説明

炭化水素用脱硫剤

【課題】炭化水素中の硫黄分を効率よくppbレベルの低濃度まで除去し得て、かつ破過時間が延長された寿命の長い炭化水素用脱硫剤を提供すること。
【解決手段】ニッケルを酸化物(NiO)換算で50〜95質量%、モリブデンを酸化物(MoO)換算で0.5〜25質量%、カルシウムを酸化物(CaO)換算で0.1〜3質量%、及び無機酸化物を含有することを特徴とする炭化水素用脱硫剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素、とりわけ燃料電池などにおいて水素製造のための改質原料に使用される炭化水素の脱硫剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目されている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用あるいは自動車用などとして、実用化研究が積極的になされている。この燃料電池の水素源としては、メタノール、メタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、さらにはLPG、ナフサ、灯油などの石油系燃料といった、様々な炭化水素があり、これらの使用が研究されている。
【0003】
これらの炭化水素を用いて水素を製造する場合、一般に、該炭化水素を、改質触媒の存在下に水蒸気改質又は部分酸化改質処理する方法が用いられる。しかしながら、これらの炭化水素には、硫黄分が含有されており、上記改質触媒は、炭化水素中の硫黄分により被毒される。これは、該改質触媒に一般に用いられているニッケルもしくはルテニウムといった活性金属が、硫黄に対する耐性が低いためである。そこで原料炭化水素に硫黄分が含有されている場合、改質触媒寿命の点から、あらかじめ該炭化水素に脱硫処理を施し、硫黄分含有量を通常100質量ppb以下にすることが要求される。
【0004】
一般的な脱硫方法としては、200〜400℃、2〜15MPaの水素雰囲気下でコバルト−モリブデンもしくはニッケル−モリブデン系触媒により、硫黄化合物を硫化水素の形にして取り除く、いわゆる水素化脱硫方法が多く用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような水素を利用した炭化水素(灯油等)の脱硫方法が古くから盛んに研究されているが、水素化脱硫方法により原料炭化水素の硫黄分を低減させる場合、高温・高圧条件が必要であることや、別途水素が必要になるなど、経済的に不利である。加えて、この水素化脱硫方法は、改質触媒を被毒から保護するに十分なレベルまでの脱硫を行うには未だ至っていない。
そこで定置型燃料電池発電システムにおいては、市販の炭化水素をオンサイトで吸着により脱硫する手法が種々提案されており、炭化水素、とりわけ灯油などの重質炭化水素を、200℃付近の反応条件でNi−Cu系脱硫剤や、Ni−Zn系脱硫剤を用いて脱硫する方法などが提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0005】
しかし、従来のNi系脱硫剤の中には比較的短時間で破過(生成油の硫黄濃度が基準値を超える)してしまう場合もあり、脱硫剤の寿命が十分ではないことから、その破過に達する時間(破過時間)を延長することが、脱硫剤交換頻度の減少や装置の小型化・高効率化の観点から望まれている。
そこで、本出願人は、先に、Ni−Mo系脱硫剤を用いることで、Moを含まない他の脱硫剤と比較して大幅に破過時間を延長することができることを提案した(特許文献4参照)。しかし、脱硫剤交換頻度の減少や装置の小型化・高効率化の観点から、より一層脱硫性能に優れた脱硫剤が提供されることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−91173号公報
【特許文献2】特開2004−230317号公報
【特許文献3】特開2003−290660号公報
