炉心溶融物保持構造体
【課題】炉心が溶融した場合に、原子炉容器内で金属層が形成される位置における高い熱流束によって原子炉容器が破損する可能性を小さくする。
【解決手段】炉心を収める原子炉容器1の内部に、炉心の下方に設けられて炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレート6と、原子炉容器1に固定されて下部サポートプレート6を支持する下部サポートプレート支持体7と、断熱スペーサ10と、断熱スペーサ10を介して下部サポートプレート支持体7に固定されて下部サポートプレート6に接する網状ヒートパス9とこの網状ヒートパス9から下方に延びる高さ方向ヒートパス8とを備える。網状ヒートパス9および高さ方向ヒートパス8は、断熱スペーサ10よりも熱伝導率が高い。
【解決手段】炉心を収める原子炉容器1の内部に、炉心の下方に設けられて炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレート6と、原子炉容器1に固定されて下部サポートプレート6を支持する下部サポートプレート支持体7と、断熱スペーサ10と、断熱スペーサ10を介して下部サポートプレート支持体7に固定されて下部サポートプレート6に接する網状ヒートパス9とこの網状ヒートパス9から下方に延びる高さ方向ヒートパス8とを備える。網状ヒートパス9および高さ方向ヒートパス8は、断熱スペーサ10よりも熱伝導率が高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心を収めた原子炉容器内で溶融炉心を保持する炉心溶融物保持構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷却型原子炉では、原子炉圧力容器内への給水の停止や、原子炉圧力容器に接続された配管の破断により冷却水が喪失すると、原子炉水位が低下し炉心が露出して冷却が不十分になる可能性がある。このような場合を想定して、水位低下の信号により自動的に原子炉は非常停止され、非常用炉心冷却装置による冷却材の注入によって炉心を冠水させて冷却し、炉心溶融事故を未然に防ぐようになっている。しかしながら、極めて低い確率ではあるが、上記非常用炉心冷却装置が作動せず、かつ、その他の炉心への注水装置も利用できない事態も想定され得る。このような場合、原子炉水位の低下により炉心は露出し、十分な冷却が行われなくなり、原子炉停止後も発生し続ける崩壊熱によって燃料棒温度が上昇し、最終的には炉心溶融に至ることが考えられる。
【0003】
このような事態に至った場合、高温の炉心溶融物が原子炉圧力容器下部に溶け落ち、さらに原子炉圧力容器下鏡を溶融貫通して、格納容器内の床上に落下するに至る。炉心溶融物は格納容器床に張られたコンクリートを加熱し、接触面が高温状態になるとコンクリートと反応し、二酸化炭素、水素等の非凝縮性ガスを大量に発生させるとともにコンクリートを溶融浸食する。発生した非凝縮性ガスは、格納容器内の圧力を高め、原子炉格納容器を破損させる可能性がある。また、コンクリートの溶融浸食により格納容器バウンダリを破損させる可能性がある。
【0004】
炉心が溶融しても、原子炉圧力容器内に保持することができれば、上記のような炉心溶融物とコンクリートの反応などを考慮する必要が無くなる。炉心溶融物を原子炉圧力容器内に保持、冷却する方法の代表的なものが、IVR(In−Vessel Retention)と呼ばれる手法である。この手法では、原子炉容器を冷却水で外部冠水させ、炉心溶融物から伝わる熱を冷却水の沸騰熱伝達で除熱し、発生した蒸気を格納容器内で冷却、凝縮させ、凝縮水を原子炉容器周りに戻す。これにより、原子炉容器下部に溶け落ちた炉心溶融物および原子炉容器を冷却して、原子炉容器の破損とそれに伴う炉心溶融物の格納容器内への流出を防ぐ。
【0005】
このIVRを成立させるためには、炉心溶融物から原子炉圧力容器に伝わる熱によって原子炉圧力容器が破損することを防ぐ必要がある。そこで、原子炉圧力容器内面の炉心溶融物から伝わる熱が集中する位置に耐熱材を張り、原子炉圧力容器に伝わる熱を制限することで、原子炉圧力容器の溶融、破損を防ぐ方法がある。また、冷却水に微粒子を混入させることによって冷却性能を向上させ、原子炉圧力容器の溶融、破損を防ぐ方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−502808号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0219396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子炉圧力容器内で炉心溶融物を保持しようとする場合、課題となるのは、原子炉容器下部に堆積する溶融炉心に形成される金属層に生じる高い熱流束である。溶融炉心を原子炉容器下部に保持した場合、溶融炉心を構成する酸化物と金属が分離して、層状に堆積する可能性がある。溶融炉心が酸化物層と金属層に分離した場合、溶融炉心で発生する熱は比較的熱伝導率が高い金属層に集中するため、金属層が形成される位置の熱流束が著しく上昇する可能性がある。この金属層が形成される位置の高い熱流束が、冷却水による冷却性能を超える場合、原子炉容器の破損に至る。
【0008】
金属層が形成される位置を中心に耐熱材を敷設することで、金属層が形成される位置に生じる高い熱流束によって原子炉圧力容器が破損することを防ぐ場合、金属層が形成される位置は不確実性が大きく、完全に予測することは難しい。また、溶融炉心に含まれる金属の量が著しく少ない場合、冷却水に微粒子を混入させたとしても、これによる冷却性能の向上の効果を上回る熱流束が、金属層が形成される位置に生じて、原子炉圧力容器が破損する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、炉心が溶融した場合に、原子炉容器内で金属層が形成される位置における高い熱流束によって原子炉容器が破損する可能性を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明は、炉心溶融物保持構造体において、炉心を収める原子炉容器と、前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、断熱スペーサと、前記断熱スペーサを介して前記下部サポートプレート支持体に固定されて前記下部サポートプレートに接するサポートプレート接触部とこのサポートプレート接触部から下方に延びる高さ方向伝達部とを備えて前記断熱スペーサよりも熱伝導率が高いヒートパス構造体と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、炉心溶融物保持構造体において、炉心を収める原子炉容器と、前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、前記流路孔から下方に延びる複数の高さ方向伝達部と前記下部サポートプレートの上面に接して複数の前記高さ方向伝達部の間を連結する水平方向伝達部とを備えるヒートパス構造体と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、炉心溶融物保持構造体において、炉心を収める原子炉容器と、前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、前記サポートプレートの上面から起立して前記流路孔を囲む堰と、前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炉心が溶融した場合に、原子炉容器内で金属層が形成される位置における高い熱流束によって原子炉容器が破損する可能性を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉の立断面を示す図2のI−I矢視立断面図である。
