説明

炭素繊維束

【課題】繊維束を製造、加工する際の取り扱い性が良好であり、集束性に優れ、かつ高濃度でも水系分散媒中の開繊性に優れる炭素繊維束を提供すること。
【解決手段】炭素繊維とサイジング剤を有してなる炭素繊維束において、前記サイジング剤は、SP値が11.2〜13.3の水溶性ポリウレタン樹脂からなり、該サイジング剤が前記炭素繊維に0.5〜7質量%の割合で付着している炭素繊維束。本炭素繊維束は親水性が適切に制御されるため、水系分散媒中で高い開繊性を示し、高品位な抄紙基材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョップド繊維への加工性、チョップド繊維の取扱い性に適した集束性、および抄紙プロセスに代表される水を媒体とするプロセスに適した開繊性を有する炭素繊維束に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維をマトリックス樹脂と複合させた炭素繊維強化複合材料は、軽量性、力学特性、導電性および寸法安定性等に優れることから、自動車、航空機、電気・電子機器、光学機器、スポーツ用品、建築材料などの幅広い分野で活用されている。
【0003】
炭素繊維複合材料には多くの成形方法が知られているが、成形に用いられる基材を得る方法の一つとして、炭素繊維を湿式抄紙プロセスに代表される水系プロセスで加工する方法がある。例えば、チョップド繊維を水系媒体中に分散させて紙や不織布に加工した後、各種樹脂を母材として複合材料基材とするものである。燃料電池の電極基材等が、この抄紙プロセスにより製造される。
【0004】
湿式抄紙プロセスでは、チョップド繊維を水系分散媒に分散させて抄紙する。抄紙品の品質を高めるには、炭素繊維の集束性と水系分散媒中での開繊性が要求される。集束性は、カット時の繊維長の均一化や、チョップド繊維をフィードする際のプロセス性において重要である。開繊性は繊維束が単繊維レベルで分散するための特性であり、抄紙品質に直接的に影響する。炭素繊維束の集束性と開繊性が優れるほど、炭素繊維強化複合材料の力学特性や導電特性が向上する。
【0005】
このような背景から、水系プロセスに用いる炭素繊維束では、通常特定の樹脂をサイジング剤として付着させ、集束性および開繊性の改善を図っている。
【0006】
特許文献1では、界面活性剤を主成分とするサイジング剤を付着させた水系プロセス用炭素繊維が開示されている。また、特許文献2では、ポリオキシアルキレンと脂肪族炭化水素からなる親水性化合物をサイジング剤として付着させた抄紙用炭素繊維が開示されている。さらに、特許文献3には、HLB値9〜17の界面活性剤およびポリビニルアルコール系水溶性熱可塑樹脂からなるサイジング剤を付着させた炭素繊維が開示されている。
【0007】
しかしながら、集束性と開繊性の両立は容易ではなく、特に水系分散媒中の炭素繊維濃度を上げて目付の高い抄紙を得ようとすると、繊維の開繊性が不十分であったり、再凝集したりして基材の品位が落ち、成形品の力学特性が十分に発揮できない問題があった。
【0008】
ところで、ウレタン樹脂は、弾性、強靭性、接着性等に優れることから、繊維のサイジング剤にしばしば用いられる。例えば、特許文献4には、ポリエーテルポリウレタンあるいはポリエステルポリウレタン樹脂をサイジング剤として使用した炭素繊維束が開示されている。
【0009】
この繊維束では、破断伸度が400%以下のポリエステル系ポリウレタン樹脂を付着させることで、熱可塑樹脂との接着性向上を図っているものの、水系プロセスで優れた性質を示すことは開示も示唆もされていない。
【0010】
また、特許文献5には、芳香族ポリウレタンと非芳香族ポリウレタンの混合物をサイジング剤として用い、取り扱い性、複合材料の機械特性および導電性に優れる炭素繊維チョップドストランドが開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献5に記載される炭素繊維チョップドストランドが水系プロセスで優れた性質を示す事は、開示も示唆もされていない。
【0012】
また、特定の溶解度パラメーター(SP値)を持つサイジング剤を炭素繊維に付着させた炭素繊維束が、特許文献6に開示されている。特定範囲のSP値を有するサイジング剤を用いることで、ゴム含有樹脂との接着性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第2006/019139号パンフレット
【特許文献2】特開2006−219808号公報
【特許文献3】特開2000−54269号公報
【特許文献4】特開2007−231441号公報
【特許文献5】特開2003−247127号公報
【特許文献6】特開2003−247127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、集束性と水系分散媒での開繊性を両立した炭素繊維束が要求されている。炭素繊維強化複合材料の場合、炭素繊維の割合が多いほど力学特性や導電性に優れるため、高い炭素繊維濃度で加工できれば、より優れた基材を得ることができる。また、繊維束を製造、加工する際の取り扱い性も重要であり、ボビンへの巻き取りや加工時のプロセス性は、繊維束に常に要求される特性である。
【0015】
