説明

炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置及び水洗方法

【課題】工程安定性、耐久性、洗浄効果が高い炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置を提供する。
【解決手段】水槽と、前記水槽内に配設されたバスケットローター6と、前記バスケットローター6内にその軸芯8を一致させて挿入されたランナー10とからなる炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置であって、前記バスケットローター6の肉厚Tが6.5〜15mmで、多数の水透過用孔を有し、前記ランナー10は外周面形状が山谷形状をなし、山の数が9〜10個であり、ランナー外径Gに対する山頂部近傍における円弧の曲率半径Rの比(R/G)が14.0〜20.0%であり、前記ランナー外径Gに対するローター・ランナー間クリアランスCの比(C/G)が1.0〜3.0%である炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストランド同士の接触が無いなど工程安定性が高く、装置を長期間破損させることなく、前駆体繊維の洗浄効果を高く維持することが出来る炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の製造方法としては、原料繊維にポリアクリロニトリル系(PAN系)繊維(前駆体繊維)を使用し、これに耐炎化処理及び炭素化処理を施して炭素繊維を得る方法が広く知られている。前駆体繊維になるアクリル系繊維は種々の製法で製造されているが、塩化亜鉛系溶剤中で溶液重合し、塩化亜鉛系溶剤中で湿式紡糸したものが、分子量分布がシャープであることや、重合用溶媒と紡糸用溶媒が共通である等の利点があり広く用いられている。このようにして得られた炭素繊維は、高い比強度、比弾性率など良好な特性を有している。
【0003】
上記紡糸後の前駆体繊維は、水洗処理、乾燥処理、油剤付与処理、湿熱延伸処理等の前処理が施された後、耐炎化処理及び炭素化処理が施されて炭素繊維が得られる。
【0004】
上記前処理のうち水洗処理に用いられる水洗装置として、多孔を有するバスケットローターの内部に菊型のランナーを有するバイブロ式水洗装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に開示されているバイブロ式水洗装置においては、単繊維1000〜10000(1〜10k)本を束ねたPAN系炭素繊維製造用前駆体繊維ストランドを、5〜10mmφの貫通孔、開口率30〜50%のバスケットローターの外周面に沿って15〜150m/minで走行させる。走行中の前駆体繊維に、8〜20倍の質量速度の水を向流させて水洗する。このバイブロ式水洗装置は、菊型のランナーを有する以外に、バスケットローターのみでも良い。
【0006】
しかし、特許文献1に開示されているバイブロ式水洗装置を用いて繊維を洗浄する際には、バスケットローターの肉厚が薄過ぎると破損し易く、厚過ぎると洗浄効果が充分に得られない、という問題がある。
【0007】
バスケットローターとランナーとを有するバイブロ式装置としては、ガラス繊維織物の表面処理装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に開示されているバイブロ式装置は、バスケットローター等の多孔ロールと、その内部の凹凸形状を有する回転可能なランナーとからなる二重円筒を含む装置である。この装置においては、二重円筒をコロイダルシリカ含有液中に浸漬し、ランナーを回転させ、コロイダルシリカ液を吸引、吐出することによりガラス繊維織物を表面処理する。コロイダルシリカ液の吸引、吐出の振動数は2〜500Hzである。
【0009】
しかし、特許文献2に開示されているバイブロ式装置においては、特許文献1の被処理物が炭素繊維製造用前駆体繊維であるのに対し、ガラス繊維織物になっている程度の相違しかなく、被処理物を前駆体繊維とする場合、バスケットローターの耐久性、前駆体繊維の洗浄効果については依然として同様の問題が残ったままである。
【特許文献1】特開昭59−36716号公報 (特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平11−117168号公報 (特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、上記問題を解決するため検討を重ねているうちに、バイブロ式水洗装置における菊型ランナーの凹凸形状(山谷形状)について山頂部の数及びR形状(山頂部近傍円弧の曲率半径)、並びに、菊型ランナーとバスケットローターとのクリアランスを所定の条件を満たすものにすることにより、生産性を向上させつつ、バスケットローターを長期間破損させることなく、従来と同等以上の前駆体繊維の洗浄効果を維持することが出来ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
よって、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0013】
