説明

灌流可能な微小血管システムを作製する方法

細胞外マトリックスタンパク質の支持マトリックス内、例えば、ゲル内に、萌芽する組織工学により作製した親血管(200、202)から、in vitroにおいて微小血管ネットワークを産生する。流体による制御された灌流を可能にする機器内に、微小血管システムを統合する。血管は、1つの細胞型由来の細胞、例えば、内皮細胞、又は2つ以上の細胞型の組合せ由来の細胞を含んでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的及び病理学的な血管成長、並びに血管新生促進因子又は血管新生抑制因子に応答する血管成長の研究法に関する。
【0002】
米国連邦政府による委託研究に関する文言
本発明は、NIH米国立心肺血液研究所が与える助成金番号1 R21HL081152−01に基づく政府援助によりなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
血管成長の正常な過程(例えば、月経周期、胎盤形成、体脂肪の変化、創傷修復、炎症)では、新たな血管の創出が調節され、最終的には停止する。血管成長の調節異常は、病理学のきわめて重要な要素である。例えば、腫瘍成長、糖尿病性網膜症、関節炎、及び乾癬は、直接的に病理学的状態に寄与する血管の過剰な増殖を伴う。一方、老齢者に特徴的な血管成長の障害は、創傷治癒、及び外傷又は疾患により虚血状態となった組織の血管再構築を損なう。したがって、新たな血管の構築を導く機構、並びに血管成長を開始及び停止する過程の理解が、疾患における血管構築を制御する戦略を開発する上で重要である。
【0004】
新たな血管の成長(血管新生)においては、毛細血管及び細静脈−血管系の最小の分枝の内腔を覆う内皮細胞から萌芽が生じる。血管新生は、複雑で多段階の過程である。血管新生に関して公表された研究は何千にも及ぶが、血管新生においてその成長及び形態形成を媒介し調節する細胞機構はほとんど分かっていない。
【0005】
血管新生の萌芽についての詳細は、大半の組織が不透明であるため、in vivoにおいて「リアルタイム」で観察することは難しい。組織切片は、3Dで再構成することが難しく、血管の動的な成長過程はわかりにくい。さらに、血管新生の萌芽の先端付近の領域−血管浸潤及び形態形成の制御の重要な領域−を組織切片において見出すことはほとんどない。このような従来の組織学の限界を克服するため、in vivo及びin vitroにおける各種の血管新生「モデル」が開発されている。
【0006】
in vivoにおける血管新生モデル:生体組織の不透明性を回避するため、研究者らは、生来的に透明な両生類幼生の尾(Clark及びClark、1939)、或いはウサギの耳(Clark及びClark、1939)、マウスの皮膚(Algire、Chalkleyら、1945)、及びハムスターの頬嚢(Greenblatt及びShubi、1968)に植え込んだか、又はウサギの角膜ポケット(Gimbrone、Cotranら、1974)若しくはニワトリの漿尿膜(Ausprunk、Knightonら、1974)から発生させた、特殊化した観察チャンバーを含む、生きている動物内の「窓」を通して、血管新生を観察してきた。大半は記述的なこれらの初期の研究から、腫瘍が誘導する血管走化性という中心的枠組みが検証され、これに対応して、血管成長を促進する拡散性で腫瘍に由来する分子が発見された。in vivoにおける血管新生に関するより新規のアッセイでは、げっ歯類の皮下に植え込んだゲル化基底膜タンパク質のスポンジ状又はプラグ状のポリマー中への血管成長を評価している(Passaniti、Taylorら、1992;Andrade、Machadoら、1997;Akhtar、Dickersonら、2002;Koike、Vernonら、2003)。その正確さにもかかわらず、in vivoにおける手法は、(1)血管新生を促進する反応に、動物種間のばらつきが存在すること、(2)動物種間における結果を直接的に比較できないこと、(3)動物の購入及び維持の費用が高額であること、(4)研究目的での動物の使用に対し否定的な世論が存在すること、(5)動物に対する外科処置、並びに結果の視覚化及び評価が複雑であること、により困難である。
【0007】
in vitroにおける血管新生の2次元(2D)モデル:血管新生の分子的機構を理解しようとする中で、大血管から単離した内皮細胞を、血管の内膜に類似する集密状態の被覆様単層を形成するまで平皿内で培養した(Jaffe、Nachmanら、1973;Gimbrone、1976)。大血管における内皮損傷に対する増殖性反応のモデルとしては有用(Gimbrone、Cotranら、1974;Fishman、Ryanら、1975;Madri及びStenn、1982;Madri及びPratt、1986;Jozaki、Maruchaら、1990;Rosen、Meromskyら、1990)であるが、剛体基質上での内皮細胞の単層培養物は、血管新生を模した実験において、通常、毛細血管様チューブを組織しない。しかし、1980年に、毛細血管内皮細胞の長期培養の成功(Folkman、Haudenschildら、1979)により、ウシ又はヒトの毛細血管内皮細胞を20〜40日間培養することで、集密状態の細胞単層上に2Dの細胞ネットワークが発生し、このプロセスは「in vitroにおける血管新生」と名付けられると報告された(Folkman及びHaudenschild、1980)。該ネットワークの内皮細胞は、細胞が組織される基質となる「マンドレル」の、内因的に合成されたネットワークとして解釈される、線維状/アモルファス状の物質で充満した「内腔」を有する「チューブ」として現れた。後年の研究により、大血管由来の内皮細胞(Maciag、Kadishら、1982;Madri、1982;Feder、Marasaら、1983)、及び基底膜タンパク質の柔軟な水和ゲル(例えば、Matrigel(登録商標)ゲル)上に播種した内皮細胞(Kubota、Kleinmanら、1988)による、同様の2Dネットワークの形成が報告されている。
【0008】
血管発生の2Dモデルは今日でも用いられている(Matrigel(登録商標)に基づくアッセイ(Kubota、Kleinmanら、1988)は、市販されている)が、該モデルは、真の血管新生を定義する以下の5つの特性を欠いている。
1.浸潤−2Dモデルにおける内皮細胞は、細胞外マトリックス上にネットワークを形成するが、細胞外マトリックス内に潜伏する傾向はほとんど示さない(Vernon、Angelloら、1992;Vernon、Laraら、1995)。
2.方向性−2Dモデルでは、in vitroにおける内皮細胞ネットワークが、あらかじめ位置付けられた細胞領域全体にわたりほぼ同時的に形成されるのに対し、in vivoにおける血管新生は、複数レベルの分枝化により樹状化するフィラメント状の萌芽によって、細胞外マトリックスに対する有向性の浸潤を含む。
