説明

炭酸カルシウム多孔質体の製造方法

【課題】省エネ高効率給湯器におけるドレンの中和剤等に好適で中和能力の高い炭酸カルシウム多孔質体を、プラズマ焼結装置のような大掛かりな装置を用いることなく、安価に製造することができる製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液21を、セル膜の除去されたポリウレタンフォーム11に含浸させてセル膜の除去されたポリウレタンフォームに水スラリー液を付着させ、水スラリー液が付着したポリウレタンフォーム11Aを、400〜600℃に加熱して水スラリー液中の粘土成分により炭酸カルシウムを固化すると共にポリウレタンフォームを分解除去して炭酸カルシウム多孔質体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウム多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは中性の水中では水溶解度がきわめて小さいので、ほぼ中性で、人体に安全であることから、例えば、省エネ高効率給湯器には、潜熱回収の際に生じる酸性のドレンを中和して排出するため、炭酸カルシウム系天然石を中和剤として充填した中和器が設けられている。炭酸カルシウムは、給湯器のドレン(pH2)などの酸性の条件下では、酸と反応して溶け、中和する特性がある。
【0003】
また、炭酸カルシウムを排水との接触面積が大のものにすることによって中和処理能力を高めることができる。そこで、炭酸カルシウムを多孔質体とすることが考えられる。
【0004】
多孔質体の製造方法としては、セラミックス多孔質体の製造方法に利用されている焼結方法がある。セラミックスの焼結方法では、セラミックスの成形体を1000℃以上の焼成温度で焼成し、多孔質体を形成している。しかし、セラミックス多孔質体の焼結方法を利用して炭酸カルシウムの多孔質体を製造しようとすると、炭酸カルシウムの分解温度が700℃程度であるため、焼成時の温度(1000℃以上)で炭酸カルシウムが分解し、炭酸カルシウムの多孔質体を得ることができない問題がある。
【0005】
なお、炭酸カルシウムの粉体を低温度範囲で放電プラズマ焼結法により焼結して炭酸カルシウムの多孔質体を製造する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、プラズマ焼結法を採用するには、大掛かりな装置が必要であり、製品コストが高くなる。さらに、炭酸カルシウムの焼結体(高温での焼結やプラズマ焼結含む)は、表面が一部溶融し、酸素と反応して酸化カルシウムとなり、この酸化カルシウムは水と反応して発熱することから、炭酸カルシウムの焼結体は排水処理水中和剤としては適当でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−112712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、大掛かりな装置が不要で安価に炭酸カルシウム多孔質体を製造できる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液を、セル膜の除去されたポリウレタンフォームに含浸させて前記ポリウレタンフォームに水スラリー液を付着させ、前記水スラリー液が付着したポリウレタンフォームを、400〜600℃に加熱して前記粘土成分により前記炭酸カルシウムを固化すると共に前記ポリウレタンフォームを分解除去して炭酸カルシウム多孔質体を得ることを特徴とする炭酸カルシウム多孔質体の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0009】
本発明におけるセル膜の除去されたポリウレタンフォームは、三次元網状骨格構造となっている。本発明によれば、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液を、セル膜の除去されたポリウレタンフォームに含浸させることにより、ポリウレタンフォームの三次元網状骨格に付着し、前記粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液が付着したポリウレタンフォームを、炭酸カルシウムの分解温度である700℃よりも低温で、かつポリウレタンフォームの分解温度よりも高温の400〜600℃で加熱することによって、水スラリー液の水分が蒸発し、ポリウレタンフォームの三次元網状骨格に付着している炭酸カルシウムが粘土成分で固化し、またポリウレタンフォームが分解して除去されるため、残されて固化した炭酸カルシウムが多孔質体となる。したがって、大掛かりな装置を用いることなく、安価に炭酸カルシウム多孔質体を製造することができる。しかも、本発明により製造された炭酸カルシウム多孔質体は、炭酸カルシウムの焼結体と異なり、表面に酸化カルシウムを生じることが無く、排水処理水中和剤として好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の炭酸カルシウム多孔質体の製造工程を示す概略図である。
