説明

炉心バレル上の注入延長ダクトを備える安全注入システム

【課題】原子炉容器内部の冷却水水位の過度な低下を防止できる新しい非常炉心冷却水の注入延長ダクトを提供すること。
【解決手段】直接注入ノズル24と、炉心バレル12外面に設置される注入延長ダクト26とは、降水部16において互いに対向する。直接注入ノズル24と注入延長ダクト26の間の配管連結部位は、完全に離間する。直接注入ノズル24に対向する注入延長ダクト26表面部分に、非常炉心冷却水取水口28を形成する。直接注入ノズル24から噴射される非常炉心冷却水の水ジェットは、非常炉心冷却水取水口28から注入延長ダクト26内部に流入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧軽水炉型原子炉において、高圧安全注入ポンプや安全注入タンクから供給される非常炉心冷却水を原子炉容器の降水部に直接注入する方式の非常炉心冷却システムに関する。特に大型低温管の破断事故時に発生する強い降水部横流動の影響を受けて非常炉心冷却水が原子炉外部に排出されるという、非常炉心冷却水の直接迂回排出現象を遮断するために降水部に配置される注入延長ダクトの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
加圧軽水炉型原子炉を利用した原子力発電所は、十分な安全余裕度を考慮して設計されるにもかかわらず、予想とは異なって安全事故が発生し得る。大量の冷却水が漏水する安全事故時に非常炉心冷却水が十分に供給されなければ、原子炉炉心が過熱されて、原子炉が損傷する事故に進行する。加圧軽水炉型原子炉は、このような冷却水漏水事故時に炉心を冷却させるために、非常炉心冷却水が外部から供給されるように高圧安全注入ポンプと安全注入タンクをそれぞれ具備する。このような非常炉心冷却水の供給方式は、最終注入ノズルの位置によって区分される。すなわち最終注入ノズルが低温管に配置される低温管注入方式と、原子炉容器に最終注入ノズルが配置される直接注入方式とが挙げられる。
【0003】
つまり低温管注入方式は、原子炉冷却材循環システムの循環ポンプから原子炉容器中に冷たい軽水を供給する配管である低温管に注入管を連結し、そして注入管から非常炉心冷却水を原子炉システムに供給する方式である。しかし低温管注入方式では、破断した低温管に非常炉心冷却水が供給される場合、破断部位で非常炉心冷却水がすべて漏出するため、原子炉炉心冷却効果を期待しにくいという短所がある。従って現在では、原子炉容器に非常炉心冷却水を供給する直接注入ノズル(Direct Vessel Injection nozzle;DVI)を設置する。そして直接注入ノズルから、原子炉容器と、炉心を支持する炉心支持部との間の降水部に、直接に非常炉心冷却水を供給する原子炉容器直接注入方式が採択される。
【0004】
しかし原子炉容器直接注入方式でも、非常炉心冷却水の直接迂回現象が増加するという問題点がある。非常炉心冷却水の直接迂回現象とは、低温管破断事故時に、破断した低温管に向かう降水部における強い横流動によって非常炉心冷却水が導かれ、非常炉心冷却水が原子炉容器外部に排出される現象である。図1〜図4は、このような非常炉心冷却水の直接迂回現象を防止するための従来技術を示す。図1に示す特許文献1(James D.Carlton等)では、降水部140において炉心バレル100の外面に、注入延長ダクト110を設置する。また図2に示す特許文献2(James D.Carlton等)では、炉心バレル100の内部におけるバッフル領域に、注入延長ダクト110’を設置する。これら注入延長ダクト110,110’は、降水部140を横切るパイプ130を介して、直接注入ノズル120に連結する。
【0005】