【図2】図1のII−II矢視平断面図である。
【図3】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における断熱スペーサ近傍の立断面図である。
【図4】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における網状ヒートパスの一部と断熱スペーサと締結ボルトとを抜き出した斜視図である。
【図5】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第2の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【図6】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第3の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【図7】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第4の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【図8】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第5の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【図9】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第6の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。
【図10】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。
【図11】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉容器の立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る炉心溶融物保持構造体の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉の立断面を示す図2のI−I矢視立断面図である。図2は、図1のII−II矢視平断面図である。
【0017】
炉心溶融物保持構造体は、炉心を収める原子炉容器1と、下部サポートプレート6と、下部サポートプレート支持体7と、断熱スペーサと、ヒートパス構造体とを有していて、原子炉容器1内で溶融炉心を保持する。原子炉容器1は、鉛直方向に延びる円筒の両端を半球状のヘッドで塞いだものである。通常運転時には、原子炉容器1内の炉心で発生した熱により、冷却水を加熱して蒸気を発生させ、発生した蒸気によって図示しないタービンを回転させて発電する。
【0018】
下部サポートプレート6は、原子炉容器1内の炉心の下方に設けられていて、炉心を支持している。下部サポートプレート6は、水平方向に広がる板であって、上下に貫通する流路孔15が複数形成されている。
【0019】
下部サポートプレート支持体7は、原子炉容器1内で下部サポートプレート6の外周部から鉛直方向に延びて、上端部で原子炉容器1の内面に向かって延びている。下部サポートプレート支持体7は、原子炉容器1に固定されていて、下部サポートプレート6を支持している。
【0020】
ヒートパス構造体は、原子炉容器1内に設けられていて、サポートプレート接触部と、このサポートプレート接触部から下方に延びる高さ方向伝達部とからなっている。サポートプレート接触部は、網状ヒートパス9でであって、水平方向に熱を伝達するヒートパスとなっている。高さ方向伝達部は、高さ方向ヒートパス8であって、高さ方向に熱を伝達するヒートパスとなっている。
【0021】
網状ヒートパス9は、下部サポートプレート6の上面に網状に形成されていて、下部サポートプレート6の上面に接触している。網状ヒートパス9は、断熱スペーサ10を介して下部サポートプレート支持体7に固定されている。
【0022】
高さ方向ヒートパス8は、網状ヒートパス9から下部サポートプレート6を貫通して下方に延びている。高さ方向ヒートパス8は、網状ヒートパス9に接続されている。網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8とは、融点と熱伝導率が高い、たとえばタングステンなどの材料で形成されている。網状ヒートパス9の代わりに、下部サポートプレート6と同じ形状の薄板を用いてもよい。
【0023】
図3は、本実施の形態における断熱スペーサ近傍の立断面図である。図4は、本実施の形態における網状ヒートパスの一部と断熱スペーサと締結ボルトとを抜き出した斜視図である。
【0024】
下部サポートプレート6の上面に接する網状ヒートパス9は、締結ボルト11によって断熱スペーサ10と固定されている。断熱スペーサ10は、別の締結ボルト11によってサポートプレート支持体7に固定されている。網状ヒートパス9と断熱スペーサ10とを結合する締結ボルト11は、サポートプレート支持体7と接触しないようにしておく。断熱スペーサ10は、融点が高い、たとえばアルミナなどの酸化物で形成されている。
【0025】
このような炉心溶融物保持構造体を持つ原子炉において、原子炉圧力容器内への給水の停止などにより炉心の冷却が不十分となって、炉心溶融に至った場合、高温の炉心溶融物3が下部サポートプレート6の流路孔15を通過して原子炉容器1の下部に溶け落ちる。この際、原子炉容器1を冷却水2で外部冠水させ、炉心溶融物3から伝わる熱を冷却水2の沸騰熱伝達で除熱し、発生した蒸気を格納容器内で冷却、凝縮させ、凝縮水を原子炉容器1周りに戻す。これにより、原子炉容器1の下部に溶け落ちた炉心溶融物3および原子炉容器1を冷却して、原子炉容器の破損とそれに伴う炉心溶融物3の格納容器内への流出を防ぐ。
【0026】
溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3が下部サポートプレート6に接触しない条件において、炉心溶融物3に高さ方向ヒートパスが直接接触することで、高さ方向ヒートパス8に炉心溶融物3の熱が伝わる。高さ方向ヒートパス8に伝わった熱は、網状ヒートパス9および下部サポートプレート6に熱伝導で伝わる。その結果、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。