3.適正な極性−2Dモデルは、毛細血管と顕著に類似する単細胞チューブを作製する(Maciag、Kadishら、1982;Feder、Marasaら、1983;Sage及びVernon、1994)が、その極性は「内外が逆」である、すなわち、該モデルは、その内腔表面に基底膜物質を堆積させ、血栓形成面を外側である周囲の培地に向かわせる(Maciag、Kadishら、1982;Feder、Marasaら、1983)−これはin vivoにおける状況と逆である。
4.内腔の形成−2Dモデルが、開存した内腔を有する内皮細胞(EC)チューブを形成するという証拠はほとんどない。内皮細胞チューブは、(外因性であるか、又は細胞が合成した)細胞外マトリックスで充満した「内腔状の」空間を有するのが通例である(Maciag、Kadishら、1982;Madri、1982;Feder、Marasaら、1983;Sage及びVernon、1994;Vernon、Laraら、1995)。開存した内腔は、存在する場合でも、内皮細胞細胞質の厚い壁で覆われたスリット様又は狭隘な円筒状の空間として現れるのが通例である−これは、in vivoにおける毛細血管に典型的な、膨張した薄壁の内皮細胞チューブとは全く異なっている。
5.細胞特異性−2Dモデルにおける細胞ネットワークは、おそらくは非ECの細胞型により実現される力学的プロセスにより形成される(Vernon、Angelloら、1992;Vernon、Laraら、1995)。実際、柔軟な2Dの細胞外マトリックス(内因的に合成され、又は供給される(例えば、Matrigel(登録商標)ゲル))に張力を加えることのできる、任意の付着性細胞型が、最適条件下においてネットワークを形成し得ることを、数学的モデルが示している(Manoussaki、Lubkinら、1996)。
【0009】
in vitroにおける血管新生の3次元(3D)モデル:in vivoにおける血管新生が、3Dの細胞外マトリックス内で生じるという認識は、in vitroにおける細胞外マトリックスの3Dゲル内で萌芽を誘導する、各種モデルをもたらした。初期の3Dモデルでは、コラーゲンゲル内に分散させた内皮細胞(Montesano、Orciら、1983)が、コードとチューブのネットワークを形成した(Elsdale及びBard、1972)。内皮細胞チューブは、適正な極性を示したが、浸潤及び方向性の特性を欠いていた(内皮細胞は、細胞外マトリックス中にあらかじめ埋め込み、均等に分散させた)。それにもかかわらず、この手法は、内腔形成の研究(Davis及びCamarillo、1996)、及び成長因子に対する内皮細胞の応答(Madri、Prattら、1988;Merwin、Andersonら、1990;Kuzuya及びKinsella、1994;Marx、Perlmutterら、1994;Davis及びCamarillo、1996)の研究において有用であることが示された。
【0010】
別の手法では、3Dの血漿塊中に埋め込んだラット大動脈の1mm切片(リング)が、分枝状の吻合性チューブを形成した(Nicosia、Tchaoら、1982)。大動脈リングからの萌芽は、血管新生様の極性に加えて、血管新生様の浸潤及び方向性をも示した。ラット由来の大動脈リング又はマウス由来の微小血管断片を用いる移植モデルが、血管新生に対する腫瘍、成長因子、各種細胞外マトリックスの担体、及び老化状態の影響の研究に用いられている(Nicosia、Tchaoら、1983;Mori、Sadahiraら、1988;Nicosia及びOttinetti、1990;Nicosia、Bonannoら、1992;Villaschi及びNicosia、1993;Nicosia、Bonannoら、1994;Nicosia、Nicosiaら、1994;Nicosia及びTuszynski、1994;Hoying、Boswellら、1996;Arthur、Vernonら、1998)。
【0011】
(単層又は凝集塊として)精製した内皮細胞を誘導して、基底又は周囲の3D細胞外マトリックスゲル内に浸潤的に萌芽させる各種のモデルが存在する(Montesano及びOrci、1985;Pepper、Montesanoら、1991;Montesano、Pepperら、1993;Nehls及びDrenckhahn、1995;Nehls及びHerrmann、1996;Vernon及びSage、1999;Vernon及びGooden、2002)。これらモデルの各々は、萌芽形成の視覚化が難しいこと、萌芽が制限されること、切片化が必要であること、又は内皮細胞の特定の種別では有効性を欠くこと、を含む個別の限界を有する。
【0012】
Wolverine及びGulecが、腫瘍組織の断片をマトリックス内に埋め込むことを含む3D血管新生システム(米国特許出願第2002/0150879 A1号)を開示した。微小血管の成長を特性化することで、組織が血管新生を促進する可能性を分析している。しかし、この手法は、微小血管の内腔における灌流を提供しない。
【0013】
Neumann(本発明の発明者)ら、2003は、人工組織内に組み入れることのできる、in vitroにおける灌流微小血管を作製する可能性を開示した。Neumannら、2003は、127マイクロメートルのナイロン製釣り糸を、収縮チューブが保持する微小血管作製用マンドレルとして用いることを教示する。血管は、寒天中に埋め込んだラット大動脈の平滑筋細胞から作製した。これらの微小血管は、試験的なものであり、ヒト用血管グラフトを作製するには適切でない。
【0014】
in vitroにおける血管新生:新たな手法:in vitroにおける2次元の血管成長モデルは、前出の血管新生を定義する特性を確立しないのに対し、既存の3Dモデルは、該特性の一部又は大半を再現する。重要なことは、現在作製可能な3Dモデルが、流動し循環する加圧流体を含む親血管を再構築しないことである。結果として、in vitroにおける既存の3Dモデルのいずれによっても、内腔圧及び内腔流が血管成長及び形態形成に与える寄与についての研究は可能とならない。
【特許文献1】米国特許出願第2002/0150879 A1号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、3D細胞外マトリックス(ECM)中に浸潤性でチューブ状の微小血管萌芽を形成する実証ずみの方法を、内腔流の源泉となる組織工学による親血管作製のための新規手法と組み合わせることにより、既存の血管新生モデルの限界を克服する。灌流物により、血管新生を調節する化合物を、特異的な標的受容体の存在が知られる内皮細胞の内腔面に投与することができる。栄養培地の内腔流が存在することで、in vitroにおける毛細チューブの生存時間が実質的に増大する。開示された血管新生システムを用いて、低酸素症/高酸素症、特定の可溶性の生物活性化合物の検査、遺伝子改変細胞の使用、及びウイルストランスフェクションによる遺伝子の導入を含む、各種の実験パラメータを評価することができる。本システムは、創修復、老化、癌、及び動脈硬化に関する血管新生の研究を可能とする。重要なことは、本発明の教示に従うモデルを応用することで、生体工学による人工組織に組み込むことの可能な、十分に機能的な血管システムを提供し得るということである。