しかし、図1や図2のようにパイプ130を利用して降水部140において直接注入ノズル120を注入延長ダクト110,110’に連結する従来方式では、降水部140自体が狭いため連結部品の設置が難しい。更に原子炉容器と炉心バレル100の組立時に、それぞれの突出部位が相互干渉する問題がある。またこのような従来技術では、大型低温管150の破断事故時には、非常炉心冷却水を降水部140の下部や炉心入口まで効果的に注入できる。しかし、直接注入ノズル120の配管自体が破断する事故時には、図1と図2に非常炉心冷却水の流れを矢印で示すように、サイホン効果によってむしろ注入延長ダクト110,110’の下部出口が、破断流160,160’の吸入口として機能するという冷却水流れの逆転現象が発生することが知られている。つまり原子炉容器内部の冷
却水水位が、注入延長ダクト110,110’の長さだけ低下する。よって炉心被覆管の温度が急激に上昇し、その結果、安全規定をパスできない問題があることが知られている(特許文献3参照)。
【0006】
図3は、これらの従来技術に類似する特許文献4を示す。降水部240において炉心バレル200の外面には、注入延長ダクト210を設置する。降水部240を横切る突出ノズル230,230’によって、直接注入ノズル220を注入延長ダクト210に相互連結する。つまり降水部240において直接注入ノズル220を注入延長ダクト210に、パイプによっては直接連結しない。相互に突出した突出ノズル230,230’を互いに対向させるように配置して、少しの隙間を設ける。しかし図3の従来技術でも、狭い降水部240に突出した突出ノズル230,230’が、原子炉容器と炉心バレル200の組立時に相互干渉し、組立を難しくする。つまり原子炉容器の下部に設置された中性子監視カプセルを、定期的に引出検査する時に使用する孔が、突出ノズル230,230’に重なる。このため、作業が不可能になる問題がある。また直接注入配管システムの破断事故時には、注入延長ダクト210の上部に位置する突出ノズル230,230’間の隙間が狭くて破断流の吸入は大きくないとしても、図3の矢印で破断流260を示すように相変わらず注入延長ダクト210の最下部出口が吸入口に逆転する入出口逆転現象が生じうる。つまり原子炉容器内部の冷却水水位が、注入延長ダクト210の最下部まで顕著に下がる問題点がある。
【0007】
図4は特許文献5の技術を示し、90度の垂直エルボ320を利用して、直接注入ノズル出口を降水部330に垂直に注入することを開示する。しかし非特許文献1によれば、垂直エルボ320の占有空間が、ほとんど降水部330の隙間と同じ大きさであり、原子炉容器300と炉心バレル310の組立を不可能にさせることが明らかにされた。更に非常炉心冷却水迂回実験の結果、このような単純垂直注入ではむしろ非常炉心冷却水の直接迂回割合が増大し、熱水力的効果がほとんどないことが明らかにされた。
【0008】
つまり前記のような従来技術では、非常炉心冷却水の注入管が破断(DVI Line
Break)すると、サイホン効果によって延長パイプの最下部出口が破断流動の吸入口になるという逆転現象が発生する。よって原子炉内部の冷却水水位は持続的に低くなり、延長パイプの最下部出口またはそれ以下まで下がる。原子炉内部の冷却水水位が低くなって原子炉の炉心(Core)が露出する事態が誘発すると、原子炉炉心の冷却に大きな不都合を招来する。
【0009】
以上のような従来技術の共通的な技術的問題点は、直接注入ノズルを注入延長ダクトに降水部領域において相互連結させる連結構造に起因することが大部分である。従って原子炉容器と炉心バレルの組立性を向上させて、稼動中の検査作業上の構造物干渉を回避して、直接注入管の配管破断事故時に注入延長ダクトの入出口逆転現象を遮断することが求められる。更に中性子監視カプセルの引出口と注入延長ダクトまたは突出ノズル部位間の干渉など、諸般の問題を解決する新しい構造を有する注入延長ダクトの概念が求められる。
【特許文献1】米国特許第5,377,242号明細書
【特許文献2】米国特許第5,135,708号明細書
【特許文献3】韓国特許出願公開第10−2005−0022413号明細書
【特許文献4】韓国特許出願公開第10−2000−0074521号明細書
【特許文献5】韓国特許出願公開第10−2003−0064634号明細書