【0027】
溶融炉心を原子炉容器1の下部に保持した場合、溶融炉心を構成する酸化物と金属が分離して、層状に堆積する可能性がある。溶融炉心が酸化物層と金属層に分離した場合、溶融炉心で発生する熱は比較的熱伝導率が高い金属層に集中するため、金属層が形成される位置の熱流束が著しく上昇する可能性がある。しかし、本実施の形態では、下部サポートプレート6を溶融させることにより、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3内の金属量を増大させている。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0028】
また、網状ヒートパス9を通じて、下部サポートプレート支持体7にも熱が伝わる。しかし、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とが断熱スペーサ10を介して接続されているため、高さ方向ヒートパス8および網状ヒートパス9の熱伝導率よりも断熱スペーサ10部分での熱伝導率は小さい。このため、下部サポートプレート支持体7には、炉心溶融物3の熱は伝わりにくく、下部サポートプレート支持体7が溶融する可能性は小さい。下部サポートプレート支持体7が溶融していなければ、下部サポートプレート6が全量溶融する条件においても、網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8は下部サポートプレート支持部により支持され、炉心溶融物3に落下しない。
【0029】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第2の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【0030】
本実施の形態では、高さ方向ヒートパス8は、原子炉容器1の下端部に配置された下部ヘッド内構造物12の表面に固定されている。高さ方向ヒートパス8は、下部ヘッド内構造物12に埋め込まれていてもよい。
【0031】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3(図1参照)が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0032】
さらに、本実施の形態では、高さ方向ヒートパス8が下部ヘッド内構造物12に埋め込まれているため、高さ方向ヒートパス8が原子炉容器1に直接接触して原子炉容器1に熱を伝えることによる原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0033】
[第3の実施の形態]
図6は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第3の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【0034】
本実施の形態では、高さ方向ヒートパス8の下端は、高融点の断熱材20で覆われている。この断熱材20は、高さ方向ヒートパス8よりも熱伝導率が低い、高融点の材料、たとえばアルミナ(酸化アルミニウム)やジルコニア(酸化ジルコニウム)などの酸化物で形成されている。
【0035】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0036】
さらに、本実施の形態では、仮に高さ方向ヒートパス8が炉心溶融物3の中に落下した場合であっても、高さ方向ヒートパス8は断熱材20を介して原子炉容器1に接触することになる。このため、高さ方向ヒートパス8が原子炉容器1に直接接触して熱を伝えることによる原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0037】
[第4の実施の形態]
図7は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第4の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【0038】
本実施の形態では、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とは、第1の実施の形態における断熱スペーサ10(図3参照)の代わりに、皿ばね13を取り付けた締結ボルト11で接続されている。皿ばね13部分は、網状ヒートパス9などのヒートパス構造体よりも断面積がかなり小さいため、熱伝導率も小さくなる。
【0039】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3(図1参照)が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0040】
また、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7との結合部分での熱伝導率は、網状ヒートパス9などのヒートパス構造体よりも小さい。このため、下部サポートプレート支持体7には、炉心溶融物3の熱は伝わりにくく、下部サポートプレート支持体7が溶融する可能性は小さい。下部サポートプレート支持体7が溶融していなければ、下部サポートプレート6が全量溶融する条件においても、網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8は下部サポートプレート支持部により支持され、炉心溶融物3に落下しない。
【0041】
さらに、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とを、皿バネ13を取り付けた締結ボルト11で接続することにより、網状ヒートパス9が下部サポートプレート支持体7に直接接触して、下部サポートプレート支持7を溶融する可能性を小さくできる。また、皿バネ13を接続部に設けたことにより、網状ヒートパス9の熱膨張を吸収することができる。
【0042】
[第5の実施の形態]
図8は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第5の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【0043】
本実施の形態では、第1の実施の形態における断熱スペーサ10(図3参照)の代わりに、スペーサ14を用いている。本実施の形態のスペーサ14は、中空の円筒である。網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とは、スペーサ14の中空部を貫通する締結ボルト11で結合されている。このスペーサ14は、中空の円筒であるから、網状ヒートパス9よりも断面積がかなり小さいため、熱抵抗が大きくなる。
