説明

炉心溶融物冷却装置および格納容器

【課題】炉心溶融物冷却装置内の冷却流路の冷却水中にナノ粒子を沈殿や堆積が生じないように供給する
【解決手段】炉心溶融物冷却装置7は、断熱材42と冷却流路天板93とからなる堆積床を有している。堆積床の上面は、炉心溶融物41が堆積する堆積面である。堆積床の下方には、冷却流路43が形成されている。堆積床の冷却流路43に面する側すなわち冷却流路天板93の少なくとも一部は、ナノ粒子を含有する多孔質材料で形成されている。炉心溶融物41が落下した際に、冷却流路天板93で沸騰が生じると、それに伴って、多孔質材料の孔に含有されたナノ粒子が冷却水中に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心溶融物冷却装置および格納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷却型原子炉では、原子炉圧力容器内への給水停止や、配管異常により冷却水が喪失すると、冷却に十分な原子炉水位が保たれない可能性がある。この事態を想定し、水位低下により自動的に原子炉は非常停止され、非常用炉心冷却系による冷却材の注入によって炉心を冠水させて冷却し、炉心溶融事故を未然に防ぐようになっている。
【0003】
しかし、非常用炉心冷却系およびその他の炉心への注水装置も利用できない事態も想定される。このような場合、原子炉停止後も発生し続ける崩壊熱によって燃料棒温度が上昇し、最終的には炉心溶融に至る可能性がある。
【0004】
高温の炉心溶融物は、原子炉圧力容器下鏡を溶融貫通して、格納容器内の床上に落下する。炉心溶融物によって格納容器床コンクリートが高温状態になると、非凝縮性ガスが大量に発生し、コンクリートが溶融浸食される。発生した非凝縮性ガスは、格納容器内の圧力を高め、原子炉格納容器を破損させる可能性がある。また、コンクリートの溶融浸食によって格納容器バウンダリが破損し、格納容器構造強度が低下する可能性がある。この反応が継続すると格納容器破損に至り、格納容器内の放射性物質が外部環境に放出するおそれがある。
【0005】
炉心溶融物とコンクリートの反応抑制のためには、炉心溶融物を冷却してコリウム底部のコンクリートとの接触面の温度を浸食温度以下(一般的なコンクリートで1500K以下)に保つか、炉心溶融物とコンクリートとが直接接触しないようにする必要がある。炉心溶融物が落下した場合への代表的な対策設備として、コアキャッチャーが挙げられる。これは、落下した炉心溶融物を耐熱材で受け止めて、注水手段と組み合わせて炉心溶融物の冷却を図る設備である。
【0006】
原子炉格納容器床に落下した炉心溶融物の上面に冷却水を注水しても、炉心溶融物の底部での除熱量が小さいと、崩壊熱によって炉心溶融物底部の温度が高温のまま維持され、格納容器床のコンクリートの侵食を止めることができない。そこで、炉心溶融物を底面から冷却するという方法がある。
【0007】
炉心溶融物を冷却する冷却水には、高い冷却性能が求められる。冷却性能を向上させるために、たとえば冷却水に金属などの固体粒子を含有、分散させる技術が知られている。このように冷却水に粒子を分散させることで、その熱伝導率はそれら粒子を含まない媒体そのものの熱伝導率に比べて高められる。また、冷却水中に含有させる粒子として、ナノスケールサイズの微粒子を分散させることにより、同冷却水を使用した沸騰試験において熱伝達率や限界熱流束が飛躍的に高められることが確認されている。
【0008】
こうした微粒子を媒体中に分散させる方法についても報告されている。具体的には、微粒子をそのまま媒体中に分散させる方法や、同微粒子の表面に界面活性剤を付着させることで媒体中に粒子をより安定に分散させる方法、同微粒子および媒体中に分散剤を添加することにより安定に分散させる方法などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−47637号公報
【特許文献2】特開2007−262302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
炉心溶融物からの熱は、耐熱材を介して炉心溶融物堆積床面の下方に設けられた冷却水流路の水に伝えられる。冷却流路の水は加熱され沸騰が始まり、伝熱面に傾斜をつけ発生したボイドを速やかに放射状に配置された冷却流路から排出される。沸騰で発生した蒸気泡は、冷却流路を上方に流れ、最終的には炉心溶融物上面プールへ流出する。冷却流路での沸騰によって、炉心溶融物上面プールそして冷却流路への自然循環が生じる。これにより、冷却が継続し、デブリが確実に保持される。
【0011】
冷却チャネルの限界熱流束が高ければ安全裕度を増すことができる。ナノ流体を冷却水中に混入させることにより限界熱流速の向上が可能である。しかし、ナノ粒子が沈殿や堆積などによって、冷却水中に分散されないと、ナノ流体の効果が得られない。
【0012】