【非特許文献1】NED Vol.225,“Effect of the yaw injection angle on the ECC bypass in comparison with the horizontal injection”,T.S.Kwon等,2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
つまり、非常炉心冷却水を加圧軽水炉型原子炉の原子炉容器の降水部に直接注入する非常炉心冷却水直接注入方式には、以下の第1要求事項〜第4要求事項が要求される。
第1要求事項:非常炉心冷却水の注入システムは、大型低温管の破断事故時に発生する降水部における高速蒸気横流動によって非常炉心冷却水が迂回排出される現象を遮断すること。その結果、多量の非常炉心冷却水を降水部下部から炉心入口に供給すること。
【0011】
第2要求事項:直接注入システム配管の破断事故時にも適用可能なこと。つまり注入延長ダクトの最下部地点に位置する非常炉心冷却水注入出口が、破断流の吸入口に逆転する現象を防止すること。その結果、原子炉容器の冷却水水位が顕著に減少する現象を防止すること。
【0012】
第3要求事項:降水部に設置する注入延長ダクトは、横流動抵抗を増加させず、流動誘発震動も増加させないこと。
【0013】
第4要求事項:注入延長ダクトと直接注入ノズルの連結部品は、降水部において原子炉容器と炉心バレルの組立干渉を発生させないことと。同時に、中性子監視カプセルの引出口とも相互干渉を起こさないこと。そうすれば実際の適用が可能であり、原子炉の設計認証と運転中の継続検査をパスできる。
【0014】
従って本発明は、以下のような加圧軽水炉への非常炉心冷却水の注入延長ダクトを具備した注入システムを提供する。つまり低温管破断事故時に発生する降水部における高速蒸気横流動によって非常炉心冷却水が迂回排出される現象を遮断する。同時に、注入延長ダクトの入出口逆転現象を防止する。その結果、大型冷却材喪失事故と直接注入システム配管の破断事故時との両方に適用可能な注入延長ダクトを新たに考案する。更に原子炉組立作業と中性子監視カプセル周期的検査作業とに干渉なく、横流動抵抗を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による炉心バレル注入延長ダクトを具備した安全注入システムは、加圧軽水炉型原子炉の高圧安全注入ポンプや安全注入タンクから供給される非常炉心冷却水を、原子炉容器の降水部に直接注入する方式の非常炉心冷却システムに関する。特に本発明の降水部注入延長ダクト技術は、大型低温管の破断事故時に強い降水部横流動によって導かれて非常炉心冷却水が、原子炉容器外に排出される非常炉心冷却水の直接迂回排出現象を遮断する。
【0016】
すなわち本発明は、降水部において互いに対向する直接注入ノズルと炉心バレル外面に設置される注入延長ダクトとの間の配管連結部位を完全に除去することによって、従来技術で発生した原子炉組立干渉問題を防止した。更に直接注入システムの配管破断事故時に発生する入出口逆転現象も防止した。よって、原子炉容器内部の冷却水水位の過度な低下を防止できる新しい構造の非常炉心冷却水降水部注入延長ダクト概念を具現した。
【0017】
本発明では、降水部で直接注入ノズルと注入延長ダクトの間をパイプや突出ノズルを利用して相互機械的に直接連結することはせず、降水部空間において直接注入ノズルに対向する非常炉心冷却水入出口を注入延長ダクトに形成する構成を採択した。図5に示すように、本発明は注入延長ダクトと直接注入ノズルの間が配管を媒介にして機械的に連結しないが、直接注入ノズルの軸線から延長され交差する位置の注入延長ダクト表面の部分に、直接注入ノズルから噴射される非常炉心冷却水取水口を開ける。その結果、非常炉心冷却水の水ジェットが注入延長ダクト内部に流入するための構造の水力的連結方式を有するということを最大の技術的特徴とする。
【0018】