【図2】実施例品と比較例品の中和能力試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における炭酸カルシウム多孔質体の製造方法は、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液を、セル膜の除去されたポリウレタンフォームに含浸させる含浸工程と、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液が含浸・付着したポリウレタンフォームを加熱する加熱工程とにより、炭酸カルシウムの多孔質体を製造する。
【0012】
本発明において使用する水スラリー液は、水に粘土成分と炭酸カルシウムが混入したものである。水スラリー液の100重量部中における粘土成分の好ましい量は20〜50重量部、炭酸カルシウムの好ましい量は100〜500重量部である。粘土成分の量が20重量部より少ない場合には形状が保持できない、一方、50重量部よりも多い場合には多孔質中の炭酸カルシウムの比率が低くなり、処理性能が悪くなる。また、炭酸カルシウムの量が100重量部より少ない場合には多孔質中の炭酸カルシウムの比率が低くなり、処理性能が悪くなる、一方、500重量部よりも多い場合には粘度成分の比率が低く形状が保持できない。
【0013】
粘土成分は、本発明では炭酸カルシウムの結合剤として作用する物質である。粘土成分としては、例えばカオリン群、アンティゴライト群、パイロフィライト群、スメクタイト群等、特に限定されるものではないが、滑石(タルク)は特に好適なものである。粘土成分の粒径は0.5〜50μmが好ましい。粘土成分の粒径が0.5μmより小さい場合には粘度が高くなり扱いにくくなり、一方、50μmより大きい場合には多孔質の強度が低く、形状が保持できない。また、炭酸カルシウムは、粒径5〜500μmのものが好ましい。炭酸カルシウムの粒径が5μmより小さい場合には粘度が高くなり扱いにくくなり、一方、500μmより大きい場合には多孔質の強度が低く、形状が保持できない。
【0014】
ポリウレタンフォームは、セル膜の除去されたものが使用される。ポリウレタンフォームのセル膜除去方法としては、爆発法や溶解法等がある。セル膜が除去されたポリウレタンフォームは、セル膜の存在していた部分が開口して連通した三次元網状骨格構造からなる。また、ポリウレタンフォームは、セル数が5個/25mm〜100/25mm(JIS K 6400−1)のものが好ましい。セル数が5個/25mm未満の場合には表面積が低く、中和処理性能が低下する、一方、セル数が100/25mmより多い場合にはスラリー液がフォーム内部まで浸み込みにくい。
【0015】
含浸工程では、図1の(1A)に示すように、セル膜の除去されたポリウレタンフォーム11に、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液21を含浸させる。含浸方法は、特に限定されないが、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液21は粘度が高く、スプレー装置を用いる塗布では効率が悪いため、セル膜の除去されたポリウレタンフォーム11を、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液21の中に押し込むデイッピング法(浸漬法)が好ましい。含浸工程によって、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液21がセル膜の除去されたポリウレタンフォーム11に含浸して該ポリウレタンフォーム11の三次元網状骨格に付着する。
【0016】
加熱工程では、図1の(1B)に示すように、前記含浸工程で得られた、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液が含浸・付着したポリウレタンフォーム11Aを、ヒータ等の加熱手段31で400〜600℃に加熱して水スラリー液の水分を蒸発させ、粘土成分によって炭酸カルシウムを固化させると共に、前記ポリウレタンフォーム11を分解して除去する。図示の例では、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液が含浸・付着したポリウレタンフォーム11Aを加熱炉41に収納して加熱手段31で加熱を行っている。加熱時間は、ポリウレタンフォームに付着している水スラリー液の水分を蒸発させることができ、かつポリウレタンフォームを分解できる時間とされ、ポリウレタンフォームの大きさや、セル数などによって異なる。この加熱工程によって、それまでポリウレタンフォームの三次元網状骨格の表面に付着していた粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液の水分が蒸発し、水スラリー液に含まれていた粘土成分により炭酸カルシウムが結合した状態で固化し、また、ポリウレタンフォームが分解除去されるため、炭酸カルシウムは多孔質体となる。