本発明の目的は、繊維束を製造、加工する際の取り扱い性が良好であり、集束性に優れ、かつ高濃度でも水系分散媒中の開繊性に優れる炭素 繊維束を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、上記課題を達成することができる、次の炭素繊維束を見出した。すなわち、本発明は、炭素繊維とサイジング剤を有してなる炭素繊維束において、前記サイジング剤は、SP値が11.2〜13.4の水溶性ポリウレタン樹脂からなり、該サイジング剤が前記炭素繊維に0.5〜7質量%の割合で付着している炭素繊維束である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炭素繊維束は、繊維束を製造、加工する際の取り扱い性に優れ、さらに繊維の集束性と水系分散媒中の開繊性を両立したものであり、炭素繊維濃度を上げた場合でも単繊維レベルの均一分散が可能であり、力学特性および導電性に優れた抄紙基材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】炭素繊維束のドレープ値の測定方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の炭素繊維束は、炭素繊維にSP値が11.2〜13.4の水溶性ポリウレタン樹脂が付着されたものである。まず、これらの構成要素について説明する。
【0020】
炭素繊維は、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などが使用できるが、得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維が好ましい。これらは、市販品として入手可能である。また、サイジング剤への付着性を高め均一な皮膜を形成させるために、炭素繊維には表面処理が施されていても良い。表面処理としては、液相中での薬液酸化や電解酸化、あるいは気相酸化が挙げられるが、電解質水溶液中で炭素繊維を陽極として酸化処理する電解酸化が、簡便かつ強度低下が抑えられるために好ましい。電解処理液は特に限定されないが、硫酸、硝酸等の無機酸や、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基、あるいは硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の無機塩が挙げられる。
【0021】
炭素繊維束とは、炭素繊維の単繊維(フィラメント)が集束された形態であり、通常フィラメント数は1,000〜60,000本程度である。炭素繊維の取り扱い性および開繊性の観点から、3,000〜40,000本が好ましい。より好ましくは6,000〜24,000である。
【0022】
炭素繊維束を構成する炭素繊維(フィラメント)の直径は、3〜15μmが好ましく、より好ましくは5〜10μmである。
【0023】
また、本発明の炭素繊維束には、発明の目的を損なわない範囲で少量の他の繊維種が含まれていても良い。他の繊維種としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度高弾性率繊維が挙げられ、これらを1種以上含有してもよい。
【0024】
本発明のサイジング剤は水溶性ポリウレタン樹脂からなり、該水溶性ポリウレタン樹脂は、ポリオールユニットとウレタンユニットから構成される。この水溶性ポリウレタン樹脂は、ジイソシアネートにポリオールを縮合して得ることができ、ポリオールはポリオールユニットを、ジイソシアネートはウレタンユニットを構成する。水溶性とする観点から、ポリオールとしては、ポリアルキレングリコールが含まれる必要がある。また、ポリオールは、ポリアルキレングリコールに加え、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールから選ばれる1種または複数種を併用することができる。
【0025】
ジイソシアネートとポリオールの縮合は重付加(付加重合)反応であり、低分子の生成・分離を伴わないため、本発明のサイジング剤を構成するポリオールユニットおよびウレタンユニットの質量比には、それぞれのユニットを構成する原料の質量比が反映される。すなわち、本発明における各ユニットの質量%は、原料であるポリオールとジイソシアネートの合計質量に対する、各原料の質量%である。ポリオールの質量%としては、94〜99.2質量%が好ましい。
【0026】
本発明のサイジング剤を得る際に使用できるポリアルキレングリコールは、水系分散媒中で炭素繊維束が高い開繊性を示すために、親水性である必要があり、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、PEG/PPGブロック重合体、PEG/PPGランダム重合体等が挙げられる。なかでも、ポリエチレングリコールが好ましい。特に、炭素繊維束の取り扱い性、集束性および水系分散媒での開繊性のバランスの観点から、このポリアルキレングリコールの重量平均分子量を4,000以上21,000以下とすることが好ましい。ポリアルキレングリコール成分は分子量により親水性や皮膜の柔軟性が変化する。分子量が適切な範囲にあることで、高い開繊性を示しつつ、より集束性や取り扱い性に優れたサイジング剤を得ることができる。
【0027】
なお、ポリアルキレングリコール成分は、異なる重量平均分子量を持つ複数種を混ぜ合わせて使用することもできる。その場合のポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、以下の式で求めることができる。
【0028】
【数1】

【0029】
ここで、Mwは重量平均分子量を表し、Wはポリアルキレングリコール成分の質量%を表す。
【0030】