【特許文献4】特開2007−254275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の状況に鑑み、水素を炭化水素と共に供給することなく、より一層炭化水素中の硫黄分を効率よくppbレベルの低濃度まで除去し得て、かつ破過時間が延長された寿命の長い炭化水素用脱硫剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく炭化水素の吸着による脱硫に関して鋭意検討したところ、ニッケルとモリブデンに加えてカルシウムを含む特定組成の脱硫剤を使用することで、脱硫反応における破過時間を一層改善することができることを見出し、この知見に基づいて本発明に到達したものである。すなわち、本発明は以下の炭化水素用脱硫剤に関するものである。
1.ニッケルを酸化物(NiO)換算で50〜95質量%、モリブデンを酸化物(MoO)換算で0.5〜25質量%、カルシウムを酸化物(CaO)換算で0.1〜3質量%、及び無機酸化物を含有することを特徴とする炭化水素用脱硫剤。
2.無機酸化物が、SiO、Al、及びSiO−Alの少なくとも1以上である上記1に記載の炭化水素用脱硫剤。
3.上記1又は2に記載の脱硫剤を用い、反応温度0〜400℃、反応圧力0.1MPa以上、液空間速度0.01〜100hr−1の条件下で、炭化水素中の硫黄分を50質量ppb以下にする、炭化水素の脱硫方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脱硫剤は特定の組成を有することにより、灯油、ジェット燃料、ナフサ、ガソリン、LPG、天然ガスなど炭化水素中の硫黄分を極めて効率よく除去でき、50質量ppb破過時間を著しく増加させることができる長寿命の炭化水素用脱硫剤である。また、ニッケルとモリブデンに加えるカルシウムは、比較的安価であるから、Ni−Mo系脱硫剤に比べての大幅な製造コスト上昇を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<脱硫剤組成>
本発明における脱硫剤は、ニッケル、モリブデン及びカルシウムを含んでなり、原料炭化水素中に存在する硫黄含有化合物を吸着除去して、原料炭化水素中の硫黄濃度を低減(脱硫)させるものである。
本発明において、脱硫剤にカルシウムを添加することで、添加していないものと比較し、脱硫剤への炭素析出を抑制することができ、金属成分への炭素被覆が少なくなり、金属成分劣化が抑制され、結果として、破過時間が長くなるものと推測される。
【0011】
脱硫剤におけるニッケルの含有量は、酸化物(NiO)換算で50〜95質量%、好ましくは60〜90質量%である。ニッケル酸化物量が50質量%以上であれば所望の脱硫性能が発現されるため好ましく、95質量%以下であれば、脱硫効果が飽和せず、またNi同士の凝集による脱硫性能の低下が生じにくいため好ましい。
【0012】
脱硫剤におけるモリブデンの含有量は、酸化物(MoO)換算で0.5〜25質量%、好ましくは0.5〜20質量%である。モリブデン酸化物量が0.5質量%以上であれば所望の脱硫性能が発現されるため好ましく、25質量%以下であれば、脱硫効果が飽和せず、また脱硫性能の低下が生じにくいため好ましい。
【0013】
脱硫剤におけるカルシウムの含有量は、酸化物(CaO)換算で0.1〜3質量%、好ましくは0.5〜2.5質量%である。モリブデン酸化物量が0.1質量%以上であれば所望の脱硫性能が発現されるため好ましく、3質量%以下であれば、脱硫効果が飽和せず、また脱硫性能の低下が生じにくいため好ましい。尚、カルシウムを酸化物(CaO)換算で3質量%を超えて添加した場合、炭素析出の抑制効果はあるものの、脱硫剤の比表面積や、かさ密度が低下することにより、結果として性能が低下するものと推測される。
【0014】