そこで、本発明は、炉心溶融物冷却装置内の冷却流路の冷却水中にナノ粒子を沈殿や堆積が生じないように供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明は、炉心溶融物冷却装置において、原子炉圧力容器下方に設けられて上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床を有し、前記堆積床の前記冷却流路に面する側の少なくとも一部がナノ粒子を空隙に保持する多孔質材料で形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、炉心溶融物冷却装置において、原子炉圧力容器下方に設けられて上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、前記冷却流路中に配置されてナノ粒子を収納した容器と、を有し、前記容器が冷却水に浸漬されると前記容器内のナノ粒子が冷却水中に放出されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、炉心溶融物冷却装置において、原子炉圧力容器下方に設けられて上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、前記堆積面上に配置されてナノ粒子を収納した容器と、を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、格納容器において、ペデスタル床と、前記ペデスタル床から立ち上がり原子炉圧力容器を支持するペデスタル側壁と、前記ペデスタル床上に設けられて、上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床を備えて、前記堆積床の前記冷却流路に面する側の少なくとも一部がナノ粒子を空隙に保持する多孔質材料で形成されている炉心溶融物冷却装置と、を有することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、格納容器において、ペデスタル床と、前記ペデスタル床から立ち上がり原子炉圧力容器を支持するペデスタル側壁と、前記ペデスタル床上に設けられて、上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、前記冷却流路中に配置されてナノ粒子を収納した容器と、を備えて、前記容器が冷却水に浸漬されると前記容器内のナノ粒子が冷却水中に放出される炉心溶融物冷却装置と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、格納容器において、ペデスタル床と、前記ペデスタル床から立ち上がり原子炉圧力容器を支持するペデスタル側壁と、前記ペデスタル床上に設けられて、上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、前記堆積面上に配置されてナノ粒子を収納した容器と、を備えた炉心溶融物冷却装置と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、炉心溶融物冷却装置内の冷却流路の冷却水中にナノ粒子を沈殿や堆積が生じないように供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第1の実施の形態の近傍の立断面図である。
【図2】本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第1の実施の形態を収容した格納容器の立断面図である。
【図3】本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第2の実施の形態の近傍の立断面図である。
【図4】本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第2の実施の形態におけるナノ流体を封入する容器の斜視図である。
【図5】本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第2の実施の形態の一変形例におけるナノ流体を封入する容器の斜視図である。
【図6】本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第3の実施の形態の近傍の立断面図である。
【図7】本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第4の実施の形態の近傍の立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る炉心溶融物冷却装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
[第1の実施の形態]
図2は、本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第1の実施の形態を収容した格納容器の立断面図である。
【0023】
炉心10は、原子炉圧力容器1の内部に収められている。原子炉圧力容器1は、格納容器2の内部に設けられている。格納容器2は、ペデスタル床15およびペデスタル床15から上方に延びる円筒状のペデスタル側壁16を有している。