また、ポリオール成分として、ポリアルキレングリコールに加え、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオールから選ばれる1種または複数種を併用することができる。 ポリエステルポリオールは、グリコールとカルボン酸の脱水縮合により得ることができる。脱水縮合に使用できるグリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。また、ジカルボン酸成分としては、アジピン酸、コハク酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェン酸、ウビド酸、2−メチルテレフタル酸、4−メチルフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。
【0031】
ポリカプロラクトンポリオールは、ε−カプロラクトンと各種アルコールを原料とするポリオールである。例えばDIC(株)製ポリライトOD−X−2155,OD−X−640,OD−X−2586、ダイセル化学(株)製プラクセル205,210,220,303,305等が、市販品として入手可能である。
【0032】
ポリカーボネートポリオールは、分子鎖中にカーボネート構造を有するポリオールである。例えばダイセル化学(株)製プラクセルCD CD205,CD210,CD220等が市販品として入手可能である。
【0033】
また、サイジング剤の取り扱い性、集束性および開繊性を損なわない範囲で、水を除く他のヒドロキシル基を有する化合物を含有することができる。このような化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、カテコール、ビスフェノールA等が挙げられる。
【0034】
本発明のサイジング剤を得る際に使用できるジイソシアネートとしては、フェニルジイソシアネート、メチレンジフェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。皮膜の柔軟性と強靭性の観点から、トリレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートが好ましい。
【0035】
このように、本発明において、サイジング剤に用いるポリウレタン樹脂を構成するウレタンユニットは、トリレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートから構成されることが好ましいが、ここで説明される「トリレンジイソシアネートまたはイソホロンジイソシアネートからなる」とは、当該ジイソシアネート成分が全ジイソシアネート成分の90質量%以上であることを意味する。
【0036】
水系分散媒中で、炭素繊維束が高濃度であっても高い開繊性を示すためには、サイジング剤が水溶性であり、かつSP値が11.2〜13.4の範囲にあることが重要である。ここで、水溶性とは、水に分子レベルで「溶解」、すなわち、均一な液相となることを表す。ポリウレタン系のサイジング剤では、例えば特許文献4に記載されているように、ポリウレタン樹脂を水に分散させたものが汎用される。具体的には、ポリウレタン樹脂を自己乳化、あるいは界面活性剤により乳化させる。ここで、乳化とは、互いに溶解しない二液体の一方が微粒子となって他方の液体中に分散し、エマルションを生成する現象(日本規格協会 第3版JIS工業用語大辞典 p1352)である。すなわち、ポリウレタン樹脂が水に「乳化」している状態と「溶解」している状態は、大きく異なる。
【0037】
水に乳化させたポリウレタン系サイジング剤では、ポリウレタン自身は水との親和性が低いため、炭素繊維束表面に皮膜を形成した後に水系分散媒中で処理しても、ほとんど開繊性を示さない。良好な開繊性を示すためには、サイジング剤と水が相溶性を示すことが重要であり、水溶性のポリウレタン系サイジング剤を用いる必要がある。
【0038】
一方で、例えば界面活性剤等、高い水溶性を有するサイジング剤を炭素繊維に付着させた場合、サイジング剤の水への溶解が早すぎて開繊性が不足したり、炭素繊維表面からサイジング剤が速やかに失われて再凝集したりして、特に高い目付けの抄紙を行った場合、品位が低下する。すなわち抄紙の高目付け化には、サイジング剤の水溶性が適切に制御されていることが重要である。
【0039】
SP値(溶解度パラメーター)は体積あたりの蒸発熱の平方根で定義されるが、2成分の溶解度の目安として使用される数値である。両者のSP値の差が小さいほど溶解度は大きくなる。本発明の炭素繊維束において、水溶性ポリウレタン樹脂のSP値が11.2〜13.4の範囲にあると、水溶性が適切に制御され、高い開繊性を示す。好ましくは12.3〜13.3である。この範囲外の場合、水溶性が不足するか、高すぎるかして開繊性が低下する。
【0040】
本発明において、SP値は、Fedorsの方法(Polymer Engineering and Science,vol.14,No.2,p147(1974))により計算する。例えば、次の化学式で示されるポリウレタン樹脂のSP値は、以下のようにして計算する。
【0041】
【化1】

【0042】
式(1)のポリウレタンは、繰り返し単位中に、メチル基(−CH)が1個、メチレン基(−CH−)が10個、エーテル(−O−)が6個、アミド(−CONH−)が2個、フェニレンが1個含まれている。それぞれのユニットのモル蒸発熱Δeiおよびモル体積Δviは、上記文献によれば、それぞれ表1の通り記載されている。
【0043】
【表1】

【0044】
ここで、SP値は、以下の式で表される。
【0045】
【数2】

