説明

炭化珪素粉体の製造方法及び製造装置

【課題】従来よりもホウ素の含有量が低い炭化珪素粉体を製造することができる炭化珪素粉体の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】低ホウ素化坩堝に炭化珪素粉体の原料を収納し、低ホウ素化坩堝を加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素粉体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素粉体の製造方法が特許文献1に記載されている。特許文献1記載の製造方法は、坩堝(特許文献1には「反応器」と記載される)内に炭化珪素粉体の原料を導入し、坩堝を加熱することで、炭化珪素粉体を製造する。炭化珪素粉体は、炭化珪素単結晶の原料といった様々な用途に使用される。
【特許文献1】特開昭59−227706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1記載の製造方法は、坩堝に低ホウ素化処理がなんらなされていないので、製造された炭化珪素粉体に多量のホウ素が含まれるという問題があった。炭化珪素粉体に多量のホウ素が含まれていると、たとえば、その炭化珪素粉体が炭化珪素単結晶の原料として使用することができないと言った問題が生じる。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、従来よりもホウ素の含有量が低い炭化珪素粉体を製造することができる炭化珪素粉体の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る炭化珪素粉体の製造方法は、低ホウ素化された低ホウ素化坩堝の内部に、炭化珪素粉体の原料を供給する第1工程と、炭化珪素粉体の原料が供給された低ホウ素化坩堝を加熱することで炭化珪素粉体を製造する第2工程とを含むことを特徴とする。
【0006】
本発明に係る炭化珪素粉体の製造装置は、低ホウ素化され、炭化珪素粉体の原料を収納可能な低ホウ素化坩堝を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低ホウ素化坩堝を用いて炭化珪素粉体を製造するので、坩堝からのホウ素による汚染を低減することができ、従来よりもホウ素の含有量が少ない炭化珪素粉体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の実施形態に係る炭化珪素粉体の製造装置1を示す模式図である。以下、製造装置1の構成について説明する。製造装置1は、加熱炉2と、マッフル5と、収納用坩堝9と、低ホウ素化坩堝13とを備える。
【0009】
加熱炉2は、加熱室3と、ヒータ4とを備える。加熱室3の外壁3−1は断熱材で構成されており、ヒータ4は、加熱室3の外壁3−1付近に配置され、低ホウ素化坩堝13を加熱する。
【0010】
マッフル5は、黒鉛で構成されており、収納用坩堝9を収納するマッフル本体6と、マッフル本体6の開口部を覆うマッフル蓋体7とを備える。マッフル蓋体7には、排気口8が形成されている。これにより、マッフル本体6内部の気体(窒素等)がマッフル5の外部に排気される。
【0011】
図2は、収納用坩堝9の構成を示す側面図である。収納用坩堝9は、黒鉛で構成されており、複数の円筒部材10と、複数の仕切り部材12とを備える。
【0012】
円筒部材10は、円筒形の部材であり、側面の上端部に、複数の通気口11が形成されている。通気口11は、円筒部材10の内部と外部とを連通する。これにより、円筒部材10の内部の気体(窒素等)が円筒部材10の外部に排気される。
【0013】
仕切り部材12は、円筒部材10の開口面よりもわずかに大きく、円筒部材10の上下の開口面を塞ぐ。
【0014】
収納用坩堝9は、複数の円筒部材10と、複数の仕切り部材12とにより、以下のように組み立てられる。すなわち、円筒部材10と仕切り部材12とを交互に2段重ね、その上に、2つの円筒部材10を重ねたものを重ねる。そして、その上にさらに仕切り部材12を重ねることで、収納用坩堝9が組み立てられる。収納用坩堝9は、2つの円筒部材10を重ねた部分に形成される空間Bに、低ホウ素化坩堝13を収納する。空間Bは、2つの円筒部材10の中空部を連結したものである。
【0015】