高圧安全注入ポンプや安全注入タンクから供給される非常炉心冷却水が直接注入ノズルを通過して原子炉容器の降水部に注入される時に形成される水ジェットの速度は、高速である。このため、別途の連結配管や突出ノズルを通過して直接注入ノズルと注入延長ダクトを機械的に連結させなくても、噴射された非常炉心冷却水のモメンタムによって直接注入ノズルと注入延長ダクトの間の降水部空間を横切って流れることができるジェット流が形成される。従って直接注入ノズルは注入延長ダクトに水力的に連結される。また注入延長ダクト内部に、完全に入って行くことができずに降水部に落ちる非常炉心冷却水の一部も、相変らず原子炉容器の降水部に蓄積されるため原子炉炉心の冷却に寄与する。
【0019】
結果的に本発明は、非常炉心冷却水が注入されない正常な運転状態では直接注入ノズルと注入延長ダクトがそれぞれ降水部に開放されていて、非常炉心冷却水が注入噴射される時にのみ水ジェットで連結される。このため降水部に存在する連結構造物による原子炉容器と炉心バレル間の組立干渉問題を解決できる。更に原子炉容器の降水部に付着して周期的に引出して検査される中性子監視カプセルの引出口と、注入延長ダクトとの間の干渉問題も基本的に解決できる。
【0020】
図6に示すように、本発明による炉心バレル注入延長ダクトを具備した安全注入システムでは、非常炉心冷却水の直接注入システムの配管自体が破断する事故時、非常炉心冷却水の水ジェットが存在しない。このため直接注入ノズルと注入延長ダクト間の水力的連結部品は自然的に連結が切れて、結果的に連結が切られた降水部領域の冷却水だけが直接注入ノズルを通過して原子炉容器の外部に排出される。
【0021】
たとえば直接注入ノズルと注入延長ダクト間がパイプやノズルによって機械的に連結された従来技術では、原子炉容器外に排出される冷却水の吸入口が注入延長ダクトの最下部地点になる。しかし本発明では、冷却水の排出吸入口が直接注入ノズル部位に限られるため、従来技術に比べて注入延長ダクト長さ程度、吸入口高さが更に高くなる効果を有する。排出吸入口高さが更に高くなるということは、原子炉容器内部の過度な冷却水水位低下を防止するのに大きく寄与する構造的長所を有することを意味する。
【0022】
図5に示すように、本発明による炉心バレル注入延長ダクトを具備した安全注入システムは、従来の四角形断面の注入延長ダクトの側面に傾斜を持たせる。よって降水部の横流動抵抗を低減させるように考案された。低温管ジェットなどの横流動抵抗が減少すると、流動震動撹乱要素の大きさが減少する。
【0023】
従って本発明は、大型低温管の破断事故時と、直接注入システム配管の破断事故時とのどちらにも適用可能な、降水部への直接注入用の注入延長ダクトを具備した加圧軽水炉型原子炉安全注入システムを提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明による炉心バレル注入延長ダクトを具備した安全注入システムは、大型低温管の完全破断時における非常炉心冷却水の直接迂回排出現象を防止できる。更に多量の非常炉心冷却水を炉心の冷却に寄与できる。非常炉心冷却水の直接注入システムの配管破断時には、注入延長ダクトの最下部出口地点における入出口逆転現象を防止でき、降水部冷却水の著しい水位低下を防止できる。
【0025】
また本発明は、従来の四角形断面の注入延長ダクトの側面に傾斜を持たせることによって、降水部の横流動誘発流動抵抗を減少させる。更に原子炉容器に設置される直接注入ノズルと、降水部炉心バレルに設置される注入延長ダクトとの間の連結構造物を除去した。その結果、原子炉容器と炉心バレルの間の組立干渉と中性子監視カプセルの引出干渉を排
除した。このような非常炉心冷却水注入システムの注入延長ダクト技術を提供することによって、原子炉の安全性と安全規制要件を充分に満足できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図5〜図11は、本発明による実施形態を示す。
【0027】
図7(b)に示すように、加圧軽水炉型原子炉は原子炉容器10、炉心バレル12、および炉心(Core)14を有する。炉心バレル12の直径は原子炉容器10の直径よりも小さく、原子炉容器10の中心に配置される。炉心バレル12の内部には、炉心14が配置される。炉心14には核燃料棒が装入される。炉心バレル12と原子炉容器10の間には、炉心バレル12と原子炉容器10の直径差によって、環形の空間である降水部16が区画形成される。