【0044】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3(図1参照)が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0045】
また、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7との結合部分での熱伝導率は、網状ヒートパス9などのヒートパス構造体よりも小さい。また、網状ヒートパス9とスペーサ14との接触部分およびスペーサ14と下部サポートプレート支持体7との接触部分には、接触熱抵抗が生じる。このため、下部サポートプレート支持体7には、炉心溶融物3の熱は伝わりにくく、下部サポートプレート支持体7が溶融する可能性は小さい。下部サポートプレート支持体7が溶融していなければ、下部サポートプレート6が全量溶融する条件においても、網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8は下部サポートプレート支持部により支持され、炉心溶融物3に落下しない。
【0046】
[第6の実施の形態]
図9は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第6の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。
【0047】
本実施の形態において、高さ方向ヒートパス8は、下部サポートプレート6に形成された流路孔15の外縁に固定され、流路孔15を貫通して下方に延びている。高さ方向ヒートパス8は、複数の流路孔15のそれぞれに対応して設けられている。たとえば隣り合う高さ方向ヒートパス8の上端部は、水平方向ヒートパス16によって連結されている。
【0048】
流路孔15に取り付けた高さ方向ヒートパス8が水平方向ヒートパス16と接続されているため、原子炉容器1の下部で炉心溶融物3(図1参照)を保持している際には、水平方向ヒートパス16から伝わる熱により下部サポートプレート6の流路孔の間が溶融する。このため、流路孔15同士がつながり、下部サポートプレート6の大部分を原子炉容器1の下部に落下させ、溶融させることができる。
【0049】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0050】
また、本実施の形態では、下部サポートプレート6の流路孔15の間が溶融落下することにより、高さ方向ヒートパス8および水平方向ヒートパス16が下部サポートプレート6で支持されなくなる。その結果、高さ方向ヒートパス8および水平方向ヒートパス16が、原子炉容器下部に落下する。そこで、高さ方向ヒートパス8の下端、および、高さ方向ヒートパス8と水平方向ヒートパス16との接続部は、断熱材で覆うことが好ましい。
【0051】
[第7の実施の形態]
図10は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第7の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。図11は、本実施の形態における原子炉容器の立断面図である。
【0052】
本実施の形態では、下部サポートプレート6の上面から起立して、下部サポートプレートに形成された流路孔15を囲む堰17が設けられている。堰17は、流路孔15の縁に沿って設けられている。堰17は、高融点材料で形成される。
【0053】
炉心が溶融し原子炉容器1下部に落下する際には、下部サポートプレート6の上に一旦堆積する。このとき高融点材料の堰17により、炉心溶融物が流路孔15を通って原子炉容器1下部に落下することを抑制する。その結果、下部サポートプレート6上に堆積した炉心溶融物3から伝わる熱により、下部サポートプレート6の溶融が促進される。
【0054】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0055】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…原子炉容器、2…冷却水、3…炉心溶融物、6…下部サポートプレート、7…下部サポートプレート支持体、8…高さ方向ヒートパス、9…網状ヒートパス、10…断熱スペーサ、11…締結ボルト、12…下部ヘッド内構造物、13…皿ばね、14…スペーサ、15…流路孔、16…水平方向ヒートパス、17…堰、20…断熱材
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心を収めた原子炉容器内で溶融炉心を保持する炉心溶融物保持構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷却型原子炉では、原子炉圧力容器内への給水の停止や、原子炉圧力容器に接続された配管の破断により冷却水が喪失すると、原子炉水位が低下し炉心が露出して冷却が不十分になる可能性がある。このような場合を想定して、水位低下の信号により自動的に原子炉は非常停止され、非常用炉心冷却装置による冷却材の注入によって炉心を冠水させて冷却し、炉心溶融事故を未然に防ぐようになっている。しかしながら、極めて低い確率ではあるが、上記非常用炉心冷却装置が作動せず、かつ、その他の炉心への注水装置も利用できない事態も想定され得る。このような場合、原子炉水位の低下により炉心は露出し、十分な冷却が行われなくなり、原子炉停止後も発生し続ける崩壊熱によって燃料棒温度が上昇し、最終的には炉心溶融に至ることが考えられる。
【0003】
このような事態に至った場合、高温の炉心溶融物が原子炉圧力容器下部に溶け落ち、さらに原子炉圧力容器下鏡を溶融貫通して、格納容器内の床上に落下するに至る。炉心溶融物は格納容器床に張られたコンクリートを加熱し、接触面が高温状態になるとコンクリートと反応し、二酸化炭素、水素等の非凝縮性ガスを大量に発生させるとともにコンクリートを溶融浸食する。発生した非凝縮性ガスは、格納容器内の圧力を高め、原子炉格納容器を破損させる可能性がある。また、コンクリートの溶融浸食により格納容器バウンダリを破損させる可能性がある。
【0004】
炉心が溶融しても、原子炉圧力容器内に保持することができれば、上記のような炉心溶融物とコンクリートの反応などを考慮する必要が無くなる。炉心溶融物を原子炉圧力容器内に保持、冷却する方法の代表的なものが、IVR(In−Vessel Retention)と呼ばれる手法である。この手法では、原子炉容器を冷却水で外部冠水させ、炉心溶融物から伝わる熱を冷却水の沸騰熱伝達で除熱し、発生した蒸気を格納容器内で冷却、凝縮させ、凝縮水を原子炉容器周りに戻す。これにより、原子炉容器下部に溶け落ちた炉心溶融物および原子炉容器を冷却して、原子炉容器の破損とそれに伴う炉心溶融物の格納容器内への流出を防ぐ。
【0005】