【0016】
本発明は、微小血管の作製、内皮細胞由来の微小血管の作製、及びより大きな血管(例えば、冠動脈のサイズを有する)の作製用のマニホールドの設計を含む新たな新規手法をも提供する。例えば、微小血管ネットワークの作製法を含む、これら及び他の重要な新しい教示は、本明細書及び本明細書の下記に添付した特許請求の範囲から明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
in vitroにおいて、灌流可能な微小血管ネットワークを作製する方法であって、前記方法が、
一組のマンドレルの上及び周囲において細胞を培養することにより、少なくとも1つの親血管を作製するステップと、
前記少なくとも1つの親血管をマトリックスに埋め込むステップと、
前記少なくとも1つの親血管を誘導して、前記マトリックス中に萌芽を作製するステップと、
前記一組のマンドレルを引き抜くステップと、
前記少なくとも1つの親血管及び萌芽に内腔灌流を施して、毛細血管床の動脈端から静脈端への本来の血流を模倣し、その結果微小血管ネットワークが作製されるステップと
を含む方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書で提供する実施例は、本発明の理解を深めることを目的とする。実施例は、例示的であり、本発明は、実施例の実施形態に限定されない。本発明の方法は、生理学的及び病理学的な血管成長、並びに血管新生促進因子又は血管新生抑制因子に対する応答による血管成長の研究に有用である。他の有用な応用は、癌組織が血管新生を促進する可能性、及び抗血管新生促進剤への反応を評価する方法への応用である。加えて、本発明の方法は、各種の創治癒機器の構築、及び組織工学による生産物に基づく血管構築に用いてよい。
【0019】
一例として、灌流可能な3次元の微小血管ネットワークを作製するための方法及び機器を開示する。本明細書で用いる「EC」とは内皮細胞を指し、「SMC」とは平滑筋細胞を指し、「CAS」とは冠動脈代用物を指す。
【0020】
一般に、微小血管ネットワークの培養及び灌流のための機器は、中央に1つ又は複数のマンドレルを保持するチャンバーからなる(図1に最良の形で図示)。チャンバーは、様々な技法、例えば、レーザー加工によるフレームを重ね合わせることなどにより、任意の生体適合性材料からも作製することができる。マンドレルは、チャンバー内で引き抜き式となるように組み立てる。これは、例えば、熱収縮により(図2に図示)チューブ内にマンドレル端を装着することにより実現することができる。マンドレルの直径は、所望の血管内径によって決まる。構成を変更して、単一の血管、2つの血管、又は2D若しくは3Dにおける血管の配置全体までに対応させることができる。マンドレルは、ポリマー繊維、ガラス繊維、ワイヤーなど各種の材料製であり得る。
【0021】
マンドレル上に細胞を播種し、細胞を刺激してマンドレルの周囲に増殖させ、細胞が血管壁を形成した時点でマンドレルを引き抜くことにより、微小血管を作製する。次いで、血管をマトリックスに埋め込む。培養条件、マトリックスの成分、及び血管新生を促進する刺激(例えば、成長因子)に応じて、親血管が、周囲のマトリックス内へ萌芽する。萌芽が互いに吻合し合うことによって、毛細血管ネットワークの形成をもたらす。マンドレルの除去後、該機器を灌流システムに接続し、血管内腔に流体を流す。
【0022】
ここで、図1A、図1B、及び図1Cを参照することにより、本発明の方法が用いる親血管作製に関する概略的な例を示す。図1Aは、培養増殖培地100中の内皮細胞1を、機器本体3中の収縮チューブ4が保持するマンドレル2に播種した状況を示す。図1Bは、細胞1が増殖し、細胞スリーブ102の形で環状層を形成したことを示す。図1Cは、マンドレル2を引き抜いた後で、細胞外マトリックス(ECM)ゲル110中の細胞スリーブを、培養増殖培地100で灌流する状況を示す。本発明は、灌流可能な生体人工血管構造を、組織工学の応用及び研究モデル用に加工することを含む。本発明の一般的な原理は、薄壁チューブ又はその他の器具にぴったり装着する取り外し式のマンドレル周囲における層状の細胞培養を含む。細胞層が所望の壁厚に達したら、マンドレルを取り外し、こうして作製した生体人工血管(BAV)を、灌流システムを用いて、培地、血液、血液代用物、又は他の流体で灌流してよい。本発明の方法は、量産又は特注製による血管、in vitroにおける灌流血管新生モデル、創治癒機器、組織成分、全組織及び全器官のほか、研究モデルの作製を可能にする。
【0023】
培養/灌流機器の作製
ここで、図2A、図2B、図2C及び図2Dを参照することにより、本発明の方法の一実施形態において用いる、既知の熱収縮プロセスに関する概略的な例を示す。図2Aで具体的に示す通り、各培養/灌流機器(CPD)は、支持フレーム12が保持する1つ又は複数のマンドレル2を含んでよい。所望の血管内径の直径を有するマンドレル2は、その端部を、医療グレードの収縮チューブ断片4内にぴったり装着する。マンドレル2は、模造する血管サイズに応じて、数マイクロメートルから数ミリメートルの直径を有する、生体適合性の繊維(例えば、ポリマー、ガラス)、ワイヤー、又は同等物を使用してよい。
【0024】
図2Bのより詳細な図面に示す通り、各収縮チューブ断片4の中央部分14は、マンドレル2の1つの周囲で熱収縮する。次いで、図2Cで具体的に示す通り、マンドレル2を引き抜き、チューブを切断する。図2Dは、マンドレルの位置を移した後の、ここでは切断されて分離した収縮チューブ断片4がマンドレルの両端を封止する状況を示す。フレーム12は、各種の材料及び技法を用いて作製してよい。構成を変更して、単一の生体人工血管又は多数の生体人工血管のどちらに対応させてもよい。同様に、マンドレルが配置されている複数の平面を層状化することによって、血管ネットワークを伴う厚く灌流可能な組織を形成してよい。
【0025】
灌流チャンバーの加工
ここで、図3Aを参照することにより、複数のマンドレル/収縮チューブアセンブリー11の灌流用の既知の構成を示す。フレーム20は、有利には、ポリカーボネート又は同等の材料から圧延することができる。分配チャンバー30を設計に含めることで、多数の生体人工血管の同時的灌流が可能となる。マンドレル2を含む一組の糸状物の端部を、シリコンチューブ23内に集める。
