説明

炭素材と銅合金材を冶金的に接合する高熱負荷機器製造方法

【課題】 炭素材と銅合金を冶金的接合することにより高熱負荷機器を製造する方法、特に核融合炉のダイバータにおけるCFCブロックと冷却管を良好に接合させる製造方法を提供する。
【解決手段】 炭素材であるCFCブロック11の表面に蒸着によりチタン薄膜層12を形成し、チタン薄膜層12と緩衝材14の間と、緩衝材14と冷却管16の間に、銅を含むシート状のロウ材13,15を介挿して組み上げた組立体を、真空ロウ付けすることにより、チタン薄膜層12のチタンとCFCブロック11の炭素がチタンカーバイドに変成し、ロウ材13との濡れ性を向上させることにより、本来は冶金的接合がなされない銅と炭素材の接合部において、チタンと銅の共晶体が生成し、炭素材への銅の浸透を促進させることにより、CFCブロック11と冷却管16との強固な結合を有する高熱負荷機器を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱負荷機器製作のための炭素材と銅または銅合金材を接合する方法に関し、特に、核融合装置の炉内機器のうちでも特に大きい熱負荷を受けるダイバータなどを製作するために、受熱部となる炭素材ブロックと除熱部となる銅合金製冷却配管を冶金的に接合して高熱負荷機器を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核融合装置のダイバータには入射する荷電粒子の持つ運動エネルギーが熱として与えられるため、ダイバータは核融合装置の炉内機器において最も高い熱負荷を受ける機器になる。したがって、ダイバータにはこのような高熱負荷に耐えて除熱を行う機能が要求される。さらに、長時間放電を行う核融合実験装置においては、ダイバータを構成する部材自体の熱容量ではその表面温度が構成材料の融点を超えてしまうため、水冷等の強制冷却方式を採用している。
【0003】
ダイバータに要求される高熱負荷の除熱機能を満たすために、熱伝導のよい材料でダイバータの受熱機器を構成することが必要である。また、ダイバータはイオン照射によるスパッタリングやプラズマディスラプションにおける熱衝撃から冷却構造を保護するために表面にアーマタイルを備える。
【0004】
アーマタイルは、スパッタリングなどにより表面から粒子が飛散してプラズマに混入しプラズマ温度の低下や閉じ込め性能の低下を招くため、プラズマへの悪影響が小さい低原子番号材料、特に、炭素系材料で形成されている。
アーマタイルは、熱伝導のより高い炭素材料である炭素繊維強化炭素複合材料(CFC材)で形成することがより望ましい。アーマタイルの中には、伝熱性が高く強度の高いたとえばクロム・ジルコニウム銅(CuCrZr)など銅合金製の冷却配管が設置されていて、炭素材が受けた熱は冷却水により除熱することができる。
なお、炭素材と銅合金は接合性が悪いので、プラズマからの受熱を効率よく冷却管に伝えるため、アーマタイルは冷却管に冶金的に接合され、熱抵抗を可能な限り低減する構造になっている。
【0005】
炭素材のアーマタイルと銅合金製の冷却配管の間には膨張率の差を吸収するため銅材製の緩衝材を介装し、相互間を、主としてCu−Mg系やTi−Cu系の熱伝導のよい接合材を用いたロウ付け接合などを用いて強固に接合する。
しかし、製造工程中の高熱処理において、炭素材と銅合金の熱膨張率の差や炭素材の強度不足から、炭素材の割れが発生したり、緩衝材と炭素材の剥離が生じたりして、歩留りがあがらなかった。また、ロウ付けで使用するロウ材は薄膜状であることから接合前の部品組立てに多大な労力を要するため、大量生産に適さない問題があった。
【0006】
特許文献1には、グラファイト部と金属部がロウ層を介して結合され、金属層とロウ層の間に、クロムに銅やニッケルを加えた合金からなる中間層を設けた高耐熱構造部品が開示されている。この特殊な中間層により、異種材料間の熱膨張率の違いを吸収して、グラファイトと金属の間を強固に結合することができる。