本発明の脱硫剤においては、上記ニッケル、モリブデン及びカルシウムに加えてさらに、無機酸化物を含有する。無機酸化物を用いると、それに吸着活性金属が分散付着しその分散性が良くなり、脱硫性能が向上し、破過時間の延長が期待される。また、脱硫剤の成型性や強度も向上するため、無機酸化物を用いることは高活性かつ高耐久性の脱硫剤を得る上で望ましい。
無機酸化物の種類は特に限定されないが、Si、Al、B、Mg、Ce、Zr、P、Ti、W、Mnからなる群から選ばれるいずれか1種の元素の酸化物もしくはこれらの混合物、又は2種以上の元素の複合酸化物が好ましく、これらは結晶構造が無定形であっても結晶性であっても構わない。例えば、SiO、Al、TiO、B、MgO、SiO−Al、Al−B、MgO−SiO、ゼオライトなどが挙げられる。各種無機酸化物の中でも、高表面積、高成形性、高耐破壊・耐磨耗性を有していることから、SiO、Al、及びSiO−Alが特に好ましい。なお、このSiO−Alは、後述する脱硫剤の焼成工程においてSi原料及びAl原料の両者を含む混合物を焼成する過程で生成することができる。
無機酸化物成分の含有量については、特に制限はなく、各種条件において適宜選定すればよいが、通常は脱硫剤全体に対して好ましくは0.5〜50質量%、より好ましくは0.5〜40質量%、さらに好ましくは0.5〜30質量%の範囲であればよい。含有量が0.5質量%以上であれば、無機酸化物成分としての効果が十分に発揮され、また50質量%以下であれば、吸着活性成分の低下による脱硫性能の低下を防ぐことができ、好ましい。
【0015】
さらに、本発明の脱硫剤では、脱硫反応前に、上記含有金属が脱硫反応に適する程度の金属状態に還元されていることが好ましい。これにより、含有金属は活性化され、脱硫剤の硫黄吸着能を向上することができる。脱硫剤の含有金属を金属状態とするには、使用前に水素などで還元処理を施せばよい。なお、金属の状態は、X線回折法(XRD)により、各金属のピークを測定することなどで確認することができる。例えば、金属ニッケルの存在は、X線回折測定(線源Cu−Kα線)により、2θ=51.6°付近にピークトップを有する回折ピークを検出することで確認できる。
【0016】
また、本発明の脱硫剤の比表面積は、還元処理前の状態で150〜600m/gであることが好ましく、180〜500m/gであることがより好ましい。比表面積が150m/g以上であれば、硫黄を吸着する吸着点の数が多くなり、十分な吸着能力が得られて好ましい。また、比表面積が600m/g以下であれば、相対的に平均細孔径が大きくなり、十分な吸着能力が得られて好ましい。
【0017】
脱硫剤の形状については特に規定されず、成型体(押出し円柱、タブレット円柱、球など)、メッシュで篩い分けられた粒状体、粉末などいずれの状態でもかまわないが、取り扱いの簡便さを考えると、成型体又はメッシュで篩い分けられた粒状体が好ましい。脱硫剤の形状を成型体あるいはメッシュで篩い分けられた粒状体にするためには、無機酸化物を用いることが望ましい。また、脱硫剤の大きさは、成型体、メッシュで篩い分けられた粒状体に関らず特に限定されないが、通常直径、あるいは長さが0.1〜10mm、より好ましくは0.1〜5mmであることが好ましい。
【0018】
<脱硫剤の調製>
脱硫剤の調製方法については特に規定されず、任意の方法で適宜調製することができるが、無機酸化物を用いて、含浸法、混練法、共沈法、ゾルゲル法、平衡吸着法などにより調製することができ、ニッケル、モリブデン及びカルシウムを有効的に機能させるためには含浸法及び共沈法が好ましい。さらに、ニッケルの添加には、含浸法では1回の操作による担持量が少ないため、共沈法がより好ましい。
【0019】
以下に本発明の脱硫剤の好適な製造方法について具体的に説明するが、本発明の脱硫剤の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0020】
〔Ni、Mo、Ca共沈(1)〕
好適な本発明の脱硫剤の調製方法の第一の方法について説明する。この方法では、まず、ニッケル原料及びカルシウム原料を含む酸性水溶液と、モリブデン原料を含む塩基性水溶液を別個に調製する。無機酸化物原料は、酸性水溶液又は塩基性水溶液のいずれにも添加することができる。2種以上の無機酸化物原料を使用する場合は、無機酸化物原料を両方の水溶液に添加してもよい。
