説明

炭素膜付き多孔質体およびその製造方法

【課題】炭素膜による混合液体または混合気体の分離係数、特に水とエタノールの透過速度および分離係数が共に高い炭素膜付き多孔質体を提供する。
【解決手段】多孔質基体1の表面に炭素膜4を有するものであって、水/エタノール混合溶液の浸透気化測定において、水/エタノールの質量比が10/90である混合液を75℃の温度で測定した時の水/エタノールの分離係数が500以上であるとともに、透過速度が1.5kg/mh以上の分離性能を有する炭素膜付き多孔質体Aであり、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算分子量の累積90%値が25200以下であるとともに、前記ポリスチレン換算分子量の累積10%値が270以上である炭素膜用前駆体溶液を多孔質基材の表面に塗布し、乾燥した後、非酸化性雰囲気または真空下において熱処理することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素膜付き多孔質体およびその製造方法に関し、膜による混合液体または混合気体の分離、特に含水アルコールの脱水濃縮において有用な炭素膜付き多孔質体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の流体を含有する混合液体または混合気体から特定の液体または気体を選択的に透過、分離することのできる流体分離膜を備えた分離膜モジュールが知られており、分離膜としては有機樹脂等の高分子膜や、ゼオライト、ガラスあるいはシリカ等の無機膜からなるものが使用されていた。しかしながら、高分子膜は一般に分離係数は大きいが、気体または液体の気体透過速度が小さく、また、フィルタの耐熱性および耐食性が悪いために酸性やアルカリ性のガスを含む混合ガスや高温のガスに対しては使用することが困難であるといった欠点があった。一方無機多孔質膜は、高分子膜に比べフィルタの耐熱性および耐食性が向上しガス分離特性は大きくなったものの、実際のプラントに適用するには耐水性、耐薬品性が十分でなく、その適用には多大の制約を伴うといった問題があった。
【0003】
近年、耐水性、耐薬品性が大幅に改善され、かつガス透過特性の優れた膜として炭素からなる分離膜が特に注目されるようになり種々検討されている。特に多孔質基体の表面に炭素分離膜を被覆した炭素分離膜付き複合体は、炭素膜自体の強度の制約をほとんど受けず、分離特性の改善手段の幅が広がるため、種々の炭素分離膜付き複合体やその形成手段が提案されており、そして炭素膜を欠陥なく薄く作製するために、多孔質基体と炭素膜との間に、種々の中間層を介装してなる炭素膜複合体が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、多孔質アルミナ支持体上の中間層表面にポリイミド樹脂を成膜し、非酸化性雰囲気において、昇温速度1℃/分、550〜800℃で熱処理することで、中間層表面に炭素膜を形成している。この特許文献1の炭素膜では、COとCHの分離係数が50であったことが記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、多孔質アルミナ支持体上の中間層表面にフェノール樹脂等を成膜し、窒素雰囲気等において、500〜900℃で熱処理することで、中間層表面に炭素膜を形成している。この特許文献2の炭素膜では、水とエタノールの分離係数が最大160で、透過速度が最大1.6kg/mhであったことが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献3では、多孔質アルミナ支持体上にフェノール樹脂を塗布し、非酸化性雰囲気において、昇温速度1〜5℃/分、550℃〜1100℃で熱処理することで、分子ふるい炭素膜を作製している。この特許文献3の炭素膜では、HとSFの分離係数が693であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2005/087355号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/001970号パンフレット
【特許文献3】特開平10−52629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の炭素膜では、水とエタノールの分離特性が十分ではなく、たとえば特許文献2に記載されているものでも分離係数は最大で160、透過速度は最大で1.6kg/mhであり、未だ処理能力が小さいという問題があった。
【0009】
