説明

火葬用のセラミック製棺受

【課題】 環境衛生上の問題のないセラミック製の棺受であって、棺に対する火の通りを確保して火葬時間の短縮を図ることができ、しかも火葬中の熱による亀裂や破損が少なく信頼性に優れたセラミック製棺受を提供する。
【解決手段】 4本の柱状体で構成された矩形枠状の台部10と2つの脚部11、12とからなるセラミック製棺受であり、脚部11、12が台部10の対向する両端にそれぞれ柱状体を共有して一体的に連結され且つ台部10に対し直角方向下方に突き出た構造を有している。台部10は矩形の開口10a、及び脚部11、12は矩形の開口11a、12aを有し、台部10と脚部11、12の連結部分の内側はセラミックで肉盛されると共に、一部又は全ての角が面取りされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体を納めた棺を台車に載せて火葬炉に搬送する際に、棺と台車との間に配置する棺受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、台車式の火葬炉で火葬を行う際には、遺体を納めた棺を台車に載せ、その台車を火葬炉に搬送して火葬を行っている。その際、火葬時間を短縮するために、台車と棺の間に棺受を配置して棺を台車から10cm程度上方に保持することにより、棺全体への火の通りを確保している。
【0003】
従来の棺受は耐熱金属からなり、棺全体への火の通りを確保するため空隙の多い構造となっていた。例えば図5に示すように、2本の棒状支持体1、1の両端部を曲折させて棒状脚部1a、1bとし、この略コ字状に形成した2本の棒状支持体1、1を平行に配置して、その間に複数の短い横棒2、2、2を掛け渡して固定した構造のものが代表的であった。
【0004】
しかし、上記した従来の棺受を構成する耐熱金属にはクロムが含まれていることが多いため、火葬中の高温の下で遺体から発生するナトリウムやカリウムがクロムと反応して有毒の6価クロムが生成する場合があり、環境衛生上好ましくないとされていた。この問題に対し、最近ではクロムを含まないセラミック製の棺受が検討されている。
【0005】
セラミック製の棺受としては、例えば特許文献1(特開2008−051461号公報)に記載されるように、キャスタブル耐火物等の耐火材で構成され、棺を載せる上側平面部が略矩形で所定の高さを有し、内部が充実した無垢の棺受が知られている。しかしながら、セラミック製の無垢の棺受は亀裂や破損が生じやすいうえ、棺あるいは遺体に対して、特に棺の下側に対して火の通りが悪いために、火葬に要する時間が長くかかるという不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−051461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、環境衛生上の問題がないセラミック製の棺受であって、棺あるいは遺体に対する火の通りを確保して火葬時間の短縮を図ることができ、しかも火葬中の熱による亀裂や破損が少なく信頼性に優れたセラミック製棺受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供するセラミック製棺受は、全体がセラミック質の耐火物からなる棺受であって、4本の柱状体で構成された矩形枠状の台部と2つの脚部とからなり、該脚部が該台部の対向する両端にそれぞれ柱状体を共有して一体的に連結され且つ該台部に対し直角方向下方に突き出た構造を有し、これら台部と脚部の連結部分の内側がセラミックで肉盛されると共に、一部又は全ての角が面取りされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセラミック製棺受は、複数の柱状体を組み合わせて構成した各方向に開口している空間の多い構造であるため、火葬炉の火が台部と両側の脚部との間の連通穴を通り、更に台部の開口や脚部の開口を通って容易に棺の下面側にも達するので、棺受に接していない棺の上面側や側面側を含めて、棺に対する火の通りを十分に確保することができ、従って火葬時間の短縮を図ることができる。
【0010】
しかも、本発明のセラミック製棺受は、台部と両側の脚部を矩形枠状の特殊な形状とし、台部と脚部の連結部分の内側をセラミックで肉盛すると共に、台部及び脚部の全ての角を面取りすることによって、火葬中の熱による亀裂や破損の発生を抑制することができるので、セラミック製であっても信頼性に優れ且つ長期間の使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明によるセラミック製棺受を示す概略の斜視図である。
【図2】本発明によるセラミック製棺受の一具体例を示す平面図である。
【図3】本発明によるセラミック製棺受の一具体例を示す正面図である。
【図4】本発明によるセラミック製棺受の一具体例を示す側面図である。