このIVRを成立させるためには、炉心溶融物から原子炉圧力容器に伝わる熱によって原子炉圧力容器が破損することを防ぐ必要がある。そこで、原子炉圧力容器内面の炉心溶融物から伝わる熱が集中する位置に耐熱材を張り、原子炉圧力容器に伝わる熱を制限することで、原子炉圧力容器の溶融、破損を防ぐ方法がある。また、冷却水に微粒子を混入させることによって冷却性能を向上させ、原子炉圧力容器の溶融、破損を防ぐ方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−502808号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2008/0219396号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
原子炉圧力容器内で炉心溶融物を保持しようとする場合、課題となるのは、原子炉容器下部に堆積する溶融炉心に形成される金属層に生じる高い熱流束である。溶融炉心を原子炉容器下部に保持した場合、溶融炉心を構成する酸化物と金属が分離して、層状に堆積する可能性がある。溶融炉心が酸化物層と金属層に分離した場合、溶融炉心で発生する熱は比較的熱伝導率が高い金属層に集中するため、金属層が形成される位置の熱流束が著しく上昇する可能性がある。この金属層が形成される位置の高い熱流束が、冷却水による冷却性能を超える場合、原子炉容器の破損に至る。
【0008】
金属層が形成される位置を中心に耐熱材を敷設することで、金属層が形成される位置に生じる高い熱流束によって原子炉圧力容器が破損することを防ぐ場合、金属層が形成される位置は不確実性が大きく、完全に予測することは難しい。また、溶融炉心に含まれる金属の量が著しく少ない場合、冷却水に微粒子を混入させたとしても、これによる冷却性能の向上の効果を上回る熱流束が、金属層が形成される位置に生じて、原子炉圧力容器が破損する可能性がある。
【0009】
そこで、本発明は、炉心が溶融した場合に、原子炉容器内で金属層が形成される位置における高い熱流束によって原子炉容器が破損する可能性を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明は、炉心溶融物保持構造体において、炉心を収める原子炉容器と、前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、断熱スペーサと、前記断熱スペーサを介して前記下部サポートプレート支持体に固定されて前記下部サポートプレートに接するサポートプレート接触部とこのサポートプレート接触部から下方に延びる高さ方向伝達部とを備えて前記断熱スペーサよりも熱伝導率が高いヒートパス構造体と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、炉心溶融物保持構造体において、炉心を収める原子炉容器と、前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、前記流路孔から下方に延びる複数の高さ方向伝達部と前記下部サポートプレートの上面に接して複数の前記高さ方向伝達部の間を連結する水平方向伝達部とを備えるヒートパス構造体と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、炉心溶融物保持構造体において、炉心を収める原子炉容器と、前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、前記サポートプレートの上面から起立して前記流路孔を囲む堰と、前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炉心が溶融した場合に、原子炉容器内で金属層が形成される位置における高い熱流束によって原子炉容器が破損する可能性を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉の立断面を示す図2のI−I矢視立断面図である。
【図2】図1のII−II矢視平断面図である。
【図3】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における断熱スペーサ近傍の立断面図である。
【図4】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における網状ヒートパスの一部と断熱スペーサと締結ボルトとを抜き出した斜視図である。
【図5】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第2の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【図6】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第3の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【図7】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第4の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【図8】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第5の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【図9】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第6の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。
【図10】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。
【図11】本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉容器の立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る炉心溶融物保持構造体の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第1の実施の形態における原子炉の立断面を示す図2のI−I矢視立断面図である。図2は、図1のII−II矢視平断面図である。
【0017】
炉心溶融物保持構造体は、炉心を収める原子炉容器1と、下部サポートプレート6と、下部サポートプレート支持体7と、断熱スペーサと、ヒートパス構造体とを有していて、原子炉容器1内で溶融炉心を保持する。原子炉容器1は、鉛直方向に延びる円筒の両端を半球状のヘッドで塞いだものである。通常運転時には、原子炉容器1内の炉心で発生した熱により、冷却水を加熱して蒸気を発生させ、発生した蒸気によって図示しないタービンを回転させて発電する。
【0018】
下部サポートプレート6は、原子炉容器1内の炉心の下方に設けられていて、炉心を支持している。下部サポートプレート6は、水平方向に広がる板であって、上下に貫通する流路孔15が複数形成されている。
【0019】
下部サポートプレート支持体7は、原子炉容器1内で下部サポートプレート6の外周部から鉛直方向に延びて、上端部で原子炉容器1の内面に向かって延びている。下部サポートプレート支持体7は、原子炉容器1に固定されていて、下部サポートプレート6を支持している。