〔1〕 水槽と、前記水槽内に配設された円筒状のローター主体を有するバスケットローターと、前記バスケットローター内にその軸芯を一致させて挿入された円筒状のランナー主体を有するランナーとからなる炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置であって、前記バスケットローター主体の肉厚(T)が6.5〜15mmで、ローター主体は厚さ方向に貫通する多数の水透過用孔を有し、前記ランナー主体は外周面形状が周方向に周期的に変化する山谷形状をなし、山の数が9〜10個であり、ランナーの山頂部と軸芯との距離の2倍を示すランナー外径(G)に対する山頂部近傍における円弧の曲率半径(R)の比(R/G)が14.0〜20.0%であり、前記バスケットローターのローター内径(N)とランナー外径(G)との差の1/2を示すローター・ランナー間クリアランス(C)の前記ランナー外径(G)に対する比(C/G)が1.0〜3.0%である炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置。
【0014】
〔2〕 バスケットローター主体の開口率が40〜55%であり、孔の直径が5〜25mmである〔1〕に記載の炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置。
【0015】
〔3〕 〔1〕に記載の水洗装置を用いて、ローター表面平均吐出圧力0.9〜1.25kPaで前駆体繊維を水洗する炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水洗装置は、バイブロ式水洗装置における菊型ランナーの凹凸形状(山谷形状)について山頂部の数及びR形状(山頂部近傍円弧の曲率半径)、並びに、菊型ランナーとバスケットローターとのクリアランスを所定の条件を満たすものにしているので、生産性を向上させつつ、バスケットローターを長期間破損させることなく、従来と同等以上の前駆体繊維の洗浄効果を維持することが出来、炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置として適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面に沿って詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の水洗装置の一例を示す概略正面断面図である。
【0019】
図2は、本発明の水洗装置の水槽内に設置されたバスケットローター及びランナーの一例を示す概略図であり、(A)は概略側面図、(B)はバスケットローター及びランナーの軸芯に直角方向の平面に沿った概略断面図である。
【0020】
図1に示すように、本例の炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置2は、水槽4と、前記水槽4内に配設された円筒状のローター主体6を有するバスケットローターと、前記バスケットローター内にその軸芯8を一致させて挿入された円筒状のランナー主体10を有するランナーとからなる。
【0021】
図2(B)に示すように、バスケットローター主体6の肉厚(T)は6.5〜15mm、好ましくは7〜10mmで、ローター主体6は厚さ方向に貫通する多数の水透過用孔12を有する。
【0022】
肉厚(T)が6.5mm未満の場合は、バスケットローター主体6が破損し易くなるので好ましくない。肉厚(T)が15mmを超える場合は、バスケットローター主体6の外周面に沿って走行する前駆体繊維ストランドの洗浄効果が充分に得られないので好ましくない。
【0023】
充分な水洗効果を得るためには、ローター表面平均吐出圧力が、0.9kPaであることが必要であり、1.0kPaであることがより好ましい。但し、1.25kPaを超えると、隣り合う前駆体繊維ストランド同士が接触して前駆体繊維ストランド(図1に符号14として示す)の安定走行を妨げるなど工程安定性に支障を来すため好ましくない。なお、図1中、16はストランド搬入用ローラー、18はストランド搬出用ローラーである。
【0024】
ローター表面平均吐出圧力は、例えば、図3の概略説明図に示すように、軸方向長さ2900mm(Lt)のバスケットローター主体6の一端から220mm(L1)の位置、820mm(L2)の位置、1450mm(L3)の位置(バスケットローター主体6の中央位置)にそれぞれ圧力センサーP1、P2、P3を設置して測定したローター表面吐出圧力を平均することにより求められる。
【0025】
図3において、Qは圧力測定箱、PIRは検出圧力の記録計を示す。
【0026】
バスケットローター主体6の回転方向と、ランナー主体10の回転方向とは、互いに逆方向が好ましい。バスケットローター主体6の回転数は、前駆体繊維ストランドの走行速度に合わせることが好ましく、ローター外径が360mmの場合、5〜20rpmが好ましい。ランナー主体10の回転数は300〜380rpmが好ましい。
【0027】
バスケットローター主体6の開口率は40〜55%が好ましく、孔12の直径は5〜25mmが好ましい。バスケットローター主体6の開口率が40%未満の場合、孔12の直径が5mm未満の場合は、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないので好ましくない。バスケットローター主体6の開口率が55%を超える場合、孔12の直径が25mmを超える場合は、バスケットローター主体6が破損し易くなるので好ましくない。