【図5】従来の金属製の棺受を示す概略の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるセラミック製棺受の構造について、その代表例を示す図1に基づいて説明する。本発明のセラミック製棺受は、中央に矩形の開口10aを有する矩形枠状の台部10と、中央に矩形の開口11a、12aを有する矩形枠状の2つの脚部11、12とからなる。台部10と2つの脚部11、12は共に4本の柱状体で矩形枠状に構成されていて、脚部11、12は台部10の対向する両端にそれぞれ柱状体を共有する(即ち、柱状体の数は全体で10本)ように一体的に連結され、且つ台部10に対して直角方向下方に向かって突き出た構造となっている。
【0013】
従って、本発明のセラミック製棺受は、台部10と両側の脚部11、12とが共に矩形枠状で開口10a、11a、12aを有し、且つ台部10と両側の脚部11、12との間が空洞になっていて遮蔽物がないため、この空洞からなる連通穴13内を火葬炉の火が通るようになっている。連通穴13内に入った火葬炉の火は、台部10の開口10aを通して台部10上に載置された棺の底面に達し、更には両側の脚部11、12の開口11a、12aを通して棺の底面や側面に達するため、棺あるいは遺体に対する火の通りを十分に確保することができる。
【0014】
また、一般的にセラミック製の棺受は、火葬後の赤熱した棺受の取り外し作業や火葬前の台車上への配置作業などのハンドリング作業中に破損しやすく、火葬の際の熱衝撃によっても亀裂が生じやすいという問題がある。しかし、本発明のセラミック製棺受は、上記したように台部10及び両側の脚部11、12を共に矩形枠状とする構造をとることによって、ハンドリング作業中の衝撃による破損を防ぐだけでなく、火葬の際に火の通り具合によって部分的に異なる熱衝撃を分散させ、亀裂の発生を抑えることができる。
【0015】
更に、本発明のセラミック製棺受では、強度及び耐熱衝撃性を向上させるために、矩形枠状の台部と2つの脚部を構成する各柱状体の連結部分の内側は全て、柱状体部分と同一のセラミック質耐火物で肉盛りされている。具体的に図2〜4を参照して説明すると、台部10と脚部11及び脚部12との連結部分の内側、台部10及び脚部11、12の各開口10a、11a、12aの連結部分の内側は、全て柱状体部分と同一のセラミック質耐火物で肉盛されている。肉盛の厚さについては特に限定されないが、肉盛部分の曲率半径Rが15〜25mmとなるように肉盛することが好ましい。
【0016】
また、矩形枠状の台部10と2つの脚部11、12を構成する各柱状体の角の面取りについては、脚部11、12の下端縁の角を含めて現れている角は全て面取りすることが好ましい。ただし、セラミック製棺受の外側に面する角が面取りされていれば、即ち矩形の開口10a、11a、12aの内周縁(外側と内側を含め)の角は面取りされていなくても、実用上ほとんど支障ない程度の強度及び耐熱衝撃性を得ることが可能である。尚、上記面取りについても、曲率半径Rが15〜25mmとなるように面取りすることが好ましい。
【0017】
本発明のセラミック製棺受の寸法は、台部10と脚部11、12を構成する柱状体の最大幅aが20〜40mmであって、棺受の外側最大寸法は縦bが120〜160mm、横cが120〜160mm、高さdが80〜150mmの範囲が好ましい。柱状体の最大幅a(即ち、台部と脚部の厚さ)が20mm未満になると強度が不足し、逆に40mmを超えると台部10と脚部11、12に設ける矩形の開口11a、11bの大きさが小さくなり、火の通りが悪くなるため好ましくない。
【0018】
また、縦b又は横cが120mm未満では多くの棺受が必要となり、160mmを超えると棺受が破損し易くなるため好ましくない。また、高さdが80mm未満では火の通りを確保できず、150mmを超えると破損しやすくなうえ、火葬炉によっては棺が炉内に入らなくなる場合がある。尚、上記した棺受の外側最大寸法は、機械的及び熱的強度の確保だけでなく、取り扱いやすさ並びに一般的な棺の大きさを考慮して、例えば棺及び台車の幅方向に2個且つ長さ方向に4〜6個の棺受を配置できるように定めたものである。
【0019】
本発明のセラミック製棺受は、全体がセラミック質の耐火物からなり、好ましくはセラミックを主成分とするプレキャスタブル耐火物で構成されている。具体的な製造方法としては、キャスタブル耐火物を原料とする公知のキャスティング法があり、具体的には、主成分のセラミック粉末と硬化材を含むキャスタブル耐火物に水を加え、得られたスラリーを金属製又は木製の型に鋳込み、硬化後脱型し、乾燥して焼成する。
【0020】
上記した方法により、肉盛部分を含めて同一のセラミック質耐火物からなり且つ一部又は全ての角が面取りされている、本発明の特有の構造を備えたセラミック製棺受を得ることができる。尚、上記方法により棺受を製造する際に、型による成型時に全ての角に面取りを施すことが難しい場合には、得られた棺受に残っている一部の角に対して、必要に応じて研削などの手段により後から面取りを施すことも可能である。
【0021】
上記セラミック質耐火物の主成分であるセラミックの材質としては、アルミナ(Al)質、アルミナ・シリカ(Al・SiO)質、炭化ケイ素(SiC)質、窒化ケイ素(Si3N4)質、コージェライト+ムライト質、チタン酸アルミニウム質などを使用することができる。その中でも、製造が容易な点でアルミナ質、アルミナ・シリカ質、炭化ケイ素質のいずれかが好ましく、更に熱膨張を抑えることができる点でアルミナ・シリカ(Al・SiO)質が特に好ましい。