図3は、低ホウ素化坩堝13の構成を示す断面図である。低ホウ素化坩堝13は、低ホウ素化処理が施された黒鉛を低ホウ素化坩堝13の形状に成形するか、低ホウ素化坩堝13の形状に成形された黒鉛を低ホウ素化処理を行うことで構成される。黒鉛の低ホウ素化処理は、黒鉛を2000度以上の高温で40時間以上焼成することで行われる。本実施の形態では、このような低ホウ素化坩堝13として、YS−330HUV(東洋炭素(株)製)を使用する。もちろん、低ホウ素化坩堝はこれに限定されない。
【0016】
低ホウ素化坩堝13は、坩堝本体14と、蓋体18とを備える。坩堝本体14は、円筒の一方の開口面が塞がれた形状となっており、収納部15と、開口部16と、第1ねじ山17とを備える。
【0017】
収納部15は、炭化珪素粉体の原料、具体的には、原料の炭化物22を収納する。開口部16は、収納部15に連通し、内周面が円筒形となっている。第1ねじ山17は、開口部16の内周面に形成されている。
【0018】
蓋体18は、蓋本体19と、凸部20と、第2ねじ山21とを備える。蓋本体19は円盤形状となっており、その径は、坩堝本体14の開口面の径と同一となっている。凸部20は、蓋本体19の裏面に形成される。凸部20の外周面は、開口部16の内周面と同じ径の円筒形となっている。第2ねじ山21は、凸部20の外周面に形成され、第1ねじ山17とかみ合う。第2ねじ山21の高さB2は、第1ねじ山17の高さB1に等しい。
【0019】
したがって、第1ねじ山17と第2ねじ山21とをかみ合わせた状態で蓋体18を回転させると、凸部20が開口部16に進入し(すなわち、下方に移動し)、最終的に、蓋本体19が開口部16を密封する(覆う)。一方、凸部20が開口部16に進入した状態で、蓋本体18を逆回転させると、凸部20が開口部16から離れていき(すなわち、上方に移動し)、最終的に、蓋体18が坩堝本体14から外れる。なお、本実施の形態では、凸部20を開口部16に進入させ、蓋本体19と坩堝本体14との間に隙間Aが形成されるようにする。隙間Aの高さは、第1ねじ山17の高さB1の半分程度である(もちろん、これ以外の高さであってもよい)。したがって、本実施の形態では、蓋体18は、半分だけ閉められる。
【0020】
次に、炭化珪素粉体の製造方法について、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0021】
ステップS1において、炭化珪素粉体の原料となるカーボン源(たとえば、フェノール樹脂)及びシリコン源(たとえば、アルコキシシラン)と、触媒(たとえば、マレイン酸水溶液)とを混合し、アルゴンガスでバブリングし、減圧下(たとえば、10Pa程度)で3時間マイクロウェーブ乾燥を行う。これにより、原料の乾燥物を生成する。
【0022】
ステップS2において、原料の乾燥物を石英製容器に封入し、これを加熱炉(図1の加熱炉2とは異なる。以下、「前処理用加熱炉」とも称する。)に導入する。この石英製容器は、内部と外部とを連通する通気孔が複数形成されている。次いで、前処理用加熱炉内を真空引きし、精製アルゴンで置換し、800〜1000度程度に加熱する。この温度を5〜10時間維持する一方で、前処理用加熱炉内を真空引きし、次いで精製アルゴンで置換する処理を数回(たとえば、3回)繰り返して行う。以下、前処理用加熱炉または加熱炉2内を真空引きし、次いで精製アルゴンで置換する処理を、置換処理とも称する。加熱炉2に対する置換処理は、ステップS3にて行われる。精製アルゴンとしては、たとえば、ガスボンベ内のアルゴンガスを希ガス精製装置を通すことにより酸素、窒素、炭化水素等の不純物を10〜1ppm以下に減少させたものを使用することができる。前処理用加熱炉の外壁を構成する断熱材や、石英製容器は、いずれも、高純度品を用いることが望ましい。このような断熱材としては、たとえば、クレハ製、R500を使用することができ、石英製容器としては、たとえば、住金セラミックス・アンド・クネツ製、半導体グレードを使用することができる。
【0023】