【0028】
図2(B)に示すように、ランナー主体10は、外周面形状が周方向に周期的に変化する山頂部20と谷部22とを有する山谷形状をなす、いわゆる菊型ランナーであり、山の数は9〜10個である。山の数が9〜10個の範囲から逸脱する場合は、ローター表面吐出圧力が低下し、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないので好ましくない。
【0029】
ランナーの山頂部20と軸芯8との距離の2倍を示すランナー外径(G)に対する山頂部近傍における円弧の曲率半径(R)の比(R/G)が14.0〜20.0%である。ランナー外径(G)に対する曲率半径(R)の比(R/G)が14.0%未満の場合は、ローター表面吐出圧力が上がり、隣り合う前駆体繊維ストランド同士が接触して前駆体繊維の安定走行を妨げるなど工程安定性に支障を来すので好ましくない。ランナー外径(G)に対する曲率半径(R)の比(R/G)が20.0%を超える場合は、ローター表面吐出圧力が下がって、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないので好ましくない。
【0030】
バスケットローター主体6のローター内径(N)とランナー外径(G)との差の1/2を示すローター・ランナー間クリアランス(C)の前記ランナー外径(G)に対する比(C/G)は1.0〜3.0%である。ランナー外径(G)に対するクリアランス(C)の比(C/G)が1.0%未満の場合は、ローター表面吐出圧力が上がり、隣り合う前駆体繊維ストランド同士が接触して前駆体繊維の安定走行を妨げるなど工程安定性に支障を来すので好ましくない。ランナー外径(G)に対するクリアランス(C)の比(C/G)が3.0%を超える場合は、ローター表面吐出圧力が下がって、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないので好ましくない。
【0031】
なお、本発明の要旨を変更しない限り、上記例を適宜変形しても差支えない。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。
【0033】
実施例1
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を、1つの紡糸口金に24000の孔を有する紡糸口金[24000フィラメント(24k)用の紡糸口金]を通して、5℃の25質量%塩化亜鉛水溶液中に吐出して凝固させ、前駆体繊維ストランドを得た。
【0034】
この前駆体繊維ストランドを、図1〜3のバスケットローター及びランナーを水槽中に有する水洗装置を用い、表1に示す条件で水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面平均吐出圧力は1.12kPa、且つストランドにおける亜鉛の残留量は24質量ppmであり、前駆体繊維の充分な洗浄効果が得られた。ローター総稼働時間3000hrでも破損は無く、ローターの耐久性が高いものであった。隣り合う前駆体繊維ストランド同士に接触は見られず、工程安定性が高いものであった。
【0035】
実施例2
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ランナー外径(G)を326mm、山頂部近傍における円弧の曲率半径(R)[ランナー山円弧のR形状(R)]を50mmにし、この変形に伴って、ローター・ランナー間クリアランス(C)が9mm、ランナー外径(G)に対する曲率半径(R)の比(R/G)[R形状/ランナー外径比(R/G)]が15.3%、ランナー外径(G)に対するクリアランス(C)の比(C/G)[クリアランス/ランナー外径比(C/G)]が2.8%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面平均吐出圧力は1.10kPa、且つストランドにおける亜鉛の残留量は28質量ppmであり、前駆体繊維の充分な洗浄効果が得られた。ローター総稼働時間3000hrでも破損は無く、ローターの耐久性が高いものであった。隣り合う前駆体繊維ストランド同士に接触は見られず、工程安定性が高いものであった。
【0036】
実施例3
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ランナー山円弧のR形状(R)を50mmにし、この変形に伴って、ローター・ランナー間クリアランス(C)が9mm、R形状/ランナー外径比(R/G)が15.0%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面平均吐出圧力は1.20kPa、且つストランドにおける亜鉛の残留量は20質量ppmであり、前駆体繊維の充分な洗浄効果が得られた。ローター総稼働時間3000hrでも破損は無く、ローターの耐久性が高いものであった。隣り合う前駆体繊維ストランド同士に接触は見られず、工程安定性が高いものであった。
【0037】
実施例4