本発明による炉心バレル12上の注入延長ダクト26を具備した安全注入システムは、非常炉心冷却水を降水部16に直接注入する方式を採択する。
図7(a)に示すように、複数の低温管(Cold Leg)20と複数の高温管(Hot Leg)22が原子炉容器10に設けられる。本実施形態では、4個の低温管20と2個の高温管22が原子炉容器10に形成される。各々の低温管20は、原子炉の正常運転時に、原子炉冷却水の循環経路の入口として機能する。各々の高温管22は、低温管20を通過して流入して降水部16を経て炉心14を経ながら加熱された冷却水を、蒸気発生器の方に流れるようにする出口として機能する。各々の高温管22は、炉心バレル12に連結される。本実施形態では、低温管20と高温管22の間の角度は、60度に設定される。
【0028】
図7(a)と図7(b)に示すように、本発明の非常炉心冷却システムは、直接注入ノズル24と注入延長ダクト26を備える。直接注入ノズル24は、原子炉を構成する原子炉容器10の上部に付着する。非常炉心冷却水の注入延長ダクト26は、降水部16を間に置いて直接注入ノズル24に対向するように、炉心バレル12外面に設置される。
【0029】
注入延長ダクト26の外面には、非常炉心冷却水取水口28が貫通形成される。非常炉心冷却水取水口28の原点は、直接注入ノズル24の軸線Lcと、注入延長ダクト26の外面との交点に設定される。非常炉心冷却水取水口28の直径は、直接注入ノズル内径(DDVI)の約2倍の大きさに設定される。このような本発明の構成によると、直接注入ノズル24と注入延長ダクト26(特に、非常炉心冷却水取水口28)の間には、いかなる導管構造物も設置されない。すなわち直接注入ノズル24と注入延長ダクト26の間は、機械的に完全に分離する。
【0030】
このように本発明による炉心バレル12の注入延長ダクト26を具備した安全注入システムによると、加圧軽水炉型原子炉が正常に運転されて直接注入ノズル24から非常炉心冷却水が供給されない時、直接注入ノズル24と注入延長ダクト26は熱水力的に分離している。つまり構造上、直接注入ノズル24と注入延長ダクト26の間の降水部16には、何らの導管構造物が存在しない。このため原子炉容器10と炉心バレル12の間の組立干渉と、中性子監視カプセルの引出干渉は、発生しない。
【0031】
しかし、図5に示すように、低温管20の完全破断事故の発生時、直接注入ノズル24を通過して注入される非常炉心冷却水の水ジェット34の速度は、安全注入タンクからの注入時には約22m/秒の高速に至り、高圧安全注入ポンプからの注入時には約1.6m/秒の高速に至る。このような水ジェット速度を有する非常炉心冷却水の水平慣性力は、非常炉心冷却水が直接注入ノズル24から降水部16を横切って非常炉心冷却水取水口28に入って行くのに十分な大きさである。従って非常炉心冷却水の注入時にのみ形成される水ジェット34は、直接注入ノズル24を注入延長ダクト26に熱水力的に連結する。
【0032】
図5に示すように、注入延長ダクト26に注入された非常炉心冷却水は、重力と非常炉心冷却水の流動モメンタムとによって、降水部16の下部に流れ落ちる。注入延長ダクト26の壁面は、大型冷却材喪失事故時に注入延長ダクト26の内部において降水部16の下部に向かって流れ落ちる非常炉心冷却水を、図5の太線の矢印で示す降水部16における高速横流動36から保護する。また注入延長ダクト26内部に入り切れずに降水部16に落ちる非常炉心冷却水が一部存在しても、そのような注入延長ダクト26に入り切れなかった非常炉心冷却水は、降水部16に蓄積され、炉心14の冷却に引続き寄与できる。
【0033】
図6に示すように、直接注入ノズル24に連結された配管の破断事故が発生した場合、破断した配管に連結する直接注入ノズル24には、安全注入タンクなどから非常炉心冷却水が注入されない。つまり非常炉心冷却水の水ジェット34は形成されない。つまり直接注入ノズル24は注入延長ダクト26から熱水力的に分離する。このため、直接注入ノズル24付近の降水部16の領域の冷却水のみが破断流38として流出するという好ましい結果をもたらす。