【0021】
例えば、無機酸化物としてSiO及びAlを含む脱硫剤を製造する場合、ニッケル原料、カルシウム原料、及びアルミニウム原料を含む酸性水溶液と、モリブデン原料、Si原料及び無機塩基を含む塩基性水溶液をそれぞれ調製する。また、無機酸化物としてSiOのみを含む脱硫剤を製造する場合は、例えば、ニッケル原料及びカルシウム原料を含む酸性水溶液と、モリブデン原料、Si原料及び無機塩基を含む塩基性水溶液をそれぞれ調製する。
【0022】
ニッケル原料としては、特に限定されないが、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケルなどの水溶性ニッケル金属塩及びその水和物が好適に使用できる。カルシウム原料としては、特に限定されないが、硝酸カルシウム、硫酸カルシウムなどカルシウム金属塩及びその水和物が好適に使用できる。これらのニッケル原料やモリブデン原料やカルシウム原料は、それぞれ単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、アルミニウム原料としては、特に限定されないが、ベーマイト、擬ベーマイト、γアルミナ、βアルミナなどが好ましい。これらは粉体状、あるいはゾルの形態で用いることができ、一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記酸性水溶液は、塩酸、硫酸、硝酸などの酸によって調製することが好ましい。
【0023】
モリブデン原料としては、特に限定されないが、モリブデン酸アンモニウム、モリブドリン酸などの水溶性モリブデン金属塩及びその水和物が好適に使用できる。
また、Si原料としては、特に限定されないが、シリカや水ガラス、メタケイ酸ソーダ、珪藻土、メソポーラスシリカ(MCM41)などが好ましい。
そして、無機塩基としては、アルカリ金属の炭酸塩や水酸化物などが好ましく、例えば炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、特に炭酸ナトリウムが好適である。
この無機塩基の使用量は、次の工程において、酸性水溶液と塩基性水溶液との混合液が実質上中性から塩基性になるように選ぶのが有利である。Si原料及び無機塩基は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてよい。
【0024】
なお、アルミニウム原料やSi原料は、脱硫剤に無機酸化物成分を加えるために用いるものである。これは、後記する第二、第三の方法でも同様である。
【0025】
次に、調製した各水溶液を、それぞれ25〜90℃に加温し、両者を混合する。そして、液温を25〜90℃に保持しながら0.5〜3時間程度撹拌し、反応を完結させる。酸性水溶液と塩基性水溶液の混合後のpHは6以上であることが好ましく、6〜11の範囲であることがより好ましく、6.5〜10の範囲であることがさらに好ましい。pHが6以上であれば、ニッケル、モリブデン及びカルシウムが効率よく沈殿するため好ましい。また、pHが11以下であることが、無機塩基の使用量を節減することができるため、製造コスト面から好ましい。
【0026】
反応させた水溶液の沈殿物をろ過、水洗後、固形物を公知の方法により50〜150℃程度の温度で乾燥処理する。このようにして得られた乾燥処理物を、好ましくは200〜450℃の範囲の温度において1〜5時間焼成する。
以上のようにして本発明の脱硫剤を好適に調製することができる。
【0027】
〔Ni、Mo、Ca共沈(2)〕
次に、好適な本発明の脱硫剤の調製方法の第二の方法について説明する。この方法では、まず、ニッケル原料及びカルシウム原料及びモリブデン原料を含む酸性水溶液と、無機酸化物原料を含む塩基性水溶液を別個に調製する。2種以上の無機酸化物原料を使用する場合は、無機酸化物原料を酸性水溶液にも添加することができる。