【0024】
原子炉圧力容器1は、ペデスタル側壁16に支持されている。原子炉圧力容器1の下方のペデスタル床15およびペデスタル側壁16で囲まれる空間は下部ドライウェル13と呼ばれる。つまり、原子炉圧力容器1は、下部ドライウェル13の上方に設けられている。また、格納容器2の内部には、ペデスタル側壁16の外周面を取り囲むように、圧力抑制プール4が形成されている。原子炉圧力容器1の下方の下部ドライウェル13には、炉心溶融物冷却装置(コアキャッチャー)7が設けられている。
【0025】
また、格納容器2は、水槽5を有している。水槽5から炉心溶融物冷却装置7には、注水配管8が延びている。注水配管8の途中には、注入弁40が設けられている。さらに、格納容器2は、格納容器冷却器6を有している。格納容器冷却器6は、ドライウェルに開口した端部から水中に沈められた熱交換器を通って水槽5に延びる配管を有している。格納容器冷却器6とは、静的格納容器冷却設備やドライウェルクーラーなどである。
【0026】
図1は、本実施の形態における炉心溶融物冷却装置の近傍の立断面図である。なお、図1には、原子炉圧力容器1の下部ヘッド3を貫通して炉心溶融物冷却装置7に炉心溶融物41が落下し、冷却水が供給された状態を示している。
【0027】
炉心溶融物冷却装置7は、ペデスタル床15の上に設置されている。炉心溶融物冷却装置7は、支持台91、冷却流路底板92、冷却流路天板93および断熱材42を有している。支持台91の上面は、上に開いた円錐状に形成されている。支持台91の中央部には、円柱状の空隙が形成されている。支持台91の中央部の空隙は、給水容器44となっている。
【0028】
冷却流路底板92は、上に開いた円錐状に形成されていて、支持台91の上面に載置されている。冷却流路底板92の外縁は鉛直方向に立ち上がっている。
【0029】
冷却流路天板93は、上に開いた円錐状に形成され、冷却流路底板92に対して間隔を置いて配置されている。冷却流路天板93の外縁は鉛直方向に立ち上がっている。冷却流路底板92と冷却流路天板93との間は、給水容器44から上に開いた出口開口81まで延びる冷却流路43となっている。冷却流路天板93は全体として上に開いた保持容器となっていて、その内面には断熱材42が敷設されている。
【0030】
冷却流路天板93の少なくとも一部は、多孔質の材料で形成されている。冷却流路天板93の多孔質材料で形成されている部分には、表面に連通した孔にナノ粒子が含有されている。ナノ粒子とは、ナノスケール、すなわち、大きさが数ナノメートル程度の金属などの固体粒子である。
【0031】
ナノ粒子は、ナノ粒子そのものとして、あるいはナノ粒子を含有した流体(ナノ流体)として多孔質の空隙に保持されている。ナノ粒子を含有させる流体は、水あるいはイオン流体などである。冷却流路43に冷却水がない通常の場合であっても、ナノ流体は、多孔質材料の孔の毛管力により保持され、多孔質からナノ流体が落下することはない。また、ナノ粒子を含有させる流体としてイオン液体を使用すると、流体の蒸発が抑制される。
【0032】
冷却流路底板92の外縁で立ち上がっている部分は、ペデスタル側壁16の内面と空隙を挟んで設けられている。冷却流路底板92の外縁で立ち上がっている部分とペデスタル側壁16の内面との間は、入口開口82から下方に延びる給水流路鉛直部46となっている。給水流路鉛直部46の下端から給水容器44までは、給水流路水平部47が延びている。冷却流路底板92および冷却流路天板93は、たとえば鉛直方向に投影した形状が扇形の中空の構造体を、給水容器44の周りに密に並べることによって形成することができる。
【0033】
炉心溶融事故が発生し、炉心溶融物41が原子炉圧力容器1の下部ヘッド3を貫通すると、炉心溶融物冷却装置7の断熱材42上に落下する。つまり、本実施の形態の炉心溶融物冷却装置7において、断熱材42の上面は、原子炉圧力容器1の下方に設けられて炉心溶融物41が堆積する堆積面となっている。炉心溶融物が落下すると、注入弁40は、原子炉圧力容器の下部ヘッド3の破損を検知する信号により開放される。下部ヘッド3の破損を検知する信号とは、たとえば下部ヘッド温度高やペデスタル雰囲気温度高を示す信号である。
【0034】
その結果、注水配管8を介して水槽5から冷却水が炉心溶融物冷却装置7に供給される。炉心溶融物冷却装置7に供給される冷却水は、ペデスタル側壁16に開いた注水配管出口孔83から流れ出す。注水配管出口孔83から流れ出た冷却水は、給水流路水平部47を通って、給水容器44に供給される。さらに、給水容器44から冷却流路43に冷却水が分配される。
【0035】
高温の炉心溶融物41の熱は断熱材42に伝わり、さらに冷却流路43の壁を介して冷却水に伝えられる。炉心溶融物41の熱が伝達されることにより、冷却流路43を流れる冷却水は、いずれ沸騰する。
【0036】
