉を塗布することによって表面粘着性(ネッパリ)が低く表面強度が高い印刷用紙が得られる。本発明において澱粉中のアミロペクチン含量は、13C-NMR定量モードでのα1-6結合の6位のCとα1-4結合の6位あるいは1位のCの比率や、ヨウ素の呈色反応による方法や、ブタノールによるアミロースの沈殿量等から測定することができる。
【0020】
アミロペクチン比率の高いポテト澱粉によって表面強度が向上する理由は定かではないが、分子量の大きいアミロペクチンの方が、分子量の小さいアミロースよりも、原紙のセルロース繊維の水酸基と水素結合するサイトが多いために表面強度が高くなると考えられる。また、アミロースはその直鎖構造から、分子間水素結合により再結晶化しやすく、また、アミロースの水酸基は、アミロース分子どうしの水素結合に消費され、原紙のセルロース繊維の水酸基と形成する水素結合が少ないため表面強度の発現にあまり寄与しないと推測される。
【0021】
また、アミロペクチン比率の高いポテト澱粉を塗布しても印刷用紙の表面粘着性(ネッパリ強度)が低くなる理由も明確ではないが、再結晶化してゲル化しやすいアミロースが少ないため、本発明のポテト澱粉は耐老化安定性に優れ、オフセット印刷時の湿し水への溶出物の粘度が比較的低いために、ネッパリ強度が低くなると考えられる。
【0022】
本発明で使用するアミロペクチンの比率が95重量%以上のポテト澱粉としては、一般に市販されている澱粉を用いることができる。例えば、遺伝子工学的に修飾されたポテトに由来するアミロペクチン型ポテト澱粉を用いることができる。具体的には、ポテトの顆粒結合澱粉シンターゼ(GBSS:Granule-bound starch synthase)酵素の生産を止めたり制限して、アミロース型の澱粉の形成を抑制するように修飾されたポテト由来の澱粉(特表平10−509220号公報を参照)、GBSS遺伝子の劣勢突然変異により実質的にアミロペクチンのみを含んでなるポテト澱粉(例えば、AVEVE社のElianeなど)を用いることができる。また、本発明においては、アミロースとアミロペクチンを両方含む通常のポテト澱粉を原料として、アミロペクチンの比率が高くなるように分離精製処理したポテト澱粉を用いることもできる。さらに、アミロースがほとんど含まれないモチ種(ワキシー種、ろう種)のポテトから得られる澱粉を使用することもできる。
【0023】
さらに、本発明においては、上記ポテト澱粉を酸化処理や酵素処理した変性澱粉を用いると、印刷用紙の表面粘着性がより低くなり、好適である。一般に、澱粉の老化安定性を向上させ、塗工時の操業安定性を得るために、酸化処理や酵素処理により澱粉を低分子量化することが行われる。酸化処理の場合、澱粉分子が酸化される時にアニオン性のカルボキシル基が導入され、澱粉分子の再結晶が抑制され、耐老化安定性が向上する。一方、酵素処理の場合、酸化処理澱粉と異なり、特別な官能基が澱粉に導入される訳ではないので、耐老化安定性がそれほど向上しないのが現状である。しかしながら、本発明のポテト澱粉は、アミロペクチンを95重量%以上含み、耐老化安定性の悪いアミロースが少ないこと、さらに、アニオン性の燐酸基が存在することから、酵素処理によって耐老化安定性を向上させることができる。したがって、本発明においては、上記ポテト澱粉を酵素処理した変性澱粉を用いると、表面粘着性が低く表面強度が高い印刷用紙を高い操業性で製造することができ、特に好適である。
【0024】
酵素変性の方法は特に制限されないが、例えば、生澱粉(未変性澱粉)に水を加えてスラリーとした後、酵素を添加して処理することができる。具体的には、トウモロコシ由来などの生澱粉に水を加えて約15〜35%スラリーを準備した後に、水酸化ナトリウムを対澱粉30〜100ppm添加し、対澱粉50〜500ppmのアミラーゼを添加し、ジェットクッカー等で90〜150℃、10〜30分間の処理を行うことにより酵素変性澱粉を得ることができる。
【0025】
塗工
本発明で使用するポテト澱粉の塗布量は、片面あたり0.1g/m〜3.0g/mであり、望ましくは0.3〜1.5g/mである。塗布量が3.0g/mを超えると表面強度の発現がレベルオフし、既存の澱粉と表面強度の面で大きな差が見られなくなる。一方、塗工量が0.1g/m以下の場合には、十分な表面強度を得ることができない。本発明においては、本発明のポテト澱粉を上記量塗布していれば、さらに、別の澱粉や合成系表面紙力剤を併用して塗布することも可能である。好ましい態様に、本発明の澱粉の塗布はクリア塗工である。
【0026】