【0034】
仮に直接注入管配管自体が破断する事故時にも直接注入ノズル24と注入延長ダクト26が相変らず連結されると仮定すると、サイホン効果が発生する虞がある。つまり注入延長ダクト26の最下部の出口が、破断流の吸入口になるように逆転する現象が生じる虞がある。よって原子炉容器10内部の冷却水の水位が、注入延長ダクト26の長さ程度だけ顕著に下がる虞がある。しかし本発明では、注入延長ダクト26の最下部の出口は、吸入口に逆転する現象は発生しない。このため図6に示すように、注入延長ダクト26の最下部から注入延長ダクト26長さだけ高い位置において互いに対向する直接注入ノズル24と注入延長ダクト26のみにおいて、破断流38の流出が成立するだけである。
【0035】
従って本発明の原子炉容器10における冷却水の水位は、直接注入ノズルを注入延長ダクトに配管で機械的連結させた従来構造とは異なり、降水部16の水位を高く維持できる。よって降水部16と炉心14の間の水位差を大きく維持でき、降水部16から炉心14に流れる冷却水の量が増加する。よって炉心14を効果的に冷却できる。
【0036】
図7(a)に示すように、本実施形態では平面視において、低温管20と直接注入ノズル24の間の第1角度αは、高温管22と直接注入ノズル24の間の角度よりも小さい。第1角度αは、低温管20の軸線Laと、直接注入ノズル24の軸線Lcとの間の角度である。図8は本発明の変形例を示し、高温管22と直接注入ノズル24の間の第2角度βは、低温管20と直接注入ノズル24の間の角度よりも小さい。第2角度βは、高温管22の軸線Lbと、直接注入ノズル24の軸線Lcとの間の角度である。図7と図8の両方において、低温管20と高温管22の間の角度は、60度に設定される。
【0037】
図7(a)の場合、軸線Lcと低温管20の間の角度は、第1角度αよりも小さいことが好ましい。また図8の場合、軸線Lcと高温管22の間の角度は、第2角度βよりも小さいことが好ましい。原子炉容器10の外部において、図7の第1角度αと、図8の第2角度βとの間の部分は、垂直(上下方向)に動く炉外監視機の移動経路である。よって、注入延長ダクト26から隣の高温管22までの距離を考慮すると、第1角度αは15度以下が好ましく、第2角度βは35度以下が好ましい。このように直接注入ノズル24と注入延長ダクト26を配置すれば、炉外監視機の移動を邪魔しない。
【0038】
図9(a)〜図9(c)は、注入延長ダクト26を詳しく示す。注入延長ダクト26の最下部は開放した形状である。図9(b)に示すように、注入延長ダクト26の最上部は蓋29によって塞がれた形状を有する。注入延長ダクト26の最上部の蓋29は、原子炉の充水時にガス排出を許容すべくエアベントホール30を有する。図9(c)に示すよう
に、直接注入ノズル24に対向する軸線Lc上の注入延長ダクト26の表面の部分には、非常炉心冷却水取水口28が貫通形成される。
【0039】
図11に示すように、非常炉心冷却水取水口28の直径DDUCTは、直接注入ノズル24の内径DDVIよりも約2倍程度に大きく設定される。この設定は直接注入ノズル24からの非常炉心冷却水のジェット流が広がることと、ジェット流の流速が遅い場合にジェット流が重力によって撓む程度とを考慮して決定される。その結果、非常炉心冷却水は注入延長ダクト26内部に好適に流入する。
【0040】
図9(a)に示すように、注入延長ダクト26の両側面には、横方向に対して約45度で傾いた傾斜部32が形成される。傾斜部32は、従来技術の横側面が横方向に対して90度であって注入延長ダクトに比べて、降水部16付近の横流動抵抗を減少できる。
【0041】
注入延長ダクト26が炉心バレル12の表面から原子炉容器10に向かって突出する突出量hは、図11に示す降水部16の直径方向寸法Gapに対する比率が約3/25〜7/25の範囲の大きさになるように制限することが好ましい。この理由は注入延長ダクト26の突出量hが、図11に示す原子炉容器10の上部整列キー部分の最小内径RKEYと、図7(a)に示す高温管22部分の原子炉容器10の内径RHLとの間の差よりも小さければ、原子炉容器10と炉心バレル12の間における組立干渉を防止できるからである。つまり中性子監視カプセルを原子炉容器10から引出作業する時の相互干渉を防止できるからである。