【実施例】
【0017】
炭酸カルシウム多孔質体の製造方法の実施例を示す。セル膜の除去されたセル数8個/25mmの軟質ポリウレタンフォーム(品番:MF−8、(株)イノアックコーポレーション製)から裁断により、外形寸法が50×50×10mmからなるセル膜の除去されたポリウレタンフォームを作製した。作製したセル膜の除去されたポリウレタンフォームの重量は0.8gであった。また、粘土成分としてタルク(粒径:10〜30、品番:PKPシリーズ、丸尾カルシウム製)を10重量部、水を20重郎部、炭酸カルシウム(粒径:50〜100μm、品番:重質炭酸カルシウム、丸尾カルシウム製)を70重量部混合して粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液を調製した。この粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液100gを容積0.5Lのバケットに入れ、前記セル膜の除去されたポリウレタンフォームを浸漬し、5分後に取り出して粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液が含浸・付着したポリウレタンフォームを得た。なお、粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液の含浸時、ポリウレタンフォームを上方から押して炭酸カルシウムの水スラリー液中に完全に沈ませた状態とした。
【0018】
粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液が含浸・付着したポリウレタンフォームを、加熱炉に収納して80℃で3時間予備加熱し、脱水を行った。脱水後のポリウレタンフォームの重量は15.89gであった。なお、脱水時の加熱は、その後の加熱を効率よく行うためのものであり、その後の高温加熱よりも低温で行った。脱水の予備加熱を省略してその後の高温加熱を行ってもよい。次に、加熱炉の温度を17時間かけて500℃に昇温させた後、500℃で1時間維持し、その後、加熱を停止して常温に戻して実施例品を得た。得られた実施例品は、炭酸カルシウム多孔質体となっていた。得られた炭酸カルシウム多孔質体は、嵩密度(JIS K 7222)が0.55g/mL、圧縮硬度(JIS K 6400、試験片サイズ:30mm角、厚み10mm、圧縮速度10mm/min)が201Nであった。
【0019】
得られた実施例品の炭酸カルシウム多孔質体(サイズ:30×30×10mm、5g)と、比較例品として非多孔質の炭酸カルシウム(品番:PKPシリーズ、丸尾カルシウム製、サイズ:30×30×10mm、5g)に対して中和能力試験を行った。中和能力試験は、容器に収容したpH2の硝酸1L中に、実施例品と比較例品をそれぞれ投入し、硝酸溶液がpH7に中和されるまでの時間を測定した。pHの測定は交流2電極法によって行った。測定結果は図2に示す通りであり、多孔質体からなる実施例品は中和に要した時間が700分ほどであったのに対し、非多孔質体からなる比較例品は900分経過してもまだpH4であった。この結果から、炭酸カルシウムを多孔質体とすることにより中和能力が増大することがわかる。
【0020】
このように本発明によれば、大掛かりな装置を用いることなく、安価に炭酸カルシウム多孔質体を製造することができ、また得られた炭酸カルシウム多孔質体は中和能力が高いものであり、省エネ高効率給湯器におけるドレンの中和剤等に好適なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土成分を含む炭酸カルシウムの水スラリー液を、セル膜の除去されたポリウレタンフォームに含浸させて前記ポリウレタンフォームに水スラリー液を付着させ、
前記水スラリー液が付着したポリウレタンフォームを、400〜600℃に加熱して前記粘土成分により前記炭酸カルシウムを固化すると共に前記ポリウレタンフォームを分解除去して炭酸カルシウム多孔質体を得ることを特徴とする炭酸カルシウム多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記粘土成分がタルクであることを特徴とする請求項1に記載の炭酸カルシウム多孔質体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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