しかし、特許文献1記載の高耐熱構造部品は、核融合炉の運転中に遭遇する熱サイクル負荷には耐えて構造部品の著しい変形や材料割れを防止することができるが、部品の製造工程中に履歴する高熱処理には耐えかね、製品としての歩留りは高くない。
【0007】
ちなみに、本願発明者らの知見によると、析出硬化型銅合金(CuCrZr)製冷却管に貫通孔付き炭素繊維強化炭素複合材料(CFC)製のモノブロックを10個程度連ねて差し通し、冷却管とモノブロックの間に無酸素銅製の円筒緩衝材を介装した、本願発明の前駆的なサンプルについて、985℃で真空ロウ付けをして析出硬化型銅合金の強度確保のため急冷後、480℃で時効処理を行った後に検査をした結果、かなりの率でCFCブロックの側面に軸方向のクラックが入ること、ロウ付けの不良が多くかなりの率でCFCブロックの冷却管周方向にがたつきがあること、外観からはロウ付け良好と見られたものでも切断検査すると周方向の1/3程度しか接続されていないものがあること、などの欠陥が多数観察された。
【0008】
熱伝達を著しく損ねる剥離は殆ど、CFCブロックと緩衝材の間のロウ材層で発生する。上記サンプルでは、炭素材と銅緩衝材はチタン含有量の多いロウ材(たとえば、60Ti−15Cu−25Niの組成を持つロウ材)を用いて直接ロウ付けしている。
析出硬化型銅合金製冷却配管は、強度を確保するため加熱急冷する溶体化処理が必要で、ロウ付け直後に熱処理炉内で1℃/秒以上の勾配で急冷する。このとき、炭素材と銅合金の熱膨張率の差に基づきロウ材層に大きな引っ張り張力が発生し、ロウ材中のチタン化合物層と他の金属化合物層の間に剥離が生じたものである。
【0009】
これに対して、本願出願人等は、先に特許文献2によって、炭素材と銅合金材を接合してなる高熱負荷機器において、炭素材の表面に炭素材と接合性のよい金属層を形成し、金属層と銅合金材を、緩衝材を介して対向するように配置し、炭素材と緩衝材の間および緩衝材と銅合金材の間に薄膜状のロウ材を介挿して組み上げた組立体を、真空ロウ付けし、時効処理して、冶金的接合により高熱負荷機器を製造する高熱負荷機器製造方法を開示している。
【0010】
特許文献2に開示された高熱負荷機器製造方法では、炭素材表面の金属層は、銅およびチタンを含む金属粉末をペースト又は溶液にして、炭素材の緩衝材に面する面に塗布した後、不活性ガス雰囲気中で800℃ないし2000℃で焼結させて金属層を形成させた上で、接合面となる金属層面に機械加工を施して平滑化することにより得るものであった。
炭素材表面の金属層は、炭素材と金属層との間にチタンカーバイドを形成し両者間の結合性を向上させるために形成されるが、金属層の組成はチタンと銅の重量に対してチタン重量2〜10%程度とチタンを極力低めに抑えることが望ましいとされる。
【0011】
こうして、特許文献2に開示された高熱負荷機器製造方法により、接合しにくい炭素材と銅合金を冶金的接合することにより高熱負荷機器を製造することができるようになり、特に核融合炉のダイバータにおける炭素材ブロックと銅合金製冷却管を良好に接合することができるようになった。
【0012】
しかし、特許文献2記載の高熱付加機器製造方法においては、ペースト状あるいは溶液状の金属層原料を炭素材接合面に塗布して、高温炉内で焼結させた後、配管との接合に適したクリアランス及び平滑面を確保するため機械加工が施される。金属層原料を炭素材の接合面表面に塗布するときは、一般的に刷毛あるいはヘラを用いた手作業塗りをするので、金属層は作業者の経験的な習熟度による影響を受けやすく、機械加工工程で金属層の剥離が生じたりして、安定した金属層を得ることが難しい。このため、炭素材と銅合金の接合は、歩留りが50%程度など余り良くなく、さらに改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表平8−506315号公報