【0046】
ΣΔeiおよびΣΔviの値は表1のとおりであるから、SP値はそれぞれの値を上式にあてはめて、11.969となる。
【0047】
本発明において、サイジング剤に用いるポリウレタン樹脂の構成成分には、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の他のユニットを含んでいてもよい。他のユニットとしては、例えば低分子量アルキレングリコール、シクロヘキサンジオール、ヘキサメチレンジアミン等のポリアミン等が挙げられる。
【0048】
本発明におけるサイジング剤は、例えば、以下の方法で製造することができる。すなわち、十分に減圧乾燥したポリオールに、適当な温度でジイソシアネートを加えて重付加を進める。その際、反応用触媒として、有機スズ化合物や3級アミン等を用いてもよい。ポリオールとしてポリエステルポリオールを使用する場合には、ジカルボン酸とアルキレングリコールを、減圧下で加熱して脱水縮合させてポリエステルポリオールを生成させた後、これにポリアルキレングリコールを加えて適当な温度まで冷却し、ジイソシアネートを添加する。
【0049】
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、集束性と開繊性のバランスの観点から、炭素繊維束100質量%に対し、に0.5〜7質量%の範囲であることが重要である。付着量がこの下限値未満であると、皮膜形成が不十分となり、炭素繊維束の集束性および開繊性が不足する。また、この上限値を超えると、繊維束が硬く取扱い性が不十分となるし、コスト面でも不利となる。好ましくは1〜5質量%であり、より好ましくは1.2〜3質量%である。
【0050】
本発明において用いるサイジング剤には、本発明の目的を損なわない範囲で、消泡剤、乳化剤、防腐剤、スライム防止剤、架橋剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、エポキシ樹脂、アクリル樹脂や種々の熱可塑性樹脂などの成分を含有してもよい。また、公知のサイジング剤を添加することもできる。
【0051】
炭素繊維のサイジング処理は、通常サイジング剤の水系媒体に対する溶液または分散液(サイジング液)に連続炭素繊維束を浸漬したり、サイジング液を炭素繊維に滴下、散布あるいは噴霧した後、分散媒を乾燥・除去することで進められる。
【0052】
本発明の炭素繊維束を抄紙プロセスに用いる場合には、前記サイジング剤が付着した連続繊維であるロービングを、ギロチンカッターなどの公知の切断機でカットしたチョップド繊維とする。このチョップド繊維の長さは特に限定されないが、1〜20mm程度にカットすることが好ましい。カット長をこの範囲にすることで、抄紙のプロセス性と、力学特性および導電特性のバランスに優れた基材を得ることができる。
【0053】
本発明の炭素繊維束は、ロービングのボビンへの巻取りを容易とし、かつカット時の毛羽発生を抑制する観点から、トレープ値(束硬さ)が5〜20cmであることが好ましい。ドレープ値がこの範囲にあることで、ロービングのボビンへの巻取りが容易になる。また、カット時の毛羽の発生、カッターへの巻きつき、およびカット面がずれることによるミスカットの誘発を防止できる。
【0054】
また、本発明において用いるサイジング剤は、水系分散媒中の炭素繊維を高濃度にした場合でも開繊性が維持され、かついったん分散した単繊維の再凝集を防ぐことができる。サイジング剤が水系分散媒に高い親和性を示すと同時に、炭素繊維への親和性にも優れているため、優れた開繊性が発現したと考えられる。
【0055】
本発明のサイジング剤が付着した炭素繊維束は、集束性および水系分散媒中での開繊性に優れているため、抄紙工程により単繊維レベルで均一に分散した炭素繊維シートを得ることができる。本炭素繊維シートは、電極材、面状発熱体、静電気除去シート等に好適に利用することができる。また、公知の樹脂を母材として、力学特性および導電特性に優れた炭素繊維複合材料を作ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0057】
本発明の説明で用いられた炭素繊維の諸特性の測定手法は、以下のとおりである。
【0058】
(1)サイジング剤の付着量
サイジング剤が付着している炭素繊維を約5g採取し、耐熱製の容器に投入した。次にこの容器を120℃で3時間乾燥し、吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した炭素繊維の重量をW(g)とし、続いて容器ごと、窒素雰囲気中、450℃で15分間加熱後、吸湿しないように注意しながら室温まで冷却し、秤量した炭素繊維の重量をW(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤の付着量を次式により求めた。
付着量(重量%)=100×{(W−W)/W}。
【0059】
(2)集束性評価
炭素繊維束をカットし、チョップド繊維約70g[秤量値M(g)]を採取し、500mLメスシリンダーに投入し、次に、このメスシリンダーを、厚さ4mmのゴムシートの上で、高さ2.54cmから60回タッピング処理した後に、メスシリンダー内のチョップド繊維の容量V(mL)を読み取った。この処理を経て、充填嵩密度を次式により求めた。
D:充填嵩密度 D=M/V
測定回数は3回とし、充填嵩密度を測定回数で除した平均嵩密度をA〜Dの4段階で評価した。A〜Cが合格、Dが不合格である。
A:平均嵩密度が0.35以上である。
B:平均嵩密度が0.25以上、0.35未満である。