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、バスケットローター主体の開口率を41%、孔の直径を5mmにした以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面平均吐出圧力は0.93kPa、且つストランドにおける亜鉛の残留量は73質量ppmであり、前駆体繊維の充分な洗浄効果が得られた。ローター総稼働時間3000hrでも破損は無く、ローターの耐久性が高いものであった。隣り合う前駆体繊維ストランド同士に接触は見られず、工程安定性が高いものであった。
【0038】
実施例5
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、バスケットローター主体の開口率を54%、孔の直径を25mmにした以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面平均吐出圧力は1.18kPa、且つストランドにおける亜鉛の残留量は23質量ppmであり、前駆体繊維の充分な洗浄効果が得られた。ローター総稼働時間3000hrでも破損は無く、ローターの耐久性が高いものであった。隣り合う前駆体繊維ストランド同士に接触は見られず、工程安定性が高いものであった。
【0039】
比較例1
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ローター肉厚(T)を6mm、ローター内径(N)を348mm、ランナー外径(G)を330mmにし、この変形に伴って、ローター・ランナー間クリアランス(C)が9mm、R形状/ランナー外径比(R/G)が19.7%、クリアランス/ランナー外径比(C/G)が3.1%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター総稼働時間3000hr以内に破損し、ローターの耐久性が低いものであった。
【0040】
比較例2
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ランナー外径(G)を330mm、ランナー山円弧のR形状(R)を80mmにし、この変形に伴って、ローター・ランナー間クリアランス(C)が7mm、R形状/ランナー外径比(R/G)が24.2%、クリアランス/ランナー外径比(C/G)が2.1%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面吐出圧力が下がって、ストランドにおける亜鉛の残留量が122質量ppmとなり、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないものであった。
【0041】
比較例3
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ランナー外径(G)を326mm、ランナー外周面の山の数を12個にし、この変形に伴って、ローター・ランナー間クリアランス(C)が9mm、R形状/ランナー外径比(R/G)が19.9%、クリアランス/ランナー外径比(C/G)が2.8%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面吐出圧力が下がって、ストランドにおける亜鉛の残留量が115質量ppmとなり、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないものであった。
【0042】
比較例4
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ランナー外径(G)を326mm、ランナー外周面の山の数を8個にし、この変形に伴って、ローター・ランナー間クリアランス(C)が9mm、R形状/ランナー外径比(R/G)が19.9%、クリアランス/ランナー外径比(C/G)が2.8%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面吐出圧力が下がって、ストランドにおける亜鉛の残留量が110質量ppmとなり、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないものであった。
【0043】
比較例5
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ランナー外径(G)を338mm、ランナー山円弧のR形状(R)を50mmにし、この変形に伴って、ローター・ランナー間クリアランス(C)が3mm、R形状/ランナー外径比(R/G)が14.8%、クリアランス/ランナー外径比(C/G)が0.9%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面吐出圧力が上がり、隣り合う前駆体繊維ストランド同士が接触して前駆体繊維の安定走行を妨げるなど工程安定性に支障を来すものであった。
【0044】
比較例6
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、ランナー山円弧のR形状(R)を45mmにし、この変形に伴って、R形状/ランナー外径比(R/G)が13.5%、クリアランス/ランナー外径比(C/G)が1.5%になった以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面吐出圧力が上がり、隣り合う前駆体繊維ストランド同士が接触して前駆体繊維の安定走行を妨げるなど工程安定性に支障を来すものであった。
【0045】
比較例7