【特許文献2】特開2009−192264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、接合しにくい炭素材と銅合金を炭素材表面に形成した金属層を介して冶金的接合することにより高熱負荷機器を製造する方法において、従来と異なる金属層形式を用いた方法を提供することにより、金属層形成のための工程を短縮し、安定した金属層を形成し、接合が確実にできるようにすることであり、特に核融合炉のダイバータにおける炭素材ブロックと銅合金製冷却管を良好に接合する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の高熱負荷機器製造方法は、炭素材と銅合金材を接合してなる高熱負荷機器において、炭素材の表面にチタン薄膜層を形成し、チタン薄膜層と銅合金材を、緩衝材を介して対向するように配置し、炭素材と緩衝材の間および緩衝材と銅合金材の間に薄膜状のロウ材を介挿して組み上げた組立体を、真空ロウ付けし、時効処理して、冶金的接合により高熱負荷機器を製造する。
【0016】
本発明の方法によれば、炭素材表面に形成する金属層をチタン薄膜層とすることにより、高温状態でチタン薄膜層のチタンが炭素材の炭素と反応し炭素材表面に均一なチタンカーバイド(Ti−C)を形成する。さらに、当初の金属層には銅が含まれないが、ロウ材を挿入した高温状態で溶けた銅とチタンは共晶を形成するので、ロウ材中の銅がチタン薄膜層を透過してチタンカーバイドと接することができる。チタンカーバイドと銅は濡れ性がよいため、銅がチタンカーバイドの隙間に浸透する。なお、また、高温時には緩衝材表面の銅の一部が溶けてロウ材中の銅と同体化する。
【0017】
したがって、時効処理した後の低温状態では、緩衝材とロウ材、ロウ材と炭素材表面のチタンカーバイド、チタンカーバイドと炭素材、それぞれの間が強く接合することになり、銅合金でなる緩衝材と炭素材の間は強度な接合が得られる。
炭素材表面のチタン薄膜層は、真空蒸着やイオン蒸着(イオン・プレーティング)など公知の蒸着方法によって形成され、層厚や表面状態の管理は簡単かつ確実に行われる。また、蒸着によって形成されたチタン薄膜層は、金属ロウ付けを行うために必要十分な平滑性を持った表面と、全面にわたる均一性を有する。
【0018】
実験によると、ロウ材中の銅がチタンカーバイド層の必要深さまで浸透し、緩衝材と炭素材が強固に接合するには、チタン層が20μm以上の厚みを有する必要があることが分かった。また、チタン薄膜層の層厚は、30μmより大きくても接合性を向上させる効果はみられず、膜厚の増加と共に熱応力や内部応力などの膜厚応力が蓄積し膜の剥離を起こすことがある。さらに、チタン銅共晶体は熱伝導性が悪いことから、チタン薄膜層も必要以上の厚みを持たせないようにすることが好ましい。また、膜厚を大きくすると、処理時間の増加、コストの増加を来すことになる。
そこで、炭素材表面のチタン薄膜層は、厚みが20μm以上、30μm以下になるように管理している。
【0019】
チタン薄膜層のチタンは、炭素材中の炭素と結合してチタンカーバイドを形成することにより、炭素材と銅合金の接合力を得るための炭素材への抗材となるものであるが、層厚が大き過ぎても層中の剥離等により接合力を弱めることになる。このため、チタン薄膜層の層厚の管理が重要であるが、イオン蒸着などでは、蒸着時間で堆積厚さを管理することが可能で、かつ、平滑で均質な接合面を得ることができるので、従来方法で実施される金属層形成後の機械加工等が不要になり、工程数も減少する。
【0020】
上記製造方法において、高熱負荷機器は核融合炉におけるダイバータであって、炭素材は貫通孔を備えた炭素繊維強化炭素複合材料(CFC)製のモノブロック型アーマタイル、銅合金材は析出硬化型銅合金製の冷却配管、緩衝材は無酸素銅製の円筒緩衝材であってもよい。