本発明は、炭素膜による混合液体または混合気体の分離係数、特に水とエタノールの透過速度および分離係数が共に高い炭素膜付き多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭素膜付き多孔質体は、多孔質基体の表面に炭素膜を有するものであって、水/エタノール混合溶液の浸透気化測定において、水/エタノールの質量比が10/90かつ75℃の温度を有する混合液を、前記炭素膜付き多孔質体で分離処理した場合の水/エタノールの分離係数が500以上であるとともに、透過速度が1.5kg/mh以上の分離性能を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の炭素膜付き多孔質体の製造方法は、樹脂を溶媒に溶解して得られ、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算分子量の累積90%値が25200以下であるとともに、前記ポリスチレン換算分子量の累積10%値が270以上である炭素膜用前駆体溶液を多孔質基材の表面に塗布し、乾燥させた後、非酸化性雰囲気または真空下において熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐水性、耐薬品性を有するとともに、水とエタノールとの透過速度および分離係数が共に高い炭素膜付き多孔質体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】炭素膜付き多孔質体の概略断面図である。
【図2】(a)分子ふるいおよび(b)表面拡散による分離メカニズムを説明するための模式図である。
【図3】(a)試料No.2および(b)試料No.5の炭素膜付き多孔質体の断面SEM写真である。
【図4】分離膜モジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態である炭素膜付き多孔質体について、図1に基づいて説明する。炭素膜付き多孔質体Aは、セラミック製の多孔質体1上に、セラミック粒子や炭素粒子からなる中間層2、中間層3を介して、炭素膜4を形成してなるものである。なお、多孔質体1上に、2および3等の中間層を形成したものを多孔質基体5とし、炭素膜4はガラス状炭素を含むものである。
【0015】
多孔質体1の材料としてはアルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、マグネシア、炭化珪素、窒化珪素などのセラミックスを好適に用いることができる。多孔質体1の材料としてこのようなセラミックスを用いることで、中間層2、中間層3および炭素膜4との熱膨張差、耐熱性、機械的強度、耐摩耗性、耐熱衝撃性、耐薬品性、耐蝕性を向上できる。なお、図1では、2層の中間層2、3を作製したが、中間層は1層でも良いし、3層以上でも良い。
【0016】
多孔質体1を構成するセラミック粒子の平均粒径は、1〜10μm、好ましくは1〜5μmの範囲である。多孔質体1の平均粒径をこのような範囲とすることにより、多孔質体1の機械的強度を高く維持することができる。
【0017】
多孔質体1の気孔率は、30〜60%、より好ましくは30〜50%の範囲であり、平均細孔径は0.1〜30μm、好ましくは0.1から10μmの範囲である。多孔質体1の気孔率および平均細孔径をこのような範囲とすることで、炭素膜3により分離された分離成分の透過速度を大きくすると同時に、多孔質体1の機械的強度を高く維持することができる。
【0018】
中間層2および3を構成する粒子は、例えばアルミナ、ムライト、コージェライト、ジルコニア、マグネシア、炭化珪素、窒化珪素などのセラミックや炭素などからなるもので、その平均粒径は多孔質体1を構成するセラミック粒子の平均粒径よりも小さいものであり、1.0μmよりも小さいことが好ましく、更には0.5μm以下であることがより好ましい。なお、多孔質体1、中間層2、中間層3を構成する粒子の平均粒径は、多孔質体1がもっとも大きく、中間層2、中間層3の順で小さくなっている。なお、中間層2、3をディッピングやスピンコート等で作製する場合、粒子の凝集を抑制するという観点から、中間層2、3の材料としてセラミック粒子を用いる場合、その平均粒径は0.02μm以上であるものを用いることが望ましい。
【0019】
中間層2および3の平均細孔径は、多孔質体1の平均細孔径よりも小さいものであり、0.01〜0.5μm、さらには0.02〜0.1μmであることが好ましい。中間層2および3の厚さは、多孔質体1の表面に存在する凹凸を中間層2および3で覆うことができる厚さであればよい。その上に形成される炭素膜4の内壁にピンホール等の表面欠陥が残留するのを抑制し、かつ透過速度を大きくするという点から、中間層2および3の厚さは併せて、多孔質体1を構成するセラミック粒子の平均粒径の1〜50倍が好ましく、更には2〜20倍がより好ましい。
【0020】
なお、中間層2および3の厚さ、多孔質体1、中間層2および3の平均粒径は、多孔質体1、中間層2および3の走査型電子顕微鏡(SEM)による断面写真から、たとえばインターセプト法により算出できる。また、多孔質体1、中間層2および3の平均細孔径は、水銀圧入法で求めることができる。なお、中間層2および3の平均細孔径は、多孔質基体5の測定値と、多孔質基体5から中間層2および中間層3を除去した後の多孔質体1の測定値の差分とすればよい。
