説明

炭化水素系溶剤組成物

【課題】本発明は、溶解力が高く、安全性に優れ、芳香族臭が少なく、高沸点であり、かつ、溶剤として好適な低粘度の炭化水素系の溶剤を提供することを課題としている。
【解決手段】本発明の炭化水素系溶剤組成物は、芳香族化合物を90質量%以上含有する溶剤組成物であって、アリール基を有する分子量224の化合物の含有量が5質量%以上、アリール基を有する分子量210の化合物の含有量が35質量%以下、アルキルナフタレンの含有量が50質量%以下であることを特徴としている。このような本発明の炭化水素系溶剤組成物は、10%留出温度が285℃以上であり、90%留出温度が320℃以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化水素系の溶剤組成物に関する。詳しくは、本発明は、高沸点の芳香族系炭化水素を含み、安全性に優れる炭化水素系溶剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に炭化水素系の溶剤は、インキ組成物、塗料組成物、樹脂組成物などの成分として、また各種溶剤あるいは希釈剤などとして用いられている。
これらの炭化水素系溶剤には、より高い安全性が望まれており、製造工程における取り扱いや自然界へ散布または噴霧して用いること等を考慮すると、ナフタレン、フェナントレン等人体に影響を及ぼすと考えられる芳香族炭化水素を実質的に含まず、かつ揮発性が低く、低臭気であり、環境への負荷が低い炭化水素溶剤であることが望ましい。
【0003】
安全性の高い溶剤としては、炭化水素系溶剤のなかでも高沸点のものが挙げられる。高沸点の炭化水素系溶剤は、圧力を加えることにより複写記録を得る記録材料、すなわち感圧複写材料への使用や、農薬、防蟻、防腐および除草の分野における有害生物防除剤組成物などへの利用が知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
また、炭化水素系溶剤は、感圧紙の分野における発色剤、あるいは有害生物防除剤の分野における薬剤原体と共に用いられるが、従来の溶剤では溶解力が低く、芳香族臭を有することが難点である。特許文献2では香料を添加することで芳香族臭を抑えているが、抜本的な臭気の解決策とはなっていない。
【0005】
炭化水素系溶剤の臭気を低減する方法としては、臭気がオレフィン類や酸化劣化物などの不純物に起因する場合には、水素化精製、白土処理、酸アルカリ処理などを行うことが考えられる。しかしながら、これらの方法によっても、芳香族特有の臭気の除去は困難である。また、高沸点の炭化水素は、粘度が高く溶剤として使用しにくいという問題がある。
【特許文献1】特開平09−157189号公報
【特許文献2】特開平10−130620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、溶解力が高く、安全性に優れ、芳香族臭が少なく、高沸点であり、かつ、溶剤として好適な低粘度の炭化水素系の溶剤を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこのような状況に鑑みて鋭意研究した結果、特定分子量の芳香族化合物を含む高沸点の炭化水素系組成物が、上記課題を解決し得ることを見出して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の炭化水素系溶剤組成物は、芳香族化合物を90質量%以上含有する溶剤組成物であって、
アリール基を有する分子量224の化合物の含有量が5質量%以上、アリール基を有する分子量210の化合物の含有量が35質量%以下、アルキルナフタレンの含有量が50質量%以下であることを特徴としている。
【0009】
このような本発明の炭化水素系溶剤組成物は、10%留出温度が285℃以上であり、
90%留出温度が320℃以下であることが好ましい。
本発明の炭化水素系溶剤組成物は、フェナントレン含有量が1.0質量%以下であり、ナフタレン含有量が0.1質量%以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の炭化水素系溶剤組成物は、混合アニリン点が14℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ナフタレン、フェナントレンなどの人体への影響が懸念される芳香族化合物含有量が少なく安全性に優れ、揮発性が低く、低臭気であって環境への負荷が小さく、しかも粘度が低く、着色が少なく、溶解性に優れた炭化水素系溶剤組成物を提供することができる。本発明の炭化水素系溶剤組成物は、農薬、粘着剤、接着剤、インキ、塗料、感圧複写材料の染料、反応溶媒、ゴム、洗浄剤、樹脂等の各種分野に幅広く使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の炭化水素系溶剤組成物は、芳香族化合物を90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは97質量%以上含有する芳香族炭化水素を主成分とする溶剤組成物であって、アリール基を有する分子量224の化合物の含有量が5質量%以上、アリール基を有する分子量210の化合物の含有量が35質量%以下、アルキルナフタレンの含有量が50質量%以下である。
【0013】
アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基等が好ましい。アリール基を有する分子量224の化合物(M224)およびアリール基を有する分子量210の化合物(M210)としては、ベンゼン環を2個有する化合物が好適である。具体的には、アリール基を有する分子量224の化合物(M224)としては、芳香族環を構成する以外の炭素数の合計が5のアルキルビフェニル類やアルキルジフェニルアルカン類が好ましく、また、アリール基を有する分子量210の化合物(M210)としては、芳香族環を構成する以外の炭素数の合計が4のアルキルビフェニル類やアルキルジフェニルアルカン類が好ましい。また、アルキルナフタレンはナフタレンの1つ以上の水素元素がアルキル基で置換された化合物である。
【0014】
本発明の炭化水素系溶剤組成物中において、アリール基を有する分子量224の化合物(M224)の含有量は5質量%以上、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは25〜50質量%であり、また、アリール基を有する分子量210の化合物(M210)の含有量は35質量%以下、好ましくは33質量%以下である。さらに、アルキルナフタレンの含有量は50質量%以下、好ましくは35質量%以下である。M224が5質量%未満である場合、M210の含有量が35質量%を超える場合、およびアルキルナフタレンが50質量%を超える場合には、芳香族臭または不快臭等が強くなるため好ましくない。
【0015】
高分子量あるいは高沸点の芳香族化合物の含有量が増加すると溶剤の動粘度が高くなったり、混合アニリン点が高くなり溶解性が低下するため好ましくなく、低分子量あるいは低沸点の芳香族化合物が増加すると臭気が増すため、好ましくない。したがって、M224とM210の合計量が40〜80質量%以上、より好ましくは50〜75質量%であることが望ましい。
【0016】
尚、分子量の測定はガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で、また、その含有量はFID検出器を用いて測定することができる。
本発明の炭化水素系溶剤組成物は、蒸留性状における10%留出温度が285℃以上、
好ましくは290℃以上であり、90%留出温度が320℃以下、好ましくは90%留出温度を315℃以下であることが望ましい。10%留出温度が285℃未満では芳香族臭の臭気が強くなるため好ましくない。また、90%留出温度が320℃を超えると、溶剤の動粘度が高く、溶解性が低下して溶剤としての用途が限定される場合があるほか、フェナントレン含有量が1.0質量%を超える場合があるため好ましくない。フェナントレンは、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法)で規制されるため、炭化水素系溶剤組成物中のフェナントレンの含有量は1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、特には0.1質量%以下とすることが望ましい。このため本発明の炭化水素系溶剤組成物は、沸点が330℃以上の成分を実質的に含まないことがより好ましく、蒸留終点温度が好ましくは330℃以下、より好ましくは325℃以下であることが望ましい。
【0017】
また、炭化水素系溶剤組成物がナフタレンを含むと、芳香族臭が強くなるほか、人体への悪影響が懸念されるため好ましくない。本発明の炭化水素系溶剤組成物は、ナフタレンを実質的に含まないことが良いが、含有量として好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、特には0.01質量%以下であることが望ましい。
【0018】
このため本発明の炭化水素系溶剤組成物は、沸点が230℃以下の成分を実質的に含まないことがより好ましく、初留温度が好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上であることが望ましい。このような炭化水素系溶剤組成物では、ナフタレンのほか、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼンなどについても実質的に含有しないため、人体への悪影響の懸念が少なく好適である。尚、蒸留性状はJIS K2254に規定の方法で測定される値である。
【0019】
炭化水素系溶剤組成物中の硫黄分及び窒素分は、環境への負荷低減の意味から出来るだけ低いほど好ましく、10質量ppm以下、好ましくは5質量ppm以下、特には1質量ppm以下である。尚、硫黄分はJIS K2541、窒素分はJIS K2609に規定の方法で測定される値である。
【0020】
炭化水素系溶剤組成物の混合アニリン点は、溶解性の指標となり、低ければ低いほど好ましいが、溶解性の観点から14℃以下、好ましくは13℃以下、より好ましくは12〜13℃の範囲である。尚、混合アニリン点はJIS K2256に規定の方法で測定される値である。
【0021】
セーボルト色は特に限定されるものではないが、好ましくは+1以上、より好ましくは+10以上、特には+20以上である。溶剤としての使用の際には無色透明に近い方が好まれるため望ましい。尚、セーボルト色はJIS K2580に規定の方法で測定される値である。
【0022】
本発明の炭化水素系溶剤組成物の引火点は、通常130℃以上、好ましくは140℃以上であることが好ましい。引火点が130℃以上であれば、揮発性が低く、環境への負荷が低く、また、取り扱いが容易であり安全性が高いため好ましい。尚、引火点はJIS K2265に規定の方法で測定される値である。