炭素材と緩衝材を接合するロウ材は、銅を含むロウ材であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本願発明の高熱負荷機器製造方法により、炭素材と銅合金材を強力に接合した高熱負荷機器を、歩留り良く製造することができる。本願発明の高熱負荷機器製造方法は、特に、核融合炉において、モノブロック型アーマタイルを冷却配管に接合して効果的に冷却することができるようにしたダイバータの製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る高熱負荷機器製造方法の1実施例によって製造された核融合炉のダイバータのアーマタイル部分で切断した一部断面斜視図である。
【図2】本実施例の高熱負荷機器製造方法により製造したダイバータ構成部品に用いた部材を示す分解組立図である。
【図3】本実施例の高熱負荷機器製造方法により製造したダイバータ構成部品の組立図である。
【図4】本実施例の高熱負荷機器製造方法により製造したアーマタイル部分に用いた部材を示す分解組立図である。
【図5】本実施例の高熱負荷機器製造方法における製造手順を示す流れ図である。
【図6】本実施例の高熱負荷機器製造方法において使用するイオン蒸着装置の概念を示す構成図である。
【図7】本発明の高熱負荷機器製造方法における炭素材と銅との接合機構を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明の高熱負荷機器製造方法について詳細に説明する。本実施例は、核融合炉に使用するダイバータにおいて、炭素繊維強化炭素複合材(CFC)で形成されるアーマタイルと銅合金製冷却水配管の間を冶金的に接合する方法である。本実施例の方法は、アーマタイルを形成する炭素材であるCFCブロックの貫通孔内壁と冷却水配管の外壁との間に銅を含む緩衝材を介挿して、銅を含むロウ材を使った真空ロウ付け法により相互間を固定するもので、CFCブロックの貫通孔内壁表面にチタン薄膜層を形成することを特徴とする。チタン薄膜層は、イオン蒸着等によりチタン金属を表面に蒸着させて形成することができる。
【0024】
図1は本実施例の高熱負荷機器製造方法により製造された核融合炉のダイバータのアーマタイル部分(図3のI−I位置)で切断した一部断面斜視図、図2はダイバータ構成部品に用いた部材を示す分解組立図、図3はダイバータ構成部品の組み立て図である。
【0025】
図1から図3を参照すると、ダイバータ受熱部の構成部品は、1本の冷却管16に、それぞれ0.5mmから1.0mm程度の隙間dをおいて数十個のアーマタイル10が固定されて形成される。
アーマタイル10は、炭素繊維強化炭素複合体(CFC)で形成されるモノブロック構造のCFCブロック11で形成される。CFCブロック11では、炭素繊維の方向が、核融合炉の内側に向いた熱負荷面に対して垂直になるように配置される。なお、アーマタイル10の熱負荷面は、20mmから30mm程度の辺を持つ長方形または正方形形状をしている。
また、アーマタイル10のCFCブロック11の内部に径15mmから20mm程度の貫通孔が形成され、貫通孔の表面にチタンで構成されるチタン薄膜層12が形成されている。
【0026】
冷却管16は、CFCブロック11の貫通孔を貫通する。冷却管16は、熱伝達係数の大きい銅合金で形成された肉厚約1.5mmの管で、冷却水を流通してアーマタイル10から伝達された熱を搬出する。なお、冷却管16は、熱伝達係数が大きくかつ強度の大きいクロムジルコニウム銅(CuCrZr)で形成することが好ましい。
【0027】
アーマタイル10のCFCブロック11と冷却管16の間には緩衝材14が介挿され、冷却管16と緩衝材14の間と、緩衝材14とCFCブロック11の間をロウ付けして固定している。
緩衝材14は、無酸素銅または銅合金で形成された円筒で、CFCブロック11と冷却管16の熱膨張差を吸収する役割を果たす。
冷却管16の端部にはニッケル合金製のインサート管22を介してステンレススチール製の冷却配管21が取り付けられる。
【0028】