【0028】
例えば、無機酸化物としてSiO及びAlを含む脱硫剤を製造する場合は、ニッケル原料、カルシウム原料、モリブデン原料及びアルミニウム原料を含む酸性水溶液と、Si原料及び無機塩基を含む塩基性水溶液をそれぞれ調製する。
ニッケル原料、カルシウム原料、モリブデン原料、アルミニウム原料、Si原料、無機塩基としては、上記第一の方法と同様のものを用いることができる。また、ニッケル原料、カルシウム原料、モリブデン原料、及びアルミニウム原料を含む酸性水溶液は、塩酸、硫酸、硝酸などの酸によって調製することが好ましい。また、酸性水溶液と塩基性水溶液の混合後のpHは、第一の方法で述べたpHと同様の範囲とすることが好ましい。
調製した上記酸性水溶液と塩基性水溶液は、第一の方法と同様の条件で、混合して反応を完結させ、生成した沈殿物は、ろ過、水洗後、乾燥処理し、乾燥処理物を焼成する。
以上のようにしても本発明の脱硫剤を好適に調製することができる。
【0029】
〔Ni、Ca共沈、Mo含浸〕
さらに、好適な本発明の脱硫剤の調製方法の第三の方法について説明する。この方法では、まず、ニッケル原料及びカルシウム原料を含む酸性水溶液と、無機酸化物原料を含む塩基性水溶液を別個に調製する。2種以上の無機酸化物原料を使用する場合は、無機酸化物原料を酸性水溶液にも添加することができる。
【0030】
例えば、無機酸化物としてSiO及びAlを含む脱硫剤を製造する場合は、ニッケル原料及びカルシウム原料及びアルミニウム原料を含む酸性水溶液と、Si原料及び無機塩基を含む塩基性水溶液をそれぞれ調製する。
ニッケル原料、カルシウム原料、アルミニウム原料、Si原料、無機塩基としては、上記第一の方法と同様のものを用いることができる。また、ニッケル原料及びカルシウム原料及びアルミニウム原料を含む酸性水溶液は、塩酸、硫酸、硝酸などの酸によって調製することが好ましい。また、酸性水溶液と塩基性水溶液の混合後のpHは、第一の方法で述べたpHと同様の範囲とすることが好ましい。
調製した上記酸性水溶液と塩基性水溶液は、第一の方法と同様の条件で、混合して反応を完結させ、生成した沈殿物は、ろ過、水洗後、乾燥処理し、乾燥処理物を焼成する。
【0031】
得られた焼成物に、モリブデン原料をイオン交換水に溶解した水溶液を含浸担持させる。モリブデン原料がイオン交換水で溶解しない場合は少量のアンモニア水を加えても良い。モリブデン原料としては、上記第一の方法と同様のものを用いることができる。
得られたモリブデン原料水溶液の含浸物を、公知の方法により50〜150℃程度の温度で乾燥処理し、その乾燥処理物を、好ましくは200〜450℃の範囲の温度において1〜5時間焼成する。
以上のようにしても本発明の脱硫剤を好適に調製することができる。
【0032】
<脱硫方法>
上記のようにして調製した本発明の脱硫剤は、脱硫反応に供す前に、還元処理しておくことが好ましい。これにより、脱硫剤の含有金属が活性化され、硫黄分を吸着しやすい状態となる。還元方法は、水素、CO等による気相還元、ホルムアルデヒド、エタノール等を用いた液相還元等の公知の方法を用いることが可能であるが、気相による水素化還元が好ましく、この場合、水素雰囲気で200〜500℃で行うことが好ましく、300〜450℃の温度で行うことがより好ましい。
なお、水素化還元処理は、実際の脱硫器内(オンサイト)で行っても、事前の水素化還元処理装置(オフサイト)で行ってもかまわないが、使用する脱硫器の耐熱性などを考慮するとオフサイト還元が好ましい。さらにオフサイト水素化還元処理においては、還元処理後に脱硫剤の安定性を向上させるために、酸素や二酸化炭素などによる安定化処理を施すことがさらに好ましい。
【0033】
本発明の脱硫剤を用いて炭化水素の脱硫を行うには、通常、吸着槽に脱硫剤を充填し、吸着槽で原料炭化水素を脱硫剤と接触することにより脱硫が行われる。炭化水素と脱硫剤を接触させる方法としては、一般的には、固定床式脱硫剤床を吸着槽内に形成し、原料を吸着槽の下部に導入し、固定床の下から上に通過させ、吸着槽の上部から生成油を流出させることにより行うことができる。