【0021】
中間層3の上面に形成される炭素膜4はガラス状炭素を含むもので、ガラス状炭素とは、光学顕微鏡で観察したとき、粒界等の内部構造をもたず均一な外観からなる炭素と定義され、炭素粒子とは全く異なる。なお、本明細書にいうガラス状炭素とは、内部に微細な細孔が多数存在する分子ふるい作用を有するものであり、図2(a)に示すように、気体または液体からなる流体の分子直径の小さいものは、炭素膜4を構成するガラス状炭素の細孔を透過することになる。
【0022】
そして、本実施形態の炭素膜付き多孔質体Aは、質量比が10/90かつ温度が75℃の水/エタノール混合溶液を浸透気化測定した時の水/エタノールの分離係数が500以上であるとともに、透過速度が1.5kg/mh以上の分離性能を有するものである。なお、浸透気化測定では、供給側と透過側の水とエタノールの質量濃度(質量%)を、例えば、ガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所)を用いて、供給側を大気圧(炭素膜の外側)とし、透過側を真空(炭素膜の内側)として、炭素膜4の外側にある水/エタノー
ル混合溶液(主に水)を、圧力差を駆動力にして炭素膜4の内側へと透過させることで測定する。ここで、水/エタノール混合溶液における分離係数αと透過速度Qは以下の式で定義される。
【0023】
【数1】

【0024】
【数2】

【0025】
本発明の炭素膜付き多孔質体Aの製造方法について説明する。まず、セラミック製の多孔質体1を準備し、この多孔質体1の表面に中間層2および中間層3を形成するためのセラミック粒子、例えばアルミナ粒子を水に分散させた、中間層2用および中間層3用のスラリーを作製する。このとき、必要に応じて分散剤を用いてもよく、中間層3用のアルミナ粒子には、中間層2用のアルミナ粒子よりも平均粒径の小さいものを用いる。中間層2用のスラリーを、たとえばディップコート法などの塗布手段を用いて多孔質体1の一方の主面上に塗布し、アルミナ粒子からなる中間層2となる被膜を形成して所定温度で乾燥させた後、熱処理する。形成された中間層2上に、さらに中間層3用のスラリーをディップコート法などの塗布手段を用いて塗布し、アルミナ粒子からなる中間層3となる被膜を形成して所定温度で乾燥させた後、熱処理することにより、中間層2および3を有する多孔質基体5が得られる。このとき、形成された中間層2および3を構成するセラミック粒子はネックにより部分的に結合していれば良く、その粒径は原料であるセラミック粒子の粒径にほぼ等しい。
【0026】
次に、得られた多孔質基体5の中間層3上に、炭素膜4を形成するための炭素膜用前駆体溶液(以下、単に前駆体溶液ともいう)を作製する。まず、炭素膜4の原料である樹脂を溶媒に溶かした樹脂溶液を作製し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により得られる分子量分布において、ポリスチレン換算分子量の累積90%値が25200以下であるとともに、累積10%値が270以上である前駆体溶液を得る。なお、前駆体溶液の分子量分布をこのような範囲とするため、遠心分離または沈降分離により樹脂溶液から高分子量成分を除去することが好ましい。この前駆体溶液を、たとえばディップコート法などの塗布手段を用いて、中間層2および中間層3が形成された多孔質基体5の中間層3上に塗布し、所定の温度で乾燥する。その後、非酸化性雰囲気または真空下において、10〜50℃/分の昇温速度で700〜950℃、好ましくは700〜900℃の最高温度まで昇温し、所定時間熱処理することで、本実施形態の炭素膜付き多孔質体Aが得られる。昇温速度を10〜50℃/分とすること、最高温度を700〜950℃とすることで、水/エタノール混合溶液のうち水を選択的に透過させるのに適した細孔径を持った炭素膜付き多孔質体Aとなる。
【0027】
炭素膜用前駆体溶液が高分子量の成分を多く含んだ場合、すなわちポリスチレン換算分子量の累積90%値が25200を超えるような場合には、それを用いて作製された炭素膜付き多孔質体Aは、水とエタノールの透過速度は高いが分離係数が低いものとなる。これは、一般に、炭素膜用前駆体溶液を乾燥させたものを非酸化雰囲気下、若しくは真空下にて熱処理すると、炭素膜用前駆体(以下、単に前駆体ともいう)から縮合反応などによりガスが発生して前駆体の体積及び重量が減少するが、前駆体に高分子量の成分が多く含
まれていると熱処理による前駆体の体積及び重量の減少が不均一となり、炭素膜中に空孔が形成されて図3(b)に示すようなピンホールなどの欠陥の原因となり、その欠陥を通じて未分離の流体が炭素膜を透過するため、分離膜としての性能が低下するためと考えられる。
【0028】