【0042】
図9(a)は、注入延長ダクト26の水平断面を詳しく説明する。降水部16に突出する注入延長ダクト26の外表面の曲律半径は、炉心バレル12の半径Rと、注入延長ダクト26の突出量hとの合計(R+h)に同じに設定される。注入延長ダクト26の両側面は45度に傾いており、よって注入延長ダクト26の断面形状は台形に類似する形状である。
【0043】
図10のように、本発明の注入延長ダクト26の水平方向断面における流路面積は、炉心バレル12の周方向の注入延長ダクト26の幅と、突出量hとの積に略等しくなるように、そして直接注入ノズル24の有効断面積と同じか大きくなるように設定することが好ましい。更に注入延長ダクト26の突出量hを、降水部16の直径方向寸法Gapに対して約3/25〜7/25の範囲の大きさに制限する条件をすべて考慮すると、炉心バレル12の円周方向に関する注入延長ダクト26の角度幅Φは、最小20度〜最大約35度の範囲が適当である。
【0044】
注入延長ダクト26の炉心バレル12への設置高さと長さは、以下のように設定される。注入延長ダクト26は、直接注入ノズル24に対向する原子炉容器10の地点から、低温管20と高温管22の水平高さよりも下まで、炉心バレル12の外面に沿って延びる。つまり注入延長ダクト26は、降水部16の下部まで延びる。
【0045】
注入延長ダクト26の最下部の高さは、大型冷却材喪失事故時に破断した低温管20周辺の降水部16において発生する図5の太線の矢印で示す力強い破断吸入流によって周辺の冷却水が激しく流出することを考慮する必要がある。従って注入延長ダクト26の出口の高さ位置は、低温管20の設置高さよりも低く設定する必要がある。すなわち注入延長ダクト26の最下部の高さ位置は、降水部16の下部に設定する必要がある。図11の寸法Bが示すように、好ましくは低温管20の軸線Laから降水部16下部に沿って低温管20の内径DCLの約2〜4倍だけ下の高さ位置に、注入延長ダクト26の出口の高さ位置を設定する。このように注入延長ダクト26を下方に延ばして設置すると、非常炉心冷却水の直接迂回を防止するのに効果的である。
【0046】
以上で、本発明は特定の実施形態と係わって図示と説明したが、添付された特許請求の範囲によって示された発明の思想と領域から逸脱しない限度内で、多様な変更、改造及び変化が可能だということを当業界で通常の知識を有する者なら誰でも容易に理解するだろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来技術の特許文献1の非常炉心冷却システムの縦断面図。
【図2】従来技術の特許文献2の非常炉心冷却システムの縦断面図。
【図3】従来技術の特許文献4の非常炉心冷却システムの縦断面図。
【図4】従来技術の特許文献5の非常炉心冷却システムの概略斜視図。
【図5】本発明の一実施形態に係る安全注入システムを備える加圧軽水炉型原子炉における、大型低温管の破断事故時の注入延長ダクトへの非常炉心冷却水注入と、直接迂回現象遮断の斜視図。
【図6】図5の原子炉において、直接注入配管の破断事故時における破断流吸入口位置の斜視図。
【図7】図7(a)は図5の原子炉の水平断面図であり、安全注入システムは炉心バレル上の注入延長ダクトを具備する。図7(b)は図7(a)の原子炉の縦断面図。
【図8】図7(a)の変形例の水平断面図。
【図9】図9(a)は図7(a)の注入延長ダクトの水平断面図。図9(b)は注入延長ダクトの上部の蓋の平面図。図9(c)は注入延長ダクトの正面図。
【図10】図9(a)の注入延長ダクトの角度幅を示す水平断面図。
【図11】図7(b)の原子炉の各寸法を示す縦断面図。
【符号の説明】
【0048】
10:原子炉容器
12:炉心バレル
14:炉心
16:降水部
20:低温管
22:高温管
24:直接注入ノズル
26:注入延長ダクト
28:非常炉心冷却水取水口