C:平均嵩密度が0.2以上、0.25未満である。
D:平均嵩密度が0.2未満である。
【0060】
(3)開繊性評価
(A)開繊性評価(通常)
6mm長にカットしたチョップド繊維0.05gを水300mlに投入し、20秒間ゆっくりと撹拌した後、20秒間静置する。炭素繊維の分散状態を目視で観察し、開繊性をA〜Dの4段階で評価した。A〜Bが合格、C〜Dが不合格である。
A:未開繊束数が2個未満である。
B:未開繊束数が2個以上5個未満である。
C:未開繊束数が5個以上10個未満である。
D:未開繊束数が10個以上である。
【0061】
(B)開繊評価(高濃度)
6mm長にカットしたチョップド繊維2gを、水1000mLの入った直径150mmの容器に投入し、60秒間ゆっくり撹拌した後、60秒間静置する。水をろ別して除き、得られたシート状の炭素繊維から2cm×2cmの小片を3つ切り出し、顕微鏡観察により未開繊束数を測定した。観察は小片の表裏両面について行い、未開繊束数の合計から、開繊性をA〜Dの4段階で評価した。A〜Cが合格、Dが不合格である。
A:未開繊束数が5個未満である。
B:未開繊束数が6個以上9個未満である。
C:未開繊束数が10個以上19個未満である。
D:未開繊束数が20個以上である。
【0062】
(4)ドレープ値の測定
23±5℃の雰囲気下、直方体の台の端に、30cmに切断した炭素繊維束を固定し、この時、炭素繊維束は台の端から25cm突き出るように固定した。すなわち、図1に示すように、炭素繊維束の端から5cmの部分が、台の端に来るようにした。この状態で30分間静置した後、台に固定していない方の炭素繊維の先端と、台の側面との最短距離を測定し、ドレープ値とした。測定本数はn=5とし、平均値を採用した。
【0063】
(5)サイジング剤溶出量の測定
サイジング剤を水で希釈して4重量%の水溶液または水分散液を調整した。これにろ紙(ADVANEC社製No.2ろ紙、直径90mm)を1分間浸した後、60℃、2時間で減圧乾燥してろ紙にサイジング剤を付着させた。サイジング剤付着前後のろ紙重量から、サイジング剤の付着量を算出した。次に、このろ紙を水250mLに浸けてサイジング剤を溶出させた。1分後および5分後のろ紙乾燥重量を測定し、サイジング剤のろ紙からの溶出率を算出した。
【0064】
参考例1 サイジング剤水溶液(a−1)の調製
ポリエチレングリコール(PEG)(重量平均分子量2000)1モル(91.99重量部)を120℃に加熱し、トリレンジイソシアネート(TDI)1モル(8.01重量部)を加えて撹拌し、PEG−TDI重付加体を得た。得られた重付加体を水で濃度10質量%に薄めて、サイジング剤水溶液(a−1)を得た。
【0065】
参考例2 サイジング剤水溶液(a−2)の調製
重量平均分子量4,000のPEGを使用した以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−2)を得た。なお、PEG−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(95.83重量部)、TDI1モル(4.17重量部)であった。
【0066】
参考例3 サイジング剤水溶液(a−3)の調製
重量平均分子量6,200のPEGを使用した以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−3)を得た。なお、PEG−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(97.27重量部)、TDI1モル(2.73重量部)であった。
【0067】
参考例4 サイジング剤水溶液(a−4)の調製
重量平均分子量7,000のPEGを使用した以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−4)を得た。なお、PEG−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(97.57重量部)、TDI1モル(2.43重量部)であった。
【0068】
参考例5 サイジング剤水溶液(a−5)の調製
重量平均分子量10,000のPEGを使用した以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−5)を得た。なお、PEG−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(98.29重量部)、TDI1モル(1.71重量部)であった。
【0069】
参考例6 サイジング剤水溶液(a−6)の調製
重量平均分子量20,000のPEGを使用した以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−6)を得た。なお、PEG−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(99.14重量部)、TDI1モル(0.86重量部)であった。
【0070】
参考例7 サイジング剤水溶液(a−7)の調製
重量平均分子量25,750のPEGを使用した以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−7)を得た。なお、PEG−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(99.33重量部)、TDI1モル(0.67重量部)であった。
【0071】
参考例8 サイジング剤水溶液(a−8)の調製