【0020】
ヒートパス構造体は、原子炉容器1内に設けられていて、サポートプレート接触部と、このサポートプレート接触部から下方に延びる高さ方向伝達部とからなっている。サポートプレート接触部は、網状ヒートパス9でであって、水平方向に熱を伝達するヒートパスとなっている。高さ方向伝達部は、高さ方向ヒートパス8であって、高さ方向に熱を伝達するヒートパスとなっている。
【0021】
網状ヒートパス9は、下部サポートプレート6の上面に網状に形成されていて、下部サポートプレート6の上面に接触している。網状ヒートパス9は、断熱スペーサ10を介して下部サポートプレート支持体7に固定されている。
【0022】
高さ方向ヒートパス8は、網状ヒートパス9から下部サポートプレート6を貫通して下方に延びている。高さ方向ヒートパス8は、網状ヒートパス9に接続されている。網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8とは、融点と熱伝導率が高い、たとえばタングステンなどの材料で形成されている。網状ヒートパス9の代わりに、下部サポートプレート6と同じ形状の薄板を用いてもよい。
【0023】
図3は、本実施の形態における断熱スペーサ近傍の立断面図である。図4は、本実施の形態における網状ヒートパスの一部と断熱スペーサと締結ボルトとを抜き出した斜視図である。
【0024】
下部サポートプレート6の上面に接する網状ヒートパス9は、締結ボルト11によって断熱スペーサ10と固定されている。断熱スペーサ10は、別の締結ボルト11によってサポートプレート支持体7に固定されている。網状ヒートパス9と断熱スペーサ10とを結合する締結ボルト11は、サポートプレート支持体7と接触しないようにしておく。断熱スペーサ10は、融点が高い、たとえばアルミナなどの酸化物で形成されている。
【0025】
このような炉心溶融物保持構造体を持つ原子炉において、原子炉圧力容器内への給水の停止などにより炉心の冷却が不十分となって、炉心溶融に至った場合、高温の炉心溶融物3が下部サポートプレート6の流路孔15を通過して原子炉容器1の下部に溶け落ちる。この際、原子炉容器1を冷却水2で外部冠水させ、炉心溶融物3から伝わる熱を冷却水2の沸騰熱伝達で除熱し、発生した蒸気を格納容器内で冷却、凝縮させ、凝縮水を原子炉容器1周りに戻す。これにより、原子炉容器1の下部に溶け落ちた炉心溶融物3および原子炉容器1を冷却して、原子炉容器の破損とそれに伴う炉心溶融物3の格納容器内への流出を防ぐ。
【0026】
溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3が下部サポートプレート6に接触しない条件において、炉心溶融物3に高さ方向ヒートパスが直接接触することで、高さ方向ヒートパス8に炉心溶融物3の熱が伝わる。高さ方向ヒートパス8に伝わった熱は、網状ヒートパス9および下部サポートプレート6に熱伝導で伝わる。その結果、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。
【0027】
溶融炉心を原子炉容器1の下部に保持した場合、溶融炉心を構成する酸化物と金属が分離して、層状に堆積する可能性がある。溶融炉心が酸化物層と金属層に分離した場合、溶融炉心で発生する熱は比較的熱伝導率が高い金属層に集中するため、金属層が形成される位置の熱流束が著しく上昇する可能性がある。しかし、本実施の形態では、下部サポートプレート6を溶融させることにより、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3内の金属量を増大させている。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0028】
また、網状ヒートパス9を通じて、下部サポートプレート支持体7にも熱が伝わる。しかし、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とが断熱スペーサ10を介して接続されているため、高さ方向ヒートパス8および網状ヒートパス9の熱伝導率よりも断熱スペーサ10部分での熱伝導率は小さい。このため、下部サポートプレート支持体7には、炉心溶融物3の熱は伝わりにくく、下部サポートプレート支持体7が溶融する可能性は小さい。下部サポートプレート支持体7が溶融していなければ、下部サポートプレート6が全量溶融する条件においても、網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8は下部サポートプレート支持部により支持され、炉心溶融物3に落下しない。
【0029】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第2の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【0030】
本実施の形態では、高さ方向ヒートパス8は、原子炉容器1の下端部に配置された下部ヘッド内構造物12の表面に固定されている。高さ方向ヒートパス8は、下部ヘッド内構造物12に埋め込まれていてもよい。
【0031】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3(図1参照)が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0032】
さらに、本実施の形態では、高さ方向ヒートパス8が下部ヘッド内構造物12に埋め込まれているため、高さ方向ヒートパス8が原子炉容器1に直接接触して原子炉容器1に熱を伝えることによる原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0033】
[第3の実施の形態]
図6は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第3の実施の形態を用いた原子炉の立断面図である。
【0034】
本実施の形態では、高さ方向ヒートパス8の下端は、高融点の断熱材20で覆われている。この断熱材20は、高さ方向ヒートパス8よりも熱伝導率が低い、高融点の材料、たとえばアルミナ(酸化アルミニウム)やジルコニア(酸化ジルコニウム)などの酸化物で形成されている。
【0035】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0036】
さらに、本実施の形態では、仮に高さ方向ヒートパス8が炉心溶融物3の中に落下した場合であっても、高さ方向ヒートパス8は断熱材20を介して原子炉容器1に接触することになる。このため、高さ方向ヒートパス8が原子炉容器1に直接接触して熱を伝えることによる原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0037】
[第4の実施の形態]
図7は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第4の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【0038】