本発明で使用される表面処理剤中には、澱粉以外の成分として、サイズ剤、水溶性高分子、ネッパリ防止剤、防腐剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、蛍光増白剤、粘度安定化剤、滑剤、防滑剤、保湿剤、消泡剤等が含有されていても良い。
【0027】
本発明で用いるサイズ剤は、特に制限されないが、好ましい態様において、少なくともスチレン系サイズ剤とオレフィン系サイズ剤の2者を併用することができる。スチレン系サイズ剤としては、スチレン/アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸共重合体(なお、(メタ)アクリル酸は、「アクリル酸、及び/またはメタクリル酸」を意味する)、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/マレイン酸半エステル共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体等が例示される。オレフィン系サイズ剤としては、エチレン/アクリル酸共重合体、イソブチレン/アクリル酸共重合体、n−ブチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、プロピレン/マレイン酸共重合体、エチレン/マレイン酸共重合体などが例示される。この他、サイズ剤としては、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、ロジン等を使用することができる。
【0028】
本発明のポテト澱粉を印刷用紙の原紙へ塗布するための塗工装置としては、特に限定されるものではなく、例えば、サイズプレス、2ロールサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、エアーナイフコーター等、一般に公知公用の装置が適宜使用される。本発明においては、特に高速抄紙に適し、生産効率が高いことから、フィルムメタリングタイプの塗工装置が好ましく、フィルムメタリングタイプのサイズプレス装置、特に、ロッドメタリングサイズプレスが好ましい。
【0029】
本発明においては、上記澱粉を塗布した後、ドライヤーにより乾燥することができるが、一般に使用されるドライヤーを用いることができる。乾燥条件も特に限定はなく、通常の操業範囲で適宜設定できる。さらに、本発明においては、澱粉塗布後にカレンダー掛けによる表面処理を施すことができ、その場合は両面金属ロールによるマシンカレンダー仕上げや、金属ロールと弾性ロールとの構成になるソフトカレンダー仕上げが施される。
【0030】
印刷用紙
本発明で用いられる印刷用紙は、特に制限されず、例えば、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、セミケミカルパルプなどのメカニカルパルプ(MP)、クラフトパルプ(KP)に代表されるケミカルパルプ(CP)、これらのパルプを含む古紙を脱墨して得られる脱墨パルプ(DIP)、及び抄紙工程からの損紙を離解して得られる回収パルプなどを、単独、あるいは任意の比率で混合し、一般に公知公用の抄紙機によって抄紙することができる。パルプの原料となる樹種も特に制限されず、広葉樹あるいは針葉樹由来のパルプを使用することができる。脱墨パルプについても特に制限はなく、例えば、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙を原料とする脱墨パルプを用いることができる。さらに、上で例示したパルプ以外にも、当然ながら、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)、アルカリ過酸化水素メカニカルパルプ(APMP)、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)などを必要に応じて用いることができる。
【0031】
本発明で使用する印刷用紙は、必要に応じて、一般に公知公用の抄紙用薬品を適宜添加することができる。抄紙用薬品としては、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂などの紙力増強剤;アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物などのろ水性/歩留まり向上剤、ロジンサイズ剤、エマルジョンサイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、紫外線防止剤、退色防止剤、消泡剤、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、染料、凝結剤などの助剤などを含有してもよい。この印刷用紙の物性は、特にオフセット印刷機で印刷可能である必要があり、通常の印刷用紙程度の引張り強度、引裂き強度、伸びなどの物性を有するものであればよい。その他にも、内添薬品として、などの薬品を必要に応じて使用しても良い。