給水容器44から供給された冷却水は、冷却流路43を通って上昇し、外周に位置する出口開口81から溢れ出る。出口開口81から溢れ出た冷却水の大部分は、炉心溶融物冷却装置7の炉心溶融物41を保持する保持容器に流れ込む。出口開口81から冷却流路43を出た冷却水は、断熱材42の上に溢水し、炉心溶融物の上に水プール45を形成する。この水プール45を形成した冷却水は、炉心溶融物41の表面で沸騰し、炉心溶融物41を冷却する。このように、冷却流路43での沸騰と、炉心溶融物41の表面の沸騰の両方によって、炉心溶融物41は冷却される。
【0037】
給水容器44への初期の給水は、炉心溶融物冷却装置7より上方に設置された水槽5に貯えられた水を重力落下させることにより注水配管8を介して行われる。初期注水が終了すると、炉心溶融物冷却装置7は冠水する。炉心溶融物冷却装置7を冠水させた冷却水は、冷却流路43での沸騰により生じる自然循環によって、給水流路46,47を介して給水容器44に供給される。
【0038】
炉心溶融物を冷却することにより生じた蒸気は、格納容器2の上部の格納容器冷却器6で凝縮されて、水槽5に戻される。水槽5に戻された蒸気を凝縮した冷却水は、再び炉心溶融物41の冷却に用いられるようになっており、水が自然循環することによって炉心溶融物41の冷却が継続される。
【0039】
冷却流路43の上面すなわち伝熱面は傾いている。このため、冷却流路43内での沸騰により生じた蒸気泡は、浮力により伝熱面から離脱しやすい。その結果、良好な熱伝達率が得られる。
【0040】
断熱材42の融点は、たとえばZrOを用いた場合には約2400℃程度なので、炉心溶融物41の温度(平均的には2200℃程度)よりも高く、溶融するおそれは小さい。また、断熱材42を配設することにより、炉心溶融物41が直接、冷却流路43を形成する構造体の壁に接触せず、また、断熱材42の熱抵抗によって熱流束が抑えられるため冷却流路43を形成する構造体の壁が破損するおそれも小さい。
【0041】
このように、本実施の形態の炉心溶融物冷却装置7によって、効果的に炉心溶融物の温度を下げることができ、炉心溶融物は炉心溶融物冷却装置7の内部に安定的に保持される。
【0042】
本実施の形態では、炉心溶融物41が堆積する堆積面である断熱材42の上面と、その下方に設けられた冷却流路43との間を仕切る堆積床として、断熱材42および冷却流路天板93を有している。この堆積床の冷却流路43に面する側、すなわち冷却流路天板93の少なくとも一部は、ナノ粒子を含有する多孔質材料で形成されている。このため、このような事故が発生した際、冷却流路43の伝熱面で炉心溶融物41の熱により沸騰が生じると、冷却流路天板93の多孔質材料に含有されたナノ粒子は、沸騰蒸気とともに多孔質から排出される。その結果、ナノ粒子が冷却流路43の冷却水中に均一に混入する。このように、シビアアクシデント時に電源や運転員の操作なしでも炉心溶融物41の落下に伴って冷却水中にナノ流体を供給することができる。
【0043】
ナノスケールの粒子を含むナノ流体は、限界熱流束を向上させる。つまり、炉心溶融物冷却装置7での炉心溶融物41の冷却性能が向上する。ナノ流体は、予め伝熱面近傍に配置されている。このため、炉心溶融物冷却装置7内の冷却流路43の冷却水中にナノ粒子を沈殿や堆積が生じないように供給することができる。つまり、ナノ流体供給経路におけるナノ粒子の沈殿、付着などによるナノ流体の効果の低減を防ぐことができる。
【0044】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第2の実施の形態の近傍の立断面図である。
【0045】
本実施の形態の炉心溶融物冷却装置7は、ナノ流体51を封入したナノ粒子保持容器52を有している。ナノ流体51を封入した1個あるいは複数個のナノ粒子保持容器52は、給水容器44内に配置される。ナノ流体51の代わりに、ナノ粒子そのものをナノ粒子保持容器52に封入してもよい。
【0046】
図4は、本実施の形態におけるナノ流体を封入する容器の斜視図である。
【0047】
このナノ粒子保持容器52は、上面に水よりも軽い蓋53が設けられている。よって、ナノ粒子保持容器52が浸漬されると、蓋53が浮力によって開き、内部のナノ流体51が冷却水中に放出される。この蓋53は、たとえば密度が0.90〜0.91g/cmのポリプロピレンで形成される。ナノ粒子保持容器52中にナノ粒子のみを封入していた場合であっても、蓋53が浮力によって開き、ナノ粒子保持容器52中に水が浸入することによって、その水中にナノ粒子が分散し、ナノ粒子保持容器52の外部に放出される。
【0048】
図5は、本実施の形態の一変形例におけるナノ流体を封入する容器の斜視図である。
【0049】
この変形例では、ナノ流体51を封入したナノ粒子保持容器52の蓋53に、浮き54を取り付けている。この浮き54は、たとえば中空に形成されている。その結果、蓋53全体として水よりも密度が小さくなっている。
【0050】
このようなナノ粒子保持容器52にナノ流体51を封入した場合であっても、ナノ粒子保持容器52が水中に浸漬されると、蓋53が浮力によって開き、内部のナノ流体51が冷却水中に放出される。