本実施の形態では、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とは、第1の実施の形態における断熱スペーサ10(図3参照)の代わりに、皿ばね13を取り付けた締結ボルト11で接続されている。皿ばね13部分は、網状ヒートパス9などのヒートパス構造体よりも断面積がかなり小さいため、熱伝導率も小さくなる。
【0039】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3(図1参照)が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0040】
また、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7との結合部分での熱伝導率は、網状ヒートパス9などのヒートパス構造体よりも小さい。このため、下部サポートプレート支持体7には、炉心溶融物3の熱は伝わりにくく、下部サポートプレート支持体7が溶融する可能性は小さい。下部サポートプレート支持体7が溶融していなければ、下部サポートプレート6が全量溶融する条件においても、網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8は下部サポートプレート支持部により支持され、炉心溶融物3に落下しない。
【0041】
さらに、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とを、皿バネ13を取り付けた締結ボルト11で接続することにより、網状ヒートパス9が下部サポートプレート支持体7に直接接触して、下部サポートプレート支持7を溶融する可能性を小さくできる。また、皿バネ13を接続部に設けたことにより、網状ヒートパス9の熱膨張を吸収することができる。
【0042】
[第5の実施の形態]
図8は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第5の実施の形態における網状ヒートパスと下部サポートプレート支持体の結合部分近傍の立断面図である。
【0043】
本実施の形態では、第1の実施の形態における断熱スペーサ10(図3参照)の代わりに、スペーサ14を用いている。本実施の形態のスペーサ14は、中空の円筒である。網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7とは、スペーサ14の中空部を貫通する締結ボルト11で結合されている。このスペーサ14は、中空の円筒であるから、網状ヒートパス9よりも断面積がかなり小さいため、熱抵抗が大きくなる。
【0044】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3(図1参照)が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0045】
また、網状ヒートパス9と下部サポートプレート支持体7との結合部分での熱伝導率は、網状ヒートパス9などのヒートパス構造体よりも小さい。また、網状ヒートパス9とスペーサ14との接触部分およびスペーサ14と下部サポートプレート支持体7との接触部分には、接触熱抵抗が生じる。このため、下部サポートプレート支持体7には、炉心溶融物3の熱は伝わりにくく、下部サポートプレート支持体7が溶融する可能性は小さい。下部サポートプレート支持体7が溶融していなければ、下部サポートプレート6が全量溶融する条件においても、網状ヒートパス9と高さ方向ヒートパス8は下部サポートプレート支持部により支持され、炉心溶融物3に落下しない。
【0046】
[第6の実施の形態]
図9は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第6の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。
【0047】
本実施の形態において、高さ方向ヒートパス8は、下部サポートプレート6に形成された流路孔15の外縁に固定され、流路孔15を貫通して下方に延びている。高さ方向ヒートパス8は、複数の流路孔15のそれぞれに対応して設けられている。たとえば隣り合う高さ方向ヒートパス8の上端部は、水平方向ヒートパス16によって連結されている。
【0048】
流路孔15に取り付けた高さ方向ヒートパス8が水平方向ヒートパス16と接続されているため、原子炉容器1の下部で炉心溶融物3(図1参照)を保持している際には、水平方向ヒートパス16から伝わる熱により下部サポートプレート6の流路孔の間が溶融する。このため、流路孔15同士がつながり、下部サポートプレート6の大部分を原子炉容器1の下部に落下させ、溶融させることができる。
【0049】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、溶融する炉心の量が少なく、原子炉容器1の下部に支持された炉心溶融物3が下部サポートプレート6に接触しない条件において、下部サポートプレート6を溶融させて炉心溶融物3に落下させる。その結果、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0050】
また、本実施の形態では、下部サポートプレート6の流路孔15の間が溶融落下することにより、高さ方向ヒートパス8および水平方向ヒートパス16が下部サポートプレート6で支持されなくなる。その結果、高さ方向ヒートパス8および水平方向ヒートパス16が、原子炉容器下部に落下する。そこで、高さ方向ヒートパス8の下端、および、高さ方向ヒートパス8と水平方向ヒートパス16との接続部は、断熱材で覆うことが好ましい。
【0051】
[第7の実施の形態]
図10は、本発明に係る炉心溶融物保持構造体の第7の実施の形態における原子炉容器の平断面図である。図11は、本実施の形態における原子炉容器の立断面図である。
【0052】
本実施の形態では、下部サポートプレート6の上面から起立して、下部サポートプレートに形成された流路孔15を囲む堰17が設けられている。堰17は、流路孔15の縁に沿って設けられている。堰17は、高融点材料で形成される。
【0053】
炉心が溶融し原子炉容器1下部に落下する際には、下部サポートプレート6の上に一旦堆積する。このとき高融点材料の堰17により、炉心溶融物が流路孔15を通って原子炉容器1下部に落下することを抑制する。その結果、下部サポートプレート6上に堆積した炉心溶融物3から伝わる熱により、下部サポートプレート6の溶融が促進される。
【0054】
このような炉心溶融物保持構造体であっても、原子炉容器1の下部に堆積した炉心溶融物3の金属層の厚さが大きくなり、溶融炉心で発生する熱の集中が抑制され、原子炉容器1の破損の可能性を小さくすることができる。