【0026】
Mylarフレームのレーザー加工
ここで、図3Bを参照することにより、本発明の方法に準拠して用いる培養/灌流機器を組み込む製造法で用いる新規の設計を概略的に示す。単一血管設計であるCPD70は、有利には、熱収縮チューブ4が保持するマンドレル2を、レーザー加工による2つのMylar(登録商標)フレーム22の間に挟み込むことによって作製することができる。有利には、下記に詳述する通りに構成する、円筒形のエポキシ製マニホールド21を用いて、マンドレル/収縮チューブアセンブリー11を保持することができる。
【0027】
マンドレル/収縮チューブアセンブリーを、Mylar(登録商標)などのポリエステルフィルム製などの2つのフレームの粘着性の面同士を押圧してフレーム間に挟み込み、各マンドレルを、各端部の2本の収縮チューブ断片4’により、フレームウインドウ76内に吊架させてよい。2本の収縮チューブ断片4’は、少なくとも1本の細い固定ワイヤー26をフレーム22に組み入れ、シリコンチューブの鋳型を用いて収縮チューブと少なくとも1本の細い固定ワイヤー26との周囲に成型される円筒形のエポキシ製マニホールド内に封入することにより固定し、強化する。2本の収縮チューブ断片4’は、最終的に、CPD70の流入及び流出ポートとなる。
【0028】
ここで、図4A及び図4Bを参照することにより、本発明の方法に準拠した機器用にマニホールドを作製する方法を概略的に示す。図4Aは、例えば、シリコンチューブ50のスリーブを通して引き抜く、複数の収縮チューブ/マンドレルアセンブリー11を特に示す。エポキシ接着剤40を注入して、シリコンチューブ50を満たし、硬化させる。
【0029】
図4Bは、特に、エポキシ接着剤40が硬化し、シリコンチューブ50を開口し除去した後の状態を示す。硬化したエポキシ製ロッド44が残されている。エポキシ製ロッド44は、収縮チューブが作製したチャネル42を残して切断部からマンドレルを引き抜いた後で切断する。多数の収縮チューブの端部46を統合して、マニホールド21を形成する。個々のCPD又はCPDフレームアセンブリーの積重ねを用いて、3D血管配置を作製することができる。
【0030】
代替方法
ここで、図5A、図5B、及び図5Cを参照することにより、本発明の方法に準拠した、微細加工による培養/灌流機器の設計代案を概略的に示す。図5Aは、特に、収縮チューブの代替物である、スリーブ56を有する小型の穿孔部54を通して導入する一組のマンドレル2を示す。図5Bは、特に、フレーム壁面52に組み込む一組のマンドレル2を含む、細胞播種前のCPDを示す。
【0031】
図5Cは、特に、血管62を備える培養/灌流機器の代替的な例を示し、その例では、微細加工によるマニホールド64をフレーム52の外側のスリーブ56に取り付けてよい。血管62は、本明細書に示す通り、マンドレル上で成長し、マンドレルを取り外した後に残る。微細成型などの微細加工法を用いて、該CPDフレームアセンブリーを量産することができる。
【0032】
血管作製と灌流
ここで、図6を参照することにより、本発明の方法に準拠した細胞播種手順を概略的に示す。細胞播種用のCPD70を準備するため、まず洗浄し、次いでUV滅菌する。滅菌条件下において、CPDを表面、例えば、ペトリ皿72の底面に固定する。次いで、CPDフレームアセンブリー70の内部ウインドウ76(図3Bに図示)を、ラミニン−1などの接着性タンパク質を含む溶液で満たす。必要に応じ、1つ又は複数のスペーサー77を用いてよい。インキュベーション時間の経過後、接着性タンパク質を含む溶液を除去し、次いで、培地中の所望の細胞型(例えば、平滑筋細胞又は内皮細胞)の懸濁液を、CPD70のウインドウ76内に移す。
【0033】
細胞播種は、一定量の細胞懸濁液をウインドウ76内に満たし、CPDフレームアセンブリー70を上下裏返して、懸滴80を滴下させることにより行うことができる。約45分間のインキュベーション時間において、大多数の細胞が、CPDフレームアセンブリー内のマンドレル/収縮チューブアセンブリーに付着する。余剰細胞は、懸滴の先端部に沈下し、容易に採取及び廃棄し得る。次いで、1つ又は複数のCPDフレームアセンブリーを含むペトリ皿を、正立位に戻し、CPDフレームアセンブリーが溢れるまで培地で満たし、インキュベートした。1つの実施例におけるインキュベーション条件は、37℃で5%COの環境中であった。マンドレル/収縮チューブアセンブリーに付着した細胞は、広がり増殖し、同心的単層(例えば、内皮細胞)又は150μm以上の厚さの多層(例えば、平滑筋細胞)を形成した。
【0034】
所望の壁面の形状又は厚さでマンドレルを引き抜き、これによって中空の細胞チューブを作製する。薄い壁面は、マンドレルを引き抜く前に、例えば、アガロース、コラーゲン、基底膜タンパク質ゲルなどのゲルを細胞スリーブの周囲に流し込むことによって破断を防ぐことができる。次いで、CPDフレームアセンブリーのマニホールドを灌流システムに接続し、増殖培地など選択の流体で灌流する。
【0035】
本発明の別の実施形態において、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)から内皮「親」血管を作製する方法は、以下のステップを含む。
【0036】
まず、培養機器を洗浄し、次いで、各面30分間にわたるUV曝露により滅菌する。滅菌条件下で、滅菌ストリップでペトリ皿の底面に該機器を固定する。
【0037】
次いで、該機器の内部ウインドウを、ラミニン−1の接着性タンパク質溶液(フィブロネクチン、フィブリン、又はゼラチンなどの他の接着性タンパク質で代用することができる)で満たす。
【0038】
1晩のインキュベーション後、接着性タンパク質を含む溶液を除去し、次いで、培地中のヒト血管内皮細胞懸濁液を、該機器のウインドウ内に移す。
【0039】
次いで、ペトリ皿を上下裏返すことで、該機器ウインドウ内で細胞培地懸濁液の懸滴を形成させる。細胞培養インキュベータ(5%CO、37℃)における45分間のインキュベーション時間の経過後、数多くの細胞が、機器内のマンドレル/収縮チューブアセンブリーに付着する。
【0040】
次いで、ペトリ皿を正立位に戻し、機器が浸るまでヒト血管内皮細胞用の増殖培地で満たす。
【0041】
マンドレルに結合しなかった細胞は浮遊するので、吸引し廃棄する。
【0042】
次いで、ペトリ皿をインキュベータ(5%CO、37℃)に留置する。マンドレルに付着した細胞は、広がり増殖し、ヒト血管内皮細胞の同心的単層を形成する。
【0043】
次いで、ペトリ皿から培地を除去する。コラーゲン溶液を培養機器のウインドウ内に満たし、固形化させることにより、マンドレルを細胞層に埋め込む。
【0044】
ヒト血管内皮細胞は、コラーゲンゲル内に萌芽を形成する。次いで、マンドレルをゆっくりと引き抜き、ヒト血管内皮細胞の灌流可能な「親」微小血管を後に残す。