重量平均分子量31,500のPEGを使用した以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−8)を得た。なお、PEG−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(99.45重量部)、TDI1モル(0.55重量部)であった。
【0072】
参考例9 サイジング剤水溶液(a−9)の調製
重量平均分子量10,000のPEG1モル(97.56重量部)と、メチレンジフェニレンジイソシアネート(MDI)1モル(2.44重量部)を、参考例1と同様にして重付加させ、10質量%に水で希釈してサイジング剤水溶液(a−9)を得た。
【0073】
参考例10 サイジング剤水溶液(a−10)の調製
重量平均分子量10,000のPEG1モル(98.35重量部)と、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1モル(1.65重量部)を、参考例1と同様にして重付加させ、10質量%に水で希釈してサイジング剤水溶液(a−10)を得た。
【0074】
参考例11 サイジング剤水溶液(a−11)の調製
重量平均分子量2,000のPEGの代わりに、重量平均分子量10,000のポリプロピレングリコール(PPG)1モル(98.29重量部)を用い、TDI量を1モル(1.71重量部)としてPEG−TDI重付加体を得た以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−11)を得た。
【0075】
参考例12 サイジング剤水溶液(a−12)の調製
エチレングリコール1.2モルとテレフタル酸0.6モルを180℃で加熱撹拌し、酸価が1以下になるまで脱水縮合し、テレフタル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)(BHET)を得た。
【0076】
重量平均分子量10,000のPEG0.4モル(92.45重量部)と、BHET 0.6モル(3.53重量部)の混合物を120℃に加熱し、TDI1モル(4.03重量部)を加えて撹拌し、PEG/BHET−TDI重付加物を得た。得られた重付加体を水で濃度10質量%に薄めて、サイジング剤水溶液(a−12)を得た。
【0077】
参考例13 サイジング剤水溶液(a−13)の調製
重量平均分子量7,000のPEGを使用した以外は、参考例12と同様にしてサイジング剤水溶液(a−13)を得た。なお、PEG/BHET−TDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG0.4モル(89.55重量部)、BHET0.6モル(4.88重量部)、TDI1モル(5.57重量部)であった。
【0078】
参考例14 サイジング剤水溶液(a−14)の調製
エチレングリコール1.2モルとアジピン酸0.6モルを180℃で加熱撹拌し、酸価が1以下になるまで脱水縮合し、アジピン酸ビス(2−ヒドロキシエチル)(BHEA)を得た。
【0079】
重量平均分子量10,000のPEG0.4モル(92.71重量部)と、BHEA 0.6モル(3.26重量部)の混合物を120℃に加熱し、TDI1モル(4.04重量部)を加えて撹拌し、PEG/BHEA−TDI重付加物を得た。得られた重付加体を水で濃度10質量%に薄めて、サイジング剤水溶液(a−14)を得た。
【0080】
参考例15 サイジング剤水溶液(a−15)の調製
エチレングリコール1.2モルとコハク酸0.6モルを180℃で加熱撹拌し、酸価が1以下になるまで脱水縮合し、コハク酸ビス(2−ヒドロキシエチル)(BHES)を得た。
【0081】
重量平均分子量10,000のPEG0.4モル(93.07重量部)と、BHES 0.6モル(2.88重量部)の混合物を120℃に加熱し、TDI1モル(4.05重量部)を加えて撹拌し、PEG/BHEA−TDI重付加物を得た。得られた重付加体を水で濃度10質量%に薄めて、サイジング剤水溶液(a−15)を得た。
【0082】
参考例16 サイジング剤水溶液(a−16)の調製
ジイソシアネートとして、イソホロンジイソシアネート(IPDI)1モルを用いた以外は、参考例12と同様にしてサイジング剤水溶液(a−16)を得た。なお、PEG/BHET−IPDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG0.4モル(91.43重量部)、BHET0.6モル(3.49重量部)、IPDI1モル(5.08重量部)であった。
【0083】
参考例17 サイジング剤水溶液(a−17)の調製
ジイソシアネートとして、イソホロンジイソシアネート(IPDI)1モルを用いた以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a−17)を得た。なお、PEG−IPDI重付加体を得るに際しての原料比は、PEG1モル(97.83重量部)、IPDI1モル(2.17重量部)であった。
【0084】
参考例18 サイジング剤水溶液(a−18)の調製
重量平均分子量10,000のPEGを0.1モル(71.28重量部)と、BHET0.9モル用(16.31重量部)を用いてBHETを得、TDIを1モル(12.41重量部)用いてPEG/BHET−TDI重付加物を得た以外は、参考例15と同様にして、サイジング剤水溶液(a−18)を得た。
【0085】
参考例19 サイジング剤水溶液(a−19)の調整