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、バスケットローター主体の開口率を41%、孔の直径を4mmにした以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面吐出圧力が下がって、ストランドおける亜鉛の残留量が103質量ppmとなり、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないものであった。
【0046】
比較例8
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、バスケットローター主体の開口率を36%、孔の直径を5mmにした以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター表面吐出圧力が下がって、ストランドおける亜鉛の残留量が102質量ppmとなり、前駆体繊維の洗浄効果が充分に得られないものであった。
【0047】
比較例9
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、バスケットローター主体の開口率を54%、孔の直径を28mmにした以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター総稼働時間3000hr以内に破損し、ローターの耐久性が低いものであった。
【0048】
比較例10
実施例1で得られた前駆体繊維ストランドを水洗処理するに際し、バスケットローター主体の開口率を58%、孔の直径を25mmにした以外は、実施例1と同様に水洗処理した。その結果、表1に示すように、ローター総稼働時間3000hr以内に破損し、ローターの耐久性が低いものであった。
【0049】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の水洗装置の一例を示す概略正面断面図である。
【図2】本発明の水洗装置の水槽内に設置されたバスケットローター及びランナーの一例を示す概略図であり、(A)は概略側面図、(B)はバスケットローター及びランナーの軸芯に直角方向の平面に沿った概略断面図である。
【図3】本発明の水洗装置におけるローター表面平均吐出圧力の測定の一例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0051】
2 炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置
4 水槽
6 バスケットローター主体
8 軸芯
10 ランナー主体
12 水透過用孔
14 前駆体繊維ストランド
16 ストランド搬入用ローラー
18 ストランド搬出用ローラー
20 ランナー外周面の山頂部
22 ランナー外周面の谷部
T バスケットローターの肉厚
N バスケットローター内径
G ランナー外径
R ランナー外周面の山頂部近傍における円弧の曲率半径
C ローター・ランナー間クリアランス
t バスケットローターの軸方向長さ
1、L2、L3 バスケットローター一端からの圧力センサーの位置
1、P2、P3 圧力センサー
Q 圧力測定箱
PIR 検出圧力の記録計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水槽と、前記水槽内に配設された円筒状のローター主体を有するバスケットローターと、前記バスケットローター内にその軸芯を一致させて挿入された円筒状のランナー主体を有するランナーとからなる炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置であって、前記バスケットローター主体の肉厚(T)が6.5〜15mmで、ローター主体は厚さ方向に貫通する多数の水透過用孔を有し、前記ランナー主体は外周面形状が周方向に周期的に変化する山谷形状をなし、山の数が9〜10個であり、ランナーの山頂部と軸芯との距離の2倍を示すランナー外径(G)に対する山頂部近傍における円弧の曲率半径(R)の比(R/G)が14.0〜20.0%であり、前記バスケットローターのローター内径(N)とランナー外径(G)との差の1/2を示すローター・ランナー間クリアランス(C)の前記ランナー外径(G)に対する比(C/G)が1.0〜3.0%である炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置。
【請求項2】
バスケットローター主体の開口率が40〜55%であり、孔の直径が5〜25mmである請求項1に記載の炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗装置。
【請求項3】
請求項1に記載の水洗装置を用いて、ローター表面平均吐出圧力0.9〜1.25kPaで前駆体繊維を水洗する炭素繊維製造用前駆体繊維の水洗方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−84280(P2010−84280A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255387(P2008−255387)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】