【0034】
脱硫反応の条件としては、特に規定されないが、圧力は常圧(0.1MPa)以上が好ましく、さらには0.1〜1.1MPaが好ましい。圧力を0.1MPa以下にするには減圧装置など特殊な機器が必要となり、経済的に好ましくない。逆に圧力を1.1MPa以上とするには脱硫器や供給ポンプの耐圧が必要となり経済的に好ましくない。
また、温度は0〜400℃が好ましく、より好ましくは100〜300℃、更に好ましくは140〜300℃である。低温すぎると吸着脱硫速度が低下し、逆に高温すぎる場合には脱硫剤中のニッケル成分が凝集して脱硫サイト数が減少し、脱硫性能が低下する恐れがある。
また、液空間速度(LHSV)は0.01〜100hr−1、より好ましくは0.1〜20hr−1が好ましい。
【0035】
原料とする炭化水素としては灯油、ジェット燃料、ナフサ、ガソリン、LPG、天然ガスが好ましく、市場における流通度や取り扱いの簡便さから特に灯油が好ましい。灯油としては、硫黄分が80質量ppm程度のものまでなら本発明の脱硫剤により所望のように脱硫できる。通常は、硫黄分50質量ppm以下、好ましくは30質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下の灯油が用いられる。
また、灯油中の芳香族分は通常30vol%以下であることが好ましく、20vol%以下であることがより好ましい。灯油中の芳香族分が30vol%以下であることにより硫黄分をより低減しやすくなる。また、灯油の蒸留性状における95%点は、通常270℃以下であることが好ましい。脱硫条件を上記範囲で適当に選択することにより、硫黄分をppbレベルに低減した炭化水素を長時間得ることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
実施例及び比較例における脱硫剤の物性、及び炭化水素(生成油)中の硫黄分の機器分析方法、並びに炭素析出量の測定方法を以下に示す。
【0037】
<脱硫剤の比表面積測定>
BET(Braunauer−Emmett−Tailor specific surface area)比表面積の測定には、日本ベル社製表面積測定装置(Belsorp Mini)を用いた。試料約200〜300mgを精秤し、これを石英製の試料管に充填し、10−1〜10−3mmHg台に減圧しながら室温から400℃まで1時間かけて昇温し、減圧下、同温度で3時間保持して脱気処理を行った。その後、減圧しながら室温まで降温させ、高純度ヘリウムガスで置換し、脱気後の試料重量を精秤した。この後、液化窒素温度で窒素吸着を行い、比表面積を測定した。
【0038】
<炭化水素中の硫黄分析>
炭化水素中の硫黄分析は、HOUSTON ATLAS社製Thermo Onix XVIを用いた。
【0039】
<脱硫剤のX線回折分析方法>
株式会社リガク製X線回折装置(RINT−2500V)を用いた。測定する試料を粉砕し、試料板に詰め、走査範囲5〜90°、試料回転速度20rpm、発散スリット1°、散乱スリット1°、受光スリット1°、スキャンスピード2°/minでX線回折(線源Cu−Kα線)測定を行った。
【0040】
<脱硫剤上の炭素析出量の測定>
炭素分の測定には、株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製の有機微量元素分析装置(JM10)を用いた。標準試料を用いて検量線を作成後、試料約1mg〜5mgを採取して、測定した。
【0041】
実施例1;Ni、Mo、Ca共沈(1)(第一の方法)