【0051】
本実施の形態でも、事故発生時には、冷却水を供給する水槽から炉心溶融物冷却装置7へ冷却水が供給され、注水がなされると、ナノ粒子を含有した流体、あるいはナノ粒子が人の手をなんら借りることなく、あるいは電気信号も用いずに冷却水に混入される。
【0052】
また、ナノ流体は、給水容器44に配置されている。このため、給水容器44から延びる冷却流路43の冷却水中にナノ粒子を沈殿や堆積が生じないように供給することができる。つまり、ナノ流体供給経路におけるナノ粒子の沈殿、付着などによるナノ流体の効果の低減を防ぐことができる。また、ナノ流体あるいはナノ粒子をナノ粒子保持容器52内に保持しておくことによって、通常運転時の環境条件によるナノ流体51あるいはナノ粒子の劣化および飛散を防止することができる。なお、環境条件による劣化が無く、飛散するような空気の流れがない場合には、ナノ粒子を容器に保持することなく、炉心溶融物冷却装置7の冷却流路43に直接配置することもできる。
【0053】
また、ナノ粒子を封入したナノ粒子保持容器52を水溶性素材で形成してもよい。この場合であっても、ナノ粒子保持容器52が冷却水中に浸漬されると、ナノ粒子保持容器52が冷却水に溶けることによって、内部のナノ粒子が外部に放出される。
【0054】
[第3の実施の形態]
図6は、本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第3の実施の形態の近傍の立断面図である。
【0055】
本実施の形態の炉心溶融物冷却装置7は、ナノ流体51を封入した水槽62を有している。ナノ流体51を封入した1個あるいは複数個の水槽62は、断熱材42上に配置される。ナノ流体51の代わりに、ナノ粒子そのものを水槽62に封入してもよい。ナノ流体51を封入した水槽62は、プラスチック、低融点の金属あるいは樹脂で形成される。ここで、低融点の金属とは、融点が炉心溶融物41(図1参照)の温度に比べて低い金属のことである。この水槽62は、断熱材42上面で複数に分割されたユニットとして隙間なく配置される。
【0056】
本実施の形態でも、事故発生時には、冷却水を供給する水槽から炉心溶融物冷却装置7へ冷却水が供給される。また、炉心溶融物41が炉心溶融物冷却装置7上に落下すると、ナノ流体51を封入した水槽62は伝導熱あるいはふく射熱により溶融する。これに伴って、水槽62に封入されたナノ粒子は、水槽62の外部に放出される。つまり、事故発生時には、ナノ粒子が人の手をなんら借りることなく、あるいは電気信号も用いずに冷却水に混入される。ナノ粒子が混入した冷却水は、自然循環によって入口開口82から給水流路46,47に流入し、給水容器44を経て、冷却流路43に流入する。
【0057】
本実施の形態では、ナノ流体51が炉心溶融物冷却装置7上に配置されているため、ナノ流体の供給経路におけるナノ粒子の沈殿、付着などによるナノ流体の効果の低減を防ぐことができる。また、ナノ流体51を封入した水槽62を複数に分割されたユニットとして隙間なく配置することで、炉心溶融物41の落下時のジェット侵食から断熱材42が保護されるとともに、製作・施工が容易となる。
【0058】
[第4の実施の形態]
図7は、本発明に係る炉心溶融物冷却装置の第4の実施の形態の近傍の立断面図である。
【0059】
本実施の形態の炉心溶融物冷却装置7は、ナノ流体51を封入したナノ粒子保持容器71を有している。このナノ粒子保持容器71は、断熱材42の上面に配置されている。また、ナノ粒子保持容器71には、内圧が所定の値を超えると開放される蓋72が設けられている。
【0060】
このナノ流体51を封入したナノ粒子保持容器71は、たとえば断熱材42の上面の上方に間隔を置いて設けられた仕切りを備えていて、この仕切りと断熱材42との間がナノ流体51を封入する空間となっている。また、この仕切りの外縁部分と断熱材42との間に、蓋72が設けられている。
【0061】
本実施の形態でも、事故発生時には、冷却水を供給する水槽から炉心溶融物冷却装置7へ冷却水が供給される。また、落下した炉心溶融物41(図1参照)は、ナノ流体51を封入した容器71で受けとめられる。炉心溶融物41落下時の衝撃によって、あるいは炉心溶融物41から伝達される熱によってナノ粒子保持容器71の内圧が上昇すると、ナノ粒子保持容器71外周部の蓋72が開放される。その結果、ナノ粒子保持容器71の内部のナノ粒子を含有した流体が、人の手をなんら借りることなく、あるいは電気信号も用いずに噴出し、冷却水に混入される。ナノ粒子が混入した冷却水は、自然循環によって入口開口82から給水流路46,47に流入し、給水容器44を経て、冷却流路43に流入する。
【0062】
本実施の形態では、ナノ流体51が炉心溶融物冷却装置7上に配置されているため、ナノ流体の供給経路におけるナノ粒子の沈殿、付着などによるナノ流体の効果の低減を防ぐことができる。また、炉心溶融物41を流体層によって受け止めることで炉心溶融物落下の衝撃を低減することができる。
【0063】
[他の実施の形態]