【0022】
本発明のセラミック製棺受は、火葬炉で使用する際には、台車上に複数個並べて配置し、その上に遺体を納めた棺を載置する。台車上に配置するセラミック製棺受の数は、その上に棺を安定して載置できれる状態であればよく、使用する棺受の大きさによって異なる。例えば、2個のセラミック製棺受を脚部同士が隣り合うように横に並べて一対とし、これを台車の長さ方向に沿って4〜6対程度を等間隔に配置することが一般的である。
【0023】
また、セラミック製棺受は台車上に特定の方向に向けて配置することが好ましい。即ち、図1を参照すると、2つの脚部11、12を結ぶ方向が火葬炉での火の噴出し方向に対して直角となるように、即ち棺受の連通穴13の向きが火葬炉の火の噴出し方向と一致するように配置する。このような向きに配置することによって、火葬炉の火は棺の上側及び両側だけでなく、棺受の連通穴13や開口10a、11a、12aを通って棺の下側や両側などにも達するようになるため、従来の無垢のセラミック製棺受に比べて火葬に要する時間を大幅に短縮することができる。
【実施例】
【0024】
アルミナ粉末63重量%及びシリカ粉末34重量%と硬化材(セメント成分)からなるキャスタブル耐火物に水を加え、得られたスラリーを所定の型に鋳込んで硬化させた後、脱型して乾燥し、更に1300℃程度の温度で焼成することにより、図2〜4に示すように、全て同一の最大幅を有する10本の柱状体から構成された形状のセラミック製棺受をキャスティング法により製造した。
【0025】
即ち、得られたセラミック製棺受は、共に4本の柱状体で構成された矩形枠状の台部10と2つの脚部11、12とからなり、脚部11と脚部12は台部10の対向する両端にそれぞれ柱状体を共有するように一体的に連結され且つ台部10に対し直角方向下方に突き出た構造を有している。また、この棺受の台部10は中央に矩形の開口10aを有し、2つの脚部11、12は中央にそれぞれ矩形の開口11a、12aを有している。
【0026】
上記セラミック製棺受の寸法は、厚さ(柱状体の最大幅a)が30mmであり、縦b及び横cが共に150mm、高さdが120mmである。台部10と2つの脚部11、12の連結部分の内側は、曲率半径がR20となるように同種のセラミックで肉盛されている。また、矩形の開口10a、11a、12sの内周縁の角及び脚部11、12の下端縁の角を含めた全ての角は、曲率半径Rが20mmとなるように面取りが施されている。
【0027】
上記セラミック製棺受を10個用意し、脚部11、12同士が隣り合うように横に並べて1対とした。その5対の棺受を、各対が台車の長さ方向に対し直角となる向きで、台車の長さ方向に沿って等間隔に並べて台車上に配置した。この台車上に配置した棺受の上に棺を載せ、実際に火葬を行った。尚、台車上に載せた10個の棺受は、台車上で傾いたりすることはなかった。
【0028】
実際に火葬を行ったところ、棺受に亀裂や破損の発生はなく、実用上問題なく使用することができた。また、棺受の連通穴13の向きを台車の長さ方向と一致する方向、即ち火葬炉の火の噴出し方向に向けて配置して使用することにより、棺に対してあらゆる方向から火葬炉の火を通すことができるため、図5に示す従来の耐熱金属製の棺受を用いた場合と比べて火葬時間が数分長くなる程度であり、従来のセラミック製棺受に比べて遥かに短い時間で火葬することができた。
【符号の説明】
【0029】
1 支持体
1a 棒状脚部
2 横棒
10 台部
10a 開口
11、12 脚部
11a、12a 開口
13 連通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体がセラミック質の耐火物からなる棺受であって、4本の柱状体で構成された矩形枠状の台部と2つの脚部とからなり、該脚部が該台部の対向する両端にそれぞれ柱状体を共有して一体的に連結され且つ該台部に対し直角方向下方に突き出た構造を有し、これら台部と脚部の連結部分の内側がセラミックで肉盛されると共に、一部又は全ての角が面取りされていることを特徴とするセラミック製棺受。
【請求項2】
前記台部と脚部を構成する柱状体の最大幅が20〜40mmであって、前記棺受の外側最大寸法が縦120〜160mm、横120〜160mm、高さ80〜150mmであることを特徴とする、請求項1に記載のセラミック製棺受。
【請求項3】
前記セラミックスの材質がアルミナ質、アルミナ・シリカ質、炭化ケイ素質のいずれかであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセラミック製棺受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−127797(P2011−127797A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284737(P2009−284737)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000141808)株式会社宮本工業所 (22)
【出願人】(391029509)イソライト工業株式会社 (24)