ベーマイトAP−3(触媒化成工業株式会社製)1.24gをイオン交換水1Lに加え80℃に加温後、NiSO・6HOを126.5g、Ca(NO・4HOを3.0g加え調製液Aを得た。別途用意したイオン交換水1Lにコロイダルシリカ スノーテックスXS(日産化学工業株式会社製)33.9g、炭酸ナトリウム59.4g、(NHMo24・5HOを3.9g加え、80℃に加温し、調製液Bを得た。調製液Aと調製液Bを80℃に保持しながら、B液をA液に瞬時に加えて、1時間攪拌した。その後、イオン交換水を5L用いて、洗浄、ろ過後に空気中120℃で12時間乾燥、400℃で1時間焼成し、得られた焼成物を破砕し、1.0mmと1.4mmの網目を有する篩で篩い分けし、脱硫剤1を得た。
【0042】
実施例2;Ni、Mo、Ca共沈(1)(第一の方法)
ベーマイトAP−3(触媒化成工業株式会社製)1.24gをイオン交換水1Lに加え80℃に加温後、NiSO・6HOを126.5g、Ca(NO・4HOを4.4g加え調製液Aを得た。別途用意したイオン交換水1Lにコロイダルシリカ スノーテックスXS(日産化学工業株式会社製)33.9g、炭酸ナトリウム59.4g、(NHMo24・5HOを3.9g加え、80℃に加温し、調製液Bを得た。調製液Aと調製液Bを80℃に保持しながら、B液をA液に瞬時に加えて、1時間攪拌した。その後、イオン交換水を5L用いて、洗浄、ろ過後に空気中120℃で12時間乾燥、400℃で1時間焼成し、得られた焼成物を破砕し、1.0mmと1.4mmの網目を有する篩で篩い分けし、脱硫剤2を得た。
【0043】
実施例3;Ni、Mo、Ca共沈(1)(第一の方法)
ベーマイトAP−3(触媒化成工業株式会社製)1.24gをイオン交換水1Lに加え80℃に加温後、NiSO・6HOを126.5g、Ca(NO・4HOを6.0g加え調製液Aを得た。別途用意したイオン交換水1Lにコロイダルシリカ スノーテックスXS(日産化学工業株式会社製)33.9g、炭酸ナトリウム59.4g、(NHMo24・5HOを3.9g加え、80℃に加温し、調製液Bを得た。調製液Aと調製液Bを80℃に保持しながら、B液をA液に瞬時に加えて、1時間攪拌した。その後、イオン交換水を5L用いて、洗浄、ろ過後に空気中120℃で12時間乾燥、400℃で1時間焼成し、得られた焼成物を破砕し、1.0mmと1.4mmの網目を有する篩で篩い分けし、脱硫剤3を得た。
【0044】
実施例4;Ni、Mo、Ca共沈(1)(第一の方法)
イオン交換水1Lを80℃に加温後、NiSO・6HOを126.5g、Ca(NO・4HOを5.6g加え調製液Aを得た。別途用意したイオン交換水1Lにコロイダルシリカ スノーテックスXS(日産化学工業株式会社製)33.9g、炭酸ナトリウム59.4g、(NHMo24・5HOを3.9g加え、80℃に加温し、調製液Bを得た。調製液Aと調製液Bを80℃に保持しながら、B液をA液に瞬時に加えて、1時間攪拌した。その後、イオン交換水を5L用いて、洗浄、ろ過後に空気中120℃で12時間乾燥、400℃で1時間焼成し、得られた焼成物を破砕し、1.0mmと1.4mmの網目を有する篩で篩い分けし、脱硫剤4を得た。
【0045】
比較例1;Ni、Mo共沈(1)(第一の方法)
ベーマイトAP−3(触媒化成工業株式会社製)1.24gをイオン交換水1Lに加え80℃に加温後、NiSO・6HOを126.5g加え調製液Aを得た。別途用意したイオン交換水1Lにコロイダルシリカ スノーテックスXS(日産化学工業株式会社製)33.9g、炭酸ナトリウム59.4g、(NHMo24・5HOを3.9g加え、80℃に加温し、調製液Bを得た。調製液Aと調製液Bを80℃に保持しながら、B液をA液に瞬時に加えて、1時間攪拌した。その後、イオン交換水を5L用いて、洗浄、ろ過後に空気中120℃で12時間乾燥、400℃で1時間焼成し、得られた焼成物を破砕し、1.0mmと1.4mmの網目を有する篩で篩い分けし、脱硫剤5を得た。
【0046】
比較例2;Ni、Mo、Ca共沈(1)(第一の方法)