上述の各実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれらに限定されない。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【符号の説明】
【0064】
1…原子炉圧力容器、2…格納容器、3…下部ヘッド、4…圧力抑制プール、5…水槽、6…格納容器冷却器、7…炉心溶融物冷却装置、8…注水配管、10…炉心、13…下部ドライウェル、15…ペデスタル床、16…ペデスタル側壁、40…注入弁、41…炉心溶融物、42…断熱材、43…冷却流路、44…給水容器、45…水プール、46…給水流路鉛直部、47…給水流路水平部、51…ナノ流体、52…ナノ粒子保持容器、53…蓋、54…浮き、62…水槽、71…ナノ粒子保持容器、72…蓋、81…出口開口、82…入口開口、83…注水配管出口孔、91…支持台、92…冷却流路底板、93…冷却流路天板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉圧力容器下方に設けられて上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床を有し、前記堆積床の前記冷却流路に面する側の少なくとも一部がナノ粒子を空隙に保持する多孔質材料で形成されていることを特徴とする炉心溶融物冷却装置。
【請求項2】
原子炉圧力容器下方に設けられて上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、
前記冷却流路中に配置されてナノ粒子を収納したナノ粒子保持容器と、
を有し、前記ナノ粒子保持容器が冷却水に浸漬されると前記容器内のナノ粒子が冷却水中に放出されることを特徴とする炉心溶融物冷却装置。
【請求項3】
前記ナノ粒子保持容器は水溶性素材で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項4】
前記ナノ粒子保持容器は冷却水に浸漬されると浮力で開放する蓋を備えることを特徴とする請求項2に記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項5】
原子炉圧力容器下方に設けられて上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、
前記堆積面上に配置されてナノ粒子を収納したナノ粒子保持容器と、
を有することを特徴とする炉心溶融物冷却装置。
【請求項6】
前記ナノ粒子保持容器はプラスチック、低融点金属および樹脂のいずれかで形成されていることを特徴とする請求項5に記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項7】
前記ナノ粒子保持容器は複数であって、隙間なく配置されていることを特徴とする請求項6に記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項8】
前記ナノ粒子保持容器は、内圧が所定の値を超えると開放する蓋を備えていることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の炉心溶融物冷却装置。
【請求項9】
ペデスタル床と、
前記ペデスタル床から立ち上がり原子炉圧力容器を支持するペデスタル側壁と、
前記ペデスタル床上に設けられて、上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床を備えて、前記堆積床の前記冷却流路に面する側の少なくとも一部がナノ粒子を空隙に保持する多孔質材料で形成されている炉心溶融物冷却装置と、
を有することを特徴とする格納容器。
【請求項10】
ペデスタル床と、
前記ペデスタル床から立ち上がり原子炉圧力容器を支持するペデスタル側壁と、
前記ペデスタル床上に設けられて、上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、前記冷却流路中に配置されてナノ粒子を収納したナノ粒子保持容器と、を備えて、前記ナノ粒子保持容器が冷却水に浸漬されると前記容器内のナノ粒子が冷却水中に放出される炉心溶融物冷却装置と、
を有することを特徴とする格納容器。
【請求項11】
ペデスタル床と、
前記ペデスタル床から立ち上がり原子炉圧力容器を支持するペデスタル側壁と、
前記ペデスタル床上に設けられて、上に向かう堆積面とその堆積面の下方の冷却流路とを仕切る堆積床と、前記堆積面上に配置されてナノ粒子を収納したナノ粒子保持容器と、を備えた炉心溶融物冷却装置と、
を有することを特徴とする格納容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−32276(P2012−32276A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172046(P2010−172046)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】