一方、炭素膜前駆体溶液が低分子量の成分を多く含んだ場合、すなわちポリスチレン換算分子量の累積10%値が270未満の場合には、それを用いて作製された炭素膜付き多孔質体Aは、分離係数と透過速度がともに低いものとなる。これは、一般に低分子量の熱可塑性樹脂では樹脂を硬化させるためにヘキサメチレンテトラミン等のアミンを硬化剤として用いているが、このヘキサメチレンテトラアミンなどの粒子が非酸化雰囲気下、若しくは真空下にて熱処理を加えた際に、炭素膜の細孔形成における構造変化の過程に何らかの作用を及ぼし、たとえばフェノール樹脂の中でも分子量の小さいノボラックと呼ばれる熱可塑性樹脂を用いた場合、ヘキサメチレンテトラミンを含まないフェノール樹脂で形成された構造とは異なる構造を形成するためと考えられる。
【0029】
さらに、炭素膜前駆体溶液の分子量の分布は狭い方が好ましく、ポリスチレン換算分子量の累積90%値を累積10%値の30倍以下とすることにより、水/エタノールの分離係数および透過速度が特に高い分離膜付き多孔質体Aを得ることができる。
【0030】
炭素膜用前駆体溶液の分子量分布はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により測定できる。たとえば炭素膜4の原料としてフェノール樹脂を用いる場合には、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とした炭素膜用前駆体溶液にさらにTHFを加えて所定の濃度(30〜40質量%)にした後、カラムKF−807L(昭和電工製)やRI検出器(日本ウォーターズ)を用いてポリスチレン換算分子量を測定すればよい。他の樹脂や溶媒についても、カラムを適宜選択して測定すればよい。
【0031】
尚、炭素膜4の原料としては、フェノール樹脂、リグノクレゾール、ポリイミドなどが使用できるが、これらの中でもフェノール樹脂は、親水性の官能基を多く含んでいるため炭化後にOH基が残存しやすく、被分離流体中の水がそのOH基に吸着して炭素膜の細孔内を図2(b)に示すように表面拡散しやすいという点から好適である。
【0032】
本実施形態の炭素膜付き多孔質体Aは、図4に示すように、収納容器10内に収納することにより分離膜モジュールを構成することができる。
【0033】
このような分離膜モジュールでは、収納容器10内に平板状の炭素膜付き多孔質体Aを収納して収納容器10内を2室に仕切り、収納容器10内に、炭素膜付き多孔質体Aの炭素膜4側に水とエタノールを含有する混合流体が導入する混合流体導入室11と、炭素膜付き多孔質体Aの多孔質体1側に水または水蒸気が入る流体分離室12とを設けて構成されている。
【0034】
このような分離膜モジュールでは、炭素膜付き多孔質体Aの炭素膜4側の混合流体導入室11内に導入管13を介して水とエタノールを含有する混合流体を導入し、分子直径の小さい水または水蒸気を、炭素膜4を透過させた後に中間層2、3を介して多孔質体1側に透過させて流体分離室12内に導出し、導出管15から導出するとともに、分子直径が大きく炭素膜4を透過できないエタノールは導出孔17から導出され、分子直径の大小で水とエタノールとを分離することができる。
【0035】
なお、従来から知られている円筒型の炭素膜付き多孔質体Aを作製し、この円筒型の炭素膜付き多孔質体Aの内部または外部に水とエタノールを含有する混合流体を供給し、炭素膜付き多孔質体Aの外部または内部に水を透過させる分離膜モジュールであっても良い
。このような分離膜モジュールでは、収納容器内を混合流体導入室と流体分離室とに仕切る仕切板に複数の円筒型の炭素膜付き多孔質体Aが支持固体されて混合流体導入室または流体分離室に接続され、流体分離室または混合流体導入室に収納される。
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
まず、中間層の原料であるアルミナ粉末(粒径0.20μm)を水とポリビニルアルコール(PVA)に分散させ、アルミナスラリーを作製した。このスラリー中にアルミナ多孔質管(外径12mm、内径9mm、100mm、平均細孔径1.11μm、京セラ製)を浸漬して引き上げ、アルミナ多孔質管の外表面にアルミナ粒子からなる中間層となる被膜を形成して乾燥した後、多孔質管全体を1100℃で熱処理し、外表面にアルミナ粒子からなる中間層が形成されたアルミナ多孔質基体を作製した。
【0038】
炭素膜用前駆体溶液として、種々のフェノール樹脂粉末をテトラヒドロフランに溶解して樹脂溶液を作製し、遠心分離することで、濃度30質量%の炭素膜用前駆体溶液を作製した。炭素膜用前駆体溶液のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析として、作製した前駆体溶液の一部にテトラヒドロフランを加えて濃度40質量%として分散させた後、100μlを流速1.0ml/分で40℃に保持したカラムKF−807L(昭和電工製)に透過させ、RI検出器:感度256(日本ウォーターズ)にて分子量分布を測定した。得られた分子量分布曲線から、ポリスチレン換算累積10%値、90%値、およびを求め、表1に記載した。
【0039】