【0032】
本発明の印刷用紙は、印刷用であれば特に限定されず、各種印刷用途に使用することができるが、本発明の印刷用紙はネッパリ性が低いため、湿し水を用いるオフセット印刷用の印刷用紙として特に好適である。また、本発明のオフセット印刷用紙はネッパリ強度が300mN/3cm(約30gf/3cm)以下であることが望ましい。この値以下であれば、表面粘着性に起因するトラブルは発生しにくい。また、本発明の印刷用紙の坪量としては、特に限定されるものではないが、30〜300g/m程度である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、当然のことながら、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部及び重量%を示し、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0034】
印刷用紙の製造
<原紙の抄造>
原紙A(炭酸カルシウム含有)
広葉樹クラフトパルプ100部をリファイナーで離解してフリーネス440ml(カナダ標準フリーネス)に調整したパルプスラリー(紙料)に、填料として紡錘凝集型軽質炭酸カルシウム(粒子径1.72μm、比表面積11m/g、吸油量121ml/100g)を絶乾パルプ当たり13%添加し、オントップ型抄紙機により650m/分の抄速で原紙を抄造した。この上質原紙は、坪量69g/m、密度0.74g/cm、灰分11%であった。
【0035】
原紙B(炭酸カルシウム非含有)
広葉樹クラフトパルプ100部をリファイナーで離解してフリーネス440ml(カナダ標準フリーネス)に調整したパルプスラリー(紙料)に、填料としてクレー(ビンタンカオリン)を絶乾パルプ当たり13%添加し、オントップ型抄紙機により650m/分の抄速で原紙を抄造した。この上質原紙は、69g/m、密度0.76g/cm、灰分11%であった。
【0036】
<澱粉>
上記原紙に塗布する澱粉として、以下の澱粉を使用した。
・澱粉A:アミロペクチンが99%以上である変異体ポテト由来の澱粉(商品名Eliane、Aveve社製)
・澱粉B:アミロペクチンが99%以上である遺伝子組換えポテト由来の澱粉(商品名Amflora、BASF社製)
・澱粉C:澱粉Aを酵素処理した変性澱粉(澱粉Aに水を加えて約20%スラリーを準備した後に、水酸化ナトリウムを対澱粉66ppm添加し、対澱粉200ppmのスピターゼを添加し、オートクレーブで94℃、15分の熟成処理した後に、122℃で15分の滅菌処理することにより得た)
・澱粉D:澱粉Bの酵素処理した変性澱粉(澱粉Bに水を加えて約20%スラリーを準備した後に、水酸化ナトリウムを対澱粉66ppm添加し、対澱粉200ppmのスピターゼを添加し、オートクレーブで94℃、15分の熟成処理した後に、122℃で15分の滅菌処理することにより得た)
・澱粉E:ポテト澱粉(和光純薬製試薬、アミロペクチン比率は80重量%以下)
・澱粉F:澱粉Eを酵素処理した変性澱粉(生澱粉Eに水を加えて約20%スラリーを準備した後に、水酸化ナトリウムを対澱粉66ppm添加し、対澱粉200ppmのスピターゼを添加し、オートクレーブで94℃、15分の熟成処理した後に、122℃で15分の滅菌処理することにより得た)
・澱粉G:アミロペクチンが99.5%であるカチオン化ワキシートウモロコシ由来澱粉(Cato240、National Starch and Chemical社製)
[実施例1]
表面処理剤として、澱粉Aを1%の塗料濃度で、パイロットのポンド式塗工機で2m/分の速度で原紙Aに塗布し、4段のドラムドライヤーで乾燥し、澱粉A両面塗工量0.33g/m2の印刷用紙を得た。
【0037】
[実施例2]
塗料濃度が2%で、澱粉A両面塗工量0.59g/m2あること以外は実施例1と同様の条件で行った。
【0038】
[実施例3]
塗料濃度が3%で、澱粉A両面塗工量1.39g/m2あること以外は実施例1と同様の条件で行った。
【0039】
[実施例4]
澱粉Aの代わりに澱粉Bを使用し、澱粉B両面塗工量0.30g/m2であること以外は実施例1と同様の条件で行った。
【0040】
[実施例5]
澱粉Aの代わりに澱粉Bを使用し、澱粉B両面塗工量0.59g/m2であること以外は実施例2と同様の条件で行った。
【0041】
[実施例6]