【0045】
次いで、機器のマニホールドを灌流システムに接続し、ヒト血管内皮細胞増殖培地で灌流する。
【0046】
灌流システム
CPDは、直線状モード又は循環状モードのいずれの灌流システムに取り付けてもよい。直線状の構成は、重力流下システム、又は市販される若しくは特注製のシリンジポンプにより作製してよい。シリンジは灌流培地で満たし、シリンジポンプ内に組み込み、気密チューブによりCPDの上流端に接続する。CPDを滅菌条件下のインキュベータ内に保存してもよく、滅菌細胞培養環境をCPD内で確立してもよい。CPDの下流マニホールドを、灌流物を回収する末端容器に接続する。蠕動式ポンプを用いることにより、循環状システムを構成してよい。直線状及び循環状のいずれのシステムにも、ガス交換機器を取り付けてよい。ガス濃度、灌流圧、流量、温度、並びに栄養物及び代謝副産物の濃度は、センサーで測定する。収集したデータは、フィードバックループに投入することで、所望のパラメータの厳密な制御が可能となる。
【0047】
具体的用途
血管新生関連の研究用モデル
ここで、図7を参照する。図7は、本発明の方法に準拠する2つの生体人工親血管200、202の間の毛細血管ネットワークの概略を示す。「静脈側の」親血管202への流量(f)を減少させ、「動脈側の」親血管200における抵抗(R)を増大させることにより、流体の灌流物204を毛細血管206を介する経路に変更する。この結果、灌流物(204)がより高圧の血管からより低圧の血管へと流れ、毛細血管床の動脈端から静脈端への本来の血流を模倣する。
【0048】
マンドレル法は、血管新生研究用のモデル開発や、必要に応じて、創修復、老化、並びに癌、糖尿病、関節炎、及び乾癬などの疾患における薬学的試験及び研究にも用いることができる。内皮細胞のみ、又は内皮細胞、平滑筋細胞、及び周皮細胞の組合せを用いると、親生体人工微小血管(BMV)を、ミクロン直径のマンドレルの周囲に培養し、細胞外マトリックスの支持ゲル内に埋め込むことができる。次いで、マンドレルを引き抜き、開存した内皮細胞チューブを細胞外マトリックスゲル210(コラーゲンゲル、基底膜マトリックス(BMM)等)内に残す。引き抜きは、手で、又は自動機器により、きわめて遅いスピードからきわめて速いスピードまでのさまざまなスピードで行ってよい。他の態様として、凍結状態にある生体人工微小血管からのマンドレルの引き抜き、熱反応性ポリマーによるマンドレルのコーティング、又はマンドレルの両端を引っ張り、細くして破断させることを含んでよい。
【0049】
周囲のゲル210内への親血管の萌芽は、ゲル及び/又は灌流物(例えば、増殖培地)に添加する、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、及びホルボール12−ミリスチン酸−13−アセテート(PMA)などの化合物により誘導する。
【0050】
複雑な毛細血管ネットワーク222は、2つの隣接する生体人工親微細血管の間に圧力差を確立し、動脈及び静脈の血流を模倣することにより作製することができる。次いで、「動脈側の」生体人工微小血管から、相互接続した萌芽を通して「静脈側の」生体人工微小血管へと、流体流の経過を変更する。
【0051】
灌流物は、有利には、血清及び血管新生促進物質又は血管新生抑制物質を含まない酸素化細胞増殖培地を含んでよい。別の例では、灌流物が、血清、及び/又は血管新生に影響する化合物を補充した酸素化細胞増殖培地でよい。さらに別の実施形態の例では、灌流物は、酸素化生理食塩液でよい。別の例では、灌流物は、酸素化した血液、血液成分、又は血液代用物を含んでよい。さらに別の例の実施形態では、灌流物は酸素化物でなくてもよく、システムの酸素化は、マトリックスを介しての拡散により実現される。さらに別の例の実施形態では、血管新生を促進する化合物又は血管新生を抑制する化合物を灌流物に添加することができる。
【0052】
実施形態の一例では、血管新生を促進する化合物及び血管新生を抑制する化合物などを、マトリックスに添加する。さらに別の実施形態の例では、細胞は、灌流物又はマトリックスに産物を放出する遺伝子改変細胞を含む。さらに別の実施形態の例では、マトリックスは、有利には、フィブリン、コラーゲン、及びゼラチンを含んでよい。有用なマトリックスの一型は、Matrigel(登録商標)ゲルである。別の実施形態の例では、マトリックスは、寒天、アガロース、アルギネート、又はシリカゲルを含んでよい。
【0053】
実施形態の一例では、細胞は、内皮細胞、平滑筋細胞、周皮細胞、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、幹細胞、遺伝子改変細胞からなる群から選択することができる。マトリックスには、ヒト細胞、動物細胞、及び植物細胞からなる群から選択される細胞が、全体に分散し、又は局所的に集中して、存在してよい。場合によっては、健康組織又は癌組織などの罹患組織の断片をマトリックスに埋め込む。
【0054】
親血管からの萌芽は、in vitro、材料の切片化、又は全載標本により顕微鏡で調べてよい。蛍光溶液(例えば、蛍光デキストラン)による生体人工微細血管の灌流は、萌芽直径、萌芽内腔の開存性、及び吻合程度の分析に役立つ。萌芽形態の3D再構成は、共焦点顕微鏡により採取した落射蛍光画像のz軸方向の積重ねにより実施することができる。萌芽220による周皮細胞基底膜マトリックスの合成は、抗ラミニン及びIV型コラーゲンによる第一抗体、並びに蛍光又はペルオキシダーゼにより標識した第二抗体で免疫標識することにより、全載及び組織学的(パラフィン)切片においてモニターしてよい。
【0055】
EC/SMC複合萌芽では、ヒトCD31に対するFITC−モノクローナル抗体(MAb)(クローンP2B1−Chemicon社製)又はヒト内皮細胞に対する特異的なマーカーであるFITC−UEA 1アグルチニンで内皮細胞を標識することにより、2つの細胞型間の空間的関係を検討することができる。平滑筋細胞は、ヒトアルファ−SMアクチンに対するMAb及び、その後のRITC−抗マウス第二抗体で標識することができる。内腔構造及び内皮細胞と平滑筋細胞との間の相互作用の詳細は、前出の試薬で標識したパラフィン切片から得てよい。
【0056】
記載の作製法は、再現性の高い血管新生機器の市販向け量産のための基盤である。適切な保存(例えば、冷凍保存)により、成長前の親血管又は全毛細血管ネットワークが、即時に研究者に使用可能となり得る。
【0057】
冠動脈代用物
冠動脈代用物を作製する場合は、内径約4mm〜5.5mmの血管内腔を有する冠動脈代用物が得られる外径を有するマンドレルを選択する。或いは、マンドレルは、冠動脈代用物の成長期間中における栄養物及びガスの交換を可能にするのに十分な灌流を受け十分な透過性を示す中空のチューブでもよい。冠動脈代用物は、平滑筋細胞のみから成長させて、血管内の培地層に構造類似物を提示してもよく、あるいは2つ又は3つの細胞型からの複合構造として作製してもよい。