図4は本実施例の高熱負荷機器製造方法により製造したダイバータのアーマタイル部分に用いた部材をそれぞれ半割りにして表示する分解組立図、図5は本実施例の製造手順例を表す流れ図、図6は本発明における炭素材と銅合金の接合機構を説明する説明図である。
【0029】
本実施例は、冷却管16と緩衝材14、および緩衝材14とアーマタイル10のCFCブロック11を、薄膜状のシートロウ材13,15を使った真空ロウ付けにより接合固定するもので、CFCブロック11の貫通孔表面にチタン薄膜層12を形成したことを特徴とする。
【0030】
次に、本実施例における製造手順を説明する。
CFCブロック11、冷却管16、緩衝材14、シートロウ材13,15、その他の部品を準備する(S11)。
【0031】
冷却管16と緩衝材14の間に介挿されるロウ材15と、緩衝材14とCFCブロック11の間に介挿されるロウ材13は、ニッケル、銅、マンガンを含んでなるもので、50μm程度の厚さのシートからCFCブロック11の貫通孔長さに合わせた幅で切り出してリボン状のシートロウ材として供給される。
CFCブロック11は、冷却管16に対する接合面となる貫通孔の内側壁にチタン薄膜層12をイオン蒸着法などにより形成する(S12)。なお、チタン蒸着に使用できる蒸着装置は、各メーカから種々の型式のものが市販されているので、適宜に選択することができる。
【0032】
図6は、チタンを炭素材に蒸着するために使用するイオン蒸着装置の概念を示す構成図である。イオン蒸着装置は、真空容器31と直流電源32とターゲット33を備える。
本実施例ではイオン蒸着装置を用いて、イオン蒸着装置の真空容器31内にCFCブロック11を据え、CFCブロック11の蒸着面と対向する位置に金属チタン製のターゲット34を配置して、CFCブロック11とターゲット34に直流電源32の電極を繋ぐ。CFCブロック11とターゲット34の間に直流電圧を印加し、ターゲット33からチタンを蒸発させると、イオン化した蒸発チタンがCFCブロック11の負極面に付着する。このようにして、CFCブロック11の貫通孔内壁面にチタンを蒸着させてチタン薄膜層12を形成することができる。
【0033】
既に冷却管16に固定されたCFCブロック11と新しく固定されるCFCブロック11の間隙dが0.5mmから1.0mm程度になるように固定位置を決めて、シート状のロウ材15を内面に巻き付けた緩衝材14を冷却管16に嵌め込む。さらに、CFCブロック11の貫通孔内面にシート状のロウ材13をセットして、CFCブロック11を緩衝材14に嵌め込み、位置決めする。この工程をCFCブロック11の数だけ繰り返して、ロウ付け前の組立体を形成する(S13)。
【0034】
シート状のロウ材13,15は、緩衝材14やCFCブロック11を組み合わせた後で隙間に挿入するようにしてもよい。
なお、組立体においてCFCブロック11の間隙dを後の工程にわたって保持するため、カーボン材で作成したスペーサを用いることができる。スペーサはロウ付け後に取り外す。
【0035】
組み上がった組立体を真空加熱炉で、925℃以上、1000℃程度に加熱してロウ材13,15を溶融して、真空ロウ付け処理を行う(S14)。
ロウ付けは、複雑な組成形状を有する組立体全体を均等にロウ付け温度にするため、ロウ付け温度に達する前に、ロウ付け温度よりわずかに低い温度に保って十分な予熱を行うことが好ましい。
【0036】
冷却管16を形成する金属は析出硬化型銅合金(CuCrZr)であるため、ロウ付け時に高熱に曝されると軟化するので、ロウ付け後に時効処理を行って硬度を確保する必要がある。そこで、ロウ付けした冷却管/CFCブロック接合体を、アルゴンガス雰囲気下の真空中で500℃程度の時効温度で所定時間保持する時効処理を行う(S15)。
時効処理後は炉内にて放冷する。
【0037】
ロウ付けした冷却管/CFCブロック接合体の冷却管16の両端部に冷却配管21を溶接により取り付ける(S16)。
冷却配管コネクタ21はステンレススチール製でCuCrZr製冷却管との接合性が良くないので、インサート材としてニッケル合金製のインサート管22を用いて、溶接を行って接続する。