澱粉Aの代わりに澱粉Bを使用し、澱粉B両面塗工量1.28g/m2であること以外は実施例3と同様の条件で行った。
【0042】
[実施例7]
澱粉Aの代わりに澱粉Cを使用し、澱粉C両面塗工量0.58g/m2であること以外は実施例2と同様の条件で行った。
【0043】
[実施例8]
澱粉Aの代わりに澱粉Dを使用し、澱粉D両面塗工量0.58g/m2であるたこと以外は実施例2と同様の条件で行った。
【0044】
[比較例1]
澱粉を塗布していない原紙Aを用いた。
[比較例2]
澱粉Aの代わりに澱粉Dを、原紙Aの代わりに原紙Bを使用し、澱粉D両面塗工量0.59g/m2であること以外は、実施例1と同様の条件で行った。
【0045】
[比較例3]
澱粉Aの代わりに澱粉Eを使用し、澱粉E両面塗工量0.38g/m2であること以外は実施例1と同様の条件で行った。
【0046】
[比較例4]
澱粉Aの代わりに澱粉Eを使用し、澱粉E両面塗工量0.68g/m2であること以外は実施例2と同様の条件で行った。
【0047】
[比較例5]
澱粉Aの代わりに澱粉Eを使用し、澱粉E両面塗工量1.49g/m2であること以外は実施例3と同様の条件で行った。
【0048】
[比較例6]
澱粉Aの代わりに澱粉Fを使用し、澱粉F両面塗工量0.59g/m2であること以外は実施例2と同様の条件で行った。
【0049】
[比較例7]
澱粉Aの代わりに澱粉Gを使用し、澱粉G両面塗工量0.60g/m2であるたこと以外は実施例2と同様の条件で行った。
【0050】
各種評価
実施例及び比較例で得られたオフセット印刷用紙について、以下の項目について測定した。
【0051】
<表面強度の測定>
JIS P 8129に準拠してIGT印刷適性試験機で、インキタック値20のインキを使用し、印圧400N、印刷速度7m/sの条件で印刷試験を行い、紙剥け開始点の距離から、剥け発生時のIGT印刷速度を計算した。剥け発生時の印刷速度が高ければ高い程、表面強度が高いことを意味する。
【0052】
<ネッパリ強度の測定>
印刷用紙を4×6cmに2枚切り取り、塗工面を温度20℃の水に5秒間浸漬後、塗工面同士を密着させる。続いて、外側両面に濾紙を重ね、50kg/mの圧力でロールに通し、25℃、60%RHで24時間調湿する。3×6cmの試料片とした後、引っ張り試験機により、引っ張り速度30mm/分の条件で剥離強度を測定する。測定値が大きいほど、剥がれにくい(すなわち表面粘着性が強い)ことを意味する。
【0053】
<耐老化安定性の測定>
Viscograph(ブラベンダー社)を用いて、5重量%濃度でのり化した澱粉溶液100gを100mlビーカーに入れて5℃の冷蔵後に24時間静置した後の沈殿物の重量を測定し、全澱粉固形分重量(5g)に対する沈殿物の比率(%)を計算した。沈殿物の比率が少なければ少ない程、澱粉塗料の耐老化安定性が良好なことを意味する。耐老化安定性が良好であると、操業時にトラブルが発生しにくく、また、塗工紙の特性も良好になる。
【0054】
【表1】

【0055】
結果を表1に示す。表1から明らかなように、実施例1〜8で使用したアミロペクチンを95%以上含むポテト澱粉は、比較例3〜7で使用したポテト澱粉よりも耐老化安定性に優れていた。
【0056】
また、実施例1〜8の印刷用紙は、炭酸カルシウムを含まない原紙Bを用いた印刷用紙(比較例2)、本発明のポテト澱粉を用いていない印刷用紙(比較例3〜7)よりも、同一塗布量で比較すると、表面強度に優れ、しかもネッパリ強度が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを含有する原紙にアミロペクチンの比率が95重量%以上のポテト澱粉を0.1〜3.0g/m塗布した印刷用紙。
【請求項2】
前記ポテト澱粉が、酸化処理または酵素処理された変性ポテト澱粉である、請求項1に記載の印刷用紙。
【請求項3】
ネッパリ強度が300mN/3cm以下である、請求項1または2に記載の印刷用紙。
【請求項4】
オフセット印刷用である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の印刷用紙。
【請求項5】
前記炭酸カルシウムが、原紙の3〜30重量%を構成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の印刷用紙。

【公開番号】特開2009−243013(P2009−243013A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93973(P2008−93973)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】