ステップS3において、図3に示すように、原料の炭化物22を坩堝本体14の収納部15に供給し、蓋体18を半分だけ閉める。これにより、隙間Aの他、第1ねじ山17と第2ねじ山21との間にも隙間ができる。次いで、収納用坩堝9に低ホウ素化坩堝13を収納し、収納用坩堝9をマッフル5に収納する。具体的には、加熱室3にマッフル本体6を設置し、マッフル本体6の内部に、円筒部材10と仕切り部材12とを交互に2段重ね、その上に、2つの円筒部材10を重ねたものを重ねる。次いで、空間Bに、低ホウ素化坩堝13を設置し、2つの円筒部材10を重ねたものの上に、仕切り部材12を重ねる。その後、マッフル蓋体7により、マッフル本体6の開口面を塞ぐ。これにより、図1に示すように、製造装置1が形成される。
【0024】
次いで、低ホウ素化坩堝13の温度を1300〜1900度とし、この温度を2〜4時間保持する。これにより、炭化物が一次焼成粉となる(SiC化)。さらに、低ホウ素化坩堝13の内部の圧力は、低ホウ素化坩堝13の外部の圧力よりも高くなる。
【0025】
この処理と並行して、置換処理を数回繰り返して行う。低ホウ素化坩堝13の内部の圧力が、低ホウ素化坩堝13の外部の圧力よりも高くなっており、かつ、置換処理が繰り返して行われるので、炭化物や一次焼成粉に含まれる不純物(ホウ素や窒素等)が、第1ねじ山17と第2ねじ山21との隙間、隙間A、通気口11、排気口8を通って、加熱室3の外部に排出される。
【0026】
ステップS4において、低ホウ素化坩堝13の温度を2000〜2300度とし、この温度を1〜10時間保持する。これにより、一次焼成粉が二次焼成粉となる(粒成長及び純化)。二次焼成粉が目的の炭化珪素粉体となる。
【0027】
なお、ステップS2の温度を900度、ステップS2の温度を維持する時間を10時間、ステップS2の置換処理の回数を3回、ステップS3の温度を1900度、ステップS3の温度を維持する時間を2時間、ステップS3の置換処理の回数を2回、ステップS4の温度を2300度、ステップS4の温度を維持する時間を8時間とした場合、二次焼成粉に含まれるホウ素及び窒素は、いずれも0.1ppm未満となった。
【0028】
以上により、本実施の形態に係る製造方法は、低ホウ素化坩堝13を用いて炭化珪素粉体を製造するので、坩堝からのホウ素による汚染を低減することができ、従来よりもホウ素の含有量が少ない炭化珪素粉体を製造することができる。
【0029】
さらに、本実施の形態に係る製造方法は、蓋本体19と坩堝本体14との間に隙間Aが形成された状態で、低ホウ素化坩堝13を加熱するので、炭化物22等に含まれる不純物が、この隙間Aや第1ねじ山17と第2ねじ山21との隙間から低ホウ素化坩堝13の外部に排出される。したがって、この点でも、従来よりもホウ素の含有量が少ない炭化珪素粉体を製造することができる。
【0030】
さらに、本実施の形態に係る製造方法は、低ホウ素化坩堝13を、収納用坩堝9に収納された状態で加熱されるので、低ホウ素化坩堝13周辺の温度分布を収納用坩堝9が無い場合よりも均一にすることができる。これにより、炭化物22等にまんべんなく熱を伝えることができるので、均一な品質の炭化珪素粉体を製造することができる。なお、この効果は、空間Bと低ホウ素化坩堝13との大きさが近いほど大きくなる。したがって、空間Bと低ホウ素化坩堝13とは同じ大きさであることが望ましい。
【0031】
さらに、本実施の形態に係る製造方法は、収納用坩堝9に通気口11が形成されているので、低ホウ素化坩堝13に形成される隙間(上述した隙間A等)から排出された不純物が、この通気口11を通って、収納用坩堝9の外部に排出される。したがって、いったん低ホウ素化坩堝13から排出された不純物が、低ホウ素化坩堝13の内部に戻ることを防止することができるので、この点でも、従来よりもホウ素の含有量が少ない炭化珪素粉体を製造することができる。
【0032】
さらに、本実施の形態に係る製造方法は、低ホウ素化坩堝13を加熱する一方で、置換処理を繰り返して行うので、低ホウ素化坩堝13から排出された不純物を、スムーズに加熱室3の外部に排出することができる。したがって、いったん低ホウ素化坩堝13から排出された不純物が、低ホウ素化坩堝13の内部に戻ることを防止することができるので、この点でも、従来よりもホウ素の含有量が少ない炭化珪素粉体を製造することができる。