【0055】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…原子炉容器、2…冷却水、3…炉心溶融物、6…下部サポートプレート、7…下部サポートプレート支持体、8…高さ方向ヒートパス、9…網状ヒートパス、10…断熱スペーサ、11…締結ボルト、12…下部ヘッド内構造物、13…皿ばね、14…スペーサ、15…流路孔、16…水平方向ヒートパス、17…堰、20…断熱材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉心を収める原子炉容器と、
前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、
前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、
断熱スペーサと、
前記断熱スペーサを介して前記下部サポートプレート支持体に固定されて前記下部サポートプレートに接するサポートプレート接触部とこのサポートプレート接触部から下方に延びる高さ方向伝達部とを備えて前記断熱スペーサよりも熱伝導率が高いヒートパス構造体と、
を有することを特徴とする炉心溶融物保持構造体。
【請求項2】
前記サポートプレート接触部は前記下部サポートプレートに沿って広がる網目状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項3】
前記サポートプレート接触部は前記下部サポートプレートに沿って広がる薄板であることを特徴とする請求項1に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項4】
前記原子炉容器の下端部に配置された下部ヘッド内構造物をさらに有し、
前記高さ方向伝達部は前記下部ヘッド内構造物に固定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項5】
前記高さ方向伝達部の下端は前記高さ方向伝達部よりも熱伝導率が小さい断熱材で覆われていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項6】
前記断熱スペーサは前記サポートプレート接触部と前記下部サポートプレート支持部とを接続する皿バネを取り付けた締結ボルトであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項7】
前記断熱スペーサは前記サポートプレート接触部と下部サポートプレート支持部とを接続するスペーサを取り付けた締結ボルトであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項8】
炉心を収める原子炉容器と、
前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、
前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、
前記流路孔から下方に延びる複数の高さ方向伝達部と前記下部サポートプレートの上面に接して複数の前記高さ方向伝達部の間を連結する水平方向伝達部とを備えるヒートパス構造体と、
を有することを特徴とする炉心溶融物保持構造体。
【請求項9】
炉心を収める原子炉容器と、
前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、
前記サポートプレートの上面から起立して前記流路孔を囲む堰と、
前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、
を有することを特徴とする炉心溶融物保持構造体。
【請求項1】
炉心を収める原子炉容器と、
前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、
前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、
断熱スペーサと、
前記断熱スペーサを介して前記下部サポートプレート支持体に固定されて前記下部サポートプレートに接するサポートプレート接触部とこのサポートプレート接触部から下方に延びる高さ方向伝達部とを備えて前記断熱スペーサよりも熱伝導率が高いヒートパス構造体と、
を有することを特徴とする炉心溶融物保持構造体。
【請求項2】
前記サポートプレート接触部は前記下部サポートプレートに沿って広がる網目状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項3】
前記サポートプレート接触部は前記下部サポートプレートに沿って広がる薄板であることを特徴とする請求項1に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項4】
前記原子炉容器の下端部に配置された下部ヘッド内構造物をさらに有し、
前記高さ方向伝達部は前記下部ヘッド内構造物に固定されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項5】
前記高さ方向伝達部の下端は前記高さ方向伝達部よりも熱伝導率が小さい断熱材で覆われていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項6】
前記断熱スペーサは前記サポートプレート接触部と前記下部サポートプレート支持部とを接続する皿バネを取り付けた締結ボルトであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項7】
前記断熱スペーサは前記サポートプレート接触部と下部サポートプレート支持部とを接続するスペーサを取り付けた締結ボルトであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の炉心溶融物保持構造体。
【請求項8】
炉心を収める原子炉容器と、
前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、
前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、
前記流路孔から下方に延びる複数の高さ方向伝達部と前記下部サポートプレートの上面に接して複数の前記高さ方向伝達部の間を連結する水平方向伝達部とを備えるヒートパス構造体と、
を有することを特徴とする炉心溶融物保持構造体。
【請求項9】
炉心を収める原子炉容器と、
前記炉心の下方に設けられて前記炉心を支持して上下に貫通する流路孔が形成された下部サポートプレートと、
前記サポートプレートの上面から起立して前記流路孔を囲む堰と、
前記原子炉容器に固定されて前記下部サポートプレートを支持する下部サポートプレート支持体と、
を有することを特徴とする炉心溶融物保持構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−232048(P2011−232048A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100119(P2010−100119)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]