【0058】
平滑筋細胞をマンドレル上に播種し、300〜400μmの環状層に成長させる。冠動脈代用物の作製を加速化させるため、成長初期には細胞を高度に増殖性の表現型とし、次いで、血管壁が所望の厚さに達した後は分化状態に切り替わるようにSMC表現型を操作してよい。表現型の切替えは、平滑筋細胞の成長速度を顕著に遅速化させ、コラーゲン及びエラスチンなど、血管の適正な力学的特性に必須である細胞外マトリックスタンパク質の産生を誘導する。表現型の切替えは、特定の遺伝子発現を制御することにより達成してよい。例えば、テトラサイクリン反応性プロモーターを用いることにより、血管壁が所望の厚さに達するまでは、遺伝子発現(例えば、エラスチン産出)を抑制することができる。増殖培地からテトラサイクリンを除けば、挿入された遺伝子が活性化される。例えば、エラスチンの過剰発現は、血管壁内における更なる細胞増殖を阻害し、構造的機能及びシグナル伝達機能を働かせる。力学的な調節、例えば、拍動流を用いて、冠動脈代用物を強化し、細胞の生理学的アライメントを誘導してよい。他の外部又は内部の「表現型の切替え」もまた、用いることができる。
【0059】
内皮細胞は、マンドレル除去の直後、又は平滑筋細胞の調節及び再構築後、のいずれにおいてSMCスリーブ内に播種してもよい。内皮細胞の播種は、SMCスリーブ内への内皮細胞懸濁液の注入により行うことができる。次いで、注入流を一定時間停止し、内皮細胞を適正に付着させる。必要ならば、血管を回転させるか繰り返し上下の向きを逆にして、内皮細胞の均等な分布を促してよい。
【0060】
或いは、まず、内皮細胞をマンドレル上に播種することもできる。この場合、集密状態の内皮細胞層の上に平滑筋細胞を播種する。この方法では、内皮細胞が、酸素及び栄養分の豊富な冠動脈代替物の辺縁部へと移動することを防止する必要がある。
【0061】
所望の場合は、SMCスリーブの外側に線維芽細胞を播種することで、外膜層を作製することができる。
【0062】
冠動脈代替物作製用の細胞は、自家の、他家の、又は異種の材料に由来してよい。細胞は、幹細胞、前駆細胞、又は分化細胞であってよい。細胞を遺伝子改変することにより、特定の表現型を実現するか、又は宿主生物の免疫反応を低下させることができる。
【0063】
本発明の方法は、即時に利用可能な血管代用物、又は受容者ごとに特注設計する血管代用物の量産という選択肢を提供する。本発明の方法は、冠動脈代用物の組織工学モデル、アテローム発生、動脈形成の研究モデル、異なる血管細胞型同士及び細胞外マトリックス成分との相互作用の研究モデル、酸化窒素の効果に関する研究モデル、並びに各種医薬品の研究モデルの開発にも適している。
【0064】
異なるサイズ又は型の血管及びリンパ管
本発明の方法を用いて、冠動脈以外の直径及び型を持つ血管を作製してよい。マンドレルの直径を変化させると、血管の直径が変化する。脈管の型(動脈、静脈、リンパ管)は、細胞の表現型、及び/又は細胞増殖が阻害される時点により変化することがある。例えば、静脈は、小型の平滑筋細胞層のみを含む。
【0065】
他の管状様組織
本発明の方法を用いて、胆管、涙管、耳管、卵管、輸精管、尿管、尿道など他の管状組織を加工してよい。本発明の方法は、神経成長及び修復を誘導するために、グリア細胞を含む異なる細胞型から神経導管を形成するのに有用であることがある。
【0066】
組織工学のためのBAVシステム
本発明の方法を用い、多数の取り外し式マンドレルを骨格として用いることにより、組織及び器官を加工してよい。所望の組織/器官(筋肉、肝臓、腎臓、肺、皮膚など)の細胞を、接着性タンパク質でコーティングしたマンドレル上に播種する。これらマンドレルは、固体の繊維又はワイヤー、或いは、セルロースなどの灌流可能な透過性チューブから作製してよい。マンドレル同士を、単一の細胞スリーブが融合できる適正な間隔だけ離して置く。この方法により、組織のシート又はブロックを形成してよい。次いで、マンドレルを引き抜き(又は別のやり方で除去し)、灌流システムを用いて生体人工組織を内部灌流する。
【0067】
創傷治癒機器
製造前の生体人工血管システムを用いて、糖尿病患者における慢性潰瘍などの創治癒を補助してよい。生体人工毛細血管ネットワークを支持材料(例えば、血管新生を促進する成長因子の豊富な細胞外マトリックスゲルに由来する)のパッチに埋め込み、創部に貼付することができると考えられる。酸素化した栄養分溶液で自己灌流すると、生体人工血管は、ドナーの血管系及び皮膚の萌芽を促進すると考えられる。或いは、こうした生体人工血管パッチを創と皮膚グラフトとの間に挟み、グラフトの内部成長を促進することができると考えられる。
【0068】
遺伝子治療用機器
生体人工血管は、植え込み式薬剤送達機器に用いることができると考えられる。患者から採取した細胞は、in vitroで遺伝子を改変することにより、特定のタンパク質(ホルモン、酵素など)を産生することができると考えられる。次いで、これらの細胞は、前述の方法を用いて、生体人工血管又は血管ネットワークに成長させてよい。宿主に再度植え込むと、細胞は、標的物質を産生し続け、局所又は全身に該物質を放出し続ける。
【0069】
人工組織及び器官
前述の組織工学による血管ネットワークは、組織の作製に、又は全器官の作製にまで使用することができる。1つの手法は、1つ又は複数のin vitroにおける灌流親血管の作製である。所望の組織又は器官からの間質細胞を、例えば、ゲル中の親血管周囲に播種する。間質細胞には、親血管経由で栄養物及び酸素を供給する。間質細胞が増殖すると、栄養及び酸素の要求が増大する。細胞は、血管新生促進因子を放出し、血管を刺激して萌芽させる。血管システムは、組織が成長するのと同じ、自然の成長にきわめて近い速度で萌芽する。したがって、このシステムは、発達生物学における研究用にも良好なモデルになると考えられる。
【0070】
別の手法は、多数の平行なマンドレルを、間質細胞の骨格として用いる。間質細胞が増殖するに従って、細胞層がマンドレル周囲に形成される。最終的に、すべてのマンドレル間の空間が間質細胞で満たされ、組織シートとなる。マンドレルを除去した後に、マンドレルの跡に残ったチャネルを通して、組織を灌流してよい。これらのチャネルは、内腔における播種により、内皮細胞化することができる。本手法は2Dに限定されない。複数のシートを積み重ねてもよく、3Dの骨格を用いてもよい。本発明者は、2Dの配置並びに3Dの配置を用いて、筋肉組織を加工した。
【0071】
さらに別の手法では、組織層及び血管ネットワーク層を個別に作製し、次いで、これらを断続的に積み重ねることができると考えられる。これらすべての手法は、1つ又は2つの細胞型による単純なモデル、又は複数の細胞型からなるやや複雑な構築物のいずれをも産生することができる。