ベーマイトAP−3(触媒化成工業株式会社製)1.24gをイオン交換水1Lに加え80℃に加温後、NiSO・6HOを126.5g、Ca(NO・4HOを9.0g加え調製液Aを得た。別途用意したイオン交換水1Lにコロイダルシリカ スノーテックスXS(日産化学工業株式会社製)33.9g、炭酸ナトリウム59.4g、(NHMo24・5HOを3.9g加え、80℃に加温し、調製液Bを得た。調製液Aと調製液Bを80℃に保持しながら、B液をA液に瞬時に加えて、1時間攪拌した。その後、イオン交換水を5L用いて、洗浄、ろ過後に空気中120℃で12時間乾燥、400℃で1時間焼成し、得られた焼成物を破砕し、1.0mmと1.4mmの網目を有する篩で篩い分けし、脱硫剤6を得た。
【0047】
<実施例1〜4、比較例1〜2の脱硫剤のX線回折分析>
脱硫剤1〜6をそれぞれ反応管に充填し、H気流下400℃で3時間還元した後、1%酸素で安定化処理を行った試料について、X線回折測定をした。その結果、いずれの脱硫剤も、2θ=51.5°に金属Niの回折ピークの存在が確認された。
【0048】
<実施例1〜4、比較例1〜2の脱硫剤の灯油脱硫試験>
脱硫剤1〜6を用い、灯油の脱硫試験を行い、脱硫性能を比較した。この脱硫試験では、初留温度154℃、10%留出温度171℃、30%留出温度186℃、50%留出温度201℃、70%留出温度224℃、90%留出温度253℃、終点277℃の蒸留性状を有し、硫黄分8.8質量ppmを含むJIS 1号灯油を用いた。この用いた灯油の性状を表1に示す。
まず、脱硫反応に先立ち、脱硫剤を還元・活性化した。即ち、内径16mmのSUS製反応管に脱硫剤11.6mlを充填した。そして、反応管を400℃に昇温し、常圧下、水素気流中で3時間保持することによって、脱硫剤を還元・活性化した。
その後、上記JIS1号灯油を、圧力0.7MPa、温度200℃、液空間速度4hr−1で、上記活性化された脱硫剤が入った各反応管に流通させ、反応管の下流で生成油を1時間ごとに採取した。採取した生成油中の硫黄分が50質量ppbを超えるまで脱硫実験を継続し、50質量ppbを破過するまでの時間を50質量ppb破過時間とした。結果を表2に示す。
【0049】
<実施例1〜4、比較例1〜2の脱硫剤上の炭素析出量の測定>
脱硫剤1〜6を用い、118時間反応後の脱硫剤上の炭素析出量を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表2に示す結果より、特定量のニッケル、モリブデン及びカルシウムを含む本発明の脱硫剤は、カルシウムを含まない比較例1の脱硫剤と比較し、脱硫剤上の炭素析出量が抑制されており、50質量ppb破過時間が延長されて、長寿命の脱硫剤であることがわかった。また、カルシウムの含有量が本発明における規定を超えて多くなると、脱硫剤の比表面積が小さくなり、所期の50質量ppb破過時間の延長を図れないことがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを酸化物(NiO)換算で50〜95質量%、モリブデンを酸化物(MoO)換算で0.5〜25質量%、カルシウムを酸化物(CaO)換算で0.1〜3質量%、及び無機酸化物を含有することを特徴とする炭化水素用脱硫剤。
【請求項2】
無機酸化物が、SiO、Al、及びSiO−Alの少なくとも1以上である請求項1に記載の炭化水素用脱硫剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の脱硫剤を用い、反応温度0〜400℃、反応圧力0.1MPa以上、液空間速度0.01〜100hr−1の条件下で、炭化水素中の硫黄分を50質量ppb以下にする、炭化水素の脱硫方法。

【公開番号】特開2012−31355(P2012−31355A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174260(P2010−174260)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(590000455)一般財団法人石油エネルギー技術センター (249)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【Fターム(参考)】