特許文献1(国際公開第2006/019139号パンフレット)の参考例1に従い、下記化学式(I)で表される数平均分子量600、HLB11.3のポリオキシエチレンオレイルエーテル80重量部と、下記化学式(II)で表される数平均分子量1300、HLB17のポリオキシエチレンアルキルエーテル20重量部とを混合した界面活性剤(A)を、濃度20重量%水溶液に調製し、サイジング剤水溶液(a−19)を得た。
1835O−(CHCHO)−H (I)
1225O−(CHCHO)25−H (II)。
【0086】
実施例1
参考例1のサイジング剤水溶液(a−1)を濃度3.5%に調整した水溶液に炭素繊維連続束(東レ(株)製T700S−12K)を浸漬してサイジング剤を付着させ、熱風乾燥機により170℃で2分間乾燥した。得られたサイジング剤を付着した炭素繊維束を6mm長にカットし、チョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0087】
実施例2
サイジング剤水溶液として、参考例2のサイジング剤(a−2)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0088】
実施例3
サイジング剤水溶液として、参考例3のサイジング剤(a−3)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0089】
実施例4
サイジング剤水溶液として、参考例4のサイジング剤(a−4)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0090】
実施例5
サイジング剤水溶液として、参考例5のサイジング剤(a−5)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0091】
実施例6
サイジング剤水溶液として、参考例6のサイジング剤(a−6)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0092】
実施例7
サイジング剤水溶液として、参考例7のサイジング剤(a−7)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0093】
実施例8
サイジング剤水溶液として、参考例8のサイジング剤(a−8)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0094】
実施例9
サイジング剤水溶液として、参考例9のサイジング剤(a−9)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0095】
実施例10
サイジング剤水溶液として、参考例10のサイジング剤(a−10)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0096】
実施例11
サイジング剤水溶液として、参考例11のサイジング剤(a−11)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0097】
実施例12
サイジング剤水溶液として、参考例12のサイジング剤(a−12)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0098】
実施例13
サイジング剤水溶液として、参考例13のサイジング剤(a−13)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0099】
実施例14
サイジング剤水溶液として、参考例14のサイジング剤(a−14)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0100】
実施例15
サイジング剤水溶液として、参考例15のサイジング剤(a−15)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0101】
実施例16
サイジング剤水溶液として、参考例16のサイジング剤(a−16)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0102】
実施例17
参考例5のサイジング剤水溶液(a−5)を濃度2.0%に調整した以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。サイジング剤の付着量は、1.4質量%であった。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0103】
実施例18
参考例5のサイジング剤水溶液(a−5)を濃度1.2%に調整した以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。サイジング剤の付着量は、0.7質量%であった。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表2に示した。
【0104】
比較例1
サイジング剤水溶液として、参考例16のサイジング剤(a−17)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表3に示した。SP値の範囲が外れることで、特に高濃度での開繊性が不足した。
【0105】
比較例2
サイジング剤水溶液として、参考例17のサイジング剤(a−18)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表3に示した。SP値の範囲が外れることで、開繊性が大幅に不足した。