【0072】
これらの方法により加工した組織又は器官は、植え込んだ際に血流に直接接続してもよく、又は宿主血管系がグラフトに成長するまでは灌流システムにより灌流を維持してもよい。
【0073】
組織工学による灌流筋肉構築物の実施例
ここで、図8Aを参照することにより、本発明の方法に準拠して平滑筋細胞を播種した後における、複数のマンドレルの例のin vitroにおける画像を示す。複数のマンドレル及び収縮チューブの単位Mを、Mylar(登録商標)フレーム上に重ね合わせる。マンドレルM間の間隔は、約100μmに調節した。すべての収縮チューブ断片の端部を、1つの上流マニホールド及び1つの下流マニホールド(図示せず)に統合した。Mylarフレームを滅菌し、ラミニンでコーティングし、5×10個/mlのラット大動脈平滑筋細胞SM(RASMC)懸濁液を播種した。該細胞SMは、各個別のマンドレルMに付着し増殖することによって、環状層を形成した。10日後、個々の層が融合し、1枚の厚い平滑筋細胞シート又はプレートとなった。増殖培地内でさらに7日放置した後、培地に50U/mlのへパリンを補充し、さらに7日間放置した。次いで、すべてのマンドレルを引き抜き、流量10ml/日のヘパリン培地で組織を灌流した。灌流チャンバーは、へパリン培地で満たした100mmペトリ皿の底面に固定した。SMCプレートは、11日間灌流した。同期間にわたり、チャネルCHは機能を維持し、in vitroにおいて依然として明らかに目視可能であった(図8Bに最も良好に示す)。
【0074】
ここで、図8Bを参照することにより、本発明の方法に準拠して作製した灌流筋肉プレートMPの実施例を示す。チューブ端(T)から、マンドレルを引き抜いた後に残ったチャネル(CH)内に流体を灌流させる様子を示す。
【0075】
特許法に準拠し、本発明の新規の原理を応用し、例示的で特殊な成分を構築し用いるのに必要な情報を当業者に与えるために、本明細書では本発明をかなり詳細に記載してきた。しかし、本発明は、具体的に異なる装置、並びに機器及び再構築アルゴリズムにより実施でき、設備の詳細と作業手順のどちらについても、本発明の真の趣旨及び範囲を逸脱せずに、様々な変更を加えることができることを理解されたい。
【0076】
本明細書に引用したすべての参考文献の完全な開示を、参照により本明細書に組み込む。ただし、別段に解決不能な矛盾が生じた場合は、本明細書の統御するところとする。
(参考文献)





【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の方法に準拠して用いる、親血管作製の例を概略的に示す図である。
【図2】本発明の方法に準拠して用いる、既知の熱収縮プロセスの例を概略的に示す図である。
【図3A】本発明の方法に準拠して用いる、培養/灌流機器を組み込む既知の設計を概略的に示す図である。
【図3B】本発明の方法に準拠して用いる、培養/灌流機器を組み込む製造法で用いる設計を概略的に示す図である。
【図4】本発明の方法に準拠して用いる、培養/灌流機器のマニホールドの作製を概略的に示す図である。
【図5】本発明の方法に準拠して構築する、微小加工による培養/灌流機器の代替設計を概略的に示す図である。
【図6】本発明の方法に準拠して用いる、細胞播種手順を概略的に示す図である。
【図7】本発明の方法に準拠する、2本の生体人工親血管の間の毛細血管ネットワークの概略を示す図である。
【図8A】本発明の方法に準拠して平滑筋細胞を播種した後における、複数のマンドレルの例のin vitroにおける画像を示す図である。
【図8B】本発明の方法に準拠して作製する、灌流筋肉プレートの例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroにおいて、灌流可能な微小血管ネットワークを作製する方法であって、
一組のマンドレル(2)の上及び周囲において細胞(1)を培養することにより、in vitroにおいて少なくとも1つの親血管(200)を作製するステップと、
前記少なくとも1つの親血管(200)をマトリックスに埋め込むステップと、
前記少なくとも1つの親血管(200)を誘導して、前記マトリックス中に萌芽(220)を作製するステップと、
前記一組のマンドレル(2)を引き抜くステップと、
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施して、毛細血管床の動脈端から静脈端への本来の血流を模倣し、その結果微小血管ネットワークが作製されるステップと
を含む方法。
【請求項2】
少なくとも1つの親血管(200)を作製する前記ステップが2つ以上の親血管を作製し、萌芽が吻合して毛細血管ネットワークを形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの親血管(200)をさらに作製する前記ステップが、灌流可能な血管の多次元的配置を作製することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記灌流物(204)が、血清及び血管新生促進物質又は血管新生抑制物質を含まない酸素化細胞増殖培地を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施す前記ステップが、血清、及び/又は血管新生に影響する化合物を補充した酸素化細胞増殖培地を含む灌流物(204)を用いることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施す前記ステップが、酸素化生理食塩液で灌流することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施す前記ステップが、酸素化した血液、血液成分、又は血液代用物で灌流することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施す前記ステップが、酸素化していない灌流物(204)で灌流することを含み、システムの酸素化が、前記マトリックスを介しての拡散により実現される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施す前記ステップが、少なくとも1つの血管新生を促進する化合物及び血管新生を抑制する化合物を灌流物(204)に添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施す前記ステップが、少なくとも1つの血管新生を促進する化合物及び血管新生を抑制する化合物を前記マトリックスに添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、灌流物(204)又は前記マトリックスに産物を放出する遺伝子改変細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記マトリックスが、フィブリン、コラーゲン、ゼラチン、ゲル化した基底膜、寒天、アガロース、アルギネート、基底膜タンパク質、シリカゲル、及びその組合せからなる群から選択される材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、内皮細胞、平滑筋細胞(SMC)、周皮細胞、ヒト細胞、動物細胞、植物細胞、幹細胞、遺伝子改変細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記マトリックス全体に分散し、又は局所的に集中しているヒト細胞、動物細胞、及び植物細胞からなる群から選択される細胞が前記マトリックスに存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