CFCブロック11のチタン薄膜層12のチタンは、CFCブロック11中の炭素成分と反応しチタンカーバイドなどのチタン化合物を生成し、ブロックと強固に接合する。
【0038】
図7は、本発明の高熱負荷機器製造方法における炭素材と銅の接合機構を説明する説明図である。
図7を参照すると、(a)図に示すように、ロウ付け処理する前の常温状態で、CFCブロック11中の炭素繊維など、炭素成分23の表面に堆積したチタン薄膜層12がロウ材13に覆われ、ロウ材13はさらに緩衝材14に覆われている。これが、ロウ付けのため加熱されて925℃以上の高温状態に置かれると、チタンと接触した炭素成分23は、化学反応によりチタンカーバイド24に変成する。
【0039】
チタンカーバイドは、液化した金属成分と良く馴染む。また、ロウ材13中の銅がチタン薄膜層12のチタンと共晶を作り融点の低いチタン銅共晶体25となって、高温下で流動性を有する液体となる。したがって、ロウ付け時の高温状態では(b)図に示すように、液化したチタン銅共晶体25がチタンカーバイドの周囲に形成された隙間に染み込む。
【0040】
さらに、(c)図に示すように、チタン銅共晶体25は、その後室温まで冷却されて固化してチタン銅共晶体25を含むロウ材13の固体26となり、炭素成分23を含むCFCブロック11とロウ材13の接合性を確保する。
また、(b)図に示すように、緩衝材14に含まれる銅もロウ付け時の高熱により溶融したチタン銅共晶体25を含むロウ材13と接触している表面部分が融けてロウ材13に含まれる銅と融合するので、冷却すると、(c)図に示すように緩衝材14と固化したロウ材26が一体化して高い接合性を有する。
なお、緩衝材14とロウ材15およびロウ材15と冷却管16の間も、同様に、高い接合性を有するようになる。
【0041】
したがって、本実施態様により製造されたダイバータのアーマタイル部分は、CFCブロック11にチタン薄膜層12を堆積させたため、従来の金属層による結合と異なり、製造中の温度変動により大きな熱ストレスを受けても、CFCブロック11とロウ材13、あるいは緩衝材14と剥離しにくい。
【0042】
実験結果から、チタンと銅の液相反応には、チタン薄膜層12が20μm以上の厚みを持つことが必要であることが分かっている。また、チタン銅共晶体は熱伝導性が悪いことから、必要以上に層厚を大きくしないことが好ましい。さらに、一般的に、チタン薄膜層12の生成プロセスでは、膜厚の増加と共に熱応力や内部応力などの膜厚応力が蓄積し、生成膜の剥離を起こすことがある。また、膜厚を大きくすると、処理時間の増加、コストの増加を来すことになる。
一方、試験によって30μm以上の厚みがあっても接合状態の良化がみられないことが知られている。
これらの事情から、チタン薄膜層12の厚みは20μm以上、30μm以下であることが好ましい。
【0043】
なお、イオン蒸着法では、金属層厚の管理が容易で、チタン薄膜層12の層厚のバラツキは±3μm程度に収まるので、チタン薄膜層12の層厚を、たとえば、目標値を25μmとしバラツキを±5μmに収めて、20μm以上30μmまでの厚さにすることは比較的簡単である。
また、蒸着法を用いることにより、平滑で均質な接合面が形成され、金属ロウ材を介した炭素材と無酸素銅または銅合金の緩衝材の間の冶金的接合が安定するので、大量生産が可能となる。
【0044】
本実施例においては、チタン薄膜層12をイオン蒸着により形成するため、チタン薄膜層形成後の機械加工等が不要になり、熟練を要する作業が減少し、工程数も減少する。また、製品歩留りも大きく改善され、80%から100%の歩留りが期待される。
さらに、従来技術では金属層における剥離が発生しやすく、アーマタイルにクラックが入ったりすることも多かったが、本実施例の高熱負荷機器製造方法では、製品完成後におけるチタン薄膜層12は十分に薄く、また、ほぼチタン銅共晶体の層に変成して純粋チタンとの境界面が消失するので、剥離などが生じにくくなり、破損しにくいダイバータ構成部品を得ることができる。