【0033】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態に係る炭化珪素粉体の製造装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る収納用坩堝を示す側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る低ホウ素化坩堝を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る炭化珪素粉体の製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0035】
1:炭化珪素粉体の製造装置
2:加熱炉
3:加熱室
4:ヒータ
5:マッフル
6:マッフル本体
7:マッフル蓋体
8:排気口
9:収納用坩堝
10:円筒部材
11:通気口
12:仕切り部材
13:低ホウ素化坩堝
14:坩堝本体
15:収納部
16:中空部
17:第1ねじ山
18:蓋体
19:蓋本体
20:凸部
21:第2ねじ山
22:炭化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低ホウ素化された低ホウ素化坩堝の内部に、炭化珪素粉体の原料を供給する第1工程と、
前記炭化珪素粉体の原料が供給された低ホウ素化坩堝を加熱することで炭化珪素粉体を製造する第2工程とを含むことを特徴とする炭化珪素粉体の製造方法。
【請求項2】
前記低ホウ素化坩堝は、
前記炭化珪素粉体の原料が収納される収納部と、前記収納部に連通し、内周面が円筒形となっている開口部と、前記開口部の内周面に形成される第1ねじ山とを備える坩堝本体と、
前記開口部を覆うことが可能な蓋本体と、前記蓋本体に形成され、前記開口部に挿入され、外周面が前記開口部の内周面と同じ径の円筒形となっている凸部と、前記凸部の外周面に形成され、前記第1ねじ山にかみ合う第2ねじ山とを備える蓋体とを備え、
前記第1工程は、
前記炭化珪素粉体の原料を、前記坩堝本体の開口部を通して、前記坩堝本体の収納部に供給し、次いで、前記第1ねじ山と前記第2ねじ山とをかみ合わせた状態で前記蓋体を回転させることで、前記凸部を前記開口部に進入させ、前記蓋本体と前記坩堝本体との間に隙間が形成された状態とする工程を含むことを特徴とする請求項1記載の炭化珪素粉体の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素粉体の原料が供給された低ホウ素化坩堝は、収納用坩堝に収納された状態で加熱されることを特徴とする請求項1または2記載の炭化珪素粉体の製造方法。
【請求項4】
前記収納用坩堝には、その内部と外部とを連通する通気口が形成されていることを特徴とする請求項3記載の炭化珪素粉体の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程は、前記炭化珪素粉体の原料が供給された低ホウ素化坩堝を加熱する一方で、前記低ホウ素化坩堝周辺の空間を真空引きし、次いで不活性ガスで置換する処理を繰り返して行う工程を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素粉体の製造方法。
【請求項6】
低ホウ素化され、炭化珪素粉体の原料を収納可能な低ホウ素化坩堝を備えることを特徴とする炭化珪素粉体の製造装置。
【請求項7】
前記低ホウ素化坩堝は、
前記炭化珪素粉体の原料が収納される収納部と、前記収納部に連通し、内周面が円筒形となっている開口部と、前記開口部の内周面に形成される第1ねじ山とを備える坩堝本体と、
前記開口部を覆うことが可能な蓋本体と、前記蓋本体に形成され、前記開口部に挿入され、外周面が前記開口部の内周面と同じ径の円筒形となっている凸部と、前記凸部の外周面に形成され、前記第1ねじ山にかみ合う第2ねじ山とを備える蓋体とを備えることを特徴とする請求項6記載の炭化珪素粉体の製造装置。
【請求項8】
前記低ホウ素化坩堝を収納する収納用坩堝を備えることを特徴とする請求項6または7記載の炭化珪素粉体の製造装置。
【請求項9】
前記収納用坩堝には、その内部と外部とを連通する通気口が形成されていることを特徴とする請求項8記載の炭化珪素粉体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−256153(P2009−256153A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109846(P2008−109846)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】