【0023】
動粘度は、溶剤組成物の用途にもよるが、30℃において5.0〜13.0mm2/s
以下、好ましくは6.0〜12.0mm2/s以下であることが好ましい。尚、動粘度は
JIS K2283に規定の方法で測定される値である。
【0024】
本発明の炭化水素系溶剤組成物の原料には、たとえば、石油精製における水素化分解、
熱分解、接触分解装置から留出するナフサ留分や、直留ナフサを原料とした接触改質反応によって得られる接触改質留分を使用することができる。これらの原料中の硫黄分や窒素分等の不純物は、前処理装置により水素化処理を行い、あらかじめ除去しておくことが望ましい。これらの原料のうちでは、ナフサを原料とした接触改質反応によって得られる接触改質留分が特に好適に用いられる。
【0025】
本発明の炭化水素系溶剤組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、接触改質留分などの上記原料を、精密蒸留により分留することにより、本発明の炭化水素系溶剤組成物を簡便に得ることができる。また、本発明の炭化水素系溶剤組成物は、上記原料を分留して得られた留分の2種以上を混合することにより製造することもできる。
【0026】
特に、上記原料を精密蒸留することにより、10%留出温度が285℃以上、90%留出温度が320℃以下となるようにカットして用いると、各種用途に対応できる炭化水素溶剤組成物を得ることができるため好ましい。
【0027】
このような本発明の炭化水素系溶剤組成物は、揮発性が低く、低臭気であり、人体への安全性が高い上に、粘度、溶解性にも優れている。本発明の炭化水素系溶剤組成物は、高沸点で安全性が高く、しかも溶解性に優れるため、粘着剤、接着剤、塗料、インキ、電気絶縁油、感圧複写材料の染料、洗浄剤、農薬、反応溶媒、合成樹脂、ゴムからなる群から選択される物質のための溶剤として好適に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ナフサ留分の接触改質反応によって得られた改質留分を、精密蒸留により、沸点288.5〜297.0℃の留分に分留し、炭化水素系溶剤組成物を得た。得られた炭化水素溶剤組成物の性状を表1に示す。
【0029】
なお、分子量の測定は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)(Hewlett Packard社製HP5973N、無極性カラム、注入口温度290℃、初期カラ
ム温度50℃(保持時間5分)、昇温速度2℃/分、最終カラム温度300℃(保持時間10分))で実施し、得られたマススペクトルから化合物を確認して分子量を測定した。また、その含有量はガスクロマトグラフ(FID検出器)を用いて実施した。前記以外の評価試験は以下に示す方法にて行った。
・密度:JIS K2249
・臭気官能試験:臭気官能試験は試料50mlを100mlのガラス容器に入れ、男性4名、女性2名にて室温で官能試験を実施し、以下の基準で判定した。
【0030】
A:芳香族臭または刺激・不快臭を感じない
B:芳香族臭または刺激・不快臭をやや感じる
C:芳香族臭または刺激・不快臭を強く感じる
[実施例2〜6、比較例1〜3]
実施例1の蒸留操作において、沸点293.5〜301.0℃の留分(実施例2)、沸点299.0〜305.5℃の留分(実施例3)、沸点301.0〜310.0℃の留分(実施例4)、沸点302.5〜311.0℃の留分(実施例5)、沸点306.0〜315.0℃の留分(実施例6)、沸点257.0〜272.0℃の留分(比較例1)、沸点275.0〜282.0℃の留分(比較例2)、沸点282.5〜290.0℃の留分(比較例3)に分取し、実施例1と同様の方法で各性状を測定あるいは評価した。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の炭化水素系溶剤組成物は、たとえば、粘着剤、接着剤、塗料、インキ、電気絶縁油、感圧複写材料の染料、洗浄剤、農薬、反応溶媒、合成樹脂など各種分野の溶剤として幅広く好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族化合物を90質量%以上含有する溶剤組成物であって、
アリール基を有する分子量224の化合物の含有量が5質量%以上、アリール基を有する分子量210の化合物の含有量が35質量%以下、アルキルナフタレンの含有量が50質量%以下であることを特徴とする炭化水素系溶剤組成物。
【請求項2】
10%留出温度が285℃以上であり、90%留出温度が320℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素系溶剤組成物。
【請求項3】
フェナントレン含有量が1.0質量%以下であり、ナフタレン含有量が0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素系溶剤組成物。
【請求項4】
混合アニリン点が14℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の炭化水素系溶剤組成物。

【公開番号】特開2010−42362(P2010−42362A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208674(P2008−208674)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】