【0045】
本実施例の方法を用いることにより、チタン薄膜層のチタンが炭素材表面の炭素と反応してチタンカーバイドを形成して結合すると共に、チタン薄膜層のチタンとロウ材中の銅とが共晶を形成して炭素材の隙間に浸透して結合し、さらに、ロウ材と緩衝材が混合して結合する。
銅あるいはチタン銅共晶体とチタンカーバイドは濡れ性が高いので、表面にチタンカーバイドを生成した炭素材の隙間に浸透し、固化したときに強く結合する。また、緩衝材と銅合金製冷却配管も銅が含まれるロウ材により結合する。
【0046】
このように、CFCブロックの内壁と緩衝材と冷却配管の外壁との相互間が強固に結合して、冷却配管にアーマタイルを連設した頑丈なダイバータ構成部品を形成する。
なお、本実施例においては、チタンを蒸着したチタン薄膜層12を使用しているが、チタン以外でも、銅と共晶体を生成して十分な融点低下をもたらすような蒸着可能な活性金属であれば利用できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の高熱負荷機器製造方法により、製造工程を短縮し、歩留り良く、炭素材と銅合金材を強力に接合した高熱負荷機器を製造することができる。本発明の高熱負荷機器製造方法は、特に、核融合炉において、モノブロック型アーマタイルを冷却配管に接合して効果的に冷却することができるようにしたダイバータの製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
10 アーマタイル
11 CFCブロック
12 チタン薄膜層
13,15 ロウ材
14 緩衝材
16 冷却管
21 冷却配管コネクタ
22 インサート管
23 炭素成分
24 チタンカーバイド
25 チタン銅共晶体
26 固化したロウ材
31 真空容器
32 直流電源
33 ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材と銅合金材を接合してなる高熱負荷機器において、炭素材の表面にチタンの薄膜層を形成し、該チタン薄膜層が緩衝材を介して銅合金材に対向するように配置し、該炭素材と該緩衝材の間および該緩衝材と該銅合金材の間に薄膜状のロウ材を介挿することにより組立体を組み上げ、該組立体を真空ロウ付けしさらに時効処理することを特徴とする高熱負荷機器製造方法。
【請求項2】
前記高熱負荷機器は核融合炉におけるダイバータであって、前記炭素材は貫通孔を備えた炭素繊維強化炭素複合材料(CFC)製のモノブロック型アーマタイル、前記銅合金材は前記貫通孔を貫通する析出硬化型銅合金製の冷却配管、前記緩衝材は無酸素銅または銅合金製の円筒緩衝材であることを特徴とする請求項1記載の高熱負荷機器製造方法。
【請求項3】
前記チタン薄膜層は、20μmから30μmの厚さを有することを特徴とする請求項1または2記載の高熱負荷機器製造方法。
【請求項4】
前記チタン薄膜層は、チタンを前記炭素材表面に蒸着させることにより形成させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の高熱負荷機器製造方法。
【請求項5】
前記炭素材と緩衝材の間に介挿されるロウ材は、銅を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の高熱負荷機器製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−122883(P2011−122883A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279523(P2009−279523)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(591160512)金属技研株式会社 (14)