30:エアベントホール
32:傾斜部
α:直接注入ノズルと低温管の間の角度としての第1角度
β:直接注入ノズルと高温管の間の角度としての第2角度
Φ:炉心バレルの円周方向に関する、注入延長ダクトの角度幅
HL:高温管部分の原子炉容器内径
h:注入延長ダクトの突出量
DUCT:非常炉心冷却水取水口の直径
KEY:原子炉容器の上部整列キー部分の最小内径
DVI:直接注入ノズルの内径
CL:低温管の内径
B:低温管の軸線から注入延長ダクトの最下部までの高さ寸法
Gap:降水部の隙間の長さ
La:低温管の軸線
Lb:高温管の軸線
Lc:直接注入ノズルの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心バレル上の注入延長ダクトを備える安全注入システムであって、前記炉心バレルは原子炉容器の内部に配置され、前記原子炉容器は低温管と高温管を含む冷却システムを備え、
前記安全注入システムは、前記炉心バレルに向かって非常炉心冷却水の水ジェットを噴射する直接注入ノズルを備え、
前記注入延長ダクトは、前記直接注入ノズルに対向するように前記炉心バレルの外面に設置され、
前記直接注入ノズルから噴射された水ジェットを前記注入延長ダクトに流入させるべく、前記注入延長ダクトの表面には非常炉心冷却水取水口が貫通形成され、前記非常炉心冷却水取水口の原点は、前記直接注入ノズルに対向する前記注入延長ダクトの表面の部分と、直接注入ノズルの軸線との交点に設定されることを特徴とする、炉心バレル上の注入延長ダクトを備える安全注入システム。
【請求項2】
前記非常炉心冷却水取水口の直径は、前記直接注入ノズルの内径の2倍である、請求項1に記載の安全注入システム。
【請求項3】
前記注入延長ダクトの最下部は開放形状であり、前記注入延長ダクトの最上部は蓋によって塞がれた形状を有する、請求項1に記載の安全注入システム。
【請求項4】
前記注入延長ダクトの最上部の前記蓋には、原子炉の充水時にガスの排出を可能にするエアベントホールが形成される、請求項3に記載の安全注入システム。
【請求項5】
前記注入延長ダクトが、前記炉心バレルの表面から前記原子炉容器に向かって突出する突出量は、前記原子炉容器の上部整列キー部分の最小内径(RKEY)と、前記高温管部分の前記原子炉容器の内径(RHL)との間の差よりも小さい、請求項1に記載の安全注入システム。
【請求項6】
前記原子炉容器と前記炉心バレルの間には、環形空間としての降水部が区画形成され、
前記注入延長ダクトが前記炉心バレルの表面から前記原子炉容器に向かって突出する突出量は、前記降水部の直径方向寸法に対して3/25〜7/25の比率の大きさである、請求項1に記載の安全注入システム。
【請求項7】
前記注入延長ダクトの両側面は、横方向に対して45度傾いた傾斜部として形成される、請求項1に記載の安全注入システム。
【請求項8】
前記降水部の下部は、前記低温管の高さ位置や前記高温管の高さ位置よりも下であり、
前記注入延長ダクトが、前記直接注入ノズルに対向する地点から前記降水部の下部まで、前記炉心バレルの外面に沿って延びるように、前記炉心バレルへの前記注入延長ダクトの設置高さと長さが設定される、請求項1に記載の安全注入システム。
【請求項9】
前記注入延長ダクトの出口の設置高さは、前記低温管の軸線から、前記降水部の下部に向かって前記低温管の内径の2〜4倍だけ低い位置に設定される、請求項8に記載の安全注入システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−222697(P2009−222697A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141810(P2008−141810)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(597060645)コリア アトミック エナジー リサーチ インスティテュート (22)
【出願人】(506094677)コリア ハイドロ アンド ヌクリア パワー カンパニー リミテッド (11)