健康組織又は罹患組織の断片を前記マトリックスに埋め込む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
癌組織の断片を前記マトリックスに埋め込む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
静脈側の親血管(202)への流量を減少させ、動脈側の親血管(200)における抵抗を増大させることにより、流体の灌流物(204)を毛細血管(206)を介する経路に変更し、その結果、灌流物(204)がより高圧の血管からより低圧の血管へと流れる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記微小血管ネットワークが、生体人工微小血管、開存した内皮細胞チューブ、及び平滑筋細胞チューブのうち選択された1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
微小血管ネットワークが、前記灌流物(204)内に因子を放出する正常細胞又は遺伝子改変細胞からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの親血管(200)及び萌芽に内腔灌流を施す前記ステップが、灌流物(204)内に因子を放出する正常細胞又は遺伝子改変細胞を用いることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
in vitroにおいて、ヒト血管内皮細胞から内皮親血管を作製する方法であって、
内部ウインドウを有する培養機器を洗浄し滅菌するステップと、
滅菌条件下で、滅菌ストリップで容器の底面に前記培養機器を固定するステップと、
前記内部ウインドウを接着性タンパク質溶液で満たすステップと、
インキュベーション後、前記接着性タンパク質を含む溶液を除去するステップと、
培地中のヒト血管内皮細胞(EC)懸濁液を前記ウインドウ内に移すステップと、
前記培養機器の前記ウインドウ内で細胞培養懸濁液の懸滴を形成させるステップと、
前記容器を正立位に戻し、前記培養機器が浸るまでヒト血管内皮細胞(EC)用の増殖培地で満たすステップと、
マンドレル(2)に付着した細胞が広がり増殖し、ヒト血管内皮細胞の同心的単層を形成するまで、前記容器をインキュベータに留置するステップと、
前記培地を除去するステップと、
前記ウインドウをコラーゲン溶液で満たし固形化させることにより、前記マンドレルを細胞層に埋め込むステップと、
前記マンドレルをゆっくりと引き抜き、前記コラーゲンゲル内に萌芽するヒト血管内皮細胞の灌流可能な親微小血管を後に残すステップと、
ヒト血管内皮細胞増殖培地で灌流するステップと
を含む方法。
【請求項22】
前記接着性タンパク質溶液が、ラミニン−1、フィブロネクチン、フィブリン、及びゼラチンからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
組織を作製する方法であって、
複数のマンドレル(2)をフレーム上に並置するステップであって、所定の間隔を置いてマンドレル(2)同士が実質的に平行となり、前記複数のマンドレル(2)の各々の両端をチューブにより保持するステップと、
すべてのチューブの端部を1つの上流マニホールド及び1つの下流マニホールドに統合するステップと、
前記フレームを滅菌するステップと、
前記フレームをコーティングするステップと、
前記フレームに細胞懸濁液を播種するステップと、
各マンドレルに付着した前記細胞を増殖させ、個々の層が融合して組織になるまで環状層を形成させるステップと、
前記組織を増殖培地にさらすステップと、
前記マンドレル(2)を引き抜くステップと、
前記組織を灌流物(204)で灌流するステップと
を含む方法。
【請求項24】
前記灌流物がヘパリンを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が、ヒト平滑筋細胞(SMC)、内皮細胞(EC)、間質細胞、及びヒト血管内皮細胞からなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
in vitroにおいて、ヒト冠動脈代用物を作製する方法であって、
in vitroにおいて、ヒト冠動脈を形成するサイズのマンドレル上及びマンドレル周囲にヒト平滑筋細胞(SMC)を培養することにより細胞チューブを作製するステップと、
前記細胞チューブをマトリックス内に埋め込むステップと、
前記マンドレルを引き抜くステップと、
前記細胞チューブに内腔灌流を施すステップと
を含む方法。
【請求項27】
前記細胞チューブが内腔面を含み、培地内に播種することにより前記内腔面を内皮細胞でコーティングするステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞チューブが外表面を含み、培地内に播種することにより前記外表面を線維芽細胞でコーティングするステップをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記マンドレルが、4mm〜5.5mmの範囲にある内腔径を有する細胞チューブを形成するサイズである、請求項26に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【公表番号】特表2009−531067(P2009−531067A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503125(P2009−503125)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【国際出願番号】PCT/US2007/063708
【国際公開番号】WO2007/112192
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(509121879)ノーティス,インク. (3)
【Fターム(参考)】