【0106】
比較例3
参考例19のサイジング剤水溶液(a−19)を濃度3.5%に調整した水溶液に炭素繊維連続束(東レ(株)製T700S)を浸漬してサイジング剤を付着させ、熱風乾燥機により200℃で2分間乾燥した。得られたサイジング剤付着炭素繊維束を6mm長にカットし、チョップド繊維を得た。この時、得られたチョップド繊維に付着しているサイジング剤の付着量は2.2質量%であった。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表3に示した。得られた炭素繊維束の開繊性は劣っており、特に高濃度での開繊不足が顕著であった。
【0107】
比較例4
特許文献4(特開2007−231441号公報)の実施例1に従い、サイジング剤にハイドランAP−40(DIC社製、22.5%懸濁液)を用い、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表3に示した。得られた炭素繊維束は、ほとんど開繊性を示さなかった。
【0108】
比較例5
特許文献4(特開2007−231441号公報)の実施例2に従い、サイジング剤にハイドランAP−30F(DIC社製、20%懸濁液)を用いた以外は、比較例6と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表3に示した。得られた炭素繊維束は、ほとんど開繊性を示さなかった。
【0109】
比較例6
特許文献4(特開2007−231441号公報)の実施例3に従い、サイジング剤にハイドランAP−20(DIC社製、29.5%懸濁液)を用いた以外は、比較例6と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表3に示した。得られた炭素繊維束は、ほとんど開繊性を示さなかった。
【0110】
比較例7
特許文献4(特開2007−231441号公報)の実施例4に従い、サイジング剤にハイドランHW−140SF(DIC社製、25%懸濁液)を用いた以外は、比較例6と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表3に示した。得られた炭素繊維束は、ほとんど開繊性を示さなかった。
【0111】
【表2】

【0112】
【表3】

【0113】
また、水溶性ポリウレタンによる皮膜が、水系分散媒中の開繊性に優れることを確認するために、サイジング剤溶出量の測定を行った。結果を表4に示した。水溶性サイジング剤は一定の速度で水に溶出し、5分後には大部分が溶出しており、サイジング剤により形成された皮膜が水溶性を示していることが分かる。すなわち、実施例に示される炭素繊維束は、サイジング剤の水溶性が適切に制御されているために、高い開繊性が得られたものと考えられる。一方、比較例4〜7では、サイジング剤を付着したろ紙を水中に5分間浸した場合でも溶出量は小さく、いったん形成された皮膜は水に溶けにくいことが分かる。すなわち、サイジング剤の水溶性が低いために、水への親和性が不足して繊維束が分散せず、開繊性をほとんど示さなかったと考えられる。
【0114】
【表4】

【0115】
表2の実施例、表3および表4の比較例より、以下のことが明らかである。
【0116】
すなわち、実施例に示される、SP値が適当に制御されたポリウレタン系サイジング剤では、炭素繊維の取り扱い性、集束性および開繊性がバランスよく制御されており、特に炭素繊維束の濃度を上げた場合でも、良好な開繊性を示す。また、ドレープ値も適切な範囲に制御できているため、ボビンへの巻取りが容易で毛羽の少ない、取り扱い性に優れた炭素繊維束が得られていると言える。
【符号の説明】
【0117】
1 炭素繊維束
2 直方体の台
3 ドレープ値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維とサイジング剤を有してなる炭素繊維束において、前記サイジング剤は、SP値が11.2〜13.3の水溶性ポリウレタン樹脂からなり、該サイジング剤が前記炭素繊維に0.5〜7質量%の割合で付着している炭素繊維束。
【請求項2】
前記サイジング剤が、重量平均分子量が4,000以上21,000以下のポリエチレングリコールユニットを含む水溶性ポリウレタンである、請求項1記載の炭素繊維束。
【請求項3】
前記イソシアネートがトリレンジイソシアネートである、請求項1または2に記載の炭素繊維束。
【請求項4】
前記イソシアネートがイソホロンジイソシアネートである、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項5】
ドレープ値が2〜20cmである、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項6】
前記炭素繊維束が1,000〜60,000本の単繊維からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の炭素繊維束。
【請求項7】
前記炭素繊維束が繊維長1〜20mmのチョップド繊維である、請求項1〜6のいずれかに記載の炭素繊維束。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168947(P2011−168947A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6573(P2011−6573)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】