作製した前駆体溶液に、先に作製したアルミナ多孔質基体を浸漬し、50mm/分の速度で引上げることで中間層の表面にフェノール樹脂の被膜を形成し、一定時間乾燥した後、窒素雰囲気下で熱処理することで炭素膜付き多孔質体を作製した。なお、一部の試料については所定の炭素膜厚さを得るために、被膜形成と乾燥を複数回繰り返した後、熱処理を施した。熱処理の際の室温から最高温度までの昇温速度、最高温度を表1に示す。得られた炭素膜付き多孔質体の厚さと欠陥の有無は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて炭素膜付き多孔質体の断面を観察することにより確認した。観察倍率は5000倍、観察箇所は10箇所とした。炭素膜の厚みは平均0.1〜3μmであった。炭素膜の欠陥については、炭素膜付き多孔質体の断面を10箇所観察して、炭素膜中および炭素膜表面に長径が0.2μmを超える空孔が確認できたものを欠陥有りとして表1に示した。
【0040】
炭素膜付き多孔質体の分離特性の評価として、水/エタノール混合溶液の浸透気化分離測定を、供給側(炭素膜付き多孔質体の炭素膜側)を大気圧とし、透過側(炭素膜付き多孔質体の多孔質体側)を真空として、炭素膜付き多孔質体の炭素膜の外側にある水/エタノール混合溶液を、圧力差を駆動力にして多孔質体側へと透過させ、そのときの分離係数αと透過速度Qを比較した。供給液は、水/エタノール(EtOH)比を10/90(質量%)とし、温度を75℃とした。供給側と透過側のエタノールと水の含有量(質量%)はガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所)を用いて測定した。分離係数αと透過
速度Qは前述の数1、数2を用いて計算し、表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
試料No.2〜4は、水/エタノール混合溶液の浸透気化分離測定の結果、分離係数αが500以上であるとともに、透過速度Qが1.6kg/m・h以上と、優れた分離特性を示すものであった。
【0043】
一方、試料No.1では、分離係数α、透過速度Qともに低いものとなった。また、試料No.5、6では、透過速度Qは高いものの、分離係数αが低いものとなった。特に分離係数αが低い試料No.5では、図3(b)に示すように炭素膜に欠陥が多数発生していた。
【符号の説明】
【0044】
A・・・炭素膜付き多孔質体
1・・・多孔質体
2、3・・・中間層
4・・・炭素膜
5・・・多孔質基体
10・・・収納容器
11・・・混合流体導入室
12・・・流体分離室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基体の表面に炭素膜を有する炭素膜付き多孔質体であって、水/エタノール混合溶液の浸透気化測定において、水/エタノールの質量比が10/90かつ75℃の温度を有する混合液を、前記炭素膜付き多孔質体で分離処理した場合の水/エタノールの分離係数が500以上であるとともに、透過速度が1.5kg/mh以上の分離性能を有することを特徴とする炭素膜付き多孔質体。
【請求項2】
樹脂を溶媒に溶解して得られ、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるポリスチレン換算分子量の累積90%値が25200以下であるとともに、前記ポリスチレン換算分子量の累積10%値が270以上である炭素膜用前駆体溶液を多孔質基体の表面に塗布し、乾燥させた後、非酸化性雰囲気または真空下において熱処理することを特徴とする炭素膜付き多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理の最高温度が700〜950℃であり、10〜50℃/分の昇温速度で前記最高温度まで昇温することを特徴とする請求項2に記載の炭素膜付き多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記ポリスチレン換算分子量の前記累積90%値が、前記累積10%値の30倍以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の炭素膜付き多孔質体の製造方法。
【請求項5】
前記炭素膜用前駆体溶液が、樹脂を溶媒に溶解した樹脂溶液から、高分子量成分若しくは溶媒に不溶な樹脂成分を、遠心分離または沈降分離により除去したものであることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の炭素膜付き多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−27823(P2013−27823A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165646(P2011−165646)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】